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■オープニング本文 武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。 魔の森――東の大樹海とも呼ばれる鳳華東方の樹海の奥地で、巨大な影が蠢いていた。 小アヤカシの類は、その姿を見ると小さな悲鳴を上げて道を開ける。 ズシン‥‥ズシン‥‥と、その影が、かすかに差し込む陽光を受けて浮かび上がった。その姿は――「赤い猪」である。身にまとう瘴気、その常識を越える巨体――十メートルはある――さらに体を守っている鎧のような装甲に、牙を除けば、その姿は確かに猪に似ていた。 コオオオオオオオオ‥‥と瘴気の吐息を吐き出せば、この巨大アヤカシの息吹は召喚されたアヤカシとなって束の間に消滅する。 この巨大なアヤカシの名を「朱神」と言った。 ズウウウウン‥‥と朱神は前に踏み出してくる。 「愚か者どもが‥‥」 朱神は明朗な人語を話した。 ――朱神の前に目を向ければ、戦装束に身を包んだ人型アヤカシが数体平伏していた。 朱神が罵ったのは、目の前の人型アヤカシに対してであった。 「炎羅を倒した人間の力を侮りおって‥‥風向きが変わりつつあるわ。ここ鳳華でも、その大きな風は吹こうとしているだろう。うかうかしておると、この地も奴らの手に取り戻されるやも知れぬぞ」 「朱神様‥‥お怒りはごもっとも、なれど、あなた様のご出陣とあっては、人間どもも必死の抵抗が予想されます」 人型アヤカシの弁明に朱神は瘴気を吐き出し、巨体を揺らした。 「主ら、手ぬるいわ‥‥ここ最近の敗北‥‥すでに知れ渡っておるぞ」 「は‥‥しかし」 「兵を集めよ。わしが出陣するからには、東の城塞、成望を落とす」 朱神はそう言うと、凄まじい雄たけびを上げた。その声は、遠く離れた鳳華の城塞「成望」に届いた。 龍安家の武将にして頭首龍安弘秀の妹、直代神樹は龍騎兵や地上部隊を率いて空から成望に入った。成望を治める武官、緋村天正と会う。 「あの朱神が現れたと聞きましたが」 神樹の険しい顔つきに、緋村は頷く。 「さすがの弘秀殿が、貴女をよこしましたか。噂は本当ですよ。あの朱神が現れました。すでに東方の砦が幾つか壊滅しています」 「アヤカシ軍の総数は」 「およそ200と言ったところですな」 緋村はぽりぽりと頭を掻きながら、吐息する。ここ最近のアヤカシの攻撃としては大きなものだ。 「朱神の目的はこの成望を落とすことでしょう。それ以外に、この地に姿を現す理由はないでしょう。小競り合いなら、部下のアヤカシに任せておけば済むことですからね」 神樹の指摘に、緋村はふーっと吐息する。どうやら忙しいことになりそうだと、どさっと重たいものがのしかかってくる。 それから緋村は、目の前の美しい武将を見やる。だが、この女性が来たと言うことは、少なくとも最前線の指揮からは解放されるということだ。 ――成望の東、最前線。 猛烈な勢いで突進する朱神は、体当たりで砦を破壊した。アヤカシ兵士が砦に殺到して、残骸に火を放っていく。 後退する砦の龍安軍守備隊――。 「ちっくしょおおお! あのどでかい化け猪め! なんつう怪物だ!」 「お前知らんのか、あの朱神と言うアヤカシは、かつて鳳華で災厄を振りまいた怪物だ。数多の兵士が犠牲となり、多くの砦が沈んだ」 「講釈は後にしてくれ! 前回の戦いではどうやって撃退したんだ!」 「撃退したわけじゃない。数里にわたって砦などを粉微塵にした朱神は、突然潮が引くように後退して行ったんだ」 「んじゃ、今回はどうするんだ!」 