橘の里の復興
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/05/18 21:30



■オープニング本文

 武天国、橘の里――。
 ここは開拓者ギルド相談役、橘鉄州斎(iz0008)の故郷、橘の里。橘家は武天の旧家で、由緒ある家柄だった。
 頭首は鉄州斎の兄、厳楼斎。
 二月に赤龍党の攻撃を受けてから、里は復興に追われていた。近隣の魔の森から散発的なアヤカシの出現があり、復興は思うように進んでいなかった。
「やはり……開拓者の力が必要になるか……」
 厳楼斎は、報告書から目を上げると、文を書き始めた……。

 神楽の都、開拓者ギルド――。
 鉄州斎の助手、森村佳織は、厳楼斎からの文を届ける。
「橘さん♪ お兄様からお手紙ですよ♪」
「やけに嬉しそうじゃないの」
 鉄州斎は、眉をひそめて佳織を見やる。
「あれから二カ月経ちましたけど、橘の里は復興に向かっているって聞いてます」
「そうなんだ」
「お兄様もそうおっしゃってますよ」
「お前、人の手紙を勝手に読んだのか」
「違いますよ。私、厳楼斎さんにあれから何度も手紙を送っているんですよ。橘の里のことは聞いてるんです」
「心配してくれてるのか?」
 言いつつ、鉄州斎は文を開いた。
「橘さんの家って、武天の名門なんですね」
「それがどうしたの。古い家ってだけだよ」
「一度は橘さんのせいで出張でひどい目に遭いましたから、橘さんの里には一度、行ってみたいなあって思ってるんですよ。厳楼斎さんにも会ってみたいし♪」
「そういうことかよ」
 鉄州斎は苦笑して、文に目を通していく。
「厳楼斎さんって独身なんでしょう?」
「まあ……里がこんなじゃなかったら、まとまる話もあったみたいだけどな。……ふむ。行ってみるか? 橘の里へ」
「え?」
 佳織は、意標を突かれた。
「兄上はどうやら、開拓者にアヤカシ退治を頼みたいようだ。ま、今回は俺が出向くほどのことじゃない。俺の名代として、開拓者と現地入りしてくれても構わないぜ」
「本当ですか〜☆ 鉄州斎さんの名代なら、厳楼斎さんとお話できますよね☆」
「現地の状況はまとめてくれよ。仕事なんだから……て聞いてないよ」
 きゃいきゃいとはしゃぐ佳織は、早速依頼書の作成に取り掛かる。
「佳織さんご機嫌ですね。何かあったんですか?」
 そこへ顔を出したのは、藤原家側用人の芦屋馨(iz0207)。鉄州斎は、「何でもないですよ」と席を立った。
「芦屋殿こそ、大丈夫そうで何よりですよ。ところで何か?」
「良かったら、食事でもどうですか、と思いまして」
「ああ……そんな時間でしたか。いいですね。佳織は……ほっといてもよさそうですから。行きましょうか。そう言えば、新しい寿司店が開店したそうですから、行ってみましょうか」
 橘と芦屋はギルドを後にする。
 佳織は依頼書を張り出すと、「きゃふ☆」と飛び上がった。
 依頼のタイトルには「橘の里の復興援助求む」と書かれていた――。
 佳織に幸せな時間が来るかどうかは……知らない。


■参加者一覧
カンタータ(ia0489
16歳・女・陰
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
十野間 修(ib3415
22歳・男・志
アナス・ディアズイ(ib5668
16歳・女・騎
カルフ(ib9316
23歳・女・魔
中書令(ib9408
20歳・男・吟
金剛寺 亞厳(ib9464
26歳・男・シ


