|
■オープニング本文 天儀本島武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。 北部の里――。 昨年からのアヤカシの猛攻によって、里の防備は著しく破壊された。 民は戻って来て、生活を再開していたが、散発的なアヤカシの攻撃は存在し、それらは警備隊だけでは間に合わず、開拓者を雇って解決している里も多かった。 成楼の里の里長の娘、春は十七歳。里の民に慕われる優しい娘で、サムライとして先の戦にも立った。春はこの日も、村々を巡回し、民の様子をその目で見ていた。民の暮らしをその目で見ることこそ、里を治める者にとって重要な責務であると考えていた。 「これは春様……」 村の長老は、馬を下りてやって来る春を見て作業の手を止めてお辞儀した。 「厳六、畑はどうじゃ。アヤカシどもは魔の森へ引っ込んでおるし、少しは落ち着いたか」 「そうですな……どうにか、今年の収穫は間に合うでしょうが、いつまたアヤカシが来ると考えますと、それだけが気がかりで……」 「心配無用じゃ! アヤカシどもはわしらが片づけてやる! あ奴らの好きにはさせん!」 春は言って、快活に笑った。春も不安を感じないことはないが、自分は民を守るために、そんな気持ちは表には出さない。 権六もそれが分かるから、言葉では言えない感情に包まれる。 「春様、どうか、無理をなさらぬように。せっかく生きて帰ったのですから。お命は大切になさいませ」 「何を言うか! わしはな……」 春は、そこまで込み上げて来るものがあって、涙がこぼれてきて、言葉に詰まった。 「わしは……くやしいのだ。我々は為す術が無かった。何も、出来なかった……」 「春様は良く戦って下さいました」 権六は言って、春の手を取って頷いた。 ――と、その時である。警備隊の隊長が、春のもとへやって来る。 「春様ー!」 隊長は息を切らして駆け込んできた。 「七郎太か、どうした」 「魔の森からアヤカシの集団が接近しております。急ぎ家にお戻り下さい!」 「馬鹿を申せ! わしが戻れるか! アヤカシどもを討つ!」 「開拓者を呼んでおりますから、それには及びません」 「開拓者か……分かった。だが、わしは安全が確保されるまで村に残る。開拓者には宜しく頼むと伝えてくれ」 「春様、それでは私が里長に怒られてしまいます……」 「それは知らん。わしとてサムライじゃ。力なき者のためにこの刀はある」 「参りましたな〜」 「さっさと行け七郎太! アヤカシを村に近づけるなよ!」 春の言葉に、七郎太はうなだれて戻っていく。 地平の向こう、禍々しき魔の森を、春は睨みつけるのだった。 |
■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072)
25歳・女・陰
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
ユーディット(ib5742)
18歳・女・騎
嶽御前(ib7951)
16歳・女・巫
香緋御前(ib8324)
19歳・女・陰
シリーン=サマン(ib8529)
18歳・女・砂 |
■リプレイ本文 成楼の里へ到着した開拓者たち――。 「さぁて……先ずは掃除、それから物を綺麗に整えるってぇ感じかね。やるコトぁ盛り沢山だが焦っても中々上手い具合にゃ進まねぇし仕方ねぇ。一歩一歩着実に物事を進めるのが肝要だぜぃ」 どこか憂いのある女が言った。北條 黯羽(ia0072)、陰陽師である。鳳華を訪れるのは久方ぶりで、ここも随分変わったものだと……時の流れを感じる。 「中々平和というのは遠いもので、未だに警戒しながらの生活が続くのは……何時かは何とかしたいものですね」 三笠 三四郎(ia0163)は、初めて訪れる鳳華を見やり言った。報告書でしか知らない鳳華の里は、どこにでもあるような里だが、常にアヤカシの脅威にさらされている。民人たちの心労はいかほどかと、三四郎は故郷を思い起こす。 華御院 鬨(ia0351)は女形をしていて、常に修行のために女装し、そこいらの女性よりも女性らしい雰囲気を醸し出している。今回は京美人の女装をしていた。 「今回は龍安家お抱え芸人としての仕事がありそうどすな」 とやる気を出していた。実は鬨は龍安家のお抱え芸人であり、鳳華の頭首である龍安弘秀も認める歌舞伎役者であったのだ。 