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■オープニング本文 師走、神楽の都開拓者ギルド――。 開拓者たちの間で、忘年会の話が出ていた。 「今年も色々あったけど、どこかでぱーっと嫌なことも忘れて騒ぎたいねえ」 「そうねえ。みんなで集まって、飲んで騒いで、楽しくやりたいわよねえ」 「目を向ければアヤカシに侵されたこの世界……俺も、たまには休みたいよ。アヤカシと戦うのも時には忘れたいしさ」 「開拓者って言っても、スーパーマンじゃないからね。たまにはリフレッシュしないと、明日への活力も無くなっちゃうよ」 「今年最後くらい、羽目をはずして、飲んで歌って……良い思い出を作りたいところだなあ」 「誰かと繋がっていたい。開拓者だって、ささやかながら思うところは同じだよ。それに、私たちは一人で戦い続けているわけじゃないしね。いつも、支えてくれる仲間がいる。なーんて、心のうちではみんなどこかに寂しさを抱えてるよね」 「そんな寂しさを共有できる仲間も欲しいってか」 「何だよお前ら、話しは決まってんじゃん。人数の確保だけど、これは依頼に出した方が早くね?」 そんなわけで依頼を出すことにした開拓者たち。そこでふと思い立つ。 忘年会と言えば幹事。せっかくの会もきちんと店を押さえて手際の良い人が良い。さて誰が幹事をやるかで開拓者たちは思案した。万が一ということもあるので、確かな人が良い。 そんな時だった。開拓者ギルドへ藤原家側用人の芦屋馨(iz0207)が姿を見せた。馨は神楽にも拠点を構えていることでも知られていた。 「なあ……もしかして引き受けてくれないかなあ?」 開拓者達は馨のもとへ歩み寄った。 「芦屋さん」 「はい?」 「何してるんですか?」 「ちょっとギルドの様子を見にですね。気になる事件などがないか」 そこで、開拓者達は幹事の件を切り出した。すると、芦屋は快く引き受けてくれた。 「いいですよ。みなさんにはお世話になってますし。私で役に立つことがあれば。たまには」 馨はにこっと笑った。 「よっしゃ〜! 幹事も決まったことだし、じゃあ、依頼出しに行こうぜ〜!」 「芦屋さんありがとう〜」 かくして、師走も半ばに差し掛かったギルドに、「忘年会やります!」と言う形で、募集の依頼書が張り出されることになるのだった。 |
■参加者一覧 / 華御院 鬨(ia0351) / 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / からす(ia6525) / 村雨 紫狼(ia9073) / コルリス・フェネストラ(ia9657) / アリス・ド・華御院(ib0694) / 長谷部 円秀 (ib4529) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / ファムニス・ピサレット(ib5896) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / 衝甲(ic0216) |
■リプレイ本文 「みなさま、本日はお集まりいただき、ありがとうございます」 芦屋馨は言って、集まった開拓者を前ににこやかな笑みを浮かべた。 「今年も一年、本当にお疲れさまでしたね。今日は、みなさんで楽しく過ごしましょう。では、コルリス様、乾杯の音頭を取って頂けますでしょうか」 「承知いたしました」 コルリスは立ち上がると、杯を掲げた。 「では、飲めない方は果実飲料かお茶にてお願いします」 コルリスは一同を見渡し、頷いた。 「ではみなさん。苦楽を共にした今年一年を振り返って、また来る新年に向けて、乾杯!」 「かんぱーい!」 開拓者たちは杯を掲げた。 芦屋が予約を取った店は、宴席用の大部屋だった。まずは前菜のお造りが運ばれてくる。 「……う、まずい」 忘年会にうきうきで来たエルレーン。だが参加者の中に、自分を仇敵としていつも殺しにかかってくる兄弟子ラグナ・グラウシードを発見。このままではせっかくの忘年会が台無しに……考えたエルレーン、お手洗いに掛け込むと、こんなこともあろうかと用意していた金髪ロングヘアのウィッグをかぶり、普段はしない化粧をし、貧乳な胸をつめもので底上げする。 