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■オープニング本文 小船原砦への襲撃は退けられた。運船の森から湧き出してきたアヤカシ勢力はひとまず後退する。噂では狐妖姫が出たとか何とか‥‥。 「また運船の森から移動するアヤカシが?」 大船原を哨戒していた弓術士の警備隊長は、部下からの報告を受けて舌打ちする。最前線では状況が厳しさを増している。次の戦で修凱骨らアヤカシ主力を討ち取るために、全軍が総力を挙げている。里の避難は着々と進んでおり、民は里の南方地域へ向かっているはずだ。 運船の森から出没したと思しきアヤカシ騎兵数十が大船原を西側に迂回しつつ、民の避難地域である南方地域へ進んでいるという。 「周辺の開拓者達をかき集めろ。アヤカシどもを南方地域へ行かせるわけにはいかん。現在も移動中の民がいるはずだ」 「はっ、直ちに!」 兵士は飛んで行くと、周辺で警備に回っている開拓者の一団を呼び寄せる。 そこから半里ほど南に、避難を続けている民の一団があった。 「急げよ! 東じゃあ大戦だ! 万が一アヤカシの大軍が押し寄せてくるやも知れん! 一刻も早くここから離れるんだ!」 民の長は民衆を率いて声をからしていた。 ――その時である。長の前に編み笠を被った女性が姿を現す。女性は編み笠を持ち上げる。赤い瞳の、白磁の肌をした美女だ。それは里の上級アヤカシ狐妖姫であった。 「一大事ですわ」 狐妖姫の声は民の心に染み渡るように広がっていく。 「東で理穴軍が敗退しましたわ。アヤカシの大軍が、間もなくここへ殺到してきますわ。もう逃げることは叶いませんわ」 狐妖姫は妖しい笑みを浮かべながら、民の間に動揺が広がっていくのを見守る。 「な、何!」 「な‥‥なんてこった!」 「理穴の兵隊が負けたって!?」 「アヤカシがここへやってくるぞ! 大変だ! アヤカシがここへ向かってやってくる!」 そうして、狐妖姫は決定的な言葉を投げかける。 「みなさん、もう間に合いませんわ。ここへやってくるのは、民の命を生きながら食らう奪う人外の化生たちですわ。みなさんは情け容赦なく踏み潰されるのですわ」 狐妖姫の言葉が広がっていくにつれ、民の間でパニックが起こり、激発する。 「逃げろ!」 足の速いものは我先にと逃げ出した。主に子供や女性、老人達は怯えて右往左往している。 狐妖姫の顔に満面の笑みが広がっていく。 ――そうして、アヤカシを迎撃に向かう警備隊のもとへ、民が駆け込んでくる。南で避難中の民の間で暴動が発生しているという情報が警備隊を混乱させた。 「一体何事だ」 「東の理穴軍が負けたって知らせが届いたんです! 里はおしまいです! アヤカシの大軍が里に押し寄せてきます!」 「何の話しだ」 警備隊長は詳しく話を聞こうにも、民はパニックに陥っていた。 「隊長、近郊で警備に当たっていた開拓者達を集めてきました」 「ご苦労‥‥しかし厄介な」 隊長は苦虫を噛み潰したように眉をひそめた。偶然では無い、恐らく何者かが民を脅かしているのであろう。後方を預かる警備隊としてはすぐさま暴動を押さえる必要があった。 だがその前に、目前に迫っているアヤカシを撃退しなくてはならない。警備隊長ははやる気持ちを抑えて、開拓者達とともにアヤカシの迎撃に向かうのであった。 |
■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213)
22歳・男・サ
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
紬 柳斎(ia1231)
27歳・女・サ
千王寺 焔(ia1839)
