【桜蘭】嵐の前
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/05/24 22:56



■オープニング本文

 神楽の都が、にわかに浮ついているように感ぜられた。
 それもその筈、都郊外に位置する大神神宮では、数年に一度の繁栄祈願が行われ、それに伴う大祭も予定されている。都の各地区や寺社には露天が並び、大勢の客で賑わいを見せるのが常だ。
各治安組織はその対策に慌しく、それはここ浪志隊でも同じだった。
しかし――。
 空高い日の光の中、屯所の屋根に寝転んで真田悠はじっと眼を閉じた。この慌しさには、どこか殺伐とした緊張感があった。例大祭警備に向けての慌しさではない。
 それはどこか、ピンと張り詰めた戦の前の空気にも似たもので――。

 浪志組、東堂派の幹部チェン・リャン(iz0241)は、神楽の都で東堂俊一(iz0236)の帰りを待っていた。
「チェンさん、東堂さんが戻られました」
 部下が言うと、チェンは頷いた。やがて、東堂が姿を見せる。
「東堂さん。近衛の件は大丈夫でしたか」
「ええ。今のところ私たちには協力的です。微塵の疑いも無い。計画通りです」
「ではいよいよ、ですね。俺たちの悲願を成就する時」
「隊士たちを集めて下さい。最後に、裏切りが出ないよう。彼らには戻る道が無いことを示しておかねばなりません――」

 朝廷――。
 藤原家側用人の芦屋馨(iz0207)は、藤原保家のもとにいた。
「保家様、今回の帝の行幸、思いとどまって頂くことはできませんか。今、神楽の都で何かが起こりつつあります」
「何か、とは?」
「近衛兼孝と東堂俊一の間で、共謀の動きがあります。帝の行幸に合わせて、動きを活発にしている模様」
「その話なら聞いているが。警備は厳重だ。これは重要な儀式なのだ。お前も知らぬわけではあるまい。確たる根拠も無しに例大祭を取り止めにすることなど出来ようはずがあるまい」
「ですが……」
「必要ならば手を打て。それはお前の範疇だぞ――」

 開拓者ギルド――。
 芦屋は、ギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)のもとを訪れていた。
「橘殿、今のところ噂の域を出ないのですが、東堂が浪志組の隊士を集めて、策を弄しようと企んでいると、報告が入っています。この例大祭の裏で、何かが進行中なのは間違いありません。それに、近衛兼孝と東堂俊一が関わっていることは確実です」
「ギルドにも警備の依頼は入っていますが、その手の情報は浪志組の柳生有希などからも入っていますね。東堂派の動きを今一度探って欲しいという内容ですが」
「世間的には、東堂は信用されている男です。大衆の目は誤魔化せても、私たちは騙されませんよ。あの男は黒です。それに連なる連中も、何かを企んでいます」
「どんな計画があるにせよ、敵の懐に飛び込まないと。どうやら、時間も差し迫っているようですしね。この例大祭が、東堂の謀の舞台であるならば、時間はない、と見るべきですか」
「開拓者を集めて下さい。今一度、浪志隊に潜入してもらう必要があります」
 芦屋の言葉に、橘は思案顔。
「分かりました。もし例大祭を狙うなら、東堂はギルドにとっても危険人物。先手を打ちましょう」
 神楽の都で、人々の思惑が交錯する。事態は急展開を見せようとしていた。


■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
柏木 煉之丞(ib7974
25歳・男・志


■リプレイ本文

 神楽の都が、にわかに浮ついているように感ぜられた。
 それもその筈、都郊外に位置する大神神宮では、数年に一度の繁栄祈願が行われ、それに伴う大祭も予定されている。都の各地区や寺社には露天が並び、大勢の客で賑わいを見せるのが常だ。
 各治安組織はその対策に慌しく、それはここ浪志隊でも同じだった。
 しかし――。
 空高い日の光の中、屯所の屋根に寝転んで真田悠(iz0262)はじっと眼を閉じた。この慌しさには、どこか殺伐とした緊張感があった。例大祭警備に向けての慌しさではない。
 それはどこか、ピンと張り詰めた戦の前の空気にも似たもので――。