「とにかく、今は陣を立て直すしかない。まずはここから脱出するのが先だ。逃げるぞ――」 東の砦を全壊させた朱神は、西方を睨む。その紅蓮の瞳の先には、成望がある。 「青燕――」 「ははっ」 人型アヤカシ戦士が朱神の前に控える。 「お前は人面鳥を率いて空から突入しろ」 「は‥‥」 「典九――」 「ははーっ」 こちらも人型アヤカシ戦士。 「お前は成望の地下用水路から突入しろ。城塞内部に潜入し、混乱を引き起こせ」 「承知いたしました」 「璃鉄――」 三人目の人型アヤカシ戦士が首を垂れる。 「お前は俺様とともに城塞の門を破壊せよ。成望は堅固な城塞だ。龍安軍が態勢を整える前に討つ」 朱神の紅蓮の瞳が燃え上がった。 ――成望にシノビの偵察が戻ってくる。 「アヤカシの動きはどうですか」 神樹はきびきびとした口調でシノビから状況を聞く。 「はい‥‥どうやら‥‥」 アヤカシ軍は四つの集団に部隊を編成しているという。 人面鳥の航空戦力と、三つの地上戦力である。最も大きな集団には、当然ながら朱神がいる。地上戦力の一つが、成望に直接通じる河川に向かっていることも明らかになる。 「空と、地下用水路を狙うつもりですね。朱神は正面から来るつもりでしょうか‥‥いずれにしても、私たちも兵を整えなくては」 神樹は思案顔で、東の地平を見つめた。城塞「成望」に向かって、アヤカシ軍の攻撃が始まろうとしていた。 |
■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116)
12歳・女・巫
北条氏祗(ia0573)
27歳・男・志
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
鳳・月夜(ia0919)
16歳・女・志
柳生 右京(ia0970)
25歳・男・サ
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
奏音(ia5213)
13歳・女・陰
白蛇(ia5337)
12歳・女・シ
久我・御言(ia8629)
24歳・男・砂 |
■リプレイ本文 「朱神は大アヤカシなのでしょうか」 鈴梅雛(ia0116)は愛騎の甲龍なまこさんの装備を点検しながら呟く。その小さな声を、城下に降りていた緋村天正が聞いていた。 「朱神は大アヤカシではない」 「え‥‥」 「奴の行動で魔の森が活性化したという報告は無い。恐らく奴は大アヤカシではないだろう」 そこへ、総大将の直代神樹がやってきた。 「鳳華で魔の森が活性化したのは、我が龍安家がこの地を治める以前のことですから。かなり昔の話になりますね」 「あ‥‥神樹様」 雛のなまこさんを撫でてやると、神樹は優しげに微笑んだ。 「鈴梅さん、此度の戦、駆けつけてくれたことを嬉しく思います。何とかして朱神を止めることが出来ればいいのですが」 北条氏祗(ia0573)の炎龍、大山祇神は禍々しく醜い姿をしていた。骸骨の龍といった容貌で、龍安兵も興味深げに大山祇神に寄って来た。 「こんな龍は見たことがない‥‥アヤカシのようではないか」 龍安兵が触ろうとすると、威嚇の声を上げた。 「こら、大山祇神。落ち着け、味方だ」 北条がたしなめると、大山祇神はクウウウウウン‥‥と鳴いて、北条に身を寄せてくる。 「何とも‥‥北条殿とは友のようでござるな」 「然り。こいつとは長年の友でね。家族のようなものだ。まあこう見えて戦になれば獅子奮迅の働きを見せる」 北条は頼もしげに大山祇神を軽く叩いた。 