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■オープニング本文 その日、芦屋馨(iz0207)は、神楽の都の自宅兼仕事場で、文に目を通していた。彼女は間接的に方々から情報を仕入れては、それをまとめていた。藤原家の側用人である芦屋は、現場に出ることはまずなく、実務的な仕事をこなしていた。現場の仕事はギルドを通すか、事情に通じた人間を雇うか部下に任せている。 「芦屋様――」 側近で警護を務める林原鈴香が室内に入ってくる。 「あまり根を詰め過ぎますと、体に毒ですよ。たまには気分転換に、飲みに行きませんか。私でよろしければお供しますので」 「鈴香……珍しいですね。あなたがそんなことを言いだすなんて」 「私も、長く芦屋様にお仕えして、何も思うところが無いわけではありません」 「私なら大丈夫です。気遣いには感謝しますよ」 「そんなこと言って、橘鉄州斎(iz0008)から誘われたらお出かけになるでしょう」 「鈴香――」 芦屋は、少し声のトーンを上げた。林原は軽く笑う。 「そんなむきにならずともいいでしょう。私には、橘などどこにでもいそうな浪人者にしか見えませんけど。それはそうと、本当に飲みに行きませんか。部下たちから芦屋様をお連れするように言われてるんですよ――?」 その時である。林原は気配を感じて振り向いた。異様な気配に、刀に手を掛ける。 「鈴香?」 「芦屋様、下がって下さい――!?」 次の瞬間、何かが襲って来て、林原は吹き飛ばされた。 「鈴香――!」 芦屋の声はかき消された――。 どれくらい経ったであろうか、橘鉄州斎が芦屋宅に来ていて、「御免下さい」と呼び掛けていた。 「妙だな……この時間に誰もいないのか?」 橘は、少し顔を出して、宅内を覗き込んだ。 使用人が、血を流して倒れている。 「おい!」 橘は駆け込んだ。 使用人は切り裂かれてこと切れている。 橘は抜刀して進んだ。 あちこちに芦屋の部下達が倒れている。皆殺しである。 「……? おい! 林原!」 橘は林原を抱き起した。 「あ……芦屋様……」 「何があったんだ! 芦屋殿はどこへ行った?」 「た……橘……」 「おい!」 林原は意識を失った。橘はその息を確かめると、宅内を一回りした。惨状だった。 「…………」 橘は冷静になると、唯一の生き残りである林原を抱き上げて、家を出た――。 ……芦屋は目を覚ました。頭がずきずきしている。記憶を辿るが、はっきりしたことは思いだせない。体に痛みが走る。 「く……」 ここはどこかの倉庫のようである。周りには荷物が積まれている。壁を伝う配管が見える。 ――ギャアギャア! と微かに人外の咆哮が聞こえる。 と、武装した男たちが姿を見せた。 「目を覚ましたか芦屋馨」 「お前たちは……」 「くく……もったいないねえ。その綺麗な顔が傷つくと思うと……」 男の一人が抜刀し、芦屋の頬に刃を当てた。 「まあ、あの方の依頼でなきゃ、もっと楽しめたんだがな」 言って、男達は見張りを残して立ち去っていく。 芦屋は足袋の裏側から符を取りだして人魂で虫を飛ばすと、部屋の外に飛ばした。ここはどうやら飛空船の中のようである。船は停泊していて、周りは廃墟だった。ゾンビや骸骨が徘徊している。 手は鎖で縛られていたが、幸い足枷は無かった。芦屋は目の前の見張りに忍び寄ると、男の首に鎖を巻き付けた。 「て……めえ……何……しや……っ!」 芦屋はそのまま万力を込めて男の首をへし折った。男は崩れ落ちる。 男の死体から鍵を奪い手枷を外すと、芦屋は行動を開始した――。 |
■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