 浪志組隊士の華御院 鬨(ia0351)は、女形をしていて、常に修行のために女装し、そこいらの女性よりも女性らしい雰囲気を醸し出している。それは今日も変わらない。今回はクール系の女重戦士を演じていた。
「ほんまに、きな臭くなってきやした……」
 とボソッと聞こえない程度で小言を云った。
 華御院は浪志組隊士としてチェン・リャン(iz0241)に近づく。リャンは例大祭の警備に向けて陣頭指揮に乗り出していた。
「今日はどの様な仕事どすか……」
 と普通に尋ねて、色々とチェンから作戦の細かな内容を聞き出して確認する。
「お前も知っての通り、例大祭には帝はもちろんのこと、藤原公や豊臣公ら、朝廷の重鎮たちが参列に参られる。みな様をお守りするのが我々の務めと心得よ」
「守る……とは具体的には何からお守りするのどすか?」
「万が一に備えてのことだ。朝廷の重鎮たちが一同に会するこの機会に、アヤカシが攻撃を仕掛けて来るやもしれん。昨今、都には凶風連始め、アヤカシが徘徊しているからな。最も警戒すべきはアヤカシの存在だ。衰退したとは言え、精霊を頂く朝廷であり、今なお帝の御威光は天儀全国の民を照らしている。アヤカシにとって、これほどの攻撃の機会はそうあるものでは無い」
「それはリャンはんの言わはる通りどすが……」
「華御院、浪志組は、今や奉行所やギルドと肩を並べるまでに成長した。帝の御為に働けるこの機会に、浪志組を認めて頂く絶好の機会なのだ。働けよ」
 華御院はリャンの表情を探ったが、この男が東堂に加担して謀反を企てようとしているとはとても思えなかった。

 柚乃(ia0638)は、今回の依頼において、内心穏やかでなかった。リャンは先日の花見で一緒になって、柚乃も子供たちと交流した人物だ。
 ……大神大祭。様々な露店が出て、まさにお祭りの賑わいになるそうですね。人の出入りが多くなれば、人ならぬモノが紛れ込む恐れもあります。そして、何やら不穏な動きがあるかもしれないって聞いて、気がかりなんです。……やっぱり人を……知人を疑うのは心苦しいです。ともあれ、多くの血が流れる事になるならば。阻止あるのみです。
 自身の身を守る術を含めて、管狐の伊邪那の宝珠を装備しておく。
 伊邪那を呼び出す。
「伊邪那、今日はよろしくね。何もなければいいんだけれど……」
「そんな暗い顔してちゃばれちゃうわよ? 柚乃ったら可愛いんだから。相手は敵でしょう? 大人になりなさい。ま、密かに探りを入れるなら、あたしの方が得意だけどねー」
 気ままに振舞う伊邪那。
「あなたに言われるまでもないですよ。柚乃だって……。伊邪那、人魂と狐の早耳の準備はしておいて下さいね」
「はいはい〜」
 伊邪那は宝珠に戻された。
 柚乃は桜色の着物を着用。正面から仕事中のリャンのもとを訪問してみる。手ぶらも何なので手土産を携えて、にこやかにご挨拶。
「こんにちは、チェンさん。……東堂先生はお忙しいようです? 先日の花見は楽しかったですね」
「ああ、柚乃か。先日は世話になったな。今日はどうしたんだ」
「ギルドにも依頼が出ているんです。浪志組隊士ではないですが、何かお手伝いができればと……」
「そいつは有り難い。俺達も開拓者ギルドとは協力しないといけないと考えている。これほど大きな祭りだからな。重要な祭事でもある」
「みなさんも……いつもご苦労様です。よろしければ皆様で」
 と差し入れのお弁当を取りだした。
「やあ、こいつはどうも。可愛い巫女さんだねえ」
 柚乃は隊士たちと歓談すると、リャンにしばしの見学を願い出てみる。
「予備の弓などありますでしょうか? 柚乃は本職ではありませんが、弓には自信がありまして。宜しければご一緒に鍛錬などいかがでしょうか?」
「おう。腕前を見せてもらおうじゃねえか。ねえチェンさん」
「ああ」
 リャンは言って、柚乃に弓を差し出した。
 柚乃は矢をつがえると、的を射抜いた。隊士たちから「おー」と声が上がる。
 と、柚乃はリャンをちらりと見やり、また矢をつがえた。弦を引き絞り、口を開いた。
「今回の例大祭……朝廷要人も訪れるそうですね。浪志組も警備の任につくのでしょうか?」
 びしっと、的を射抜いた。
「お見事」
 リャンは拍手して、自身も弓をつがえると、矢を撃ち込み、的を真っ二つに射抜いた。
「浪志組は今や神楽で最高の治安部隊だと自負している。俺も、東堂さんもな。何者が立ちはだかろうと、アヤカシの攻撃があろうと、全力で帝の御身も、貴人方もお守りする」
 リャンの瞳が静かに柚乃を捕えた。深い、悲しみを帯びた瞳だと、柚乃は思った。
 瘴索結界を試してみたが、アヤカシの反応はなかった。

