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■オープニング本文 武天国、王都此隅――。 精霊門を通って姿を見せたのは弓術師たち。武天国王、巨勢宗禅(コセソウゼン)のもとを理穴国王である儀弐重音(ギジシゲネ)の使いが訪問したのは、大アヤカシの存在が確認されてから間もなくのことである。 儀弐王からの正式の勅使である弓術師たちは、礼節を以って巨勢王のもとへ通される。 「果たして武天からさらに援軍を引き出すことは出来るのでしょうか‥‥」 弓術師たちは囁く。武天は常日頃から理穴国西部に兵を送り、アヤカシの脅威に対抗している。武天は言わば理穴にとって同盟国。 緑茂の里の情報は各国へと伝わっていたが、いまだに各国の足並みは揃わない。弓術師たちは何としても巨勢王を説得し、緑茂の里に武天のサムライ達の助力を仰ぐつもりであった。 巨勢王の直臣達であろう、サムライたちが興味津々の目で弓術師たちをみやる。ざわめくサムライたちの声を、太鼓の連打がかき消した。そして――。 「理穴国王、儀弐重音殿からの勅使! 巨勢王に拝謁する!」 その声が場内に轟くと、場はしーんと静まり返った。 弓術師たちが顔を上げると、そこに赤褐色の肌をして豪奢な毛皮に身を包んだ大男がいた。武天国王、巨勢宗禅である。 「遠路はるばるご苦労、緑茂の件はわしも存じておる、儀弐王の心労、お察しいたす」 巨勢王のだが威圧的な声に、弓術師たちは圧倒された。 「こ、巨勢王に置かれましては、我らが国王重音様からの意を汲んで、何卒援軍を派遣下さいますようお願い致します」 「ふーむ、援軍と申されるか」 巨勢王はじろりと勅使たちを見据える。普段からの支援に加えてさらに兵を出せという。緑茂の緊急事態を巨勢王も承知はしていたが、二つ返事で増援は出来ない。睨まれた弓術師たちは威圧感に押しつぶされそうになる。 「この宗禅、重音殿をお救いするにやぶさかではない。我が国と理穴は同盟国。ですが、敵は大アヤカシなれば、一体どれだけのアヤカシを相手にせねばならぬのか、そこを見極めるのは、諸王も頭を痛めているところでございましょうな」 「武天国王に置かれましては、一刻も早い援軍をお願いしたいと、儀弐王陛下からのお願いでございます。武天が動けば、諸国の足並みも出揃うというもの。巨勢王の御決断が、里の存亡に掛かっているのです!」 勅使は懸命に頭を下げる。武天は大国で理穴の同盟国。真っ先に里のために動いて欲しい。だが巨勢王は豪快に笑って冷静に指摘する。 「さもありなん。ですが、大アヤカシが相手であれば、まずはわしの目で緑茂の様子を確認する必要がありましょうな。果たして一体どれだけの兵が必要なのか」 そう言って、巨勢王は一人の家臣を呼ぶ。 「音無!」 「ははっ、陛下、音無これに」 「儀弐王からの正式の要請である。わしの目となり、緑茂の里の情勢を探ってまいれ。里の情勢を確認し、援軍については検討する」 それでも勅使たちは抗議する。 「宗禅殿! それでは間に合いません! 里は滅びてしまいます! 今すぐに増援を!」 「まあ落ち着かれよ勅使殿。この宗禅、必ずや貴国の危機には駆けつけますれば。わしが常日頃から貴国を支援している事実をお忘れか? 重音殿には宜しくお伝えあれ」 こうして、弓術師たちは成果を得られぬままに巨勢王の前を辞する‥‥。 ――緑茂の里、南西部、大船原。 里の避難は順調に進んでおり、理穴本陣の背後を守る大船原の防備は着々と進んでいた。ここはそんな一つ。物資を集積する野営地の任を負っていた。護衛にはギルドから派遣された開拓者達と弓術師が当たっていた。 音無ら巨勢王が派遣した武天のサムライ達は、すでに北の最前線に立ち寄っていた。改めて前線の危機を確認すると、後方の野営地に立ち寄り、里にも立ち寄るつもりであった。 「予想以上に里は厳しい情勢にありますな」 サムライの一人が険しい顔つきで野営地を見渡す。音無はありのままを報告するつもりではあったが、さて、主君はどれだけの兵を出すだろうか。 ――と、その時である。 「敵襲! 敵襲だ!」 哨戒に出ていた弓術師がアヤカシの出現を告げると、野営地に緊迫が走る。 野営地の北と西から、鬼の群れがこちらに向かって殺到してくるという。 「数はいかほど」 「北から二十、西からも二十。いずれも中型の赤鬼と青鬼だ。西の集団には首領と思しき大型鬼がいる。明朗な人語を話していた」 武天の音無は部下達とともに理穴の兵士と開拓者達に助勢を申し出る。 「どうやら見過ごすことはできないようだ。手を貸そう」 「感謝する。何とか巨勢王にもこの苦境に手助けして頂きたいものだが」 開拓者達も迎撃の準備を整える。 ‥‥鬼の集団を操る西の大鬼は、巨大な岩狼に騎乗しており、青い炎に包まれていた。その姿は修羅のようだ。 「さて‥‥炎羅様が待っておられる。抵抗を続ける人間どもの苦しみと絶望が我らの糧となる‥‥者ども! 掛かれえ!」 修羅のごとき炎を身にまとった大鬼は咆哮すると、鬼たちも雄叫びを上げる。 終わりなきアヤカシの攻勢。ここでも激戦が幕を上げる。 |
■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034)
21歳・女・泰
美空(ia0225)
13歳・女・砂
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
細越(ia2522)
16歳・女・サ
水月(ia2566)
10歳・女・吟
鈴 (ia2835)
13歳・男・志
白蛇(ia5337)
12歳・女・シ |
■リプレイ本文 ボスアヤカシは、岩狼の上から、立ちはだかる開拓者達の姿を見出して、牙を剥いた。 「ぐっふっふっふっ‥‥人間どもが‥‥出てきおったか‥‥無駄なあがきよ‥‥突き破ってくれるわ!」 アヤカシボスは天に向かって咆哮すると、鬼アヤカシが歓喜の雄叫びで答える。 アヤカシたちは開拓者達を包囲するように広がると、一部が後方の物資に向かって突撃を開始する。 「前哨戦ではありますが、対炎羅戦争の趨勢、この一戦にありなのであります。開拓者諸君、奮闘努力せよなのであります」 大規模戦争への参戦と拠点戦略を練るための視察と称して今回の護衛に参加していた、美空(ia0225)であった。 「美空は姉上のお早い御戻りを待っているのであります。存分に実力を示して欲しいのであります」 「美空、しっかり頼んだよ! あの化け物たちに好き勝手させないんだから! すぐに向こうを倒して、駆けつけるよ」 義妹の美空の頬を撫でる鴇ノ宮風葉(ia0799)。風葉の恋人である天河ふしぎ(ia1037)は西方へ向かう仲間達に美しい笑顔を向ける。