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■オープニング本文 武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。 ●東部〜魔の森、東の大樹海〜緩衝地帯を越えて 大アヤカシ不厳王(iz0156)は、魔の森を活性化させると、緩衝地帯を越えて森を拡大させていく。 「……そうか。禍津夜那須羅王が死んだか」 不厳王は、その影が告げた言葉に、感情の無い声で応じた。 影は笑みをこぼした。 「不厳王様、禍津夜那須羅王は明らかな失敗作ですな。確たる策もなく単独先行し、人間相手に表舞台へ出て行くなど……愚かしいとしか申しようがありません」 「そう言うところは、わしは嫌いではなかったのだがな」 「私たちは、下位の者たちが集めてきたパワーを集積し、より強力な存在になれます。確かに、人里を襲うのは効率が良く力を得られるかも知れませんが、禍津夜那須羅王は力に溺れ敗れたのです」 「それは違うな。禍津夜那須羅王はお前たちよりも強大な力を付けた。あ奴が死んだのは、単に人間たちがその力で上回ったからに過ぎん」 「そ、そうでしょうか……」 影がうろたえたような声を出すと、不厳王は冷ややかに言った。 「人間は脆いが、我々にはない強さも持っている。我々が闇から生まれたのだとしたら、人間は光。光は時に、強く輝きを増すものだ」 「恐れながら……私にはよく分かりませんが。人間など、我々にとっては餌に過ぎません」 「それで良い。お前たちが知る必要のないことは、往々にしてあるものだ……」 不厳王はそう言うと、瘴気の中に沈んだ……。 「不厳王が出てきたようだが……」 龍安軍の兵士達は、民を後退させつつ、アヤカシの迎撃に奔走していた。 「まず奴を見たら逃げること。まともに相手出来るアヤカシじゃない」 「御大の御登場で、アヤカシどもが活気づいてもらっちゃ困るんだがね」 「だが、魔の森の前進はいつ止まるんだ? 本当に鳳華を飲み込む気か?」 兵士達は、一抹の恐怖とともに最前線にいた。 ●北部〜魔の森〜厳存秘教国 「畜生……龍安軍が……!」 賊集団、厳存秘教の頭目、天山寺仁海は地団太を踏んだ。龍安軍のしぶとさと言ったら想像以上である。またしても自陣を破壊され、天山寺は瓦礫の山に立ち尽くしていた。 「俺の国が……くそう……前途多難だな。まあ仕方ない。龍安軍も間抜けじゃないのは分かっている。とは言え……奴ら強すぎだ!」 天山寺が怒声を発すると、部下たちは吐息した。 「お頭〜、不厳王様に言って、禍津夜那須羅王クラスのアヤカシでも寄こしてもらえませんかね?」 「馬鹿野郎! 上級アヤカシなんかが来たら俺の国が乗っ取られちまうだろうが! 不厳王様って言ってもな、適当に付き合っていかないと、俺たちは廃棄処分されるんだよ!」 「国作りって大変ですね〜。無法者の天国を作るってやっぱ夢なんですかね〜」 「俺だってアヤカシに食われたくないからな。諦めたりはせん。這いつくばっても俺たちはここで生きて行かなきゃならないんだよ! おい! 休み時間は終わりだ! 行くぞ!」 厳存秘教国は、何にせよ天山寺、この男の執念で成り立っていた。 ●南部〜反乱軍〜追い詰められた春信 南部が混沌としていた。進退窮まった一部の里長たちが春信のもとを急襲し、その首を弘秀に差し出そうと動き出したのである。計算高い者たちは、そろそろ形勢が見えてきたこの時期に、反乱からの離脱と、弘秀への手土産が必要になると考えたのだった。この反乱を穏やかに着地させようとことを内々に進めていた里長たちは、彼らを制止したが、聞き入れられなかった。