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■オープニング本文 天儀本島、武天国。龍安家の治める土地、鳳華――。 南方の戦闘地域、公山楼――ここはかつて幾つかの村があった場所であった。過去形で語られているのは、すでに村はなく、アヤカシとの戦いで荒廃した戦場であるから。西へ抜ければ村や集落が点在する人界とアヤカシ軍との境界線でもあるのだった。 公山楼は 500メートル四方程度で、至るところに家屋の残骸が放置されており、それらはシノビが偵察に出たりする際には遮蔽物に使われることもしばしばである。 先の戦いでアヤカシ軍を破った龍安軍は、公山楼の中央から西方に掛けて展開しており、東方に撤退したアヤカシ軍に警戒態勢を取っていた。先の戦いでは、東方から敵の増援が近付いていたのだ。 ――公山楼の上空をカラスが飛んでいた。そのカラスは一つ目で、正体はアヤカシであった。龍安軍の陣を上空から偵察したカラスアヤカシは、公山楼の東方に待機しているアヤカシの陣に舞い降りる。 そこに三体の人型アヤカシがいた。屈強な大偉丈夫の姿をした人型アヤカシである。名を破厳、右厳、左厳と言った。破厳がリーダーで、アヤカシの総大将、であるはずだった。 そこへカラスアヤカシが舞い降りる。するとどうであろうか。破厳も右厳も左厳も、首を垂れて膝まずいた。 「闇帝羅様――」 カラスアヤカシを闇帝羅と呼んだ。闇帝羅は首をかしげた。 「龍安軍の守りは堅い。先の戦では見事に各個撃破されたようだな」 「申し訳ありません。龍安軍の動き、予想以上に速く‥‥」 「構わん、正面から攻撃を続けよ。北の平応楼より牙馬王を回す。龍安軍より増援が出るやもしれぬが今度は小細工なしで敵を討つ」 「牙馬王を? ですが‥‥奴は最前線に立ったことはありません」 「ふふ‥‥牙馬王に先を越されるのが不安か。案ずるな。あ奴には力を押さえておくように言っておく」 闇帝羅はそう言うと、飛び去った。 ――隣接する北の平応楼は公山楼と同じくかつて村などがあった地域で、今は人間もアヤカシもいなかった。打ち捨てられた住居の跡地である。こちらも500メートル四方程度の広さがあった。 そこへ、「馬」の大群が姿を見せる。実際には馬に似たアヤカシで、人間や生き物を牙で引き裂く残酷な獣アヤカシである。それを統率するのが、炎に包まれた馬のアヤカシ首領、牙馬王であった。 「くくく‥‥森で瘴気を吸うのにも飽きていたところだ。龍安兵ども‥‥我が牙の餌食にしてくれるわ」 牙馬王は咆哮すると、獣アヤカシの群れは戦の雄たけびを上げた。 ――龍安軍陣中。 この戦場を指揮している若いサムライの名を伊野大地と言った。シノビの報告を受けて、軽く頷いた。 東から再び破厳率いるアヤカシ歩兵100余りが前進してくると言う。そして、北の平応楼には、馬に似た獣アヤカシの群れ100余りが前進してきた。 「歩兵と獣の混合か。北と東からこちらを挟撃するつもりだろうが。今度は先のようにはいかん。友軍の支援がいる」 そこへ、部下のサムライがずかずかとやってきた。 「友軍の羽倉直哉様、到着してございます」 「来たか」 しばらくして姿を見せたのは、氷のような印象を与える若者であった。 「‥‥伊野、この年の瀬に援軍要請とは。俺は故郷に帰るところだったのだぞ」 「そうぼやくな羽倉。文句ならアヤカシに言え」 「全くアヤカシは休暇もなしか、ご苦労なことだな‥‥厄介な連中だ全く」 それから伊野と羽倉はアヤカシ軍の迎撃準備を整えていく。東のアヤカシ軍を伊野が担当し、北の平応楼方面の獣アヤカシには羽倉が向かうことになる。 こうして戦闘は始まる。真冬の鳳華に、戦のやむ気配はない――。 |
■参加者一覧
樹邑 鴻(ia0483)
21歳・男・泰
月城 紗夜(ia0740)
18歳・女・陰
玉櫛・静音(ia0872)
20歳・女・陰