一見すると美少女にしか見えない天河。 「わかった、僕達が赤鬼を速攻で蹴散らしてくるから、それまで西の守りは宜しくね(にこっ)」 「この戦‥‥負けるわけにはいかん。理穴は武天からの増援を頼みにしているのだ」 細越(ia2522)は弓の弦をきりりと引き絞った。 「西はなんとしても食い止めるアルよ。苦しい戦いアルが、物資には指一本触れさせないアル」 泰拳士の梢・飛鈴(ia0034)は言って拳を打ち合わせる。 「敵の数は‥‥僕たちよりも多い‥‥厳しい戦いだけど‥‥岩狼に乗った‥‥青い炎の鬼も気がかりだけど‥‥」 おどおどした口調で話す白蛇(ia5337)。まだまだ未熟なシノビだが、アヤカシ撃滅を誓う。 巫女の水月(ia2566)は仲間達の話を聞きながら、こくこくと頷いてはアヤカシの群れに首を向けていた。 「鬼どもが‥‥ここは一歩も通さない。行くぞ、多勢に無勢とは言え、泣き言を言ってる余裕は無いからな」 焔龍牙(ia0904)はアヤカシの群れを見据えると、西側の青鬼を食い止める仲間達に声を掛ける。 「俺は皆さんを信じて待ちます‥‥万が一に備えて物資を守りますから‥‥アヤカシをお願いしますね」 鈴(ia2835)は音無らサムライ三人とともに物資の守りつく。 ――オオオオオアアアアアアアアアアア! 鬼の集団が一斉に突撃してくる。数では勝るアヤカシ勢。一気に開拓者達の突破を図る。 サムライ達は咆哮を使って鬼を足止めするが、全てを食い止めるのは不可能だ。一部が漏れて物資に突撃する。 「アヤカシ‥‥来ます。きっと皆さんが他のアヤカシは倒してくれます‥‥皆を信じて一緒にここを守りきりましょうね‥‥」 鈴の言葉に、音無らサムライ達はちゃきっと刀を握り直せば、アヤカシたちを睨みつける。 「うむ。あ奴らを生かしては返さん。およそ人に仇名す人外の魔物。瘴気に還してくれるわ。――行くぞ!」 音無は先陣を切って突進する。鈴も音無らと同時に飛び出した。 「はああああ‥‥せいやあああああああ!」 音無の豪剣が鬼の肉体を凄絶に切り裂いた。伊達に巨勢王の家臣は務めていないらしい。 鈴も雪折で赤鬼に反撃する。――ドズバアアアアア! と赤鬼の胴が切り裂かれる。血飛沫と肉が飛び、鬼は激痛にわめいた。 「ガアアアアア――!」 鬼の棍棒を形見の白鞘で跳ね返す鈴。 「皆が頑張ってるんです‥‥先に俺だけ倒れるわけにはいきません‥‥」 雪折で反撃する鈴。ズバアアアアア! と刀剣が鬼の頭部を吹っ飛ばした。 「やるなあ! 貴殿! 神楽の若手開拓者も腕を上げたものだ!」 サムライ達は言って鈴の奮戦を称えると、鬼を叩き切っていく――。 ――西側の戦場。 飛鈴は一人で複数の鬼を相手に互角以上の立ち回りを見せる。疾風のごとく鬼の攻撃は回避し、拳と蹴りで鬼をなぎ倒していく。 ドゴオオオ! ドシュウウ! ズシャアアアア! と凄まじい一撃を打ち込んでいく。 「ここは通さないアルよ。後ろにも味方がいるアル。北のみんなが駆けつけるまで、何としても持ち堪えるアル!」 満身の力で拳を打ち込む飛鈴。ドズバアアアア! と拳が鬼の胸部を打ち抜いて、鬼はぐらぐらっとよろめく。 「はああああ‥‥ていやあああ!」 飛び上がった飛鈴は空中で回転して鬼の頭部を旋風脚で吹き飛ばした。 白蛇は青鬼を観察していた。鉄爪で攻撃を受け止めながら、雷を放つ時間を計っていたのだ。 