焔龍牙(ia0904)は愛騎の駿龍蒼隼の装備を整えながら、戦に向けてこの兄弟と戦えることを頼もしく思う。 「頼むぞ蒼隼」 「オオオオン!」 蒼隼は戦場の緊迫感を察して羽ばたいた。 ‥‥朱神が出てきたか、アヤカシもかなり焦ってきてるな! 朱神を討ち取れば、名声も上がるだろう。だが『焔龍』の名を語れる戦いをするだけだ! 龍牙は胸の内に呟きなら、蒼隼の準備を整えていく。友人の滝月玲(ia1409)に話しかける。 「玲! また一緒になったな! お互い家臣の名を汚さす戦いをしよう! 今回は蒼隼との初陣だから、気が抜けないぜ。共に武運があることを!」 「ああ、そっちもな! 今回も何敵が出てきやがったからな‥‥俺たちにどこまでのことが出来るか分からんが」 滝月は愛騎の瓏羽の鬣にブラシをかけてやる。瓏羽は寝そべって、じっと滝月が鬣を手入れするのを心地よさそうに目をつむっていた。 「滝月殿――」 そこへ、龍騎兵のサムライが龍を連れてやってくる。 「話は窺い申した。中空域で主戦場として戦いつつ、高空域から一隊を以て敵を急襲。良い案です。龍での戦いは初陣の方も多いと聞きますが、開拓者には勢いがあるのは常々窺っております」 サムライの龍と瓏羽は目が合うと、瓏羽はグルルルルル‥‥とうなり声を上げる。瓏羽は滝月の制止を振り切って立ち上がると、大きな翼を広げる。 サムライの炎龍もうなり声を上げて体を膨らませた。 「落ち着け瓏羽。これからともに戦う味方だ」 「龍たちも気が立ってるな、まあ無理もないか」 龍牙は自身の蒼隼が落ち着いて欠伸していることに苦笑しながら周りを見渡す。 鳳・月夜(ia0919)は愛騎の炎龍、月姫の装備を整えていた。 「月姫‥‥頼むよ」 月夜は月姫の体を撫でてやる。分厚い鱗に覆われた月姫は、小さく鳴いて、月夜に身を寄せてくる。 「オオオオオオオン!」 月姫もまた興奮していて、大きな体で月夜にすり寄ってくると、激しく羽ばたいた。 「うわ‥‥と、月姫、大丈夫か」 後ろ足でぐわっと立ち上がる月姫。炎龍は勇壮な雄姿を見せて、咆哮した。 柳生右京(ia0970)の愛騎、炎龍の羅刹は獰猛な性格だ。ともに戦いを好み、柳生も龍もお互いに戦場での付き合いと割り切っている。そこに友情などは存在しない。戦を求める互いの利害関係で二人の関係は成り立っていた。 右京が装備を整えてやるのを、羅刹は苛立たしげに咆哮する。危険な龍である。原則触れられるのも嫌いなのだ。 「羅刹‥‥この時ばかりはおとなしくしてもらうぞ」 右京は凄まじい力で龍をねじ伏せると、強引に装備を付けていく。 羅刹は殺気のこもった眼差しで柳生を見つめるが、柳生の金色の瞳が冷ややかに見返すと、この炎龍は恐れをなしたか、不承不承首を下しておとなしくなる。 「それでいい‥‥今はな」 柳生は羅刹の装備を整えていく。 玲璃(ia1114)は、龍安兵から、上空からの焙烙玉の攻撃許可をもらい、準備を進めていた。愛騎の駿龍、夏香は、玲璃の傍らで寝そべっていて、静かな瞳で玲璃を見つめていた。 「夏香、今回はよろしく頼みますよ」 玲璃は軽く夏香に触れてやる。夏香はじっとしていて、静かな瞳で玲璃を見つめている。 夏香は戦場の緊迫した空気にも落ち着いていた。 玲璃は焙烙玉を夏香に搭載していく。 「龍安家から許可が下りましたから、この戦では、上空から攻撃しますよ。夏香、あなたの出番と言うわけです」 夏香はじっとしていて、玲璃が装備を整えていくのを見守っていた。血気盛んな炎龍達とは違っておとなしくしていた。 奏音(ia5213)は猫又のクロを抱きしめていた。 