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
柳生 右京(ia0970)
25歳・男・サ
一ノ瀬・紅竜(ia1011)
21歳・男・サ
喜屋武(ia2651)
21歳・男・サ
幻斗(ia3320)
16歳・男・志
荒井一徹(ia4274)
21歳・男・サ
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ |
■リプレイ本文 公山楼龍安軍陣中――。 「伊野、確認しておきたいことがある」 樹邑鴻(ia0483)は言って、伊野大地に言う。 「公山楼と平応楼の地形。それに敵味方の布陣と動きだ」 伊野は頷くと、卓上に地図を持ってこさせる。 「公山楼、平応楼ともに、もとは村があったところで、地形の起伏はほとんどない。建物の残骸が残っていて、遮蔽物がたくさんあるのが特徴だな。こちらの防御陣も、それらを利用してい作っている」 伊野は言いながら、地図の上に引かれた防衛ラインを指でなぞる。 「こちらは防御陣を敷いている。まあ遮蔽物を利用して防備を敷いているが、アヤカシが本気で突撃してきたら大して約に立たんだろうがな」 「アヤカシの布陣は?」 「例に漏れず攻撃的な布陣を敷いている。東の敵軍は前面に戦力を展開して、いつでも攻撃に出ることが出来る布陣だ。平応楼の方は獣ゆえか、陣形と呼べるものはないようだが、それでも一応の統制を保っているようだ」 樹邑は話を聞くと、空を見上げた。 「雨が来るかな」 「いや‥‥降るとしたら雪の方かも知れんな」 伊野は言って、空を見る。 「‥‥‥‥」 月城紗夜(ia0740)は胸の内にはかなく呟く。 ‥‥盛者必衰、諸行無常の、理。生存本能、それだけが、動かす本能。 「哀れ、ね―――人間も、アヤカシも、全ては、組み込まれた、摂理」 その中、で、抗う私達、理、知っても、理にはなれない‥‥。 ふと呟いて、龍安兵たちに笑顔を向ける。 「龍が舞う、祝福の翼が、空へ、駆ける。蝶が踊り、紅白の梅が咲く。吉兆よ、この戦い、勝てる、わ‥‥陰陽師の、夢、は、予言、よ」 「夢?」 「そう、夢、よ。言い伝えに、あるでしょう。陰陽師が、見る、夢には、意味があるって」 「‥‥吉兆なのか?」 「そう、よ。信じるに、値するわ。この夢は、神霊の予言だから」 「信じることにしよう。吉兆が幸運を運んでくれることを祈ろう」 サムライは言って、月城に向かって片目をつむって見せた。 「玉櫛の陰陽師、静音と申します。よろしくお願いします。激しい戦いとなりそうですね‥‥」 玉櫛・静音(ia0872)は言って、深々と初対面の伊野にお辞儀する。 「こちらこそよろしく頼む。神楽の開拓者の力、頼りにしていますよ」 「アヤカシの軍勢は全く休むことを知らないようですが、鳳華の兵士たちは良く耐えておられますね」 伊野は頷いた。 「頭首の弘秀様は、戦う前に負ける戦はしないお方です。もちろん、我々だけで戦をしているわけではありません。巨勢王にも間接的に支援を頼んでいるのです」 「なるほど、そう言うことですの」 「ここはアヤカシの攻撃が激しく治安も実際良くありませんが、我々もこの地が平和であることを何より望んでいるのですがね」 「この戦で、少しでもアヤカシの軍勢を潰すことが出来ればよろしいですね‥‥」 ‥‥破厳、右厳、左厳がまた来たのか、懲りないやつらだな。今回は前回の様に逃がす訳にはいかぬ、いずれかは討つ! 『焔龍』の名を語れる戦いをしてな! 焔龍牙(ia0904)は龍で北と東の空を周ってから龍安軍の方へ戻ってくる。 「龍牙殿、どうでしたかアヤカシの様子は」 「まだこちらへ向かって動き出す気配はないな。と言っても、いつでも攻撃できる態勢にはあるが」 「さらに敵が出てくるような気配はありませんか」 伊野の問いに、龍牙は思案顔で顎をつまんだ。 「いや、それはないようだな。敵の背後はがら空きだ。今回俺たちは奇襲をかけるつもりだが、幸いなことに後ろは手薄なようだ。