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■オープニング本文 橘の里で人だかりが出来ていた。里を訪れるようになっていた行商人たちが服飾雑貨加工品や食材を届け始めていた。そんな中でも、嗅覚のある者は橘の里の現状を商機と見て、現地で商売を始める者もいた。現場で今何が不足しているのか人々から確かめると、自分で品物を仕入れて廃屋を借り受け店を開く者が現れた。また、元々里で店を構えていた者たちも僅かだが再建にこぎつけた。 「……まったく、あきんどたちの商魂には恐れ入るね」 厳楼斎は歩きだした。 「おー、厳楼斎様! 今日も良い天気ですなあ! すっかり秋が近付いてきましたなあ!」 「権兵衛、家の建て直しは順調か」 「まあ何とかしませんとなあ」 建築技師の権兵衛は図面を片手に、家の骨組みを取り巻く大工たちを見上げた。 「腕のいい職人が揃ってきましたが……何せこの瓦礫ですからねえ。作業が難航しますわ」 「よろしく頼んだぞ」 「――あら、厳楼斎様。ご機嫌麗しゅう」 里の女性たちが炊き出しを行っているところへ入って行くと、厳楼斎は「良い香りがするね」と鍋を覗き込んだ。 「味噌煮込みうどん鍋だね」 「味見なさいますか?」 厳楼斎は味見させてもらうと、「おいしい」と顔をほころばせた。 「みんな、よく頑張ってくれた。里を支えてくれたのは、みんなの力あってこそだよ」 「あら厳楼斎様! みんなで苦労は分かち合って来たでしょう!」 女性達は言って、大きく笑った。 それから厳楼斎は畑に向かった。畑の入り口には、この夏に子供たちが書いた向日葵の絵が沢山飾られていた。畑は、向日葵をすき込んだり燻炭を仕込んで地力を回復している。 今、その後には、白い小さな花が満開で、蕎麦が収穫期を迎えていた。 「ここもよく育ってくれたものだが……」 厳楼斎は蕎麦の畑を見渡した。 「厳楼斎様、祝いに一杯やりますか」 「そう言えば権六、向日葵を酒にすることは出来たのか」 「残念ですが、そっちはちょっと、大人の事情ってやつでしてねえ。代わりに、普通の焼酎で乾杯と行きましょうや。無事に蕎麦が収穫できましたからね。子供たちも大喜びですよ」 「厳楼斎様♪ 蕎麦の花って可愛いですね♪」 今回も畑の世話を手伝った子供たちは、満面の笑顔で、向日葵の種を食べながら花の絵を描いていた。 「収穫が楽しみですね〜」 「みんなもよく頑張ったね。良い収穫祭になりそうだよ」 再建された水車小屋はフル稼働していて、里のあちこちで製粉作業が行われていた。水路はさらに潤沢に回復している。 武天で有名な向日葵の村とも連絡を取り、そうして採取された油は、あれから瓶詰めされて倉庫に保管されていた。 また、鶏や豚を放しておいた畑は地力を回復し、前回荒れ地を一面分耕したところは、水を引いてすっかり整備されていた。今、そこにはぎっしり成長した馬鈴薯と人参が葉を出していた。試しに引き抜いてみると、見事に成長した馬鈴薯に人参が。 「ここも立派に整ったな」 厳楼斎は、貯水池を見て回った。回復した水量は、里に豊かな水源をもたらした。 「これで……アヤカシがいなければ、全て順調なのだがな」 厳楼斎は、魔の森の動きに付いて報告を受けていた。またしても小鬼の群れが動きだしているとのことだった。 「ともあれ、米の収穫も無事に終わった。ようやく、収穫祭を迎えることが出来たな……」 いよいよ秋を迎え、橘の里の収穫祭が始まる。 復興への道のりは、まだ道途上である――。 |
■参加者一覧
カンタータ(ia0489)
16歳・女・陰
平野 譲治(ia5226)
15歳・男・陰