17歳・男・志
星風 珠光(ia2391)
17歳・女・陰
翔(ia3095)
17歳・男・泰
朧月夜(ia5094)
18歳・女・サ
天月 遠矢(ia5634)
25歳・男・弓 |
■リプレイ本文 状況は切迫していた――。 「間近に迫る敵勢を後ろに通すわけにはいかん」 理穴兵の隊長はやって来た開拓者達に感謝の言葉を投げかけるが、厳しい顔つきだった。 「アヤカシはあんたらに任せる。‥‥気をつけろよ」 千王寺焔(ia1839)たちは、後方のパニックを鎮めに向かうと言った。 「アヤカシが色々な噂を吹聴して回っているのは気になるな‥‥どこかに動かしているものがいるのか? 全く迫るアヤカシだけでも厄介だと言うのに、面倒だ。念には念をと言うが‥‥油断は出来ん。気をつけてな」 紬柳斎(ia1231)は千王寺たちに一声掛ける。 「焔はしっかりと女将のことを支えるんだぞ」 朧月夜(ia5094)はしみじみと人の心配をしていた。 頷く千王寺は、仲間達を顧みると、口を開いた。 「俺たちも行くぞ」 柚乃(ia0638)、千王寺、星風珠光(ia2391)、天月遠矢(ia5634)たちはパニックを鎮めに行く。 その姿を見送り、井伊貴政(ia0213)は仲間達を見やる。 「それじゃ、こっちも急いで準備を進めるとしましょうか」 「何か策があるのか」 兵士が問うと、貴政は落とし穴を掘ると答える。 「敵は騎兵、ならば足を奪うのが上策でしょう」 「よし‥‥工具を持って来い! スコップは幾つある!」 隊長の言葉に警備隊の備え付けのスコップを持ってくる。 貴政に焔龍牙(ia0904)、玲璃(ia1114)、柳斎、翔(ia3095)、朧月夜たちはスコップを持ち上げると、地面に向かって掘削作業を開始。 ざくざくともの凄い勢いで掘り進めて行く開拓者に理穴兵たち。 「まあ、やれるだけのことはやってしまいましょう。まだ少しだけ、時間はありますからね」 「暴動も気になるが、仲間を信じアヤカシ退治に専念するとしよう。避難途中の民衆に一歩たりとも近づける訳にはいかない。ここで、アヤカシを討つ!」 巫女の玲璃は肉体労働は苦手なため、仲間達の掘った土を適当に滑らかにしていきながら、激励の言葉を掛けていた。 「皆さん、頑張って下さい」 「これ以上民に混乱を与えるわけにはいかん。なんとしてもここで止めるのだ!」 柳斎もスコップを振るう力に万力を振るえば、見る間に地面に穴が開いていく。 「避難民の中に不安を煽る人がいる? ‥‥考えたくはないですね」 翔は言って、眉をひそめる。スコップを振るいながら、アヤカシの罠ではないかと憶測する。パニックを鎮めに行った者たちが何とかしてくれるだろうが‥‥。 「女将(星風珠光)たちがしっかり民衆の面倒を見ているんだ。アヤカシにここを抜かせるわけにはいかないな。武器と構えを選ぶサムライとして恥じぬような戦いをしようと心がけよう‥‥敵が来たなら、全て粉砕してくれるぞ」 朧月夜は凄まじい勢いで地面を掘り進めていく‥‥。 やがて、開拓者達が掘り進めた穴が完成する。縦幅10メートル、横幅50メートルの穴を瞬く間に掘った。 「よし! 準備完了。敵の姿は‥‥」 貴政は穴から飛び出すと、地平の彼方に目をやる。 接近してくるアヤカシ集団の姿が浮かび上がる。雄叫びを上げて突撃してくる。 「来たようですね」 「よし、ここまで敵を引き付けるぞ! 威嚇射撃を行う! 奴らに向かって矢を放つ!」 理穴兵たちは、弓を引き絞ると次々に矢を撃った。射程外で届かないが、アヤカシたちは怒りの咆哮を上げて突進してくる。 他の開拓者達は、穴の中で待機していた。敵の接近に備える。 