【桜蘭】急転
マスター名：安原太一
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| ■オープニング本文 ●覚悟 「真田さん」 「有希か、どうした」 刀の手入れをしていた真田のもとへ、険しい顔の有希が姿を表した。 「東堂はクロだ」 この間、言い争ったばかりだ。 それでもなお、こうして開口一番にそう告げる有希に、真田は深いため息をついた。その表情がことさらに真剣であったのもあったろう。疑惑が疑惑のままでは済まなくなったのだ、と彼は直感的に感じた。 「だがよ、有希。俺らは知らずのうちに、あいつらを追い込んでたんじゃねえかな」 「奴らの陰謀に俺たちが関係あるのか？」 「いや、浪志隊や、俺お前がじゃねえ。もっと大きなものがだ」 真田の言葉に、有希は黙った。 「……真田さん、覚悟を決めてくれ」 「解ってる。出撃だ。一人残らず生かして捕らえるぞ」 ●狼藉 服部の報告に、森藍可はげらげらと腹を抱えて笑い転げた。 「ふん。えらくどでかいコトを考えたものだ」 「笑い事ではないぞ？」 「わかってら」 ぐいと酒を煽る藍可の瞳が、きらりと輝く。 「だが……この私をコケにしたツケは払わせてやる、必ずな」 「随分と荒っぽいな」 怪訝そうに見返す服部に鉄扇を向け、藍可はにいっと口元を細めた。 「だが、一番気に入らんのはその近衛だ。共謀人がトカゲの尻尾きりで一抜けたたァ、えらく都合がいいじゃねえか。胸糞悪いぜ……奴も殺しちまえ。貴族だろうが何だろうが構いやしねえや、なあ？」 「……まったく、しようのない姫だ」 かくいう服部も、どこか血が騒ぐ様子で鼻を鳴らして笑った。 「手勢を集めろ、東堂もろとも皆殺しだ」 言いぬきざまその扇を振るった。 お銚子の首が綺麗にぱんと刎ねられて、部屋を舞う。 ●破綻 浪志隊の面々はむろん、それ以外の者も多勢集まった部屋の中で、東堂はため息混じりに口を開いた。 「止むをえません」 誰も、言葉を発しない。 東堂は閉じていた目を開き、同志らの顔を見渡す。 元よりその命を捨てる覚悟で立てた計画である――が、既に計画は露呈しているか、そうでなくとも、内偵が堂々と露骨な探りを入れてくるを見るに、計画の全容を把握しておらずとも強引な手段に訴えてくるであろうことは――それこそ、後から証拠を揃えるぐらいのことはやってのけるであろうことは安易に想像がついた。 その事を察知したらしき近衛は彼の面会を断り、計画を中止すべきであると勧告してきた。おそらくは、もう手を引く構えであろう。 ことここに至っては、もはや、これまでである。 成否は天運である。可能性の薄いことも呑もう。しかし、全く可能性が無いでは、あたら多くの若者を死地に引きずり込んで無為に死なせるだけだ。 「神楽の都を去りなさい」 だが、と東堂は考える。彼らが大きな過ちを犯したことも確かだ。彼らは、もっと慎重にこちらを探っていれば、密かに先手を打って我々を一網打尽にできた筈である。おかげで、我々に都を脱する隙を与えたのだ。 「時を待ちましょう」 彼は呟いた。そして、それ以上語らなかった。その様子は、不思議なほど穏やかに見えた。 ●チェン・リャン 「チェンさん……」 東堂派の隊士たちの一部は、チェン・リャン（iz0241）のもとへ集まっていた。 「東堂さんからの言葉は聞いてるな」 リャンは静かに言った。計画が破たんすることもあるだろと、リャンは考えていた。元々危険な計画である。だが、それでも、泰国を追われるように逃げ出した彼にとって、天儀で辿りついた先で東堂が語る言葉に出会ったこと、彼に協力することを誓ったことを後悔はしていない。天儀に来た頃、まだ自分が泥にまみれていたころだ。 「神楽の都を脱出する。急げ。敵は時間をくれた。ここに至って、振り返ることは無い。また、会う日まで、みな、無事でな。生きろよ――」 ●開拓者ギルド ギルド相談役の橘鉄州斎（iz0008）は、真田悠からの依頼と、そして浪志隊を監視していた藤原家の芦屋馨（iz0207）からの連絡を受けていた。 東堂一派が都から離脱しようとしている。その捕縛に協力を要請されていた。 橘は立ち上がると、開拓者たちを集めるのだった。 |
