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■オープニング本文 天儀暦1013年、年明けの武天国、王都此隅――。 老中の西祥院真禅は、巨勢王(iz0088)への新年の挨拶を済ませると、翌日からは邸に戻り、家臣たちの表敬を受けていた。 「真禅様、西円と申す僧がお目通りを願っておりますが」 「西円……? おう、かの者か。通せ」 「は……」 僧侶が入って来る。体格は屈強。その目は鋭く、だが、穏やかな光に包まれていた。 「真禅様、新年のお祝いを申し上げます」 「うむ。随分と落ち着かれたようだな、春信、いや、西円殿」 西円とは、1012年の夏に鳳華で反乱を起こした龍安春信であった。今は出家して僧になっていた。 「ええ……。ところで真禅様、例の沙羅と言う女ですが、アヤカシであったと……聞き及びましたが」 「うむ……師走に遭都で姿を現したそうだな」 「となりますと……沙羅のこと、またどこかで謀略の糸を張り巡らせているのではありませんか?」 「沙羅とは、偽りの名でな。正確には真沙羅姫、という上級アヤカシなのだ」 「そこまで御存知でしたか……」 「自らが撒いた災い……忘れたことは無い。わしも、若かった。あの娘には気の毒な事をした――」 その時だった、家臣が掛けんで来る。 「真禅様、上級アヤカシ猪王、七月谷の砦に出没し、数体の猪アヤカシを率いて攻撃を開始したと報告が入っております。また、凶賊の集団が七月谷の村々へ同時に攻撃を開始しております」 西円と真禅は顔を見合わせた。 「開拓者ギルドへ知らせを。開拓者が到着次第、大宗院九門の天龍隊を出撃させろ」 「ははっ――!」 「…………」 真禅は、目の前の酒を一口飲んだ。 「猪王と、凶賊……あの猪王が人間と手を結んだとはにわかに信じ難いが……」 ――七月谷。 瓦礫が散乱している。猪王たちの突撃で、砦は全壊していた。猪王はくわえていた兵士をばりばりと飲み込んだ。 (ぐふふふふ……里の兵士は凶賊に追われておろう。砦は我々が落とす) すうっと、空間に人影が湧いた。女である。否、女の姿をしたアヤカシであろう。 (真沙羅姫……人間を小手先に使うとは、お前の人脈も武天の兵を分散させる役には立ったようだな) 「あら、猪王。彼らは、私が育て上げた凶賊集団よ。私の愛おしい子供たちだわ」 (いつかは食らうのであろう? 奴らが絶望と怨念に打ちのめされた時……) 「少なくとも、まだその時ではないわ。そう、彼はまだね」 真沙羅姫は、村を攻撃する凶賊のリーダーを遠目に見やる。 燃えるような赤い長髪をしたリーダーの男は、冷徹な赤い瞳で逃げ惑う民を見据えていた。男は、血の匂いがたまらなく好きだった。真沙羅姫から教えられた真実が、彼を突き動かしていた。男の名は紅牙。人の世を憎む凶賊集団の頭目だった。 「殺せええええ! 皆殺しだ! 巨勢王の民は残さず殺せ!」 紅牙が咆哮すると、部下達も「おお!」と雄たけびを上げた。 ……ほどなくして七月谷へ出没した猪王と凶賊退治の依頼が張り出される。開拓者は、依頼を確認すると受け付けに向かって歩きだした。 |
■参加者一覧
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
罔象(ib5429)
15歳・女・砲
ユーディット(ib5742)
18歳・女・騎
緋乃宮 白月(ib9855)
15歳・男・泰
宮坂義乃(ib9942)
23歳・女・志
松戸 暗(ic0068)
16歳・女・シ
津田とも(ic0154)
15歳・女・砲 |
