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■オープニング本文 武天国、かつて龍安家が収めていた土地、鳳華……。 魔の森の奥地で、瘴気が暴風のように吹き荒れていた。大アヤカシ不厳王(iz0156)である。 「まだ……まだ、ここでも戦う気か……!」 荒れ狂う瘴気を、着物をまとった美貌の上級アヤカシ真沙羅姫が見つめている。 過日の、開拓者達の微細な抵抗が、不厳王の怒りを震わせていた。 「虫に傷つけられて我を忘れたか……」 真沙羅姫は冷静だった。自らの分身を弓術士らの騎兵を中心とした囮部隊に引きずり出され、不厳王の分身は大打撃を受けた。その痛みは本体である己に伝わって来る。不厳王は激しい頭痛に襲われていた。 「おのれ……!」 不厳王は進み出た。この怒り……! 「振り上げた拳を天承に叩きつけねばこの怒りは晴れぬわ!」 瘴気が爆発した。 「王よ、お待ち下さい」 真沙羅姫は恐れる風も無く言った。 「血気にはやるものではありません。所詮虫ですよ? 人間に何が出来ましょう。あなたの力で踏み潰すのは容易い……ですが、それが龍安家に相応しい最後でしょうか? もっと、じわじわと、苦しめてやりましょう。奴らの心臓をえぐり出し、その血をすするのは、最後の楽しみです」 「…………」 不厳王は己の感情をコントロールした。やがて、瘴気は晴れていく。 「お前に言われるまでも無いが……人間がわしに傷をつけるなど……この痛み、いかにして返してくれようか……」 「私に良い案があります。こういう時のために、手駒は切り捨てるためにあるのですから……」 「どうするつもりだ」 「『紅』を切ります」 「ほう……?」 「王よ、その姿、あの人物に見せてやりましょう」 「なるほど……な。考えたな」 不厳王は顎をつまんだ。 「だが、奴らが紅牙を見捨てたらどうするのだ?」 「そんなことにはなりませんよ」 「ふむ?」 「切ると言っても私たちが殺すわけではありません。紅牙は私の術で操り、天承へ送り込みます。私も監視に付きましょう。王は兵隊を出して頂き、適度に支援して下さい」 「高みの見物か……悪くない……やってみるがいい。紅牙をぶつけたらどんな化学反応が起きるのか……」 それから、紅牙を筆頭にする凶賊集団「紅」は全員魔の森へ招集され、そこで真沙羅姫の魅了術と言霊で、天承にいる龍安弘秀の捕縛を刷り込まれた。また真沙羅姫は、彼らに敵を切ってはならないという命令を刷り込んだ。「紅」はいわば手足を封じられて、天承へ出撃させられたのだった。 「おい、敵が来るぞ」 魔の森の警戒に当たっていた龍安軍の斥候は、森から続々と出没する不死軍の騎兵と歩兵部隊に望遠鏡を向けた。 「ごついな……騎兵も歩兵も。全員鎧武者か……」 「おい、森から飛び立った。上からも来るぞ」 「あれは人間もか……? 凶賊どもの龍騎兵か」 「ややこしいことになって来たな」 「戻ろう。迎撃態勢を整えないと」 橘鉄州斎(iz0008)が龍の手綱を引いた。 「そうですな。今度は正面から切りに来ますかな――」 天承城――。 「紅牙を助けてやってくれ……」 龍安弘秀は、その書状を読んで重いものを感じて気持ちが沈んだ。傍らの西祥院静奈にそれを手渡す。兵士のことを考えれば、そんなことはとても受け入れることはできない。紅牙は手加減して太刀打ちできる相手では無い。 「この状況では不可能でしょう」 「不可能だ。これ以上は無理だな。紅牙のことで振り回されるのはこれまでだ。前線の兵には奴を問答無用で討てと命じる」 「それでは、私があの方のもとへ参りましょう」 進み出て来たのは芦屋馨(iz0207)。 「行ってもらえますか、芦屋殿」 「助けてやってくれ、というのは、それは文字通りのことではないでしょう。あの方は紅牙に武士の本懐を遂げて欲しいと望んでいました。アヤカシの呪縛から解き放ってやることを、望んでいるのではないでしょうか」 「それはそうでしょう。ですが、そんな簡単に割り切れるものではないでしょう。世の中にはアヤカシに蹂躙されたもっと悲惨なことがあります。