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
アレーナ・オレアリス(ib0405)
25歳・女・騎
白木 明紗(ib9802)
23歳・女・武 |
■リプレイ本文 「カンタータ(ia0489)! 里が見えたよ!」 羽妖精のメイムは、言ってくるりんと空中で回った。 「みなさんお元気にしているでしょうか〜」 カンタータは帽子のつばを持ち上げると、メイムを肩に乗せた。 「なーこっにっ♪ ぬーそったっ♪ ういりったもにっ♪」 平野 譲治(ia5226)は言うと、道にある岩にお辞儀した。無機物な物にも魂が宿ると思っており、生き物に限らず挨拶をしたりする。曰く、感謝を忘れぬため、だとか。 「今日も一日が無事に終わりますように……なのだ!」 平野は言って、仲間たちを見やる。 「この場所は救われてるなりね……。もっと凄惨な所は多いなり。なら、全力全霊をもってお手伝いなのだっ!」 それから平野は、サイコロを振って運勢占いをする。出目は……「1」。 「なりなりー! 最悪なのだ!」 それから先に結果呪符「黒」で練力を減らしておく。里に着いたら瘴気回収でどの程度回復したか確認するつもりだった。 「実りの秋にいよいよ収穫祭を迎えたわね。さあ、張り切ってお仕事しなくちゃ♪」 フェンリエッタ(ib0018)は言うと、からくりのツァイスを見上げる。 「ツァイス、今日はみんなのために頑張りましょう♪」 「承知しましたフェン」 ツァイスは短く言って頷く。 「魔の森の影響の及ぶ場所は何処も酷いのですけれど、こうして復興していく姿を見ると人々の希望や逞しさを感じることができますわね。頑張って参りましょうか」 アレーナ・オレアリス(ib0405)は、言って白薔薇のような笑みをたたえた。 「前に来た時よりも随分賑わってきてるようね。子供達は元気にやってるかしら?」 白木 明紗(ib9802)は、子供たちの顔を思い出していた。それは、仕送りをしている白木の故郷の子供たちと重なった、 里に到着した開拓者達は、里長の橘厳楼斎から歓迎を受けた。 「見知った顔もいるようだな……。良く来てくれた。礼を言うよ」 「厳楼斎さん、無事に収穫祭が出来ると聞きましたよ〜。ボクの料理も楽しみにして下さいね〜」 「やあカンタータ。それは、楽しみだね」 「カンタータの料理甘ったるいんだよ。おいしいけどね♪」 メイムが厳楼斎の回りをくるくる飛び回る。 「はっはっは」 「ちょっと変わった料理を作るつもりなので楽しみにして下さい〜」 「橘! 初めましてのよろしくなのだ! おいら陰陽師の平野譲治なのだ!」 「よろしく、だね」 「ではちょっと、瘴気の濃度を測っておくなり」 平野は言うと、瘴気回収で練力を回復する。回復した練力は3ポイント。 「ふーむ……若干瘴気が高い感じがするなりよ」 「それは?」 厳楼斎に問われて、平野は瘴気回収の感触を伝えた。 「そうか……まあ、魔の森が近いと言うこともあるだろうか。ありがとう」 「橘さん、収穫祭、楽しみにしてきましたよ」 フェンリエッタが言うと、厳楼斎はお辞儀した。 「貴女がくれた蕎麦も豊作ですからね。子供たちが良く世話をしてくれました」 「まあ……そうですか。後でお礼を言わないとですね♪」 「厳楼斎殿、里はまだ復興途上のようですが、アヤカシの攻撃はそれから収まっているのでしょうか」 アレーナの言葉に、厳楼斎は頷いた。 「そうですね。魔の森から強力なアヤカシが出て来ることはありませんね。幸い、少なくとも大アヤカシなどが活発に動いているといった報告は来ていませんから。ただまあ、散発的な攻撃は止むことがありませんが……」 「そうですか……」 「厳楼斎、みんな、元気そうで何よりよ」 白木は言って笑みを浮かべた。 