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■オープニング本文 天儀本島、武天の国、某村――。 いつもの日、いつも変わらぬ時。村人達にとっては日常の一つ、恒例の行事である猪狩りが始まろうとしていた。 「見たところ今回のイノシシどもは複数いるようだ。村の若い衆総動員でイノシシを追い込んで、まとめて片付けたいところだな」 熟練の猟師が村人達の前に立って説明する。 この村にとって、猪狩りは単なる狩りと言うだけでなく、いわば村の意気を発揚する一つのお祭りでもあった。 無論それなりの危険も伴う。大型の野生のイノシシは人を見れば牙を剥いて突進してくる。追い込み役の村人が待ち伏せ班のところまでイノシシを追い詰める、待ち伏せ班は槍を構えて突進してくるイノシシにそいつを突き立てるのだ。これは一種の儀式であり、平和な村の若者たちのアドベンチャーでもあった。 「行ったぞ! そっちだ!」 「追え! 追い詰めろ!」 狩りが始まって間もなく、山中に村人達の声がこだまする。 待ち伏せ班の若者達は槍を構えて、イノシシが現れるのを待った。 と、ガサリ‥‥と茂みが動いて、若者達の間に緊張が走る。 「来たか?」 「いつでも来やがれ、こいつで一撃、止めを刺してやるぜ!」 そして――ガサガサ‥‥と大きな影が姿を見せる。 それはイノシシだった――いや、イノシシに見えるがそうではない。淀んだ瘴気に身を包んだその獣のような怪物は、人々がアヤカシと呼ぶものであった。 オオオオオオオ‥‥。 猪の姿をした巨大なアヤカシはのっそりと踏み出してくると、ぎらりとその瞳が光る。と――。 ォォォオオオオオオオオ! アヤカシは咆えた。 「ひ、ひいっ!」 「こいつ! 猪じゃない!」 「ま、まさか‥‥あ、アヤカシ‥‥? アヤカシだ!」 そうする間にもアヤカシは突進してくると、若者達を牙で貫いた。 「に、逃げろ!」 「ま、待って! 助けてくれ!」 アヤカシに捕まった若者は足を噛まれて必死に訴える。 「助けて!」 だが、無情にもアヤカシの牙は若者の肉体を貫き、絶叫が山にこだました。 天儀本島南部、開拓者の都市、神楽の都――。 開拓者ギルドはいつものように賑わいを見せている。一攫千金を目指す者、放浪を続ける者、あるいは使命を帯びてこの都を訪れる者もいる。だが彼らに共通して言えることは、常人とはかけ離れた身体能力や秘術を操る存在であると言うことだ。ギルドにはさまざまな事件が持ち込まれてくる。 武天某村からの依頼が持ち込まれたのも、ここでは日常的な出来事に過ぎない。 ギルドの受付を務める若者は村からの報告を受けて依頼書を張り出した。 ‥‥武天の村に大猪のアヤカシ出現‥‥村は猪狩りの途中であった。村の若者が一人犠牲になっている‥‥まさに村始まって以来の災厄であるという‥‥。 「この話、もう少し詳しく聞かせてくれないか」 受付の青年に依頼書を持ってやって来たのは開拓者の一団だ。 「この事件、俺たちが引き受けたぜ。化け猪とやらか‥‥全く厄介な連中だぜアヤカシってのは。所構わず出没しやがる」 「お引き受けになりますか?」 「おうよ、丁度依頼を探していたところでね」 かくして、あなた達は初の戦いに赴くことになる。一路武天の国へ向かうことを決めたのである。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
米本 剛(ia0273)
