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■オープニング本文 天儀本島、武天国――。 武天のおよそ中心近くにその場所はあった。武天の新興勢力である武力一族、龍安家が治める土地、その土地を鳳華と言った。 この土地もまた、アヤカシの脅威に晒されており、サムライの氏族である龍安家が東の大樹海から出没するアヤカシ勢と日常的に交戦状態にあった。今、ここ鳳華においても、開拓者たちの物語が始まろうとしていた‥‥。 鳳華首都、天承――。 ゴオオオオオオオオオ‥‥と発着場に巨大な飛空船が舞い降りてくる。大型飛空船は天儀本島の主要都市を繋ぐ定期便であり、大都市には二、三日に一度は通じている。無論天儀の空を飛ぶのは王国の船ばかりではなく、一般の商船も存在するが。 多くの人々が船のタラップから下りてくる。あなた達もその中にいた。 「ここが鳳華か‥‥」 見渡せば、港は雑踏と喧騒に包まれている。雑多な人々が行き交い、活況を呈している。 天承の中心に向かって進めば、立派な巨大な城がそびえ立っているのが見える。 城下町を行き交う人々の中にも同業者がいるらしい。開拓者らしき者たちとしばしばすれ違う。 一見平和に見える城下町に、武装した兵士が町のいたるところで見られる。どこか物々しい雰囲気だ。ここ鳳華はアヤカシとの激戦区で、龍安家はそれなりに大きな武力を持っていた。反面治安は良いとは言えず、慢性的にアヤカシの攻撃に晒されてもいた。 あなた達は龍安家から依頼を受けて鳳華を訪れたのであった。依頼内容はアヤカシ退治ということだが‥‥。 そのままメインストリートを進むと、表通りは明るく賑わっていて、市や店が軒を連ねる。 そうしてあなた達は、天承の中央にある城を訪ねる。そこに、あなた達を神楽から呼んだ依頼主、龍安家頭首の若きサムライ龍安弘秀がいた。 「――良く来てくれたな。まあ楽にしてくれ」 弘秀は言って、にかっと笑った。職人の工房で作らせた銃を弄りながら、あなた達に輸入物のお茶を勧める。ここ鳳華はアヤカシとの戦闘が長く続き、地場産業と呼べるものが無い。 室内にはもう一人、年の頃二十代のサムライがいた。どこか冷たい印象を与える青年。名を大宗院九門と言い、龍安家の筆頭家老であった。弘秀の幼馴染でもある。 続いて口を開いたのは大宗院であった。 「ここ鳳華は武天の中でもアヤカシとの激戦区でな。お前達を呼んだのは他でも無い、最近領内で動きが活発になってきたアヤカシを退治してもらいたい。緑茂の里における神楽の開拓者達の戦いぶり、ここ鳳華にも聞こえている。我々はこれまでにも神楽の開拓者の力を借りてきた。そして、開拓者の中でも我が家に尽くしてくれた者には、望むなら我が家の家臣として取り立ててきたくらいでな」 大宗院はあなた達に告げると、龍安家は目下のところ開拓者からも家臣を募っていることを告げる。開拓者は基本的に神楽の都に住んでいるのだが、有事の際に兵隊を任せたり出来る者を常に集めているという。 「まあ、こいつの言う仕官の話は心に留め置いてくれ。今回頼みたいのは、鳳華北部の村に入り込んだアヤカシ首領、“玄摩朗”討伐を頼みたい」 弘秀はそう言うと、一転真面目な顔で開拓者たちにアヤカシの情報を伝える。 鳳華北部、件の農村――。 村に兆候が現れたのはここ数週間のことである。見知った隣人の様子がどうもおかしい。農作業にも出てこず、稀に顔を合わせても口も利かない。 ここ鳳華でそんなことがあったらまず村人たちはアヤカシの存在を疑う。過去、幾度と無くアヤカシの人外の業によって人々は滅ぼされてきた。 村人は最も近い大都市に異変を告げると、すぐさまシノビと巫女の調査が入った。 そうして、村人達が次々と憑依されている実態が明らかになる。 村長に取り付いたアヤカシの名は「玄摩朗」と知れた。鳳華では過去に活動実績のあるアヤカシで、人の体を乗っ取り、じわじわと人界を滅ぼしていくアヤカシ首領である。厄介なことに、憑依能力を持つアヤカシ戦士を手駒に持っており、村や町に入り込んでは影から人界を滅ぼしていく。 この玄摩朗を撃退することが、今回の龍安家からの依頼であった。 |