「こ、これでバレないはずっ」 戻って来たエルレーンは席に付いた。 「忘年会だぞうさみたん! 今年もいろいろ残念なことがあったからな、酒を飲んで忘れよう……い、いや、彼女が今年もできなかったことじゃないぞ?」 当のラグナはエルレーンに気付かず、背負っているうさぎのぬいぐるみ、うさみたんに向かって言った。 「客として過ごすのも相手の気持ちを知る修行になりますね。いや、それでは休暇になりませんか」 華御院はつい修行の事を考えてしまうが、お造りに箸を伸ばした。 「華御院さん、いかがですか一献」 「ああ、どうもありがとうございます」 芦屋の御酌を受けて、華御院は笑みを浮かべた。 「馨さんも、今年一年お世話になりましたね」 「そうですね。鬨さんにも助けられましたね」 芦屋は懐かしそうに笑った。芦屋にとって、この一年は早かった。 「お兄様もいることですし、お知り合いの方もいますので、わたくしも参加させていただきました」 アリスは、芦屋に礼儀正しくお辞儀した。 「アリス様にも、お世話になりましたね。ありがとうございます」 「馨さん、お会いするのも久しぶりですね♪」 柚乃が言った。 「あら、柚乃さん。お久しぶりです」 「今年も色んな事がありましたね。からくり異変や東房の魔の森、浪志隊の事件もありましたし、猫族のお祭り、それから何と言っても新大陸の発見ですね」 「柚乃様も東奔西走されたようですね」 「はい♪ おかげさまで元気に、世界を飛び回ってきました」 言って、柚乃はお酒を飲んだ。 「今日は思い出に持って帰りたいですね。色んなこと……。ところで、こちらのお酒は何ですか?」 「武天の地酒、麓王ですね」 「そうですか〜。ちょっと珍しいお酒ですね♪ おいしいです」 くびくびと飲んでしまう柚乃。 「馨さんこんにちは! こっちは妹のファムニスだよ!」 リィムナは妹のファムニスを紹介。 「本日はよろしくお願い致します」 「またまた〜馨さん真面目なんだから!」 「ファムニス・ピサレットです……よろしくお願いします」 リィムナとファムニスは蜂蜜入りのホットミルクを飲みながら笑顔を浮かべた。 「ラグナさんどうもです。良く依頼で一緒になりますよね。真夢紀です」 「ああ。礼野か。今日もまた会ったな」 ラグナは言って、ぐいっと酒を飲んだ。 「前から思ってたんですけど。そのうさぎさん、ご自身のお手製なんでしょうか……? ぜひ白いドレスをプレゼントしたい兎さんですよねー、リボンもあると可愛いかなー?」 「う……うむ? いや……これはだな、うさみたんと言って、俺の心の友なのだ」 「へー、うさみたんって言うんですか? 面白い」 真夢紀は笑って、うさみたんに触った。 「かわいいですねー。いつか、今度ドレスを差し上げますね。かわいいもの」 「そいつはどうも」 ラグナは苦笑した。 「あ、冗談じゃないですよ。本当に可愛いって思ってるんですから」 真夢紀は目をぱちくりさせて、小さく頬を膨らませた。 そうこうする間に鍋が運ばれてくる。 「みなさんのご要望に出来るだけお答えして、肉と魚、両方の寄せ鍋を手配しておきました」 芦屋が言って、開拓者達に伝えると、みなさっそく鍋に箸を伸ばす。 「鍋か……やはりこの時期はこれに限るな。天儀に生まれて良かった」 からすは言って、牛肉と野菜を取り分けた。意外に豪快にぱくり。 「ふむ……おいしいね」 「カラス様、魚の方も取って差し上げましょうか」 コルリスが言うと、からすは笑った。 「ああ、ありがとうコルリス殿」 それからからすは、コルリスに茶を立てた。 「私も鍋奉行だが、コルリス殿も大変だな。茶でもどうだ」 茶席を設けていたからす。 「おや、では頂きましょうか」 コルリスはありがたく頂戴する。 慣れた手つきで茶を立てるからす。「ほう」とコルリスは感心した。 「では、ひとつどうぞ」 「頂きます」 コルリスは茶を頂くと、吐息した。 「結構なお味でした。おいしいです」 「よおからすちゃん! 俺にも一杯もらえるかなー?」 言ったのは村雨。村雨、クリスマス仕様で、赤い三角帽に白ひげの牛ぐるみを装着していた。 「ふふ……面白いな、村雨殿は」 からすは言って、茶を立てた。 