■リプレイ本文 「随分ひどいことになってきましたね……」 コルリス・フェネストラ(ia9657)は望遠鏡で七月谷の様子を見ていた。里から火の手が上がっている。 「猪王がまた出たね! 今度こそ焼き尽くしてあげるよ!」 リィムナ・ピサレット(ib5201)が言うと、罔象(ib5429)が思案顔。 「凶賊と猪王ですか……前回の報告書は見てきましたが、猪王は獣アヤカシで、人間界につてがあるとは思えませんでしたが」 大宗院はうなった。 「ふーん……猪王以外の誰かが手助けしてるとか?」 リィムナは言ったが、ユーディット(ib5742)は「そうですね」と口を開いた。 「アヤカシと人が手を結ぶという場合、大体人間がアヤカシに取り込まれていることが多いようですね」 「可哀そうな人たちですね……アヤカシと手を結ぶことでしか生きられないなんて……」 緋乃宮 白月(ib9855)が言って、宮坂 玄人(ib9942)が「おう」と応じる。 「アヤカシと手を結んだ外道ども、人の道から堕ちたけだものか。切り捨てるのに躊躇いは無いぞ」 「けだものたちをどうにかしてから、一人二人捕縛して、拷問してやればいい。猪王から何か聞き出せるかな」 言ったのは津田とも(ic0154)。 「では早速ですが、話しを進めていきましょうか」 ユーディットは言った。 「天龍隊を二隊に分け、三十名壱班を里を襲っている凶賊へ。二十名弐班を猪王の迫る砦に急行させます。里は守備隊が凶賊と交戦しているとのこと。凶賊はなかなかの強兵らしいですが、同数の新手に交戦中に後背を突かれれば建て直しは至難です。龍に乗り敵後背より強襲して迅速に勝ちを決めます」 「ふむ……」 大宗院は思案顔でユーディットの言葉を聞いた。 「弐班二十名は砦の守備兵と合流。壱班が賊に勝ち、合流するまで守備に努めます。合流後は攻勢に出て猪王の撃破ないし撃退を試みます」 「他に何か」 「では、作戦に付きまして、私からも一案がございます」 コルリスは言った。 「まず龍騎兵には焙烙玉、盾を配布後、ユーディット様の作戦通りに砦と里それぞれを守る為二隊に分かれ空を防衛致します」 コルリスは、少し考えながら言葉を紡いだ。 「砦では猪王襲来前に来ると思われる方角に馬防柵等の簡易バリケードや、V字状に掘った簡易濠をできるだけ敷設し、砦の前で猪王達の突進をそらす工作を準備致します。敵が来ましたら、里では制空権確保の為、龍騎兵隊や飛行できる方々が動き空の賊を四指戦法等で順次撃破し、開拓者の指示で動いて頂きます。砦では龍騎兵が空に展開。陸空共同で動き龍騎兵は更に二手に分かれ、猪王達アヤカシがいると思しき場所へ片方は咆哮で敵達を砦から別方向へ誘導し、もう片方は誘導された敵を焙烙玉で爆撃し砦へ突入させず迎撃します。凶賊を里から撃退後に、里の龍騎兵は砦部隊へ合流。砦では簡易バリケードや濠を利用し、別方向からの咆哮を続け、敵達の砦への突進や侵入をそらし、誘導された敵を弓や銃等様々な手法で迎撃し続け、味方が合流後は空陸共同攻撃で猪王を撃退致します。――いかがでしょうか?」 「戦術としては問題ない。ふむ……他にはあるかな」 「お二人の作戦提案を元に動きますね」 罔象は言った。 「ところで、戦闘で周囲の森林地帯が吹き飛んでも問題ないでしょうか? 問題がなければ空からの攻撃にて参加致します」 「構わんよ」 「それでは、私は凶賊達が空戦能力を有している場合や地上への攻撃では、龍騎兵にお願いして、咆哮で敵を誘導し、程よく集まったところで私の方で味方に警告後、横や別方向から魔砲『スパークボム』でまとめて空の敵を一掃する『空雷』戦法を提示致しますね」 「空雷戦術か……鳳華でしばしば成果を上げていたと聞く」 「はい」 「ではよろしく頼む」 「味方のサムライへの指示が難しいが……竜乗り兵が全員なら、陶器製の崩落玉か、矢じりの手前に粘土なんかで錘を加えて落下速度を増やした矢、ただの物理砲弾、火薬のない鉄の塊なんかを一斉に落としまくる空爆がいいんじゃないか?」 