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■オープニング本文 十一月某日――。 俺の名前は雷牙。サムライの傭兵だ。今、俺は武天の鳳華って土地にいた。ここで傭兵団を率いて暴れまくったのは、もう随分前になる。俺は各地を転戦していた。今はもう、傭兵団は無い。辞めた。組織がでっかくなって、しがらみに捕らわれて、やりたくもない仕事を引き受けることも多かった。そんな生活に嫌気がさして、俺はまたこの刀一本で出直すことにした。 「雷牙、行くわよ」 この金髪の女は騎士で傭兵、名をリタって言う。今の、俺の相棒だ。傭兵にしておくにはもったいない美人だが、気性の激しいことこの上ない。だが腕は確かで、その辺の雑魚に後れはとらない。 さて、何で俺たちがこんなところにいるかって言うと、先日、ここ鳳華で、龍安家とアヤカシとの間にでっかい戦があった。龍安家は大勝利を収め、アヤカシどもは魔の森へ離散した――と聞いている。だが大アヤカシ不厳王(iz0156)は健在。この鬱陶しい魔の森も健在。そこで、家長の龍安弘秀は、大胆な手段に出た。不厳王が動かないのなら、魔の森へ攻め込むことにした、と言うことらしい。 龍安弘秀は大部隊を常時森へ送り込み、展開し、この不厳王の居城でもある魔の森を落とす賭けに出たようだ。正気の沙汰じゃねえ、と思った。これまで、魔の森への攻撃が成功した事例なんて無かった。各王国とも、魔の森については一番頭を痛めている存在であり、これまでの常識で考えたら、まず無い選択だ。 だが、何年か前から、風向きが変わってきた。大アヤカシ炎羅を倒してからだ。開拓者の連中は、これまで倒せなかった大アヤカシを撃破し、多くの魔の森を焼き払うことに成功してきた。それでも天儀の魔の森の僅かに過ぎねえが、確かに、これまでとは風向きが変わってきたことはみな知っている。 そこで今回の討伐作戦が実行に移され、各地からも俺たちのような傭兵が集められている。俺とリタが所属する中隊は、およそ五十人の兵隊で編成されている。若いサムライ大将が一人。開拓者にはサムライ大将と同格の権限があるそうだ。 最初に森へ入って目に飛び込んできたのは、飲み込まれた里の成れの果てだ。かつて里だった土地に、異形の木々が生い茂り、植物とも形容しがたい骨や髑髏のような形の物体があちこちに生えわたっている。瘴気の淀みが滞留して視界も悪い。 「止まれ」 サムライ大将の若い奴が言って、隊を止めた。 「何だありゃあ……」 俺はうめくような声を漏らした。 森と一体化した骨の砦が行く手を阻んでいるじゃねえか。屍人や怪骨、幽霊が周囲を徘徊してやがる。望遠鏡で見ると、砦の中から骸骨剣士や死人戦士が出て来て何か喚いてやがる。こっちにはまだ気づいてねえようだ。 ようやくして、後方と連絡を取っていた大将から命令が下りた。最初の任務は、あの砦を落とせってことに決まったらしい。 「上等じゃねえか」 俺は刀を抜いた。こうして、東の大樹海――このアヤカシのテリトリーで、俺たちの戦いが始まった。 |
■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
プレシア・ベルティーニ(ib3541)
18歳・女・陰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
フルト・ブランド(ib6122)
29歳・男・砲
桃李 泉華(ic0104)
15歳・女・巫 |
■リプレイ本文 華御院 鬨(ia0351)は女形をしていて、常に修行のために女装し、そこいらの女性よりも女性らしい雰囲気を醸し出している。今回はクール系の女重戦士を演じていた。 「今回は雄々しく戦わせてもらいやす……」 と力強く静かに意気込みをいう。 「ほう……さすがは開拓者の女だねえ。ただの剣客じゃねえな」 雷牙は言った。 「まあ、私には負けるけどね」 リタは言うと、けらけらと笑った。 すると華御院、すうっと目を泳がせて、 「そっちの男は、腰が悪い様どすし、無理しない方がええどす……」 と雷牙に言って、 「そっちの奥さんはサポート頼みやす……」 とまじめに勘違いした発言をする。 「何だって?」 雷牙は面白そうに言った。 「おいリタ、俺たちが夫婦だとよ!」 