■参加者一覧
華御院 鬨（ia0351）22歳・男・志 
梓（ia0412）29歳・男・巫 
コルリス・フェネストラ（ia9657）19歳・女・弓 
メグレズ・ファウンテン（ia9696）25歳・女・サ 
アナス・ディアズイ（ib5668）16歳・女・騎 
ライ・ネック（ib5781）27歳・女・シ 
嶽御前（ib7951）16歳・女・巫 
カルフ（ib9316）23歳・女・魔 |
| ■リプレイ本文 美しき歌舞伎役者、華御院 鬨（ia0351）は女形をしていて、常に修行のために女装し、そこいらの女性よりも女性らしい雰囲気を醸し出している。今回は京美人の女装をしている。 「チェン・リャン（iz0241）とその一党を捕えることどすな……彼らは心意気は間違えてないと思いやすが、やり方を間違えたというべきやろうか」 とチェンの感想を言った。 コルリス・フェネストラ（ia9657）は、「一案ですが」と切り出した。 「ここは、屯所を包囲し待ち伏せと包囲、突入を使い分け、数段構えで迎撃態勢を作りチェン一党を可能な限り捕縛する案を提示致します」 そうして、コルリスは言った。 「まずは浪士組隊士達は屯所入口や周囲を封鎖し、包囲待ち伏せ態勢を整え包囲網を形成します。次に、開拓者は屯所に突入し屯所内で敵を捕縛する突入班と、屯所の外で待ち伏せし屯所から出た敵を捕縛する阻止班に分かれ屯所内外で敵を捕縛します。恐らく屯所内でチェン達全員の捕縛は厳しいので状況が厳しければ突入班はチェンを屯所から出さない事に限定し、捕縛漏れした敵が屯所外へ脱出するのを無理に追わなくてもいいでしょう。その際逃げた敵の特徴や方角を逐次阻止班に連絡します。それから、連絡を受けた阻止班は浪士組隊士達と連携し屯所から脱出した敵の逃走先に回り込み可能な限り捕縛します。最後に、残りはチェンだけとなったら開拓者は総がかりでチェンと戦い捕縛します」 「それでしたら、うちは突入班として行動しましょう」 華御院は言った。 「とにかく、チェンに逃げられない様に行動します。忍び込みながらの突入は難しいので、外にいる味方と挟み撃ちできる様に突入できればいいかと思いやす。速度重視どすかな」 「んなら、俺様もチェンの捕縛に全力を尽くすぜ。……とはいえ、単純にチェンとお仲間と対峙しても勝てるワケも無いので、自分は後方支援だな。ま、しょうがねぇわな。てめぇらに手柄は譲ってやるから、チェンを捕まえて来いよ！」 梓（ia0412）は豪快に言って笑った。 メグレズ・ファウンテン（ia9696）は頷き、思案顔で言った。 「では私は突入班に回り、仲間達や味方浪士組隊士達の包囲、待ち伏せ態勢が整うまで身を潜め、準備完了後屯所へ突入しましょうか……。敵の攻撃を食い止め続け、その間に他の仲間達やチェンや屯所内の敵と戦いやすくなる様、壁役の役割を果たしましょう」 「では私は――」 と、アナス・ディアズイ（ib5668）が言った。 「味方の浪士組隊士のみなさんに屯所出入り口と周囲の封鎖をお願いする事に賛成します。自分達もる阻止班と突入班に分かれ、突入班は可能な限り敵を無力化して捕縛し、屯所を脱出した敵は味方浪士組達と連携して、先回りし捕縛し漏れがないようにする流れを提案いたします。私は突入班に回りますね。どうにか、全員捕縛出来れば良いんですけど……」 「では、私は基本は外で待ち伏せしておきましょうか。