斉王〜人を食らう者
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/09/11 22:47



■オープニング本文

 武天、とある氏族の里で‥‥。
 サムライたちのもとへ村民が駆け込んでくる。血まみれでずたぼろの若い青年は転がり込むようにサムライの屋敷に転がり込んだ。
「た、大変なことが‥‥た、助けて下さい‥‥あ、アヤカシが‥‥アヤカシが‥‥」
 青年の言葉を聞いて、屋敷の奥から一人の女サムライが姿を見せる。若く、凛々しく美しい女サムライであった。名を麗華と言った。
「またしてもアヤカシか‥‥お前は大丈夫か」
「私はもう駄目です‥‥ですが、まだ生き残っている者たちがいます‥‥」
 青年は息を整え、状況を話し出す。

 村は山を臨む開拓地にあり、周りは豊かな自然に囲まれていた。これまでアヤカシの被害とは無縁だった平穏な村に、一人の男が姿を見せる。男は名を斉王と言い、若い眉目秀麗な顔立ちの剣士で、一夜の宿を求めて村に立ち寄ったという。村人達は何も疑うこともなく、流浪の剣士に宿を提供した。
 その夜、悲劇は起きた。何匹かの巨漢鬼が村を襲撃し、村人たちの寝込みを襲う。
 翌朝には、村人全員が捕まって、斉王と名乗る男は正体を明らかにする。
「我こそは武天に滅びをもたらす者である、我が名を知れ、我が名を命が消え行く間際に刻み付けるが良い。我、斉王こそが、お前達に破滅をもたらすものだ」と。

「そう言って、あの男は‥‥人間の剣士の姿をしたあの怪物は、俺が見ている前で、妹を‥‥食いやがったんです‥‥」
 青年はぽろぽろと涙をこぼし始めた。
 聞けば、村人達は重傷を負わされた後で、それぞれの家々に閉じ込められているのだという。この青年も腹部から出血していた。
「おい、しっかりしろ! 分かった! もう話すな!」
 麗華は血まみれの青年を抱き上げる。
「お願いです‥‥妹の‥‥みんなの仇を‥‥みんなを救ってやって下さい‥‥」
 青年はそこまで言うと、がくりと事切れた。
「おい!」
 麗華は青年を揺さぶったが、周囲のサムライたちは沈痛な表情で沈黙する。
「‥‥‥‥」
 麗華は青年の遺体を寝かせると、弔ってやるように部下達に告げる。
「長からの命を待つまでも無い。その斉王とか言うアヤカシ、速やかに退治してくれよう」
 そう言って、麗華は十名程度のサムライを連れて件の村へと急行した‥‥。

 ‥‥麗華たちは到着後、村人達の安否を確認しながら、アヤカシとの戦闘に臨んだ。
 巨漢鬼の攻撃を他のサムライ達が封じる間に、麗華は斉王と名乗るアヤカシとの一騎打ちに臨んだが‥‥。
 斉王は麗華の刀を素手で受け止めると、腰の刀は使わず、拳で麗華を叩き伏せた。
「ぐ‥‥は‥‥! 何‥‥だと‥‥」
「我に一騎打ちで挑んでくるとは、どれほどの使い手かと思えば、笑止な」
 斉王は麗華に連打を浴びせ、ずたぼろに打ち砕いた。
 やがて麗華は気を失って崩れ落ちる。
「麗華殿!」
 サムライ達は叫んだが、斉王は麗華の首を掴んで持ち上げた。
「これがお前達の運命だ、サムライ達よ」
 斉王は笑声を上げる。
「おのれ‥‥」
 サムライ達は踏み出したが、大鬼が人質の村人に武器を付きつけると、それ以上進めなかった。
 サムライ達はその場は諦め、神楽の都、開拓者ギルドに援軍を要請したのであった。