■リプレイ本文

「橘の里は賊の襲撃を受け、破壊されたとのこと。そういったことの起こらない、平和な世の中に早くなってほしいものですが……今回は、微力ですが復興のお手伝いができれば」
 菊池 志郎(ia5584)は、ギルド相談役の橘鉄州斎の前にいた。
「襲撃を受けた里の復興のお手伝いですか。常ならば、妻や義父母も進んで手伝いに名乗りを上げる所なんですが諸事情重なれば仕方がないですしね。他の方々と連携して、一日も早く里の方々が安息の日々を取戻せるよう力を尽くすとしましょうか」
 ここには十野間 修(ib3415)の姿もあった。
「ところで、二人して何だ」
「橘さん、現地では物資が不足しているそうですが、近隣の町村から適正な価格で購入することはできるのでしょうか。周りも同じく余裕のない状態で、価格が暴騰したり、そもそも売るものがなかったりするのでは困りますよね……。駄目で元々、最初に食糧や薬、日用品など買い揃えて、一緒に搬入できないかギルドに頼んでみることはできないでしょうか」
「俺からもお願いしたいんですが、最低限、現地調達が困難であろう物資について幾らかでも便宜を図って貰えないものでしょうか。特に家屋の修繕や防護柵の整備に必要な大工道具や釘等。龍に積載すれば比較的安易に運搬可能で、調達費用も比較的軽微でありながらそれなりに復興支援の効果が見込める物資などですが」
「いやあ……そういうことはギルドは関わって無いんでなあ……」
 またフェンリエッタ(ib0018)が言った。彼女にも思うところがあったようだ。
「二月から畑も放置かしら。自給物が増えれば復興の助けになると思うけど……その余裕があるかどうか、里で作付けしている物があれば少しでも苗や種を届けたいのですが大丈夫でしょうか?」
「主食の米や麦、大豆なんかは一応ぎりぎりの収穫は出来ると聞いているが」
「これから復興していく畑に植えるなら米ですが。私も多少なりとお力添えさせて頂きましょう」

