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■オープニング本文 天儀本島武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。 家長の龍安弘秀は、砲兵の教育現場を視察していた。教官を前に机を並べ、兵士達は授業を受けていた。弘秀は砲兵の育成に熱心であり、各地の工廠にも宝珠砲の生産態勢を整えるべく、手配を急がせていた。すでに宝珠砲の有効性は確認されていたが、同時にアヤカシにも大砲戦力が見受けられるようになっていた。宝珠砲を揃えて圧倒的に優位に立つのは難しいようだ。 と、そこへ城から使者がやって来て、弘秀に耳打ちした。 「そうか。すぐに戻る」 弘秀は、現場から立ち去ると、天承城に戻った。筆頭家老の西祥院静奈が待っていた。 「二人は」 弘秀は開口一番言った。 「別室にて待機させております」 「そうか」 物問いたげな静奈の口調に、弘秀はうなるように答えた。弘秀はこの件に関しては何かと頭に来ていたが、爆発はしなかった。 それから弘秀は二人――郷梨の里の里長秋信子と、里の筆頭家老である笹山与左衛門を解任した。アヤカシと内通していたことが発覚したからである。ただし、禍津夜那須羅王に人質を取られていたことから情状酌量の余地を残して、弘秀はひとまず二人を天承に呼び出すと、自ら尋問を行うつもりで謹慎を命じたのだった。この件は急ぐべきではないと弘秀は判断したのだった。 「それから重大なことが判明しました」 「何だ」 「長篠安盛がアヤカシと繋がっている可能瀬があります」 「何だと?」 「戦場に現れた暗殺者の口から長篠の名前が出たことから、現在本人から確認を取っています」 「…………」 弘秀は記憶の糸を手繰り寄せる。 「そう言えば昨年凱燕が攻撃された時、内通者がいるかもしれないという報告があったな」 「私も同じことを考えていました」 ――と、そこへ次席家老の栗原直光が飛び込んで来る。 「お屋形様! たった今、例の長篠安盛を確認中の部屋に影亡者が出現し、長篠が――殺されました」 「何だと!」 弘秀は勢い立ち上がった。静奈も言葉を失う。 そして、続いて急報がもたらされる。郷梨の里において、禍津夜那須羅王が前線に復帰し、反撃に転じようとしていると。 アヤカシ軍陣中――。 禍津夜那須羅王は、緑光の瘴気をまとい、ついに万全に回復していた。以前にも増して凄絶な剣気をまとい、肉体を破壊されたことなど微塵も思わせない回復ぶりであった。後退している間にも力を取り込み、強力な肉体を得て前線に戻って来た。 禍津夜那須羅王は最前線に姿を見せると、里の南方から攻勢に出た。剣撃で砦を破壊すると、吹き飛ばされた兵士を持ち上げ、言った。 「私を傷つけた開拓者たちに伝えておけ。この次に私の前に姿を見せることあらば、生かしてはおかぬとな」 「な、何を……」 「分かったか、おい」 禍津夜那須羅王は兵士の首をねじり上げた。 「わ……分かった……た、助けてくれ……」 「では行け。龍安の兵士」 禍津夜那須羅王は兵士を投げ飛ばした。 それから禍津夜那須羅王は兵士を率いて里の砦に暴風のように襲い掛かった。龍安軍は、このたった一人の上級アヤカシのために里の防衛線を後退させられることになる。 禍津夜那須羅王は、自陣の中で影亡者の報告を受ける。影から実体化したその骸骨剣士は、アヤカシの言葉で禍津夜那須羅王に報告する。 『禍津夜那須羅王様、ナガシノヤスモリとか言う似顔絵の男を始末してきました。探すのに苦労しましたが、男は確実に死にました』 禍津夜那須羅王は満足そうに頷くと、鼻を鳴らした。 『そうか、奴は死んだか。小悪党の最後などこんなものだろう。我々を手玉に取れるつもりか。愚かな奴だ。ご苦労、下がれ』 禍津夜那須羅王は、もはや戦場に心を集中させていた。さすがに莫大な練力を消費し、回復を待つ。 「何て奴だ……禍津夜那須羅王……以前にも増して力を増したか……」 総大将の楢新之助は、うなるように言った。卓上の地図を見やる。