 ――ギルドでこの依頼を聞いた男がいる。逞しい、長身の男である。銀髪で、冷たい青い瞳をしていた。名を、橘鉄州斎(iz0008)と言った。開拓者で休業中のサムライ、一応現役であるが。
「ふうん‥‥斉王ねえ。相変わらず世の中は物騒だな」
 受け付けの青年は、橘を見て、驚いた様子。
「鉄州斎殿! いつ神楽へお戻りに?」
「ああ? つい最近だ。放浪生活にしばらく別れを告げようと思ってね」
「そうですか‥‥この依頼、受けますか?」
「いんや、俺は当分依頼とは距離を置くつもりでね」
 橘はそう言って、やってくる開拓者たちに目を向けたのだった。


■参加者一覧
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
アルカ・セイル(ia0903
18歳・女・サ
氷(ia1083
29歳・男・陰
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
喪越(ia1670
33歳・男・陰
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
翔(ia3095
17歳・男・泰
紅虎(ia3387
15歳・女・泰


■リプレイ本文

 悲劇の村に到着した開拓者達――。
「同じ釜の飯を食えば友、肩を並べて戦えば家族。戦場での絆は血よりも濃い、ってな。いいからのんびり待ってな、麗華。あの世で、なんてぇオチは認めねぇぞ」
 かつて麗華と行動をともにしたことがある陰陽師の喪越(ia1670)は式を飛ばすと人魂を使役する。小さな鳥形の式が上空に舞い上がる。麗華については思うところがあるのだろう。
 上空からの視点で喪越は村の内部をざっと見渡した。村人の姿は見えず、四体の大鬼が歩き回っていた。斉王の姿はどこにいるのか掴めなかった。
 一通り村を見渡した喪越は、地面に地図を書き始めた。仲間達は顔を寄せて、喪越が書いていく地図に目を落とす。
「村は半里あるかないかだろうな。奥に向かって道が伸びていて‥‥」
 喪越は地面に道と家屋を書き込んでいく。
「周りは畑、道に沿って家が点在していて、一番奥が広場になっていて、大きめの屋敷が見えたな。幸い隠れるのに都合が良さそうな木々が周りにはある。鬼どもは畑を踏み倒して今のところは巡回中ってところか? まあお食事中じゃないのは幸いだが‥‥」
「で、ここから二手に分かれて進むんでしょうけど。知性持ちのアヤカシは厄介よねえ。人質を先に確保できれば幸いねえ」
 葛切カズラ(ia0725)は美しい顔に眉間にしわを寄せて唸った。プライベートでは酒と美食と美人を愛する快楽主義者だが、開拓者として無辜の民を殺されては怒りも沸くと言ったところか。
「事前情報だと民は家々に閉じ込められてるってことだから、あたし達が斉王を引きずり出してる間に、少なくとも紅虎(ia3387)には斉王の手に届く人質は何とかして欲しいところだね」
 アルカ・セイル(ia0903)の言葉に紅虎(ia3387)は力強く頷いた。
「村人を人質にするなんて随分卑怯な奴だよねっ、麗華さんを武器も使わず倒しちゃうなんてかなりの腕前だろうけど、でも強い相手だからこそ乗り越えないとね!」
「そっちは頼んだよ」
「任せてアルカさん! 人質も、麗華さんも、あたしが必ず助け出して見せるよ!」
「ああ、眠い‥‥」
 そんな中、緊張感のかけらもなくあくびを漏らしたのは氷(ia1083)。
「斉王、言葉を話すアヤカシに村の人質か‥‥ちぃとばかし厄介な状況だなぁ‥‥ふぁ」
 再びあくび。この男、二度寝・昼寝・早寝が趣味のナマケモノ。自らの怠惰の為に陰陽の業を使うこともしばしばである。
「しかし俺の記憶違いじゃなければ、人語を解するアヤカシ首領クラスはどいつも半端な力じゃないはずだよなぁ」
「しかし‥‥人型、と言った所で人間そのままなのはな」
 女泰拳士の巴渓(ia1334)は冷ややかに言ったが、瞳には怒りが燃えていた。
「何だ、人型に情でも湧いたのか」
 氷から問われて、巴は首を振る。
「いや、情が湧いた訳じゃねぇ。人間張りに、下らん見栄や能書きが出やがるのが気に喰わん。まるで俺たち人間の見苦しさを、鏡映しで見せられた気分だ‥‥」
「天儀において、アヤカシは脅威、宿敵、恐怖、瘴気、生まれ変わり、危機、天敵、威圧、悪夢、使い魔などといったさまざまな単語で表現されるが、いずれにせよ連中が俺たちを食料として考えている以上、相容れない存在であることは間違いないだろうさ」
「‥‥‥‥」
 氷の指摘に巴は頷く。実際巴は今回の絶望的な状況にあって、人質が一人でも殺されれば村人達は死んだものと見なして行動するつもりであったが‥‥。
「人を食う‥‥しかも肉親の前でかよ、許せねえ! 一度戦った事あるし、喋る鬼は強いのはわかってるけど‥‥負けらんねえ‥‥! 人質にとられた女サムライも心配だしな」
 言ったのは赤毛の少年サムライ、ルオウ(ia2445)。正義感の強いガキ大将だが腕は熟練の域に達している。そこいらの氏族のサムライより強い。
 それに引き替え腕はまだまだ未熟な翔(ia3095)だが、拳に掛ける思いは人一倍。
「みんなを救い出すことが出来れば‥‥今は、俺の拳を信じるしかない。どんなに敵が強くても」
「翔殿、我々も同じ思いにござる。麗華殿が生きていると、信じたい」
「そうだな、民も、麗華様も無事に救い出して、このアヤカシたちの脅威を何とかして取り除いて、村に平和を‥‥」
 氏族のサムライ達もアヤカシ撃破を誓う。
「よし、んじゃあ行くとするか。斉王チョメチョメが奥の広場に出てきてくれりゃグッドなんだがな」
 喪越は立ち上がる。
「ヤらねぇわけにはいかねぇのよ。戦友(ダチ)のピンチとあっちゃあな」
 そうして開拓者とサムライ達は伏兵班と正面から向かう班とに分かれて出発する。