 里に到着した開拓者たち――。
 最初にカンタータ(ia0489)がお辞儀した。
「厳楼斎さんこんにちは〜、ギルドから派遣されてきました〜、カンタータと言います〜」
「良く来てくれたな。まあ、入ってくれ。ぼろ家だがな」
 開拓者たちは、手入れの行き届いていない邸に上がった。
「お茶くらいしか出せんが」
「いえいえ〜」
 カンタータがお辞儀すると、羽妖精のメイムはくるりんと回った。
「いえいえ〜だね!」
「羽妖精ですか」
 厳楼斎と家人達は珍しそうにメイムを見やる。
「こちらの構成人数ですが、見ての通り八人です〜。そちらは、おサムライさんですか〜?」
「サムライが八人だ。何とか、鬼どもを食い止めているのだが……これが数が多くてな」
「では、魔の森との位置関係、アヤカシの種類、動向等を伺いたいですね〜」
 家人のサムライは、地図を広げた。魔の森は里の北側、間には無人の荒地。
「アヤカシどもの動向か……、頻繁に森から現れては、里の近郊まで押し寄せて来る。ただまあ、それほど大した鬼ではないな。今のところ、復興中の家屋や畑などが荒らされるくらいで、民に直接の被害はない。まあ、雑魚は雑魚だが、群れて来るのが厄介だな」
「それはゴブリンだと思われますが〜、滞在中に可能な限り討伐しいところですね〜」
「そうだな。では、よろしく頼む」
「アヤカシは退治しておきたいところですね。俺もカンタータさんの意見には賛成です」
 菊池が言うと、羽妖精の天詩がきゃいきゃいとはしゃぐ。
「うたねー! しーちゃんが頑張るなら頑張っちゃうんだよー! えへん!」
「天詩、しーちゃんて呼ばないで下さいよ……」
「駄目! しーちゃんはうたのしーちゃんだよ!」
 フェンリエッタは、くすくすと笑った。
「アヤカシのことは、私も出来る限りのことはしていきたいですね」
「まあ、アヤカシ自体はそんなに脅威でもないようですが……とは言え、まだ小さな子供さんなどが狙われるかも知れませんね」
 十野間は言って、緑茶を口許に運んだ。
「騎士のアナス・ディアズイ(ib5668)と申します。よろしくお願いします」
 アナスは言って、お辞儀した。
「アヤカシ退治の方ですが、これは集中的に行っていくべきでしょうか?」
「専従で行うのと、復興との並行作業になるかは話し合っておきませんと〜」
「私はどちらでも構わないのですが……皆様の良いように合わせますが。どういたしましょうか?」
 エルフのカルフ(ib9316)は、しなやかな指先で、顎をつまんだ。
「正直なところ、専従で行うほどの相手ではないかと思われますが。一応、敵を確認していませんので何とも言えないところではありますが。里の方々はいかがですか?」
「まあ……魔の森へ攻め込むと言うわけではないから、専従では当たらなくともいいだろがな」
 厳楼斎は言って、お茶を飲んで一息ついた。
「吟遊詩人の中書令(ib9408)と申します。よろしくお願いします」
 中書令は言って、お辞儀した。
「アヤカシ退治は、並行作業で宜しいでしょうか? それではそれで私の提案ですが、どのくらい効果があるか不明ですが、陸を駆りまして、空から怪の遠吠えを奏でて襲来するアヤカシ達に届く様にした上で、怪の遠吠えを奏でながらできるだけアヤカシ達を集め回り、集めたアヤカシ達を仲間達や兵士達の待ち構える場所等に誘導し、まとめて退治できるよう怪の遠吠えでアヤカシを仲間達が希望する場所へ集める作業を繰り返し、しばらく里にアヤカシが出てこなくなる様支援いたします」
「では、注意を引いてもらったところへ、咆哮を叩き込みましょう。歌にも何か期待は出来そうですね」
「よろしくお願いします」
 巨漢、シノビの金剛寺 亞厳(ib9464)は豪快に笑った。
「拙者、困っている人は放っておけないのでござるよ! 復興支援とアヤカシ退治にござるな。では、中書令殿の策に合わせ、拙者も事前に策を用いますかな!」
 金剛寺は言って、傍らのからくり、焔を見やる。
「この焔が役に立ちますぞ! のう焔!」
「はい、金剛寺様」
 からくりの焔は、言って笑った。
「焔には見張りをさせておき、敵襲の連絡が来たら作業の手を止めて退治をしに行こうと思う。拙者は、逃げようとするアヤカシの遊撃に努めましょうぞ!」
「焔は金剛寺様の仰せの通りに致します」
「この焔には、村娘に変装してもらい、魔の森から見える里の中の位置で炊き出しを行いアヤカシを誘き出す作戦ですぞ! 現れたら仲間を呼んでもらいましょう! 食事でアヤカシを釣るわけですな! 皮肉なのものですな!」
 金剛寺は、言って豪快に笑った。
「そういうことでしたら、ボクも皆さんと連携し、メイムに指示しつつ結界呪符『白』で敵の退路を断ち、メイムには白刃での援護と雷閃での攻撃をお願いしましょう〜」
 カンタータは言って、突いてくるメイムを摘んで離した。
「作業に従事される村の人への被害を出さない様、鬼を発見したらサムライさんには、民の皆さんへ避難誘導をお願いします〜」
「承知しました」
「天詩ちゃんっていうの? 私メイムって言うんだ! いっしょに頑張ろうね!」
「メイムちゃんかー、メイちゃんって呼んで良い? うたのことうたって呼んで良いよ!」
「うん! じゃあ、うたちゃんのことはうたちゃんって呼ぶから、メイちゃんて呼ばせてあげるー!」
「天詩、ちょっと今は静かにしてくれませんか? 大事な話の途中ですからね」
「しーちゃん、厳しいんだから! 意地悪!」
「こらこら、メイム、迷惑掛けちゃ駄目ですよ〜」
「カンタータ! 私達も大事な話の最中なのに!」
「分かりましたよ〜」
 カンタータは、相変わらず突いてくるメイムを摘んで床に置いた。
「それでは、まず、中書令さんと金剛寺さんの作戦にお任せし、他のみなさんで復興活動を並行作業に当たるとしましょうか〜」
「了解です」
「では始めましょうか――」