茶を飲んで、村雨は芦屋に言った。 「誕生日が俺と二日違いのカオルたん、ハッピーうれピーよろピクね〜☆ 今日は鍋食い放題と聞いてきますたよー!」 「村雨様、楽しんで下さいね」 と、村雨、咳払いをして、みなに来年の抱負を発表する。 「ちょっと聞いてくれないかみんな。俺の来年の抱負っつーか計画を発表ッ」 仲間たちは、鍋をつつきながら、村雨の話を聞いていた。 「まー実はな、来年三月で開拓者家業は休業するんだ俺。開拓者家業は何て言うか……まあ俺の思いとは違って……俺たち開拓者が本当に人々の役に立ってるか……常に悩んでいたんだ。これからは神楽の街を拠点に、相棒のカスタム土偶やからくりたちと格安で日常の助っ人に働く『何でも屋』をやる予定なんだ。うん、名付けて『よろず屋シロちゃん』!」 村雨の宣言に、驚く開拓者たち。 「村雨様、休業されるんですか? 本当に?」 芦屋は言って、お酌する手を止めた。 「ああ……もう決めたんだ」 「そうですか。ですが、応援していますよ。またいつでもギルドへ来て下さいね」 そこで柚乃がオカリナを取りだした。 「では、村雨さんへの応援も込めて、一曲演奏させて頂きますね♪」 柚乃はオカリナを吹き始めた。 「さてさて、宴はこれからだ。みんな、食べてくれ」 からすは卓全体を見て管理を行う。鍋食材や酒等飲料の追加、酌、配膳。 「性分なんだ。気にしないでくれ」 鍋奉行ぶりを発揮するからす。 「エスニック料理を食べてみたいなあ。いいですか?」 真夢紀が言うと、芦屋がオーダーをしてくれた。運ばれてきたのは、スパイシーなチキン料理と赤いスープ。こわごわと口に運んでみる真夢紀。 「ん〜! これは……香辛料が利いてますね〜! ちょっと変わったお味」 コルリスは芦屋をサポートしながら、こちらも鍋奉行を発揮していた。食材の追加や、飲み物の追加を手伝う。そして、自分自身も酒をそこそこ飲んでいた。コルリスは表にはアルコールの変化が出ない天然ざる体質であった。 「それじゃわたくしも、柚乃様に合わせて、アカペラで」 アリスは言うと、偶像の歌で歌い始めた。仲間たちが手拍子を打つ。 「あ〜あ〜、明日の日も〜、今日の日も〜、道は続いて〜、行きます〜……」 長谷部は、杯を傾けながら、挨拶回りを。 「鬨さん、コルリスさん、今年一年もお疲れさまでしたね。鳳華の地では、よくお世話になりました」 「いえいえ。こちらこそ、ですよ」 「長谷部様にも、お世話になりました」 「リィムナさんとは、馨さんの護衛依頼で一緒になりましたね」 「そうだね円秀! あのお公家さん、馬鹿だったね〜」 「馨さんも忙しそうでしたし、お疲れ様でしたね」 「長谷部様には、幾度となく助けて頂き、感謝しております」 「何を。明日、来年を良く生きるために今年を想い、良い年であったと言いたいですね」 「真に」 リィムナは笑って言った。 「今年も色々あったね〜。ヘンタイ貴族さんの魔の手から馨さんを守ったりね♪ また一緒にお風呂に入りたいな♪ 今度はゆったりのんびりと♪」 「お風呂……いいなぁ。今度は私もご一緒したいです……」 微笑をうかべるファムニス。 「あの時は、ありがとうございましたリィムナ様」 それから、リィムナは続けた。 「後はそう、たった4人で上級アヤカシを撃退したんだよ! コルリスさん、あの時は大変だったよね〜」 「そうですね。私も死ぬかと思いました」 「あはは♪ ファムもよく頑張ったよ! 今度現れたら必ず仕留めたいな!」 「上級アヤカシ……お、思い出しちゃいました……(ぶるぶる) 猪王……今でも撃退できたのが信じられないです。次……戦う事があるなら、もっと修業を積んでいきたいです」 ファムニスが言うと、リィムナは飲み物とお茶漬けを追加する。 「コルリスさん、注文していいですか」 「どうぞ」 「姉さん……もうその位にしておいた方が……水分取り過ぎるとまたおねしょむぐうう(口を塞がれる)」 「……わー! ファム言っちゃダメ!(ファムの口を押さえ)」 リィムナは手近なお酒を掴むと、ファムニスの口に流し込んだ。 「これ飲んでなさい!」 「うう……?」 ファムニス、顔色が青色から赤色に変わっていく。 「うーい……ひっく……あはははは! あっつーい!(上衣をがばっと肌蹴る) えけけけけ!