【天龍】鳳華の戦い13
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/01/09 22:11



■オープニング本文

 天儀本島、武天国。龍安家の治める土地、鳳華――。
 首都の天承で龍安家から依頼の詳細を聞いた開拓者たちは、鳳華の北方にある戦闘地域に向かう。夕凪高地と言う森林地帯である。高地には砦が幾つか築かれており、東から侵入してくるアヤカシに対していた。西へ抜けていけば村や集落が点在する人界とアヤカシ軍との境界線でもあった。
 高地はおよそ300メートル四方程度で、ほとんど森に覆われている。東はアヤカシ軍の陣として切り開かれていた。
 西端に龍安軍主力の夕凪砦、高地のほぼ真ん中のラインに沿って北、中央部、南にもそれぞれ砦が築かれている。夕凪砦は頑丈な石造りで、少々のアヤカシの攻撃に耐えうる防備を持っていた。北と中央、南の砦は、頑丈ではあるが木製の丸太作りであった。
 先の戦いで翠天と王虎率いるアヤカシ軍を撃退した開拓者と龍安軍であった。夕凪砦に入った開拓者たちは、兵を預かる女サムライ、シャーリィ・如月と会う。
「よく来てくれた。先の戦では開拓者に世話になった。全くアヤカシには年の瀬も関係ないな」
 それからシャーリィは、戦況について語り出した。
 アヤカシ軍は再び戦力の補てんを図り、翠天を大将に高地に進軍を開始する。その数およそ100。グロテスクな人型のアヤカシ兵士が中心である。東方に展開して、三つの砦に攻撃態勢を整えている。そして厄介な存在がある。
「腕のアヤカシだ」
「腕?」
 何と、巨大な腕の形をしたアヤカシがそれぞれの砦方面に配置されており、先の戦いで苦戦を強いられた爆弾アヤカシを投げ込んで来ると言う。爆弾アヤカシは直径一メートルほどの岩石アヤカシである。それを腕アヤカシは投石機のように投擲してくると言う。すでに砦の前方に再建していた防御壁が、爆弾アヤカシの投擲攻撃で吹き飛ばされていた。前線は爆弾アヤカシが降ってくる厄介な状況になっていた。
「東の砦三つは正直厳しい。それから、気がかりなのが、北の坂松の森にアヤカシ軍が進入し始めたことだ。どうやら王虎が別動隊を率いて、長駆迂回してこの夕凪砦を狙っているらしい。あるいはそうと見せかけて、正面の翠天が突破を図るつもりなのか‥‥」
「北の坂松の森のアヤカシ勢の数は?」
「同じく100。とてもではないが私たちだけでは対処できんからな。後方に援軍を頼んだ」
 北の王虎と東の翠天、敵の挟撃に対して、シャーリィは増援を決断する。退くわけにはいかないのだ。

 ――アヤカシ軍陣中。
 一つ目のカラスが、緑色の戦装束をまとった翠天の傍らにいた。
「あなた様の言われるとおりに北から王虎を差し向けましたが、龍安軍は増援を以て応じるようです」
 翠天は、カラスアヤカシにそう言って、腕組みしながら前方の砦を見据えていた。
「いずれ、この地も落ちる日が来るであろう。龍安軍は無限の軍隊ではないのだからな。それに‥‥」
 一つ目カラスは、不気味な沈黙を保つ。

 ――北の坂松の森。
 夕凪高地の北に隣接する400メートル四方程度の森は、いまだ龍安軍も斥候を放っている程度であった。アヤカシ軍が踏み込むのはこれが初めてである。
 重戦士の王虎は、アヤカシ兵士を率いて、南の夕凪砦を狙う好機を窺っていた。砦を落とし、敵将の首を上げれば、あるいは翠天を抜いて上に立つことが出来るかもしれない。前回の翠天の失策は、王虎にとっても好機と映っていた。カラス様の前で功績を立てれば、一軍の将も夢ではない‥‥。王虎は不敵な笑みを浮かべる。

 その坂松の森に、西方から龍安軍の増援部隊が入ってくる。若い精悍な顔つきの青年が一軍の将を務めていた。青年の名を片桐・グレイと言った。
「まーったく、アヤカシも慌ただしいねえ。休むってことを知らんのかねえ。ま、シャーリィには貸しが出来たなあ」
 グレイは言って、兵士たちに陣を築くように命じる。長引かせるつもりはないが。
 そうして、夕凪高地の戦いは、戦火を拡大して再開されようとしていた。