と、青鬼の一体が腕を一振りして雷を撃った。雷を撃つ時間はごく僅か。ほんの一瞬で全く10秒も掛かっていない。 「‥‥雷は一瞬の技‥‥それならそれで気をつけないと‥‥」 乱戦の中、白蛇は味方と背中を合わせ、雷に注意するように伝える。 「厄介な技アルな。敵だけ長距離攻撃できるのは卑怯アルな」 白蛇と背中を合わせた飛鈴は青鬼を吹っ飛ばしながらもふら様の面と呼吸を整える。 「尤も、そうも言ってられないアル!」 飛び掛っていく飛鈴。 白蛇は飛鈴と離れると、一部、戦場を離れて突破を試みる青鬼に水遁の術を叩き付けた。水柱が沸き起こって鬼を直撃する。 「これ以上後ろには‥‥行かせないよ‥‥」 突進してくる青鬼の刃を受け止める白蛇。ガキイン! ガキイン! と連打を弾き返して後退する。 「赤い色は嫌いだけど‥‥」 ヒュン! と鉄爪を叩き込む白蛇の一撃が青鬼の肉体をざっくりと切り裂いた。 味方のサムライ達と弓術士たちも全力で鬼の足を止める。咆哮で足止めし、雷を受けながらも反撃し、弓術士たちは即射を使って鬼の前進を阻んだ。 それでも数は敵が上。最前の一歩後ろに陣取る龍牙は押されているところへ切り込んでいく。 「そう簡単に近づけると思うなよ! 俺たちが相手だ、覚悟しな!」 裂ぱくの気合いとともに刀を叩き込む龍牙。凄絶な一撃とともに鬼の肉と骨が砕け、アヤカシは絶叫する。 青鬼の攻撃を跳ね返し、隙を見出して確実に一撃を叩き込んでいく。龍牙の一撃は強力だが、防御がやや弱い。 「たとえこの足が避けようとも皆さん応援し続けるのでありますよ」 そんな龍牙たちを支援するのが巫女の美空と水月。神楽舞「速」と神風恩寵で防御面の不安を支援する。 「ありがたい。巫女の舞いで防御が増す! 行くぞ! これで終わりだ! 炎魂縛武をくらって消えな!」 疾風のように駆ける龍牙の炎魂縛武が青鬼の頭部を撃砕する。 と、そこで岩狼に乗ったボスアヤカシが進み出てくる。 「ぐっふっふっふっ‥‥意外にやるな雑魚どもが。だが貴様らの弱点は後ろの小娘たちと見た!」 ボスアヤカシは咆哮すると、青鬼たちが美空と水月に向かって雷を連打する。 「あの小娘どもを殺せ! 厄介な術を使う術士どもだ!」 美空と水月は意外なまでに超射程の攻撃を連発され、雷の閃光に目が眩む。 「ちいっ! 美空さん! 水月さん! 下がれ!」 龍牙は叫んだが、巫女に対して術攻撃を行うとは、アヤカシは攻撃の相性までは知らないらしい。 雷の嵐に包まれた二人は、庇うように手をかざしていたが、全くの無傷で立っていた。 「無事か‥‥さすが巫女か」 龍牙の言葉に、美空は少しばかりずれた兜を整える。 「御心配なさらずなのであります。美空は大丈夫なのであります」 水月はこくこくと頷いて汚れた外套を払った。 白蛇はアヤカシボスの方に足を踏み出すと、声を掛けた。 「アヤカシ君‥‥僕の名前は白蛇‥‥きみの名前は何と言うのかな‥‥青い炎の鬼では呼びにくいから‥‥名前を教えて欲しいんだけど‥‥」 するとアヤカシボスは笑った。 「名前? 俺様に名前など無いわ。俺はただのアヤカシ。まあそうだな‥‥大蒼炎とでも言っておこうか」 すると、アヤカシボスは不敵な笑みを浮かべる。 「そんなことより、自分達の身を心配したらどうだ。俺様は気が短い。呑気に遊んでいるほどお人好しでも無いのでな」 アヤカシボスはいよいよ攻撃態勢に入ろうとしていた。 