「まあ、依頼を見てほっとしたわよ。またアヤカシに襲撃されたとかなら、惨事だものね。アヤカシの攻撃は止まないけれど、せっかくここまで復興して来たんですもの」 「まだまだこれからだけどね」 厳楼斎は頷き、開拓者達を案内する。 それから開拓者達は小鬼退治に向かった。森の周辺に展開していた斥候から、咆哮が放たれ、小鬼の群れがざわざわと出現した。 アレーナは望遠鏡を下ろした。 「小鬼の群れは約30体ですわね。リーダー格は立派な鎧を着た少し大きな小鬼ですわね……」 「それでは行きますよ〜」 カンタータは結界呪符を展開すると、ゴブリンの進撃ルートを抑制する。 「メイム〜、ゴブリンを足止めして下さい〜」 「任せといて!」 「なりなりなのだ!」 平野も結界呪符を展開していく。 「行くわよ! ツァイス!」 フェンリエッタは加速した。 「アヤカシにやらせはしない……守って見せるわよ、みんな」 白木も加速した。 小鬼たちは正面から激突すると足を止められた。 アレーナは里の兵士たちと仲間が敵群を正面から受け止めている間に、その側面に回り込んでいく。 取りだしたのは抱え大筒。 「行きますわよ」 抱え大筒を撃ち込むと、アレーナは突撃した。小鬼達は吹っ飛び怒りに喚いた。最初の一撃で鬼の首を飛ばした。 「次!」 アレーナは敵陣を崩し、リーダー格の鬼を奇襲した。 「聖堂騎士剣!」 精霊力をまとった刀が鬼に打ち込まれる。鬼のリーダーは切り裂かれて塩と化して崩れ落ちた。 流し斬りて叩き伏せ、ガードで鉄壁。 「一気に終わらせて頂きますわ」 続いてアレーナは二体目のリーダー格を撃破した。 カンタータは前衛の邪魔にならない程度に霊魂砲で援護する。 平野は呪縛符で味方を支援する。 「アヤカシはそこに在るだけ……なりが、里の為に倒させてもらうのだっ!」 仲間、里のサムライが怪我をしないようにするのが最優先。結界呪符を展開。 サムライと連携して、小鬼の群れを撃破していく。 フェンリエッタは愛剣の光輝の剣を振るい、小鬼を叩き伏せて行く。ツァイスと連携。 「瞬風波!」 風邪の刃が貫通する。 「逃がさないのだ!」 平野は呪縛符でリーダー鬼の動きを封じる。 「そこまでよ鬼さん達! 荒童子!」 白木は加速すると、槍と剣を掲げて精霊を呼びだすと、リーダー格の鬼を真っ二つに切り裂いた。 やがて、小鬼達は数を急激に減らしていく。戦意を喪失した鬼から離脱していく。 「逃がさないわよ!」 白木は逃亡を図る鬼を打ち倒した。 開拓者達とサムライ達は、鬼の群れを全滅させた。 里に帰還した開拓者達は復興作業に取り掛かった。 カンタータは、民と話し合って、畑に付いて提案を持ちかける。 「ひとまず、豚舎鶏舎を整備して放し飼いにしていた家畜を収容しましょう〜」 「そろそろ畑を耕しておきますかねえ」 「そうですね〜、ちょっと思ったのですが、降雪前に春用小麦を撒いて雪下で発芽させると春先の雨の影響を抑えて収量を増やせるらしいです。今のうちに放し飼区画を耕して種をまきませんか〜」 「小麦の早播きですか。それは良いかも知れせんね」 村民たちは家畜を収容すると、畑を耕し、小麦の種を播いておく。 それからカンタータは、防護柵の補強に手を付けた。 「魔の森方面を主に防護柵の補強を行いたいです〜。損耗している部分は材料を入替えて廃材は備蓄の薪に回したいですね〜」 「そろそろ、交換が必要かもしれませんねえ」 住民たちは作業に取り掛かった。 そして、カンタータはまた畑に戻ると、人参馬鈴薯を収穫することにした。 「良く育ってくれましたねえカンタータさん」 「みなさんのおかげですよ〜」 収穫した野菜は氷室だった倉庫に保管しておく。 