破壊された防御施設に残っていた兵士達は辛くも脱したが、防衛線の要となる砦を粉々にされ、今や郷梨の里とアヤカシ軍を隔てるものは何もない。兵士達は、禍津夜那須羅王から手ひどい打撃を受け、アヤカシ軍の追撃によって相当の負傷を追っている。本丸は、傷ついた兵士達で溢れ返っていた。だが、天承からの援軍はない。弘秀は巫女を派遣したものの、楢には現有の戦力で禍津夜那須羅王と戦うように指示していた。楢は援軍を申し伝えたが、弘秀は「それはならん」と断った。弘秀は仮に郷梨で敗北した場合と鳳華全域での戦況を秤に掛け、待機中の戦力は温存すべきだと判断したのだった。 「新之助様、お屋形様は何と……」 副将の片山陣兵衛は、楢に険しい表情で迫った。 「現有する戦力で戦えと仰せだ」 「そんな……! お屋形様はここの現状を分かっておいでなのですか!」 「今ここに兵力をつぎ込むわけにはいかんのだ。各地の防備も備えねばならん。こらえよ陣兵衛」 「ですが……! ここには禍津夜那須羅王がいるのですよ!」 「それは今考えている」 「何を考えているんだ総大将。ひどい有様じゃないか――」 楢は顔を上げた。そこには、神楽の都から到着した開拓者たちがいた。開拓者たちは物問いたげに本丸の状況を見渡していた。 「禍津夜那須羅王にやられたのか?」 「ああ、奴は、以前より力を増したようだ」 「奴はまた来るのか」 「恐らく、こちらの態勢が整わないうちに、総攻めを掛けて来るだろう」 「禍津夜那須羅王の奴――」 厄介な状況に送り込んでくれたものだ……開拓者たちは言葉を飲み込み、魔の森の方角を見やる。 そこには、力を増した禍津夜那須羅王が牙を研いで反撃に出ようとしていたのだ。 郷梨の里において、決戦が始まる。 |
■参加者一覧
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
朽葉・生(ib2229)
19歳・女・魔
鳳珠(ib3369)
14歳・女・巫
罔象(ib5429)
15歳・女・砲
サクル(ib6734)
18歳・女・砂 |
■リプレイ本文 焔 龍牙(ia0904)は出立前に天承城に立ち寄っていた。龍安弘秀と会う。 「弘秀様、長篠安盛が殺されたと聞きましたが本当ですか? 暗殺されたそうですね。禍津夜那須羅王が手駒をなぜ?」 「さてな……」 弘秀は吐息をついた。 「まだ確認しなきゃならんことがあるが……巨勢王(iz0008)陛下からはこの件に関して調査するように通達が来ていてな。正直頭が痛いよ……」 本丸では、滝月 玲(ia1409)が兵を心配して、軍議に出る前に負傷者を見て回り励まし、現状をより正確に把握しようと努めていた。 「今回は手ひどくやられたな。無理はするなよ」 「何のこれしきの傷。この程度で休んでおったらお屋形様に面目が立たんわ。死してもアヤカシを倒して見せる」 兵士達の士気は高いが……。 回復優先組の負傷兵の中には根性論を掲げる者も多い。個人的には好きだったから、滝月はあえて言った。 「死してもアヤカシをだって? その恨みがアヤカシを肥大させ強力にするんだ、本当に里を思うならしっかり傷を治して援軍に来いっ! 頼んだぜ」 「滝月さん……」 ……焔は、天承城でのやり取りを思い起こしていた。この件には一体どんな謎があるのだろうかと思う。 「ついに復活してきたな那須羅王! 今度こそ終止符を打たせてもらう!」 焔は口に出しては、いつものように気合を入れた。 「俺は蒼隼に騎龍して、序盤から死人龍騎に攻撃を仕掛けさせてもらいます。那須羅王が前線に出てくるか、仲間との戦闘に入ったら奴を今度こそ瘴気に返してやりますよ」 滝月は、見て肌で感じた兵の状況から無理に負傷兵を駆りだしても里は守れない、と判断する。 「ここは、宝珠砲と砲撃がしゃ髑髏の性能差を活かし、一部負傷兵を回復に集中させ回復後配備してはどうか。可能なら回復した兵が出陣配備後、交代に疲弊した兵の回復を行う回転式を用いてはどうでしょう」 「うむ……」 楢は考えて、滝月の案を作戦に盛り込む。 「俺はサムライのルオウ(ia2445)! よろしくなー」 赤毛の熱血ルオウ少年。 「禍津夜那須羅王の野郎、随分元気になってきたじゃねえか。