■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
北条氏祗(ia0573
27歳・男・志
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
神無月 渚(ia3020
16歳・女・サ
魁(ia6129
20歳・男・弓
雲母(ia6295
20歳・女・陰
橋澄 朱鷺子(ia6844
23歳・女・弓
鷹王(ia8885
27歳・男・シ


■リプレイ本文

「いったい、アヤカシの総合戦力ってどのくらいなんやろか」
 夕凪高地の陣で言ったのは華御院鬨(ia0351)。鬨はアヤカシ軍の無尽蔵の戦力に呆れていた。
 シャーリィは真面目な顔で答える。
「知っているとは思うが、魔の森で生まれるアヤカシは無限。瘴気が尽きることがない限り奴らは幾らでも兵力を回復してくるだろう」
「‥‥ということは、東の大樹海とやらが無くならない限り鳳華のアヤカシは永遠に湧いてくるということどすか」
「そういうことだ」
 鬨は試みに東の大樹海の広さを聞いてみた。
「さてな‥‥東の魔の森は兎に角甚大な広さだ。恐らく遠い昔には里があったのだろうが、一体幾つの里を飲み込んだかは私も知らん。馬鹿でかい森なのだ」
 鬨は眉をひそめた。とんでもない大きさであるようだが、それにしても天儀本島全体から見れば「点」に過ぎないものではあるが。
「シャーリィ殿」
 北条氏祗(ia0573)は一歩前に出た。威風堂々たる風格の持ち主だ。
「拙者たちの策を聞いてもらえるだろうか」
「もちろん。提案は聞こう」
 シャーリィは口許を緩めると、ブロンドを軽く掻き上げた。
「開拓者は夕凪高地、坂松の森に7対3の割合で分かれることにする。夕凪の動きだが、一つに予め中央の三砦に龍安ののぼり旗を立てておくことを提案する。敵アヤカシの注意を砦に引くためだ。当然砦には誰も配置しないものとする」
「ふむ」
「二つに、戦闘開始直後、夕凪砦にサムライ10、弓術士5を残し、三砦より全軍で走って翠天軍に討って出ることを提案いたす」
「ふうむ‥‥ぎりぎりのラインですね。開拓者を合計すれば何とか夕凪砦の防備はそれでもいいだろう」
「三つに、夕凪高地制圧後、坂松の森の味方陣地まで龍で移動。王虎軍が退却しなければ、全軍で殲滅に掛かる」
「三つ目は理想だな。翠天を相手にするだけでこちらも消耗するやも知れん。その時は無理は出来んぞ」
「それは本より承知。翠天軍をあわよく撃退することが出来ればの話にござる」
「まあ戦場が拡大した以上何が起こるか分からん。敵軍を各個撃破出来ればそれに越したことはない。何れにしろ我々に退く道はないからな」
 玲璃(ia1114)は龍安軍の巫女たちに呼び掛けて、前方のアヤカシを瘴策結界で探ってみると提案した。
「玲璃様、それは無謀というものです‥‥!」
 巫女たちは龍安家家臣の玲璃の提案とあって冷や汗をかく。瘴策結界の射程距離はこのような集団戦で敵に接近するには短かすぎる。
「あのような敵勢の大軍に私たちだけで近づくのは危険が過ぎるというものです。他に何か方法を考えませんか」
「そうですね‥‥では、やはり私たちは神楽舞や神風恩寵での支援に専念することにしましょうか」
 玲璃の言葉に巫女たちは安堵の息を漏らす。
「やはり私たちは後方支援が第一だと思うのですよ」
 巫女たちの言葉に、玲璃は肩をすくめる。
 そこでシャーリィが玲璃に言葉をかけた。
「玲璃、確か先の戦で弘秀様からお前を家臣に取り立てる旨、言われなかったか?」
「いえ‥‥弘秀様からは何もありませんでしたので」
「おかしいな。確かに弘秀様には推薦状を送ったはずだが。手違いかな」
「多分そうでしょう」
 玲璃はそう言って、また肩をすくめた。
「いよ! 久しぶりー!」
 赤毛のサムライ少年ルオウ(ia2445)は、いつものように元気いっぱいに声を張り上げた。
「ルオウ、久しいな。またともに剣を取ることが出来ることを嬉しく思う。これも神の思し召しか」