「クロちゃんと〜いっしょなの〜♪ 奏音は〜白蛇や〜へいしさんたちと〜いっしょに〜、ちかの〜すいろで〜がんばるの〜♪」 クロは全身真っ黒な猫又で、猫又の例に漏れず気位が高いのだが、奏音の前では為すがままであった。 「クロちゃんがんばろ〜ね〜。暗い所に入っていくことに〜なるけど〜、みんなクロちゃんを〜頼りにしてるの〜」 『そんなおだてに乗ってたまるか‥‥』 クロは猫の言葉でうなったが、奏音に抱きしめられてむぎゅと口を封じこまれる。 「クロちゃんは〜今日は〜ずっと奏音の隣にいるので〜す。がんばろ〜ね〜♪」 『ち、畜生‥‥何で私はこんな小娘に拾われたんだ‥‥! 泣ける‥‥!』 クロはもがきながら、奏音に引きずられていく‥‥。 「龍のみんなと〜ご挨拶なの〜」 『待て! あんな獣と私を一緒にするな〜!』 クロの叫びは空しく響いた。 白蛇(ia5337)は、ミヅチのオトヒメを連れて参戦していた。白蛇がお守りを身につけてやると、オトヒメは「ヒュウウウウウ‥‥ヒュウウウウウ‥‥」と鳴いた。喜んでいるのだ。 「オトヒメ‥‥初めての戦闘だけど‥‥大丈夫かい‥‥? ‥‥僕が‥‥守ってあげるから‥‥」 白蛇はそう言って、おどおどと周りを見渡すオトヒメを抱きしめた。オトヒメは戦場の空気に当てられて、少しばかりおびえていた。 「仕方ないよね‥‥オトヒメは笛の音が大好きな優しい精霊だもの‥‥でも‥‥頑張ろうね‥‥」 「ヒュウウウウウウウン‥‥」 オトヒメは勇気を振り絞って、空中でくるくると回って見せる。白蛇の周りを飛びながら、勇気を出して飛び跳ねた。 「戦か‥‥何とか無事に乗り切ることが出来れば良いが」 久我・御言(ia8629)は炎龍の秋葉の装備を点検しながら呟く。秋葉は戦場の空気に当てられて殺気だっていた。 「ガルルル‥‥グウウウウウウ‥‥」 「秋葉、じっとしろ。ま、落ち着けと言うのも無理からぬことだが」 秋葉はぐいっと立ち上がると、雄たけびを上げてばたばたと羽ばたいた。 「秋葉! 伏せろ!」 久我がぴしゃりと言うと、秋葉は不承不承おとなしくなって、ゆっくりと地面に伏せる。 「それでいいんだ。全く、仕方のない奴だなあ」 「ガウウウウウウウ‥‥」 それでも、秋葉は不服そうに久我を睨みつける。 「どうどう、落ち着け落ち着け」 久我は秋葉の首を撫でてやりながら、相棒の炎龍を落ち着かせる。 龍安軍の兵士たちも、龍を鎮めるのには苦労している。甲龍や駿龍は落ち着いているのだが、炎龍たちは暴れてそこかしこで咆哮を上げていた。 人と龍たちは互いに戦場で力を発揮するが、ともあれ龍には龍の気まぐれがある。特に炎龍を戦場で使うのは、それなりに大変なことなのだ。これだけの龍が集まればなおのことである。 神樹と緋村は、迎撃態勢が整っていく中、開拓者たちと話をした。 開拓者たちは等しく「制空権の確保」の重要性を訴える。 「この戦、まずは空を取るか否かで大きく変わってきましょうぞ。お二方には御承知でしょうが」 北条は大きな声で言うと、開拓者たちは頷いて見せる。 「空を自由にしては、厄介ですね! 人面鳥の攻撃は、まず第一の脅威として、これを速やかに撃破するべきでしょう!」 龍牙も家臣として北条の言葉を強く推した。 「もちろんですね。朱神がどこから来るか分かりませんが、人面鳥の押さえは必要です」 神樹は、真剣に話を聞いた。 「俺たちはまず空に向かうつもりだ。地上の指揮はお二人に任せたい。人面鳥を撃破次第、朱神との戦いに合流する」 滝月の言葉に、緋村は頷いた。 「思う存分に暴れて下さい。まあ、成望の防備はたとえ朱神と言えども一撃で落とせるものではないでしょうから」 「緋村、それは朱神を甘く見過ぎですよ。