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■オープニング本文 天儀本島武天国、王都此隅――。 王城の一室に、巨勢王(iz0088)と向き合う人物がいた。藤原家側用人、芦屋馨(iz0207)である。 「それで芦屋殿、何を考えておいでかな?」 巨勢王は問い掛けた。わざわざ一国の王に会いに来た理由を、巨勢王は知りたかった。 「長篠安盛の件です」 「長篠……か」 巨勢王は、芦屋が口にした名を反芻する。 長篠安盛はれっきとした朝廷貴族だったが、武天国の鳳華で、龍安家にアドバイザーとして務める振りをして、アヤカシと内通していたことが発覚した。「だった」と言うのは、長篠は尋問中にアヤカシの暗殺者に殺されてしまったのである。 「もし……」 芦屋は言った。 「もし、遭都に長篠と行動を共にする一派が存在しているとしたら、由々しき事態だとはお考えになりませんか」 巨勢王は笑った。巨勢王にとって、王朝がアヤカシと繋がっていようといまいと、そんなことは些細なことだった。 「まあ仮に遭都がアヤカシに侵されているとしたら、わしは堂々と大軍を率いて遭都に乗り込み、帝をお救いするまでですなあ」 「そのような……」 「芦屋殿、忠告するとすれば、下手に首を突っ込まぬ方が良い。貴女も長篠と同じ運命を辿ることになるやも知れませんぞ。アヤカシが関わっている以上、迂闊に近寄らぬことだ」 「ありがとうございます……」 「無論、朝廷貴族が武天国で殺されたのですから、龍安家には調査を命じてありますが、恐らく何も出てこないのではないのですかな。長篠が武天にやって来て、半年以上は経っているでしょう。頭の切れる奴です。そう簡単に証拠を残すとは思えない」 「ところで陛下、長篠は、この此隅に屋敷を借りていたと聞きました。普段はそこで生活していたと」 「事情通ですな。そんな細かいことまで調べたのですか」 巨勢王は言って、肩をすくめる。正直、アヤカシが関わっている時点で、この件を掘り起こすつもりは無かった。 「やめた方が無難ですぞ」 巨勢王は言って立ち上がった。巨勢王はこの一件とは距離を置きたがっていたのだ。 「失礼します……」 芦屋は、巨勢王の協力を取りつけたかったのだが、それは諦めて単独で行動に出た。 ――此隅、旧長篠屋敷。 芦屋は、護衛の志士、林原鈴香を伴って屋敷に踏み込んだ。屋敷の中は整然としていて、まだ生活感が残っていた。 「さて……何か見つかるでしょうか……」 芦屋は捜索を開始した。 数時間屋敷を捜索し、芦屋は長篠が指示を受けていたと思われる文を発見する。長篠の背後には黒幕がいたのだ。 「天山寺仁海……何者でしょう」 文の内容からして、長篠は天山寺と言う人物から指示を受けていたようだ。 「芦屋様――」 と、林原は、芦屋の手を引くと、静かに前に出た。 「囲まれています」 「何ですって?」 林原は抜刀すると、相手が出て来るのを待った。 やがて、浪人者がばらばらと現れて、切り掛かって来る。 「何者だ」 「それはこっちの台詞だ!」 「引かねば、後悔するぞ」 林原は、男たちを睨みつけた。 「へ、やっちまえ!」 浪人者たちは襲い掛かって来た。 しかし、林原は芦屋を守りつつ、浪人たちの攻撃を捌きつつ、峰打ちで打撃を与えて行く。 「ち、ちくしょう! 覚えてろ!」 浪人者たちは捨て台詞を残して退散する。 「天山寺仁海?」 巨勢王は、驚いたように問い返した。芦屋から渡された文に目を通していく。 「何者かご存知なのですか?」 「かつて武天の里長だった男だ」 「かつて、とは?」 「この男、わしに冷遇されていたことを根に持って反乱を起こしたのですが、後にアヤカシにそそのかされていたことが判明し、死罪とはせずに、里長の任を解任するに留めておいたのですが……」 「今どこにいるかご存知ですか?」 「此隅にいる」 「失礼ですがそれはどういう意味ですか」 「反乱の後、どうしていたかは知りませんが、今は出家して僧になり、『厳存秘教』という集団を束ねて、此隅で布教活動を行っているようですな」 「なぜ放置しているのですか?」 