25歳・男・サ
紙木城 遥平(ia0562)
19歳・男・巫
戯 伊穂理(ia0607)
10歳・女・巫
このり(ia0983)
19歳・女・巫
真明 凛武(ia1099)
22歳・男・サ
鬼灯 仄(ia1257)
35歳・男・サ
天・飛龍(ia1270)
24歳・男・泰 |
■リプレイ本文 オオオオオオオォォォォォ‥‥オオオオオオオォォォォォ‥‥。 化け猪のアヤカシは亡くなった青年の遺体を突付いていた。青年の体はアヤカシに貪り食われて無残な姿になっていた。 オオオオオオオォォォォォ‥‥餌‥‥餌が欲しい‥‥。 アヤカシは本能に従って青年の残骸をがつがつと食い散らかして、村の方角を見定めていた‥‥。 餌‥‥餌‥‥食う‥‥。 アヤカシはのそりと動き出した。 ‥‥村人に見送られて、開拓者達は出発する。 「ま、アヤカシ一匹程度、軽く片づけてきてやるよ。安心して待ってなって。ついでにイノシシも狩ってきてやっからよ。あるんだろ? 美味い料理法とか。牡丹鍋に美人の酌でもつけてくれたら‥‥て、おい! 俺を置いてくなって!」 鬼灯仄(ia1257)は長々と村人に口上を述べていたので仲間達は先へ行ってしまう。 「ま、任せとけ! こう見えて俺たちはアヤカシと戦うのは生業だからな!」 慌てて仲間を追いかける鬼灯。 そうこうして開拓者たちは村人から貰った簡単な地図を頼りに山の中へ入り込んでいた。 「化け猪ですか‥‥まあ私の生まれ育った故郷の近郊でも時折アヤカシの被害がありましてね‥‥かく言う私も依頼で戦うのは初めてですが、アヤカシは故郷では結構見慣れた存在なのですよ」 三笠三四郎(ia0163)の言葉に体格のいい米本剛(ia0273)が応じる。 「アヤカシは本当に神出鬼没ですねぇ‥‥この世界はアヤカシの攻撃に耐えることが出来るのでしょうか? こんな辺境の小村にまで被害が及ぶとは‥‥アヤカシとは一体‥‥」 剛は眉間にしわを寄せながら吐息する。 「一応依頼の感じですと、目標は一体のようですね?」 紙木城遥平(ia0562)は仲間達を振り仰ぐ。 「と言ってもいつ第二第三のアヤカシが出現してもおかしくはありませんが‥‥米本さんの言われるとおり、敵は神出鬼没‥‥町中でも実体化するような相手ですからね」 「まああれこれ考えても仕方ねえや、とにかく初依頼頑張るぜー!」 戯伊穂理(ia0607)は僅か10歳で開拓者の道を選んだ。彼女の目的は誰も見たことの無い場所に到達すること。長い旅路の始まりであった‥‥。 「これからこのりが開拓者として生きていくなら、アヤカシを殺めるっていうコトに目を背けないようにしなくちゃ‥‥この依頼を通して開拓者としての第一歩を踏み出せたら‥‥」 このり(ia0983)はアヤカシと言えども殺すのは忍びないと長らく思っていたのだ。仲間達との出会いでようやくその感情を押し殺して、依頼に臨むことが出来たのだ。 「よお、このり、アヤカシは人間を餌としか見なしていない怪物どもだ、人を食らって生きるような連中に情けは無用だぜ!」 伊穂理はばしばしとこのりの背中を叩いてがっはっはっと笑った。 「伊穂理ちゃんは気丈だね‥‥このりも頑張らなくちゃ」 真明凛武(ia1099)は鋭い瞳を山中に向ける。 「アヤカシのいるのは澱みだっけ? そう言うのはやはり感じるしかないのかね?」 アヤカシは瘴気をまとっていたそうだ。一目瞭然だろうが‥‥。 