「行きましょう陸」
 中書令は飛び立つと、眼下の金剛寺を見やる。
 金剛寺は手を振っている。からくりの焔に、指示を出していた。
「よーし焔! アヤカシどもへの炊き出し作戦開始だ!」
「はい金剛寺様」
 焔は、村娘の格好に変装させられ、炊き出し作戦を開始する。
 金剛寺はその場を離れると、しばらく焔に任せておく。長時間焔一人にしておくことは出来ないので、時々様子を窺いに来る。
 中書令は、怪の遠吠えで、魔の森へアプローチする。
 しばらくすると、森からアヤカシの咆哮が響いてきた。
「さて……アヤカシに通じるでしょうか」
 中書令は怪の遠吠えをを奏で続ける。
 ――と、鬼のアヤカシが一体、森から出現する。鬼は、焔を見つけると咆哮を上げて仲間を呼ぶ。
 アヤカシがばらばらと出て来る。
 焔は変装を解くと、駆け出して村へ走る。
「金剛寺様、アヤカシが現れました」
「おう! ご苦労だったな焔! よーし行くぞみなの衆!」

 カンタータの雷閃が奔る。雷撃が貫通して、鬼を打ち砕く。鬼の退路に回り込み、結界呪符「白」を構築する。
「みなさん、退路は断ちます〜」
 鬼たちは、突如として現れた白い塗り壁に狼狽したように咆哮する。
「よーし行くよアヤカシ! 許さないんだからね! えーい!」
 メイムが加速して白刃で切りつける。
「逃がしはしません」
 菊池はするすると前進すると、忍者刀で鬼を叩き伏せる。
「メイちゃんやるね! うたも頑張らなきゃー! 行くぞー!」
 天詩も、妖精剣技と白刃で鬼を粉砕していく。
 フェンリエッタは加速すると、鬼を斬り倒す。
「民に仇なすアヤカシ達、瘴気に還りなさい」
 雷鳴剣で後退する鬼を逃がさず叩く。
「行きましょうアウグスタ――」
 フェンリエッタは、鷲獅鳥に騎乗すると、存分に鬼を蹴散らしていく。鬼を追い込み、仲間との挟撃の位置に付いていく。アウグスタで踏みつけ、フェンリエッタが叩き潰す。続いて繰り出す瞬風波で薙ぎ倒し、また、アウグスタの真空刃で鬼を潰していく。
「さすがですねみなさん――カンタータさんお見事です」
 結界呪符にぶつかって喚いている鬼達に、瞬風波を叩き込む十野間。
「まあ、下級とは言え、これだけの鬼ですね……出来るだけ潰したいところ」
 十野間は瞬風波を連射して、鬼を打ち砕いて行く。
 アナスは前に出ると、仲間達の指示に従い立ち位置を変えながら、ベイル「翼竜鱗」を掲げ障壁を展開する。打ちつけられる鬼の攻撃を跳ね返しながら、ハーフムーンスマッシュで鬼をまとめて粉砕する。
「行きますよ克」
 カルフは、相棒の駿龍に乗り、ホーリーアローを撃ち込んでいく。聖なる矢が鬼を撃ち貫く。光とともに、鬼達は瘴気に還っていく。
 中書令は、魔の森に向かって怪の遠吠えを奏で続け、アヤカシへの牽制とする。効果の程はわからないが、サムライ達の咆哮と連携して鬼を引き付け、森から引きずり出していく。
「金剛寺、推して参る!」
 金剛寺は、突進すると鬼を切り裂く。
「これ以上里はやらせないでござる! むう!」
 金剛寺は焔と連携して、鬼を倒していく。
 次々と撃破されて行く鬼達。やがて、壊滅的な被害を受けた鬼達は、悲鳴を上げてほうほうの体で逃げ出した。

 開拓者達は作業に戻った――。
 カンタータは水源地の確認と周辺整備に向かう。橘の里の水源は井戸と湧水で、カンタータは里の人々と話し合った。
「水路もすっかりやられちまってねえ……」
「そうですか、ひどいですね〜。補修から始めましょう」
 水路になぎ倒された家屋の残骸などを取り払う。カンタータは男たちと一緒に作業に当たった。
「お疲れ様です開拓者さん」
 村の女たちが差し入れにお茶と握り飯を持ってくる。
「すいません、お気遣いなく〜」
「でもアヤカシをやっつけて下さって……」
「いえいえ〜」
「メイムも活躍したんだよ!」
 羽妖精は胸を張って大威張り。
「まあ可愛らしい」
「えへへ♪」
「こちらがひと段落したら、居住地と農地への道路補修を行いましょうか〜」
 カンタータは立ち上がった。
 それから、補修を終えて畑に回った。
「麦や米の作付行っている様なら、畔に大豆植えたりしませんかー? 自家消費用の糧食にもなりますし、枝豆ならお酒のお供にも〜」
「そうですねえ……せっかく持ってきて下さった苗もありますし」
 それから、村長達の元へと赴いた。
「里の北側ですが、防護用の柵――侵入阻止用というよりは敵がまっすぐ撤退できなくするような――を設けてみてはいかがでしょうか〜。牛馬に悪さされるのも面倒ですねー、居住区域の内側に厩舎を移すことは可能でしょうかー? 必要ならお手伝いしますよー」
「そうですな……この際ですから、改修から始めますかな」
「では早速始めましょう〜」