 シャーリィが言うのを、ルオウはにかっと笑った。
「何だ、神の思し召し? まあそんなこともあるかもしんないけど、そんなことより玲璃さんの偵察が駄目だって? 堅いこと言うなよー」
「いや、実際巫女だけで近づくのは危険だぞ? 偵察ならシノビにやらせた方がいいだろう」
「まあいいや。とっとと腕アヤカシとやらをぶちのめそうぜ! 近づいてしまえば何も出来ねえだろ?」
「そうだな、準備はすぐに整えるので今少し気分を落ちつけておけ」
 ルオウは刀を取り出してぶんぶんと振り回した。
「俺はいつでも準備万端だぜ! 少しシノビと一緒に敵の様子でも見てくっかな」
 ルオウはそう言うと、猛ダッシュで東の翠天軍の方へだーっと走って行った。
 ‥‥いやはや。新年早々斬られに来るなんてご苦労だねぇ。それじゃ、期待に沿えるようやりますかぁ。神無月渚(ia3020)は胸の内に呟くと、一見物静かな娘を装った。元辻斬りの渚は、常に血が騒いでいる。
「渚、お前も先の戦で家臣に取り立てられたと聞く。奮戦に期待しているぞ」
「あ、任せて下さいよ。私はもうそれは頑張りますから」
 シャーリィは記憶が良いらしく、渚が家臣であることを覚えていた。
「兵を任せたいと思うが、大丈夫か」
「大丈夫じゃないです」
「ふむ?」
「いえ‥‥指揮なんてしたことありませんから」
 シャーリィは渚が遠慮していると思って、かすかに微笑んだ。実はそんなことはないのだが。
「まあこれも何かの経験になるだろう。兵を数名つけるから、戦場で敵の足を止めてみろ」
「‥‥えーっと、じゃあやってみます」
 渚はぺこりとお辞儀した。
 雲母(ia6295)は煙管を吹かしながら、シャーリィに戦場の全体図、どのような状況か、またアヤカシに対しての情報を聞く。
 シャーリィは戦場の地図を持ってこさせると、卓上に広げた。
「アヤカシ軍はすでに前方の壁を破壊した。いつでも砦に対して攻撃を仕掛ける構えだ。腕アヤカシが射程内に入れば、投擲はすぐにでも始まるだろう。翠天軍は不気味なまでの沈黙を保っているが、敵の本隊と見ている。今のところ攻撃態勢を取ったまま動く気配がない。こちらを誘いだすつもりなのかも知れんな」
「ふーん‥‥アヤカシの方はどうなんだ」
「アヤカシ兵士は大人くらいの大きさ。漆黒のグロテスクな外見で武装している。中に中隊指揮官クラスがいて翠天の命令を伝えているようだな。意外に知能が立つのがこのアヤカシ兵士の特徴だ。見たところ兵士は一応一通りの武器を使いこなすようだな。腕アヤカシは見るも不気味な外見だが、集団戦では厄介な相手だ。爆弾アヤカシを投げ込むなど拠点攻撃にはあのアヤカシは威力を発揮する。個体の生命力は意外にあるのが難点だが」
「ふん、アヤカシのくせに生意気な。私の覇道の邪魔になるなら踏み潰すまでだが」
 雲母は煙を吐き出しながら、目に殺気を宿らせた。
 シノビの鷹王(ia8885)は偵察を終えて戻ってくる。
「いやいや、あの大軍見たらさすがに怖くなったけど。敵の正面に腕アヤカシが並んでいて、岩石アヤカシが周りに転がっているね。アヤカシ兵士は自分の陣を見回りながら、腕アヤカシに何か指示を出している感じだね。翠天とやらは確認できたよ? アヤカシ兵士たちに対して明らかに威圧を放っていたからね」
「御苦労。まだアヤカシに前進してくる気配はないか?」
「うーん、ない感じやねえ。ボクが見た時には、まだ東の方で散開していて、確かに攻撃態勢には入っている感じだけど」
「そうか‥‥では、腕アヤカシが前進してくる前に奴らの先端を挫くか。鷹王、砦の各所に回って、間もなく攻撃開始の旨を伝えておいてくれ。そのまま伝令など遊撃の位置についてもらえると有り難い」
「分かりましたよ〜」
 鷹王は一礼すると、飛ぶようにまた前線に駆けて行った。
「では、我々もそろそろ本格的に攻撃に移るとするか。北のグレイにも知らせておかねばな」
 シャーリィは言って、東の空を見つめた。

