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■オープニング本文 天儀本島、武天国。龍安家の治める土地、鳳華――。 首都の天承で龍安家から依頼の詳細を聞いた開拓者たちは、鳳華の東方にある戦闘地域に向かう。戦闘地域というのは、ここ鳳華は、東の大樹海から出没するアヤカシとの慢性的な戦闘状態にあり、域内は実質的に戦争状態にあった。最前線では、どこかで兵士や傭兵たちがアヤカシと戦っている。 ここはそんな戦線の一つ。厳原高原と言う森と川が豊かな丘陵地帯であった。先の戦いにおいて、アヤカシ兵士を何とか退けた龍安軍であったが、紫雲妃や興王丸と言った首領クラスのアヤカシ撃破には至らず、龍安兵たちは完勝と言うわけにはいかなかった。アヤカシはすぐにでも態勢を立て直してくるだろう‥‥龍安の兵士たちはアヤカシの再侵攻に神経を尖らせていた。紫雲妃と興王丸が再び姿を現したのは、あれから間もなくのことであった。 厳原高原は東西300メートル、南北300メートルの小さな高原である。北に森が広がり、西と東に木々の点在する小高い丘がある。丘を貫くように川が流れており、小さな湿地帯が真ん中に出来ていた。南は岩場で、なだらかな平原に剥き出しの岩が顔を見せていて、川の流れは南に向かって伸びていた。 厳原砦は西の丘の上に立っており、また北と南には小型の砦が築かれていた。前回開拓者たちが守り抜いた砦である。 先の攻撃を撃退して、指揮官の渡瀬夕山は一層の警戒感を強める。撃退されたアヤカシ軍が力を蓄えてやってくるのは目に見えていた。アヤカシは世界中のどこでも実体化するのは常識であったし、その勢力は無尽蔵であるのだ。 夕山は厳原砦と北と南の砦の防備を固めるように言い渡す。それから、先の教訓を得て、中央の湿地帯にも陣を敷くことにする。そのために夕山は天承の龍安弘秀に増援を要請もした。 紫雲妃が再び軍勢を率いて厳原高原に姿を見せたのは、防備を強化している最中のことであった。 「やはり‥‥来おったわい。紫雲妃が黙って引き下がるとは思えんかったからな」 夕山は厳原砦にて、開拓者たちに状況を説明していた。卓上の地図を指差しながら、夕山は敵の戦力について語る。 「シノビの偵察で分かった範囲じゃ。東の丘にアヤカシが三つの陣を敷いておる。攻撃的な布陣じゃ。いつでも攻勢に出る構えじゃな。こちらはまだ防備を固めている最中だと言うのにな。北に興王丸。中央の陣に紫雲妃。南に先の戦い同様巨漢のアヤカシ戦士が兵を率いておる」 夕山は言いながら、地図を指差す。アヤカシ軍の目的が砦の攻略にあるのは間違いない。それは同時に龍安軍の敗北を意味していたから。 「中央の陣は前回の教訓を得てのことじゃ。湿地帯を紫雲妃に突破されたからの。だが‥‥いずれにしても今回は厄介なアヤカシ戦力が顔を揃えておる」 「それは‥‥?」 「いつだったか、先日の戦いでも姿を見せた破城槌のアヤカシがいたであろう。あれの強化されたアヤカシよ」 強化された破城槌のアヤカシは槌部分の本体だけで構成されており、低空飛行で移動するのだという。 「低空飛行? 飛ぶのか?」 今回の破城槌アヤカシは、体長も一回り大きく、攻撃力が強化されているという。まともに直撃すれば北と南の砦は一撃で貫通してしまうと渡瀬は言った。そして、相変わらず基本戦力のアヤカシ兵士は十分に補填されており、先の戦いとほぼ同数の数を揃えていた。 ――東の丘。アヤカシの陣中。 紫雲妃は口元に笑みを浮かべていた。 「さて‥‥先の戦では負けましたが、私たちの軍は眠ることなき無限の軍。龍安の者たち、どこまで耐えることができるでしょうか‥‥ふふ」 「紫雲妃様――どうなさいますか。やはり、まずは北と南の砦から落としますか?」 そう言ったのは興王丸。紫雲妃は思案を巡らせる。 「今回は龍安軍も中央に陣を敷いた様子。同じ手は使えませんね。ならば‥‥奇襲が不可能なら、やはりまずは北と南の砦から確実に沈めていくべきでしょうね」 紫雲妃は、今回破城槌のアヤカシを揃えたことで、南北の砦を落とすことは出来るだろうと計算していたが‥‥。 アヤカシ軍の攻撃は、間もなく再開されようとしていた。 |