こんな時こそ俺達が頑張んないとな!」 コルリス・フェネストラ(ia9657)は、「あくまで一案ですが」と前置きし、作戦案を奏上するが判断は任せる。 「迎撃についてですが、敵の動きに応じ衡軛陣から鶴翼陣へと各隊大将の裁量で柔軟に陣形を変化させ迎撃するがよろしいかと思います。敵到達前に重点的に数重の塹壕網と敵の射撃妨害用の逆茂木等、妨害物を多数構築。掘伐した土で各塹壕前後に土塁を構築し、塹壕網を通り味方が分進合撃可能な塹壕防御で迎撃を提案いたします。宝珠砲台は鶴翼陣形に配置し榴弾を曲撃。中央に大型、両脇に中型、翼部分は小型で。これまで通り、予め各宝珠砲の曲射の着弾区域に砲手が識別し易い印を書き記すことを提案します」 コルリスはいったん呼吸を置いた。 「敵の進撃速度から印の区域への到達時間を割り出し、敵到達時に砲弾が着弾する様砲撃指示します。砲撃ではがしゃ髑髏を優先的に撃破。滝月様が言われるように、その間に負傷した味方を治療するのがよろしいかと存じます。戦闘では砲術士、弓術師を集中運用。空では四指戦法と味方の対空射撃高度に誘引し、退治する空陸連動戦法を駆使し空の敵を順次撃破いたします。地上ではその間、できるだけ多くの投石器と焙烙玉を用意し、サムライ達に配布。塹壕網の中からサムライ衆は投石器で焙烙玉を投擲。遠距離から敵を迎撃し里突入を防ぎます」 「塹壕防御か……後は時間との戦いだな」 楢は言って、コルリスの作戦を受け入れた。 朽葉・生(ib2229)からも提案があった。 「私からは敵の遠距離攻撃を防ぐ手段として、アイアンウォールで塹壕網の防壁を多数設置すると共に、突破される事を想定し、敵の攻撃から身を守る形に偽装し塹壕内に入った敵を包囲する形にアイアンウォールの防壁を設置する案を提示します。塹壕が突破されたら味方に退避を指示し、敵をアイアンウォールの壁で囲まれた塹壕網に誘き寄せ、そこへ空から御味方の広範囲攻撃で塹壕内の敵を全て撃破し敵の進撃を食い止める方式ですが、塹壕も爆破される為、敵撃破後は塹壕網再構築が必要となりますので、できましたら負傷から回復された御味方にはすぐ前線には出さず塹壕再構築や、里への敵侵入時の防戦等後方での防戦をお願いしたく存じます」 「それは構わんが、今回は手堅い戦術だな」 楢は言ってうなった。 鳳珠(ib3369)は、作戦では主に味方の巫女達と共に負傷した味方の治療を行う事を表明する。 「回復できた味方は無理に前線に出さず、塹壕構築等戦闘準備や敵軍が里に突入した時の迎撃等、後方での防戦に回した方がよろしいかと思いますが、ご判断はお任せします」 「うむ。まあ実際、指揮官としては里を守りたいが、これからのことも考えると、ここで大量の出血は避けたいところだな」 「罔象(ib5429)と申します。よろしくお願いします」 罔象は言って、お辞儀する。 「朽葉さんがおっしゃるように敵が里に突入される事態も想定し、突入が予想される南方にバリケードを予め構築した上で、身を潜められる場所を増やし、敵が南方から突入しても両脇から迎撃できる様負傷から回復した味方を配備し、実際敵が突入したら、後退してきた味方と連携し両脇から挟撃し敵を包囲迎撃する、いわゆる『釣り野伏せ』戦法も組み合わせる案を提案します」 「野伏せか。ひとまず皆の意見を聞こう」 「私は味方が負傷から回復し配置につくまで、前線で仲間達が構築してくれた『防壁で包囲された塹壕』に入った敵達を、空から魔砲『スパークボム』で順次撃破し、敵の進撃を食い止めます。朽葉さんと連携します」 「ふむ……」 最後にサクル(ib6734)が言った。 「私はみなさんの作戦案に合わせ、敵の迎撃案として車懸り戦法を提案します。御味方のサムライと砲術士の方々にご協力願えれば里に突入されても撃退は可能かと思います」 「確か……最初の戦いの時の」 「はい。初めての方にも分かるように説明しますと、車懸りとは……まず味方中央に砲術士を集め五人一列の組を複数段構築します。両脇をサムライ部隊でカバー。続いて、敵が射程距離に入ったら最前列は一斉射撃し、発砲後段列の最後尾に走り再装填します。