■参加者一覧
野乃宮・涼霞(ia0176)
23歳・女・巫
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
百舌鳥(ia0429)
26歳・男・サ
那木 照日(ia0623)
16歳・男・サ
彩音(ia0783)
16歳・女・泰
白蛇(ia5337)
12歳・女・シ
朝倉 影司(ia5385)
20歳・男・シ
沢村楓(ia5437)
17歳・女・志 |
■リプレイ本文 「人に憑依するやなんて、あくどいアヤカシどすな」 言ったのは華御院鬨(ia0351)。不快感も露に村の中に目を向ける。肉体を乗っ取られた民の無念はいかばかりであろうか‥‥。 「行くぜ、鬨、照日。玄摩朗は一人でいると聞く。まずは俺が突貫攻撃で奴をぶちのめす」 百舌鳥(ia0429)のアイスブルーの瞳が鋭利な刃のように閃いた。 「あわわ‥‥百舌鳥、でも玄摩朗も部下に守らせているかも知れませんよ」 那木照日(ia0623)の忠告に百舌鳥は思案顔で顎をつまんだ。 「ま、他のアヤカシは遊撃班に任せるとしてだな‥‥」 「お任せ下さい」 泰拳士の彩音(ia0783)は、シノビの白蛇(ia5337)と志士の沢村楓(ia5437)、巫女の野乃宮・涼霞(ia0176)とともに村の見取り図に目を落としていた。事前に調査に向かった龍安家のシノビと巫女から手に入れたものだ。 「アヤカシに憑依された人々を救う事は出来ないのが切ないですね‥‥。せめて、まだ無事の人々を助けたいです。どれだけ残っているかは分かりませんが」 野乃宮の哀しげな言葉に沢村は静かに頷く。 「被害が広がっているとしたら‥‥私は何としてもここで奴らの横暴を止めるぞ」 感情を押し殺すように刀の柄を握る沢村。 生き残っていると言う民は推定50人。これをどうアヤカシに気付かれることなく避難させるか。 「ここと、ここと、ここ‥‥それに‥‥」 白蛇は見取り図の上を指差して、アヤカシ戦士がいると言う家を指し示す。 引き続き調査という名目で村人達を連れ出すと決まった。 シノビの朝倉影司(ia5385)は半遊撃の位置に付き、主力の三人をサポートすることにする。 「玄摩朗がどう出て来るか分かりませんがね」 かくして開拓者達は村の中へ踏み込んでいく。 「‥‥もし‥‥こんにちは‥‥」 白蛇は民家の扉を叩いた。ややあって、がらりと引き戸が開いて、民が姿を見せる。 「龍安家の者だよ‥‥アヤカシがいると聞いて調査に来たよ‥‥」 「おお、待っていました」 「ここにアヤカシがいると聞いているんだけど‥‥」 すると、男はぽろぽろと涙をこぼし始めた。 「多分もう手遅れです‥‥私の娘ですが‥‥先日調査に訪れた龍安家の方々は、アヤカシに憑依されているからすぐに逃げるように申されました。ですが‥‥娘が不憫でなりません。いっかな口を開こうとしないのです」 「残念だけど、お父さん‥‥逃げた方がいいよ‥‥これから仲間達が村長に取り付いたアヤカシの首領を倒しに行くから‥‥」 男は最後には説得されて白蛇とともに家を出る。 白蛇が外から覗くと、若い娘が立ち尽くしていて、不気味な笑みを浮かべて立ち尽くしている。その瞳にすでに生気は無かった。 「さ、急いで下さい。まだ時間はあるようです。アヤカシが本格的に牙を剥く前に、皆さん避難して下さい。これから玄摩朗を倒しますからね」 彩音の言葉に、村人達は恐れおののいた。 「あの玄摩朗に‥‥勝てるのですか‥‥? 