■参加者一覧
星鈴(ia0087)
18歳・女・志
鈴梅雛(ia0116)
12歳・女・巫
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
柳生 右京(ia0970)
25歳・男・サ
輝夜(ia1150)
15歳・女・サ
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
紅月 刑部(ia2449)
18歳・男・志
奏音(ia5213)
13歳・女・陰
白蛇(ia5337)
12歳・女・シ
柊 かなた(ia7338)
22歳・男・弓 |
■リプレイ本文 「渡瀬はん!」 厳原砦にて、開拓者の星鈴(ia0087)は指揮官の渡瀬に迫る。何ゆえか気概がみなぎっていた。 「な、何だ?」 渡瀬はずいずいっと迫ってきた星鈴の迫力に押されながら、後退する。 「ここまでアヤカシに押し込まれるとは‥‥うちは報告書を見ていて‥‥何やこう、沸々と怒りが湧いてきた!」 「そ、そうか。それで今回来てくれたのかい」 「違う! うちは‥‥うちは‥‥」 星鈴の瞳が愁いを帯びる。 「うちはただ、自分の『武』を高めたいから戦っているだけや。情が湧いたわけやない」 「支離滅裂だな‥‥何をそんなに興奮しているんだ」 柳生右京(ia0970)はいつものように冷徹な瞳で星鈴を見やった。右京が不思議そうに言うのを、鈴梅雛(ia0116)はにこっと愛らしい笑顔を浮かべる。 「きっと星鈴さんは‥‥鳳華の民のことを思って、心が痛んだのです」 「ふむ‥‥」 右京は雛の言葉を聞いても、不思議そうな表情を崩さなかった。 「とにかくや――! うちの『武』に掛けて、ここで敵を止めるんや!」 星鈴の気合いに、妖艶なる陰陽師の美女、葛切カズラ(ia0725)は煙管の煙をたゆませながら微笑を浮かべる。 「それにしたって、紫雲妃も厄介な相手ね。もう兵力を蓄えてくるなんて。今度こそ逃がさない‥‥と言いたいところだけど」 「あ奴らの回復力は無限じゃ。とは言え、集団を束ねる紫雲妃を倒せば、こう着状態は打開できるはずじゃが‥‥」 輝夜(ia1150)は言って、腕組みした。言うは易しである。何しろ、紫雲妃にしろ興王丸にしろ、たやすく討ち取ることが出来る相手ではない。それは先の戦いでも証明済みである。 「敵は無限か‥‥それならばなおのこと、新型の破城槌や、ボスの一方でも討って弾みをつけたいところだな」 滝月玲(ia1409)は言って当世兜「円月」の紐を締めた。 「己が命を削らずに誰が共に戦ってくれようか‥‥龍安武人の意地、とくと見せてやる」 滝月もまた龍安家の家臣であった。 「某、此度が初陣にござる! 諸兄、よろしくお願いするでござる!」 志士の紅月刑部(ia2449)は張り切って声を出した。最初の依頼がこれほどの危険な戦闘とは‥‥無謀と勇気は異なるところを見せたいものだ。 「えっと〜奏音(ia5213)は〜おんみょじなの〜今回も〜よろしく〜お願いしま〜す」 陰陽師の少女奏音はれっきとした龍安家の家臣であり、熟練の陰陽師である。ともあれそのスローテンポで緊張感のない口調は聞いている兵士たちを焦らせる。開拓者たちは奏音に慣れているので、ずっこける龍安の兵士たちを見て苦笑する。 「えっと〜奏音たちは〜、二つの砦に向かって〜、破城槌と〜、アヤカシを止めたら〜、中央の紫雲妃に向かって〜攻撃を〜開始するので〜す」 「中央の紫雲妃は動くだろうか?」 渡瀬の問いに、龍安家家臣のシノビ白蛇(ia5337)が答える。 