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■オープニング本文 武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。 ●東部〜魔の森、東の大樹海〜緩衝地帯を越えて 大アヤカシ不厳王(iz0156)は、魔の森を活性化させると、緩衝地帯を越えて森を拡大させていく。 「……人間など、滅びゆく種族に過ぎん。ふふ……もはや……手遅れよ。滅亡へ向かって進む人間どもが、何を今更抵抗するか。滑稽極まりない……」 不厳王は、瘴気の渦の中にいて、続々とアヤカシを排出し続けていた。それらは死人の軍団である。 魔の森から続々と溢れだす死人アヤカシは、緩衝地帯を越えて鳳華の東部に展開していく。怪骨、屍人の大軍が続々と溢れだす。また、幽霊兵士の大軍が森から前進する。がしゃ髑髏に巨人兵、死骸の肉塊らが咆哮を上げれば、大気がびりびりと振動する。さらに、上級兵士である死人戦士、死人龍騎兵らが前進する。そして、指揮官クラスの中級アヤカシも多数、異形の死人の幹部たちが、鳳華の東部に襲い掛かっていく。その先頭に立つのは、上級アヤカシ禍津夜那須羅王である。 里の人々は、その光景にパニックに陥った。 「ま……魔の森が前進して来るぞ……!」 「な、何だあれは……! 森が! 森が飲み込んでやってくる!」 東部の里長たちは、誰もが二十年前の出来事を思い出していた。当時ここにいなかった者たちがほとんどだが。かつて鳳華の東方に発生していた魔の森が急速に拡大を見せた。アヤカシたちとの戦いの始まりだった。 里長たちは民を率いて後退する。この魔の森の勢いは近年にない例外である。東の里は、魔の森に沈んでいく……。 ●北部〜魔の森とその近郊 空賊の飛空戦艦が着陸する。魔の森近郊に築かれた野営地には、不厳王の崇拝者である賊たちが集結していた。 その頭目は、天山寺仁海という男だった。かつて武天で反乱を起こし、巨勢王(iz0088)に恨みを抱く男である。 「天山寺様、不厳王様は、俺たちに国を下さると言った。龍安家が滅亡した暁には、俺たちが鳳華の半分を頂くことになっているんですよね?」 部下達の獰猛な声に、天山寺は酒をぐいっと煽った。 「ああ。龍安家は滅亡する。不厳王様のお力の前に、勝てる道理も無いからな。ここには俺たちの天国を築くんだ。無法者たちが集まる天下よ。くく……俺は、そのてっぺんに立つ男になる。見てろ、今に武天に復讐してやる」 「天山寺様! 龍安軍が来ます!」 「くく……馬鹿め。幾ら集まってきたところで勝ち目はねえんだよ。龍安家。俺たちの後ろには、不厳王様がいるんだからな。そうですよね? 禍津夜那須羅王様」 天山寺が視線を向けた先、黒衣の剣士、上級アヤカシ禍津夜那須羅王がいた。 「天山寺、せいぜい役に立て。国が欲しくば、龍安の者どもを殺し、里を破壊しろ。不厳王様の命により、部下達がお前たちを支援する」 「はい。お任せ下さい。不厳王様のお力を得て、我ら崇拝者、絶対の忠誠を誓います。行くぞ者ども! 龍安をぶっ潰す!」 空賊たちは、空から攻撃に出る。そして、地上からは、中級アヤカシを先頭に、死人の兵士たちが里へ襲い掛かっていく――。 ●南部〜鳳華に蔓延する不穏の影 南部に、里長たちが集まっていた。長達は顔を突き合わせ、押し黙っていた。やがて、室内に一人の男が入って来る。精悍な風貌の、がっしりした体格の、年のころまだ若い二十代の男であった。男の名を、龍安春信と言った。家長の龍安弘秀の弟である。 「みなの衆、すでに、腹は決まったと思う。このままでは、鳳華は滅びる。兄上に任せていては、アヤカシの攻撃からこの地を守ることはできない。誰かが、兄上を引きずり下ろすべきだ」 「然り」 里長たちは頷いた。