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■オープニング本文 理穴国東部、緑茂の里――。 最前線で戦っている儀弐王は軍議を開いていた。儀弐王は一つの結論を下す。里に攻め寄せる軍勢の背後には、ほぼ間違いなく大アヤカシがいるだろという結論である。 儀弐王は顔色一つ変えずに言ったが、家臣たちは厳しい顔つきだ。 「やはり‥‥これほどのアヤカシを動員できる背後には、大アヤカシがいると考えるしかありません」 「大アヤカシですか‥‥伝説の存在ですな」 家臣の一人が漏らす。緑茂の里に押し寄せるアヤカシ軍の戦力、その規模は徐々に増大しつつある。魔の森は拡大を始め、里の東を侵食している。 「ですが、本当に大アヤカシが動き出したのでしょうか? まだその姿を確認したわけではありませんし‥‥」 「魔の森の拡大、アヤカシたちの本格的な攻撃を考えれば、これはほんの始まりに過ぎないでしょう。大アヤカシの目的は里を壊滅させることにあるは明白。一刻の猶予もなりません」 儀弐王の冷静な指摘にも、家臣たちの頭痛の種は尽きない。現在各国や理穴国内にも協調体制を呼びかけているが、今ひとつ動きが鈍い。 大アヤカシが動き出したという噂は瞬く間に伝播し、そもそもこの戦いに勝ち目があるのか? と言った声まで出始めているらしい。 そこへ更なる凶報が飛び込んでくる。兵士が駆け込んで来て、膝を付いて申し上げる。 「――陛下! 一大事にございます! 大船原を移動中の輸送部隊が、アヤカシによって次々と攻撃を受けていると、後陣より知らせてまいりました!」 家臣たちがどよめく。 「何だと!」 「おのれアヤカシどもが‥‥我が軍の背後を絶つつもりか。小賢しい真似を」 もちろん輸送部隊にも護衛は付いている。現在戦闘中であるという。 「陛下――物資が滞るようなことがあれば、緒戦から我が軍の行動に影響を与えるのは必至でございます。何とか致しませんと」 「今は警備に当たっている者たちを信じるしかありません。最前線から兵を引き抜く余裕はありません。撤退するには早すぎると言うものです」 「は‥‥」 儀弐王ははやる家臣たちを落ち着かせると、卓上に広げられた緑茂の地図に目を落とすのだった。 ‥‥大船原の輸送隊。 里の主要街道を使って北上していた輜重部隊は、待ち伏せていたアヤカシの奇襲攻撃を受けることになる。 護衛の弓術師十名と、神楽の都から派遣された開拓者達は、これあるを予期してはいたが、多数のアヤカシ兵士に、首領級のアヤカシがいるとなっては、油断は出来なかった。 「行け! 急げ! 我らがアヤカシを食い止めている間に、とにかく先へ進むのだ! 物資を失うわけにはいかん!」 理穴の弓術師が荷物を預かる開拓者を怒鳴りつける。輸送部隊の荷物はもふら様によって運ばれており、担当の開拓者がもふら様を急がせる。 「くっくっく‥‥大殿様のお怒りの前にお前達の戦力は藻くずと消えるわ。あの物資は焼き払ってくれよう。だがお前達をすぐには潰さん。お前達を潰すのは、じわじわと、貴様らの絶望と苦悩を味わってからの話よ」 「貴様は‥‥」 すると、美しい人の姿をしたアヤカシは牙を覗かせた。 「我が名は斉王。いかに屈強な肉体を持つ者と言えども、水と食料がなければ人は戦えまい。貴様らはここで滅びるのだ」 斉王とは、つい先日も緑茂の里に出没し、避難民を攻撃していった人型のアヤカシ首領である。 「物資は渡さんぞ‥‥一兵たりともアヤカシを近付けるな!」 護衛隊長の弓術師が部下達と開拓者達を怒鳴りつけると、街道で斉王率いるアヤカシ兵士との激戦の幕が上がった。 |