「我のいる里の近くでも本格的なアヤカシの被害が‥‥この化け猪、何としても村人の無念を晴らしてやらねばな‥‥」 二メートルを越す長身の秦拳士、天・飛龍(ia1270)は前髪を上げると美丈夫なのだが、威圧感があるので普段は前髪を下ろしていた。鍛冶屋を営む一族の青年で、被害のあった村は金物を卸している得意先であったという。 オオオオオオオォォォォォ‥‥オオオオオオオォォォォォ‥‥。 アヤカシは木々を巨体でなぎ倒しながら突き進んでいた。 餌を求めて、アヤカシは禍々しい吐息を漏らしながら瞳がぎらぎらしている。 その目は次の餌を探して村に向けられている。 オオオオオオオォォォォォ‥‥オオオオオオオォォォォォ‥‥。 と、アヤカシの目に開拓者の一団が目に入る。 オオオオオオオォォォォォ‥‥。 アヤカシはぴたりと歩みを止め、開拓者達に狙いを定めて動き出す。 凄まじい殺気を感じて、開拓者達は戦闘隊形を取っていた。 「‥‥おいでなすったようだぜ。つーわけで、後は任せた!」 鬼灯は心眼でアヤカシを発見すると、弓を構えて後退する。 「みなさん、下がって下さい‥‥」 米本は息を吸い込むと、咆哮のスキルを解き放った。 地鳴りのような米本の雄叫びが山中にこだまする。 「オオオオオオォォォォォ!」 咆哮は敵を引きつける効果を持つサムライのスキルだ。 もの凄い雄叫びに仲間達も鳥肌がたった。 「来ます!」 三四郎は飛びのいてアヤカシの突撃を避ける。 ――グオオオオオ! アヤカシは米本目がけて一目散に突撃していく。 鬼灯は炎魂縛武を発現させると、矢が炎に包まれる。 「‥‥よ〜し、いい子だからそのまま真っすぐ進んでくれよ‥‥」 鬼灯はアヤカシの目に矢を放った。炎に包まれた矢は狙い通りアヤカシの目に吸い込まれていく。 米本は続いて強力を発現。刀を突き立ててアヤカシの突進を受け止める。 「ちょいと力勝負と行きますかぁ!」 激突する米本とアヤカシ。米本は強力で踏ん張りながらも、吹っ飛ばされないようにアヤカシを食い止める。 「今だ!」 三四郎は突進してスマッシュを叩きつける。ざくっとアヤカシの肉体が切り裂かれると、鮮血と肉片が飛び散る。 アヤカシは激痛にわめき声を上げる。 「アヤカシ君、こいつを食らってあの世? に帰りな!」 真明もスマッシュで打ちかかる。太刀がアヤカシの肉体に突き刺さり、アヤカシは絶叫する。 このりは初めての戦闘に緊張しながらも神楽舞・攻で味方を援護する。巫女の舞で仲間達の攻撃力がアップする。 「泰練気胞壱‥‥空気撃!」 アヤカシの背後に回りこんだ飛龍の一撃が炸裂する。その巨体が舞い上がって転倒する。 「後は任せましたよ」 飛龍は巫女たちの護衛に回る。 「うぉぉ、凄ぇ迫力。俺なんか一発で吹き飛びそうだな!」 (アヤカシを見て、何故か嬉しそうな伊穂理) 「ほーら、こいつは痛ぇぞぉ!」 力の歪みを次々と叩き込んでいく。 アヤカシの肉体から肉片が吹っ飛び、苦痛にのた打ち回る。 「これがアヤカシ‥‥どこまでもしぶとい」 遥平は地道に矢を叩き込んでいた。初めて見るアヤカシにびりびりとその殺気が伝わってくる。 開拓者の攻撃を受けて肉体を損傷しながらも、アヤカシは立ち上がり、ぶるんと体を振るわせる。 オオオオオオオ‥‥。 唸るように吐息を漏らすと、アヤカシは三四郎に猛烈な勢いで突進した。全行動力消費しての突進攻撃。 直撃を受けて吹っ飛ぶ三四郎。凄まじい勢いで間近の岩に叩きつけられる。 「三四郎さん!」 このりが駆け寄るのを三四郎は制した。 