対する春信は己に付き従う者たちを集め、城に立てこもった。遂に反乱軍は内部分裂を起こし、崩壊しつつあったが。 「春信様、大丈夫です。天はあなたを見放してはいません。弘秀様は、忠義を貫かぬ恥知らずたちをこそ許さないでしょう。あなたを見放した者達には弘秀様が厳罰を与えられるでしょう。まだ戦いは終わっていません」 武官の女、沙羅が言うと、春信は頷いた。 「そうだな。最後まで己が上げた旗を掲げ、正義を示さねばならん。私に付いてきてくれた者たちにも、忠義に応えねば」 春信が言うと、沙羅は強く頷き、家臣たちに言った。 「みなの者! ここで我らの志を示しましょう! 真に鳳華を思う忠心を貫き、裏切り者達に死を!」 沙羅が呼び掛けると、家臣たちは「おお!」と士気も高く応えるのだった。 ●西〜鳳華中央〜首都周辺〜龍安家の中枢 天承の城で、龍安弘秀始め、家老衆たちが集まっていた。筆頭家老の西祥院静奈、次席家老の栗原直光、家老の水城明日香、坂本智紀、天本重弘、相談役の芦屋馨(iz0207)、シノビの頭領赤霧など。 「魔の森の前進ですが、今のところ止まる気配はありません。東では不厳王の目撃情報もありますし、予断を許しません」 「民を順次西へ避難させよ。受け入れ態勢は進んでいるのか」 「どうにか準備は整っています」 「不厳王が出てきた以上、厳しいものがあるが、アヤカシを止めねばならん。――北部の状況は?」 「天山寺どもの拠点を空爆して一定の効果は出ていますが、魔の森からのアヤカシも連動していますので、何とも……」 「天山寺が厄介なのは、厳存秘教国に集まっているのが人間と言うことだ。人間であれば知恵も回る。不厳王の指示でも鳳華の他地域に手を出されては厄介だ。捕えた天山寺の間者はどうしているか」 「食事さえ与えておけば大人しくしています」 「よくもまあ乗り込んできたものだが。少し良い待遇で飼い慣らしておけ。――それから南部だが」 「反乱軍は分裂しています。現在、春信様は主城に立てこもり、離反者と相対している模様です。ですが兵糧も長くは持たないでしょうし。危険な状態です。また、南部の魔の森からアヤカシが出回っているようですね」 「春信を殺す気はない。その旨は伝えろ。内部抗争をしている場合ではないのだから、春信のもとを去ればそれ以上罪には問わん、ともな」 「一つ気になる人物がいます。沙羅と言う武官の女ですが、春信様の側にあって、ここ最近で急速に影響力を増しています」 「何者だ」 「鳳華の武家の出ではないようですが……正体が掴めません」 「とにかく、春信勢が投降してくれればいいのだが。流血にはしたくない。春信には出家してもらうつもりだ」 「お屋形様の心が春信様に通じることを祈るしかありません」 「自分の限界が分かっただろう。馬鹿な奴だ……このような乱を起こすとは」 弘秀は言って、吐息した。それからみなに言った。 「引き続き、対応を頼む。禍津夜那須羅王の件だが、論功行賞は追って行うとみなに伝えてくれ」 「承知しました。では失礼します――」 弘秀は、退室する部下達を見送って報告書に目を通し始めた。 |
■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
フィン・ファルスト(ib0979)
19歳・女・騎
将門(ib1770)
25歳・男・サ
罔象(ib5429)
15歳・女・砲
エラト(ib5623)
17歳・女・吟
サラファ・トゥール(ib6650)
17歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ● 華御院 鬨(ia0351)は女形をしていて、常に修行のために女装し、そこいらの女性よりも女性らしい雰囲気を醸し出している。今回はクール系の女重戦士を演じていた。 北部へ到着すると、早速兵士たちと言葉を交わした。 「そろそろ、相手も消耗しているところどす……この辺りで大きな勝利を上げ、賊たちを到滅しやしょう」 と士気を上げる発言をする。 「おおー!」 兵士たちは応えた。龍安軍の士気は高い。 「今回はアヤカシでなく、空賊を狙って戦闘をしやす……。空賊を攻撃して数を減らすことにより、空賊達の恐怖を仰ぎ、空賊達の士気を低下させ、統制力を低下させる事を目的とする……ということでどうでしょうか」 「士気が崩壊すれば厳存秘教と言えど瓦解するやも知れません」 「そこでと言うわけではないどすが……龍騎兵四十騎で、空賊を狙ってに一気に襲いかかると言うのはどうでしょうか……。一撃戦った後に一気に離れて、空賊をアヤカシが近くにいない所まで誘導して戦闘をしやす……。また、龍騎兵十騎で龍安軍と飛空戦艦を守り、宝珠砲でアヤカシ達を空賊と龍安軍の龍騎兵の戦闘から引き離す様に戦闘をして頂きとうお願いしやす……」 「引き離して各個撃破しますか」 駿龍の瓢を駆って到着した罔象(ib5429)も、ぺこりとお辞儀した。 「私からは、空戦戦術として味方龍騎兵へ焙烙玉の配布と、龍騎兵が二人一組でペアを組み、片方が咆哮で敵をひきつけ、もう片方がその敵を横撃、真上からの攻撃などで仕留める『繰引』戦術を提案いたします」 「今回も着実に行きましょう」 「ありがとうございます。また味方龍騎兵隊へお願いですが、『繰引』戦法の応用として自分の周囲に敵が集まる様咆哮の角度等を調節し、集まったところで龍騎兵は退避し、私の魔砲『スパークボム』でまとめて倒す『空雷』戦法、及び制空権確保後は地上へ焙烙玉を投下する爆撃で敵地上戦力を壊滅させ、混乱させた後、地上部隊が敵軍へ進撃し蹂躙し殲滅する方式を提案いたしますね」 「では引き続き爆撃を行っていきましょう」 サラファ・トゥール(ib6650)も駿龍のマリードを駆り、北部に到着する。 「私は引き続き天山寺軍に潜伏し、内偵や制空権確保後の地上味方部隊の誘導を行いますね」 そうしてサラファは先行すると、天山寺軍拠点にジプシーを装い潜入する。 「お前何だってここに居座ってんだ? 行く当てが無いのか?」 「私だって稼ぎ場がなくなるのは困るからね。あんたらが頑張ってくれないと、あたしの仕事場も無くなっちゃう」 「へへ……そうかい」 賊たちはサラファが振る舞う天儀酒や葡萄酒を煽りながら、笑みを浮かべていた。サラファはヴィヌ・イシュタルで賊達を懐柔する。 「あたしは根無し草だし戦いは素人だから聞き流してくれていいけど。アヤカシを真っ先に戦いに投入して磨り潰して、その間に人間の味方で自分達の周囲の守りを固めた方がいいんじゃない? 今はいいけど負けが重なって、魔の森の奥の親玉が用済みと判断していつアヤカシの向きを逆にするかわからないし。そのあたりは私より貴方達が一番わかってると思うけどね」 と尤もらしい助言をして信頼度向上に邁進するサラファ。 「お前……どうだ? 何なら天山寺様に取り次いでやろうか?」 「今日は良いわ」 言ってサラファは立ち上がる。 それからアヤカシや賊達の警戒網や防衛部隊の位置や数等、必要な情報を把握すると、ナハトミラージュで姿を消し密かに味方部隊へ戻る。 大将たちは、サラファが書き出した敵陣の地図に目を落とす。 「では地上部隊はサラファ殿の案内で進軍――」 「空の一番槍はうちが頂きます……」 華御院は言って空へ飛び立った。