■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116)
12歳・女・巫
高遠・竣嶽(ia0295)
26歳・女・志
富士峰 那須鷹(ia0795)
20歳・女・サ
アルカ・セイル(ia0903)
18歳・女・サ
柳生 右京(ia0970)
25歳・男・サ
鳴海 風斎(ia1166)
24歳・男・サ
アルティア・L・ナイン(ia1273)
28歳・男・ジ
蛇丸(ia2533)
16歳・男・泰
赤マント(ia3521)
14歳・女・泰
各務原 義視(ia4917)
19歳・男・陰 |
■リプレイ本文 アヤカシの襲撃を受けて、開拓者達と弓術師たちは積荷を守るように荷車の側面に立つ。荷車の右側面に高遠・竣嶽(ia0295)、富士峰那須鷹(ia0795)、アルカ・セイル(ia0903)、鳴海風斎(ia1166)、各務原義視(ia4917)、そして弓術師たちが回り込み、左側面にアルティア・L・ナイン(ia1273)、蛇丸(ia2533)、赤マント(ia3521)、柳生右京(ia0970)、鈴梅雛(ia0116)らが回り込んだ。 開拓者たちは右側面に弓術師を回して戦力を強化している。右からやってくるアヤカシに攻撃を集中し、左からやってくるアヤカシに対しては防御中心で時間を稼ぐという作戦を立てた。 「まだ敵が隠れているかも知れない。伏兵に注意して下さい」 殺到してくるアヤカシを見つめながら、各務原は仲間達に注意を喚起する。 「伏兵がいたらいたで全員炙り出してやるまでじゃ!」 那須鷹は長巻に外套を蒔きつけると、それを囮にするように後退して咆哮を使用する。 「――オオオオアアアアア!」 那須鷹の雄叫びが大地を揺るがすがごとく、アヤカシの群れを引きつける。 引き寄せられるアヤカシは敵愾心を剥き出しにして雄叫びを上げて殺到してくる。 「――てえ!」 弓術師たちが殺到してくるアヤカシの群れに即射を叩きつける。二十発の矢がアヤカシ兵士を次々と射抜いていく。 ――グアアアアアア! 打ち抜かれて激痛にわめくアヤカシたち。 「第二射――てえ!」 ドドドドドドドドド! とアヤカシの集団を貫通する弓術師たちの一撃。 「この荷を待っている者がいます。そのためにも、このような所でアヤカシなどに屈するわけにはいかないのです。必ずや、守り抜いてみせます」 高遠はアヤカシの足が止まったところで突進する。 が、アヤカシも反撃、一部が弓矢を放ってくる。高遠は矢を叩き落しながら前進した。 ドカカ! と那須鷹の長巻にも矢が命中する。倒れる長巻。 「お気に入りじゃったのにっ‥‥トイチで返してもらうぞ、ぬしらの命でのっ!!」 那須鷹は長巻を回収して、抜刀、アヤカシの群れに突撃する。 「あたしがやらなきゃあね」 ぱしん! と拳を打ち合わせると、刀を両手に持ち替え、アルカも大地を駆けた。 「‥‥アヤカシ兵士ですか‥‥何とも、全く美しくありませんねえ。僕が冥土に送ってあげましょう」 風斎も抜刀して突進する。 そうする間にも弓術師たちは即射でアヤカシたちを射抜いていく。 「退魔召喚――眼突鴉」 各務原は符を解き放てば、召喚された眼突鴉がアヤカシ兵士に向かって飛んでいき、その目を嘴で抉り出した。アヤカシはもんどりうってひっくり返り、目を押さえて喚いた。 各務原は容赦なく眼突鴉を連打。襲い掛かる眼突鴉がアヤカシの肉体をざくざくと食らいついた。 流れるような動きでアヤカシとの距離を詰めた高遠。気合い一閃、居合を解き放つ。抜刀攻撃がアヤカシを鎧ごと切り裂いた。