 柏木 煉之丞(ib7974)は、複雑な心境だった。
 ……表面を攫うよりは一角でも芯を知りたい。彼らが腹の内から求めるのは、何か。東堂派全員が、一丸に求めているのか。……ラブア殿の「弱きもののため」という願う所は叶うものか。
「――しかし『隊士同士、信頼せよ』か。それが今や……な。お陰で踏ん切りはついたが……。さてさて、祭の支度だ」
 柏木はリャンが一人でいるところを見計らって、接触を図った。
「リャン殿」
 リャンは、悠然と振り向いた。こうして相対するのは初めてだったが、柏木はリャンが放つ気配に、思わず身構えた。
「何だ」
「開拓者の柏木煉之丞だ。今回、浪志隊に志願させてもらいたく、こうして、参上した」
「そうか。そいつは大歓迎だ」
 リャンは言って、柏木を促して歩きだした。
 柏木にとって好機であって、リャンとは二人きりだった。
「ところでリャン殿。浪志組の義についてお尋ねしたい。建策者の東堂殿の門下であれば、彼の志もよく解ろう」
 そして武人然と明瞭な答えが返ってくる事を期待して――。
「何だ? 言ってみろ」
「尽忠報国――忠を尽くし報いるべき『国』とは。貴方、もしくは東堂殿の考える国を知りたい。新入りとはいえ志に相違があっては面目ない。それに……ああいや、この身、修羅ともなれば複雑な心もある。たとえば……『国』が『朝廷』を指すならば、この時からそれに沿うよう心を改めねばならない。和平成立後とはいえ、まだ上へ――内にしがらみ抱く身でお恥ずかしい」
「東堂さんは立場上明確な答えを出されたことはないが、俺があの人から教えられた、そして考える国とは、朝廷のことではない。ましてや、天儀二侯六王国のことでもない」
「……というと?」
「俺たちが考える国とは……天下万民が政に参加できる国のことだ」
「万民が政に……? よく分からないのだが」
「今は遠い道のりだろう。既存の権力体制にある王達や諸侯のもとにある士分の者たち、貴族たちからも理解を得られないこともあるだろう。だが、大義を成し遂げる道はあるはずだ。力だけではなく、信念があれば、人々には必ず通じる。天下万民による政を敷くこと。それこそが今危機にある天儀を再生し、天下太平を治める道だと信じている」
「そうか……分かった。俺は東堂派と志を違える気はない」
 それから、柏木は桜紋事件について聞いてみる。
「桜紋事件だが……『楠氏の起こした大逆事件』そう聞いているが……」
「……古い話だな」
「決起文は『朝廷の過ちを正す』だったか。過ちとは……。いや失礼、陽州に居たもので、疎くて申し訳ない。……朝廷は何を隠している?」
「知りたいのか?」
「ああ」
 しばし間があって――。
「桜紋事件とは……」
 リャンは語りだした。
 約十五年から十六年前。公には、朝廷に対する忠誠篤かった「楠木」氏が謀叛を起こして敗死した事件とされているが、しかしその実情は異なる。天儀暦九九〇年、武帝――現在の天儀の帝が誕生する。それから間もなく、武帝の弟が誕生する。この後に起こった大逆事件。この乱の首謀者は、他でもない、当時の帝「英帝」自身であった。英帝は武帝を疎み、これを廃して弟に帝位を譲りたいと考えていたが、朝廷三羽烏を中心とする朝廷高官の一部は強くこれに反対していた為、彼らと武帝を実力行使で取り除かんと画策したのである。しかしこの反逆は、三羽烏に察知され、乱の初動段階で阻止される。反逆の謀がはじまってすぐに藤原はこの動きを察知し、豊臣、大伴と語らい、行動を開始。大伴は開拓者も含め即応可能な軍を編成し、豊臣は貴族に対する説得工作を行う。ここで、新帝となる筈だった弟がにわかに発熱して急死。英帝の下へ訪れた藤原は、弟帝の死は「乱を望まぬ精霊が天子を連れて帰ったもの」として英帝の意思を完全に打ち砕いた。大伴は兵を連れて楠木氏の兵を急襲。楠木氏は敗北し、頼みの綱である英帝からも「見捨てられた」ことで、自刃して果てる。藤原は楠木氏の一族のうち主だった者をことごとく捕縛、処刑。こうして乱は完全に鎮圧されたのである。もちろん、帝自身による廃嫡の策謀が公にできる訳もなく、これは実際に軍を動かした武将の単独犯として処理された。大伴、藤原、豊臣の三羽烏は「武帝」を即位させることに成功し、英帝もやがて病を得て数年で崩御。火種は完全に取り除かれることになる。その一方で、この事件は彼らにとっても後味の悪いものを残し、大伴は開拓者ギルドの長官に納まる形で中央から離れ、豊臣は早々に隠居、藤原一人が朝廷の中枢に残る形となった。
「……これが桜紋事件の真相だ」
 リャンが言葉を置くと、柏木は衝撃を受けた。
「本当なのかそれは」
「俺が知っている範囲だがな――」