アヤカシたちが地面を蹴る音が鳴り響いてくる。わめきながら突撃してくるアヤカシ。 「そろそろか‥‥貴政殿、咆哮を頼むぞ」 「承知しました」 貴政はすうううううう! と息を吸い込むと、腹の底から大地を揺るがすような雄叫びを上げた。サムライのスキル咆哮。 アヤカシたちが吸い寄せられるように、貴政目がけて突撃してくる。 「敵が来るぞ! 総員戦闘態勢!」 「ようやく出番か――」 龍牙は穴から飛び出すと、ロングボウを構えて撃った。 ズキュウウウウウウウン! と矢が貫けば、アヤカシの馬が一撃で黒い瘴気となって消失する。 「そう簡単に近づけると思うな! この俺! 『紅焔の牙』が相手だ、覚悟するのだな!」 理穴兵たちも即射で何十発と言う矢をアヤカシの馬に叩きつける。次々と消滅していくアヤカシの騎乗馬。 それでも半数近くが突撃してくる――と、正面から突っ込んでものの見事に落とし穴に落ちていくアヤカシ騎兵。 「掛かりおったわ! 人倫に仇名す害獣どもが、ここで討ち果たしてくれる!」 穴の中でもがいているアヤカシたちに至近距離から矢を浴びせかける理穴兵。 「地上に下りた連中が、来おるぞ!」 柳斎は大斧を構えると、アヤカシ兵士との接敵に備える。能面の奥から青い瞳が雷光のように閃いた。 「支援攻撃をお願いします〜数では敵は上ですからね」 貴政は刀と盾を構えながら接近戦に備える。 「ここは通しませんよ。アヤカシは一体残らず全滅させてもらいます」 翔は飛手を打ち合わせると、厳しい顔つきでアヤカシ勢を見据える。翔自身、何の為に拳を振るうのか、自身にとって大切なものが何か、未だ漠然として見出せてはいない。だが開拓者として様々な出来事に関わる事によって、何れはその答えを導き出す事になるだろう。 「ふん、数だけは集めたものだが、貴様らを一匹残らず俺の槍先の錆にしてくる」 朧月夜は、ぶうんと長槍を一閃すれば、地面から土煙が舞い上がった。 ――ガアアアアアアアア! と突撃してくるアヤカシ兵士。武器をでたらめに振り回しながら、ばらばらと開拓者達に迫り来る。 「さ〜、戦の始まりです、せいぜい猛々しくいって見ましょうか」 貴政は飄々とした口調でアヤカシの攻撃を跳ね返すと、刀を一閃した。 ドズバアアアアア! とアヤカシ兵士の頭部が吹き飛んだ。 「まずは一匹〜あがり〜続いて‥‥」 アヤカシの攻撃を盾で受け止め、反撃の一刀を振り下ろす。 ズバアアアアアアア! とアヤカシ兵士の肉体が鎧ごと砕け散る。 「二丁あがり〜」 舞い散る鮮血が貴政の甲冑を赤く染め上げる。 ガキイン! ガキイン! と攻撃を跳ね返せば、龍牙は両手の刀を返すように叩き込む。 疾風のような一撃がアヤカシ兵士の鎧を肉体ごと真っ二つに切り裂いた。 「『紅焔の牙』の一撃を食らいな! アヤカシ――ここで叩き切る!」 アヤカシの間を立ち回り、鋭い一撃を叩き込んでいく龍牙。龍牙の一撃はサムライにやや劣るが、速く、鋭い。頑丈なアヤカシの防備の薄いところを狙い打って、痛打を与えていく。 「これで終わりだ! 『紅焔の牙』の一撃を味わって消えな」 固いアヤカシ兵には炎魂縛武で炎をまとわせれば、一刀のもとに切り伏せる。 玲璃は激戦の背後にあって、時折スキル神風恩寵で味方の傷を回復させていく。後方から戦況を見やりながら、負傷者の回復に当たる。 「敵は数では勝っているとは言え、こちらもベテラン揃いですからね‥‥さすがですが」 凄まじい立ち回りで数の不利を補って戦い続ける仲間たちを見つつ、玲璃は思案顔で戦場を見渡す。 疲労の色が見える仲間に向かって手を差し出す。 「神風、恩寵――癒したまえ」 風の精霊の爽やかな風が仲間の傷を回復する。 「さて‥‥この紬柳斎、恐れぬならば掛かって来い!」 