「おや、そう言う見方もあるんだねえ」 「違うんどすか……?」 「まあ、どっちでもいいじゃねえか。お前さんが言うなら、夫婦ってことにしておこうや。なあリタ?」 「調子に乗ってるとナイフで切り刻むわよあんた」 リタは、雷牙を凄い顔で睨みつけた。 「まあそれはともかく、大将はん……作戦はどうするつもりどすか?」 「決まってる。総員突撃、アヤカシどもを粉砕する!」 「ふむ……それはどうかと思いますが……」 華御院は顎に指を当てた。 「少し考えてみやした……。うちは初期遭遇時は紅焔桜と瞬風波で直線上の敵を一掃して骨の砦までの道を開けますから……その後は砦の警備兵を倒していき、骨の砦への攻撃をしやすくしやす。敵さんの反撃もありますやろ。あと、宝珠砲は呼んだ方がええかと思いやす……」 「む、うむ……」 コルリス・フェネストラ(ia9657)は、思案顔で進み出た。 「一つよろしいでしょうか」 「こ、コルリス殿、何か」 若い大将は緊迫気味にコルリスを見返した。龍安家のサムライ大将でコルリスの名を知らない者はいない。 「砦に進む際の基本陣形はサムライ、志士、泰拳士、騎士を前衛、残りを後衛とする衡軛陣を提案いたします」 「そ、そうですか……! 私も同じことを考えていました」 「陰陽師と魔術師のみな様は、防壁が作成が可能でしょうか」 「は、大丈夫です」 「では、魔の森を進む際、適所で防壁を作り敵の攻撃をしのぎながら砦に近づき、砦及び敵戦力を倒す方式を提案いたします」 「承知いたしました。では、そのようにいたしましょう」 「基本的な流れとして、味方サムライの咆哮で敵をひきつけ味方の攻撃を集中できる場所へ誘導し、誘い出した敵を魔法や遠距離攻撃での横撃や包囲しての攻撃で無駄なく倒し、前衛の負傷を味方巫女が順次治療し前衛を支え、砦の外の敵戦力を殲滅。砦に籠る敵は砦ごと攻撃し砦を破壊します」 続きまして――とコルリスは言った。 「砦破壊後も残る敵は砦の外の敵への対処と同じ要領で順次討ち取り殲滅。撃ち漏らしが無い事を確認後退却致します」 「そ、そうですな。では、そのように……!」 「ありがとうございます」 コルリスはお辞儀すると、味方戦力に向かう。 「みなさんよろしくお願いしますね」 挨拶後作戦内容を説明する。 「吟遊詩人で天鵞絨の逢引や剣の舞が使える方はおられるでしょうか」 「はい。大丈夫ですよ」 「では、戦闘中に使用し、味方の戦闘の支援をお願い致します」 それからコルリスは言った。 「砲術士の方には砂迅騎の方の横に並んでもらい、戦陣「横列射撃」や戦陣「砂狼」での支援をお願いしたく存じます」 「了解しました。スキルは大丈夫ですよ。お任せ下さい」 「では、砂迅騎の方には状況に応じそれらを使い、砲術士のみなさんの支援をお願いしますね」 「いくよヴェローチェ! ホネホネ砦をぶっ壊すんだ!」 リィムナ・ピサレット(ib5201)は言った。ヴェローチェは少女型からくりだ。 「にゃにゃ、リィムにゃん、あたしはリィムにゃんの盾になればいいのにゃ。任せておくにゃ」 「よろしくお願いねヴェローチェ!」 それからリィムナは仲間たちを見渡す。 「作戦は了解したよ! あたしの方では魔術で支援だね! 適時行っていくよ。任せて!」 「よろしく頼むぞ魔術師」 サムライ大将はリィムナにははっきりと言った。 「あんた、コルリスには弱いね」 「コルリス殿はここでは兵法家として知られているのだ」 「ふーん……」 「みなさん、フルトと申します。よろしくお願いします」 フルト・ブランド(ib6122)が言った。 「あまり時間はかけられないと思いますので、砦への突入は最後の手段とし、最初から砦ごと敵戦力を殲滅するのはいかがでしょう?」 「その意見も多いようですねえ……ふむ」 「自分は魔槍砲での魔砲メガブラスターによる貫通射撃で敵殲滅を支援いたします。後は、コルリスの作戦には賛成です。私も砲撃での支援に回りましょう」 「うようよと群がりよって、なんや城でも築いたつもりやろか? さっさと壊して次行こやぁ」 修羅の娘、桃李 泉華(ic0104)が言った。肩に白い小猿を乗せている。 「華御院はん何や怖い顔してますなあ。うち、初めての依頼で、血沸き肉躍りますわあ」 「桃李はん……みな、最初はありますが……うちは怖い顔してますが怖くないどすよ」 「もう綺麗な人やから。