【天龍】鳳華の戦い12
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 1人
リプレイ完成日時: 2010/01/04 16:13



■オープニング本文

 天儀本島、武天国。龍安家の治める土地、鳳華――。
 魔の森、東の大樹海にて。首領格の人型アヤカシ紫雲妃は、瘴気の渦の中にいた。漂う瘴気は濃密で、時折獣や鬼のような陽炎となって束の間に霧散する。ぎゃあぎゃあと‥‥森の方々から小アヤカシの鳴き声が聞こえる。ここは人界と隔絶した土地であった。
 美しい女拳士の姿をした紫雲妃は、膝をついて、首を垂れていた。紫雲妃が見上げれば、枝に一つ目のカラスが止まっていた。
「カラス様――」 
 紫雲妃はこのカラスアヤカシに呼び掛けた。呼ばれた方は、羽を広げて、首を傾けた。
「紫雲妃よ。厳原高原の戦、手こずっているようだな」
「申し訳ありません。破城槌まで頂いておきながら、こうまで撤退に追い込まれるとは」
「ふむ‥‥」
 この小型の一つ目カラスアヤカシ、鳳華の中で高い序列にあるのだろうか。
「お前はよくやっておるよ。新たに兵を送り込もう。だが、正面から攻めるだけでは厳原高原は落ちぬようだな」
「はい‥‥興王丸を倒した龍安軍の実力、予想以上です」
「あれは開拓者であろうな」
「‥‥開拓者なのですか?」
「あの戦力で興王丸を撃破できるのは、開拓者たちであろうよ」
「いかがいたしますか」
「厳原高原の南方に広がる青草丘陵。アヤカシ兵100体をそちらへ向けよう」
 そこで、森の奥から屈強な大鬼が姿を見せる。
「ぐははは‥‥! 紫雲妃殿! 随分とお困りのようだ!」
「蒼鬼」
 紫雲妃は、大鬼を見やる。蒼鬼と言う名の大鬼は、口許に辛辣な笑みを浮かべている。紫雲妃と蒼鬼は、同格で普段仲が良いとは言えなかった。
「カラス様、蒼鬼と手を組めと」
「紫雲妃よ、手柄を独占するのは、欲が深いというものぞ?」
「は‥‥」
 蒼鬼は、カラスにお辞儀して、紫雲妃を見やる。
「青草丘陵の方はお任せ下さい。龍安軍の陣は薄い。まあ、せいぜい紫雲妃殿が厳原高原を落とせるように、この蒼鬼、微力を尽くすとしましょう」
 紫雲妃は内心舌打ちしていたが、カラスの命とあっては従うしかない。
「では行け、紫雲妃よ、蒼鬼が青草に陽動攻撃を仕掛ける間に、厳原高原を制圧して見せよ」
 カラスの言葉に、紫雲妃は深く首を垂れる。
 
 厳原高原の砦にて、龍安家家臣の渡瀬夕山はアヤカシ軍の動向を探っていた。またしてもアヤカシの急速な前進は、渡瀬を驚かせたが、その規模が拡大していることに警戒していた。シノビの偵察活動により、アヤカシ軍が活性化していることが明らかになる。
 厳原高原の東から、三たび紫雲妃が率いるアヤカシ軍約100が接近し、攻撃態勢に入っていた。迎え撃つ龍安軍の防御は、紫雲妃の軍の前に砦が二つ。
 だが渡瀬の顔がいつになく険しいのはそのためではない。厳原の南、青草丘陵にもアヤカシ軍が約100体近く進軍してきていた。青草丘陵は龍安軍の防備が完全ではなく、簡素な陣を築いているに過ぎない。青草のアヤカシ軍は巨大な大鬼が指揮を取っている。その統制された動きから、大鬼が相当な知性を持っていると推測される。青草の大鬼はそこに留まることなく、北の厳原に向かって旋回し、紫雲妃の攻撃と連携して攻め寄せて来る気配である。
「南のアヤカシ軍は急速旋回、北進してこの厳原を挟撃するつもりだろう」
 渡瀬は後方の龍安軍に連絡し、青草丘陵の敵軍を阻害するように伝える。それを受けて、龍安軍サムライと傭兵たち100名からなる増援が青草丘陵に前進。大鬼が率いるアヤカシ軍と接近する。
 かくして、厳原高原の戦いは戦火を拡大。隣接する青草丘陵にも飛び火して、戦いは新たな局面を迎えようとしていた。