突進した柳斎は大斧を振り回し、穴を飛び越えて正面から敵と激突する。 「せええええええ‥‥やあああああああ!」 ぶうん! と大斧が唸りを上げると、アヤカシ兵士の胴体を一撃で吹き飛ばした。何と言う超絶的な破壊力。 アヤカシ兵士は憎しみの目をたぎらせて柳斎に襲い掛かってくる。――グガアアアアアア! ざわり、アヤカシの凄絶な殺気に肌が泡立つ。柳斎は戦慄に牙剥くように大斧を握りしめると、突進してくるアヤカシの頭部を叩き割った。 「人外の魔物に情けなど無用! さあ! 来るなら来いアヤカシども!」 ズバアアアアアアア! とアヤカシの肉体を両断剣で真っ二つに叩き切った。 さすがのアヤカシが恐れをなして後ずさる。 翔は疾風のように飛び交いながら、アヤカシの肉体に高速の一撃を打ち込んでいく。 ドウ! ドウ! と翔の拳がアヤカシの肉体を貫き、苦悶の声を上げてよろめくアヤカシ。 別方向からの攻撃を舞うようにかわすと、アヤカシの肉体に手をつきながら宙返りで回避。 降り立ったところで回し蹴りを叩き込み、アヤカシの肉体が砕け散る。 「ここで全滅してもらいます。民には近づけませんよ」 ドゴオオオ! と掌底突きでアヤカシに止めを差す。 朧月夜は槍を振るって、アヤカシをなぎ払い、打ち倒していく。ターバンとマフラーで顔を隠している。その隙間から禍々しいアヤカシの姿を捉えながら、槍の間合いでアヤカシを叩き伏せる。 「雑魚アヤカシ風情が‥‥俺の間合いに入ることが出来ると思うなよ」 ひゅんひゅんと槍を回転させると、「やっ!」と突き入れる。槍が貫通すると、そのままアヤカシを持ち上げ、投げ飛ばす。 そこへ別のアヤカシが切り掛かってくる。 「ぬっ!」 ガキイン! と素手で受け止め、後退すると、槍をしまい込んでショートソードに持ち替える。 蜻蛉に示現で上段から剣を振り下ろし、アヤカシの頭部を撃砕する。 次々とアヤカシを撃退していく‥‥。 暴動を鎮めに向かった四人の開拓者達は、怒号と悲鳴が飛び交う現場に到着する。想像以上に場は混乱している。 「ねぇ焔君。民衆の混乱とアヤカシの攻撃‥‥これって偶然にもホントに出来すぎてるよねぇ」 珠光は恋仲の千王寺に伝える。千王寺は思案顔で頷く。 「ああ、突然の暴動と言うのは何者かの作為を感じるな」 避難途中で暴動‥‥どうして? 柚乃も不審の念を拭いきれなかったが、まずはこの騒動を静めなければ。 「アヤカシの撹乱‥‥? ははっ、そんな知能は彼奴らにはないと思いますがね。しかし民衆が混乱してるのは事実。ですが慌てる事もないでしょう。自分だって特に問題があるとは思えませんし、自分以外の皆様も手練ですからね?」 天月は熟練の仲間達を見やりながら余裕の笑顔。この男、本心から焦ってはいなかった。 そうして、千王寺は民の方へ足を進めると、有無を言わせぬ口調で語りかける。 「俺たちは開拓者だ。アヤカシ共とは仲間が闘っている。大丈夫、俺たちに任せろ」 ややぶっきらぼうだが、有無を言わせぬ声で言う。 「開拓者? 理穴軍は負けたんじゃ‥‥あんたらも逃げてきたのか」 特に取り乱している民を落ち着かせる。 「落ち着け。一度深呼吸して俺を見ろ。‥‥俺が敗軍の兵に見えるか。東の軍はまだ戦っている。‥‥大丈夫だ。俺たちが皆を守る」 「そうだよ。この人の言う通り。ボクたちは君たちを守りに来たんだ。先の戦いで上級アヤカシ修凱骨は討ち取ったよ。戦いは優勢に進んでる。何があったかは知らないけど、みんなの安全はボクたち開拓者が守るからみんなは安心して避難してほしい」 「柚乃は‥‥戦の前線から来たの。皆の身が心配で‥‥大丈夫?」 