別嬪さんが台無しやで〜」 桃李は言って、にこにこと笑った。 「何やコルリスはんは経験豊富そうやな? 鳳華では顔馴染なん?」 「ええ。まあ。長い付き合いですからね」 コルリスは苦笑した。 「リィムナはんは可愛らしい子ですなあ。うち、しっかり守ってあげるからね。怪我したらおいでな〜」 「ありがとね桃李! でも無理しないで。まずは、戦いに慣れることからだよ!」 「まあねえ……フルトはんも最近動き出したばかりなんやなあ。うちと似たようなもんやろうか?」 「桃李、私もまあちょっと事情がありましてね……動いていなかったんですが」 「んならほとんどうちと同期ってことやな」 屈託なく笑う桃李に、フルトは苦笑した。 「ところで大将はん、とりあえず、シノビの人にでも攻めやすい場所でも見繕ってもろて、そこから狙ってみたらどうやろうか」 「うむ……では、まずシノビを放つとしようか」 それから、宝珠砲の到着を待って、開拓者達、龍安軍は攻勢に出た。 ――ドウ! と砲撃の一撃が撃ち込まれると、骨の砦はにわかに騒がしくなり始めた。アヤカシ達が咆哮して、ばらばらと出て来る。また、骨の砦から、耳障りな奇怪な咆哮が鳴り響いた。 「何だあの砦……それ自体アヤカシか?」 雷牙はうなるように言って突進した。 華御院は前衛として加速すると、紅焔桜&瞬風波を叩き込んだ。 「行きますどす……」 斬竜刀「天墜」から放たれた衝撃波が大地を奔る。アヤカシたちを薙ぎ倒す。 サムライたちが咆哮で引き付けると、龍安軍は銃撃や矢を放ち、魔法攻撃でアヤカシを倒していく。 作成された結界呪符やストーンウォールが味方を守る。幽霊たちは飛び回って咆哮した。 「前方からアヤカシ……約五十。来ますよ!」 コルリスは鏡弦の感覚を確かめた。 吟遊詩人たちがリュートを奏で、砂迅騎が砲術士たちを支援する。 「撃て!」 ドウ! ドウ! ドウ! と銃撃がアヤカシを撃ち貫く。 「行くよヴェローチェ!」 リィムナは前進すると、腕を振り下ろした。 「それじゃあ行ってみようか! メテオストライク! 続いて――ブリザーストーム!」 リィムナの超魔術がアヤカシ達を粉々にしていく。 接近する幽霊をヴェローチェが切り捨てる。 「にゃにゃ! リィムにゃんはあたしが守るにゃ!」 アーマーアックスで幽霊を真っ二つに。 フルトは横に回り込んでいくと、 「みなさん! 射線上から退いて下さい! 撃ちます!」 味方に警告後、魔砲「メガブラスター」による横撃を叩き込む。魔砲「大爆射」メガブラスター・エレ・ヴェルファー。魔槍砲の宝珠に練力を充填して光線を放ち、直線上の標的全てを攻撃する。閃光がアヤカシ達を貫く。 「何や凄いことになってきたなあ……うち生き残れるかな」 桃李は後衛として参加する。 「ほな行くでえ、みんな! 頑張りや! ウチの事護ってくらはる前衛さんには神楽舞・攻で火力底上げしたるで〜。けど、防御はかんにんやでぇ」 桃李は神楽を舞う。 「く……しまった! 甘く見たかっ」 負傷者が後退してくる。 「大丈夫か? 神風恩寵で直したるで〜」 「すまん桃李。痛いぜ……」 「お安いご用や。けど、男がほんくらいの怪我で泣き言言いな。ほれ!」 桃李は兵士の背中を叩いた。 「さーて、女の子は護ったらなあかんから、雑魚共に囲まれへん様にせなな」 桃李は兵士の女の子たちを神楽舞で支援する。 砲撃が続く――。 龍安軍は骨の砦に迫る。 「これ……生きとるようどすな。中に入るのは危険すぎるやろうか……」 華御院は、外側から天辰を叩き込んだ。砦の外壁が崩れると、にょきっと腕が生えて来て華御院を引きずりこもうとする。 「何どす……!」 アレエエエエエエエ! 壁から醜悪な顔が浮かび上がって来て、咆哮する。 「こいつはアヤカシどすか……」 華御院は天辰で顔を貫いた。後退する華御院。冷や汗が背中を伝う。 「華御院はん大丈夫か」 桃李が力の歪みを叩き込んでいた。 「こら砦の破壊は、範囲攻撃とかで広範囲削ってもろうて、核になるもんがあるんやったらそこ狙って潰していく……方がええかな。――と、うわ!」 ボコボコボコボコ! と地中が盛り上がって、桃李の足を骨の手が掴んだ。 「な、何やこれ!」 「化け物め……」 華御院は骨の手を叩き潰した。骨は瘴気に還って行く。 「こらとんでもないなあ」 「いったん退きましょう……」 状況を確認すると、リィムナの出番だった。 