幾多の民を食らってきた残酷で恐ろしい奴です」 「私たちは天儀の史上初めて大アヤカシを倒しました。勝てない相手では無いと思います」 我ながら大言壮語だと思うが、強気の姿勢でも無いと民はかえって混乱に陥るだろう。 「出来れば、アヤカシがいない空き家かどこかに避難していて下さい。戦いが始まれば、皆さんを守りながら戦うのは至難です」 そうして、民は粛々と避難を開始する。 民が避難するのに合わせて、残った家屋を調べる沢村と野乃宮。心眼と瘴策結界でアヤカシの位置を看破する。 「右四の家屋に部下2、左一に1、本丸(村長宅)、右奥2、左2、右三の家屋に部下1。いそげ」 沢村の言葉を受けて、玄摩朗がいるであろう村長宅のもとへ急行する開拓者達。 「‥‥残念だが、村長の家族は全滅か」 百舌鳥は二刀に手をかけると、ちっと舌打ちする。生命反応が全てアヤカシなのだ。 「ここに玄摩朗がいるのは確実だろう。手下は四匹か‥‥鬨、照日、俺が先陣切って突撃する」 「では、先陣はお任せしやんす」 「百舌鳥‥‥頼みましたよ。私も後から続きますので‥‥」 「ああ。じゃ行くぜ!」 百舌鳥は扉を蹴り破って中に進入した。鬨と照日も後に続く。 薄暗い家屋の中に、五つの人影がある。 「村長は‥‥」 建物の中は薄暗くてすぐには判別できない。 と、五人の人影がばたばたと倒れ、憑依を解いたアヤカシたちが襲い掛かってくる。 「貴様らは‥‥村の者ではないな。龍安の手の者か」 雅な着物を着た青年がきんきんと鳴り響く声で話しかけてきた。 「お前が玄摩朗か‥‥」 百舌鳥は咆哮に乗せて外にいる仲間達に玄摩朗の出現を伝える。 「――玄摩朗はここにいるぜ! これから戦闘に移るぜ!」 手下のアヤカシ戦士は、ゆらりと動き出すと、百舌鳥に向かって進んでくる。 「折角やし、うちの舞いを見ていきやさい」 突進してくるアヤカシ戦士の攻撃を横踏で回避しつつ、玄摩朗に迫る。 陶器人形のような顔のアヤカシ戦士たちは唸りを上げると、腕をひゅんひゅんと振るった。 開拓者達を目に見えない衝撃が襲う。遠距離知覚攻撃、思念の刃だ。 「野郎‥‥」 百舌鳥は強力を足に掛けると、瞬間的に足を跳ね上げて玄摩朗に突進する。 ばばばばばっ! とアヤカシ戦士たちが飛びかかってきて、防戦に追い込まれる百舌鳥。 だがその間隙を縫って、照日と鬨が玄摩朗に切りかかった。玄摩朗は空中に浮かび上がると、後退しながら思念の刃を放った。 ザン! ザン! と鬨と照日の肉体が切り裂かれる。 「逃がしませんどす!」 鬨は踏み込んで駆け抜けた。疾風のごとき一撃が玄摩朗を捕らえる。 ――キイイイイン! 玄摩朗は素手で受け止めた。 「肆連撃・爻(シャオ)‥‥!」 続いて照日の四連撃が玄摩朗を急襲する。 ――ガキイイイイイン! ガキイイイイイン! と受け止め、残りの二発はかわされた。 「ほっほっほっ! わしの腕を折るには百年早いようじゃの小童どもが!」 玄摩朗は浮かび上がったまま後退すると、裏手から飛び出して脱出を試みる。 だがそこには白蛇がいた。水遁での飛行阻害に早駆での横移動、三角跳での縦跳躍を瞬時に行い肉薄する。 「なんじゃお前は!」 「それはこちらの台詞だよ‥‥」 飛び掛った白蛇は玄摩朗に抱き付き、このアヤカシと地面に転がり落ちた。 「おのれ小娘! この無礼者めが!」 玄摩朗はしがみつく白蛇を引きはがして飛び立つと、家屋の正面に降り立ち、天に向かって咆哮して部下のアヤカシ戦士たちを呼び寄せる。 「こいつが玄摩朗ですか」 沢村は降り立った美しい人型アヤカシを見て柳眉をひそめる。 「おい、逃がすなよ」 家屋からアヤカシ戦士を引き連れて、百舌鳥たちが現れる。 「逃げる? このわしが人間相手に逃げると思うか? これまで数多の戦士がわしに立ち向かい、散って行ったわ。龍安の者どももいい加減に諦めが悪いと言うものじゃな」 鬨がアヤカシ戦士を押し返して、玄摩朗に言葉を叩きつける。 