 ――グオオオオオオオオ!
 大鬼は、翔と氷とルオウ、そして巴とサムライの一団が村の正面から入り込んでくるのを確認して、斉王に知らせを持っていくとともに、襲い掛かってきた。
 翔と氷とサムライの十二人は、三人一組のグループを作ると、大鬼に立ち向かう。
 ルオウと巴は混戦を抜け出して、村の奥へと進む。
「鬼は任せたぜ‥‥」
 巴とルオウは背後の戦闘を見やりつつ、油断なく進んで行く。
 大鬼とは戦闘が始まる。
 翔は大鬼の棍棒をかわして空気撃を叩き込む。
「でやあ!」
 空気撃が直撃し、大鬼は転倒する。
「掛かれ!」
 サムライ達は大鬼に突撃すると、刀を連続で叩きつけた。
 鬼はわめきながら棍棒を振り回している。
 他のサムライ達は手数で鬼の攻撃を封じ込めながら、的確にダメージを与えていく。
 だが大鬼のパワーも凄まじい。頑丈な肉体に物を言わせて突撃してくると、大鬼は棍棒をサムライに叩き込んだ。
 吹っ飛ばされるサムライ。
「ぬうっ‥‥! さすがに大物‥‥まともに食らえば痛撃だが‥‥手数で押し切れ!」
 サムライ達は果敢に大鬼に撃ちかかっていく。
「伏兵の連中‥‥気付かれないよううまくやってくれよ〜。村人もあんま刺激してやんないようにな」
 氷は鬼に向かって呪縛符を飛ばす。式が鬼にまとわり付いて行動を阻害する。
「グオオオオ!?」
 鬼は棍棒で式を振り払うしぐさを見せるが、無駄なあがきだ。
「隙あり!」
 翔は鬼の棍棒を素早くよけると、分厚い肉体に拳を撃ち込んだ。ズンッ、ズンッと拳が鬼の脇腹に命中し、鬼はかすかに怯んで棍棒を振り回す。翔は宙返りで後方に飛んだ。
「簡単には当たりませんよ〜」
 氷は戦況を見やりつつ、適度に呪縛符を飛ばしていた。
「これは少し長引きそうだなぁ‥‥」