 ――北の坂松の森。
「あの、グレイさん」
 鈴梅雛(ia0116)は、深い森の中に陣を築いたグレイに、おずおずと提案する。グレイは屈託のない笑みを浮かべると鈴梅を見下ろした。
「何だ鈴梅」
「陣をもう少し南東に移動させることはできないでしょうか? 王虎も、挟撃を恐れて無闇に砦に突撃することはないと思いますが、万が一ということもありますので」
「ああ、そうだな。こいつは俺が迂闊だった。王虎の突進を考慮する必要があるよな」
 グレイはそう言うと即断して、兵たちに南東へ移動するように告げる。
「森の中がどうなっているか分かりません。注意して進みましょう」
 龍安軍は、見通しの悪い森を木立や茂みを切り飛ばしながら移動する。
「龍安家家臣の魁(ia6129)だが‥‥弓術士を借りることは出来るだろうか」
 魁は言って、グレイに尋ねた。
「ああ、構わないぜ。何なら指揮を取るか? 俺も一人じゃカバーし切れんかも知れんしな」
「それは有り難い。ではそのようにさせてもらう」
 そこで、魁は橋澄朱鷺子(ia6844)に呼び掛ける。
「と言うことで、弓術士を預かることになった。橋澄、あんたもこっちに入らないか」
「構いませんよ。個別には王虎を狙ってみたい気持ちもありますけどね」
「それは楽しみににとっておこうじゃないか」
 魁は、言ってにやりと笑った。
 それから魁は陣地を後にすると、橋澄とともに王虎軍の方へシノビを伴って前進する。
「あれに見えるが王虎の軍勢です」
 シノビが指差す先に、アヤカシ兵士の集団が見える。
「よし‥‥」
 魁は、橋澄と相談しながらアヤカシを迎撃する地点をいくつか決め、森に身を隠しやすい狙撃地点を三つほど選択し見えにくくカモフラージュしておく。さらにその三つのポイント共に撤退ルートを決めておき、その撤退ルートそれぞれに次の待ち伏せポイントを作っておいた。
「これで準備は完了だな。あとはグレイのお手並み拝見といこう」

 ‥‥そうして、戦闘は龍安軍の攻撃で粛々と幕を開けた。
 夕凪の龍安軍は砦に兵を残して翠天のアヤカシ軍に殺到した。
 まず目の前に飛び込んできた腕アヤカシと岩石アヤカシの群れに打ち掛かる。
 腕アヤカシはぎろりと眼を剥くと、くわっと口を開いて威嚇の咆哮を上げた。
「何ともけったいなアヤカシどすなあ」
 鬨はスキル全開で腕アヤカシに切り掛かった。大きな丸太ほどもある腕が凄絶に切り裂かれる。腕アヤカシは咆哮を上げて、殴りかかってくる。横踏でかわすと、鬨は愛刀の脇差を叩き込んだ。
 ズバアアアアア! と腕アヤカシは真っ二つに切り裂かれて崩れ落ちた。
 ルオウも咆哮で腕アヤカシを引き付けると、刀を撃ち込んだ。サムライの豪剣が腕アヤカシを粉砕する。
「とっととくっついちまえば撃てなくなるんだろお!」
 腕アヤカシは集中攻撃を浴びて崩れ落ちていく。
 ――と、鷹王がシャーリィのもとへ駆けてくる。
「東の翠天軍、突進してきます」
「来るか‥‥北の王虎の動きは」
「グレイ殿が足止めしている様子です。交戦に入ったと知らせがきてやすなあ」
「では、腕アヤカシとこの岩石を早く潰してしまおう」
 シャーリィは目の前の岩石を真っ二つに切り裂いた。
 北条、渚も次々と岩石を潰していく。龍安兵は腕アヤカシと岩石アヤカシを数で圧倒して葬り去っていく。
 シャーリィは残りを部下に命じて掃討させると、翠天に向かう。
 鬨もこちらの掃討に残ることにする。
「アヤカシ兵の突進に備えろ!」
 龍安軍は戦列を整えると、翠天軍に向かって前進する。
 やがて、アヤカシ兵士が雄たけびを上げて突進してくる。殺到してくるアヤカシ兵士。
「翠天は‥‥!」
 北条はアヤカシ兵士を叩き斬りながら、前進した。
 渚も最前線にあって、兵とともにアヤカシを切って斬って斬りまくった。
 玲璃は巫女たちを統率すると、戦の激しいところへ神楽舞や神風恩寵で支援を行う。
「私の邪魔をするなよ」
 雲母は弓を解き放って、アヤカシ兵士を撃ち貫いていた。
 やがて、最前線に緑色の戦装束に身を包んだ翠天が出現する。太刀で龍安兵を吹き飛ばしながらずかずかと前進してくる。
「翠天と見受けた。拙者の刀の錆にしてくれよう」
 北条は二天と弐連撃を撃ち込んだが、翠天は北条の剛腕を跳ね返した。
「――にっ!?」
「人間にしてはやる。私にこれほどの衝撃を」
 翠天の反撃を北条はまともに受けて後退する。
 そこへ雲母のスキル全開の矢が翠天の肉体を貫通する。
「翠天! 今日という今日は覚悟しやがれ!」
「ぬっ」
 ルオウの突進を翠天はまともに受けた。翠天を切り裂くルオウの刃。
「ふん、まだまだ。我が軍勢の力はほんの一端に過ぎん」
 翠天はルオウを太刀で叩きのめした。それから北条とルオウに痛打を与えると、自身も多少の打撃を受けて翠天は後退する。
 翠天との遭遇はこれのみ。龍安軍は残るアヤカシ兵士と激闘に突入。
 アヤカシ兵の勢いは凄まじく、龍安軍は押されに押されて何度か後退しながら態勢を立て直し、何とか敵軍を撤退させることに成功するのだった。