津田が言うと、大宗院は頷いた。 「物理砲弾は良いと思う。鉄の塊は事前に手配して来たので、爆撃の際に使用してくれ」 「えっと……あたしはコルリスさんと一緒に砦防衛と猪王軍団対応に回るね」 リィムナは言って、「むむう〜」とうなった。 「では僕は凶賊対応班に回り、出来得るなら指揮官を押さえましょうか」 緋乃宮が言うと、宮坂も頷いた。 「ああ、では俺も凶賊対応で行くか。賊とアヤカシの関係にはちと思うところがあるが、まずは民を護らないとな」 それからサムライたちと意思の確認を行い、作戦を確認すると、龍安軍と開拓者達は出立した。 「志体を持って生まれながらアヤカシの手駒とは……残念な人たちですね」 ユーディットはサムライを率いて賊たちの背後から襲い掛かった。 「我、今ここに邪悪なるものと対峙せん。精霊よ、力を貸し給え」 騎士の誓約で精霊の力を得ると、ユーディットは儀礼宝剣「クラレント」を繰り出した。 ズム! と刀身が賊を貫く。 「が……は……!」 賊たちは最初に背後を突かれて、崩れた。 「来やがったぞ! 王国の軍隊だ! いよいよ本番だなあ!」 「おお!」 賊たちは咆哮する。 「降伏しろとは言いません。あなたたちに待ち受けているのは、いずれ最後の道しかないのですから」 ユーディットは龍を駆って、突破を図る。 龍安軍が続く。 「王家の天龍隊である! 凶賊ども生きて帰れると思うな!」 「やかましい!」 ドウ! と賊の銃撃がサムライを龍安軍を撃ち抜いた。 「むう!」 「その力を悪に使うとは……ですが、これ以上の悪業は止めます」 ユーディットは一合、二合と打ち合い、賊の首を刎ね飛ばした。 「行くぞ賊ども!」 宮坂は野太刀「緋色暁」を握りしめると、素早く刀を薙ぎ払った。 「おりゃあああああ!」 凄絶な一撃が賊を切り裂き、血飛沫が飛ぶ。 「こいつが! 王家の番犬が!」 「あいにくと俺は開拓者だ!」 宮坂は素早く相手の篭手を撃ち払い、賊の一撃をいなして受け止めた。 「ちい! 開拓者が来やがるのか! なお悪い! 貴様等は天儀朝廷の犬だろうが!」 「あいにくと俺は冥越出身でな……天儀朝廷に何の義理も無い!」 殺気を込めた一撃を放つと、賊は「野郎!」と打ち掛かって来る。 「は! 間抜けが! そこだ!」 宮坂は隙だらけの賊の胴を薙ぎ払った。ドズバアアアア! と臓腑を切り裂かれて、賊は崩れ落ちた。 「ぬう……ふむ。ユーディット! いけるか!」 「大丈夫ですか宮坂殿」 「こいつら……死ぬ気か? 何を考えているのだ? アヤカシに付くとは……」 宮坂は血を拭った。 「戦いの後で、捕縛出来れば良いのですが……難しそうですね」 「まあいいか。何者だろうと、猪王以上ってことはあるまい」 「行きましょう」 「ああ」 ユーディットと宮坂は前進する。 「あれは……」 緋乃宮は、戦場でひときわ目立つ赤毛の男を確認した。周囲の賊に命令を飛ばしている。 「敵の頭領ですね。行きますよ」 緋乃宮はするすると賊たちの攻撃を回避しながら紅牙に接近して行った。加速して黒夜布「レイラ」を叩き込む。 ぎり……! と、レイラは刀で受けられた。刀身に巻きつくレイラ。 「すみませんが、一手お相手願います」 「何だ貴様……! 武天兵ではないな……さては開拓者か」 紅牙の瞳が凄絶な殺気を帯びる。 緋乃宮は立ち回りながら、紅牙と距離を保つ。 