近年の鳳華の戦闘で、多くの犠牲を見て来た一部の里長たちの間には、家長の弘秀に対して不穏の念が鬱積していた。ここにいる者たちは、みな、このまま弘秀に任せていては、鳳華は滅びる、そう考えていた。 「我々は、すでに首都の中枢からも賛同者を得ている。今こそ、決起する時は決まったと思う。折しも、大アヤカシ不厳王が動き始めている。兄上も、戦力の全てを我々に向けることは出来ないだろう。これは鳳華を救うための戦いである。鳳華の民を守るために必要なことは、真に忠義厚き者たちの結束である――」 「おお――!」 里長たちは立ち上がった。 ●西〜鳳華中央〜首都周辺〜龍安家の中枢 天承の城で、龍安弘秀は頭を抱えていた。東の大樹海からの攻勢に始まり、北部の天山寺とアヤカシ、南部の春信らの決起が追い打ちをかけていた。 筆頭家老の西祥院静奈始め、サムライ総大将の山内剛、次席家老の栗原直光、他、家老達――水城明日香、坂本智紀、天本重弘、シノビの頭領赤霧、相談役の芦屋馨(iz0207)らが集まっていた。 「不厳王の軍勢に対して、ひとまず部隊は送りました。ただし、現状民を避難させるのが最優先かと思われますが。魔の森の浸食は続いています」 「不厳王の奴……やってくれるな。北部には天山寺仁海を手なずけている。何でも、不厳王の崇拝者で、鳳華を切り取って国を作ろうとしているらしい」 「ふざけた奴だな……空賊が」 「馬鹿にも出来んぞ。背後に禍津夜那須羅王がいるし、地上にはアヤカシの支援がある」 「北部の状況は?」 「空賊たちは予想外に頑強です。こちらも痛み分けと言ったところですね。今のところ、北部の都市への被害は軽微です。ただし、北の魔の森も活性化しておりますので、何とも……」 「春信はどう動くつもりだ」 「反乱軍――ひとまずそう呼称いたしますが、春信様の手勢には、予想以上に多くの兵士たちが集まったようですね。反乱軍は南部を武装化し、徹底抗戦の構えです。これはお屋形様にも厳しい道のりになるでしょう。ただ気になりますのは、どこからあれだけの物資を手に入れているのかと言うことですが……それに、同調するように南部の魔の森が沈黙しているのも気がかりです」 「さすがに俺を引きずり下ろすと言う以上、アヤカシと手を結ぶような真似はするまい。アヤカシが沈黙しているのは、漁夫の利だろうな」 「とにかく、これで鳳華は分割されてしまいました。大アヤカシ不厳王だけでも大事なのに、我々は同時に厳しい敵を相手にせねばなりません」 部下達の言葉に、弘秀は吐息する。 「みな、よろしく頼む」 「失礼します――」 静奈を除く家老達は退室する。 「大丈夫ですか、お屋形様……春信様のことは」 「先祖の大氏正は、一体どうやって鳳華の氏族たちを結束させたのかね。その英知にあやかりたいよ」 「臨むしかありません。あなたが、誰でもない龍安家の頭首なのですから」 静奈の言葉に、弘秀は吐息した。 |
■参加者一覧![]() 21歳・女・魔 ![]() 22歳・男・志 ![]() 19歳・女・志 ![]() 13歳・女・陰 ![]() 20歳・女・志 ![]() 19歳・女・弓 ![]() 25歳・男・陰 ![]() 19歳・女・魔 ![]() 24歳・男・泰 ![]() 15歳・女・砲 ![]() 17歳・女・吟 ![]() 18歳・女・騎 ![]() 27歳・女・シ ![]() 16歳・女・巫 ![]() 20歳・男・吟 |