 菊池は、里の診療所にいた。まともな医者もいないのだが、怪我人には閃癒で治療する。
「ありがとう開拓者様……」
「いえいえ。皆さんのお役にたてれば幸い」
 それから、たった八人の兵士のために、疲労に効く薬草茶を淹れてあげる。
「兵士の皆さんも特にお疲れでしょう」
「菊池殿、感謝する」
「あと、薬も沢山持ってきましたし、役立てて頂ければ」
 菊池は、持ち込んできた荷物をほどくと、里の一人の医者に医薬品を提供した。
「有り難いことです。風邪を引いて体調を崩す者が多くて、薬も持ち合わせも無かったのですよ」
「頑張って下さいね」
 それから、率先して、汚れ物の洗濯もこなす。
「みなさん、大変ですよね。こんなことになってしまって……でも、時間と一緒に里は必ず回復します」
 天詩には、里の子供達と遊んだり、お年寄りの話し相手になったりしてもらう。
「うた、鬼ごっこしたい! あとはね、折り紙も教えて」
 天詩は、不幸続きでと嘆く人には、「皆には内緒でおまじない」と幸運の光粉を唱える。羽粉の煌めきが、人々の心を癒した。
「これから暑くなりますから、氷室の氷補充を行っておきましょう」
 氷霊結で氷を補充していく。
「かき氷おいしい〜!♪」
 子供達は、菊池が作ったかき氷や冷やし飴に大喜び。里で久しぶりに味わう甘いものに、子供たちの笑顔が弾ける。

 フェンリエッタは、これから苗植えを行う水田に、村人たちに加わって作業を行う。
「他にも力仕事は任せて下さいね。ところで、今何が必要ですか?」
「とりあえず、苗も不足してはいるのですが……倉庫や農機具、家畜も多くが失われましたからね……」
「そうですか……」
 フェンリエッタの顔が雲る。
 それから、彼女は厳楼斎の元を訪れた。
「橘様、物資の確保は、進んでいるのですか?」
「私の領主も支援はしてくれるのですが、必要なものは不足しています。里の畑は破壊されてしまい、立て直すのが一杯ですからね」
「それが一番の課題でしょうか」
 フェンリエッタは村に戻ると、外出時の護衛、夜間の見張りに付く。
 休憩時間はリュート演奏で慰労する。子供たちが集まっていた。
「里に馴染みのある曲がありましたら教えて下さいね。一緒に歌いましょう♪」
「お姉ちゃん、故郷の歌がいい!」
「故郷の歌ですか……」
 フェンリエッタは里の人々と一緒に歌った。
「いつも、あの方の歌声が響いておりましたなあ……」
「二年前、ジルベリアの内乱終結後の事ですが、戦の中心地はアヤカシに荒らされ私達は街を取り戻す事から始めました。その街も今は以前よりも賑わっているみたいです」
 それからフェンリエッタは「良ければこれをどうぞ」と向日葵の種を手渡す。
「どんなに荒れ果てても必ず花は咲く……何度でも咲かせられる。当時も人々の励みにとこの種を託しました。負けないで下さい、里の復興と皆さんの笑顔を願っています」