戦域補足:
厳原高原。東西300メートル、南北300メートルの小さな高原。北に森が広がり、西と東に木々の点在する小高い丘がある。丘を貫くように川が流れており、小さな湿地帯が真ん中に出来ている。南は岩場で、なだらかな平原に剥き出しの岩が顔を見せていて、川の流れは南に向かって伸びている。

青草丘陵。東西500メートル。南北500メートルの丘陵地帯。森は少なく、岩場や草地の丘が並んでいる。起伏はそれなりだが激しくは無い。北の厳原から川が流れていて、南へ貫いている。龍安軍増援は西方に陣を展開しており、蒼鬼のアヤカシ軍は攻撃態勢を取りつつ中央に陣を敷いている。


■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213
22歳・男・サ
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
焔 龍牙(ia0904
25歳・男・サ
輝夜(ia1150
15歳・女・サ
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
フェルル=グライフ(ia4572
19歳・女・騎
白蛇(ia5337
12歳・女・シ
設楽 万理(ia5443
22歳・女・弓
難波江 紅葉(ia6029
22歳・女・巫
柊 かなた(ia7338
22歳・男・弓


■リプレイ本文

 ――厳原砦。
「青草の防備は花椿たちに任せておけば何とか持ちこたえるだろうが‥‥それにしても戦火が拡大していくことに懸念があるな。ここ最近の連戦に、民の不安も大きいと聞く」
 渡瀬夕山は言ってうなった。
「何かと‥‥この鳳華って場所には、アヤカシとの因縁が渦巻いてそうですからねえ」
 井伊貴政(ia0213)は思案顔で言って、改めてアヤカシ軍の動きを確認する。
「それで、敵の動きに変化はなしですかね」
「攻撃態勢に入っている。南の青草も同様だ。アヤカシはいつ動いてもおかしくは無い」
「とりあえず僕たちの方針を確認しておきましょう。家臣の方も多いようですしね」
 貴政は言ってから、自身の方針や作戦を提案する。
「僕はとりあえず厳原高原希望と言うことで。――理想は、湿地帯に挑発や咆哮等も交えて紫雲妃の軍を誘き寄せ、前回の戦い方を踏まえつつ敵を受け止め、その間に南北の砦から挟撃する‥‥といった形に持っていければと思いますね」
 敵を包囲殲滅することが出来れば理想である。そのためには紫雲妃の攻撃を受け止めつつ、誘い込む必要があった。
「勿論、此方の目論見は相手も察知しているかもだし、事前の偵察情報次第では一手間掛ける必要はあるかもしれませんね? 例えば、中央の軍が一当てした後、敗走を装って湿地帯付近まで引き寄せるとか、中央の軍を南へ援軍に向かわせ、手薄になったと見せかけて敵を誘い、援軍は南の砦経由で敵背後に回る等など‥‥まぁこの辺りはその時々の状況にもよるでしょうから、人数配分も含め臨機応変になっちゃうかなぁ?」
「良い案だ。正面からぶつかるだけでは味方の被害が大きくなろう」
 葛切カズラ(ia0725)はさらに突っ込んで提言をする。
「もしも紫雲妃が以前の再現の様に南北中央と兵力を分けてきてるか、中央に一点集中なら泥濘を戦場に利用して足止め。南か北を各個撃破しに来てるならそれはそれで、こちらも打って出て多方向から攻め入り殲滅するまでね」
 渡瀬は思案顔でカズラの言葉を聞く。
「いずれにしても、紫雲妃の出方次第か」
「まずは紫雲妃の動きを探る必要もあるわね。そのためにも、私は龍で事前に偵察に出るけどね〜」
 カズラは煙管をふかすと、美しい笑みを浮かべて肩をすくめる。
 焔龍牙(ia0904)は包囲作戦を押した。
「紫雲妃とアヤカシ部隊を中央の湿地帯に誘き寄せ、南砦と北砦の兵で協力して挟撃を行う。俺はこの策を押したいな。もし、分裂した場合は北砦に近づいたアヤカシを出来るだけ中央に誘き寄せる様に移動、誘導して本陣からの援軍を待ち、合流次第攻撃を開始するという方向で」
 龍牙は言って、自身は北砦の担当に回ると言う。
「俺はひとまず北の砦に入って指揮を取る。紫雲妃の動向を見極めてから兵を動かすつもりだ」
 龍牙は龍安家の家臣でもあるので、渡瀬とは同格。渡瀬は龍牙に北砦を全面的に任せることにする。
「この地は、来るたびに敵の規模が増えていっておる気がするの」
 輝夜(ia1150)は言って、こちらもやはり北と南からの挟撃を押した。
「紫雲妃の軍の正面で敵の攻撃を捌きつつ後退を繰り返し、敵をこちらの懐へと誘き寄せる。そして南北の隊がそれぞれの敵を倒し、紫雲妃の軍を挟撃にもち込む。ただし不測の事態に備え、正面班のみで紫雲妃を相手にするくらいの気構えも持っておく。これくらいかの」
「おおよそ輝夜殿が言われる通り、皆の意見は同じ方向を向いているようだな」
 渡瀬は開拓者たちの意見を聞きながら、さらに他の意見を聞き出す。
「俺は南砦の指揮に当たる」
 滝月玲(ia1409)は言って、自身の思うところを述べた。
「南北の兵で挟み撃ちにし敵本隊を中央部隊が迎撃。これは基本作戦になると思う。ただ、もし各砦を総力で倒し進もうとするなら直ぐに敵背後を突き攻撃することが必要になってくるだろう。南軍は迎撃後半数を南砦へ待機させ回復、有事の際の篭城や逃亡、紫雲妃足止めに備えようと思う。残りは北軍と合流し紫雲妃軍本隊討伐へ向うとします」
「滝月殿がそう言われるなら南はお任せしましょう。では‥‥中央の陣はわしが指揮を取りましょうかな」
 異論は出なかった。中央の陣は渡瀬が指揮を取る。
 設楽万理(ia5443)は、卓上の地図に目を落としながら思案顔で口を開く。
「二度目の鳳華参戦だけど相変わらず戦闘の激しい地域ね。これでは民も兵も疲弊していくばかりだからできる限り協力しないとね」
 それから双方の布陣に目を向ける。
「これは敵の動きによってこちらの動きが難しくなるわね。とりあえず目の前の紫雲妃の軍に集中しないとね」
 万理も挟撃作戦には異を唱えることは無かった。
 難波江紅葉(ia6029)はこれから戦が始まろうかと言う時に酒を飲んでいた。皆の話を聞きながら、ほろ酔い気分で杯を掲げる。
「この酒がいつでも呑めるような、そんな世の中にしたいからねぇ私は。そのためならどんなものにだって立ち向かうさね」
「紅葉殿、それは酒か」
 渡瀬は呆れたように紅葉を見やる。
「この世は愉悦快楽。こんな厳しい戦いにあっても、酒は私の心を癒してくれるさね」
「巫女が酔っていては戦いにならん」
「大丈夫さね。酒にのまれることなんてないさね」
 紅葉は言って、からからと笑った。
「大丈夫だと信じよう‥‥」
 渡瀬は開拓者の性分を良く知る。快楽思考と言ってもやる時はやる連中だと。渡瀬自身、その昔開拓者であったから。