アリス・ド・華御院(ib0694)
17歳・女・吟
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰 |
■リプレイ本文 「橘には先を越されているから、私が馨ちゃんの王子様にならなくてはな」 と橘の前で変に気合いを入れる華御院 鬨(ia0351)。華御院は今回は気さくな浪人風に男装――変装しないと女性にしか見えないためだが――していた。 「本当に今回は、王子様にでもなってくれることを祈ってるぜ鬨」 橘は言って、神妙な面持ちだった。 「芦屋殿が誘拐されるとは。目的は何だ? 鉄州斎関係か厳存秘教関係か。詮索しても結論はでないな! 芦屋殿を見つける事が先決だな!」 焔 龍牙(ia0904)は、いつものように感情を露わに言った。 「大道寺の件もある、早く探し出さないと大変だ」 言ったのは滝月 玲(ia1409)。 「……芦屋様が誘拐されるとは、何者が……」 コルリス・フェネストラ(ia9657)は、思案顔で呟く。 「お兄様が女装をしていないなんて珍しいですね。今回はわたくしも協力させていただきますね」 とゆっくりした口調で話すアリス・ド・華御院(ib0694)。鬨とは異母兄妹である。それから、橘にも――。 「兄がいつもお世話になっております」 「鬨の妹さんか。今回はよろしく頼むぜ」 「芦屋さんがさらわれるとはね。あの人は隙なんて見せそうにないのに。知らぬ身でないですし、見つけ出して見せますよ」 長谷部 円秀 (ib4529)は言って、思案顔。 「ところで、鈴香さんはご無事なのでしょうか?」 コルリスの問いに、橘は頷く。 「ああ、手ひどくやられたようだが。どうにか無事だな」 「そだねえ……まずは、鈴香ちゃんから話を聞いてみようじゃないかい」 鈴香が暮らす長屋に着いたところで、鬨は戸を開けた。 「御免下さい。鈴香ちゃん。お見舞いに来たよ」 「……誰だ」 「開拓者の華御院鬨だよ」 「……そうか。上がってくれ」 鈴香の弱々しい声が開拓者たちを迎える。 鈴香は床ついて横になっていた。 鬨は花束を差し出した。 「今度デートしようか。ではなく、悪いが、例の事件があった時の状況を教えてくれないかい」 と冗談で気を紛らわした後に質問する。 アリスは偶像の歌で「わたくし達に任せて下さい。芦屋様は必ずお救いします」と曲を奏でた。 鈴香はゆっくり上体を起こした。 「あれは……何だったのか。あっという間の出来事で……。気付いたらやられていた。ただ、奴には実体があるはずだ。これほどの打撃を私に与えるほどの手練れだ。人間ではないだろう……。それから、凄まじい轟音がして、私は意識を失った……」 「大丈夫かい」 「ああ……芦屋様を守り切れずに不甲斐ない」 コルリスは鈴香の話を手帳に記入していたが、手を止めて口を開いた。 「林原様、何か、芦屋様の匂いが残っているものはないでしょうか? 忍犬に匂いを追わせてみようかと思いますので」 「……芦屋様のご自宅に、何かあるだろう。布団とかならまだ匂いも新しいんじゃないか」 「ありがとうございます」 「……他に何か……私にできることはあるか……」 一同、顔を見合せ、頷いた。 「鈴香ちゃんはゆっくり休んでいてね。馨ちゃんは必ず助けだしてみせるよ」 それから、各自で捜索を開始する。 鬨は、一見、浪人風なので、”蛇の道は蛇”という事できな臭い場所に赴いて、ある程度の金銭を払いながら「こないだ皆殺しがあっただろ、私もちょっと仕事を頼みたくてな」と同類のふりをして情報を収集する。 「ほう……あんなでかい山があった後だ。奉行所も警戒してるぜ」 「出来れば、この間の殺しをやった連中に頼みたいんだがな」 「…………」 男達は、慎重な目つきで鬨を見る。 