「せいぜいほざきなはれ。後でアヤカシが命乞いは通じませんで。うちらはあんたを逃がすつもりはありまへんからな」 「だまらっしゃい! このわしを誰だと思うておる。龍安家に畏怖される鳳華の玄摩朗であるぞ。ここではわしは人間にとって神の化身よ」 鬨は呆れて返事が出来なかったが、確かに強さは折紙つきに違いない。自分の一撃を素手で受け止めることができるのは、下級アヤカシとは雲泥の力の差があるだろう。 ‥‥民は身を寄せ合い、倉庫の中で玄摩朗が天に向かって叫ぶ声を聞いていた。 「アヤカシの咆哮が‥‥今のは玄摩朗の叫びではないか?」 「ああ、これまでお屋形様は幾度となく玄摩朗の討伐に兵を差し向けられたが、誰もあのアヤカシに勝った者はおらん‥‥」 「例え神楽の開拓者でも、あのアヤカシを倒すのは不可能ではないか‥‥」 「だけど、あの人たちは、天儀の史上始めて大アヤカシを倒したんだ! もしかしたら、玄摩朗だって倒してしまうかも‥‥」 村人達は不安の中、互いを励まし合っていた。どうか、アヤカシが退治されますように‥‥神様‥‥どうか‥‥。 と、その時である。 「おい! あれを見ろ! あれは‥‥アヤカシじゃないか!?」 村人の視線が上空に向けられる。 それは、玄摩朗が空を飛んで逃げる姿であった‥‥。 ――しばらく時を遡ろう。 玄摩朗は手下のアヤカシ戦士を呼び寄せ、自身の護衛に当たらせると、円状に部下を配置して開拓者達との間に壁を作り出すことに成功する。 「お前達には何もさせん。わしの思念で切り刻んでくれるわ」 玄摩朗は着物の袖を持ち上げて「くく‥‥」と笑う。 「そう簡単に行くと思うなアヤカシの首領」 百舌鳥は、ちゃきっと刀の柄を握り直す。 「援護します。精霊の加護を‥‥」 野乃宮は前衛の仲間達に加護結界を付与する。 「行くぜ!」 百舌鳥は眼前のアヤカシ戦士に切りかかった。 ――!? アヤカシ戦士の顔がかすかに揺れる。 百舌鳥の予測を越える速さに不意を突かれる。 「はあああああああああ!」 凄絶な剣気が玄摩朗ですら驚かせる。 ぎゅん! と二刀が高速でアヤカシ戦士を切り裂く。凄まじい一撃がアヤカシ戦士を一刀両断する。 「何!?」 玄摩朗が後退する。 「せやああああああ! ――どす!」 疾風迅雷、鬨の神速の一撃がアヤカシ戦士の胴を真っ二つに切り裂いた。 「肆連撃・爻(シャオ)‥‥!」 照日の弐連撃×2の四連撃がアヤカシ戦士をずたずたに粉砕する。 彩音はアヤカシ戦士の攻撃をたたん! とかわすと、「えい!」と拳を叩き込む。ズドン! と拳がアヤカシ戦士の肉体に陥没。苦悶の声を上げるアヤカシ。 「‥‥きみたちを‥‥逃がしはしないよ‥‥」 白蛇は体躯に似合わぬ強烈な一撃を叩き込む。小柄な12歳のシノビが、アヤカシ戦士の肉体を鉄爪で凄絶に切り裂いた。鉄爪が貫通して、アヤカシ戦士の肉体が吹き飛ぶ。 「水遁!」 朝倉は水遁でアヤカシ戦士を打ち据えると、長槍で打ち掛かった。 「はああ‥‥でやあっ!」 朝倉の一撃が貫通、そのままアヤカシを投げ飛ばした。 「アヤカシ‥‥成敗!」 沢村は突進してアヤカシ戦士の攻撃をガードで跳ね返すと、敵の頭部を一撃で粉砕する。 こうしてアヤカシ戦士は瞬く間に撃破されていく。 「ほう‥‥少しは出来るようじゃの。さすがは緑茂の炎羅殿を倒しただけのことはある‥‥」 玄摩朗はすうっと腕を持ち上げる。 「そうはいかんどす!」 鬨、百舌鳥、照日、白蛇は一斉に撃ちかかり、朝倉、沢村は遊撃の位置に付き、彩音は弓で攻撃を開始する。 アヤカシ戦士を圧倒した鬨らの神速の攻撃を、玄摩朗はぱぱぱぱっ、と捌いてかわした。 「に!?」 「甘いわ」 ザン! ザン! と鬨と百舌鳥が思念で切り裂かれる。 「肆連撃・爻!」 照日の弐連撃が命中する。ザクッと玄摩朗の背中が切れるが、手応えは浅い。 