超越聴覚で皆さんを支援します」 ライ・ネック（ib5781）は言うと、 「ちょっと付近の住民のみなさんに断りを入れてきます。荒事になりそうですからね」 嶽御前（ib7951）は、 「全員が手練れと想定し、全力で倒すつもりでかからないと返り討ちに遭う可能性が高そうですね」 と思案顔を浮かべる。 「それでは予め加護結界を付与して回りましょうか」 言って、嶽御前は加護結界を仲間と自分に付与して回る。 それから、カルフ（ib9316）も言った。 「私の方でも、屯所の出入り口や周囲を封鎖し待ち伏せする方式及び、突入班と阻止班に分かれ、行動する案に賛成しますね。浪志隊の皆さんはいかがですか？」 「そうだな。俺達も異存ない」 「私は阻止班に回りますね。ストーンウォールで封鎖できる場所に石壁を作ろうかと思います。それで封鎖と包囲を支援出来ればと思います」 「それでは……そのことも住民のみなさんに申し伝えた方がよさそうですね」 ライは言って、住民たちのもとを訪れる。 箱を用意すると、周囲に住む住民達には、 「少し騒がしくなりますが家の中で過ごしていてください」 と陰殻西瓜を進呈し、鼠などの小動物を集める事をお願いする。 ネズミ捕りで集めてもらったネズミを箱に入れ、仲間達の屯所突入前に、箱を開けて屯所周囲にネズミをばら撒き、屯所内の敵が心眼や超越聴覚で周囲を警戒するとき、多数のネズミで探索が難しくなる様小細工しておく……。さすがはシノビの発想である。 また忍眼で屯所周囲に罠や隠し通路などの仕掛けがないか調べた後で、仲間達のもとへ戻り報告しておく。 「敵が外へ逃げたら逃げた方角を中で仰って下さい。超越聴覚で聞き取り先回りします」 「参りましょう。敵も百戦錬磨ですが……生け捕りとは、難事ですね」 コルリスも吐息したが、視線を上げた。 開拓者達は行動を開始した。 華御院は扉を蹴破って突進した――。 「チェン・リャン！ その一党のみなさん、神妙にして頂きやす！」 華御院は一撃で目の前の隊士を叩き伏せた。 「チェン、逃がしませんどす――！」 紅焔桜と虚心で回避しながら、他の敵は無視していっきにチェンに近づこうとする。華御院は圧倒的な回避力で東堂一派の攻撃をかわし、リャンに接近した。 「華御院鬨――」 「あんさんは一体、何のために戦ったんどす。天儀のすべての人のためやないんどすか。今は、自分のために戦っている様にしかみえへんどすよ」 と一応、相手の気持ちを確認しておく。殺すつもりはない。生きて罪を償いないがら、考える時間を与えてあげたかった。今は真剣勝負だが。 「俺を過大評価するな。美辞麗句で己の行動を正当化するつもりはないが、虐げられた者の苦痛を、天儀朝廷に教えてやりたかった。俺は泰国で何もかも失った。だが、生きる意味を東堂さんが教えてくれた。いや……道と言うべきか」 「チェンさん！ 逃げて下さい！」 他隊士が叫ぶのに、チェンは逃げなかった。 「俺が開拓者を引き付ける！ お前たちが逃げろ！」 チェン一党は戦いつつも、逡巡していた。 「本気でいきやすよ」 華御院はと紅焔桜と虚心で舞う様にチェンの攻撃を回避し、間髪いれずカウンター気味に白梅香を打ち込んだ。 チェンは手甲で受け止めた。 「さすがだな華御院。身震いするほどの強さだ。俺の目に狂いは無かったか」 「死なせはせんどす――」 「ならば！」 チェンは裂帛の気合とともに一撃を繰り出し、華御院を吹き飛ばした。 「東堂一派が逃げてきます！」 だが外には包囲網が敷かれている。 コルリスは屯所の出入り口や逃走した敵が見え、相手との距離が１２０メートル以内の場所で身を隠し待ち伏せしていた。 メグレズは屯所の中で東堂一派の攻撃を受け止め、鉄壁さながらに立ちはだかる。 チェンの攻撃はどれも効果は大きいが屯所内では音もその分目立つ。外へ向け、 「一番大きな音を出しているのがチェンです！」 と叫び阻止班へ伝達する。 