 青草丘陵に向かったフェルル=グライフ(ia4572)と白蛇(ia5337)、柊かなた(ia7338)は、こちらの兵を預かる花椿薫と会う。
「二度大きな合戦を体験しましたが、ここもアヤカシの攻撃が激しいですね‥‥微力ではありますが、私の力が助けになれば」
 グライフは仲間たちから今までの状況を聞き、武天の地を見渡し素直に驚いて、アヤカシ退治の思いを強くしていた。
「良く来たわね開拓者たち。白蛇と柊は初見だが家臣と聞いたわ」
 花椿は明朗快活な口調で言って、白い歯を見せる。まだあどけなさが残る顔立ちだが、美しい娘である。
 白蛇は花椿に意見を述べる。
「確かに敵の戦力は無尽蔵‥‥倒しても切りが無いのかも知れない‥‥けど‥‥僕達は‥‥色々な経験を積んで力を高められる‥‥それが生死を大切にする僕達の‥‥強さ‥‥この強さを信じて‥‥進もう‥‥」
 花椿は苦笑しつつ肩をすくめる。
「そうね。白蛇の言うように、信じて進みましょう」
「花椿‥‥部隊は‥‥2つに別けるね‥‥」
「‥‥聞きましょうか」
「壱班は火力重視‥‥弐班は速度重視‥‥人数は各職を均等に別ける形‥‥僕は‥‥早駆の機動力を駆使して‥‥弐班の指揮を取るよ‥‥」
「そう‥‥なら、私は壱班の指揮を取りましょうか」
 花椿は柊に目を向けた。
「異存はありません。基本的に全体の指揮はお任せしましょう」
 柊は言ってから、一つ提案する。
「味方の弓術師は半数づつ、交互に攻撃をして頂き、弓の弱点である攻撃間隔を埋めて頂きます。その分一度の攻撃量は劣りますので、状況に応じて即射を使用して頂き、量の問題を補って頂きましょうか。味方のサムライには適時咆哮を使用して頂き、敵の引き付けをお願いします」
「分かったわ。ともあれ、あなたにも指揮の一端を任せましょう」
「兵には適時指揮を取らせてもらいます。あと、グライフさんが家臣ではありませんので、彼女が兵を必要とする時には兵たちに協力してもらいます」
「いいわ。その旨はあなたから兵に伝えて下さい」
「ありがとう」
 ‥‥柊はお礼を言いながら、内心に呟く。
 先日、興王丸を倒したばかりだというのに、もう新しい指揮官が。いったい奴等はどこから沸いて出てくるのだろうか。真にもって忌々しい連中だ。だが奴等のおかげで金にあり付ける、か。‥‥馬鹿馬鹿しい。私は私の役目を果たすだけだ。