■リプレイ本文 ● 「何や、相手さんも多方向から攻めてくる様に、頭をつかっていやすなぁ。甘く見てくれた方が楽なんどすがなぁ」 と感想を言ったのは華御院 鬨(ia0351)。女形をしていて、常に修行のために女装し、そこいらの女性よりも女性らしい雰囲気を醸し出している。今回は京美人の女装をしていた。 「空賊ですか……しかし彼らも、不厳王に利用されるだけだと分からないはずはないですよね? 崇拝者が多数いるようですが、鳳華が魔の森になってしまったら、国も何もないでしょう」 ルエラ・ファールバルト(ia9645)が言うと、長谷部 円秀 (ib4529)が吐息した。 「まさしく混迷というところですか。しかし、この劣勢であればこそひっくり返す喜びがあると言うもの。此度も励ませてもらいましょう。天山寺は……因縁のある相手ですし今までの借りを返したいというところですね」 「現状は、五分五分と言ったところでしょうか? 空賊たちもしぶといですね」 罔象(ib5429)の言葉にサムライ大将がうなった。 「まさしく、五分五分ではあるが、不厳王の崇拝者は侮れんな」 エラト(ib5623)が言った。 「私に提案があります。空戦ですが、集めた空賊達に向け夜の子守歌で乗っている龍ごと眠らせ、順次地上に落とし、精霊の狂騒歌で地上の敵ごと混乱させ無力化します」 「先だっての戦いでも有効だったな。よろしく頼む」 「けだもののような空賊相手に手加減する気にはなれませんが、南部はそうも言ってられませんなあ……」 華御院が言うと、サムライ大将は「頭が痛い」とうなった。 「では東では仲間が頑張っていますし、こちらも抑えにかかりましょう」 開拓者達は飛び立った。 空賊たちが迎撃してくる。敵味方の飛空戦艦が砲撃を開始する。 華御院、ルエラ、長谷部らが加速する。 「少し私から目をそらして下さい!」 罔象は合図を送ると、閃光練弾を放った。閃光が爆発すると、空賊たちが罵り声を上げた。 「野郎! こっちも撃て!」 空賊から閃光練弾が飛んでくると、罔象たちはフラッシュに巻き込まれた。 「く……」 「サムライの皆さん、お願いします!」 エラトが言って、奏を駆って前進する。 「おお!」 サムライ衆の咆哮が轟くと、引き寄せられた空賊にエラトが夜の子守唄を奏で、墜落させていく。そして、続いて精霊の狂想曲を奏でると、空賊たちを状態異「混乱」に陥れる。 「ですが、敵は数で勝りますか……サムライの皆さん、続いてお願いします!」 罔象は言って、地上のアヤカシに咆哮をぶつけてもらう。 死人兵士達が咆哮を上げて群がって来る 「これでも……!」 魔砲スパークボムを叩き込めば、アヤカシは粉々に吹き飛ぶ。 「行きますどす! 壱華!」 華御院、ルエラ、長谷部、エラトらは少数精鋭で敵飛空戦艦に強行突入する。 「絶地、お願いします」 「韋駄天、行きますよ!」 エラトが夜の子守唄で戦艦の敵を眠らせると、華御院らは突進した。 「天山寺、今度は逃がさんどす」 「逃がしませんよ」 華御院にルエラ、長谷部は天山寺に突進した。 天山寺は、強靭な肉体を持つ男である。周囲にも精鋭を揃えていた。 「貴様ら……今度はこっちの番だ!」 天山寺は突進して来ると、回転切りで三人を吹き飛ばした。 敵の魔術師が稲妻を放ってくる。 ルエラはベイルを構えて立ち上がった。 「私たちを相手に……これだけの打撃を」 「甘く見ていたようですね。まさか私にダメージを当てるとは」 長谷部はよろめきながら立ち上がった。 「俺を間抜けな盗賊の頭と思っているのかね? アヤカシと手を結ぶってのはな、それなりに覚悟がいるんだよ。くくく……俺達は外道だが、ただの間抜けじゃねえ」 天山寺は言って、部下を率いて後退した。 「船を爆破しろ! 龍安に渡すくらいなら捨てちまえ!」 天山寺は伝声管に怒鳴りつけると撤退した。 船が轟音ととともに激しく揺れる。 「おい! 空賊の奴ら機関部を破壊しやがった! 脱出するぞ!」 サムライ大将が駆け込んで来る。 開拓者達は離脱する。 ● 「久しぶりにこちらへ訪れましたが、随分と窮地に陥っているようですね……。私はやれる事をやりましょう。