「チェン・リャンですか……どんな人物なのか興味はありますが……」 コルリスは、 「翔！」 と、月涙＋響鳴弓の合成技で屯所外からチェンを射抜く。 「ここは通しません！」 メグレズは、敵全員を無力化できるまで盾役となる。全力を以ってチェン一党の屯所からの脱出を阻止し、何度蹴られ、殴り倒されても気力を振り絞って起き上がり、ベイル「翼竜鱗」の障壁、スパイクシールドでの防御及び、鬼切を込めたスパイクシールドの一撃をチェンに叩き込み続け、全力でチェンを食い止め行動を妨害する。 「女……やる……！ が――！ そうはいかん！」 チェンはメグレズに強烈な一撃を叩き込んだ。キイイイイイイン！ と、チェンの拳が盾にめり込む。メグレズは後ずさりした。 「あなたを逃がすわけにはいきません……！」 メグレズは万力でチェンを押し返した。 アナスは、オーラドライブで身体能力を上げると、オーラシールドやベイル「翼竜鱗」を掲げ障壁を展開して、敵の攻撃を食い止め、爆竹を敵吟遊詩人に投げつけた。 「そっちの歌は邪魔させてもらいます」 歌を聞こえにくくさせたり、敵シノビの超越聴覚を妨害する。 「大人しく捕縛されて下さい……とはいきませんか」 アナスは、戦闘で程よく弱った敵に手加減を使い本当に動けなくなる様無力化していく。周囲にあるものを使って順次捕縛していく。 「畜生！」 「出口から東堂一派が逃げます！ 敵砲術士！」 アナスは、大声で逃げた敵の特徴や方角を叫び、外にいる仲間に伝える。 「逃がしませんよ……翔！」 コルリスが足止めする。 アナスはそれを確認し、華御院やメグレズ、嶽御前らと連携して、捕縛に動く。オーラドライブで能力を上げ、オーラシールドとベイル「翼竜鱗」を掲げて作った障壁を駆使して敵の攻撃を防御し、引き続き手加減で無力化していく。 「死なれては困りますので」 捕縛した敵には周囲にある布で猿轡を作って口にかませ、自決しないようにする。 ライは超越聴覚で中の様子を探り、仲間達の声に注意を払い、メグレズやアナスの声を超越聴覚で聞き取り、外にいるコルリスやカルフ、梓や隊士達に報告する。 「次、また敵が逃げるようですね。外の守りをお願いします」 ライは屯所内に入ると、秘術影舞で姿を消し、荒縄を巻き付けて行動を妨害し、捕縛を支援する。 「おのれ！」 サムライは荒縄を引きちぎってライを吹き飛ばした。 ライは反転して加速する。 「コルリスさん！」 コルリスはサムライを正確に射抜いた。倒れたところをライが捕縛する。 「恐らくチェンを逃がす為、あえて陽動で動いている可能性もあるので、引き続き隊士のみなさんには屯所出入り口と周囲の封鎖と、何かあれば内容をその場で話すようお願いします」 「リャン一党は決死の覚悟だろが……逃がしはせん」 「お願いします」 ライは超越聴覚で引き続き警戒する。 嶽御前は霊刀「カミナギ」とベイル「エレメントチャージ」を構え、自衛しながら仲間達の間を駆けまわり、この激戦の中を閃癒でまとめて仲間を回復する。解術の法も備えていた。 「みなさん、あと一息です」 時間と練力に余裕がある範囲で加護結界をかけ直し、仲間達の戦闘と捕縛を支援する。 嶽御前は、チェン一党と戦いの中対話できたら一言。 「一ついいお知らせを。今回の騒動の結末がどうなるにせよ、貴方がたの倒したかった相手の一つは間違いなく倒されます。貴方がたの託したものも、貴方がたの確定した破滅を乗り越え、未来へと歩き始めているでしょう。あとは私達が戦うだけです。これが最善と偽って」 「それはどういう意味だ」 チェンは言った。 「言ったはずです。あとは私達が戦うだけですから。これが最善と偽って」 嶽御前は後退して、仲間達を閃癒や解術の法で支援しながら、敵の攻撃を捌いていく。 敵の巫女や魔術師、吟遊詩人と近接戦に持ち込み、相手が頑丈である事を祈って、ベイル「エレメントチャージ」で攻撃を防ぎつつ、霊刀「カミナギ」を振るって倒していく。 