 それから開拓者たちは龍に乗ってアヤカシ軍の動きを探る。カズラ、龍牙、幻斗らは上空から戦場を見渡す。
 上空から俯瞰すると、厳原の東に展開する紫雲妃のアヤカシ軍は中央の砦に向かって先端を向けており、青草の鬼集団は北へ向かって鋭鋒を向けていた。
「間もなくね‥‥紫雲妃は中央の陣に向かって前進してくる、か。一気に突破を図るつもりかしら」
「各個撃破に来るかと思いましたが正攻法ですね」
「青草の鬼のことも含めて、拙者は引き続き警戒に当たるとしましょう」
「よろしくお願い。では戻りましょう龍牙さん」
 紫雲妃は間もなく厳原の中央の陣に激突しようとしていた。そして、青草の鬼たちは北へ向かって前進している‥‥。

「紫雲妃が来るわ」
 カズラは龍から降り立つと、渡瀬や仲間たちに告げる。
「紫雲妃はここに来るのか」
「そのようね。全軍で正面から来るわよ」
「みすみす中央に飛び込んでくるとは‥‥ならば、ここであのアヤカシの首、もらい受けましょう」
 伝令のシノビが飛んでくる。
「敵アヤカシ軍、接近してきます」
「こちらには私の他に弓術師がいないから弾幕は張れない。となると狙撃の方がよいか‥‥」
 そして、ばらばらと敵の先端が姿を見せる。アヤカシ兵士は咆哮して、龍安軍に突撃してくる。
「予定通り敵の前進を受け流しつつ後退!」
 渡瀬が号令を下すと、龍安軍は一糸乱れぬ動きで、後退していく。
 突進してくるアヤカシ兵士の攻撃を受け止めると、首を貴政は吹き飛ばした。
 カズラは後退しながら焙烙玉を投げ込んだ。
 輝夜はアヤカシ軍の先端に立ちふさがると、無双の槍捌きで回転切り、アヤカシ兵士を薙ぎ払った。
 万理は狙い澄まして矢を放った。

 ――北砦。
 龍牙は兵士たちに紫雲妃軍の側面から背後に回るように命令する。
「紫雲妃たちは、中央の陣に攻め込む。そうなれば戦場は中央の湿地帯になる。数名を砦の護衛として残し、あとは南砦と協力して、挟撃を仕掛ける。ただ、前回と同じ過ちを踏むとは思えないので動向には十分注意してくれ!」
 北砦を発った龍安軍は、アヤカシ軍の背後を突く。

 ――南砦。
 滝月は兵士たちに総攻撃の合図を出す。
「紫雲妃は中央の陣に突進した。全軍を以てだ。こちらもいったんは全軍を上げて打って出る。紫雲妃の足を止めるぞ。アヤカシ軍の側面を突く!」
 南砦を発った龍安軍、アヤカシ軍の側面に突進する。

 紫雲妃は兵力で圧倒して正面の龍安軍を踏み潰すつもりであった。龍安軍が後退していることを確認して、その狙いが包囲攻撃にあることは見抜いたが、南の青草から支援が届くであろうと言うこと、それから総兵力では互角であることを鑑み、そのまま兵を前進させた。