趨勢を決めるのは個人ではなく皆の力なのですから」 朝比奈 空(ia0086)は言って、傍らのからくり紫苑を見やる。 コルリス・フェネストラ(ia9657)は「一案ですが」と前置きして作戦案を提示する。 「まずは各兵士達に焙烙玉と盾、そして弓矢を支給して頂けますでしょうか」 「手配済みだ」 サムライ大将は頷いた。 「ありがとうございます。戦術につきましては、集合と離散を繰り返し、敵の思わぬ角度からの攻撃を繰り返し、敵を味方サムライ部隊の咆哮で分散させ、十体の敵には二十人、五体の敵には十人と、常に局所で数の優越を確保し、効率よく敵を倒していく『胡蝶陣』で敵を迎撃します。状況に応じ焙烙玉や弓を使う等、采配は各隊長にお任せします」 「胡蝶陣か、すでに訓練済みだな」 「その間に最終防衛線として、一部兵士は後方に塹壕網を形成します。森林、丘陵地帯を突破されても迎撃できる様、複数の防衛線を構築します。そして、禍津夜那須羅王を発見次第、焙烙玉の爆発等合図を出し合図があれば、開拓者達で禍津夜那須羅王のもとへ向かい包囲攻撃し撃破します」 「了解した。その流れ自体はいい。ただまあ、迎撃は難しいぞ」 「承知しています」 コルリスは礼を述べると、味方部隊に作戦を説明しにいく。また自分も塹壕堀りを行いにいく。 越影から降り立った宿奈 芳純(ia9695)は、コルリスの作戦案に合わせる形で、陰陽師隊を活用する戦法案を提案する。 「まずはサムライ隊が咆哮を使う際は、いつでも身を隠せる様防壁や、周辺に結界呪符『白』の防壁を作りサムライ隊等を防衛します。各隊と連携し北からの増援が来るまで防衛しましょう。それから北の戦力合流後は、仲間達や味方に禍津夜那須羅王への突入を実施します。自分を含む陰陽師隊は味方の支援のもと、総出で禍津夜那須羅王に非物理攻撃を集中し続けこれを撃破します」 「分かった。陰陽隊の指揮は任せるぞ」 「ありがとうございます」 宿奈は立ち上がると、陰陽師隊や各隊に挨拶、作戦を説明していく。また自分も塹壕掘りを手伝うことにする。 朽葉・生(ib2229)もコルリス案に沿う形で提案を出した。 「味方が身を隠し守る手段として、アイアンウォールで防壁を多数設置すると共に、突破される事を想定し、敵の攻撃から身を守る形に偽装し、防壁内に入った敵が直線状に並ぶ形になる様な防壁設置を行います。――突破された後は御味方の咆哮等で敵をアイアンウォールの壁で囲まれた場所に誘き寄せ、そこへ御味方の広範囲攻撃で敵の進撃を撃破する方式ですが、判断はお任せします」 「朝比奈殿、攻撃の際はお願い致します」 「承知しました」 サムライ大将の言葉に朝比奈は頷く。 「ありがとうございます。では」 朽葉は立ち上がると、鷲獅鳥の司を駆り、空から防衛ラインの状況を確認しつつアイアンウォールで自分が提示した並べ方での防壁をできるだけ設置していくことにする。 嶽御前(ib7951)は、「作戦に異論はありません」と口を開くと、お辞儀した。 「負傷者は私のもとへ運んで下さい。龍の暮を駆り、戦場で機動治療を行います」 それから、撤退する民を守りつつ、龍安軍は迎撃戦に臨む。 「北の仲間が来るまで、まずは持ち堪えることですね」 コルリスは山紫を駆って、陣頭指揮に乗り出す。 「撃て!」 地上からは宝珠砲が砲撃を開始する。 コルリスは胡蝶陣を展開し、アヤカシを撃破していく。屍人、怪骨の集団を粉砕し、死人兵士を各個に撃破していく。 龍安兵は胡蝶陣で連携する。 宿奈らは、結界呪符「白」で防壁を築き、時間を稼ぐ。サムライら、龍安軍の兵士達は、防壁から飛び出し、胡蝶陣で撃破していく。 「行きますよ司」 朽葉はサンダーヘヴンレイでアヤカシ軍を薙ぎ払う。超魔術が貫く。 「みなさん、私が支えます」 嶽御前は暮を駆り、閃癒で友軍を治療していく。 