「出荷は出来そうですかね〜」 「まあこれだけあれば、里で食べる分には困りませんからねえ」 出荷可能分は収量把握と処置して担当する農家を介して商人と交渉する。 「中々いい出来ですねえ」 商人たちは、収穫物を品定めしていた。 「いいですよ。まあ……相場がこれくらいですから、この品だとこれくらいでどうですかねえ」 交渉に応じる商人たち。 そうして、商人達に出荷可能分を売りさばいた後は、馬鈴薯は来年種芋にする分を選別しておいた。 平野は、破壊されたままのものを甲龍の強に手伝ってもらいつつ、撤去あるいは整理を行っていく。 「一日でも早く、元に戻すなり!」 平野は強と連携して、瓦礫を撤去していく。 整理がある程度できたところで、里の人々にどうなっていたか確認する。 「これってどうなってたなりかっ!? ……ふにゅ。ならこんな感じで……♪」 用意した工具などで対応できる範囲で、修復、修繕を行う。 フェンリエッタは、今回は瓦礫撤去に力を入れてきた。 「折角腕のいい職人さん達がいらっしゃるのだもの。冬が来る前に家の再建を進めなくては」 フェンリエッタは早速作業に取り掛かった。 「瓦礫置き場は確保できますか? 一時的でも構いません」 再建を妨げる瓦礫を運び出し場所を確保すると、撤去作業を進めて行く。 ツァイスも撤去や斧で破砕作業を行う。 「再利用できる物は分別した方がいいでしょうか?」 「そうだな。まあ、生活用品もほとんど使い物にならないとは思うけどねえ。一度、捨ててしまって新しくした方がいいかね。思い出の品とかじゃ無ければ」 「それでは、燃料になる物だけ保管しておきましょうか……」 フェンリエッタは木材の瓦礫を適当な大きさにして保管しておく。ゴミは燃やしたり破砕して埋めていく。 畑に向かったフェンリエッタ。子供たちと再会する。 「蕎麦畑のお仕事も手伝ってくれたの? 皆本当にいい子ね」 「へっへー、お姉ちゃんのくれた種、ちゃんと世話したからね!」 「ありがとう。きっと美味しいお蕎麦が食べられるわ♪」 それからフェンリエッタは、また種を取りだした。 「蕎麦の後作には秋大根も大丈夫ですって。初秋種蒔きなら初冬収穫。……少し遅いかしら?」 農民は「やってみましょう」と種を受け取った。 「まあ任せて下さいよ。きっとまた無事に育つでしょう」 そして、フェンリエッタは向日葵油について……。 「あの向日葵が……すごい」 感動してしまった。 「うん、子供達が大切に育ててくれた復興の向日葵ですし。初めてのものだから先ずは里の皆さんで味わってみては如何でしょう。さくさくっと向日葵油を使った天ぷらにお蕎麦、とか」 「いいですなあ。天ぷらそばですか。みんな喜ぶでしょう」 「明紗さんも仰ってくれたけど、向日葵や蕎麦とか里の名産ができれば素敵。里の皆さんさえ良ければ、商人達にも収穫祭で味わって貰いアピールと意見交換してもらってはどうでしょうか。次の季節の作付けに向け、収穫と販売目標を作りましょう」 「そうですな。復興の証に、名産品をアピール出来れば、また里にも人が集まってくるかもしれませんな」 民人たちは、フェンリエッタの提案に勇気をもらうのだった。 「みなさんよろしくお願いしますわね。アレーナ・オレアリスと申します」 「こんにちは開拓者さん」 「それでは、さっそく取り掛からせて頂きましょう」 アレーナは駆鎧を使用する。 駆鎧の大労働力を使い、魔の森方面の土を掘り土塁を作成、木材を切り組み立てて家屋の修復や建設を行い、里の住人たちの住む場所を取り戻せるよう最善を尽くす。 