「お前、少し忠告してやると、この間の殺しは、アヤカシが関わっている可能性大だ。芦屋馨を誘拐するなんざただ者じゃねえ。芦屋の近辺を守っているのは、そんじゃそこらの鈍らじゃねえからな」 「また凶風連か?」 「そんなことは分からねえが。死にたくなきゃ、迂闊にあの事件に近づかない方がいいぜ――」 焔は、ギルドに立ち寄り、芦屋が係わった依頼について聞き込みを行う。特に恨みを買いそうな依頼が無かったか……その関係者は今何処にいるか確認する。 焔の応対をしたのは、橘の助手を務めている森村佳織だった。 「芦屋さんが関わった依頼と言いますと……そんなに多くは無いんですよね。合戦の際の修羅の里依頼。でも、この事件に修羅が関わっているとは思えませんからこれは違いますよね」 佳織は言って、資料を置いた。 「後は……鳳華の龍安家に関わる依頼が幾つかですね。これは、例えば禍津夜那須羅王とかのアヤカシから狙われることになるかもしれませんね。芦屋さんは、龍安家の中でも家老に匹敵する相談役に就かれていますから」 佳織は、また資料を置いた。 「最後が……此隅で壊滅した厳存秘教ですね。あの教団の壊滅に芦屋さんは大きく関係していますから、恨みを買っていてもおかしくは無いですね」 言って、佳織は資料を焔の前に置いた。 「厳存秘教か……だが、芦屋殿が名を知られるきっかけにはなっているか……」 焔は言って、資料を手に取った。 一応、焔は全ての資料に目を通していく。 「ねえ焔さん。お願いしますね。芦屋さんは、私や橘さんにとっても大切な人ですから」 「最善は尽くしますよ――」 滝月とコルリスは、芦屋邸にやって来ていた。 「何か手掛かりが見つかるでしょうか……」 「忍犬頼みですね」 滝月は、コルリスの忍犬ルプスの頭を撫でた。 「よろしくお願いしますよルプス」 コルリスは言って、鈴香が言っていたように、押し入れに仕舞われている布団を取りだした。それをルプスに嗅がせる。ルプスは絶対嗅覚で匂いを嗅いで、歩きだした。 その後をついて行く二人。ルプスは、意外なところへ向かいだす。事件のあったと思われる場所へ向かっていく。 「ここは……」 部屋の天井が突き破られて瓦礫が散乱している。 ルプスはそのままばらばらになった壁を登って行き、屋根に上がった。 「ワン!」 ルプスは立ち止って、空に向かって吠えた。 コルリスと滝月も屋根に上がって、ルプスの元へやって来た。 「ワン! ワン!」 「芦屋様は……ここで消えたのですか?」 「ここって……じゃあ、芦屋さんは空へ消えたってことですですか?」 「そう考えるしかないようですね……」 「ですが、屋根を突き破って、そのまま空を飛んでいくなんて……どんなアヤカシなんですか? 神楽の都にそんな化け物みたいなアヤカシがいたら、すぐに分かりますよね?」 謎が残る。 「一度戻りましょう」 コルリスは言って、二人は下に戻る。 それから、今度はコルリスは、ルプスに嗅覚識別を頼みつつ探索する。 反応はすぐに出た。 ルプスは芦屋邸のあちこちで特別な匂いをかぎ分け、コルリス達に知らせる。それは、芦屋邸の入り口から始まって、邸内へ侵入していた。特別な匂いが残っているのは、芦屋邸の入り口から邸の中だけだった。 「アヤカシは……アヤカシだとして……ここへ降り立ち、それから邸内へ入って行った?」 「それにしても、白昼堂々、大胆な敵ですね」 コルリスは、ルプスを撫でてやりながら、思案を巡らせる。 アリスは、港などの外から来る人がいる所で聞き込みをする。口笛と普通の演奏を行いながら、歌に混ぜて芦屋馨失踪事件について不特定多数に対して語りかける。