先陣に立った華御院は、苛烈な勢いで空賊たちに襲い掛かった。 初めに心眼「集」で敵軍の数や隠れている者がいないかの確認をすると、龍騎兵四十騎とともに華御院は殺到。空賊たちを勢い斬り倒した。華御院がさっと手を翻すと、龍安軍は引いた。 空賊たちは怒りに任せて加速して来る。だが、前進した空賊たちは繰引戦術で撃破されて行く。 罔象は、瓢を駆る。瓢を加速させると、サムライ衆の咆哮で集まったところで、罔象は警告を送る。 「私から離れて下さい!」 罔象は魔槍砲を構えると、魔砲「スパークボム」を放った。閃光が轟音とともに炸裂する。空賊たちは吹き飛ぶ。 華御院は罔象の砲撃で墜落していく飛空戦艦から脱出する天山寺を発見した。 「天山寺……逃がさんどす……」 紅焔桜&瞬風波で追撃を掛けた。 「どああああ……!」 天山寺はひっくり返って墜落していくが、部下の龍に捕まり、喚きながら逃げ散っていく。 華御院は着陸すると、飛空船艦の残骸を確認した。そこに、前回仕掛けたナンバリングを発見した。 罔象らは制空権を確保すると、地上の賊たちの拠点に攻撃を掛けた。砲撃と爆撃で破壊する。 サラファは地上の味方部隊が襲撃後、賊の生き残りを逃がす手助けをしながら建て直しの算段をそれとなく聞いた。 「今はまず逃げるが勝ちだ!」 物資調達役が誰か把握後、散らばって逃げた方がいいと助言し自分も逃走した。 ――華御院は天承に帰還すると、ナンバリングの照会を行った。 家臣は台帳を差し出した。 「飛空船の購入場所は武天。購入者は、武天の有力商人ですな」 「この男が天山寺の後ろ盾どすか」 「そこまでは何とも。ナンバリングはまだ朱藩と理穴にも行っていますからな……」 華御院は思案顔で目を落とした。 ● コルリス・フェネストラ(ia9657)は龍安弘秀のもとを訪れていた。 「弘秀様、北部で得た情報、『北部のアヤカシは魔の森奥で統率している』から、不厳王は未だ魔の森奥から全体を確認し指揮をとっている可能性がある事、東部の不厳王はその幻影の可能性が高い事を意見具申致します。幻影であれば、その場凌ぎでも倒す事は可能と思われます。危険ですが御味方の巫女に術視での確認は可能でしょうか?」 「ここでは何とも言えんな。有効な策だが、それは現場で判断して行った方がよさそうだな」 「承知いたしました。それから、南部地域制圧完了後、東部地域から避難してきた人達を南部の各里でも税の一部免除と引き換えに受け入れが可能か、南部の里に打診して頂くことは出来ないでしょうか?」 「ふむ……」 すると将門(ib1770)が口を開いた。 「民の避難は当然ですが……一時的避難ならともかく恒久的となると避難先の負担がデカそうです。耕地面積を倍にする訳にもいかんだろうし、弘秀殿はどうお考えなのですか? まあ、何にせよ何処かで不厳王を止めないと破綻は避けられないでしょうか」 「その点については、実は考えを進めている。不厳王を止めることが出来ればの話なので、まだ俺の頭の中だけで領主たちには言ってないが。南部の再編、開発と言う形で都市化を進め、東部の民を受け入れるとともに、南部の活性化を図れないものかとな。初期段階から民に関わってもらい、街づくりを始めてもらう」 「ほう……」 将門とコルリスは東部へ到着すると、大将たちと顔を合わせた。 コルリスは「よろしくお願いします」と挨拶し、一案と前置きし作戦案を提示。 「まずは、各兵士達に焙烙玉と盾、弓矢を支給願います。続いて、敵軍は味方防御施設に籠り迎撃。龍騎兵は四指戦法で飛行する敵を順次撃破し制空権を確保。飛空戦艦は上空より、宝珠砲兵は地上より地帯射撃を実行。