「動くと思うね‥‥北と南の他班が駆け付けるまで‥‥紫雲妃部隊を抑えるつもりだよ‥‥シノビで紫雲妃部隊を監視しつつ‥‥厳原砦の兵と合わせた約40名で中央に布陣する‥‥但し‥‥何時でも北や南に増援を送れるよう経路を確保‥‥紫雲妃には‥‥同規模の布陣を見せる事で『中央部隊を叩かないと北や南へ増援を送られる』と思わせたいね‥‥」 「悪くない策だが‥‥」 渡瀬は腕組みしてうなった。 「少なくとも紫雲妃が同時に攻撃してきたら、中央の部隊は激戦になるな。兵士たちにもその旨伝えておかねば」 「策は考えてあるよ‥‥」 「と言うと?」 「現地出身の兵やシノビたちなら‥‥泥濘の深い場所を特定することもできるはず‥‥その手前で盾を構える陣を二重に敷き‥‥湿地に足を取られた敵を攻撃‥‥敵が肉薄して来たら泥濘の浅い場所を通り後退‥‥再度、泥濘の前で陣を敷くというのを繰り返す‥‥」 「ふーむ、湿地帯か‥‥それは考え付かなかったな。確かに敵は飛べるわけではないから、有効ではあろう」 龍安家家臣の柊かなた(ia7338)は胸の内ではいつも弟のことを思う。この戦いが無事に終わって、報酬を得ることが出来たら、何かお守りになるものを買って帰ってあげよう‥‥。かなたはそんなことを考えながら、口に出しては敵の動きに警戒する。 「それにしても、新型の破城槌のアヤカシを投入してくるとは、紫雲妃も本気のようですね。何としても食い止めないと、そんな怪物が突撃してきたら砦はおしまいですから」 「全くじゃ。あの怪物、何とかして止めんとなあ」 渡瀬は言って、険しい顔つきで東の地平を見つめた。 「では我らも行くかの。それぞれがそれぞれの場所で最善を尽くし、敵勢を押しとどめるしかないのじゃから」 輝夜の言葉を受けて、開拓者たちは北と南の砦に向かう。白蛇は厳原砦の兵士たちと中央の湿地帯へ。厳原高原の戦いの幕が再び上がろうとしていた。 アヤカシの陣中――。 紫雲妃と興王丸は陣の奥でアヤカシ兵士たちを見つめていた。そこへ、一羽の一つ目カラスが舞い降りてくる。カラスはアヤカシである。 「紫雲妃よ、厳原砦から人間たちが動き始めたぞ。こちらの動きを読んで、北と南に援軍を送ったようじゃな。中央にも分厚い陣を敷いているぞ」 人語を話すカラスの言葉に、紫雲妃の美しい顔に笑みが浮かんだ。 「そうですか。では‥‥私たちも行動を開始するとしましょう。南の陣に伝令を送って下さい。――興王丸、あなたも北の砦に攻撃を開始するのです」 「はい‥‥今度こそ、奴らを叩きつぶしてやります」 「興王丸」 「はい」 「油断はしないことです。お前は確かに強いアヤカシですが」 「承知しております。お任せを」 興王丸は笑声を残して北の陣に向かう。 「まぁ、死なんければなんとかなるし、それだけは気ぃ付けようや」 星鈴は敵軍の動きに緊迫が広がる中、吐息した。息が白いものに変わる。 「アヤカシ軍! 接近してきます!」 砦の上から、兵士が望遠鏡を下して叫んだ。 「いよいよか‥‥行くで」 星鈴は双剣を抜いた。 やがて、先頭に破城槌アヤカシを従えたアヤカシ軍が姿を見せる。 「‥‥来たようじゃの」 輝夜は前進してくるアヤカシ軍を見据える。 先頭に破城槌のアヤカシ。口から火を噴きだし、獣じみた咆哮を上げている。 「某‥‥何としてもここで敵勢を食い止めて見せるでござる!」 「無理はしないで下さいよ紅月さん。初陣とは言え」 滝月は言ってから、奏音に目を向ける。 「奏音さん、破城槌を頼みますよ。あのでかぶつ、術攻撃が有効ならば、一気に仕留めて下さい」 「奏音は〜、たまちゃんと〜、わんちゃんで〜、支援しま〜す」 龍安軍の兵士たちも攻撃態勢に入る。 オオオオオオオオオオ‥‥と破城槌のアヤカシが低空飛行でうなりを上げて前進してくる。 輝夜は正面から突進すると、ジャンプして回転しながら長槍を振り下ろした。破城槌アヤカシの肉体が凄絶に切り裂かれる。 