それでも、情けを掛けると言うことは、心境の変化があったのでは。他人には分からないものかもしれません。ただ、本心は分かりません。一度、よく話して聞かせて頂けるとありがたい」 「私たちは最善を尽くしている。そのことを伝えてきます。多くを語るつもりはありません」 「宜しくお願いします」 弘秀は見送った。芦屋は武天の王都此隅へ、老中の西祥院真禅のもとへ発つことにする。 開拓者ギルド――。 受付係の森村佳織(iz0287)は、今日は集まった開拓者達に溌剌とした笑顔を見せた。眩し過ぎる笑顔だった。 「――というわけで! 先日のみなさんの活躍で、天承城下に徘徊していたアヤカシは撃退されました! お疲れ様です!」 佳織は盛大な拍手を送った。 「今回は迎撃戦ですね! ある意味、ようやく反撃の糸口が見えてきた、というところでしょうか! でも、油断はできません。今回の敵は、不死軍の重装備の武者骸骨に、凶賊『紅』の龍騎兵です。それに、魔の森の方向で、何か、瘴気が爆発していた、という報告もあります。不厳王の動きに要注意です。差し当たり、アヤカシと凶賊を迎撃して下さい! 今は、一つ一つの勝ちでも凄く貴重です! みなさん、頑張っていきましょう!」 そうして、開拓者達は、それぞれに神楽の都を出立するのであった。 |
■参加者一覧
北条氏祗(ia0573)
27歳・男・志
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
和奏(ia8807)
17歳・男・志
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
成田 光紀(ib1846)
19歳・男・陰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓 |
■リプレイ本文 武天国、王都此隅――。 鈴木 透子(ia5664)は芦屋馨とともに、西祥院真禅のもとを訪れた。二人は客間に通された。 「真禅様と紅牙の間に、一体何があるのですか」 透子の問いに、芦屋は口を開いた。 「二人の間に血のつながりがあるのかどうかは存じませんが、親子関係のようなものが存在するのではないかと」 「親子ですか……」 天涯孤独の透子に、その言葉はどう反射したのであろうか……。 そこへ真禅が姿を見せた。初老の偉丈夫であった。透子は真禅の瞳を見て、頭を下げた。 「そろそろ来るのではないかと思っていた」 「紅牙の件。弘秀様は最善を尽くし、戦っておられます」 芦屋が言うと、真禅は頷く。 「失礼ながら真禅様、紅牙を救いたいとのことですが、かの凶賊の頭目とどんな関係なのでしょうか。真実を、お聞かせ頂けますか?」 透子の問いに、真禅は思案した。 「……わしがまだ青二歳だったころ、この地は戦乱と混乱にあった。わしは家命により、まだ当時龍安家の名を継ぐ前の某家の兵士として、鳳華の氏族と戦った。そんな戦の中で、わしは沙羅と言う女と出会った。沙羅には双子がいて、元気な男の子だった。沙羅は戦場の天使であった。兵士達も癒されたよ。だが、ある日、沙羅は何者かに一族もろとも殺された。わしが駆け付けた時、沙羅の息は無かった。そして双子が消えていた」 「……それで、どうなさったのですか?」 「それから数十年経ったある日のことだ。真沙羅姫と言う名のアヤカシが、わしの前に現れた。双子のことを知っていると言ってな」 「真沙羅姫と、会ったのですか?」 「向こうからやって来た。双子は、一人が龍安家の先祖、大氏正であり、もう一人は凶賊として生きている、と」 「……信じられるのですか」 「わしは信じた。沙羅の子供を助けてやりたいと思ったのだ。龍安家を支援したし、紅牙を探し出して救いの手を差し伸べた」 「今の話を紅牙に伝えたとして、助けるためには、真禅様のお気持ちが伝わるものが必要です」 透子には何が本当かは分からなかったが……。 「これを……」 真禅は、鈴を透子に手渡した。 「沙羅の形見だ。紅牙も同じものを持っている――」 鳳華、天承――。 「凶賊を助けよとは異なことを」 北条氏祗(ia0573)は言って、ルオウに声を掛けた。 