「まさか今もアヤカシと関わりがあるとは知らなかった。監視は付けていましたが、さしたる脅威では無いと判断していたのです」 「どうやらそうも言ってられないようですね」 「ふむ……」 巨勢王はうなって吐息すると、思案を巡らせる。 それからしばらくして、開拓者ギルドに、芦屋馨が依頼を出すまでにさしたる時間は掛からなかった。 ……夜、此隅にて。 人々が寝静まった此隅に、月明かりの下を、黒ずくめの男が歩いて行く。男は、鉱山街の此隅の一角にある、厳存秘教の拠点である立派な屋敷に向かっていく。男は扉を叩いた。 「誰だ――」 「禍津夜那須羅王」 「これは恐れ入りました」 扉が開かれ、上級アヤカシ禍津夜那須羅王が屋敷の中へ入って行く。 間もなく、厳存秘教への攻撃が開始されようと言う時であった。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
神凪 蒼司(ia0122)
19歳・男・志
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
アルフィール・レイオス(ib0136)
23歳・女・騎
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰
ライ・ネック(ib5781)
27歳・女・シ |
■リプレイ本文 此隅の奉行所に開拓者たちと武天の兵士達が集結していた。間もなく、厳存秘教への攻撃が開始されようとしていた。 「長篠安盛の裏には厳存秘教なる集団がいたのですね……今後の事もありますし、きちんと対処できればと思います……」 柊沢 霞澄(ia0067)は言って、思案を巡らせていた。 「私は別働班ですね。有事の際や捕縛がなった場合等に連絡できるよう、呼子の合図を決めておきましょう」 「うむ……」 サムライ達はうなって、合図を決める。 「アヤカシと通じている人間、か。何故そのようなことをしているのか、興味があるな。……アヤカシと共に良からぬことを企んでいるのか……それとも。……それにしても人相手に戦うのは久し振り故、少し緊張するな」 神凪 蒼司(ia0122)は、言って苦笑した。 「俺は敵を引きつけ、鎮圧する側に回る。数は多いが……志体を持っている者は少ないようだから、何とかなるか。先ずは志体を持っている者たちを潰すのが肝要だろうな。力の差を見せつければ、投降してくるものも居るだろう。……逆上して襲いかかってくる者も居るだろうが」 華御院 鬨(ia0351)は、今回は気さくな浪人風に男装――変装しないと女性にしか見えないためだが――していた。 「馨ちゃん、橘とお茶したんだって。今度は僕ともどうだい」 とナンパする気さくな浪人風の鬨。 芦屋馨(iz0207)は、役人としては遭都で絶大な影響力を持つ女性だが、仕事以外には関心が無いわけではない。 「あら、華御院様、嬉しいですね。ぜひご一緒させて下さいね」 芦屋は言って、にこりと笑みを浮かべた。 「良かった。じゃ、仕事が終わったらね」 それから鬨は、呆れる仲間たちを見やる。 「僕は心眼『集』で常に相手の状況の確認をし、奥の方にいるのが天山寺としてそこへ向かう様にするよ。まあ、浪党は何人いるのか知らないけど、心眼で捉えて行こう」 「長篠の黒幕か、まだ先がありそうだが。まずは、捕縛してからだな」 焔 龍牙(ia0904)は言って、赤い瞳の奥に深い思考の閃きを見せる。 「天山寺仁海か……長篠の背後にいる者を聞き出せれば良いんだけどな」 滝月 玲(ia1409)は、焔を見やりつつ言った。焔は頷く。 「そうだな玲。これまですっかり騙されていたからな……」 「ん、厳存秘教か。少々理解できない集団だな、アヤカシと協力できると本気で思っているのか?」 女騎士アルフィール・レイオス(ib0136)は思案顔で言った。 