 柏木はそれから巡回に回ると、仲間たちと合流する。
「……そんなことが」
 柏木の話に、柚乃と華御院は驚きを隠せない様子。
 だが巴 渓(ia1334)は違った。
「今更そんな話を聞いても驚きはせんさ。この期に及んで、浪士組の要人たちを探って、連中も、本気で反乱を起こす気でいるのか分からん。全く……お互い手の内が半分見えてこうだからな、やれやれだ。東堂派の連中も、ギルドや対立する内部派閥への監視はして当然。そこを踏まえて俺は小細工なし、さっさと正面から聞きに行くぜ」
 巴は立ち上がると、仲間の制止を振り切ってリャンのもとへ向かった。

「おい巴! どういうつもりだ!」
「こっちもガキの使いじゃねえ、東堂の片腕、チェン・リャンを呼べ」
 巴は下っ端を締め上げて、リャンの部下達を睨みつけた。
「何事だ」
「チ、チェンさん! 巴の奴が……」
 リャンは、冷徹な瞳で巴を見やる。
「反乱計画があろうと、そんなものの全貌やら桜紋事件の真実やらなんぞ、今さら聞かんよ。ギルドや朝廷の上層部も、把握した上で近衛某や東堂派を泳がしているに過ぎん」
「ほう……」
 リャンは、殺気立つ部下達を押さえた。
 巴は余裕の態度を崩さない。はぐらかされても構わず話をする。
「言っとくが、俺も何の策も無しに正面から来ると思うか!」
 巴は言った。
「悪いが、この程度の回天で討たれるお上なぞ無用。失敗だとて、近衛や東堂に天下を獲る器がねえだけの事。俺が聞きたいのはただ一つ、例大祭に集まる多くの一般市民に犠牲者を出さんか否か。ただそれだけだ。お前らやお上の御託に興味はねえ。だが……たった一人でも罪の無い市民に犠牲を出してみろ。貴様たちにも味あわせてやる、俺たち開拓者の恐ろしさをな〜!!」
 一同沈黙する。
 やがて、リャンが言った。
「お前が何を言っているのかさっぱり分からん。この場にいる者達も同じだろう。いきなり乗り込んできて反乱計画だの一体何の話だ」
「てめえ……」
 巴はリャンを睨みつけたが、リャンは小揺るぎもしない。
 仕方なく、巴は退散した。その場は何事もなく終わる……。

 深夜……。
 巴は目を覚ました。何やら気配が接近して来る。すでに囲まれている。
「野郎、俺を始末しに来たか……」