また、彼女は自分では気付いていないが、色気が発散しており、港の男達の目を引かずにはおれなかった。 「あの日、芦屋馨様は何者かにさらわれました。何者がそんな大胆な行動を起こしたのでしょうか。そして、その目的は何なのでしょうか。今もどこかに、芦屋馨様が捕らわれています。芦屋様はご無事でしょうか。芦屋様はどこに捕らわれているのでしょうか――」 「よお姉ちゃん、人探しかい」 声を掛けてきたのは、船乗りたちだった。 「はい。数日前、芦屋馨様と言う方が神楽の都で行方不明となりました。わたくしはそのお方をお探ししています」 「ほうほう、芦屋馨ねえ……知ってるか?」 「いや……全く知らねえな」 男たちはアリスの胸元が気になるようだ。 と、アリスは自分を見ている視線に気づいた。男達の向こうに、浪人風の男がこっちをじっと見ている。と、浪人は踵を返して人ごみに紛れる。 「あ、申し訳ありません。失礼いたします」 アリスは浪人を追った。 浪人は、一隻の飛空船に入って行き、姿を消した。 それから、開拓者たちは一度合流する。 「何か手掛かりはつかめたかい?」 「あまり芳しくは無いですね。恐らく、アヤカシが関わっていると言うことくらいしか」 「私達も、芦屋様の邸を捜索しましたが、アヤカシとしか考えられません。どうやら敵は芦屋様をさらって屋根を突き破り、空へ逃れたようなのです」 「敵は飛べるのか? 以津真天とかに乗っていたのか?」 「分かりません。ですが、回りに聞き込みはしてみる価値はありそうです」 「港ですが、怪しい船を発見しました。私を普通じゃない感じで見て来る男がいました」 「それってアリス、お前の色気に目がくらんだ奴じゃないのか」 「何をおっしゃってるんですかお兄様」 それから、開拓者たちはもう一度芦屋邸に向かい、聞き込みを行う。 「あの日、ここで何かが来たのを見ませんでしたか?」 「分からないなあ」 答えたのは、開拓者を引退した老英雄だった。老人は、確かにすごい音を聞いたが、外に出たときには何もいなかったという。 「何かが芦屋さんの家に来たのは間違いないだろう。アヤカシかも知れんが、気をつけろ。ただの下級アヤカシとは思えない。何にせよ、芦屋邸の警備を皆殺しにして、目撃もされずに空から逃げ出せるほどの奴だ。よほどの化け物だろう」 それから続いて、一行は港へ向かう。ルプスの絶対嗅覚で追跡を開始する。 ルプスは、アリスが見たと言う船の前で立ち止まり、激しく吼え始めた。 「やっぱり、わたくしの調査は無駄ではありませんでしたね」 アリスの言葉に、開拓者たちは油断なく船を見上げる。 「この船の中に芦屋殿がいるのか……?」 どうするか――。 「奉行所の協力を仰ぐか?」 橘の問いに、開拓者たちはひとまずそれは保留し、船の船員たちに聞き込みを行う。 「ちょっと、失礼する」 船員たちは、入って来た開拓者たちに警戒の目を向ける。 「何だ貴様ら、人の船に勝手に踏み込むんじゃねえ」 巨漢の船長が出て来る。 「開拓者だ、話を聞きたい」 「開拓者だと? 出てってくれ! 船の中をお前たちにあれこれ詮索される筋合いはねえ! お前たちにそんな権限も無いだろう!」 「芦屋馨」 長谷部が言った。 船長は氷のような眼差しを向ける。 「誰だそいつは」 「知らないんですか?」 「知らねえなあ。この船の誰も、そんな名前は知らねえさ」 「本当ですか? ここにいるんじゃないですか?」 長谷部が言うと、船長は笑いだした。 「人探しか? いいさ。じゃあ気の済むまで探してみろ」 船長は、突然人が変わったように開拓者たちの捜索を許した。 開拓者たちは船の中を調べたが、結局無駄骨だった。芦屋馨はどこにもいなかった。 「気が済んだろ。さあさあ、とっとと帰った帰った!」 