白蛇の鉄爪が命中するも、キイイイイイン! と弾かれた。 玄摩朗はふわりと舞い上がって、百舌鳥の頭をてこにして囲みを脱する。 「野郎‥‥!」 百舌鳥は鮮烈な斬撃を振るった。 ドゴオオオオ! と玄摩朗が吹き飛んだ。 朝倉と沢村が倒れ伏す玄摩朗に武器を叩き込んだ。倒れながらも攻撃に耐える玄摩朗。 「おのれい‥‥!」 思念攻撃で沢村と朝倉を吹き飛ばすと、玄摩朗は浮かび上がった。 だが刹那――彩音の泰練気法・壱が炸裂、ズシン! と玄摩朗が揺らぐ。 「ふふん‥‥拳の戦いでは勝負がつかぬわ」 玄摩朗は彩音を掌底突きで吹き飛ばした。 鬨、百舌鳥、照日、白蛇は玄摩朗に襲い掛かったが、このアヤカシは笑声を残すと上空に舞い上がった。 「さっきまでの威勢はどこへいきなした! 人間相手に逃げるのでは無いと言っていたどすな!」 「たわけ、わしは戯れに多数相手に不利を挑むような真似はせん。人間の格言にもあろう。名将とは逃げる時を心得ているものだとな。わしが今日まで生き延びている証左よ。ほっほっ」 「小憎らしい台詞を吐く輩どすなあ」 そして、玄摩朗は笑声を残して飛び去ったのである。 ‥‥戦闘終結後。開拓者達は民の亡骸を弔う。 埋葬された民の墓に、手を合わせる野乃宮。 「助けられなくてごめんなさい‥‥」 百舌鳥は慈悲を以って弔う。じっと冥福を祈って手を合わせた。 他の開拓者達もそれぞれに民の墓に手を合わせる。 一人朝倉だけは、別の場所で武器の手入れをしていたが。 そうして開拓者達は、鳳華首都の天承に事後報告に訪れる――。 龍安家の頭首龍安弘秀は、開拓者たちの労を労う。 「ご苦労であったな。家臣たちと民に代わって礼を言う。玄摩朗は長年の宿敵であった。容易く倒せるとは思ってはいない」 「とは申しましても、倒すことも出来たはずです‥‥。手強い敵ではありましたが、またいつか玄摩朗が民に害なすことがあるでしょう‥‥残念です」 野乃宮はそっと目を伏せた。弘秀は頷いて、「気に病むことは無い」と言って野乃宮を激励した。ここ鳳華は東の大樹海のアヤカシと戦争状態。慢性的なアヤカシの攻撃には耐え忍ぶしかない。 鬨は仕官の件について切り出した。 「うちは歌舞伎役者やし、仕官よりもお抱えの芸人にしてほしいどすなぁ」 と自分の希望を言った。弘秀は驚いたように鬨の話を聞く。 「そうか、そんな奴は初めてだが、良かろう。鳳華には武装した都市から流れ者の傭兵町まで、戦いのために作られた町が多い。華があれば兵も潤うと言う。芸で彼らの心を解きほぐしてやってくれるか」 「うちはれっきとした男どすがな」 「そうであったな。失礼した」 そして百舌鳥もまた仕官を願い出る。 「まあ、飯の種には丁度いいわな」 「大いに結構だ。我が家臣として今後の働きに期待させてもらう」 照日は着物の袖で顔を隠して、こっそりとみんなの様子を伺っていた。 彩音もまた仕官を希望し、弘秀はこれを承知する。 「我が家に泰拳士の家臣は少ない。奮戦に期待するぞ」 白蛇も仕官を名乗り出る。 「慕容王の草として‥‥」 朝倉も仕官を願い出ると、この二人のシノビを前に、弘秀は仕官を受け入れて口を開いた。 「赤霧――」 すると、部屋の入り口に、いつの間にか赤毛の青年が立っていた。 「シノビが二人新しく加わる。顔を覚えておけ」 「へえ‥‥」 赤霧と呼ばれた青年は、面白そうに白蛇と朝倉を見やる。 「こいつは赤霧。普段はとぼけた奴だが、龍安家のシノビを束ねている男だ」 弘秀の紹介に、白蛇と朝倉はしげしげと赤霧を見やる。 そうして、最後に沢村は、仕官の話を辞する。 「いえ‥‥現状では、仕官などはまだ」と。 弘秀は頷くと、最後に白い歯を見せる。 「家臣となった者はこれからの働きを期待するぞ。ここ鳳華は、開拓者達の力を必要としているのだ」 そう言って、弘秀は開拓者達を送り出した。 |