「まあ……その辺の事情は聞きだすとして、厳存秘教の郎党を捕えることが目的だな。敵の数が多いし、なにより死なせてはいけないというのが面倒だ。とはいえ、やるしかないが」 それからレイオスは、サムライ達に言った。 「可能なら同行する武天兵に捕縛用の縄や捕虜が死なないように薬草や包帯、符水なんかの医療品を用意してもらいたいな。流石に開拓者が敵全員分のそれらを用意するのは無理がある。それと、出来れば武天兵には主に戦闘不能にした敵の捕縛などを頼みたいな。あとは余裕があれば逃走を許さぬように屋敷の包囲か。あんたらには一般武天兵の指揮などをしてもらいたいが。あぁ、それとこれは全員にだが。捕縛した又は捕縛しようとしている敵への口封じを警戒した方がいいだろう。殲滅ではなく捕えて情報を引き出すのが目的だと知られれば口封じに出る奴もいるかもしれんしな」 サムライ達は頷いた。 「まあそんなところだな。陛下から捕縛命令が出ている以上、何としても捉えねばならん」 「ん、よろしく頼むぞ」 「アヤカシと内通ね……人間も疑わなければならないとは頭が痛い。いずれにせよ、獅子身中の虫を退治せねば」 長谷部 円秀 (ib4529)は言って、うなった。 「どうにか、アヤカシの情報を確認出来れば良いのですが……正面班と別動班による二ヶ所同時攻略ですね。正面班は正面から乗り込んでの宗教集団主力の鎮圧、拘束。別動班の行動秘匿の為の陽動ですね。武天兵士は此方に配属願いたい。差し押さえ、捕縛できる棒、縄等を装備させ無力化に従事してもらえますか。事後、拘束した敵の見張り、拠点の確保、敵の後送など。二十人程度で拠点周辺を固め、逃走防止及び騒ぎの拡大を防止してもらいましょう。開拓者は神凪君、レイオス君、華御院君に、私ですね」 それから長谷部は続ける。 「別動班ですが、正面の陽動に紛れて迂回し、天海を捕縛が任務となりますね。速度重視で敵が対応する前に中枢部を抑える役割です。アヤカシ等の対応に人が必要な場合は正面班から増援を送りましょう。開拓者は滝月君、ライ君、焔君、柊沢君ですかね」 「うむ……了解した。まあ、主力は任せよう。我々はサポートに回る」 サムライたちが言うと、長谷部は「よろしくお願いします」と口許を緩める。 「まずは機先を制して、敵の抵抗する意思を折ることが肝要でしょうか。私が拠点の入口を破軍重ねがけの絶破昇竜脚で吹き飛ばして、抵抗が無駄な力の差を見せ、敵が我に返る前に兵を速やかに中に入れ入口周辺を確保して頂ければ。その状態で降伏を勧告し、投降するものに危害を加えないことを約束する流れでどうですか? 一人投降すれば、後は雪崩れるので事前に集団に此方の手の者を潜ませ、一番に投降する手はずを整えてはどうでしょうか」 「ふむ……そうだな。では、シノビが帰って来るのを待つとしますかな。拠点の情報を押さえて、一気に叩く――」 ……その頃、シノビのライ・ネック(ib5781)は、厳存秘教の屋敷に先行して接近していた。 慎重に屋敷近くまで身を潜めつつ接近。超越聴覚で屋敷の出入りする人間たちの間に合言葉があるか等を確認する。 それから、屋敷周囲の警備状況も身を潜めつつ確認する。警戒が緩いと思われる場所を確認すると、その場所も記憶しておく。 それから、出入りする信者らき人間達の衣服等を確認し、信者に近い姿になる様市女笠、外套、小袖、残無の忍装束の着方を工夫し変装すると、屋敷内に信者に紛れ侵入を試みる。 屋敷の入り口に、男が立っていて、ライの前に立ち塞がった。 「厳存様は何と仰せになる――」 「王虎になれと」 「よし、通っていい」 ライは合い言葉を言って屋敷内部へ侵入する。 超越聴覚で兵士達や信者達の言葉を注意深く聞き取り、行動に不信感を持たれない様注意して屋敷内を忍眼や超越聴覚を駆使して探索する。 「天山寺の居場所は特定できるでしょうか……」 ライは、奥まった部屋に接近していく。武装した浪人が立ち塞がった。 「あの……仁海様とはお会いになれないのでしょうか」 「仁海様は厳存様のお言葉を聞いておられる」 「そうですか……」 ライは怪しまれないように後退する。 