「名前を聞いておきましょうか盗賊さん」 「馬鹿が……! くくく……俺の名を知ったところでどうにもならんわ小僧。もはや、時間は巻き戻せん!」 紅牙は踏み込んで来ると刀を振り下ろした。 緋乃宮は八極天陣で回避した。が、紅牙の刀身は続いて跳ね上がって逆袈裟に飛んできた。 「黒陽、宜しくね」 八極天陣と疾風の翼で回避する。 ぶうん……と、風が巻き起こった。 「凄い……力だね」 緋乃宮は加速すると、レイラを牽制に使い、拳と蹴りを繰り出す。ドウ! ドウ! と連撃が打ち込まれるが、紅牙は微動だにせず、刀をはね上げた。 緋乃宮はそれをやり過ごし、大振りの隙に泰練気法・弐を叩き込んだ。高速三連撃が紅牙の肉体を直撃する。 紅牙はよろめいたが、万力で刀を振り回して緋乃宮を遠ざける。 「小僧が……!」 と、龍安軍から咆哮が叩きつけられ、賊の戦列がばらばらと崩壊する。 罔象は紡を駆って回り込むと、 「みなさん! 退避して下さい!」 と警告を送り、 「空雷!」 騎射+魔砲「スパークボム」の合成技を撃ち込んだ。魔砲が炸裂する。 「みなさん! こちらから包囲するように焙烙玉をお願いします! 追い込んだところへ撃ち込みます!」 「了解した!」 龍安軍は賊を追いたてるように焙烙玉を投下していく。 罔象は後退する賊たちからいったん遠回りして移動。悟られないように回り込み、ボムの射程に盗賊たちを捕える。 罔象は旋回して合図を送ると、降下して、再び―― 「空雷!」 で凶賊たちを殲滅する。 「突貫工事ですが、やらないよりはましでしょう」 コルリスは砦に降り立つと、防御を施して行く。兵士達は「急げ急げ!」と働く。馬防柵等の簡易バリケードや簡易濠を設置する。 「敵が来ますぞ!」 「分かりました。それでは、空陸に分かれて迎撃。咆哮と爆撃隊でアヤカシを止めます」 「それじゃあこっちはフロストマインで罠を仕掛けていくね〜」 リィムナは滑空艇で移動して、マインを仕掛けていく。 ――グオオオオオオオ! 猪王たちが突撃。 サムライ衆の咆哮で牙猪は逸れたが、猪王は直進して来た。 「野郎……!」 津田は火縄銃「轟龍」を構えると、強弾撃を叩き込んだ。サムライたちも矢を叩き込む。 が、猪王は構わず突進してくる。 「ちい……! 駄目か!」 津田は退避した。 「おい! ここは退くぞ!」 「仕方ありませんな!」 猪王は砦へ突撃した。防御施設を踏み越えて、猪王は砦へ突入した。轟音とともに砦が崩れ落ちて行く。 (くくく……砦は頂く! 丸裸にして、里を滅ぼしてくれるわ!) 「そうはいくかよ! まだ終わってない!」 津田はアーマー火竜で立ち塞がった。 (何だそれは? 機械か……無駄なこと!) 猪王は加速して来た。ズウウウウウウウン……! と、猪王の突撃を受け止める。アームで猪王を掴み、押し返す。 「これ以上はやらせるかあ……!」 津田は出力全開で猪王を押し返していく。 しかし次の瞬間、バキイ! と、火竜の腕が猪王によって噛み砕かれた。 「こなくそ!」 津田はアームクローを叩き込んだ。 (くくく……無駄だ人間……こんなおもちゃで俺様が倒せるものか……! 死ね!) 「やかましい! これでも食らえ猪王!」 (むう!?) 火炎放射で猪王を包み込む。 (ふざけた真似を!) 猪王は牙を振り上げた。ドゴオオオオオ! と、火竜の装甲が貫かれた。 「まだまだあ!」 津田は片腕で猪王の右足を狙った。 「そこだあ!」 アームクローを猪王の右足に叩き込んだ。 (ぐああああああああ!) 火竜の爪が右足にめり込む。猪王は古傷を突かれて絶叫した。 「爆撃開始!」 コルリスとリィムナは引き付けた牙猪たちに爆撃を行った。