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■オープニング本文 天儀本島、武天国。龍安家の治める土地、鳳華――。 首都の天承にて‥‥発着場に巨大な飛空船が舞い降りてくる。大型飛空船は天儀本島の主要都市を繋ぐ定期便であり、大都市には二、三日に一度は通じている。 多くの人々が船のタラップから下りてくる。依頼を受けてやって来た開拓者達は飛空船の旅路を終えて、鳳華の土を踏む。 一見平和に見える城下町に、武装した兵士が町のいたるところで見られる。どこか物々しい雰囲気だ。ここ鳳華はアヤカシとの激戦区で、龍安家はそれなりに大きな武力を持っていた。反面治安は良いとは言えず、慢性的にアヤカシの攻撃に晒されてもいた。 開拓者達は龍安家から依頼を受けて鳳華を訪れたのであった。依頼内容はアヤカシ退治ということだ‥‥。 開拓者達は、天承の中央にある城を訪ねる。そこに、開拓者達を神楽から呼んだ依頼主、龍安家頭首の若きサムライ龍安弘秀がいた。 弘秀は内政については家老の大宗院に概ね任せ、自身は東の大樹海から出没するアヤカシの攻撃に対処していた。連日のように上がってくるアヤカシ関連の報告に、弘秀は神楽の開拓者達の助力を請うことにしていた。 開拓者達は、弘秀が待つ城内の一室に通された。客間の一つである。弘秀は胡坐をかいてどっかと座っていた。その背後の壁には、「天に龍、地に華、人に愛」と達筆な書が額縁に入って掛けられていた。 「遠路はるばるご苦労だ。良く来てくれたな」 弘秀は言って白い歯を見せた。 室内にはもう一人女サムライがいて、名を直代神樹と言って、弘秀の妹で直代家に嫁いだ龍安家の武将でもあった。 最初に、神樹が開拓者たちに一礼して口を開いた。 「よくぞ来て下さいましたね。ここ鳳華はアヤカシとの激戦区。東の大樹海のアヤカシとは慢性的な戦闘状態にあります。あなた達を呼んだのは、昨今のアヤカシの活動‥‥我が家だけでは手が追いつかなくなってきたからです。緑茂の里における開拓者達の戦いぶりは音に聞こえています。頼りにしていますよ」 神樹は一旦言葉を置いて、開拓者達の目を見つめた。 「私たちはこれまでにも神楽の開拓者の力を借りて参りました。そして、開拓者の中でも我が家に尽くしてくれた者には、望むなら我が家の家臣として取り立ててきたくらいなのです」 神樹は開拓者達に告げると、龍安家は目下のところ開拓者からも家臣を募っていることを告げる。開拓者は基本的に神楽の都に住んでいるのだが、有事の際に兵隊を任せたり出来る者を常に集めているという。 「まあ、妹が言う仕官の話は心に留め置いてくれ」 弘秀は言ってから、本題を切り出す。 「今回頼みたいのは、北部の砦に鬼の集団が攻撃を仕掛けてきた件についてだ」 弘秀はそう言うと、依頼の詳細について語り始めた。 鳳華北部の砦――。 慢性的なアヤカシとの戦闘が続く鳳華では、都市クラスになると武装していることが普通である。戦闘地域には言うに及ばず、兵士や傭兵たちが砦に詰めている。ここもそんな一つであった。 砦は小高い丘に築かれていて、しばしば東の魔の森から出没するアヤカシと戦闘状態にあった。西を段丘による天然の要害で守られており、東方への警戒に当たっていた。 砦に入った開拓者達は、櫓に昇ると、龍安家のサムライから望遠鏡を渡された。北と南、東に鬼アヤカシの集団が見える。 「あれは‥‥投石器か?」 鬼は投石器に何やら白いものを乗せて、砦に向かって発射した。白い物体は、砦の中に転がり込んでくる。見れば、緑色の炎に包まれた髑髏だ。――と、髑髏が爆発して、砦の壁の一部を吹き飛ばした。志体持ちの兵士にさして怪我は無いが、建物には十分な効果があるようだ。 「アヤカシの爆弾か」 「この砦はもはや持たないかも知れん、が、あのアヤカシどもをこれ以上進ませるわけにはいかん」 龍安家のサムライ兵は、砦は再建すれば済むことだと言って、アヤカシの撃滅に力を貸して欲しいと言った。 