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■オープニング本文 『立ち入り禁止区域だよ! ここからは入っちゃ駄目! 不厳王ちゃんからの忠告だよ!』 魔の森を前進していた龍安軍の一隊は、あちこちでそのような立て看板に遭遇していた。 「何だこれ……?」 中隊のつわもの、傭兵の雷牙は、その子供のような落書きに眉をひそめた。 「不厳王って……あの大アヤカシよね? 何かの警告かしら」 雷牙の相棒の傭兵、リタは、眉間にしわを寄せた。 「分からんな……あの不厳王のことだ。人間相手に余裕のつもりなんだろうが……前回の戦いでも分かった通り、この森は生きてやがる。不厳王の奴……とんでもないトラップを仕掛けやがったな」 雷牙はうなるように吐息した。 東の大樹海――この不厳王の魔の森は恐るべきもので、上空から奥地へ接近していた飛空戦艦が一隻、森から伸びてきた巨大な幽霊の「手」によって鷲掴みにされ、森の中へ引きずり込まれる事件が発生していた。 雷牙とリタが同行する中隊は、立ち入り禁止区域の立て看板を越えて、森の奥へ進んでいく。 ケタケタケタケタケタ……。 どこからともなく笑い声が聞こえる。 ケタケタケタケタケタ……ケタケタケタケタケタ……! 「何だ?」 中隊は立ち止り、周囲を見渡した。 「おい! あそこ!」 「何だ?」 大きな骨の手に止まっていたのは、もふらの着ぐるみ姿の小人不厳王だった。 「もー! ふごちゃんが入ってきちゃ駄目って言ったのにー! ここはふごちゃんのお庭なんだよ!」 まるもふ不厳王はどうやら人格が幼児化しているらしい。 「ふざけるなよ」 雷牙は矢を放ってまるもふ不厳王を撃破した。まるもふ不厳王は一撃で消滅した。 と、森に妖しいピンク色の霧が立ち込めて来て、木々もピンク色に光り始めた。 ケタケタケタケタケタ……! ケタケタケタケタケタ……ケタケタケタケタケタ……! ケタケタケタケタケタ……ケタケタケタケタケタ……ケタケタケタケタケタ……! 「何!?」 あちこちの骨の枝に、まるもふ不厳王が姿を見せると、それらはきゃいきゃいと騒ぎ始めた。 「侵入者ー! 侵入者ー! 一号は直ちに本体に連絡ー!」 「了解! 二号以下、総員は防御結界を起動! 人間どもを一歩たりとも通すな!」 「らじゃっ、えいえいおー! 結界を起動!」 「結界起動!」 あちこちでまるもふ不厳王が騒ぎ出すと、中隊に異変が起き始めた。 「くすくすくすくす……雷牙あ♪」 リタが、甘ったるい声を出して雷牙に抱きついてきた。 「うわ! 何すんだよリタちゃん! やめてよっ ――!? あれ!? 僕何か言葉がおかしいよ!?」 雷牙は、抱きついてくるリタに締め上げられ、悶絶しながら倒れた。 突如泣きだす者、歌い出す者、笑いだす者、踊り出す者、この恐るべき異変は、中隊を混乱に陥れた。 やがて、この状態異常から抜け出した中隊は、疲労と虚脱感に襲われ後退した。 「なんてこった……」 雷牙は、野営地でどかっと腰を下ろした。 聞くところによると、他の中隊も全てやられたという。 どうやら、まるもふ不厳王が展開する結界の中では、人格が幼児化し、混乱状態に陥るらしいことが分かった。 「さて……どうするかね」 「あのまるもふううううううう! ぶち殺してやる!」 リタは骨の木をスマッシュで粉砕していた。幼児化した記憶が相当堪えたらしい。 まるもふ不厳王にさしたる攻撃力は無い。だが、一つの中隊に付き百体以上のまるもふ不厳王達が森に展開してこちらを結界で包み込むようだ。ひとたび結界が起動されれば終わりだろう。しかもこのまるもふ不厳王、透明化能力を使うようだ。 「だが……恐らく奴らは看板を越えて来た敵を認識して術を起動させるだけのパターン行動をしているだけだろう。そんなに高い知能を持っているとは思えない……が」 雷牙は呟き立ち上がった。 若い中隊長は頭を悩ませていたが、ここはひとつ、思案のしどころだった。 |
■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
アリス・ド・華御院(ib0694)
17歳・女・吟
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔 |
■リプレイ本文 「防御結界としては、なんとも奇をついていて、対策するのが難しいですね」 と冷静に感想を言う華御院 鬨(ia0351)。今回は修行は休みとして女装していないようだが、外見は男装している女性にしか見えなかった。 「へっ! て、うっわ〜……なんかムカつく着ぐるみどもだな〜……」 言ったのは赤毛の熱血ルオウ(ia2445)少年。 「あら、でも可愛いアヤカシさんですね。ここで歌えばお遊戯会になりますね」 とのっぺりと不謹慎な感想を言ったのはアリス・ド・華御院(ib0694)。華御院鬨とは異母兄妹であった。 「ちび不厳王ズのまるもふ軍団だって……? 全然可愛くないしやっつけよう!」 言ったのは大魔術師リィムナ・ピサレット(ib5201)。 「さーて、どうする?」 雷牙が言うと、鬨は思案顔。 「まずは敵を二分割できないでしょうか。二分割づつして、できないなら少しづつ分断していき、各個撃破で。それから、立札を引っこ抜いてみて、相手の反応を待ってみましょう。相手が怒って、無警戒にこちらに来れば、作戦成功です。それから、まるごともふら不厳王が何にせよこちらに向かってきてくれる場合を想定して罠、落とし穴や飛矢などを仕掛けて、相手を分断し、倒していきましょう。いずれにしても、立札の向こうには入らない方が良いでしょう。あと、透明化対策ですが、防御結界の影響がなく近づけそうな場合やまるごともふら不厳王がこちらに近づいてきてくれる場合などに、色水や泥などの液体を周囲にまき散らして、物理的に判別できる様にして、透明化対策をしておいてはどうでしょうか」 「そうだなあ……ま、向こうには行かない方が無難か」 「俺もおびき出すのに賛成だな! 馬鹿っぽいし、挑発して、立札から引きずり出す方向でいいんじゃね?」 ルオウは言って、腕組みしていたずらっぽく笑った。 「わたくしもお兄様の提案に従って、まるごともふら不厳王が怒ったりして近づいてくる様ならば、口笛を使用して相手を和ませてあげましょう。それから、まるごともふら不厳王の移動をこちらのよい様に動かす――罠などに誘い込んだり、透明化して見えなくなった敵をある程度一定の場所に引き寄せたりなど――ために、偶像の歌で近くの物や者を怖いものにしたり、興味深いものにして、まるもふさんの興味を惹かせる様にしてみましょう。とりあえず、まるもふさんには普通に話しかけて、普通に歌う事で、まるごともふら不厳王に楽しんでもらって気を引いてみましょうか」 アリスは言って、思案顔で指を顎に当てた。 「ばし! とやっつけなきゃね! 立て札の手前から挑発等で誘き寄せを行い、ついてきた奴等を各個撃破するよ。誘き寄せはそれぞれ時間差をおいて行った方がいいだろうね。敵はバカっぽいから別々に分断できると思う♪ みんなには後方で待機してもらって、誘き寄せて連れてきた敵を一斉に遠距離攻撃して撃破してもらえるかなあ。ヴェローチェも後方でお願いね」 「了解したにゃ、リィムにゃん」 「バカそうだな〜」 ルオウは立て札を読んで思わず呟く。 「雪がいたら『ボンに言われたらおしまいですねぇ』とかぼやかれそうだけどなあ」 「さて、では始めてみましょうか」 鬨は立札を引っこ抜いて、踏み潰してぐちゃぐちゃにした。 「不厳王さん、あなた達の立札を……こうして、ぎたぎたに、ずたずたにしてあげますよ」 鬨は片っぱしから立札を壊していく。 ……と、まるもふ不厳王が姿を現し、杖を振り回して「きーきー」走って来た。 「こらー! お前なにやってるんだー! ふごちゃんの注意書きを何だと思ってるー!」 まるもふ不厳王がばらばらと集まって来る。 ルオウは、まるもふをじっと上から下まで見てから、 「かっこ悪っ!」 と本心をつい叫んでしまう。 「何だとこのガキ!」 ぎゃあぎゃあと騒ぎ出すまるもふ不厳王。 「ふん、や〜い、や〜い、バーカ。ちーび、悔しかったら出て来てみー」 ルオウは挑発を開始。 「きいいいいい!」 まるもふ不厳王たちは、立札を越えてルオウを追い掛け始めた。 「ばーか、ばーか、俺はこっちだよー。こいよチビ!」 ルオウは引き付けて走り始めた。 「みなさん、これが何か分かりますか?」 鬨は、立札を持ち上げた。 「それは、ふごちゃんのメッセージ! 元に戻せ!」 「こうしてあげます」 ばきい! と鬨は立札をへし折った。 まるもふ不厳王はわなわなと震え始めた。 「こ、このー! しばく!」 どどどどどどっ、とやって来るまるもふ不厳王は、次の瞬間、掘ってあった落とし穴に押しくらまんじゅうのように落ちて行った。 「きゃああああ!」 「落ちたあああ!」 