|
■オープニング本文 ●廃墟 嵐の門を突破し、数日間の航行の末にたどり着いた新たな儀――希儀。 希儀国は既に滅んだか人影はなく、しかしながら、周囲に魔の森の繁茂も見当たらなかった。石造りの街並みは廃墟となって蔓草に覆われ、もはや往時を知る者はいない。 「アヤカシ、出ると思うか」 「あいつらまで滅んだとは思えないね」 遺跡の石柱の上へ駆け上がり、周囲を見回すシノビに、砂迅騎が問いかける。 どこまでも広がる瑞々しい大地の中、遠くどこかよりケモノの遠吠えが流れてくる。彼らは互いに顔を見合わせると、各々獲物を手に龍へと跨る。羽ばたき、空高く舞い上がる龍の群れ。 「ようし、行くか!」 誰からともなく猛り声が響いた。 ●前進 小高い丘が見える。開拓者達は、丘の上に巨大な廃墟が横たわっているのを望遠鏡でとらえた。崩れかけた、巨大な列柱が立ち並んでいるのが見える。 「あれは……資料の調査で見た、柱の建物だな……ジルべリアの建物にも似たようなのはあるが、こっちのは相当古い感じだな……」 開拓者ギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)はうなるように言った。 そうして、開拓者たちは、丘を取り巻くように展開している町の廃墟へ入って行った。どちらかと言えば、ジルべリアに似ている建築様式。ただ、様式は古いように見受けられる。あちこちに崩れ落ちた土壁や瓦礫が散乱し、人影は無い。 開拓者たちは進んだ。 通りを歩いていると、朽ち果てた水路が郊外から引かれているのを見つけた。水路の底には、砂が溜まっていて、トカゲが駆け抜けて行った。 「ふむ……」 「あれは?」 開拓者の一人が、指差した先、大きな石壁の建物の残骸が横たわっていた。石壁には、「葡萄」のレリーフがあちこちに彫られていた。蔦に覆われたアーチをくぐって、開拓者達が中に入ると、残骸の中に、石造りの四角い箱が横たわっているのをすぐに見つけた。幅一メートルほどの深い箱で、こちらにも葡萄のレリーフが彫られていた。 石の蓋に漆喰で封印がされている。 「開くかな?」 開拓者の一人が、蓋を押し上げてみる。と、蓋に付いていた宝珠がパキーン! と粉々になってしまった。 「何だ?」 芳醇な香りが漂ってくる。 「こいつは……葡萄酒じゃないか」 「これ全部そうなのか?」 開拓者達は、倉庫を見渡した。四角い箱は、あちこちに置かれている。 と、その時である。上空から甲高い鳴き声がした。人間の女性と鳥が合体したようなアヤカシが攻撃的な声で仲間を呼んでいる。ハーピーだ。 そして、壁の向こうに、一つ目の巨人――サイクロプスが数体ぬうっと現れ、開拓者たちを見据えると、牙を剥いた。 さらに、アーチをくぐって、山羊、竜、獅子の頭部を持つ合成獣のアヤカシ――キマイラがこちらをじっと見ている。 アヤカシ達は、嬉々として邪悪な笑声を上げた。 「囲まれたか……」 「これが最初の挨拶か? ご丁寧に待ち伏せしていたかね」 「希儀の人々はどうなった? て、答えるわけ無いよな。んじゃあ、お前らの親玉に聞くとしようか」 開拓者たちは、武器を構えると、戦闘隊形を取った。 |
■参加者一覧
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
将門(ib1770)
25歳・男・サ
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
エラト(ib5623)
17歳・女・吟
ファムニス・ピサレット(ib5896)
10歳・女・巫
嶽御前(ib7951)
16歳・女・巫 |
■リプレイ本文 「やっぱりいやがったかぁアヤカシ。囲まれちまっちゃしょうがねぇなあ、突破するぜぃ!」 ルオウ(ia2445)は抜刀した。 「新たな儀で初めに迎えてくれるのはアヤカシか……想定の範囲内ではあるが全く嬉しくないな」 将門(ib1770)も抜刀すると、周囲を確認する。上空に鳥アヤカシ、四方を囲まれた。 「包囲されたみたいだねー。上等だよっ! あたしの雷撃で食い破ってみせる! 行くよ、ファムニス、チェン太!」 リィムナ・ピサレット(ib5201)は言うと、妹と相棒に呼び掛けた。 「蛇だけかと思いましたが、他にもいるようですね」 エラト(ib5623)は言って、リュートを取りだした。 