鉄の塊と焙烙玉、そしてメテオが牙猪たちを打ち砕く。 「猪王は止められませんでしたか……津田さんが頑張ってくれていますね。もう一つの砦は守りませんと……」 「うん、急ごう!」 牙猪を撃破すると、コルリスたちは反転した。 リィムナが猪王の頭上に現れた。 「は〜い豚王ちゃん♪ 前脚の具合はいかが? 今から足全部潰して丸焼きにしてあげるからね♪」 (小娘! 貴様は……!) 「津田さん、あたしも援護に入るよ!」 リィムナは猪王を挑発すると、上級アヤカシを引き付け、滑空艇を操る。急反転を駆使して、猪王を砦から引き離す。 「行くよ豚王ちゃん♪ 受けてみなさいライトニングブラスト!」 今度は後ろ足を集中攻撃する。 (ぐあああああああ……! 小娘が!) 猪王は上空に向かってブレスを吐き出した。 「おっとっと!」 (砦は破壊していくぞ! 邪魔をするな!) と、リィムナは滑空艇の仕掛けに点火し、機体不調を装う。ふらふら飛行、空中静止応用の低速飛行で罠の場所へ逃げだし猪王を引き付ける。 「何これ? いや……いやあああ! 動いてよぉ! 死にたくない! 助けてー!」 恐怖に顔を引きつらせ迫真の演技を見せるリィムナ。 (馬鹿め! 地上に降りたが最後よ! 小娘が食い殺してくれるわ!) 猪王は向きを変えて突進して来た。 次の瞬間、フロストマインが発動、猪王の足が完全に止まる。 (ぎゃあ! 何だこれは!?) 「ふふ……なんちゃって♪ 引っ掛かったね! 今度は右目を潰してあげるよ!」 リィムナはアークブラスト4連発を猪王の右目に叩き込んだ。 猪王は絶叫して、悶絶して前足が浮かび上がった。 そこで、里からユーディット、罔象、宮坂、緋乃宮ら龍安兵が駆け付ける。 「状況はいかがですか……?」 「砦一つを潰されましたが、今、猪王を足止めしています」 コルリスが矢を装填して応える。 「了解です」 ユーディット、宮坂、緋乃宮らが展開する。 「みなさん離れて下さい!」 罔象がスパークボムを叩き込み、開拓者たちは攻勢に転じる。 猪王の足に集中攻撃。 (ぐおおおお……! 真沙羅姫! 何とかしろ!) 「仕方無いわね」 「何?」 開拓者達の頭上に姿を現したのは、衣をまとった女だった。 真沙羅姫は腕を持ち上げると、幻術を展開した。開拓者達、兵士達の視界が豪雨に包まれる。 ……彼らが幻から抜けだした頃、猪王は離脱していた。 松戸 暗(ic0068)は撤退した凶賊たちの野営地にいた。正確には捕縛されていた。 「王家のシノビか……小賢しい真似を」 紅牙は暗を見据え、腰を下ろした。 「誰に雇われてきた? 巨勢王か? まさか、犬が正義のために動いたなどと言うまい」 「わたくしを雇ったのは、老中の西祥院様です」 「何――!?」 紅牙の表情が変わった。紅牙は刀を抜いた。 「貴様……真禅の犬か……」 「ま、待って、西祥院様は……わたくしを人とは見ていなかった……。向こうの雇用条件はひどいものです。あなたがたに従いますから……殺さないで」 「ならば、俺に従うか、シノビ」 「は、はい……絶対に従います」 「それでは、真禅のもとへ舞い戻り、俺からの伝言を伝えろ。生き残ったのは、二人だ、とな」 「それは……」 「奴にそれだけ言えば分かるだろう。行け、シノビ。今回は殺さん」 そうして、暗は解放された。 ――此隅にて。暗は真禅と会う。 「生き残ったのは二人……だと? 奴がそう言ったのか」 真禅の問いに、暗は「はい」と応じた。暗は真禅の表情を窺っていたが、老中の男は険しい顔で立ち上がった。 「ご苦労であった。引き続き紅牙とやらの内偵を進めてくれ」 「はい……」 暗は真禅を見送り、立ち上がるのだった。 |