「助けてー!」 また、別の場所で、アリスは口笛を吹いてまるもふ不厳王たちの気分を落ち着けていた。 「あらあら、そんなに怒ってしまっては、楽しいことも台無しですよ」 「楽しいことって何だ?」 まるもふ不厳王はアリスに群がってきた。 「ほら、あそこ、髑髏の花が咲いているでしょう? ああ〜、可愛らしい、髑髏の花が〜、あなた達を誘っているわ〜。ほら、一緒に見に行きましょうよ」 アリスはまるもふ不厳王たちを引き連れて、歩きだした。 「さあさ、みなさん、一緒に歌いましょう。一日がホリデイ♪ 毎日がホリデイ♪ 魔の森がホリデイ♪ 楽しくホリデイ♪」 まるもふ不厳王たちは、アリスに続いて歌い始めた。 「一日がホリデイ♪ 毎日がホリデイ♪ 魔の森がホリデイ♪ 楽しくホリデイ♪ ――!? うわあああああああ!」 次の瞬間、まるもふ不厳王たちは落とし穴に落ちた。 「お前ー! 騙したな!」 「あらあら、そんなに怒ったら駄目ですよ♪ おしくらまんじゅうで楽しくやりましょう♪」 アリスは口笛を吹き始めた。 「おしくらまんじゅう〜、きゃあきゃあ! 邪魔だ! 動けない!」 まるもふ不厳王たちは騒ぎ始めた。 「あんた達、まるもふ着てるのに全然可愛くな〜い♪ あたしの方が百億倍可愛いよ♪ キモもふら〜♪ 悔しかったらこっちおいで〜! おしりぺんぺ〜ん♪ あっかんべー!」 リィムナは尻を叩き、舌を出して挑発する。 「きいいいいい! ふごちゃんを馬鹿にしたなー! このチビ!」 「きゃはははは♪ キモもふら〜♪ キモもふら〜♪ こっちへ来−い!」 「このー!」 まるもふ不厳王たちは立札を越えてリィムナを追い掛け始めた。 「キモもふら〜♪ キモもふら〜♪ ほい!」 反転したリィムナは、メテオストライクでまるもふ不厳王たちを薙ぎ払った。砕け散るまるもふ不厳王たち。瘴気に還っていく。 鬨は落とし穴の中に瞬風波を叩き込み、まるもふ不厳王たちを撃破していく。 「まあ、さっさと片付けてしまいましょう」 鬨は後方の味方に合図して、一斉射撃を要請。兵士達は立ち上がると、前進して来たまるもふ不厳王たちを一斉攻撃で射抜いた。悲鳴を上げて消滅していくまるもふ不厳王たち。 逃げ出すまるもふ不厳王を追撃し、鬨は紅焔桜&天辰で切り捨てた。 「た、助けて! ふごちゃんは本当は良い子なの!」 「そうですか」 鬨はにこっと笑って、まるもふ不厳王の首をはねた。 ルオウは追いかけっこをしていたが、 「お遊びはここまでだぜ! まるもふども!」 反転すると、最前列のまるもふ不厳王を切り飛ばした。 「あああ! お前なんてことをー! 暴力反対!」 押し寄せるまるもふ不厳王。 「あほか〜! アヤカシのくせに間抜けなこと言ってんじゃね〜!」 そこでルオウは突撃して、回転切りで薙ぎ払った。続いてまるもふ不厳王を斬り殺していく。成敗! を一体倒す毎に行い練力を回復させていく。 「ではみなさん、宜しくお願いしますわ」 アリスは言って、友軍にまるもふ不厳王たちを刈り取らせていく。 ――やがて、まるもふ不厳王たちはことごとく刈り取られた。 「このまるごともふら不厳王を着ていれば、森の中でも襲われないのでしょうか」 鬨は、転がっているまるもふ不厳王のまるもふをはぎとれないか試してみる。 アリスは鬨がもふらをはごうとしているのを見て、 「これ、可愛いですから、持って帰ればきっと子供達は喜びますよね」 と鬨の意図とはことなる解釈をして勝手に納得する。 「や、やめろー!」 まるもふ不厳王が叫ぶので、鬨は「駄目ですか」と始末した。 こうして、開拓者と龍安軍は再び前進を開始した。 「やっと進めるようになったね〜」 リィムナは先頭に立って進む。 透明化した敵が潜んでいる可能性もあり、結界に全員がかかるのを防ぐ為、幾つかの部隊に分け安全確認をしつつ順次進む。 「……おのれ……人間どもー、ふごちゃんを騙したなっ……」 生き残っていたまるもふ不厳王が先頭のリィムナに結界を掛けた。 「あ……!」 リィムナはブリザーストームでまるもふ不厳王を倒したが、術に掛かってしまった。 突然泣きだすリィムナ。 「うぇ〜ん、ヴェローチェお姉ちゃんどこ〜」 「り、リィムにゃんどうしたにゃ」 リィムナはヴェローチェに抱き付き、そのまま安心して寝てしまった。 「にゃ……リィムにゃん可愛いにゃ〜♪」 ヴェローチェはリィムナを抱っこして撫で撫で。 ――まるもふ不厳王を撃破した龍安軍、開拓者達は、前進を開始した。 |