「か、囲まれちゃいました……でも、一人じゃないから……きっと大丈夫です!」 ファムニス・ピサレット(ib5896)は、姉のリィムナに寄り添った。 「あるはずのものがなく、ないはずのものがある。それは今後の調査で明らかにするとして、まずは目の前のアヤカシ達を倒してからにしましょう」 嶽御前(ib7951)は言って、霊刀「カミナギ」とベイル「エレメントチャージ」を構える。 「さーてどうすっかな。まずは目の前のあの三つ首の怪物から叩くか?」 ルオウの問いに、将門は思案顔。 「そうだな……一つ目巨人は壁の向こう側だし、鳥は様子見のようだし、俺たち二人は、前衛で決まりだな」 将門は、四人の術士たちに目を向ける。 「……包囲された? 上等じゃない! 十二宮を攻略したあたしの雷撃、たっぷり食らわせてやるんだから!」 リィムナは言って、 「まずはあの三つ首を叩いていくのに賛成だよ! あたしは雷撃で支援に回るね!」 ――と。 「そうですね。巨人は壁の向こう側ですし、ひとまずは前の三つ首を倒す作戦で良いかと思います」 エラトも頷く。 「フ……ファムニスも、それでいいと思います……! まずは突破しないと、動けないまま潰されてしまいそうですから……」 ファムニスが言った。 「それでは、まず西の三つ首、次に巨人、そして上空の鳥アヤカシの順で倒していく流れですね」 嶽御前は頷くと、 「では始めましょうか。私からは加護結界を付与させて頂きますね」 嶽御前は将門とルオウに触れる。淡い光が二人を包み込む。加護結界――対象に触れて祈る事により、精霊の加護を与える巫女の精霊術だ。 「サンキュー、嶽御前!」 「助かる、嶽御前」 「それでは、後は状態異常を回復出来るエラトさんにも、念のために」 嶽御前はエラトにも加護結界を付与しておく。 「ありがとうございます」 エラトは、光に包まれ、精霊の加護を感じる。 「よっしゃ! 行くぜ! 将門!」 「ああ。後衛のみんな、支援をよろしくな」 ルオウと将門は加速した。 三つ首――キマイラは咆哮すると、魅了の凝視光線を放ってくる。光線がルオウを捕える。 「何!?」 ルオウは気力で耐えた。 「こいつ……何か術を使って来やがる!」 「来るぞ!」 次の瞬間、もう一体のキマイラの口から炎と氷のブレスが吐き出された。 「あっつ……!」 ルオウと将門は加護結界に守られながら突進した。 「うおおおおおおお!」 ルオウは蜻蛉、咆哮からタイ捨剣でキマイラの首を狙った。袈裟懸けに走った刀身が、キマイラの首を一つ飛ばした。 キマイラは怒りの咆哮を上げて向きを変えて来る。 「そうはさせん!」 将門は突進すると、初手からの柳生無明剣――を打ち込む。柳生新陰流奥義のひとつ。刃が奔る寸前、刀の切っ先が幾つにも分身して見え、敵を惑わす。どの刃が本命か察した頃には討ち取られているという奥義。凄絶な剣撃が奔ると、キマイラの首を一本飛ばした。続いて、斬撃の二連撃。キマイラは切り裂かれて苦痛の咆哮を上げた。 リィムナは両腕を持ち上げた。 「行くよファムニス!」 「お姉さん……神楽舞で支援します……」 ファムニスは神楽舞「心」を舞う。穏やかな、緩やかな巫女の舞いがリィムナの知覚を上昇させる。 「ファムニスありがとう! あの三つ首を潰してやるよ! 首がいっぱい生えてて、それぞれ何かしてきそうだからね」 リィムナは腕を振り下ろした。その手から、アークブラストの閃光がほとばしる。キマイラの三つの頭部それぞれに撃ち込み潰しに掛かる。最後に胴体を貫く様に放つ。四連撃である。 「あんたの瘴気なんて、雷の牙が粉砕してあげるよ! ライトニングブラストー!」 この四連撃を、リィムナはライトニングと名付けている。 凄絶な雷撃の四連続攻撃がキマイラを貫通する。キマイラは焼き尽くされて、崩れ落ちて行くと、瘴気に還元した。 「やるなリィムナ」 将門は軽く振り返った。 「次行くよ!」 エラトは鷲獅鳥の奏を駆り舞い上がると、奏に飛翔翼を命じる。 「奏! 飛翔翼!」 奏はいななくと、翼を大きくはためかせて全力で飛翔する。移動と回避が上昇。キマイラの頭上を舞いながら、エラトの指示に従う。 「奏! 行きますよ!」 加速する奏。エラトは鞍上でリュート「激情の炎」を奏でる。深紅に塗られ、胴には燃え盛る炎の意匠が彫り込まれたリュート。