「嶽御前さん……こっちもお願いします!」 戦場は広い。アヤカシの数は倍。負傷した兵士達は後退し、巫女たちの治療を受ける。 「大丈夫です。すぐに回復します」 嶽御前は言って、兵士達を回復していく。 そして飛び立つ嶽御前。 「禍津夜那須羅王……どこまでも民を苦しめる。世界は広くなっても、見るものは痛々しいですね……」 嶽御前は言って、眼下の戦場に臨む。このような戦には熟練になっても慣れないものだ。 「行きますよアヤカシ軍――」 朝比奈は前線に出ると、メテオストライクを叩き込んだ。大爆発がアヤカシ軍を打ち砕く。 「よし! 行くぞ!」 龍安軍は突進する。 「踏み込み過ぎずに、注意して下さい。今は、押しては下がりを繰り返すしかありません」 朝比奈は兵士達をコントロールし、メテオを敵の密集地帯に叩き込んでまとめて吹き飛ばし、ブリザーストームで寄ってきた敵を薙ぎ払う。 紫苑は朝比奈のサポートを弓で攻撃に参加。 「……主には触れさせない。去れ」 後退する龍安軍が朽葉のアイアンウォールの通路へアヤカシを誘い込む。 「朝比奈殿!」 「……承知しました」 朝比奈のメテオが炸裂する。 コルリスは、後退する自軍を見やりつつ、北の空へ目を向けた。 「……来ましたか」 ルエラ、長谷部、罔象、エラトらが軍を率いて駆けつけた。 ルエラは飛空船艦に乗り込むと、焙烙玉で爆撃を開始した。 「残念ですが空賊の飛空船は奪うことが出来ませんでした」 エラトの白猫黒猫が兵士達の素早さを上昇させると、龍安軍は勢いを増した。 長谷部も上空の死人龍騎兵に突進し、罔象がサムライ衆と連携して、魔砲スパークボムを叩き込む。 そこで――。 「禍津夜那須羅王です!」 龍安軍に合図の爆発が伝わると、開拓者達は集結した。 「王……久方ぶりですね。その力、撃破させてもらいます」 長谷部は上空から舞い降りた。 「行きますよみなさん。来れる方だけ来て下さい」 宿奈は言って、陰陽隊を率いて突進した。黄泉より這い出る者を叩き込む。 「……立ち塞がるものは灰に還すのみ」 朝比奈と朽葉のララド=メ・デリタが禍津夜那須羅王を包み込む。 コルリスが、長谷部が、罔象が集中攻撃を浴びせる。 禍津夜那須羅王の上体が切り裂かれ、腕が飛ぶ。 「むう――!」 禍津夜那須羅王は立ち直ると、長刀を振るって衝撃波を撃ち込んで来る。 「魔の森の前進は止められんぞ……人間の力で止めることは不可能だ。不厳王様の心次第。鳳華を潰すつもりならば、そうされるだろう。三か月もあれば十分な時間だ」 禍津夜那須羅王の圧倒的な戦闘能力が龍安軍を押し返す。 「今は退くしかありません……民を守り、攻勢に備えましょう」 朝比奈は冷静だった。兵士達を後退させる。 「ここまでです。これ以上の進出は食い止めましょう。せめて魔の森が広がって来るまでは、民を逃がす時間を稼がなくては」 コルリスは言って、塹壕に残って殿を務め、軍を指揮する。 龍安軍は粛々と撤退を開始するのであった。 ● ユーディット(ib5742)は南部戦線に赴くと、里長たちと会った。まだ旗色を鮮明にしていない者たちと会う。 「不厳王攻勢下での内乱は鳳華の戦力を削ぎ、滅亡を招きよせる愚行です。それは目に見えているでしょう。あなた方にも分かっているはず」 「…………」 里長たちは押し黙った。 「いや」 一人が言った。 「今このような時だからこそ、春信様が必要なのだ。弘秀様では、不厳王の攻勢を支えきれない。天承にいる人間は現地のことを何も分かっていない」 「話は見えないようですね」 ユーディットは言って立ち上がった。 「南部は言うたら内輪もめでっしゃろ? こんな時に反乱起こして何の意味があるんでっしゃろなあ。万が一反乱が上手く行ったとしたって、アヤカシとか外の敵はぎょ〜さんおりますのに、自分らだけでやっていける自信がある、っちゅう事なんやろか。