 と、突然巴の後ろから腕が伸びて来て巴を締め上げた。
 凄い力で、巴は締め上げられ、意識を失った。

 目を覚ました時、巴は拘束され、覆面をした黒ずくめの一党に囲まれていた。
「何だてめえら。リャンの犬どもか」
 巴は吐き捨てるように言った。
「巴、貴様、我々のことをどこまで知っている?」
「お前たちのことを知っているかって? こっちが聞きたいね。お前たちこそ本気なのかね」
「状況がよく分かっていないようだな」
 一党は刀を抜くと、巴に突き付けた。
「どの道死人に口なしか。そういうことかよ」
「冥土の土産に教えてやろう。大神神宮への武帝の行幸。有力諸侯は殆ど全員呼び集められることとなっている。神楽の都もお祭り騒ぎだ。我々『桜蘭党』と近衛の私兵はそれに合わせて神楽の都で決起。まずは都の四方に火を放って一帯を混乱させ、陽動を展開し、近衛ら貴族の手引きで大神神宮に乱入……その後は……」
 そこまで言って、一党は刀を振り上げた。
 次の瞬間、巴は床に転がって刀をよけた。立ち上がろうとして転倒する。
「そこまでだ巴」
 刀が、迫って来る。
 巴は頭をフル回転させた。
「近衛は東堂を売るつもりだ」
「何?」
「考えてもみろ、朝廷の高位にある貴族が、本気で東堂に協力すると思うのか。てめえらは騙されてるんだよ。最初から踊らされてるに過ぎん」
 黒ずくめたちの動きが僅かに揺らいだ。巴は言葉を探した。
「巴さん!」
 そこへ、柚乃、華御院、柏木らが同心たちを連れて乱入してくる。
「何!?」
 黒ずくめたちが意表を突かれて後退する。
 三人は突進すると黒ずくめたちを蹴散らした。
「く……おのれ! なぜ町奉行が……!」
 黒ずくめたちは慌てて逃走した。
「てめえら、何でここが分かったんだ」
「遅れてすみません。後を付けてたんですけど、途中で見失ってしまって」
 柚乃は言って、巴の拘束を解く。
「町奉行まで、よく連中が動いたな」
「芦屋さんが手を回してくれたんです。巴さんを守るようにって」
「俺が死ぬところだったじゃねーか。あの女……切れすぎだろ」
 だが、と巴は立ち上がった。
「これではっきりした。連中は間違いなく動く。……だが、こっちの動きも完全にばれちまったな。俺としたことが、甘く見過ぎたか」
 ――嵐の前の出来事だった。