「襲撃の場に居合わせる事はあっても、再建の場に居合わせる事は少ないのよね。コレも良い機会だし、お手伝いしますか」 妖艶なる陰陽師の葛切 カズラ(ia0725)は、鳳華をしばしば訪れているが、このような復興作業は初めてだった。 「それにしても……このような土地は初めてですが。アヤカシの世は絶えぬものですね。何とかして民の復興を……」 開拓者になって間もないユーディット(ib5742)。金髪碧眼の美しい娘である。凋落したジルべリア帝国貴族の家に生まれ、一家を支えるべく天儀へと渡った。 「少しでも復興作業を進めて、この地の平穏のために……」 修羅の娘、嶽御前(ib7951)は、言って吐息した。彼女にとって世界は広大だが、目の前の傷つく民を見れば、今の世の困窮を思わずにはいられない。 「先の戦闘でこの村も被害を負ったのぅ……妾達が手助けして、再興に尽くそうぞ」 妖しげな狐の獣人、香緋御前(ib8324)。どこか浮世離れしたところがあるが、傷ついた里には胸を痛める。 「私、サマン……と申します。皆様どうぞ良しなに……(お辞儀)」 鉄皮面でお辞儀するシリーン=サマン(ib8529)。正式にはサマン ビント アミン ビン サーテグ アール サバー。心優しいアヌビスである。 「さあて……まずは掃除から、アヤカシどもを片づけるかねえ」 北條は言って、符を取りだした。斬撃符を叩き込めば、屍人が両断される。 「では、支援をお願いします……」 三四郎は言って、加速した。北條が斬撃符を撃ち込み、同時に加速する。飛び込んだ三四郎、回転切りで怪骨を薙ぎ倒す。 「ではさっさと片付けてしまいましょう」 鬨は踏み込むと、レイラで舞うようにアヤカシを切り裂いていく。 「さ〜て、いつもやられっ放しじゃすまなないわよ〜」 カズラは、斬撃符を撃ち込んでいく。瘴気に還っていくアヤカシ達。 「警備兵のみなさん、二人一組で当たって下さい――」 ユーディットは言いつつ、オーラドライブを身にまとい突撃。右に左にアヤカシを粉砕する。 嶽御前は後ろで念のために待機し、回復に備える。 香緋御前は雷閃、眼突鴉を連射する。 「ふむ、まだこの地を狙うか、小者共め」 「……アヤカシは許しません」 サマンは銃でアヤカシを撃ち抜いていく。 開拓者たちは、里の兵士たちと連携してアヤカシを殲滅していく――。 「ありがとうございました……」 権六は、里へ戻って来た開拓者たちに深々とお辞儀した。 「御苦労であったな、皆の者」 春も、笑顔で開拓者たちを迎え、刀を持ち上げた。 「まあそんなお礼を言われるほどのものじゃないさね。ただの雑魚だぜ」 「これから里を立て直していきましょう」 「うちらも出来ることをしていきやす」 「まあ、ちょっとだけどよろしくね〜」 「……ご無事で何よりでした」 「しばらく里に逗留しますので、お願いします」 「妾たちで里を立て直して見せようぞ」 「姫様。お考え有りましょうけれど、里の方より資材運搬用に家畜をお借させて下さいませ……」 最敬礼でサマンは言った。 「私も移送の護衛と実質家畜のお世話は致しますから……。また、現場の皆々様へお声掛けの程を……。お働きをご覧になって下さいませ……」 サマンは珍しく華が開いた様な笑みを浮かべる。 「む、むう、こちらこそよろしく頼むぞ? わしらはお主らが頼みじゃ。強敵はいなくなったが、下級アヤカシどもは常に里への進出を狙っておるからな」 「はい……」 サマンはお辞儀して、にっこりと笑った。 それから開拓者たちは復旧の最前線に向かった。破壊された防備が痛々しい。防御施設は粉々になり、残骸があちこちに散乱している。 里の民は総出で復旧作業に当たっていた。 ユーディットは責任者の監督官に言葉を掛けた。 「防衛施設の再建ですが、基礎から始めなければならないところも多いと聞きます。そこで、以前のものそのままを復元するのではなく、ここしばらくの鳳華の戦争で有用性を発揮した塹壕、また配備が進められている宝珠砲の活用を視野に入れた防衛施設の構築を、私からは提案します。まず、塹壕で敵を押し留め、そこを落とされても宝珠砲による砲撃で奪回あるいは痛撃が可能な形状にするのです。……大工事になるのでやるとしても基礎だけになりそうですが」 「ふむ……宝珠砲を常設するのは難しいだろう。まだ砲兵はそんなに多くはないからな。だがまあ、塹壕を生かした復元と言うのは可能だろう。