破厳、右厳、左厳のどれかでも討ちとることが出来ればと思う」 「少数の開拓者で奇襲と聞きましたが‥‥」 「俺たちはどうにかしてアヤカシの指揮官を倒すことに専念する。前回は一人で苦戦したし、雑魚は倒したがまんまと逃げられたからな」 そこで巨人的な二メートルを越すサムライが口を開いた。喜屋武(ia2651)だ。 「破厳らと再戦とはな。アヤカシ兵などいくら倒しても沸いてくるのだがこの三体のうち一体でも消せれば今後楽になるはず」 喜屋武は言って、伊野に改めて作戦を伝える。 破厳軍に公山楼龍安軍本隊をぶつけ、その間に奇襲班が龍で後ろに回りこみ指揮官を奇襲する。そこで生まれた混乱に対し再度本体にて破厳軍を攻撃。奇襲班はその隙に撤退する。 「結構決死の作戦だな、これ。奇襲班の方どうかご無事で」 「喜屋武殿は正面から陽動攻撃に当たられるか」 伊野が言うと、喜屋武は巨体を揺らした。 「自分は東の破厳軍の相手を担当します。家臣として伊野さんと共に別行動以外の公山楼龍安軍の兵を率いるつもりです。サムライ衆には片手槍と盾を装備してもらいます」 「詳しく聞いておきましょうか」 伊野が促すと、喜屋武は頷いた。 「破厳軍を土嚢の辺りから弓術士にて矢を射たり、咆哮を使ったり、囮を出したりして挑発的行動を行い敵を引き付けます。敵にはこちらの意図が土嚢への突撃を誘っているのだと思わせたいのです。自分も矢面に立つつもりですがね。アヤカシを挑発して誘ってみるつもりです」 「こちらが挑発すれば乗ってくる可能性は大きいですね」 「奇襲班が行動し、混乱が見られた場合もしくは月城さんの人魂を合図に打って出て逆に突撃します」 喜屋武は思案顔で続ける。 「敵に肉薄したら隊のサムライ衆には咆哮、槍構、十字組受で敵の攻撃を引き付けつつ攻撃。隊伍を組ませファランクスの様に、ですね。その間に弓術師、陰陽師の援護射撃、巫女の回復によって奇襲班の撤退を支援する。奇襲班と合流、もしくは安全を確認したら隊を土嚢の辺りまで下げ防戦に戻ると言ったところですか」 喜屋武は頷いて、自身の言葉をまとめる。 「それで敵が追って攻撃してきたら土嚢を利用し迎撃する。敵が撤退した場合は追撃になるでしょうか。まあこの辺りで、奇襲攻撃が成功していたら言うことはないのですが」 「破厳、右厳、左厳、いずれかでも討っていたら、混乱する敵を追撃出来れば理想ですな」 「よお伊野、よろしく頼まあ!」 荒井一徹(ia4274)は豪快に言ってにかっと笑った。 「敵将の首、何としても上げてやるぜえ」 「そちらはお任せします。敵将の首、上げることが出来れば、アヤカシ軍にとっても少なからず打撃となるでしょうから」 「ああ。任せてくれよ。月城、菊池ぃ! てめえらも一暴れしてやろうぜ! アヤカシどがわんさといやがる。さ! とことんいこうぜ! アヤカシとの大喧嘩によぉ!」 月城は荒井の言葉に小さく笑みをこぼした。 「簡単に失われていい命などありません。少しでもこちらの被害を抑えるため、頑張ります」 シノビの菊池志郎(ia5584)は、笑顔を浮かべて荒井に答えた。 「菊池ぃ頼むぜえ。お前ほどのシノビがいてくれれば、心強い。アヤカシの背後を突くのは難事になるだろうしな」 「皆さんが敵将に向かわれる間、何としても背後は守ります」 菊池はぐっと拳を握りしめる。これといって特徴のない容姿と人畜無害な雰囲気を持つ青年である。今は笑顔を浮かべているが、内心は戦の前の高揚感で感情が揺れていた。それを何とか押し隠すが、手にはじわりと汗が滲んでいた。 「‥‥戦か」 菊池は感情を押し殺すように呟くと、また笑顔を浮かべて会合の輪に顔を向けた。 ――北の平応楼。 羽倉は斥候のシノビからもたらされる報告に思案顔でいた。 「どう思う、柳生殿」 「ふむ‥‥」 柳生右京(ia0970)は金色の瞳で卓上の地図に目を落とした。 