続いて踏み込んだ高遠は、アヤカシの脳天から刀を叩きつける。 凄絶な一撃が炸裂して、アヤカシの頭部をかち割った。よろめくアヤカシは力なく反撃してくるが、高遠は圧倒的な技量で敵兵を叩き切った。 「‥‥一匹たりとも生かしては返さんぞ! ぬしらには全く怒りに心頭しておるのじゃ! 里は必ず守って見せる!」 修羅のごとき気迫を見せる那須鷹。裂ぱくの気合いとともにアヤカシ兵士に打ちかかっていく。 アヤカシ兵士も凄絶な殺気を叩きつけて咆哮する。ガキイン! と刀と刀がぶつかった。 「はあああああ!」 那須鷹はアヤカシ兵士を力で押し込み、そのまま弾き飛ばして一撃を叩き込んだ。 ザン! とアヤカシの鎧を切り裂く那須鷹の刃。アヤカシ兵士は怒り狂って反撃してくる。ガキイン! ガキイン! とアヤカシの攻撃を受け止め、反撃の一撃を叩き込む。 「ここは通さぬわあ!」 那須鷹は気合いとともに剣気をアヤカシに叩きつけた。 「せえええやあああああ!」 アルカはぐっと大地を踏みしめると、旋風脚を叩き込んだ。蹴りがアヤカシの鎧を貫通し、肉と骨を打ち砕く。アヤカシ兵士は吹っ飛んだ。 「てめえら‥‥! ぶちまかしてやらあ!」 アルカは飛び上がると、アヤカシ兵士の上から刀を振り下ろした。ザシュウウウ! と刃が貫通して、アヤカシは悲鳴を上げる。 そうしながらも、アルカは斉王の様子を探っていた。あの人型アヤカシは、どう動いてくるつもりだろうか‥‥。 アルカは斉王と目が合ったが、今は何も言うまい。目の前のアヤカシ兵士に集中する。 風斎は地断撃を放って接近しつつ、アヤカシと刃を交える。アヤカシ相手に鼻歌まじりに刀を振るう風斎。敵の鋭い突きを小馬鹿にしたように跳ね返す。 「ふふん‥‥僕の心をたぎらせてくれる相手はいないようですねえ」 言って風斎はアヤカシを叩き切った。 ガオオオオオ! とアヤカシは瞳に憎しみをたぎらせて襲い掛かってくるが、風斎はにやりと笑う。 「せいぜい怒りなさい。私は血を見るのが好きというわけではありませんが、君たちに容赦はしませんよ」 風斎は言ってアヤカシの攻撃を跳ね返していく。 開拓者達の攻撃に合わせて、弓術師たちは二手に分かれる。アヤカシとの激戦が広がる中、逆方向への攻撃も開始を始める。 一方、左側面の開拓者達は何とか五人でアヤカシ兵士の足を止めていた。すでに接近戦に突入しており、積荷に襲い掛かるアヤカシ兵士と乱戦に突入する。 「おおおおおおあああああああ!」 右京の咆哮にアヤカシたちが引き寄せられる。 「‥‥狙って来い、退屈させるな」 ガアアアアアアアアア! 殺到してくるアヤカシ兵士に赤マントが立ち塞がる。 「みんなの思いが詰まった物資。汚させはしないよ!」 しゅうううう! と赤マントの拳が空を切り裂く。アヤカシ集団の攻撃をかわしながら、強烈な一撃が炸裂する。 ドゴオオオオ! と赤マントの拳がアヤカシの鎧を貫通して肉と骨をも貫く。絶叫するアヤカシに、赤マントはさらに一撃。ズシン! と拳がアヤカシの肉体を貫いた。凄まじいまでの泰拳士の一撃だ。 風のように飛び、神速の体捌きでアヤカシの攻撃をかいくぐって奮戦する。 「回復にも限界があるので、あまり怪我をしないで下さい」 小さな雛は祈るように後方にあって仲間たちの戦いぶりを見つめていた。今回は巫女は雛一人、怪我人が続出すれば支え切れない。 「‥‥でも、何とか物資を守らないと」 と、開拓者達の横を掠めて、一体のアヤカシが物資の方へ向かう。 「行かせません!」 雛は弓を構えて撃った。ほとんど攻撃は通じないが、足止めにはなったようだ。