「そうは思わぬかルオウ殿。あれだけの人を斬った凶賊集団を、老中殿は何を考えておいでなのだ」 「俺には分かんねーつーの!」 ルオウ(ia2445)は「俺に聞くなよ」と応じる。 「ただまあ、天の声に逆らうなって言葉もあるよな」 「お主でもそんなことを思うのか」 「思うわきゃねーだろ。俺にとっちゃ、天の声より助けを求める声の方が大事だ」 「老中殿は助けを求めているようだが……」 「それは分かってるっつーの。どうすっかな……」 「こたびは迎撃せよとのことですが、どの程度の戦果を求めておいでなのですか?」 和奏(ia8807)が龍安弘秀に問う。 「出来る範囲で殲滅。無理はしなくて良い。追い払うだけでも結構」 「弘秀様、一案ではありますが、私からの提案を聞いて頂けますでしょうか」 コルリス・フェネストラ(ia9657)の言葉に、サムライたちも聞きいる。 「人を使うアヤカシか……さて、な。だがしかし、ここまでくると、人とアヤカシとの境界はどこにあるのか、思わんでも無い」 成田 光紀(ib1846)は思うところがあった。アヤカシは絶対悪。共存不可能な人類の敵である。だが凶賊は人間だ。例え相手が修羅でも、成田は自分が修羅になれないことを知っている。アヤカシに与する人間は理解できなかったが。存在を否定したところで消えてくれるわけでもない。 「老中の爺ちゃん? も何考えてるのかねえ……凶賊を助ける? はあ? ねえ、弘秀、どういうこと」 リィムナ・ピサレット(ib5201)は戦況に付いて再確認する和奏やコルリスを押しのけて苛立たしげに弘秀に詰め寄った。 「ま、話すと長くなる。単純じゃないんだ。老中の爺さまと言っても、鬼じゃない」 「よしよし、落ち着きなさいリィムナさん。まあ、敵を討伐すると言う基本方針に変わりはありません」 和奏が言うと、コルリスも応じた。 「正直、凶賊を助けるのは難しいです。芦屋様や鈴木様がどんな言葉を持って帰るとしても、戦となれば、これはもうお互いに剣を抜くより他にありません」 「だよねー!」 リィムナがうんうんと激しく頷くのを、篠崎早矢(ic0072)は軽く見やり、戦場の地図に目を落とす。 「それにしても、武者骸骨か。アヤカシはあっという間に増えますね。これも魔の森の待機戦力ですか。不厳王の力か。中級アヤカシも複数。あの森は厄介ですね」 「戦力は落ち着いていたのだがな……」 「不厳王を引きずりだす方法は無いものでしょうか」 「今の我々に出来るのは、一つ一つの勝ちを拾っていくことだがな」 と、その時だった。空中に不厳王の幻影が出現し、言った。 「無駄なことはやめろ。お前たちは絶望の淵に沈み、苦しんで死ぬのだ。天承は墓場だぞ。わしに勝てると思うのか。ここを飲み込むのもあと少し……全ては終わる」 「うるさい奴だな」 篠崎は、十人張で幻影を撃ち抜いた。不厳王は怒りの声を上げて、幻影を消した。 「だが……奴の言うこともあながち嘘じゃないですよね。魔の森が広がり始めたら……」 またその時だった。今度は鳳華のケモノの主、白狐が久しぶりに姿を見せた。白狐は入って来ると、人々に言った。 「魔の森を止める方法があるぞ。大地の精霊を探せ。彼女の力を借りれば、可能だろう。ただ、不厳王が龍脈の流れを妨害しているから、それを正す必要があるが――」 その件については、弘秀はあとから白狐の話を聞くことにする。今は、アヤカシと凶賊だ。協議していると――。 「ただ今戻りました」 やがて、透子たちが帰って来た。 「いかがでしたか鈴木様」 コルリスが問うた。一同、その言葉を待つ。 「……本当のことは多分、言われなかったのだと思います。ただ、紅牙を止めて欲しいと……」 透子は、真禅の言葉を伝え、形見の鈴を取り出した。 「起死回生は無いかも知れませんねえ」 和奏は言った。彼に戦場で手加減する選択肢は無かったから。 そうして、開拓者たち、龍安兵は出撃していった。 「諸君、私は戦争が好きだ……騎射戦が好きだ! 騎馬戦が好きだ! 徒士戦が好きだ。情報戦が好きだ! 篭城戦が好きだ、槍くらべが好きだ。