 十野間は、持ちこんだ物資で、魔の森へのアヤカシ対策を進める。
「住居の修繕も進めたいところですが、みなさんが安心して作業に従事出来るようにする事こそ、迅速な復興には必要不可欠でしょう」
 魔の森側に軽く頭を傾けた形で木杭を深々と大地に打込んでいく。村側と森側に交互に桟を渡し、釘を打付け、縄で縛り補強した防御柵を設置する。設置後に、杭の先端を手斧で削り逆杭状に加工していく。
「これで、柵を力押しで突破しようとしても、柵を押す力で杭がより深く沈み強度を増し、少しでも時間が稼げるでしょう」
 金剛寺は焔とともに柵の構築を進めていく。
「よし! これでひとまずは安心でござるかな十野間殿!」
「完全とは言い切れませんが、ひとまずは」
「焔! そっちを手伝ってくれ!」
「では、続いて作業は継続していきましょう」
 サムライは、頑丈に組まれた柵に手を掛ける。
 それから、十野間は住居の補修に向かう。
「そーれ!」
 駿龍のルナが強力で縄を引っ張ると、倒れた残骸が解体されて行く。
「さあ、続けましょうか。里をみなさんの力で復興に導きましょう」
 金剛寺は、余った木材で木彫りの熊を作ると子供達にあげる。
「すごーい! おじちゃん! よく出来てるね! ありがとう!」
 子供達は木彫りの熊に大喜びで、金剛寺は幾つか作ってあげた。
 それからまた、簡易の物見櫓を建設して次の被害を予防しておく。

 アナスはリエータを起動させると、破壊された防衛施設や家屋などの瓦礫運搬などに使用する。
「これが駆鎧って奴ですか」
 アナスは復興の妨げとなりそうな瓦礫撤去、新しい柵や防衛施設の設置、家屋再建などで必要な建築材の運搬などを引き受ける。
 チェーンソーが回転する。森林などから木材を伐採していく。
「凄いもんですなあ……アナスさん! そっちもよろしくお願いします!」
 建築材料を調達するために、木を切りだしていく。
「ひとまずこれくらいでしょうか」
 アナスは、それから枝打ちし丸太状にして運んでいく。
 アーマーの稼働時間には限界があるが、休憩を挟みながら、アナスは作業を進めていく。大きすぎて運べない瓦礫や、里の人々の指示するものを指示通りに切断し、必要な場所や指定する場所へ順次運んでいく。
 アーマーを利用した復興活動は大きく進む。

 カルフは、ストーンウォールを仮の防壁や家屋等の壁材代わりに構築していく。
「さて……それでは」
 持参した空樽を横に輪切りにしてくれる様、中書令にお願いすると、輪切りにした樽を風呂桶代わりに使う事を提案する。
「お風呂を作るんですか? 頑張りましょう!」
「周囲をストーンウォールで囲った仮設風呂場に適した場所を確認させて下さい。それから、設置の許可をお願いします」
 それから、風呂場作りが始まる。
 樽と風呂道具を設置すると、カルフは周囲をストーンウォールで男女別用に壁を作り、風呂場を完成させていく。風呂桶に水を汲んで水を張った後、木の瓦礫や端材などを集めて回り、松明で火をつけ火の中に石を入れて焼き、焼け石を風呂桶の水に入れ湯を沸かす。カルフはキュアウォーターで水を浄化すると、里人たちを風呂に招待する。
「ありがとうございます開拓者さん!」
 カルフは女性客のもてなしを行い、中書令は男性客のもてなしを行った。

 中書令は、慰問を兼ねて、復興作業の行う人々の休憩時を見計らい、口笛や小鳥の囀りを奏でて、周囲から小鳥を呼び寄せる。
「どうやって小鳥たちを呼び寄せるんですか?」
「それは、ちょっとしたおまじないですよ」
 中書令は言って、小鳥たちを集め、人々の心が落ち着く空間を演出し、復興に関わる人達の心が和むよう努力する。
 また住民達の洗濯を引き受け、持参した洗濯道具や米ぬか入りの袋を使い、無患子の皮やサイカチを石鹸代わりに洗濯を引き受ける。
「中書令さん、ありがとうございます」
「またいつか、小鳥を呼ぶ歌を教えてね!」
「そうですね。またいつか。今は、みなさんの復興を願うばかりです」

 ……そうして、開拓者たちは期間中の作業を終えた。
「ありがとうございました」
 里の人々は手を振って開拓者たちに別れを告げる。
 初夏の晴れた日々だった。橘の里はまだ復興の途上にある。