アヤカシ兵士は苛立たしげに雛の方へ突進してくる。 そのアヤカシの側面から、右京が踏み込んで切りつけた。 ドシュウウウウウ! とアヤカシの肉体が深々と切り裂かれる。凄まじい一撃。 「ふん。貴様には何もさせん」 「ありがとうございます、右京お兄ちゃん‥‥!」 「大丈夫か雛。お前が倒されては戦いに響く。たった一人の巫女を倒されてはな‥‥」 右京は雛の側を離れると、再度咆哮を使って自身に攻撃を向けさせる。 「さすが、でも右京君だけに負担をかけるわけにはいかないね」 アルティアは殺到してくるアヤカシ兵士に二刀を叩き込む。疾風のように大地を駆け抜けながら、アルティアはアヤカシの攻撃を完全にかわしつつ二刀を振るう。 ドゴオオオ! ドゴオオオ! とアルティアの攻撃がアヤカシを打ちのめす。泰拳士の一撃は単純な威力ではサムライなどに敵わないが、速く、鋭い。流星の二つ名を持つアルティア、流れ星のように敵中を飛ぶ。 「高遠の姐さに付いてきて見りゃ厄介な野郎と会うたもんさな。んなら、ここは姐さにええ格好の一つでも見せとかなの。ひゃふ。毒蛇にゃ毒蛇なりの戦の作法があるのぜ」 同じく泰拳士の蛇丸は空気撃を連発してアヤカシの足を狙い、転倒させては敵の足を止めていた。 だが数で勝るアヤカシたちは物資の荷車に迫ろうとする。 そこで弓術師たちがやってくる。 「待たせたな! アヤカシどもに物資は好きにさせんぞ!」 加勢する五人の弓術師たちが次々とアヤカシ兵士に矢を打ち込んでいく。 シュウウウウウウウ‥‥とアヤカシ兵士の肉体が瘴気に還元して消滅する。 各務原が周囲を見渡すと、アヤカシ兵士たちは壊滅的な打撃を受けて残り数体になっていた。 反対側でもアヤカシ兵士は減少していた。その間に少しずつではあるがもふらが逃げていく。 遠ざかっていく荷車を見つめて、斉王は一瞬苦虫を噛み潰したような表情を見せた。 斉王はじっと戦況を見つめていた。次々と撃破されていくアヤカシ兵士を見つめながら、斉王は感情の素振りも見せることなく、立ち尽くしていた。 そうして斉王は動き出す。アヤカシ兵士が全滅しようかというところで、開拓者達に向かって歩き出す。 「ぬ‥‥奴が向かって来おるぞ」 那須鷹はアヤカシを叩き潰しながら斉王の姿を見出す。 斉王はしなやかな腕をぶるんぶるんと振るうと、アヤカシの言葉で兵士たちを怒鳴りつける。アヤカシ兵士たちは距離を保って散開すると、弓術師たちに向かって突撃していく。 斉王と対峙する開拓者達。那須鷹は斉王に向かって問いを発する。 「ぬしが斉王か。里の崩壊は必ず食い止める、大殿様とやらの好きにはさせんぞ。わしらは諦めが悪いでのう。そう易々とここを抜かせるわけにはいかんのじゃ。大殿に伝えるがいい。必ずお前を倒して里を救うとな」 「ふん、大殿様のお力の前には貴様らの抵抗など無意味よ。里は魔の森に飲み込まれ、この世界から消失するわ」 するとアルカが拳を打ち合わせる。 「あ〜らら、どっかで見た顔がいるじゃないの。あんたの邪魔を邪魔しに来たぜ!」 「貴様は‥‥いつかの。またしても私の邪魔をしに来たか」 右京は冷たい瞳を斉王に向ける。 「私は過去に炎羅と対峙した‥‥ならばこそ、聞いておきたい。貴様と炎羅、どちらが強いのか‥‥答えろ」 「大殿様と対峙した? 何の話しだ。大殿様はここ数年動いておらぬ」 すると、右京は武天で出会った人型アヤカシ炎羅のことを尋ねた。斉王は笑った。 「ああ、あ奴か。あれは偶然大殿様の名を名乗る雑魚だ。あんな雑魚は緑茂の大殿様とは比較にならんわ」 「それを聞いて安心した‥‥どうやらこの戦は愉しめそうだ」 右京は笑みを浮かべると、凄絶な剣気を斉王に叩きつけた。 