北側の戦場――。 天河ふしぎは赤鬼の群れに突進していく。小柄な体に似合わぬ長大な残馬刀を振りかざして、大地を駆け抜ける。 「風葉、背中は任せたよっ‥‥お前達、ここから先は一歩も通さないんだからなっ!」 風葉は愛する天河の背中に叱咤激励する。 「行っけーふしぎちゃん! 背中はあたしが守ってやるぜよー! ラブアンドピース!」 「風葉! 僕はふしぎちゃんじゃない!」 「ふしぎちゃーん! やっつけろー! 行けー!」 熱烈な応援を叩きつける風葉。 「ふしぎちゃんじゃないってば‥‥」 天河は気を取り直して赤鬼に切り掛かっていく。 「はああああ‥‥せやあああああああ!」 残馬刀を叩きつける天河。ドッゴオオオオオオオオオ! と一撃で赤鬼が砕け散る。何とも超絶的な破壊力だ。 「この位の傷、人々の痛みと比べたら何ともないんだぞっ」 弓術士たちが即射で次々と矢を叩き込み、六人のサムライが赤鬼の突進を押し留める。 「私の弓を受けるが良い」 サムライなのだが弓取りの称号を持つ細越は、理穴弓を引き絞って解き放つ。 ズキュウウウウウウウン! と凄まじい矢の一撃が赤鬼の頭部を貫通すると、瘴気に還元して消滅する赤鬼。 きりきり‥‥と弓を引き絞り、第二射を放てばまた一撃でアヤカシが消滅する。細越の超威力の攻撃に弓術士たちも感嘆の声を上げる。 巫女の風葉だが、サムライ国の武天でも名高い強弓五人張を引き絞ると、驚くべき攻撃力を見せる。放たれた矢は唸りを上げて空を飛び、赤鬼の分厚い肉体を貫通した。 「あによ♪ 鬼さん退治――! 巫女の強弓を受けてみよ!」 風葉はさらに矢を放って天河やサムライ達を援護する。 赤鬼の一部がすり抜けて物資の方へ向かって行くが、こればかりは鈴と音無たちを信じるしかない。 「炎だったら、僕も負けないんだからなっ!」 天河は赤鬼の火炎攻撃に対して、炎魂縛武の炎を纏わせ、斬馬刀を叩きつける。肉を捌くようにいとも容易く残馬刀は赤鬼を両断した。 細越は武器をバトルアックスに持ち換えると、突進、本来のサムライらしく格闘攻撃を開始する。その威力たるや弓矢とは比較にならない。139センチの小柄な16歳、だが一撃の破壊力は並みのサムライではない。 「斧は嫌いなのだが」 細越は不機嫌に呟くと、アックスを叩き付けた。斧は赤鬼を一刀両断する。 北側にサムライ六人と弓術士七人が回って、数的にはほぼ互角の状態を作り出した。開拓者達は彼らの助力も得て、赤鬼たちを粉砕する。 ‥‥アヤカシボスが動き出したところで、北側の天河と風葉、細越らが西側の戦場に回ってくる。 「みんな、お待たせっ! 赤鬼は倒したよ!」 「待たせたな」 「さー、けが人はいないかな? あたしが回復してあげようじゃん♪」 飛鈴は仲間達に声を掛けると、状況を知らせる。 「いいところに来たアルな。これから今アヤカシのボスが動き出そうとしていたところアル」 「そうか、それは丁度良い」 細越は弓を持つと、攻撃態勢に移る。 「ぬうっ‥‥赤鬼を倒したか‥‥人間ども‥‥だが、俺様は倒せんぞ。雑魚を倒した程度で調子に乗るなよ」 「何を、余裕が無くなったかアヤカシの首魁よ、貴様を倒して戦乱の元凶を絶つ」 龍牙は進み出ると、刀を構え直す。 「片腹痛いわ! 人間ごときに俺様が敗れるものか! 修凱骨様の手を煩わせることもない。ここで貴様らには全滅させてくれるわ!」 