(不思議な踊りと化した神楽舞を舞う)」 「あ、やば……そ、そうだ! ファム解毒を使って!」 「んい……げどく……? ファムとくい! とりゃー♪(解毒で泥酔から回復)」 ファムニスは意識を取り戻した。 「あれ……私は何を……?」 リィムナは冷や汗。 「ふー、よかった……えへへ♪(笑って誤魔化す) ファムニス、料理おいしいよ!」 「うん……お料理美味しいです……(ぱくぱく)」 「はうっ……!」 ラグナはそこで、ようやくエルレーンに気付き、衝撃を受けた。忘年会会場、自分の真向かいに座った女性(注:エルレーン)の姿を見たラグナに衝撃が走る。……綺麗な金髪のロングヘア、グラマーな胸、妖艶な化粧を施した美女。ラグナの好みにドストライク! 「あ、あの! ……よ、よければこの後、二人で何処かにいきませんか?」 勇気を出してナンパした。しかしラグナは知らない。それが変装した宿敵・エルレーンであることを……。 (あれ……もともとおばかさんだと思ってたけど……ラグナって、ここまでおばかさんだったっけ……?!) むしろ馬鹿すぎて泣けてきた。 「あ……ご、ごめんなさいラグナさん……わ、私もう結婚していますの」 「ええ……!」 がーん、とショックを受けるラグナ。 「そ、それは失礼しました」 ろくにまだ依頼も出てないくせに忘年会はちゃっかり参加してる衝甲。ほかの開拓者が「今年はこんな依頼で大変な眼に……」とか話しているのになんとかまじろうと思って「いやあ俺もまだ5、6回しか出ていないのですが」とか微妙な水増しをしていたが……。 「あれ? 衝甲様って、つい最近登録されたばかりの方じゃなかったでしたっけ?」 と指摘を受ける。 「あ……? いえいえ……はは……いやあ……ごめんなさい! 俺、駆け出しでしたー!」 駆けだしと言っても29歳の衝甲。これまでの苦労話を交え、すぐに打ち解けた。鍋をがつがつと頬張りながら、ベテランたちの体験談を聞かせてもらう。 「そうですかあ……鳳華って危険な依頼が多いんですか」 「ええ。まあ、大アヤカシ不厳王がいましてね」 コルリスは衝甲に具材を取り分けながら言った。 「と言っても、あそこも最近は開拓者有利になって来たけどね! 今、不厳王を追い詰めているところなんだよ!」 リィムナの言葉に、衝甲は「なるほどー」と聞きながら肉を頬張る。 「今でもアヤカシの被害は絶えませんが、私たちは幾多の大アヤカシを倒してきましたからね。その意味では、人間の世界にも大きな転機が訪れて来た、と言えるかも知れません」 長谷部の言葉に、衝甲は頷く。 「開拓者は歴史を作っているんですなあ」 と、その時だった。 華御院鬨が泣き始めた。普段は修行中の心持ちなので酔わないが、気を抜いてしまったために酔っぱらってしまった。七変化の様に性格が変わり、芦屋や女性陣に抱きついたり、突然泣き出したりなど周りに迷惑をかける。そして――勢いで、エルレーンのかつらが取れてしまう。 「あっ……!」 「何……!? お前は……!」 ラグナは目を見張って、目をこすった。麗しきブロンドの麗人が、今確かにエルレーンに見えた。 エルレーンは慌ててかつらをかぶり直した。 「あれ……? 今確かに……?」 「な、何ですのラグナさん……さあさ……飲みましょう」 「はっはっは……そうですね。エルレーンがこんな美人なわけが無い。はっはっは!」 (ちっ……ラグナ……いつか殺す) アリスも酔っぱらって、芦屋に乙女トークを仕掛ける。 「馨さ〜ま、彼氏とかいないんですか? あっ、もしかしてお兄様と何かあるんで〜すか」 「そうですね。良い人がいなくて。鬨さんのことは好きですよ。もちろん友人としてですけどね。信頼もしていますよ。何度も助けて頂きましたし」 芦屋は、からすの薬草茶で眠らされた鬨を見て、口許に優しげな笑みを浮かべる。 「ゆっくりお休み」ニヤリ からすは、鬨に毛布をかけて隅っこに並べる。 「さて、ゆっくりと料理を平らげていくか」 見た目と年齢は合致しないものだ。 かくして忘年会は煮詰まっていく。開拓者達は今年一年を振り返り、わいわいと夜を過ごした。 やがて目を覚ました鬨は、記憶も鮮明であったので、みんなに平謝り。 忘年会の夜は更けていくのだった……。 |