「北砦と南砦から援軍が来ました!」
「よし! 反転攻勢! 敵を包囲殲滅する! 全軍反転攻勢!」
 渡瀬の号令とともに、龍安軍は本格的な攻勢に転じる。
 およそ緻密な策略とは無縁のアヤカシ兵は、前進を続けるが、龍安軍の分厚い壁に阻まれ、三方向から各個撃破されることになる。
 その混戦の中で敵陣を突破し、紫雲妃を求めて合流を果たした貴政、カズラ、龍牙、輝夜、滝月、万理、紅葉らは、そのアヤカシ首領と相対する。
 美しい女拳士のアヤカシは、余裕の笑みで開拓者たちと相対した。
「開拓者ですか‥‥どこまでも私の邪魔をする。この辺りで決着をつけましょうか」
 紫雲妃は崩れ落ちていく軍勢を見やりながら、なお笑っていた。
「3度目の正直って言うでしょ? 散り際を弁えるのも良い女の条件よ紫雲妃」
 カズラはそう言うと、超威力の呪縛符を放った。触手の式がまとわりつき、紫雲妃の行動を抑制する。
「ほらほら? 縛られたなら『らめぇ』って言って悶えなさい『らめぇ』って」
「‥‥この程度の術で」
 紫雲妃は忌々しげに式を握り潰し、疾風のように襲い掛かってきた。
 貴政がその一撃を受け止めた。紫雲妃の鋼をも打ち抜く拳が貴政の肉体にめり込んだ。
「ここで‥‥終わりにしませんか!」
 貴政は刀を叩き込んだ。紫雲妃を直撃する。
「往生際が悪いぞ! 観念して瘴気に戻れ! 『焔龍』の名の元に」
 龍牙は炎魂縛武を叩き込んだ。燃え盛る炎の刃が紫雲妃を貫く。
「今回も逃げる気かの‥‥紫雲妃」
 輝夜は淡々と長槍を突き出して、紫雲妃を貫いた。
「未練や悪念は年を越させちゃあならねぇっていうだろ、今日こそはってヤツだ覚悟しな」
 滝月は炎魂縛武を撃ち込む。紫雲妃の肉体が凄絶に切り裂かれる。
 万理は後方から弓で支援攻撃を行う。矢は確実に紫雲妃を貫通した。
「さあ、逃がさないわよ。『らめぇ』って悶えなさい」
 カズラは呪縛符を連発する。
 自慢の速さが落ちた紫雲妃は、それでも尋常ならざる速さで開拓者たちと打ち合った。高速で走る拳と蹴りは凄まじい破壊力で、紅葉は回復に追われた。実際戦闘は地道な打ち合いで、数で勝る開拓者が何とか紫雲妃に攻撃をヒットさせていく。
「この私を‥‥追いつめるとは‥‥」
 やがて紫雲妃は飛び上がって逃走を試みる。
 だが万里の矢が貫通し、紫雲妃を叩き落とした。そこへ輝夜が、滝月、龍牙、貴政らが一斉に打ち掛かった。
「おおおおお‥‥お‥‥の‥‥れ」
 紫雲妃は遂に崩れ落ちると、ぼろぼろの黒い塊となって、最後に瘴気に還元して消失した。

 ――青草丘陵でも、鬼アヤカシの集団と龍安軍が激突していた。
「私たちに背中を見せて、ただで済むとは思わないで下さい!」
 グライフは大仰に長巻を一閃して、咆哮を解き放った。さらに龍安軍のサムライたちの咆哮連発で、鬼アヤカシの群れが殺到してくる。
 グライフは鬼アヤカシの真っただ中に飛び込み、龍安兵と協力しつつ敵を粉砕していく。次々と瘴気に還元していく鬼の群れ。
 火力重視の一班は、花椿の指揮のもと、果敢に鬼に打ち掛かっていく。
「一気怒涛に決める! 鬼どもを生かして帰すな!」
 花椿は先頭に立って兵を鼓舞する。
「撃て――! 撃って撃ちまくれ!」
 柊は弓術士たちに指示を出しながら、自らもスキル全開で矢を撃った。

「‥‥紫雲妃は死んでも構わんが、カラス様の命令は果たさんとなあ」
 蒼鬼は一隊を率いて北を目指すが、そこへ白蛇率いる二班が襲いかかってきた。
「敵を止めるよ‥‥何としても‥‥」
 白蛇は先陣切って早駆で追い付き、敵の側面に突進する。サムライたちも遅れて突撃する。
「白蛇様に続け!」
 盾を装備したサムライ達の咆哮で敵の分散を防ぎつつ、弓兵達や陰陽師達が敵を仕留めて行く。

 ――と、蒼鬼のもとへアヤカシ兵士が紫雲妃の死を知らせに来る。
 蒼鬼は不敵な笑みを浮かべる。
「そうか、紫雲妃が死んだか。龍安軍に感謝しよう。あいつが死ねば、俺の勢力は増す」
 そして、蒼鬼は雄たけびを上げると、鬼アヤカシとともに戦場から退いて行った。

 かくして龍安軍は勝った。
 これが一時の勝利だとしても、兵士たちは勝利を祝った。
 戦いが終わって、柊は弟が待つ天承に戻る。この日も武天では一般的な鹿肉の燻製塊を買って帰った。
 これが戦いの顛末である。