それからライは回り込んでいくと、閉ざされた部屋の前に接近する。忍眼で解錠すると、するりと中へ入り込んだ。 「厳存様は何と仰せですか――」 声が聞こえる。ライは超越聴覚を発動させ、物影に潜む。 「天山寺、厳存様は、待つ時だと仰せだ。いずれ、巨勢王に反撃の一撃を加えることも叶うだろう。今は、力を蓄えよ」 「は……待つのは慣れております……」 ライは話を聞きとっていた。彼らは「厳存様」からの指示について、話し合っていた。 それからライは別の通路へ向かうと、風を感じて、立ち止った。 「ここは……」 ライは壁を押した。すると、壁が回転して、隠し通路が出現する。通路は地下へ向かって伸びていた。 ライはそれを記憶しておき、扉を戻してその場を後にする。それから信者の往来に紛れ、警戒の緩い場所から屋敷を抜け脱出する。 屋敷を出ると、記憶を辿って手帳に見取り図を書き出し、警備の緩い場所も記載しておく。 ――奉行所へ戻ったライは、収集できた情報を手帳に記載した内容を見せ説明する。 「なるほど……内部はこのように」 「天山寺はここですか」 「この隠し通路は、廃坑へ通じていますな。押さえておく必要がありそうですな」 「ライちゃん、お疲れ様だったね。神楽に戻ったらお茶でもどうだい」 「私を誘うとは勇気がありますね華御院様」 そうして、開拓者たちは厳存秘教への攻撃に備える。 白昼、速攻で屋敷を包囲、厳存秘教を殲滅する作戦が図られる。 「よし! 行くぞ!」 「おお!」 奉行所の兵士達は、開拓者を先頭に出立すると、続々と此隅の大通りを通って、厳存秘教のアジトへ向かう。 一般の人々は、何事かと兵士達を見送る。 「――何だお前たちは!」 厳存秘教の入り口では、武装した信者たちが兵士たちと向き合っていた。 「陛下の命に付き、これより屋敷を改める! 一同神妙にいたせ!」 サムライが高らかに言うと、信者達はざわめく。 焔はその間に、友軍兵士、仲間と協力して、天山寺仁海の居場所と、退路、脱出路の場所を探索する。また、退路、脱出路の出口が何処にあるかも探索しておく。ライが書きだした見取り図が頼りだ。それから仲間にお願いをする。 「襲撃開始時に退路、脱出路に人がいないか探索してくれないか? もし、居たら天山寺仁海である可能性が高い! 目前に居るのは影武者かも知れんからな!」 「承知しました焔殿。こちらはお任せあれ」 「よろしく!」 「仁海はアヤカシと手を結び巨勢王を手玉に取ろうと企てる者だ。長篠の手際を考えると拠点なら逃走ルートを確保していてもおかしくないですよね」 滝月の言葉に、サムライは見取り図を広げた。 「廃校への隠し通路も見つかったようだしな」 「他に、抜け道として使えそうな枯れ井戸や坑道、通行可能な水路はありますかねえ」 「ふむ……確認する限りでは、坑道への道が一つあるな。隠し通路もここへ通じているのかも」 「では、そこは火薬で塞いでおきましょう」 「よし」 サムライは、兵士たちに坑道を爆破しておくように伝える。 それから、地図には未記載の幾つかの小規模な坑道も、確認し、全て制圧して爆破しておく。 長谷部は、絶破昇竜脚で屋敷の入り口を吹き飛ばすと、信者達を威圧する。 「抵抗は無駄だ! 速やかに投降すれば身の安全は保証しよう!」 ざわめきの中から、信者に化けた武天兵が投稿して来る。 「わ、私は降伏します! 命だけは助けて下さい! お願いします! 巨勢王陛下に逆らうなんてとんでもない!」 それを見た信者たち、動揺しつつも、全員が武器を手に抗戦の構えを見せる。 「俺たちは厳存様の教えを信じる! 巨勢王は俺たちのことなんて助けてくれないじゃないか!」 「仕方ないな。では始めるか」 神凪は言うと、前に踏み出した。 「大人しく捕まるならそれでよし。そうでないなら、痛い目を見るぞ」 「やかましい!」 信者の一人が打ち掛かって来るのを、神凪は軽くいなして転倒させた。軽く一撃を打ち込む。 