チェンとの激闘に、嶽御前は閃癒での回復に努めた。 メグレズは捕縛が進んで来ても引き続き盾役となり捕縛支援に尽力。 「私は一切の矛盾なく、貴方の力を打ち砕く」 梓は、外で逃げ漏れてきたチェン一党らを相手に、神楽舞・攻で支援する。 「てめぇら、逃がすかよ！ おい！ そっち頼むぜ！」 「任せとけ」 カルフは、ストーンウォールで封鎖できる場所に石壁を作り上げていく。敵が逃げられるルートの数を減らしていきながら、仲間達や味方浪士組と連携して動き、脱出して来る敵に隊士たちとともにコルリスの指示に従って先回りできる様動き、アムルリープやアイヴィーバインドを使って眠らせたり動きを封じて捕縛を支援する。 「カルフさん、助かったぜ！」 浪志隊士は、陰陽師と騎士を捕縛して、カルフに頷いた。 敵は封鎖に足止めされ、逃走に時間を食った。 「残念ですが、あなたがたを逃がすわけには参りません。ですが、何とか温情のある措置が下るようにギルドに言ってみます」 カルフは厳しい顔で言ったが、まだ若い騎士は観念したように暴れるのをやめた。 「チェンさん……東堂さん……畜生……」 屯所の中では、激戦が終わろうとしていた。 チェンは華御院、アナス、メグレズ、嶽御前らに包囲され、腕を下ろした。 「どうやら、俺たちの時間はここまでのようだな。反乱に大義なしか。東堂さんが掲げた義も、今や色褪せてしまった――」 チェンは捕縛された。 屯所から出てきたチェン一党を、梓が出迎えた。梓は無益な殺傷は好まないのでチェン一党は生け捕りにしたいと考えていた。特にチェンは美味そうな身体をした真面目なヤツと聞き及んでいるので、尚更であった。梓は言った。 「誰でも政に参加できる世の中にするために、血を流してどうすんだ？ お前ほどの漢なら、朝廷の下でだってついてくヤツだっているだろうが！ 今からでも遅くねぇ、考え直せ！！」 「今の俺を見ろ」 チェンは笑った。 「こんな惨めな男に付いてくる奴などいないさ。それに、もうはた迷惑だ。浪志隊もどうでもいい」 「てめぇ……」 梓は吐息すると、チェンが自害したりしないよう注意する。毒を持ってないかのボディチェックをして、手足を使えないように縛り上げていく。 「毒でも飲まれたりしたら、寝覚めが悪ィからな。仕方なく、ってヤツよ」 嬉々として服の中をまさぐったり、手持ちの荒縄で得意の縛りを。 趣味全開の梓であるが、真面目な話、チェンは「仲間さえ逃がせれば自分はどうなってもイイ」とか考えそうなので、本当に自害には気をつけたいところだった。一応、解毒も準備しておく――。 ――開拓者達は、浪志組の本部へ向かった。 浪志組真田派の頭、真田悠（iz0262）が出て来た。 「おう、お前ら、チェン・リャン……か」 「真田さん、リャン一党は全員捕縛してきました」 「お疲れさん。手柄だぜ」 そこへ姿を見せたのは、藤原家側用人の芦屋馨（iz0207）であった。 「チェン・リャンですね」 リャンは無言だった。 真田は眉をひそめた。 「何だあんた。芦屋馨だったな。何の用だ」 「リャン一党を引き渡してもらいましょうか。東堂一派を御公儀の詮議に掛けることになります」 「浪志組のことは隊で方をつける。御公儀には全てお任せて頂きたいと伝えてくれ」 「しかし真田殿……」 「ここであんたと押し問答をするつもりはない」 真田はきっぱりと言った。 「仕方ありませんね……」 芦屋はひとまず引いた。だが、真田が何と言おうと東堂一派は逃れることはできないだろう。 真田は、芦屋を見送ると、チェン一党を促すのだった。 「今更何でと聞くつもりはないが、お前らは同じ飯を食った浪志隊士だ。手出しはさせねえ」 「…………」 真田のまっすぐな視線に、チェンは動じる様子もなく、歩きだした。 |