破城槌アヤカシは咆哮して、輝夜にぶうん! と突進する。ものすごい衝撃を受けて、輝夜は吹き飛んだ。 滝月は桔梗突でカマイタチを破城槌の顔面に叩き込む。破城槌の顔面が凄まじい威力で切れる。 「集中攻撃を浴びせるでござる!」 紅月はグレートソードを構えて、破城槌と距離を保つ。とてもではないが自分が手を出せる相手ではない。が、せめて支援だけでも、と必死で叫んだ。 兵士たちは破城槌に突撃し、また矢を射かけると、このアヤカシを一気に撃破しにかかる。 破城槌アヤカシは旋回して兵士たちを吹き飛ばし、苛立たしげに炎を吐いた。 「いでよなの〜わんちゃん〜」 奏音は火炎獣を呼び出すと、炎を叩きつけた。凄まじい威力の炎が破城槌アヤカシを包み込む。炎がアヤカシを包み込み、激しく焼きつくした。 ギャオオオオオオ――! と破城槌アヤカシが絶叫してもんどりうって暴れる。 「今じゃ! 一斉に打ち掛かるのじゃ!」 輝夜、滝月、紅月に龍安兵は破城槌アヤカシに集中攻撃を浴びせかける。巨体に次々と刻まれていく傷。そうして、遂に破城槌アヤカシが地面に落ちて崩れ落ちる。ぼろぼろと黒い塊となって、瘴気に還元して消失した。 「秩序にして悪なる独蛇よ、我が意に従いその威を揮え!」 カズラは隷役使用の蛇神を破城槌の顔面に叩き込む。アヤカシの顔面が砕け散って絶叫する。 「ひいなも、頑張ります」 雛は神楽舞・攻で右京と星鈴の攻撃を支援する。 「巫女の力で‥‥力が湧きあがってくる‥‥行くぞ破城槌の怪物」 「うちん流派は使う武器が三種あってなぁ、基本は同じんやけど今回の双剣は多くの敵との素早い立ち回り重視なんよ」 星鈴は破城槌アヤカシの側面に回り込む。 「見せたるで‥‥うちん流派、六交活卦の真髄言う奴を」 かなたは砦の上から、鷲の目で狙いをつける。 「お前の身体が丈夫なのは百も承知。が、そこだけは強化できまい」 かなたは破城槌の目を狙った。矢が貫通してアヤカシは絶叫する。 右京がカズラの式が破壊した傷跡に斬馬刀を撃ち込めば、破城槌の肉体が折れ砕ける。 激しく出血するアヤカシに、星鈴が二刀を構えて高速で舞うように斬りつける。凄絶に切り裂かれる破城槌アヤカシ――。 こちらも龍安軍兵士たちが一斉攻撃に転じて止めを差す。 それを見ていた興王丸。天に向かって咆哮すると、アヤカシ兵士に総攻撃を号令する。 「あいつはこの間の開拓者か‥‥今度は先のようにはいかんぞ‥‥! 者ども! 掛かれ!」 興王丸も突撃してくる。 「興王丸‥‥これで二度目だな。この間の続きといこう」 右京は興王丸に向かって前進する。近づいてくるアヤカシ兵士を粉砕しながらずかずかと歩いていく。 周囲では集団戦が始まるが、開拓者たちは前進してくる興王丸に向かって進んだ。 「あいつは‥‥興王丸」 かなたは狙いを絞ると、声を上げた。 「ここだ! 興王丸!」 だが興王丸は、目の前の開拓者に気を取られて、声には気付かなかった。 「なら仕方ありません――」 かなたは弓を引き絞ると、集中力を高める。強射「朔月」。弓術士の攻撃技の一つ。解き放たれた矢はうなりを上げて空を切り裂き、興王丸の眉間を捉えた。 ドスッと、矢が直撃する。興王丸はかすかに傾いた。 「何――!? どこから‥‥」 興王丸は前方の砦を見上げる。 「あそこか‥‥」 興王丸は矢を引き抜くと、やってくる右京たちを見据える。 「貴様‥‥今度はその命もらいうけるぞ」 「興王丸‥‥宴の続きを‥‥楽しませてもらおうか」 右京は斬馬刀を構える。 「楽しむ余裕など与えん」 興王丸は不敵な笑みを浮かべると、右京に突進した。 ――キイイイイイイイイン! と激突する右京と興王丸。 「紫雲妃いうんのとも会ぅて見たいけど‥‥あんた相手でも十分おもろそうやな」 星鈴は側面に回り込むと、興王丸に切り掛かった。二刀が激しく興王丸を打ち据える。 「出でよ悪なる蛇!」 カズラは再び隷役で蛇神を召喚する。 