続いて、その間に続く列の砲術士達が一斉射撃。この要領で各列の砲術士達は発射する度に後退し、前線から偽装後退します。砲術士達の機動を、左右で守りにつくサムライ部隊が敵を食い止める形で守り、敵に損害を与えながら突出を誘引します。味方陣形が鶴翼陣になったところで、今度は射撃を終えた列の前に最後尾の砲術士の列が進む要領で逆の動きの数段構えの射撃で敵を間断なく射撃。射撃支援を受けサムライ隊が左右から挟撃します」 「つまり……伸び切った敵の戦列に側面から攻撃を加えると」 「そうですね」 「よろしい。では、基本をコルリス案の塹壕防御で行い、そこから罔象の野伏せ案とサクルの戦術を組み合わせて、反撃に出るとしよう。鳳珠、回復を頼むぞ」 「承知しました」 それから諸将の案を交え、楢は立ち上がった。 「みな、苦しい戦いになるだろうが、ここが踏ん張りどころだ。だが、今日は生き延びることを考えよう――」 まずは兵士達が総出で塹壕堀りに向かう。 特にルオウは張り切っていた。今回多くの兵士たちが傷ついていることが、少年を奮起させていた。 「力には自信あっからさ!任せてくれよな!」 それから、後方では鳳珠が巫女たちを集め、回復を行う。 「みな様、宜しくお願いします。それでは始めましょう」 「宜しくお願いします」 巫女たちは挨拶を返し、精霊の唄を歌い始めた。 巫女たちの癒しの力が、兵士達を回復させていく……。 「敵が来ます」 コルリスは、龍の鞍上にいて、望遠鏡でアヤカシの前進を確認する。 「いよいよか……」 その傍らには、楢がいた。コルリスに頷くと、彼女は頷き返し、手を上げて地上の砲兵たちに合図を下した。 「砲撃開始――」 宝珠砲が轟音を轟かせ、榴弾を撃ち込む。狙いは敵の砲撃がしゃ髑髏。砲撃が直撃し、がしゃ髑髏が咆哮を上げて傾く。 「では俺は行きます」 焔は龍の手綱を引くと、コルリスらに頷き加速した。 「蒼隼! 手早く片付けるぞ! ソニックブームで蹴散らせ」 アヤカシ龍騎兵と激突する龍安騎兵隊。 焔は先陣を切って、太刀「阿修羅」でスキル「ファクタ・カトラス」で攻撃を行う。すれ違いざまの鋭い一撃がアヤカシを両断する。一撃離脱を主体に、巧みな操縦でアヤカシ間を飛ぶ。 「さすがは焔龍だな!」 龍安軍から歓声が上がると、騎兵たちは四指戦術の戦闘隊形を取ってアヤカシを迎撃する。 「焔さん強いですね……熟練のお方」 罔象は言って、戦列の一角から、魔砲スパークボムを放った。「閃爆光」。魔槍砲の宝珠に練力を充填して放つ。着弾すると強烈な閃光と共に爆発が起こり、着弾点の周囲一帯を吹き飛ばす。凄まじい銃砲の一撃がアヤカシを粉砕する。 「おお、やるなあ嬢ちゃん!」 また歓声が起こり、兵士達は突進する。 地上では、着々と朽葉がアイアンウォールを構築していた。朽葉は莫大な練力を消費しつつ、塹壕の各所に鉄の壁を配置していく。 「さて……こんなところでしょうか」 壁の配置を確認し、朽葉はさらにアイアンウォールを展開する。 鳳珠は上空で待機し、地上での主力の激突を緊迫した表情で待っていた。この時間には慣れることがない。戦の趨勢がどうなるかは分からない。不測の事態はつきものだし、運が絡んで来ることもある。 「みなさんどうかご無事で……」 回復させた兵士たちが戦場に向かっていくのを祈るように見つめる。 「砲撃やめ!」 砲兵隊長は、アヤカシの接近に宝珠砲を急速後退させる。 サクルは、最前列に位置し、ルオウや滝月らとともにいた。 「焙烙玉を打ちこめ!」 兵士達は塹壕の中からカタパルトで焙烙玉をアヤカシ軍に撃ち込む。もう敵軍はそこまで近づいている。里の中へ侵入は許さない。 「ではみなさん、宜しくお願いします」 コルリスは言って、地上部隊に号令を下した。 「始めます――」 サクルは、車懸り戦術を開始する。 第一列の砲術士が銃撃を行い、後退する。アヤカシの先陣を破壊する。続いて第二列が銃撃を行い、また後退していく。 接近するアヤカシは、ルオウ、滝月らが食い止める。 「怪我してる人は遠慮なく退がってくれな! やることは無理することじゃなくて、治してまた頑張ることだぜぃ!!」 