とにかくも、対処せんとあきまへんなあ」 雲母坂 芽依華(ia0879)は、呆れたように中書令(ib9408)を見やる。 「ひとまず、急ぎましょう」 中書令は、現在までに鳳華で起こっている事や諸問題、解決すべき課題を全て教えてもらい全て記載。 二人は南部へ到着した。 「龍安弘秀様の使者として参りました、中書令と申します」 「雲母坂どす。春信はんにお話があります」 二人は春信と会った。 「兄上の使者か……それで私に何の話かな」 中書令は書きとめてきた書面を取りだすと差しだした。 「これだけ数多くの難題に直面していう状態で蜂起されるからにはこれらを全て貴方がたは解決できるということですね。では各項目についてどのような解決策をお持ちで即時実行可能か一つ一つお伺いしましょうか」 と「蜂起成功後の現実」を晴信軍に突き付ける。 「住民と鳳華を守るのも私達の使命なのに今の行動はそれに叶っているのですか」 と訴える。 「兄上は手ぬるいのだ。全軍を上げてアヤカシを討たねばならんのに。その結果多くの血が流れた。私が家長に就いたなら、まずはアヤカシ対策の方針を改める」 言って、春信は中書令の文書を突き返した。 中書令と雲母坂は南部に展開している軍と合流すると、ユーディットの出迎えを受けた。 「春信様は、いずれにしても徹底抗戦の構えですね」 「反乱軍が攻め寄せてきます!」 「来ましたか……」 ユーディットはアーマーを駆り、突進する。 「砲撃開始!」 宝珠砲が炸裂する。 反乱軍は吹っ飛び、崩れた。 雲母坂は上空から矢で敵の分散を図る。 ユーディットは練力の切れたアーマーから飛び出すと、軍を引いた。 反乱軍はさすがに元龍安兵でもあり、よく統制されていた。 「課題は残りますね……」 ユーディットは後退する反乱軍を見やり、敵であろうと負傷者の手当てを行う様指示を出す。 ライ・ネック(ib5781)は装備を工夫して変装すると、反乱軍勢力下にある各里や邑などを回り密かに情報収集。 恐らく物資は偽装を施されて運ばれてくるだろうと推測したが、物資を積んだ船は正面から着陸して来る。忍眼で探る。 住民たちは「春信様は何をお考えなのか……」と困惑していたが、反乱軍に対して敵意は無かった。兵士達の士気は高い。 それからライは最初に戦闘を起こす場合の軍事物資の保管場所を探り当てると、秘術影舞で姿を消し、兵糧や武器等の軍事物資を焼き払う。騒ぎに乗じ次の里へ向かい、同様に兵糧類を焼き払っていく。 反乱軍がどこへ物資の調達を依頼するか探りを入れると、記録はあっさり見つかった。 ● 鈴木 透子(ia5664)は龍安弘秀に 「妥協して仲直りするしかないと思います」 と進言すると、自分なりに切っ掛けを探してみると告げる。 「北部ですが、噂を聞く限りだと、もし占領しても天山寺という人に領地を治めることは無理だと思います。住民の人達は逃げだすと思います。だから手伝ってきます」 受け入れ準備のお願いをし霊騎を駆って出発した。 北部の住民に危機を報せ避難するよう告げて回る。民の反応をよく観察する。人々はほとんど西へ逃げて行く。 鈴木はこの時の住民の反応を匿名にして弘秀と春信に送った。 次いで南部へ向かった鈴木。北部の住民の内、南部に逃げるほうが近い住民たちと一緒に南部に行き、春信に面会を申し出る。鈴木は春信と会う。 「春信様、多分武器を取ってまで弘秀様の退陣を要求するのは本意ではないと思います。本気で退陣を求めていることを伝えるだけでは駄目ですか?」 戦わずに済ませる条件を聞いてみる。 「その通りだ鈴木とやら。兄上が我々の声に応じて退陣すると言うなら、私は矛を収める」 「たぶんアヤカシたちが見ています」 鈴木は言って西に戻った。 ● 朝比奈は天承へ帰還すると、龍安弘秀に報告書を提出した。 