「そう言うことなら。あたしの出番だね!」 リィムナは宝珠砲部隊と連携し、メテオを連続で骨の砦に撃ち込みに掛かる。 「そっちがそう来るなら、こっちは外からの壊すまでだよ!」 弱そうな箇所、壁の薄そうな所に集中砲火を行う。 「受けてみろ! ギガンティック・エクスプロージョン!」 1ターンにメテオ2連発するリィムナの必殺技である。 壁が粉々に吹き飛び、穴が開く。 フルトは骨の砦に向け移動を開始する。取り囲んでいく味方前衛の動きに合わせて、自分が攻撃以外の時は前に出ないよう注意しながら動く。 「では砲撃を行います。みなさん退避して下さい」 フルトはファストリロードで再装填しつつ魔砲「メガブラスター」で骨の砦を破壊する。閃光が砦を貫くと、骨は瘴気に還って行く。 「行きますよ――!」 フルトは魔砲「メガブラスター」を発射、練力の続く限り撃ち続ける。 コルリスは友軍を指揮しながら、前進していた。 「どう見ますコルリス殿」 「そうですね……このまま、砦を破壊していくのが良いかと思いますが……どうでしょう。下手に踏み込むのは危険な感じですが」 リィムナは引き続き、崩れた場所から内部にメテオを撃ち込んでいく。 「巫女さんよろしく! 神楽舞「心」を掛けてもらえると嬉しいな!」 「にゃにゃ!」 ヴェローチェは砦内から飛んできた骨の矢を、リィムナを庇って無痛の盾で受け止めた。矢がヴェローチェを貫通する。 「ヴェローチェ!」 「大丈夫にゃ。私はリィムにゃんの盾になるにゃ」 「ヴェローチェ……ありがとうね」 リィムナはいったん後退する。 「コルリスはん、前衛部隊で、内部を制圧してみてはどうやろうか……」 華御院の言葉に、コルリスは頷いた。 「ではお任せします」 「少し行ってきますどす……」 華御院は兵を率いて骨の砦の中へ入って行く。 砦内は不気味な心音がこだましていた。 あちこちから手足がのびていて、蠢いていた。壁に浮かんだ顔からは、悲鳴や笑声、絶叫が発せられている。 「何とも言い難いですな」 「ん? あれは……」 華御院は、砦の中心で、巨大な柱と一体化した死骸兵たちの人柱を発見した。心音は、その死骸兵の柱からこだましていた。 「華御院殿……」 「一気に叩き潰すどす……行きますよ!」 華御院、兵士達は人柱に切り掛かった。 アレエエエエエエエ! 瞬間、人柱は咆哮して、強力な呪声を全包囲に放射した。 「ぐあ!」 兵士達は頭に響く呪声に倒れる者がいた。 「怯まず……押しこみます!」 華御院らは突進、そのまま激突し、人柱に刀身を叩き込んだ。悲鳴と絶叫がこだまする。やがて、人柱は瘴気に還って行く。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……と砦が震える。 「崩れます! みな、急ぎます! 脱出しますどす!」 華御院らは倒れた兵士を担いで脱出した。 「華御院さん……戻ってきましたね」 コルリスは安堵したように吐息した。 崩壊していく砦に、総攻撃を掛ける。 「全弾発射! 止めを差しましょう!」 「撃って撃って撃ちまくれ!」 「翔!」 コルリスも月涙+響鳴弓の合成技を叩き込む。 リィムナもありったけのメテオを叩き込んだ。 フルトは警戒に当たり、桃李も支援に当たった。 そうして、遂に骨の砦はその全体が瘴気に還って行く。悲鳴の残響を残して、骨の砦は消滅した。 ……事後。 華御院は魔の森に何か残っていないか、アヤカシかその他に重要な物がないか、を調査しておく。 「……?」 華御院は目を凝らした。 少女がいる。おいでおいで、と華御院を手招きする。華御院は脚が出そうになったところで我に返った。 「危ない……」 華御院がもう一度見ると、少女の姿は消えていた。 「どうやら無事に終わったようですね」 コルリスは退却の準備を進める。 「リィムナはん、凄いなあ。可愛いだけやないんやな。大魔術師やな」 桃李は、リィムナに言っていた。 「えへ、まあまあかな。桃李も大変だったね!」 「うん、まあな。うちもいい経験になったわあ。フルトはんもお疲れさん」 「ええ、大変な相手でしたね。不厳王の支配する森ですか……本当にここを落とせるのでしょうか」 フルトは言って、森の奥を見つめた。 こうして龍安軍は、まずは魔の森の外縁を押さえることに成功していた。 |