あのアヤカシの破壊力は尋常ではありませんん。人の物差しで測るのは危険です」 神樹は、緋村の言葉に注意を喚起する。 また久我は、龍の運用について意見を述べた。 「こと空中戦に関しては、騎龍兵のほうが我等より分があり、尚且つ炎龍が多いのは同様だが、防御に優れる甲竜等もいるようだし、騎龍兵の方々には甲龍を前に押し出す形で防戦してもらい、その間隙を縫って我等開拓者が側面に回り攻撃を担当するという事を提案させて頂こう」 久我は頷いて続けた。 「些か虫が良い提案に思われるやも知れないが、単に龍の強さだけでなく集団戦においては軍人が上、故に防御にこそその真価が発揮されると思う。更に我等開拓者は個々の多様性、即ち個々に独自の癖がある為に常識に捉われる事のない攻めが得意だろうとも考えられる。つまりは互いの特技を考慮した結果という事で納得してほしい」 「承知しました。開拓者たちの癖は十分理解しているつもりです。みなさんには、みなさんの計画で動かれるとよいでしょう。兵たちもそのことは承知しているでしょうし」 「有り難いことです。後は細かい話になるが、我等の戦術としては、側面からの奇襲、更には的を絞らせぬよう高度を変えるなど工夫しかく乱しながら攻めたいと思う。他にも一体に複数でかかる各個撃破で着実に減らしていく事を提案したいと思う。空戦を制する事ができたなら敵巨大アヤカシとの対峙に向かいましょう」 久我の提案は受け入れられる。出撃前に龍安兵と開拓者たちは話し合うことになる。 「奏音たちは〜地下の敵を〜迎撃に向かうんだけど〜」 「そうですね。地下の用水路と言うのは、この成望の弱点ではあります。守り抜く必要があるでしょうね」 「僕からの提案だけど‥‥」 白蛇はおずおずと申し出ると、神樹は先を促した。 「作戦は‥‥次の通りで‥‥緋村、直代は城砦の兵を指揮し篭城‥‥制空権を得るまで粘る‥‥。サムライ70、志士20、弓師15は弓で迎撃‥‥陰陽8、巫女5がそれを支援‥‥。空戦班である龍騎兵20、弓師5、巫女2は開拓者と共に敵飛行部隊を叩き制空権を得る‥‥その後は城砦班を援護‥‥」 「城塞の守備は私と緋村で何とか持ちこたえましょう。空は久我殿が言われた通りですね」 「‥‥それから‥‥サムライ10、志士10、泰拳20、シノビ10人、陰陽師2、巫女3は地下班として白蛇・奏音と共に地下から来る敵を迎撃するよ‥‥河川から出て敵軍の側面を叩く‥‥」 神樹は思案顔で頷くと、白蛇の提案を受け入れた。 「戦理に適っていますね。兵力の配置は問題ありません。では地下の指揮を、白蛇と奏音に任せますね」 そこで、伝令が飛んでくる。 「アヤカシ軍! 動きましてございます!」 「来ましたか。ではみなさん。それぞれの持ち場に向かって下さい」 開拓者たちはパートナーとともに戦場に向かう。 空に上がった雛、北条、龍牙、月夜、柳生、玲璃、滝月、久我たちは、正面から人面鳥と当たる龍安龍騎兵の背後から抜け出すと、敵編隊の側面に向かって飛んだ。 龍安軍が迎撃する間に、人面鳥軍団の側面に回り込んだ開拓者たちは、龍安軍と挟撃し、上と正面から攻撃を開始した。 側面から突撃する開拓者たちの攻勢に、人面鳥たちは乱れる。 「行け! 大山祇神!」 北条加速して斬り込んだ。龍を旋回させて目の前の人面鳥を叩き斬った。 「お前たちの相手をしている暇はないぜ!」 龍牙は弓を解き放つ。強弓が炸裂して人面鳥を一撃で打ち貫く。 月夜、柳生も突進し、人面鳥たちを押しこんで撃破していく。 