「土を掘った後は整備して、空堀のようにすれば里の防衛力も更に上がるものと思われます」 「うむ……小鬼ばかりとはいえ、備えは必要ですかな」 サムライ達は空堀の整備を進めて行く。 白木も、まずは瓦礫撤去に取り掛かった。 甲龍の鋼には、人の手に余る大きな瓦礫の撤去を手伝わせる。 「鋼! 頑張って!」 そして、冬に向けての建て替えを進める提案を行う。 必要な建材は十分確保する。 「……ところで里のサムライ、腕の程はどんなもの?」 白木は厳楼斎に問うた。 「十分だったらあたしの出る幕じゃないけど、もし未熟そうなら少し稽古をつけてあげる。魔の森で培ったアヤカシと戦うコツの伝授と、アヤカシへの恐怖に飲まれない心の鍛錬ね。時間は限られてるし体に教え込むわ」 「よろしくお願いするよ」 厳楼斎は答えた。 「アヤカシとの交戦経験が不十分な者しか残っていないからね」 「そう、それじゃ、みっちり鍛えてあげる」 ――収穫祭が始まった。 カンタータは、小麦蕎麦各種野菜と向日葵油を分けて貰い、ボルシチ、パンプーシュカ、ヴァレーニュクなどジルベリアの料理を振舞った。 「あら、ジルべリアの郷土料理ですわね」 アレーナは言って、料理の味見をした。 「いかがですか〜」 「うん、テイスティ、おいしいですわよ」 見たことも無いジルべリアの料理に、里の民は顔をほころばせて舌鼓を打った。 平野は、宴が始まっても何かを修復、修繕する手を止めずに、少しでも早く環境が改善されるように働きかける。 「収穫祭で、みんなの元気が少しでも取り戻せるだけでもいいなり」 白木は、仮設の舞台を設営して、収穫祭に彩りを添えていた。 「子供達も一緒に行ってきなさいな。フェンリエッタあたり子供たちを誘うって言ってたし、きっと楽しいわよ」 フェンリエッタは、調理や舞台を手伝い演奏と歌で盛り上げる。子供達に声をかけて一緒に歌を歌う。リュートを奏でると、子供たちと一緒に歌った。 「あの〜空に〜上る星は〜みんなが見ています〜♪」 大人たちもやんやの喝さいを送った。 「平野さん、いいんですの? みんな楽しくやってますよ」 「いいなりよ。おいらは、まだ里が全部立ち直るまでは、手を休めないなり」 「そうですか」 アレーナは笑みをこぼすと、作業を続ける平野の横に腰かけ、宴の様子に目を向けた。 白木は、食べ物や出し物を肴に、里の人々と持参してきた酒を酌み交わして話した。前回話しかけた人のその後も聞いてみる。 「とにかくも再建していく里を見ていると、時間は進んでいるんだなって……前に進まないといけませんね。私たちも。ここは、私たちの里だってこと……」 民は白木に笑みを向けた。 それから白木は、商人たちと話をした。 「蕎麦や、今はもう時期は過ぎたけど向日葵なんて、これから里の名産になるんじゃないかしら?」 里を訪れている商人と実際の産物を前に話をして、今後どうすれば里を活性化していけるか聞いてみる。 「まあ、俺たちのような行商人にとっちゃ、品物を少し運ぶくらいしかできないけど。名産品は良いね。来年までに、もっとたくさん収穫できるようになればね。俺たちも旨みが欲しいし。話は広めてあげるよ。大きな商売になるかは、あんたら次第だよ」 フェンリエッタは、収穫作物の料理のお弁当を厳楼斎に届けに行った。 「橘さん、復興経過ご報告の一つとして」 「ありがとう。うん、いや、天ぷらはおいしいね。これからも、少しでも再建を進めて行こうと思えるよ」 厳楼斎は、初めて大きく笑った。天ぷらの魔法だった。 ……そうして開拓者達は帰還。平野は、覚えていた瘴気回収の手ごたえを里長、ギルドに通知した。 「みんなには、出来るだけ明るく過ごしてほしいと思うなり」 意味はないかも知れないけど、笑顔が瘴気を減らすと、信じているから。 |