確かに、設計を見直さないといけないだろうが……やれるだけやってみるかね」 「やってみましょうか?」 「ああ、まあ、工事をするとしても、有効な場所に築かないとなあ」 監督官は頭を掻いてうなった。 地図を広げると、ユーディットに現在の進行状況を見せる。 そこへ顔を出した三四郎。 「一応、私は開拓者になる前は砦みたいな所に住んでいたので、その修理や整備に必要なので建築学は齧ってます。ですから、地形や従来の防衛施設を見ればどの様な施設をどの様に作ればいいのかは判断は付くので時間の許す限り力仕事以外にも手伝う事にします」 そこへ七郎太がやってくる。 「ユーディット殿に三四郎殿か。良い案でもおありか」 「今話し合っていたところだ。塹壕の有効性を活用して、防壁を築いてはどうかとな」 「ふむ……」 「元々築かれていたのは、要所に築かれていた曲輪ですね」 三四郎は元の図面に目を落としていた。 「これに塹壕線を加えて、砦を再建するのが最終的な目標になりそうですか。まあすぐには無理でも、防壁の構築は急ぎたいですね。内部の城閣に時間を掛けるのは難しいかも知れませんが、平屋作りでも大丈夫でしょうか」 「そうだな。この際天守閣は省くかね」 それから、七郎太と監督官、ユーディットに三四郎は工事の計画を練っていく。 「ふう……」 北條は吐息した。復興作業は損傷の激しいところの手伝いだ。 「まあ、言っても俺は資材運搬を始めとして力仕事は多いだろうしな。俺が単独で好き勝手やっても仕方ねぇので、現場で指揮を執ってる人間に訊いて、俺にも無理のない範囲でできることを手伝うぜ?」 「北條さん。ありがとう。とても助かります!」 若い衆たちは、言って北條に笑顔を向ける。 「何、俺なんざ大した役には立たねえけどな。里を守っているのはみんなだ。ここに根を下ろし、みんな生きている。龍安軍が健在な限り、ここを離れるわけにはいかねえよな」 「まあ、俺達も、アヤカシがいないところへ行きたいですけど、今そんなところはありませんしね。贅沢は言えませんや。土地があるだけでも有り難く思いますよ」 「まあ、そうは言うが、俺は神楽の都にいさせてもらってるが、ここじゃ首都の天承に移ることも出来るんだろう?」 「そうしたい奴はそうしてまさあ。まあ、止めることはできませんよ。こんな状況じゃねえ」 「そうだな……」 北條は吐息して、資材の束を担ぎ上げた。 鬨も、土を運んだり、杭を打ったりなどの土木作業的な力仕事を率先してこなしていく。どう見ても華奢な体格なので里の人に心配されてしまうが。 「うちは男どすし、この中ではかなりの力持ちどすせ」 とやんわりした口調で心配ない旨を説明する。但し、どんな仕事でも女性らしさを失わない様に軽いものを持っている様な仕草でどんな状況でもプロ意識でたんたんと仕事をしている。それは、どんな時でも女形の演技をしているという意識を持っているからだが。 「本当に男なのかいあんた? 美人だねえ」 男たちがもてはやすのを、鬨は肩をすくめる。 「うちは龍安家お抱え芸人の華御院鬨どすから」 「あー! 俺知ってるぜ! 有名だもんな華御院さんて!」 「おお、あの華御院さんかい? こんなに別嬪さんだとな〜」 「おおきにどす」 鬨はハートマークでウインクした。 「私も出来ることはさせてもらうわね。まあ土木作業と言っても慣れないんだけど……」 カズラは言って、ハンマーを振り下ろして、杭を打ち込んでいく。 「やっぱり志体持ちってすごいですねえ。姉さん」 「まあ、ね。みんなの助けになれれば幸いよ。ここも手ひどくやられたものよね」 カズラは、これまでにも幾度も激戦に身を投じていたから、鳳華の惨状は知っている。だが、改めて現地に入ると、普段見えないところで、こうして毎日のように復旧作業が行われているのだと体験する。 「みんなここを守るために……こうして、戦っているのは志体持ちだけじゃないわよね」 香緋御前は、半壊状態の建物などの再建を手伝うが、あまり力仕事が苦手な為、裏方をすることに。 皆で協力して一刻も早く再興できるよう励む。疲れた人には茶を出すなり労う。 「さ、頑張り所じゃぞ。皆で村を建て直そうぞ」 香緋御前は後方支援に当たり、握り飯を作って、働く男達に茶を入れて回った。 「ありがとうな香緋さん」 「まあまあ、妾が手伝ってやるのじゃから、作業もはかどると言うものじゃろう」 「はっはっは、まあ……アヤカシを退治してくれてありがとうございました」 「むう……資材の片づけくらいはさせてもらうぞ? 