射撃精度を下げ射撃地区一帯を射撃願います。アヤカシ達を順次殲滅。防御施設の兵達は焙烙玉で応戦。最後に、不厳王が出たら空鏑で合図致しますので、飛行戦艦、宝珠砲は順次退却。開拓者は味方退却の時間を稼ぐ、と言う流れで」 「ではコルリス様の提案で行きましょう」 「避難民の保護とアヤカシの迎撃が最優先か。俺からは一案として遅滞戦術を献策させていただく」 将門が言った。 「東部龍安軍をABの二隊に分け、Aが最前線の里か防衛陣地でアヤカシを迎撃している間にBが民の避難と後方陣地の強化を行う。Aは耐えれなくなったら損害がデカくなる前に後退開始。侵攻する敵はBが準備した後方陣地で迎撃。今度はAが民の避難と更に後方の陣地の強化を行う。これを交互に繰り返して敵戦力の損耗と民の避難誘導を実現する。この戦術の意図は、陣地防御に徹する事による龍安軍の消耗抑制と、東部の民の安全な避難、そして北部南部を片付け、対不厳王の戦力を集結させるまでの時間稼ぎ、という側面がある。……何とも消極的な策だがね」 「では攻撃的なところはコルリスさんの策で、防御の面は将門さんの提案でいきますか」 「よろしくお願いする――」 「撃て!」 龍安軍は砲撃を開始した。 コルリスは甲龍の山紫を駆り霊鎧を命じつつ、迎撃を指揮する。 「じゃ、ちょっと行って来る」 「お気をつけて」 将門を見送るコルリス。 将門は妙見に騎乗して加速する。龍騎兵隊を率いてアヤカシ軍を切り裂き、後退させる。 「妙見! 霊鎧にラッシュフライトだ!」 疾風迅雷、柳生無明剣で上級死人戦士を真っ二つに切り裂いた。 「いけるか……」 コルリスは望遠鏡を下ろした。地上に不厳王の姿を見出し、空鏑で合図を送り味方を退却させると、前進した。 「将門さん!」 「おう。巫女隊は行けそうなのか?」 「不厳王を引きずり出します」 コルリスは「翔!」と月涙+響鳴弓の合成技で不厳王を攻撃する。 出て来る不厳王を巫女隊が術視をかけた。 「コルリス様、あれはお考えになったように幻影でした」 「ありがとうございます」 コルリスは言って、軍を退かせる。 将門は殿を務めた。 ● 玲璃(ia1114)はまず龍安弘秀に願い出た。 「大量の旗と共に本陣に見える陣幕の用意をお願い出来ますでしょうか」 「どうするつもりだ」 「それを使って偽の本陣を春信軍の籠る城の近くに作り、陽動とします」 「一夜城か。それは敵もたまげるだろうな」 弘秀は笑った。 玲璃はそれから投降した元春信軍の兵達に道案内と物資搬送をお願いすると、南部へ霊騎の環を駆って一緒に向かうと、友軍と合流する。 「鳳華の民同士での諍い、ここで終わらせます。みなさんの力、貸して下さい!」 言ったのはフィン・ファルスト(ib0979)。 「今回で終わらせます!」 それからフィンは、寝返り反乱軍にも一応正規軍の軍規を適用するようサムライ大将たちに申し出た。 「その点については、お屋形様より、兵の罪は問わない旨受けております。事の責は春信様にのみ問うと」 「そうですか……では、晴信様は不殺。何としても捕えます。あたし達は南部の戦闘終結の為に晴信様確保に行きます」 エラト(ib5623)もまた鷲獅鳥の奏を駆って到着。 「南の魔の森の動向も不穏ですので、制圧は迅速に行う方がよろしいかと思います」 「では私も、フィンさん達の城内侵入を支援する為、陽動を引き受けましょう。それから、制圧後の敵味方の負傷治療等を行います」 玲璃は元春信軍兵士達に言った。 「南部地域の事は以前から南部地域を守っていた貴方がたのほうが精通していると思いますので頼りにしてます」 「ああ……いえ、誤解があるようですが、私達も元は中央の兵。