「‥‥これだけの攻撃、アヤカシにしては知能が働く。リーダーがいるのでは?」 「うむ、鬼を統率している人型アヤカシが確認されている。若い人間の男の姿で、剣士のような姿をした奴だ。そ奴が鬼どもを統率しているのであろうが‥‥」 待っていては砦が破壊されるのは時間の問題である。開拓者達は攻撃の準備を整えていく。 ‥‥アヤカシの陣中にて。 人型アヤカシ――名を斉王と言った――は、陣中にて鬼たちを焚き付けていた。 「(さあ撃て撃て! 砦を破壊するのだ! 龍安の兵隊どもは皆殺しだ! 休むな! 攻撃を続けろ! ご馳走が待っているぞ!)」 鬼アヤカシたちは歓喜の雄叫びを上げると、次々と髑髏爆弾を投石器に乗せていくのだった。 |
■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213)
22歳・男・サ
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
酒々井 統真(ia0893)
19歳・男・泰
アルカ・セイル(ia0903)
18歳・女・サ
柳生 右京(ia0970)
25歳・男・サ
鳴海 風斎(ia1166)
24歳・男・サ
赤マント(ia3521)
14歳・女・泰
各務原 義視(ia4917)
19歳・男・陰
設楽 万理(ia5443)
22歳・女・弓
バロン(ia6062)
45歳・男・弓 |
■リプレイ本文 「見えました。アヤカシの軍勢――」 井伊貴政(ia0213)は背後の仲間達に合図を送る。開拓者たちは北側の鬼の背後に回りこみ、攻撃態勢に入っていた。 「さっさと片付けてしまいましょう。知恵のある敵を前に時間を取られるわけにはいかないわね。鬼だからって甘く見るわけじゃないけど」 美貌の妖艶な式使い、陰陽師の葛切カズラ(ia0725)は貴政の背後から目前の鬼の様子を覗き込む。 カズラの体から漂う心地よい香りに、貴政は心惹かれるものがあったが、口に出しては「気をつけてカズラさん」と爽やかな笑みを浮かべる。 微妙な空気を察して、カズラはにこっと笑うと、少し貴政から身を離した。 「鬼の数は10体程度ね‥‥今の私たちなら、恐らく手こずる相手では無いでしょう」 「油断は禁物だぜ。鬼って言ってもピンからキリまでいるだろうしな! まあ俺の拳でぶちのめして叩きのめして、とにかく一気阿世に打ち破ってやる!」 「声が大きい」 柳生右京(ia0970)にたしなめられて、酒々井統真(ia0893)は頭を掻いた。 「まあとにかくだ、相手は知恵のある相手、どこまでも気を引き締めて掛からないと、痛手を被ることもあるかも知れねえ。砦の連中を救うためにも」 「知恵のある相手か‥‥何かと手強い奴がいる」 柳生は言いながら自身の体を駆け抜ける戦慄と歓喜に心地よいものを感じていた。強敵との戦いこそ最上の宴、それに身を投じている一瞬こそ最高の喜び。 「おじさんは頑張っちゃうよ。敵は強そうだけど」 アルカ・セイル(ia0903)はまだ華の18歳だったが、男勝りで自分のことはおじさんと呼んでいた。 「僕をあなたの奴隷にしてくれませんか?」 鳴海風斎(ia1166)の唐突な告白にアルカは眉をひそめる。 「何言ってんだおめえ」 「唐突に思われるかも知れませんが、私にとってはこれと思ったお方には、奴隷にして頂きたいのです」 「ああそうかい」 アルカは真面目な顔で風斎を見つめると、ぷいっとそっぽを向いた。 「振られたねえ」 赤い外套を身にまとう冥越出身の泰拳士の少女、赤マント(ia3521)は面白そうにアルカと風斎のやり取りを揶揄する。 「赤マント君、恋多き人生なのです‥‥悩ましいことです」 「時と場所を考えないとねえ。お兄さん」 14歳の赤マントに言われても年長の風斎は思案顔。悩ましげに髪をかき上げると、寂しそうに笑う。 「まあ、撃沈するのはよくあることです。一度で駄目なら押して引く、引いても駄目なら食らいつく‥‥」 くつくつと風斎は邪悪な笑みを浮かべた。 