「貴様らに‥‥この俺は倒せん! まして紫雲妃様になど敵うはずもない」 興王丸の反撃に、星鈴は直撃を受けて吹き飛ぶ。 「くはっ‥‥なんて一撃や。骨がいかれたか」 星鈴はわき腹を押さえる。 「大丈夫ですか、ひいなが回復します」 「すまん、頼むわ」 神風恩寵で回復する雛。 「よっしゃ、やられっぱなしでは終わらんで! アヤカシ相手に吹き飛ばされて黙ってられるかい!」 星鈴は果敢に打ち掛かっていく。 「急ぎて律令の如く成し、万物尽くを斬り刻め!」 カズラは斬撃符を放つ。鏃に姿を変えたカマイタチが興王丸の喉を切り裂く。 かなたは興王丸目がけて矢を連発する。長射程の正確な攻撃が興王丸を捉える。興王丸の肉体には矢が次々と突き立っていく。 右京と星鈴と十合以上にわたって打ち合う興王丸。確かにこのアヤカシ剣士、並みの強さではない。 右京の凄まじい一撃を肉体で受け止め反撃し、星鈴の素早い攻撃にも対応する。 「どこまでしぶといんだか‥‥」 カズラは焙烙玉を投げながら、興王丸のタフさに驚いていた。 攻撃は確実にヒットしているが、興王丸は衰えることなく反撃してくる。 雛は回復に追われることになる。 右京はとっておきの示現と両断剣を構えると、裂ぱくの気合とともに斬馬刀を振り下ろした。 手応えがあった。斬馬刀は興王丸の肉体に深々とめり込み、肩から腰に掛けて胴体を切り裂いた。 「なっ――!?」 驚愕したのは興王丸。この世にい出て、初めて感じる衝撃。興王丸の足がふらつく。 右京と星鈴は連打を浴びせかけ、カズラとかなたがスキル全開で興王丸を叩く。 そうして、遂に興王丸の膝が落ちる。 「馬鹿な‥‥この俺が、これほどの打撃を‥‥」 「宴はここまでだ‥‥」 右京は斬馬刀を持ち上げた。 興王丸は笑っていた。 「俺が死んでも、鳳華の闇は晴れん。俺が築いた屍は、民の心に消えぬ痛みとなって刻まれよう‥‥」 「何とでも言うがいい、アヤカシよ」 右京は興王丸の頭部を粉砕した。 ぼろぼろに崩れ落ちた興王丸は、瘴気となって消滅する。 南の砦――。 紅月は懸命にアヤカシ兵士と戦っていた。乱戦の中、飛び交う怒号に圧倒されながら、無我夢中でグレートソードを振るった。アヤカシ兵士と一対一で打ち合い、何とか初めての殊勲を上げる。気がつけば、ずたぼろになっていて、全身傷だらけだった。後退して巫女の回復を受ける。 輝夜、滝月、奏音は指揮官のアヤカシ戦士を撃破する。歴戦の三人相手にアヤカシ戦士も奮戦するが、最後には開拓者の連携攻撃の前に潰える。 指揮官と破城槌を失ったアヤカシ軍は統制を失い、逃げ出す兵士も続出。輝夜は回転切りでアヤカシ兵を次々と薙ぎ払う。そして龍安軍が猛攻に転じると、さざ波が引くようにアヤカシは壊走していく。 そこへ伝令のシノビがやってくる。 「北の砦にて、お味方が興王丸を撃破、アヤカシ軍は総崩れの模様です。一方、中央では紫雲妃が突進、一進一退の攻防が続いております」 「そうか、北は倒したか」 「やっぱり紫雲妃が〜一番〜怖いの〜」 龍安軍は中央の味方を救いに向かう。 ――泥しぶきがとび跳ねる。 湿地帯では、龍安軍がアヤカシの攻勢を何とか持ちこたえる。 紫雲妃は前線に出て龍安兵を蹴散らすが、深追いはしなかった。 白蛇は一度だけ、水遁を叩き込んで味方を救うために紫雲妃と一戦交える。紫雲妃の凄まじい体術に守り抜くのが精いっぱいだった。 「‥‥紫雲妃も無理はしないみたいだね‥‥足止め出来たのは‥‥幸いかな‥‥」 白蛇は後退して巫女の回復を受けながら呟く。 そこへ北と南から味方の龍安軍が来援すると、紫雲妃は兵を退く。 かくしてアヤカシ軍は撤退する。 「はぁ‥‥やっとこさかいな。うまぁ一筋で行かん相手やなぁ」 星鈴は、アヤカシ軍が去った東の地平に目を落とした。厳原高原の戦いはまだ続くだろう。 ‥‥戦闘終結後、首都の天承に戻ったかなたは、弟のために神社でお守りの破魔矢を選んで買って帰る。 |