斉王は不敵な笑みを浮かべると、ファイティングポーズを取る。 刹那、大気が弾けた。高遠が疾風のごとく切りつければ斉王はバックステップを踏んで刀を跳ね返し、高遠に拳を叩き込む。攻撃を受け止めた高遠を凄まじい衝撃が襲う――。 「‥‥!」 いや、高遠を庇って、蛇丸が間に体を滑り込ませていた。蛇丸は吹っ飛んで高遠に激突する。 「大丈夫ですか蛇丸さん!」 「ああ‥‥斉王は半端じゃないって思ってたきに、高遠の姐さにもしものことがあったらと‥‥」 「しっかり蛇丸さん」 「大丈夫や‥‥でも骨いかれたかな」 蛇丸のもとへ雛が駆け寄り、神風恩寵をかける。 「無茶はしないように蛇丸さん」 高遠は吐息して蛇丸をたしなめると、斉王に向かっていく仲間の後を追う。 「わしの顔は覚えたか、忘れたならばその身に一太刀刻みつけていけ!」 続いて那須鷹が斉王の顔面に気力とスキルフルで一撃を見舞う。 ザク! と斉王の顔がかすかに切れる。だが斉王は牙を剥いて笑っている。 「食らえ斉王! あたしからの贈り物だ! 受け取れ!」 アルカは渾身の牙狼拳を叩き込む。斉王は素早い反応で牙狼拳を肉体で受け止めた。アルカの刃が斉王の肉体に突き刺さる。 「そうか‥‥あの炎羅と今回の緑茂の炎羅は別物か‥‥それが聞けただけでも朗報だ」 右京は踏み込んで両断剣を叩き込んだ。斉王は腕一本で右京の爆砕的な一撃を受け止めた。ザシュウウ! と、だが斉王の腕から血が飛び、直後に斉王の疾風のような蹴りが右京を捉える。ドゴオオオ! と右京は吹き飛ばされた。右京の肋骨が砕ける。 続いて切りかかった風斎。斉王にかわされて反撃の拳をみぞおちに直撃を食らう。凄まじい激痛が風斎の心に火をつける。 「く‥‥はは‥‥やってくれますね。斉王君‥‥こんな痛みを感じたのは久し振りですよ‥‥!」 ナルシストの戦闘狂という風斎、痛みを感じて逆に闘志が湧く。 「行くぞアヤカシ。我が一撃は風よりも速いぞ!」 アルティアも牙狼拳で撃ちかかるが、ガキイイイン! と斉王は二刀を鋼のような肉体で受け止めた。 「返り血に染まる戦場。この赤い世界でなら僕は何処までも速くなれる! 前にも後ろにも進ませない!」 赤マントは泰練気法・壱を発動させると、牙狼拳で超速連打を繰り出した。 「‥‥にっ!」 斉王が驚愕の声を上げる。赤マントの牙狼拳が斉王の肉体に叩き込まれる。ドドオオオオ! と斉王の肉体にめり込む牙狼拳。 「やってくれるな小娘」 斉王は牙を剥いて赤マントの腕を掴むと、投げ飛ばした。 各務原も残りの練力を使って残撃符を打ち込んだ。カマイタチの式が斉王の肉体を切り裂いていく。 それから数分間にわたって激闘が続く。 雛も回復を使い果たす激戦であった。 「ひいな一人では限界です」 仲間を回復させながら、雛は何とか味方の勝利を祈る。 まさに不滅の数分間とも言うべき攻防の末に、斉王は退却する。 常に動き回って開拓者に背後を取らせなかった斉王、反転すると疾風のように逃走した。 「大殿様の前に――お前たちの言う大アヤカシの前に、里は消えてなくなるわ!」 斉王は笑声を残して逃げていった。 「奴はいい。積荷の方が心配じゃ。いつまたアヤカシが襲ってくるとも限らぬからな」 那須鷹は刀を収めると、弓術師たちの方を見る。アヤカシ兵士たちは撃退されていた。 「兵站を狙うのは戦の常套。アヤカシとは言え、油断は出来ないみたいだね」 アルティアはそう言うと、刀を収める。 かくしてアヤカシは撃退され、積荷は無事に最前線に届く。 そうして、いよいよ合戦の幕は上がろうとしていた。 |