命を謳歌する激情を思い起こさせるような、鋭く力強い音が奏でられる。エラトの指先から強い旋律で、まどろみを誘うゆっくりとした曲が奏でられる。夜の子守唄――。 「眠りなさい」 エラトが旋律を奏でるのに、キマイラはふらふらになり、遂には死の眠りに落ちた。 「さすがだぜエラト!」 ルオウは笑みを向けると、将門とともに無防備に眠り落ちたキマイラに刀を叩き込んだ。叩き斬られるキマイラ。目覚めた時には手遅れだった。その体が崩れ落ちて行き、瘴気に還って行く。 嶽御前はキマイラが倒されて行く間、残りのアヤカシ達の動きを探っていた。駿龍の暮に駿龍の翼を命じると、暮は回避姿勢を取りつつ、主を守るように滞空する。 頭上でハーピーの鳴き声がキイキイと騒いでいる。笑うような鳴き声だ。サイクロプスは壁を乗り越えると、倉庫の中へ入ってくる。 「後ろから巨人三体です。上空に人面鳥十体から二十体ですね」 嶽御前は霊刀「カミナギ」とベイル「エレメントチャージ」を構え、後方の防衛に当たる。守凪、あるいは神凪とも書かれるカミナギ。安曇の一角を守る神無党なる神社で作られている、精霊力を宿した木刀であり、その不思議な力により刀のような切れ味を発揮する。ベイルは精霊の祝福を受けたとされる逆五角形の盾。淡い草色に光る金属製で、大地の精霊の祝福により、生命の力が強化されている。 「ここは抜かせませんよ」 嶽御前はサイクロプスの前に立ち塞がり、精霊の力で強化されたカミナギとエレメントチャージでその巨人の一撃を弾いた。 嶽御前を苛立たしげに見て、サイクロプスはうなり声を上げ、三体で目を合わせ、戦闘隊形を取る。 ルオウのロートケーニッヒは頭上で羽ばたいて様子を見ていた。ルオウの側を離れず待機。 将門の甲龍、妙見は牽制に出る。妙見はサイクロプスの周りに舞い上がると、アヤカシを牽制する。妙見には敵にダメージを与えることは考えず、回避に専念させておく。妙見は適度に距離を保ち、後退しつつサイクロプスを威嚇し、また羽ばたいてジャンプする。 リィムナの相棒、炎龍のチェン太は果敢にサイクロプスに突撃する。サイクロプスの一体にヒートアップ+炎龍突撃で突進。自身の身体に炎のような気を纏い、加速しつつ強力な突撃を仕掛ける炎龍の攻撃技。サイクロプスは咆哮してチェン太を振り払う。チェン太は舞い上がると、サイクロプスの頭上を掠める様に飛びつつ爪で攻撃する。御速靴でサイクロプスを踏みつける。神木を削って作られており、軽い靴だ。敵を踏みつけて攻撃する。 ファムニスの相棒駿龍のぴゅん太も、サイクロプスの足止めに向かっていた。残る一体に向かい、ソニックブームを叩き込む。翼を力強くはためかせて、突風と共に衝撃波を放つ龍の技。サイクロプスはうなり声を上げて、手を振り回して後退する。ぴゅん太は近付けさせない様に牽制する。そして舞い上がると、サイクロプスの頭上を掠める位の高さで飛び、駿龍の翼で回避しつつクロウで攻撃していく。 そうして嶽御前はキマイラが撃破されたことを確認すると、改めて瘴索結界「念」で敵位置や数、動きを把握しておく。 「みなさん、巨人達が攻勢に出ます。上空の人面鳥は様子を見ているようですが。警戒はしませんと」 「よーし行くぜ! 嶽御前お疲れさん! ロート! 来い!」 ルオウは相棒を呼ぶと、騎乗した。 「行っくぜええええええ!」 ルオウは咆哮を叩きつけると、サイクロプスに加速した。殲刀「秋水清光」――天儀最高峰の刀工の一人「加賀清光」の手による刀。刀工清光がアヤカシを斬る為の刀ではないとまで言い切った「殺人剣」のひとつで、世人からは外道の刀とまで評されている。秋水の名に恥じぬ美しい刀身を誇る水の如く澄み渡った宝珠を備え、人を斬れば斬るほど心穏やかになるという名刀。ルオウは愛刀を振るった。サイクロプスと打ち合う。巨人の怪力がルオウの打撃を受け止める。 「この怪力か……! にゃろう!」 ルオウは上空ロートケーニッヒから飛び降りると、その勢いでタイ捨剣を叩き込んだ。袈裟懸けに走った刀がサイクロプスの腕を切り飛ばす。 「妙見!」 将門は相棒を呼ぶと騎乗した。 「霊鎧! ラッシュフライト! 行くぞ妙見!」 将門は加速すると、ルオウとは別のアヤカシに向かう。新陰流――武器に練力を纏わせ、攻撃の瞬間に発することで破壊力を上昇させる柳生新陰流の基本スキルを駆使する。