 ――坂松の森。
 王虎の軍勢は南下していたが、グレイ率いる龍安兵がその側面から突入する。
「夕凪の方は無事でしょうか‥‥」
 雛のもとへ、鷹王が姿を見せた。
「雛君、夕凪の方は紛れもなく激戦ですわ。翠天が少し出てきたみたいやけど、アヤカシ兵と正面からぶつかる形になってしもうて」
「そうですか。なおのこと、王虎を夕凪に行かせるわけにはいきませんね」
 雛は鷹王に礼を言うと、龍安兵にありったけの声を出して味方を鼓舞する。
「ああ! 小さな家臣殿! お任せあれ! 王虎は必ず仕留めて見せまする!」
 兵士のサムライは、雛にお辞儀すると、戦場に突進していく。
「工夫次第では、こういうことも出来るんですよ」
 橋澄がバーストアローを放てば、魁ら弓術士たちは一斉射撃を開始、即射で矢の嵐を四十発撃ち込んだ。
 アヤカシ兵士は苦痛の声を上げて立ち向かってくる。
 グレイの指揮は徹底していて、龍安軍は無理に前進せずに後退しつつ、アヤカシ兵士を各個撃破していく。
 橋澄や魁たちは狙撃ポイントを移動しながら予定通り後退した。
『こざかしい奴がいるわ! 全軍突撃! 突撃せよ! 一匹残らず殺せ!』
 最前線に出て来た重武装の王虎は部下を怒鳴りつけると、天に向かって咆哮した。
「王虎はとても強いです。気をつけて下さい」
 雛はグレイに忠告する。
「ああ、そのようだな。あの咆哮、鳥肌が立ったぜ」
 弓術士たちは狙いを王虎に切り替えると、集中攻撃を浴びせる。
 橋澄もスキル全開で矢を番えた。
「あれが王虎ですか。私の弓がどの程度通用するのか‥‥これでどうですかっ」
 解き放たれた矢は空を切り裂き、うなりを上げて王虎の重装甲を貫通する。
 だが、王虎は小揺るぎもせずに、体中に突き刺さった矢を振り払った。
「人間ども! 来い! 皆殺しにしてくれよう!」
「雛、サポートを頼んだぜ。あのアヤカシの指揮官には一斉攻撃をかけるぞ!」
 グレイを先頭に、王虎に打ち掛かっていく龍安兵。一撃の重さでは王虎に負けるが、どうにかこうにか連打を浴びせた。
 さすがの王虎が重装甲を破壊されて、罵声を上げて撤退する。
 一瞬アヤカシ軍は龍安軍を突き破るかに見えたが、王虎が後退したことで坂松の森の勢いは何とか封じる。
 これが激戦の幕切れであった。