船長は開拓者たちを追いだした。 と、滝月は帰る前に、船体に付着している土を手に取った。土はまだ湿っていて、草や葉が一緒に付着していた。 「まだ新しい……どこか、山か森にでも着陸したのかな」 ――芦屋の足跡は途絶えた。開拓者たちは手掛かりを失う。 長谷部は、思案を巡らせ、仲間達に言った。 「闇雲にやっても効率が良くないですし、ある程度捜索地域を特定しましょう。まず、さらわれてからの時間。人を連れていける範囲は時間的なもので範囲が決まるでしょう。次に場所。人を連れ込み、見張りをつける広さがある場所であまり不自然でない場所。人がいない山や廃墟でしょうか。人がいると怪しいですし。後は芦屋さんが逃走してるなら、騒ぎが起きていそうですね。獣や鳥が飛び立って行く場所が怪しいですね。芦屋さんが静かに行動しても、逃走に気付いた犯人が騒ぎそうですし。芦屋さん自身が頭が良い方なので、何かの合図を出している可能性もあります。式神関係でしょうが、怪しい動きの動物には注意しましょう。誰かが助けに来たときの誘導にしているかもしれませんし」 「そうですね。それでは、手分けして神楽の周りから探して行きますか」 「ええ。人間はそんな簡単に消えるものじゃありません。必ずどこかにいるはずです――」 開拓者たちは空と陸から捜索を開始した。 鬨は壱華に乗って上空から捜索する。心眼「集」をたまに使用して、大勢の人が固まっている場所か、芦屋が逃げ出したと考えて一人でいる者がいないかを確認する。 焔は逃げている人間がいないか、見張りをしている人間がいないか、一対複数で対峙している人間がいないか、に注意して眼下に目を凝らす。 滝月は早駆で疾走していく。 コルリスも上空から鏡弦で探査していく。 アリスもまた上空から龍で捜索に当たり、長谷部も龍に搭乗して上空から探していく。 そうして――。 開拓者たちは山林に囲まれた廃墟に停泊している一隻の飛空船を発見する。その周辺には骸骨や屍人が点在している。 開拓者たちは速攻でアヤカシ達を撃破すると、船に接近した。 「中に人がいる」 「行きましょう」 侵入する――。 開拓者たちは、船内で武装した男達の攻撃を受ける。 「おいおい、ナンパするんなら、一対一でしないとつまらないだろう。それに馨ちゃんは私のいい人だから手を出すなんて野暮だ」 「どう言うつもりで誘拐したか喋って貰おうか!」 焔は、男たちの足元に魔槍砲で威嚇発砲する。 「動くな! 次は外さんぞ」 滝月は早駆で駆け抜け、芦屋を発見する。 「芦屋さん!」 見張りを吹き飛ばし、芦屋を確保する。 「大丈夫ですか? 戦にルールなんてないのは知ってる、だけど男として許せない事もあるんです」 「ありがとうございます滝月殿」 「動かないで!」 コルリスとアリスは逃走を図る男たちに攻撃を向けた。 立ち塞がる長谷部、鬨、焔を吹き飛ばし、男達は森の中へ消えた。 「大丈夫かい、怪我はないかい馨ちゃん」 「大丈夫です。みなさんありがとう」 「あなたがお兄様の彼女さんですか。どうぞ、お兄様を宜しくお願いします」 「芦屋殿、今回の件、何か心当たりはあるのか?」 「分かりません……あの連中の話は聞けませんでしたから。ただ、あのお方、という言葉を使っていましたけれど」 「芦屋さん、ご無事で何よりでした」 「それで……みなさん、鈴香や、部下達は無事なのでしょうか?」 芦屋の問いに、開拓者たちは言葉を探した。 「残念だけど、馨ちゃんの部下達は鈴香ちゃん以外全滅だよ。残念だ」 「そう……ですか……」 芦屋は吐息して、崩れ落ちた。 「大丈夫ですか」 「すみません……でも……どうして……」 芦屋は、開拓者たちに支えられながら、涙を流した。 |