ルオウは、負傷していた兵士達に声をかけ退がってもらいつつ迎撃に向かう。 「ここで食い止めようぜ!」 散開するサムライ衆の咆哮使用で敵を引き付ける。 広がってもらう分、防御優先にしてもらい手薄になる部分は作った塹壕を利用してフォローしてもらう形に。 ルオウ自身は真っ先に突撃、やや突出した状態で咆哮を使用。群がって来たアヤカシを回転切りで一掃する。 滝月も塹壕網を利用し攻撃を展開する。片翼に陣取り咆哮で誘導、迎撃していく。 「勝手に死ぬなっ! お前達の死で涙を流す者だっているんだぞっ、生きて敵の脅威となれ!!」 滝月もまた、兵士達を激励し防戦に努める。 それでもアヤカシは怒濤となって押し寄せて来る。やがて、がしゃ髑髏からの砲撃が龍安軍に撃ち込まれる。 「うわあああああ!」 兵士達は吹っ飛び、出血して転がる。 「みなさん、手を尽くして下さいませ!」 鳳珠は、巫女たちに言って、負傷者の救護に向かう。 「しっかりなさって下さい。すぐに回復します」 鳳珠は懸命に精霊の唄を歌い続ける。 戦線のあちこちでアヤカシ軍と交戦が始まる。 「持ち堪えられますか……」 コルリスは全体を見渡していた。 と、前線に到着した朽葉の魔術、サンダーヘブンレイがアヤカシ軍を貫通する。轟音とともに雷を走らせた光の束が直線状を薙ぎ払う。アヤカシの戦列が寸断される。 「やはり、戦となると簡単にはいきませんね」 朽葉はサンダーヘブンレイを連射していく。 サクルは忍耐強く戦陣「横列射撃」を駆使して、塹壕線まで後退していた。 「では、アイアンウォールの背後まで一斉に後退します」 サクルは言って、アヤカシを引きずりこむ。 なだれ込んで来るアヤカシ達は、アイアンウォールで囲まれた塹壕の中へ突進してきた。喚きながら、アヤカシ達はアイアンウォールに激突する。 直後、上空から罔象のスパークボムが立て続けに撃ち込まれる。凄まじい銃砲が密集したアヤカシたちを塹壕もろとも破壊していく。 「撃て!」 龍安軍は、身動きの取れないアヤカシ軍の先端に矢を浴びせかけた。ばたばたと倒れて行くアヤカシ達。 罔象のボムがなだれ込んで来るアヤカシ達を打ち砕き、アヤカシ達は混乱に陥った。 「行きます! 反撃開始!」 サクルは車懸りの仕上げに掛かると、今度は前進を開始した。砲術士たちがアヤカシを薙ぎ倒して行く。 「元気ある奴だけついてきてくれな!」 ルオウは兵士達に言って加速した。 「禍津夜那須羅王、首洗って待ってろ!」 「行くぞ! 死ぬなよみんな!」 滝月も切り込んでいくと、がしゃ髑髏に突撃、その巨体を足を切り崩して転倒させ、焙烙玉で砲塔内部から破壊する。龍安兵が続く。 「あれは……」 サクルはバダドサイトで禍津夜那須羅王の姿を確認すると、上空のコルリスに合図を送った。 コルリスはそれを確認して、狼煙銃を撃った。 前線に現れた禍津夜那須羅王は、渦巻く緑光の瘴気に包まれていた。 後退する龍安軍の戦列が割れる。 開拓者たちは上空と空から攻勢に出た。 滝月とルオウは加速すると、禍津夜那須羅王に打ち掛かった。那須羅王は長刀で軽く弾き返す。 「開拓者ども――」 朽葉のララド=メ・デリタが炸裂する。超威力の灰色が禍津夜那須羅王を包み込む。しかし禍津夜那須羅王は耐えた。 「響!」 コルリスの矢が貫通し、罔象の銃撃が打ち込まれる。 サクルは上空から龍を駆って一撃を叩き込む。 焔も騎乗状態で禍津夜那須羅王に向かうと、ヒートバレッとストライクスピアを使った一撃を両足に向けて放つ。魔槍砲「瞬輝」による連続砲撃切り札――。 「焔龍、炎真砲弾!」 轟音が炸裂し、銃砲の一撃が禍津夜那須羅王を直撃する。 直後、受け止めた禍津夜那須羅王は、長刀を振りかざし、連続で衝撃波を叩き込んだ。 なぎ倒される開拓者たち。龍もろとも切り裂かれる。 鳳珠が回復するのを、禍津夜那須羅王は冷ややかに見下ろし、悠然と向かってくる。 だが、朽葉が杖を突き出し、ララド=メ・デリタを繰り出した。 「むう――っ」 禍津夜那須羅王の腕が消失する。だが、傷口だけはじわじわと塞がって行く。 後退する禍津夜那須羅王。龍に捕まって空へ上がると、龍安軍の包囲網が完成する前に撤退したのだった。 |