「現場では慢性的な人手不足が続いています。みなさん同じことを言われますが……」 「それは分かっている。だが、実際全軍を上げて動くことは出来ない。兵は確かにいるが」 「それは承知しております……全軍を上げて動けば破綻してしまうでしょうから……難しいところですが」 「優先事項を付けて当たるとしよう」 「南部の内偵の結果が返ってきました」 雲母坂が報告書を提出する。 「今のところ里長たちは一枚岩どすが、付け入る隙はありそうどすなあ。春信はんを担ぎ上げて、うまく立ち回ろうっちゅう御方も結構いるみたいどす」 「姑息な連中だが、堅い信念を持った連中などそうはいないからな。それだけいたらぞっとするがな。ふむ……」 弘秀はうなった。 コルリスが戻ってくると、弘秀は彼女の労を労った。 「ご苦労だったなコルリス。住民達の避難と受け入れ先確保は進めている。まだ追いついていないが」 「民は混乱しています。急ぎましょう」 「今のところ、アヤカシに通じる者がいる気配はない。長篠の件はあるが……。尤も、アヤカシが化けていれば分からんのだが。瘴策結界をあちこちで使えるわけでもないしな……」 言って、弘秀は吐息した。それから宿奈を見やる。 「魔術師と吟遊詩人の件だが、家臣とするには転職でもしないと鳳華にはいなくてな。傭兵ならば対応可能だろう。この件については、早速手配することにした」 「ありがとうございます。禍津夜那須羅王の件もありますし、術者は貴重です」 「うむ……」 それから、弘秀は朽葉に言った。 「練力回復アイテムだな。確かに禍津夜那須羅王と戦うには厳しいものがあるな。この件に付いては、早速手配をしよう」 「禍津夜那須羅王と戦う時点で私達はかなり練力を消耗しており、練力を完全補充しない限り完全に倒すのは難しいと思われます。何卒練力回復アイテムの支給が受けられる様御取り計らいをお願いします」 また、弘秀は長谷部に言った。 「街道の整備は引き続き進めている。人員を増員することにした。輸送艦の建造は、すぐにとはいかんが手配しよう。それまでは既存の船を回すとしよう」 「よろしくお願いします。街道が整えば輸送効率が高まり、経済が活発化します。輸送艦が充実すれば戦力を必要な時に必要な場所に集中できます。戦い続ける鳳華に必要なのは後方支援の充実です」 それから弘秀は、罔象に言った。 「天山寺が使っていた飛空船艦だが、造船所は判明したが、その後船は正規の手続きに則り売却されている。造船所はアヤカシと繋がりはない。連中が手に入れたのは裏工作だろうが……」 「アヤカシに造船技術があるとは思えませんので」 「恐らく不厳王関連だろう……」 ユーディットの進言に、弘秀は早速答えを出していた。 「遊撃戦力だが、精鋭部隊を選抜して、作ることにした。志願者も募ってな。飛空戦艦、宝珠砲、正規兵員、すぐに増やすことはできないが、増産、募集は手配している」 「現在私たちは劣勢です」 「反乱軍は、武天、理穴、朱藩各地から物資を調達しています。取引自体は正規の手続きを踏んでいます」 ライの言葉に、弘秀はうなった。 「春信め、どこから資金を調達しているのだ……」 「うちは、龍安家お抱え芸人として、人々のメンタル面をささえる仕事がしたいんどすが」 華御院は言うと、弘秀は言った。 「ではよろしく頼む。こちらからも宣伝しておこう――」 華御院は避難民のもとへ出向くと、龍安家お抱え芸人として歌舞伎を披露する。 「避難先で歌舞伎が見られるとは思いませんでした」 人々は、華御院と握手を交わし、「ありがとう」「ありがとう」と喝さいを送った。 「うちに出来ることは少ないどすが、今はこれが精いっぱいどす」 「お兄ちゃん頑張ってね!」 子供たちと握手を交わし、華御院は次の公演予定を立てておく。 |