「気は進まんが仕方あるまい」 「んじゃいくか。みんな、本気は出しちゃ駄目だよ」 鬨もガンガン進んでいくと、一般人信者を軽く叩きのめしていく。 「こっちの目的は天山寺だ。邪魔するな」 「ん、中々気の重い仕事だが、これもアヤカシの根を絶つためだな」 レイオスは「手加減」を使って信者達を倒していく。 「ん、おい、捕縛をよろしく頼むぞ」 「大人しく捕まってくれればいいものを……仕方ありませんねえ」 長谷部も前進していくと、極め技の体術で信者の動きを封じて行く。 「では私達も行きましょうか……」 柊沢は、言って吐息した。杞憂に終われば良いのだが、賊が毒を使用したり万が一それで自殺を図った場合等に備えて「解毒」を準備してきていた。 「ライさん……お願いします……」 焔たちも正面班が厳存秘教一党の注意を引き始めたところで、探索で割り出した天山寺仁海の元に向う。可能な限り、滝月と協力して挟み撃ち状態を作り出し、どちらかが必ず退路、脱出路の前に来る様に布陣する。 「よし! 行くぞ!」 「準備は万端ですね。あとは天山寺の不意を突くことが出来れば」 滝月は言って、屋敷の奥に目を光らせる。 「こっちです。急ぎましょう。案内します」 ライは言うと、仲間たちの先頭に立って屋敷内へ侵入する。 厳存秘教の警備兵を倒して、奥へ進んでいく。 すでに、正面から突入した仲間たちが突破を図っている。厳存秘教の目はそちらに向いていた。別動班はさしたる抵抗を受けることなく、素早く前進していく。 「ここです――」 ライは、超越聴覚で天山寺の声を聞き取っていた。天山寺はパニックに陥っているようだった。 開拓者たちは壁をぶち破って突撃する。浪党たちが愕然とした表情で開拓者たちを見やる。 焔は魔槍砲を浪党の足元にの威嚇発砲した。 「ジタバタするな! 次は外さない!」 「おのれ!」 浪党の一人が抜刀して突進して来る。 滝月は殺気を放ち、浪党を峰打ちで打ち倒した。それから瞬脚で一気に間を詰め、仁海に手加減を使用し、気絶させる。 「ここまでですよ。厳存秘教はお終いです」 ライは言って、影縛りで浪党の動きを封じる。 柊沢も、神楽舞「縛」で支援していく。 「もう終わりだ、神妙にしろ! 無駄な抵抗はするな! 怪我の元だぞ!」 焔は言って、魔槍砲を天井に向かって撃った。 そこへ正面班の仲間たちがなだれ込んで来る。 「天山寺は――」 「捕まえた」 「そちらはどうですか……? 怪我人などは……」 柊沢は、気がかりであったことを尋ねる。 「ん、大丈夫だ。死人はいない。あらかた片付いた」 「そうですか……罪は生きていてこそ償えるものですから……」 かくして、厳存秘教はここに壊滅したのだった。 ――開拓者たちは、此隅の王城の牢獄で、天山寺仁海の尋問に立ち会った。芦屋馨と、警備を引き連れた巨勢王(iz0088)が直々に姿を見せた。 「天山寺、お前たちは何者の指示を受けて動いていたのだ」 「…………」 巨勢王の問いに、仁海は立ち上がった。警備兵たちは緊迫した面持ちで巨勢王の前に出る。 「巨勢王……禍の根は深いぞ。わしの背後にいるのは大アヤカシ不厳王(iz0156)だ。お前の力など、あの魔物には遠く及ばぬ。はーはっは!」 「ふーむ。不厳王か」 巨勢王は笑い続ける仁海を見据えると、それだけ確認してその場を後にした。 仁海は笑い続けていた。 「行きましょう……」 芦屋は言って、開拓者たちと牢獄を後にする。 と、華御院が口を開いた。 「馨ちゃん、今日はもう遅い、お茶ではなく、どの旅籠にするかい」 と芦屋をお茶以外の所に誘おうとする。 「華御院様、それは浪人風の変装をしているための台詞ですか」 「そりゃそうだよ。僕は遊び人じゃないからね」 「それを聞いて安心しました」 と、ライが、どす! と華御院の脇腹に肘鉄を食らわせた。 「な、何すんのライちゃん」 「自分で考えたらどうですか――」 さて、一連の事件の黒幕は不厳王であると判明。油断は出来ぬと、開拓者たちは此隅を後にしたのだった。 |