「何を考えているかは想像がつくけど‥‥」 赤マントはたじたじに冷や汗を垂らしながら、鬼の方に目をやる。 「それにしても、大アヤカシを倒したと言っても、いまだ各地にはアヤカシの勢力が跋扈し、人倫に仇名す存在として民を食らっている。この地にもアヤカシが蔓延しています。天儀を覆う暗雲は晴れないと言うのが実際のようですが」 各務原義視(ia4917)は言って鬼の集団に目を向ける。 「ちょくちょくアヤカシと戦ってはいるけどこの戦の雰囲気は理穴での合戦依頼ね。皆、敵と因縁があるようだけど私は報酬の対価に自分の仕事をさせてもらうだけ‥‥」 理穴国出身の弓術士、設楽万理(ia5443)は呟く。緊迫した戦いの空気が万理の感情を揺さぶっていた。 「ここまでは無難に近付くことが出来たが。さて問題はここからだな。知性持ちのアヤカシを倒すことができるものかどうか‥‥」 ジルベリア出身の狩人――弓術士のバロン(ia6062)は、豊かな顎鬚を撫でながら、仲間達に目を移した。 完全に後手に回っておるな‥‥敵を討ち取るのは難しいだろうな。撃退で良しとしておくべきか? だが皆はやる気のようだ。‥‥こやつらなら何とかしてくれるかもしれんな。よし‥‥ならば、後ろはわしに任せて存分に戦って来い。 バロンは戦闘モードに入っている仲間達の様子を見て、胸の内に呟く。 「よし――行くぜ。突貫開始――!」 アルカが先陣を切って飛び込む。戦いの幕が上がる――。 泰拳士の三人が加速する。アルカ、統真、赤マント。ボスの大鬼目がけて突撃。 「統真! 合わせるよ!」 赤マントの呼びかけに、「おう!」と答えた統真。大鬼に向かって駆け抜ける。 ――!? 大鬼は突然の開拓者たちの攻撃に不意を突かれる。 ドゴオオオ! ドゴオオオ! ドゴオオオ! と連打を食らって巨体が傾く。 「威力が弱いし、せめて髑髏をこれで減らせればいいのだけど」 万理はバーストアローを放つ。解き放たれた矢が周辺の大気を震動させ、衝撃波がアヤカシを直撃する。直線状の髑髏アヤカシが砕け散る、投石器も吹き飛び、ボスの大鬼に矢が貫通する。 「バーストアロー、見事だな」 バロンは即射で鬼を撃ちながら、万理の技を称えた。 「実戦最初にしては上出来ね」 万理は矢盾を置いて後退すると、支援攻撃を開始する。 貴政、右京、風斎が次々と鬼を撃破していく。鬼は全くの奇襲攻撃にことごとく撃滅されていく。 カズラと義視が大鬼に式を連打する。隷役使用の斬撃符と眼突鴉が大鬼を打ち砕く。 瞬く間に半数以下に陥った鬼たちは、何とか態勢を立て直して反撃してくるが、怒髪天の大鬼は走り出して逃走を試みる。 「逃がさんぞ」 柳生が大鬼の側面から残馬刀を叩きつけた。ドッゴオオオオオ! と大鬼は吹き飛び、凄絶に腹を切り裂かれた。 それ以外の鬼たちは、恐慌をきたして逃走する。だが、アルカ、赤マント、統真らに捕捉されて打ち倒されていく。 カズラはあがく鬼に焙烙玉を投げつける。炸裂弾が鬼に命中して爆発すると、アヤカシの肉体は一撃で半壊した。 貴政と風斎、柳生は大鬼を滅多打ちにして撃破する。 オオオオオオオオオ‥‥と大鬼は苦悶の鳴き声を残して、黒い塊となって崩れ落ち、正気に還元した。 「よし、やったようだな」 バロンは立ち上がると、仲間達のもとへやってくる。 「大したものだ。被害はほとんどなしか」 「これで‥‥我々は東に直接向かうことになるな。奴らを背後から強襲するぞ」 「砦の龍安兵と挟み撃ち出来ますね。バロンさんには砦に向かってもらいますが‥‥これを」 義視は手帳を取り出し、挟撃作戦について書き記すと、バロンに託す。 「気をつけてな。南はわしらに任せろ。何とか鬼どもを食い止める」 南の鬼へ向かうのは砦の兵力の一部と風斎、バロン。 「では行きましょうかバロン君。‥‥東に向かう皆さんはお気をつけて。武運を祈っていますよ」 風斎は真面目な顔でそう言うと、バロンとともに砦に向かう。 戦いは次なる局面に移っていく。 ――砦に到達したバロンと風斎。龍安家の兵たちとここで合流する。 「神楽の開拓者だ。龍安家の各務原義視殿からの文を預かってきた」 「神楽の‥‥援軍を待ちかねたぞ。ようやくと言った所だな」 「吉報だ。北のアヤカシは全滅させておいた。詳しくは義視殿からの手帳を見てくれ」 バロンは手帳を手渡す。 龍安家のサムライは、手帳を受け取り、作戦の概要を確認する。 「東を挟撃ですか‥‥南へは約半数の兵で向かうべしと‥‥。承知いたしました。すぐに出撃の用意を整えましょう」 サムライは兵たちに号令すると、砦から打って出る。バロンと風斎は、南のアヤカシに向かって出発する。 そして、東の斉王に向かっても、開拓者たちとの挟撃作戦に向かって、兵が出撃する。 ‥‥斉王は異変に気付いていた。 北の鬼が沈黙し、砦から龍安兵が打って出てくる。 「どうも様子がおかしい‥‥」 斉王は配下の鬼たちを怒鳴りつける。 「(砦から敵が出た! 人間どもを迎え撃つ!)」 それから斉王は油断無く周囲を警戒しつつ、陣地を払って前進する。 「――アヤカシ軍、前進してくるぞ!」 「迎撃するぞ! 背後から開拓者たちと挟撃体勢を作る!」 龍安兵たちは抜刀して突撃していくと、鬼と激突する。 「敵は打って出たか‥‥僕たちも急ぎませんと」 貴政は空っぽになったアヤカシの陣を見て、仲間達を振り仰ぐ。 「奴らを逃がしはせん」 「一気に行くぜ! アヤカシに逃げる隙を与えない! 後ろから袋にして叩きのめしてやるぜ!」 柳生の金色の瞳が冷たく光る。統真は気合いを入れた。 開拓者たちは斉王の後を追い、龍安兵との挟撃に持ち込む。 斉王は部下が龍安兵とぶつかる様を見ていたが、背後から迫り来る気配を察知して振り向いた。 「やはり別働隊がいたか」 斉王は舌打ちする。 「北を潰した連中だな‥‥甘く見ていたか。手勢を三箇所に配置したのは失敗であったな」 斉王は多勢に無勢と見て、その場から一人退却を開始するが――。 「あれは‥‥いつぞやの斉王か! なるほど‥‥早々に逃げる気か。そうはさせんぞ。あの時と同じだと思うな」 右京は息を一杯に吸い込むと、咆哮を放った。 サムライのスキル咆哮、右京が放った咆哮はもの凄い威力で、射程内の全てのアヤカシを引き付けてしまう。 そしてそれは斉王とて例外ではなかった。 驚愕する斉王。自身の体を包み込む戦慄に身震いする。 「何だと‥‥! これほどの咆哮を‥‥! この私の動きを封じる‥‥馬鹿な!」 斉王は突き動かされるように柳生の方へ向かって移動する。 「斉王を咆哮で捕らえた。逃がしはせんが、気をつけろ。奴の力が尋常で無いのは明らかだ」 柳生は仲間たちに向かって注意を飛ばす。 「行くわよ、斉王‥‥あのアヤカシを、今度こそ滅ぼしてやりましょう。あの時は駆け出しだったけど、私たちも少しは力をつけたはずよ」 カズラは走りながら、前を行く仲間達に檄を飛ばす。 やがて、開拓者たちは斉王含む鬼アヤカシの集団と激突する。 「貴様らは‥‥」 斉王は幾人かの開拓者を見やり、美しい顔を歪める。何度か見知った顔があった。 「久し振りね。元気そうで何より」 カズラは言って、斉王を見据える。 「悪いけど、今日で生涯の幕を閉じてもらうわ」 「ま〜たあんただねえ、おじさんとあんたって、運命の赤い糸で‥‥繋がれてたくないわあ!」 アルカは一人突っ込みで斉王を睨みつける。 「斉王、久しいな。お前と刃を交えること、心待ちにしていたぞ」 柳生の体から放たれる壮絶な殺気を受けて、普段は微動だにしないはずの斉王だが、咆哮の影響で表情が揺れ動いていた。 「以前は取り逃がしたが、今日こそはお前を冥府に送る――」 義視は言って、この宿敵と向きあう。 「またしても私の前に現れるとは、今度は命は無いぞ」 斉王は感情を抑えながら牙を剥いた。抜刀すると前に踏み出してくる。 鬼アヤカシは龍安兵が押さえる間に、開拓者たちは斉王に集中する。 「今度は逃げられんぞ。覚悟しろ」 柳生は言って、進み出る。 