そう言うと、アヤカシボスは岩狼に鞭打って突進してきた。腰の大剣を抜くと、猛進してくる。 風葉、水月、美空たちが神楽舞「速」で前衛の味方を支援すると、加速した開拓者達はボスの大鬼に突進する。 弓術士たちもありったけのスキルをつぎ込んで矢を連射する。 ドカカカカカカカカ! と巨体に矢の直撃を受けても驀進してくるアヤカシボス。 細越も理穴弓を引き絞って矢を撃ち放つ。ズドン! と矢が命中するが、さすがにボスアヤカシ、怯む様子を見せない。 サムライ達は正面に立ち塞がり、天河、龍牙とともに、岩狼の突進に立ち塞がる。 「死いいねえええええ!」 アヤカシボスは咆哮して突撃してくるが――白蛇が水団の術で勢いを弱体化させると、がっし! と立ち塞がった開拓者にサムライ達は岩狼の突進を受け止めた。 「ぬうう!?」 驚くアヤカシボス。どうやら吹き飛ばせると思っていたらしい。 「そう簡単にいくと思うのか! 風葉と美空が力をくれる、炎精招来‥‥くらえっ、これが僕達の絆の力だっ!」 炎魂縛武をまとわせた残馬刀を岩狼の首に叩きつける天河。ズバアアアアアアア! と岩狼の首が飛んだ。 さらに追い討ちを掛けるように白蛇の青白い火遁の術が岩狼に叩き付けられる。 悲鳴のような咆哮を上げて崩れ落ちる岩狼。 「な、何い!」 アヤカシボスは地面に転がり落ちた。 「お前を逃がしはしない! ここで消えるのはお前だ!」 龍牙は炎魂縛武で打ちかかる、ズバッ! と切り裂かれるボスの肉体。 サムライ達が連打を浴びせかけ、飛鈴が骨法起承拳からの正拳突を連発する。 「小賢しいわあ!」 アヤカシボスは大剣を振るって反撃する。雑魚とは比べ物にならないくらいに硬く、しぶとい。攻撃も速く強靭だ。 この中では頭抜けた実力を持つ天河ですら打撃を受けた。だが、開拓者達は諦めることなく猛攻を浴びせかけた。手数では圧倒的、集中攻撃を叩き込めばあるいは‥‥。 「畜生! 修凱骨様! こ奴らの一人でも道連れに大殿様へ力を送ります! 俺様の命と引き換えに!」 ずたぼろになった大鬼はサムライの一人に突撃すると、巨体に似合わぬスピードで連打を繰り出し、武天のサムライを切り裂いた。 「ぐ‥‥は‥‥!」 切り裂かれたサムライは吹っ飛んで、鮮血が飛んだ。 「こいつ!」 開拓者達は最後の抵抗を見せる大鬼に集中攻撃を浴びせかけ、遂にこのアヤカシボスを撃破する。 「くはは‥‥大殿様‥‥こ奴らを‥‥滅ぼし‥‥」 「黙れ!」 天河は残馬刀を叩き込んだ。ぐしゃっと、残馬刀がアヤカシボスの肉体を貫き、やがてその肉体が黒い塊となって崩れていく。そして最後には瘴気となって消滅する。 「大丈夫か」 音無が切り倒されたサムライに駆け寄る。 「大丈夫。まだ息はある」 風葉は神風恩寵で瀕死の重傷を回復させると、サムライは意識を取り戻した。 ‥‥かくして戦闘は終結する。 アヤカシを撃退し、物資を無事に守り通した開拓者達は、武天のサムライ達を見送る。 「確かに里の現状は厳しい。私としてはありのままを巨勢王にお伝えするのみ。あとは陛下が決断されることだ」 「何としても武天の援助をお願いする。里の戦力だけでは限界だと私も思う」 細越は最後に音無に声を掛けたのである。 「うむ‥‥」 そうして音無たちは武天に戻る。果たして、武天は動くのだろうか。 合戦の幕は上がり、戦いは本格的に動き出していた。 |