「い、いやあ、東じゃ理穴が負けたって言う話が飛び込んできたんだ」 「‥‥不思議ね? もし逃げ切れない程近くにアヤカシがいるなら、柚乃達は直ぐに駆けつけられなかったよ‥‥?」 「自分達がアヤカシに負ける? ご冗談を。無傷の自分を見てもそう思います?」 天月は逃げ出す民の腕をつかんで、二人ほど引きずっていた。 「こんな志体持ちの開拓者が何人もいるんです。アヤカシごときに負けるはずが無いでしょう? ほら、自分がみんな助けてあげますから。ついて来て下されば大丈夫ですよ」 そうして、民のパニックは徐々に静まっていく。 「何じゃ、誤報だったんじゃ、開拓者はまだアヤカシどもと戦っておるんじゃ」 「それはそうでしょう。たちの悪い冗談です」 「柚乃さん、一応近くにアヤカシの反応がないか調べてもらえるか?」 ‥‥千王寺の依頼を受けて、柚乃は瘴策結界で民の間を密かに探っていた。その時である。反応がして、柚乃は振り返った。女が一人立っていた。美しい、白磁の肌の女である。柚乃は術視を使ったが反応が無い。すぐに仲間を呼ぶ。 「人? いや、あれはアヤカシだ」 「ふふふ‥‥開拓者か。何とも足の速いことだな。わしは狐妖姫。主らが探しておったのはあるいはわしか」 ぼおっ‥‥と瘴気のオーラが一瞬このアヤカシの体を取り巻いた。 「貴様が‥‥」 千王寺は二刀に手をかけると、アヤカシと相対する。 「噂に聞く諸悪の根源。ここで断ち切らせてもらうぞ」 「出来るかな」 じり、じり、と間合いを詰める千王寺。 珠光が支援攻撃の位置に付く。 そして、アヤカシの体が大地を蹴った。着物を着ている女とは思えぬ速さ――。 が千王寺はこのアヤカシの一撃を受け止めると、雁金でカウンター攻撃。 ザシュウウウウウウ! とアヤカシの肉体が切り裂かれて、苦痛の声を上げる。 珠光は符を連打する。 「我が式よ‥‥黒き炎を纏いし大鎌となりなさい」 魂喰――珠光が黒炎を纏った大鎌を大振りし鎌鼬を放つ。式が命中してアヤカシが黒い炎で炎上する。 「我が式よ‥‥蒼炎を纏いし大鎌となりなさい」 斬撃符――珠光が蒼い炎を纏った大鎌を大振りし蒼い炎の鎌鼬を放つ。 「我が式よ‥‥炎を纏いし岩となりて敵を討ちなさい」 岩首――嘲笑したような顔をした岩が隕石のように炎を纏ってアヤカシ目がけて落下する。 「ぐおお‥‥!」 「逃がさん」 千王寺は炎魂縛武で二連撃。ドズバアアアア! ドズバアアアア! と切り裂かれる女のアヤカシ。 「おおおおお‥‥」 ぼろぼろと黒い塊となって崩れ落ち、アヤカシは瘴気となって霧散する。 「やったか‥‥珠光、怪我はないか」 「うん、大丈夫だよ‥‥でも、呆気なかったね」 天月はこの戦いを目撃していた民に呼びかける。 「大丈夫。今見ただろう。アヤカシなんて恐れるに足りないさ‥‥」 かくして、アヤカシを撃退した後で、開拓者達は暴動を鎮めた仲間と合流する。 「そうですか、狐妖姫が‥‥」 貴政はふーむと思案顔でうなった。 「今回のデマに関しては、『囮作戦を早とちりした誰かの誤報』ということにした方が良いかも知れませんね。その方が整合性もあるし、当たり障りがないかなぁと思います」 「アヤカシも色々手を回してくるものであるな‥‥全く油断ならん。この先一体どうなることか‥‥」 柳斎は言って肩をすくめる。 「狐妖姫を倒したことを伝えれば、全軍の士気も上がるだろう‥‥」 千王寺は落ち着いた民を見渡しながら、東の最前線に目を向ける。 ‥‥倒されたのは偽者。本物の狐妖姫は、一部始終を見届けると、憑依していた民の体を捨てて、去り行く民人たちを見送った。 「‥‥わしが表向き死んだとなれば、これまた動きやすい。大殿様はご臨終あそばすかも知れんが、さて」 狐妖姫の口もとには、冷たい笑みが浮かんでいた。 |