貴政が側面に回りこむと、統真が反対側に回り込み、赤マントは斉王の背後を取った。 斉王の美しい顔が歪む。内心では焦っていたし、追い詰められていた。 「私を倒せるなどと思うなよ人間ども。努力だけでは越えられない壁というのがあるのだ」 「時間を掛けている暇は無いのだ! 行くぞ!」 柳生は残馬刀を振りかざして突撃した。 ドゴオオオオ! と残馬刀は斉王の肉体にめり込んだ。 「ぬううううああああああ!」 斉王の反撃、もの凄い速さで刀が飛んできた。ガキイイイイイイイイイン! と右京は受け止める。ずず‥‥と威力で足が地面にめり込む。 「そうでなくてはな!」 柳生は斉王と瞳を合わせ、闘志をたぎらせる。 貴政は両断剣で打ちかかった。ズン! と刀身が斉王の肉体にめり込む。貴政の二撃目を素早く回避する斉王。立ち回って距離を保つが――。 そこへスキルフルの統真、アルカ、赤マントが襲い掛かる。驚異的なスピードで斉王に突進する三人。 泰拳士たちの拳が斉王の肉体に深々とめり込む。 「僕の赤を焼き付けてあげる!」 「切っても殴っても駄目ならああああああ!」 アルカは斉王の背後をがっちり捉えると、相手の腰を抱え込んでそのまま後方に投げ飛ばした。いわゆるスープレックスだ。 宙を舞う斉王の肉体が、地面に叩きつけられた。 「ぬお!?」 驚いたように転がる斉王。投げ技を食らったのは初めてのことである。ダメージは大したことは無いが、斉王も何が起こったのか理解できないでいた。 転がる斉王に、カズラと義視は式を叩き込む。 カズラは隷役使用の斬撃符を斉王の膝目がけて連打する。鏃のように変形したカマイタチが斉王の膝を切り裂く。 義視も眼突鴉を連打。眼突鴉が斉王の顔面に牙を突き立てる。 万理は矢盾の向こうから、鷲の目を使って矢を連射する。ズキュウウ! と矢が斉王の肉体を貫通する。 「おおおお‥‥おのれ!」 斉王は立ち上がり、豪腕を振るう。 カズラの超威力の斬撃符に耐え、開拓者たちの猛攻を凌ぎ切った。 咆哮の呪縛から解放された斉王は、瞬間的にジャンプして逃走を図るが、柳生が再度咆哮を仕掛ける。 「逃がさんと言ったはずだあああ!」 「お、おのれ! こんなことが‥‥!」 咆哮の呪縛に捕まる斉王。 開拓者たちの集中攻撃の前に、遂に肉体が破壊的なダメージを受ける。足を吹き飛ばされたのだ。 崩れ落ちる斉王。 「畜生! この俺が! だがいつの日か思い知る時が来るぞ! どんなに力をつけようと、貴様らに夜明けは無い! いつの日か天儀が崩壊するのは‥‥人間は滅び行く運命にあるのだ!」 開拓者たちは、最後の咆哮を上げる斉王に止めを差す。 そして遂に斉王は崩れ落ちる。無敵と思われたこのアヤカシが、黒い塊となって崩れていき、瘴気に還元する。 ‥‥バロンと風斎は大鬼を撃破して、配下の鬼アヤカシと交戦途中であった。そこで斉王の最後の咆哮が鳴り響いてくる。天を貫く壮絶な咆哮であった。それは鬼アヤカシたちに突撃命令を出すものであったが、斉王の死を知らせるものでもあった。鬼たちは恐れをなして逃走する。 ‥‥鳳華首都、天承。戦い終えた開拓者たちは城を訪ね、龍安弘秀と会う。 「というわけで、斉王はこの手で仕留めてやったよ」 アルカは弘秀に仕官する気は無いが、何かあれば来る事もあるだろうと伝える。 「今は無理だろうけど、いつの日か、冥越の森を払うのに力を貸してくれるなら、仕官するよ」 「無茶を言うな」 赤マントの言葉に弘秀は苦笑した。滅亡した冥越を救う、そんなことになっていれば天儀の全国が立ち向かっているだろうが、武天であれば巨勢王が全氏族に号令を出しているだろう。 「私は理穴王家以外に忠誠を誓ったら親から勘当されちゃうわね」 万理は言って肩をすくめる。 「それから、私は弓以外の遠距離兵器は認めないわ」 「わしは特定の勢力に組すると動き辛くなるのでやめておこう」 バロンも仕官を辞した。 柳生や義視、家臣の労を労うとともに、弘秀は開拓者たちに礼を言う。 こうして、再三に亘って立ちはだかった斉王は、遂に撃破されたのだった。 |