「人龍一体なればこそ命を預けられるってもんなんだよ、消えなアヤカシ」 滝月は突進してくる人面鳥の攻撃を受け流して切り裂いた。 「敵陣は乱れている! 一気に突破だ!」 久我は槍と棍棒で人面鳥を粉砕すると、味方を鼓舞した。 『龍安軍どもが! こざかしい真似を!』 アヤカシボスの青燕は、雄たけびを上げて号令すると、人面鳥たちの態勢を立て直す。人面鳥たちは旋回して後方に下がると、上空に舞い上がった。 だが、そこにも龍安兵が待ち構えていた。 『何!? おのれ‥‥数では龍安が上か!』 龍安軍は乱れて叫び声を上げる人面鳥たちに総攻撃をかける。 「人面鳥たちは任せたぞ! 我らはあの青燕の首を上げる!」 柳生が言って、乱戦に突入する空戦から飛び出した。 北条、龍牙、滝月が後に続き、青燕に突進する。 「青燕とやら! その首貰い受けるぞ!」 「何おう?」 青燕は、空中で挟撃されて、騎乗の怪鳥を操って急上昇する。 「逃がすな!」 食らいついた開拓者たち。 「時間が無い、俺が隙を作るから確実に仕留めてくれ」 滝月が急旋回して、青燕に突撃する。すれ違いざまに桔梗突と炎魂縛武を撃ち込んだ。 回避行動を取る青燕。そこへ柳生が斬馬刀を叩き込む。 ――ガキイイイイイイン! と青燕は柳生の一撃を受け止めた。そのまま空中で打ち合う柳生と青燕。 「焔龍の一撃を受けてみな!」 距離を保ちつつ旋回する龍牙は、炎魂縛武を撃ち込んだ。矢が貫通して、青燕はのけぞった。 「食らえ! 二天流、弐連撃!」 北条が連打を浴びせれば、青燕は苦悶の声を上げて逃げる。 「畜生! もっと兵があれば貴様らごときに!」 青燕は怒りの咆哮を上げると、足早に撤退した。 「人面鳥たちは‥‥」 龍安軍は、雛、月夜、玲璃たちとともに、人面鳥を撃退していた。 ――地下用水路に降りた白蛇と奏音たちは、典九が率いるアヤカシ兵と遭遇する。 シノビ達は、暗視を使って、暗闇の中に浮かび上がる敵の光源を次々と潰していく。これは白蛇が指揮を取った。暗視とはシノビのスキルだが、このような状況下では絶大な威力を発揮する。 アヤカシ兵士たちは、松明の明かりを次々と潰されて、暗闇の中で右往左往して喚いた。 『うろたえるな! 壁に手をつけ! 俺様に付いていこい!』 典九は怒鳴り散らすと、兵を率いて前進する。 「あれが典九か‥‥」 白蛇は典九の姿を確認して、シノビ達に合図を送る。 シノビ達は手裏剣を投げつけ、アヤカシ達をおびき寄せにかかる。 『構うな! 走れ! 一気に走れ! 明かりを探すのだ! 地上に通じている!』 アヤカシ達は走り出した。 そこで、待機していたサムライたちが咆哮を解き放った。アヤカシ兵士たちの群れがばらける。咆哮に引き寄せられて、集団は散り散りになった。 『おのれ! 周到な待ち伏せか! 読まれていたか!』 典九の雄たけびは通じず、アヤカシ兵士たちは暗闇の中で混乱に陥った。 そして、奏音たちが待ち受ける、迎撃ポイントにアヤカシ兵士たちは誘導されてくる。 「攻撃〜開始なのです〜。クロちゃんもいいですか〜」 『良くははないが仕方ないなあ‥‥』 クロは吐息して鎌鼬の用意を整える。 「アヤカシ兵、前進してきます!」 「よ〜い」 すると、奏音の前にいる志士がしゃがんで奏音の前に射線をあけた。 奏音は火炎獣を二連射する。 「わんちゃん出でよ〜なの〜」 轟音と火炎が通路を埋め尽くし、アヤカシ兵士を焼き尽くす。 他の陰陽師たちも式を飛ばして攻撃。背後の龍安兵は弓を放った。ばたばたと倒れていくアヤカシ兵士たち。 クロの目が光り、アヤカシを鎌鼬が包み込む。ミヅチのオトヒメも水柱で攻撃。 続いて奏音は呪符を充填。