作戦がはまり、弓隊が敵兵を全滅させた時など歓喜にうち震える。馬の手綱を取れ、手ぐすねを引け、火蓋を落とせ! アヤカシどもの顎を喰いちぎってやれ! 展開は手はず通りに……散れ!」 篠崎の号令で、兵士達は散っていく。 「気骨があるお嬢さんだな……、戦争が好きか……」 龍安兵たちは、塹壕を掘りながら、罠を仕掛けていく篠崎を見ていた。 篠崎は罠伏りで市街地跡にスピアトラップなどを仕掛けていく。 「凄い演説ですね」 コルリスがスコップ片手にやって来て、篠崎に声を掛けた。 アヤカシは世界規模の災厄のようなもの。その災厄との戦争は、人類が総力を以って行う戦闘行為、生存戦闘と言えるのかもしれない。今や開拓者はその最前線にいる。 「戦闘前の高揚感ですね。何かわくわくしてきます」 篠崎は言って、罠を遮蔽する。 それからやがて、敵軍の接近の知らせが届く。 「地上を宜しくお願いします」 コルリスは言って、走り去っていく。 舞い上がったコルリスは上空、さっと手を上げた。準備をしていた龍安龍騎兵が散開する。四騎一組みの四指戦術。 「撃て!」 コルリスは腕を振り下ろした。 サムライたちは矢を解き放った。矢はまっすぐに飛んでいき、アヤカシや凶賊たちに吸い込まれて行く。敵陣は乱れた。 「よーし! 行っきまーす!」 リィムナは上空からマッキSIを加速させた。フルートから奏でられるのは、「魂よ原初に還れ」の演奏。必殺のジェノサイドシンフォニー。 リィムナはそのまま敵陣を貫通した。アヤカシは瘴気に還り、凶賊たちは墜落していく。 「こちらも、行きますよ」 コルリスは鞍上で矢をつがえると、味方の兵を前進させた。 アヤカシ達は抜刀し、凶賊たちは加速する。 和奏は鬼神丸を抜いた。霊気が刀身から立ち上る。 「行きますよ――漣李さん」 手綱を解き放つと、漣李は加速した。陽光に漣李の羽が映える。和奏は鬼神丸を構えると、勢いよく振り下ろした。瞬風波から解放された風の刃が、アヤカシ達を薙ぎ払う。切り裂かれた武者骸骨に死骸龍は、凄まじい衝撃にばらばらになって崩壊し、瘴気に霧散した。 「ん……?」 ぐるぐると旋回する凶賊たちに、和奏は違和感を覚えたが、そのまま接近する。凶賊は喚きながら突進して来た。 「何です?」 和奏は微塵の隙も無く、鬼神丸を構えた。そして突撃してくる凶賊を秋水で切り捨てた。血も引かぬ秋水の切れ味。凶賊は墜落していく。 「何なの……?」 リィムナは眉をひそめた。立ち向かってくるアヤカシに、ただ飛び回る凶賊たち。凶賊たちの動きは何なのか……? 凶賊たちはあちこちで、喚きながら龍安兵に突撃し、体当たりをぶつけていく。 リィムナは機体をコルリスの横に付けた。 「コルリス、凶賊の動き、真沙羅姫の罠かもしれない。こちらの動揺や油断を誘って奇襲をかけるつもりかも。どこかにいるんじゃ?」 「それはあり得ますね……」 「皆に伝える!」 リィムナは飛び立った。 「みなさん! こいつらは凶賊であり、アヤカシと手を組んだ時点で討伐対象なんだ! 兵士の皆さん、惑わされないで!」 リィムナはきっと敵を睨みつけると、「魂よ」の演奏を打ち込んだ。 和奏は、紅牙の突進を受け止めた。秋水で切り返す。紅牙は手甲で受け止めた。 「邪魔するな!」 「それはこちらの台詞です」 和奏は紅牙の龍を切った。紅牙は、喚き声を上げて墜落していく。 やがて、龍安軍は上空を圧倒していく。 成田は後方にあって、各部隊の調整に当たっていた。 「数の上では有利だが……さてな」 成田はシノビと吟遊詩人の連絡網を築いておくと、全体を見ながら指示を出していく。篠崎らが作った防御陣を利用して、各部隊の前進と後退のタイミングを図る。 「まずは北条君、ルオウ君、篠崎君に出てもらうか」 成田は卓上の駒を前進させた。 「よし行くぞ!」 北条は走龍の手綱を捌き、突進していった。龍安兵が後に続く。 「よっしゃあ! フロド! 行くぜえ!」 ルオウも愛騎に鞭を入れた。赤毛の少年は単騎突入。 「行くよ! 夜空!」 篠崎も兵隊とともに愛騎を走らせる。 三人がぶつかったのは武者骸骨の歩兵集団。 北条は敵陣に突入して武者骸骨を切り捨てた。