有り難く思うことじゃ」 香緋御前は言って、てきぱきと後片付けをしていく。 三四郎は現場を春と見て回り、状況を説明していた。 ユーディットは現場に入る。 「私も出来ることをしましょうか。後は作業を進めるだけですからね」 嶽御前は、裁縫道具や米ぬかに無患子にサイカチに鍋、たらいに物干し竿等、裁縫や洗濯等に必要な道具や、住民達の生活環境の悪化により風邪などの病気に効果のありそうな薬草類を購入し、大八車に積み込み里へ持ち込んでいた。 「みなさん、アヤカシは退治しました。お身体の具合はいかがですか?」 嶽御前は避難生活で体調を崩した住民達のもとを回り、故郷でのサバイバル経験や知識、天儀に移住後学んできた医学なども駆使し、住民達の健康診断を行い、生活環境の現状を調べ上げる。 「あんたお医者さんかね」 「専門ではありませんが。独学で学んだものがあります。さ、ちょっと体を見せて下さいね」 それから、調理場を借りると鍋や火種、食材を使って用意し、体調の悪いものにお粥を提供する。 さらに、米ぬかに無患子にサイカチ、たらいや物干し台等、必要なものを使い住民達の衣類の洗濯や裁縫道具を使って裁縫し、衣類の手直し、各家屋での掃除を家小人のはたきを使って行い、衛生面の改善や、独学の医学や薬学を駆使して持参した薬草類等を使い、それから怪我なども神風恩寵で順次治療して回る。 「ありがとうございます先生」 「とんでもないですよ」 嶽御前は、診察を終えて、吐息した。前線は大変なことになっている。龍亜弘秀にこの状態を訴えなければ……と思った。 それからも住民達が風邪等にかかるのをできるだけ防いだり、住民達ができるだけ健全な状態で里再建作業に加われる様、住民達の生活環境改善を中心に動くのだった。 また、里に入ったサマンは、村々の奥方たちのもとを訪れていた。 「奥様方、何か家事でお困りの事は……御座いますか?(腕まくり) お洗濯でも、子守でも……。(ひっそりと笑み)」 「これから炊き出しを行うんですけど……とてもじゃないですけど、人手が足りなくてね。お屋形様から物資は届いているんですけども、中々調理する人間も限られてますからね」 「そうですか……お任せ下さいね……では私もお手伝いしますわ」 サマンは、調理場に踏み込むと、包丁を手に取ると、大量の食材を切り分け始めた。 「あら、凄い、慣れた手つきじゃないのあんた」 奥様達は、サマンが開拓者なので、家事をそつなくこなせるとは思っていなかったようである。 サマンは凄い早さで食材を切り分け、鍋の味付けに取り掛かる。ここでも奥様たちと連携して、炊き出しを完成させていく。 「おいしく出来そうですね……良かった」 サマンは華やかな笑みを浮かべた。民の力になれることが嬉しい。 それから巡回に回る開拓者たち 「おーおー、良い感じに出来あがって来たじゃねえか」 北條は言って、復旧作業の様子を確認する。 「これで魔の森が無けりゃ言うことなしなんだがなあ……」 「そうねえ……ま、ここは東の大樹海って、巨大な魔の森もあるし……悩みどころよね」 カズラは言って、北條と巡回していく。 ユーディットも鬨とともに、北條とカズラと交代で巡回していく。 「少しは力になれたでしょうか……」 「そうどすなあ。戦うだけではない、と言うところどすかな。目の前の小さな暮らしも、うちは大切にしたいどす」 「そうですね……」 三四郎は、防備が完成した所迄で、いったん現地のサムライ達を集めて共に訓練して締めを切る。 「限られた時間でしたが、みなさんもお疲れ様でした。里を守るのは、皆さんです。今後ともよろしくお願いします」 三四郎は心をこめて頭を下げた。 「こちらこそ、ありがとうございました。三四郎さん、後は任せてくれ。防壁は何度でも立て直してやるさ」 七郎太は言って、三四郎と握手を交わした。 その後、最後に宴席が設けられ、鬨が歌舞伎を披露することになった。 「龍安家お抱え芸人として、歌舞伎を披露させていただきやす」 と里の慰労として歌舞伎を演じる鬨。 万来の拍手に、「役者冥利につきやす」と肩書きを全うできて満足する。 香緋御前はからからと笑った。 「どれ、妾が酒でも持って行こうかのぅ 無礼講じゃ。皆楽しむがよい」 成楼の再建を信じて、夜も更けていく……。 「みな、ありがとう。助けられたな」 春姫は、開拓者たちにお礼を言って、握手を交わすのだった。 |