 ‥‥伏兵班のカズラにアルカ、喪越に紅虎は周辺の木立を利用しながら身を隠し、氷や翔らの戦闘をやり過ごしながら、民家の中を探っていた。
「酷いな‥‥」
 喪越の瞳が冷たく光る。家の中には惨殺された村人の遺体が横たわっていた。その横で、恐怖に身をすくめている子供がうずくまっていた。
「ひどい‥‥!」
 紅虎は怒りがふつふつと湧いてくるのを抑えるのに苦労した。
「今は、まだだよ」
 アルカに押さえられ、紅虎は自重する。
「分かってる‥‥斉王を抑えるまでは目立った動きは出来ないね」
 その後も生き残りの民を確認しながら、開拓者達は進む。村人達は多くが過酷な状況に置かれていた。
「ルオウと巴は‥‥まだ動きがないようね。斉王はどこかしら」
 カズラは木陰からルオウらの動きを見つめていた。
 そのまま最奥の大きな家屋と広場まで辿り着いた開拓者達。
 そこで状況に異変が起きる。広場には民が数人並べられ、その中にはずたぼろの血まみれの麗華もいた。その前に立つ剣士の姿をした若者、あれが斉王か。
「麗華‥‥生きてやがったか」
 喪越は少なくともその姿を発見して安堵する。
「民は捕まっているようだけど」
「さて‥‥ここからはまずあいつらの奮闘に賭けるしかない」
 喪越はルオウと巴を見つめる。