走龍の鞍上から二刀を振るい、アヤカシ達の首を刎ね飛ばしていく。 ルオウは咆哮と威嚇の声で武者骸骨たちを混乱させる。乱れたアヤカシ達はルオウを追って迫って来る。 篠崎ら騎兵はアヤカシらを左に捉え、弓を構えていた。 「撃て!」 一斉射撃でアヤカシ達が次々と瘴気に還っていく。 「もっと来ーい!」 ルオウは言って、走龍を走らせる。篠崎らが作った罠地帯へ引きずり込むと、アヤカシらを一掃する。 成田は次の手を打つ。 「では、後続の部隊を突入させ、最初の兵を一時後退させる。損傷の平均化を図る。鈴木君、よろしく」 「了解しました」 鈴木は前線に出ていく。真沙羅姫は見つかるのだろうか……。 成田は地図を見ていた。 その時だった。上空から敵兵が落下して来た。 「いかんな」 成田は結界呪符を張り、護衛の兵士たちが賊を討ちとる。 さらに傷ついたアヤカシが不時着してくる。それを成田は火炎獣で焼き払った。 「一時後退か」 北条はアヤカシを切り捨て、走龍を反転させた。 そこへ、衝撃波が飛んできた。 「む……!」 北条は構えた。見ると、大きな武者骸骨が兵士達を押しのけて突進してくる。ボス武者だ。その一撃を、北条は受け止めた。返す一撃をボス武者はブロックして、大刀を振り下ろす。走龍は回避して、北条は連撃を打ちこんだ。一撃でボス武者のブロックを弾き飛ばし、続く一撃で胴を薙ぎ払った。ボス武者は咆哮して後退した。北条はその隙に後退する。 「北条!」 ルオウが愛騎を寄せて来る。 「無事か!」 「何とかな」 篠崎がやって来る。 「いったん後退ですね」 「成田殿はよく見ているな」 後退する彼らと、鈴木は行き交った。 「鈴木! 気を付けろよ!」 「みなさんもいったん休んで下さい――」 それから開拓者達はアヤカシ歩兵を削った。上空のアヤカシは逃走し、凶賊たちは生き残った者は地上に降りて、龍安軍の戦線を突破しようとしていた。 「歩兵だけではない。まだ騎馬武者が残っているな」 成田は言って、集まった仲間たちに言った。 「自陣に呼びこんで、包囲殲滅ですね」 コルリスが言うと、成田は応じた。 「アヤカシを引きずりこむのは容易いだろうが、攻勢に出る瞬間までは気が抜けない」 「始めましょう――」 歩兵は後退し、アヤカシ騎馬武者が突進してくる。 上空からリィムナが演奏で蹂躙する。演奏の絨毯爆撃。瘴気に霧散するアヤカシ。 しかしアヤカシは止まらない。 和奏が鞍上から瞬風波を叩き込む。切り裂かれたアヤカシは消滅する。 「翔!」 コルリスも上空からアヤカシを射抜く。 アヤカシは怒涛となって突進してくる。 北条、ルオウ、篠崎、鈴木らは、望遠鏡でアヤカシ軍を見ていた。 「来るぞ!」 「今だ撃て!」 龍安軍が総員矢を放った。矢と射撃。さらに罠を起動。 直撃した矢と銃撃、槍がアヤカシの最前列を貫通。アヤカシ軍の戦列が崩れ、次々と瘴気に還っていく。 さらに続いて突進してくるアヤカシに陰陽師や魔術師の術を撃ち込み、突進を止める。 鈴木も成田も攻撃に加わった。 総攻撃だ。 ルオウ、北条は突進した。 開拓者、龍安軍はアヤカシの騎馬武者を包囲して撃破していく。加えて凶賊たちを撃破していく。 やがてアヤカシは退いた。 龍安軍の包囲網の中に、凶賊たちの生き残りが集まっていた。 そこで、凶賊の一人が変身して、真沙羅姫になった。 「お前たち、目を覚ますがいい」 真沙羅姫は硬直する開拓者達を残して、散り散りの灰となって飛び去った。 術を解かれた凶賊たちの顔に恐怖の色が浮かび上がる。 ただ一人、紅牙は、吠えた。 「沙羅! 俺を殺したな!」 そして、紅牙は開拓者達を見返した。 「殺すがいい。死んでやるわ! とうに死んでいた命だ! どの道お前たちも不厳王に飲み込まれる! 今逝くか、先に逝くか!」 そこで、透子が進み出た。鈴を鳴らした。 紅牙の動きが止まる。 「貴方を救いたいという人がいます」 「なぜ、それを……」 「真禅様が持っていました」 「俺は俺だ。アヤカシに生かされようと、他の誰でもない。俺は紅牙」 そして、紅牙と、紅の生き残りは捕縛された。彼らは此隅へ送られ、裁きを待つことになる。 |