ですが、春信様への忠義は果たしたと思います。ただ、これ以上は……」 「大丈夫ですよ」 玲璃は兵たちを気遣った。 「私は、玲璃さんの陽動とフィンさんの侵入を支援する形で、城に籠る春信軍達を戦う前から無力化する為、夜の子守歌等を奏でて城内兵士達を可能な限り眠らせ、捕縛等を支援致しますね」 エラトは言うと、舞い上がった。 玲璃は春信軍の籠る城まで接近。目立つ形で城の近くに持参した大量の陣幕を張り旗を立てて回り、龍安軍本陣と思わせる偽本陣を一夜のうちに設置した。 ざわめく春信軍。 エラトは上空から夜の子守歌を奏でて回り、城内の晴信軍を一度に無力化していく。強力な吟遊詩人の音楽が春信軍兵士を眠らせて行く。 「お願いします」 玲璃は、味方サムライ部隊に咆哮をお願いすると、偽本陣へ城の春信軍の注意をひきつける陽動活動を実施する。 シノビが戻ってくる。 「城の東に抜け道があります。制圧しました」 「フィンさんたちへ連絡願います」 フィンは小隊とともに隠密に城に侵入した。玲璃とエラトが続く。 龍安軍からシノビ二名に他少数精鋭が玲璃とエラトの護衛に付く。シノビたちが超越聴覚で索敵しつつ前進する。 あちこちに兵士達が倒れて眠っている。 「フィン様、春信様は最奥にいるようです」 「行きましょう」 襲い掛かって来た春信軍兵士を手加減で叩き伏せると、フィンは羽交い締めで落とした。 玲璃が治療だけはしておく。 エラトは仲間たちの指示に従い、夜の子守歌を奏で続け、城内の兵士達をことごとく眠らせていく。 フィン達は春信軍兵士を倒しつつ前進した。 「ここですね」 シノビが破錠術で鍵を破ると、フィンは突進した。 「春信様ですか?」 フィンは、目の前の若者と女を見て言った。 「兄上の手の者か」 「春信様、弘秀様は、頭首としてあなたの罪を問われるでしょう。ですが、弟のあなたを思っておいでです」 「さ、沙羅……!」 春信は女に呼び掛けた。 玲璃は、そこで瘴索結界「念」で探査した。だが、反応は無い。アヤカシではない……? フィンが進み出た。 「貴女が沙羅? ……そう言えば。弘秀様側にもアヤカシと通じてた奴がいたそうですけど。あなたはどれ? 人質がいる、アヤカシと取引した、若しくは――アヤカシそのものか」 「たわけが。わしは鳳華の行く末を思い……春信に力を貸してやった在野の士よ」 沙羅は言うと、すがる春信を振り切って加速した。 フィンの瞬脚、絶破昇龍脚をふわりと舞うようにかわすと、逃走した。 「…………」 フィンはひとまず春信を見やる。 「晴信様……今終わるのも不満ありますよね。その力、お貸し頂けませんか? 恥知らずと言われるでしょう、けどあなたの下を去った人はその汚名を被ってでも東部や北部で危機に晒され、涙を流す民を守る茨の道を選びました。鳳華を愛するからこそ」 春信は刀を取りだし叫んだ。 「兄上に殺されるなら、俺はここで死ぬ!」 「馬鹿!」 フィンは春信の刀を取り上げ、春信をひっぱたいた。 「今は、生きることを考えて下さい。あなたは……死んではいけない」 フィンは、泣き崩れる春信を抱きしめた。 ここに春信軍は壊滅する。一部の兵が沙羅とともに離脱したが、反乱軍は事実上潰えた――。 玲璃が春信軍兵士を治療していると、エラトが立ち上がった。 「魔の森を少し沈めておきましょうか?」 エラトは、春信軍兵士達に南の魔の森へのルートを教わり、龍安軍にも一部助力を願うと、魔の森へ奏を駆り向かう。 現地到着後、上空から精霊の狂騒曲で魔の森のアヤカシ達を順次無力化し、龍安軍と春信軍が共闘しアヤカシを退治できる様支援した。 |