 ‥‥ルオウと巴は斉王を見つめていた。まるで芸術家が作り出した造形美を保つ美しい青年の姿をしたアヤカシは、ルオウと巴の前に進み出てきた。
「私が斉王だ。人間が攻め込んできたそうだが‥‥」
 ルオウはじっと斉王を見据え、巴は静かに腕組している。
「斉王、民を解放しろ。俺がお前と戦う。俺とお前の一騎打ちで勝負を決めよう。村人は戦いには関係ない」
 ルオウは正面から堂々と名乗りを上げる。
「一騎打ちだと?」
「そうだ。お前もアヤカシの剣士なら、俺の剣を受けろ」
「馬鹿馬鹿しい。私が一騎打ちなどに応じると思うのか。たわごとを抜かす前にさっさと武器を捨てろ。村人がどうなっても良いのか」
 斉王は腰の刀を抜くと、麗華の首筋にぴたりと当てた。
「戦うのは俺一人だ。たった一人相手にするのでも、人質を取るのか」
「いかにも。一騎打ちなど受けん。さあ武器を捨てろ。この女がどうなっても良いのか」
 斉王は麗華の首に刃をめり込ませる。麗華はぐったりとなっていて、かろうじて立っているのみ。
「やめろ! 分かった、言う通りにする! 武器を捨てる!」
 ルオウはそう言うと、刀と盾を放り出した。
「そっちの女もだ」
「てめえが人質を助けるって保障はどこにある」
「安心しろ、貴様ら開拓者を適当に痛めつけた後は、おとなしく村から引き上げよう」
 斉王は歌うような口ぶりで言った。
「‥‥‥‥」
 巴は奥に待機している喪越らの方へちらりと目をやると、武器の手甲を外した。
「よし、それでいい。おとなしくしていれば村人は無事だ」
 斉王はにんまりと笑うと、巴とルオウの方へ歩いてくる。
「くっくっくっ‥‥覚悟はいいか」
 斉王はルオウを見据えた。ルオウはひたと斉王を睨み返した。
「いい顔だ小僧。俺は年少の開拓者だろうと容赦はせんぞ」
 そして、斉王はルオウのみぞおちにパンチを叩き込んだ。
 ドゴオオ! とルオウは吹っ飛んだ。
「ぐ‥‥は‥‥」
「くっくっくっ」
 斉王はルオウに歩み寄ると、ルオウを持ち上げ、ぶん殴って蹴飛ばした。
 無抵抗で血を吐くルオウは、斉王をじっと睨みつけた。
 斉王はルオウに向かって歩き出す。ルオウは眼前の斉王を見つめて、立ち上がった。
「いい顔だ。叩き潰しがいがある。冥土の土産に教えてやろう。貴様らを叩き潰した後は、村人達を全滅させてくれるわ」
 そこで、ルオウの顔に笑みが浮かんだ。
「そう、そうか‥‥だがな、斉王、お前の負けだぜ」
「何?」
「開拓者は俺たちだけじゃない!」
「そういうこと」
「ぬっ!?」
 斉王は振り返った。
 カズラ、喪越、アルカ、紅虎が民の前に立ち塞がっていた。
「斉王よお、お前の横暴もこれまでだぜ。麗華、良く生きていたな。俺は安心したぜ」
 喪越は言って、符を構える。
「ぎったぎたのぼっこぼこにしてやるわ。覚悟は出来てるわよね」
 カズラも冷ややかに斉王を見つめる。
「あんたの命も風前の灯よ。斉王、開拓者の剣があんたを打ち砕くよ」
 アルカは刀を一振りする。
 紅虎は仲間達が斉王に対して包囲網を敷くのと平行して、麗華や民人を戦闘地域から引き離す。
 アルカが巴の飛手とルオウの武具を拾い上げて、投げて渡す。
 ルオウと巴は武器を装備し直すと、斉王と向き合う。
「‥‥‥‥」
 斉王は油断なく開拓者達を睨み付けると、刀を持ち上げる。
 刹那、開拓者達が斉王に猛反撃を開始する。
「悪いけど潰しあいなのよね! コレ!! 卑怯卑劣は敗者の戯言! 勝てば良かろうなのよ!!」
 カズラは烈火のごとく感情をむき出しにして、斬撃符を斉王の足に叩き込む。
 喪越も足を狙って斬撃符を連発。
「アンタに鬼というものを教えてやらあ!」
 アルカは斬撃を斉王に撃ち込んだ。斉王はアルカの攻撃を受け止めたが、怒りのルオウと巴が側面と背後から襲い掛かる。
「これからが本番だ! いくぜぃ!」
 拳と斬撃が斉王の肉体を砕いて切り裂いた。
「弱い者を虐げて何が楽しいんだ! そうした人達の怒り、思い知らせてあげるよ!」
 民の避難を完了した紅虎も唸りを上げる拳を牙狼拳でぶつける。
 一転して集中打を浴びた斉王は、それでも凄まじい威力の反撃を開拓者に打ち返した後、最後には飛び上がって包囲を脱する。
 カズラと喪越の斬撃符を正面から食らいながら二人を突き飛ばして逃走する。
「さらばだ堕開拓者ども! 俺様は鬼とは違って死に急ぐほど酔狂ではなくてな!」
「斉王!」
「放っておきなさい、大鬼の相手をしている連中が気がかりよ。今回は人質を助けることが出来ただけでも重畳だわ」
 カズラは冷静に仲間達を押し止めた。

 ‥‥その後、大鬼を撃破した開拓者達は、村人の本格的な救出に向かう。
 民はひどい有様だったが、生き残っている者も大勢いて、アヤカシの脅威が消えたことを喜んだ。
「ありがとうございます‥‥開拓者のみなさん。死んだ者たちもアヤカシが滅びたと聞けば成仏できるでしょう」
「あー、いや、それほど安心できる状況じゃないが」
 喪越は村人達から感謝されたが、実際ボスには逃げられたので何とも言えなかった。
 その後村では亡くなった者たちを弔う葬儀が執り行われた。
「みんな、元気を出してね。いつか、きっとみんなが安心して暮らせる世界を‥‥そんな日が来ると信じてる」
 紅虎は葬儀の後で村人達を励ました。
 手当てを受けて回復した麗華は、開拓者達に礼を言ったが、氷が苦言を呈した。
「どっかの誰かが己の力を過信して命を落とそうが知ったこっちゃないが、助けが来たと思ったらあっさりやられる様を見て、村人がどんだけ絶望したと思ってるんだ? わざわざアヤカシに糧を提供してんのか」
「そう言われると言葉も無い‥‥」
 麗華たちサムライは沈黙。
 何かと厳しい状況だっただけに、また斉王も逃がしたこともあって、村を立ち去る開拓者達の顔に笑顔は無かった。