太刀「救清綱」――柄に朱房と数珠が取り付けられた大ぶりな太刀。東房の古い刀工「古二王清綱」の作であるとされ、術を退けるという経文が刀身に書きつけられている将門の愛刀。太刀で打ち合うと、将門はタイミングを図って隼襲×柳生無明剣を繰り出した。サイクロプスの腕が飛ぶ。 リィムナは後退して腕を持ち上げると、アークブラストを連打する。 「ファムニス! 次行くよ!」 「はいお姉さん……ファムニス頑張ります……!」 ファムニスは続いて神楽舞「心」を舞うと、姉の知覚力を上昇させておく。ファムニスの舞いでリィムナの力が底上げされる。巫女の支援は戦闘にあって貴重な存在である。ファムニスは心を込めて舞う。 「よーし食らえー! あたしの雷撃で潰してあげるよ!」 リィムナはサイクロプスの頭部に雷撃を集中砲火して打ち砕いていく。リィムナの圧倒的な火力がサイクロプスを焼き尽くす。 嶽御前は上空に上がると、ハーピーを牽制していた。 「あの人面鳥達は、こちらの様子を見ていますが……死骸に群れるカラスのようなものでしょうか? 戦う気配がありませんが……」 嶽御前は形の良い眉根をひそめた。実際ハーピーはハイエナのような存在だが、数で群れてくれば駆け出しの開拓者であればたちまち魅了の歌声と毒の爪にやられてしまうだろう。 エラトは奏を駆り飛翔翼で旋回すると、激しい旋律を奏でる。演奏により魂を原初の無へと還すといわれる楽曲である。本来は荒ぶる神霊を鎮めるために編纂された曲であり、奏者によって表現方法は異なるものの、原曲は全篇演奏すると十分近くなると言われる。「魂よ原初に帰れ」である。吟遊詩人の広範囲の非物理攻撃である。 サイクロプスたちは咆哮して頭を押さえ、転がった。 続いて、エラトは夜の子守唄を奏でると、暴れるサイクロプス達を眠らせて行く。 「エラト! もう大丈夫だ!」 ルオウはサイクロプスを真っ二つに叩き斬り、将門はその胴を両断した。瘴気に還って行くアヤカシ達。 残る一体も、ルオウと将門が叩き割った。 「さて……と、残るはあの人面鳥だが……」 将門は見上げた。 「よし! 行くよ! 人面鳥もやっつけるよ!」 リィムナはチェン太に騎乗すると、舞い上がった。 ルオウと将門も「では行くか」と飛ぶ。 「ぴゅん太さん行きましょう……」 ファムニスも相棒に騎乗すると舞い上がった。 ハーピーたちは旋回していたが、一部が加速してくる。 エラトが「魂よ原初に帰れ」を奏で、リィムナがメテオストライクでハーピーの一団を一掃すると、残るハーピーは悲鳴を上げて退散していく。 開拓者達は追撃はしなかった。 戦闘が終わり、開拓者たちは探索に戻った。 エラトは今回の戦いで得た敵、特にキマイラの攻撃の種類、退治する際の敵のしぶとさ、物理・非物理どちらが効果があったかなどの敵の特徴を手帳に記載しておく。後日報告書形式に清書して提出するつもりだった。 「終わりましたが……さて」 エラトが手帳を閉じると、仲間たちは倉庫の中を再度確認していた。 「葡萄酒か。希儀の人たちの主食だったのかなー」 ルオウはあちこちに掘られた葡萄のレリーフを観察していた。 「そうかも知れんな。だが……肝心かなめの現地人がどこにもいないとはなあ……。他の場所の捜索に向かった連中の報告も気になるな」 将門は言って、倉庫の中を見渡す。彼らが降り立ったのは、希儀の南部、神殿跡地を取り巻く市街地であった。 「ここにはどんな人たちがいたのかなー。不思議。誰もいないってことはないよね?」 リィムナはチェン太に乗って、空を舞っていた。 「どうなんでしょう……みんな……どこかに行ってしまったんでしょうか? ファムニス心配です……」 ファムニスも、姉の側にいて、不安そうに地上を見渡す。廃墟は静まり返っている。 嶽御前は、瘴策結界「念」でアヤカシの討ち漏らしがないか確認していた。 「アヤカシはいないようですね。ひとまず近くに反応はありません。アヤカシの巣窟と言うわけではないようですが……気がかりですね。人々はどこに行ってしまったのでしょう……?」 嶽御前は茫漠とした不安に捕らわれた。それが何を彼女に告げたか。最悪の予感? それもある。だが、今は、この荒涼とした広大な世界に、踏み込むことへの畏怖があった。この新世界には、今まで感じたことの無い畏怖がある。これは、開拓の始まりなのだろうと、嶽御前は空を見上げた。 |