「大丈夫です、このくらい。アヤカシ‥‥改めて見ると殊更厄介ですね。油断は大敵ですが‥‥向うに利がありますから」 見れば岩の方が砕け散っているが三四郎にはほとんど怪我がない。 「だが‥‥やってくれるな」 続いて米本に突撃するアヤカシ、だが――。 「『強力』発現‥‥迎え撃たせて頂く!」 米本は強力でどうにか突進を受け止めると、太刀を縦一文字にアヤカシの顔を叩き切った。 三四郎も反撃のスマッシュを叩き込む。 「このりさん、伊穂理さん、気をつけて! 飛龍さん二人をお願いします!」 遥平は矢を撃ちながらアヤカシと距離を保つ。 「ほらほら、お前の相手はこっちだって」 真明は刀をひらひらさせながらアヤカシの隙を伺うと、強力を使い、気力を攻撃力に回してスマッシュを打ち込んだ。 激痛に身をよじるアヤカシは牙で真明を吹っ飛ばした。 「敵さんもしぶといね〜」 鬼灯は炎魂縛武でアヤカシに矢を叩きつけていた。アヤカシの肉体には何本もの矢が突き刺さっている。 「我は殺めるでも倒すでもなく、相手を封じ諌める技を学んだ。我の手が血に染まれば、鍛冶の火も穢れてしまう‥‥が、アヤカシを浄化させるのも大事だからな‥‥としても前途多難だ」 飛龍は目の前のアヤカシを見つめて吐息する。 「よおお前ら大丈夫か。痛い時は素直に言えよ、俺が直してやるからよー」 伊穂理は仲間達に呼びかける。 「大丈夫です‥‥まあ、このくらいならば‥‥」 三四郎の言葉に真明も立ち上がる。 「かすり傷って所だな。がたいの割には威力は大したことねえ」 いや、それは開拓者だからだ。並みの人間なら即死ものである。 「ここからが本番ですよ‥‥覚悟してもらいましょうか」 米本はぐっと踏み出す。 アヤカシはぼろぼろの肉体で最後の反撃に転じてきたが、開拓者達の攻撃の前にやがて消滅する。 まるで瘴気が霧散するように、アヤカシは消え去ったのである‥‥。 「俺はお気楽主義でも、戦闘は本物志向だぜ? 悪いね、イノシシ君。にしても、これが本物の猪だったら、牡丹鍋が食べられたんだがなぁ〜」 真明は空中に消えた猪を見つめていた。 このりはどこかかなしそうな表情で消えたアヤカシを見送る。 「だー、緊張したぁ。実戦は違うなぁオイ!」 伊穂理は岩清水で喉を潤し、仲間達の治療を行いながらその背中をばしばし叩いていた。 「猪狩りを利用して人を喰おうとは色んな意味で喰えぬ奴だったな」 飛龍は仲間達の無事を言って肩をすくめる。 そうして、開拓者達は山を下りた。 戦闘終結後‥‥。 無事に山から下りてきた開拓者たちを村人達は喝采で出迎えた。 「ようやってくれたの〜」 「本当じゃ、あの怪物を倒してしまうとは‥‥噂に聞く開拓者と言うのは凄いんじゃなあ」 やんやの喝采を受ける開拓者たちに喜びの色は無い。これが戦いの始まりだと思えば。 米本は煙管を吹かしながら、青年の遺品を村長に手渡した。 「残念なことじゃ‥‥猪狩りがこんなことになるとはの」 喜びから一転、村人達から嗚咽が漏れる。 「せめて、あ奴が生きておればの‥‥」 村人達は悲しみを乗り越えていかなくてはならない‥‥。 「刀・包丁・金物一切取り揃えて降りますので、鍛冶屋『天神』を御贔屓に願います。それではまた」 飛龍は故郷の鍛冶屋の宣伝を行って神楽の都に帰還。 「どうかお達者で‥‥」 このりは村人達に慰めの言葉をかけて村を後にする。 かくして、開拓者達の最初のアヤカシ退治はこうして幕を下ろしたのである。 |