志士は奏音の前に移動して壁になる。 「ガアアアアアアア!」 屍を乗り越えて突撃してくるアヤカシ兵士たち。 奏音たちは二度目の火炎獣を叩きつければ、アヤカシ達はまたしても倒れ伏していく。 「みなさん〜突撃〜なの〜」 「よし! 行くぞ!」 サムライや泰拳士が突進してアヤカシ兵士に打ち掛かっていく。 そこへ姿を見せた典九。 「ぬう‥‥まんまと罠にはまるとは‥‥不覚! だが、このままおめおめと引き下がれん!」 典九は突進した――その瞬間を狙って、側面から白蛇らシノビたちが急襲する。 ドドドドドドドオオオオオ! とシノビ達の手裏剣や鉄爪が典九を捉える。 「ぐ‥‥お‥‥!」 「君には‥‥ここで倒れてもらうよ‥‥」 「またしても待ち伏せか! まあ良いわ! こちらへ兵を引き付けただけでも上出来よ! 今頃上では朱神様が城門を突破しておるわ!」 典九は笑声を残して、暗闇の中へ逃走した。 ズウウウウウウウン‥‥ドドドドドオオオオオオオ! と驀進してきた朱神は、東の城門に突進すると、たったの一撃で石造りの壁を吹き飛ばした。 本丸で知らせを聞いた神樹は、思案顔で頷く。 「やはり‥‥簡単に朱神を止めることは出来ませんか」 「どうされるか神樹殿。アヤカシの侵入を許すぞ」 「散っている兵士が戻ってくるまで、持ちこたえましょう。地下と空のアヤカシ達を無視するわけにもいきませんから」 そこへ伝令兵が飛んでくる。 「申し上げます! 空と地下のアヤカシ勢! 撃退されたと、開拓者たちより知らせが!」 「そうですか。ならば、兵たちに合図を。味方が戻ってきます。朱神を少しでも足止めするのです」 開拓者たちは地上に戻ってきた。東の門が突破されたと聞いて、朱神の迎撃に向かう。 玲璃と月夜は、上空から焙烙玉で爆撃を開始する。 雛は上空から弓で支援攻撃。 「下からの攻撃は、早々に当たったりしません」 「あれが‥‥朱神」 北条の呟きに、龍牙、柳生、滝月、久我たちは戦慄すら覚えた。 木っ端微塵に破壊された城門から進入してきた朱神は、大地をズシンと踏みしめて前進してくると、打ち掛かる龍安兵を一撃のもとに牙で吹き飛ばした。 奏音と白蛇が合流し、城内には朱神への総攻撃の合図が鳴り響いていた。それはすなわち、朱神が城内に進入したことを知らせるものだったが。 「行くぞ‥‥奴を‥‥ここで止める!」 柳生は先陣を切って突進した。北条、龍牙、滝月、久我たちも龍安兵とともに突進した。 龍安兵を大きく越える開拓者たちの猛攻に、朱神はぎろりと赤い眼を剥いた。 「ほう‥‥俺様に傷をつける輩がいようとは‥‥」 だが朱神は、熟練の開拓者たちを牙で次々と吹き飛ばした。 「とんでもない力だな‥‥!」 滝月はよろめきながら立ち上がる。 スキル全開で攻撃する開拓者たちに、龍安兵。 だが敵は朱神以外にも、璃鉄率いるアヤカシたちが暴れ回っている。 「くはははは‥‥落ちたわ。この東の城塞、もらったぞ――!?」 だが朱神の笑声が刹那――途絶えた。 北条と柳生、龍牙と滝月、久我のスキル全開の一点集中攻撃が、朱神の巨大な肉体を貫通していた。 「こざかしい奴がいるわ‥‥!」 朱神は怒りの咆哮を上げると、体から瘴気が立ち上り、かっと口を開いて、攻撃系の召喚アヤカシを吐き出した。直撃を受けて膝をつく開拓者たち。 ――と、そこへ璃鉄が慌ただしくやってくる。 「朱神様! 空と地下の兵が敗退した模様です! このままでは背後を絶たれる可能性があります!」 「ふむ、まあ良いわ、次はこの城塞が落ちる時よ!」 そうして、朱神は軍勢を率いて潮が引くように撤退して行ったのである。 |