「数の上では互角‥‥しかし、守勢である以上、こちらの不利は覆らんな」 右京は羽倉に戦術の提案をした。 前半は弓術師や陰陽師といった遠距離攻撃を中心とし、弓を使用できる者には弓を使わせる。矢の装填中や術の切れ目などを狙われないように龍安兵は二段構えの構成。 十分に獣アヤカシを近づけた所で武器を持ち替えたサムライや志士といった前衛を率いて「咆哮」を使用、アヤカシの機動力を潰す為に乱戦を仕掛ける。 龍安兵には二人一組を厳守させ、確実に一匹ずつ始末させる。 「雑魚の獣アヤカシは龍安兵に任せ、私は牙馬王もしくは小隊長と見られるアヤカシを狙う。どのような戦においても、頭領を潰せば有利になるのは戦場の常だ。迎撃とはいえ、その本質は東が落ち着くまでの時間稼ぎだ。無理な追撃などは仕掛けず、被害を最小限に押し留める事も考える必要があるだろう。羽倉には後衛での指揮を頼みたい。乱戦後は状況が読めなくなる可能性が高いのでな‥‥」 「柳生殿は前に出るか。ならば俺は後衛に回るか」 「兵士は二人で互いに背を庇うべきだ。向こうは機動力がある。隙を見せると一気に間合いを詰められるだろうからな」 幻斗(ia3320)は話を聞きながら拳を握りしめた。 「今回も切迫してますね‥‥敵がこんなに‥‥気合入れて行きます!!」 それは自身への勇気づけでもあった。 公山楼の作戦の流れは羽倉にも伝えた。こちらでは足止めもしくは、東との合流を遅くさせる様時間稼ぎが目的であると言った。 「一応は敵将を倒すつもりですが、現状では倒せる見込みがないので時間稼ぎをメインで行きます。みなさんも決して無理は無さらぬ様‥‥言ってる状況じゃないのですがね」 幻斗は眼帯の位置を直すと、肩をすくめて吐息した。 「ふん、アヤカシも年明け早々ご苦労な事だ。捨て置くわけにもいくまい、一ノ瀬・紅竜(ia1011)、助太刀させてもらう」 周りの龍安兵や仲間に挨拶しつつ、一ノ瀬も前衛に出ると言う。 「‥‥龍安‥‥長くアヤカシと戦い持ちこたえてきたって練度、拝見させてもらうか」 一ノ瀬は言って、北のアヤカシ勢を見やる。 ‥‥そうして、アヤカシ軍の攻撃が始まった。 「敵軍‥‥前進してきます!」 公山楼で前進してきたアヤカシ軍は、龍安軍の陣地に矢を射かけてくる。 「撃て! 人間どもをあぶり出せ!」 破厳は右厳と左厳にも号令を下すと、兵士たちに矢を撃たせた。 「怯むな! こちらも撃ち返せ!」 「サムライ衆! 咆哮を使え!」 龍安軍からも矢が応射され、サムライたちの咆哮がアヤカシ軍の戦列を乱した。 「ならば‥‥構うことはない! 奴らの陣に乗り込むまでだ!」 破厳、右厳、左厳はアヤカシ兵士たちに突撃の合図を下す。 ――オオオオオオオオ! オオオオオオオオ! アヤカシ兵士は怒りの咆哮を上げて、破厳の雄たけびに答えると、猛然と龍安軍の陣地に目がけて突進した。 「こちらも打って出る!」 喜屋武は兵士たちを率いると、重厚なファランクスのような陣を敷いてアヤカシ兵士の突進を受け止めた。 玉櫛は混戦に突入する戦場において、大龍符を解き放った。 「龍よ! 舞え!」 玉櫛が放った巨大な龍の式は、アヤカシ兵士に牙を剥いて襲い掛かり、その戦列を怯ませた。 「勝ちましょう‥‥皆さん無事で帰るために‥‥跳べ、龍よ!」 玉櫛は大龍符を連発し、アヤカシを混乱させる。龍が舞い、牙を剥いてアヤカシに突撃する。 この乱戦に乗じてアヤカシ軍の背後に龍で舞い降りた樹邑、月城、龍牙、荒井、菊池たち。 アヤカシ軍は完全に前に突貫していて、龍安軍の土嚢の前で打って出た喜屋武や伊野たちと激戦の中に合った。 「行くぞ。疾風迅雷、早業で進もう」 樹邑は言って、先頭に立って走り出した。開拓者たちは走った。一気にアヤカシ軍の後方から突進すると、弾丸のように斬り込んだ。 「来なアヤカシ! 俺が! 俺たちが三途まで送ってやるよ!」 荒井はアヤカシ兵士を叩き斬った。 「先手必勝! 『焔龍』だ! 覚悟しろ!」 龍牙もアヤカシ兵士を粉砕する。 乱戦の中を駆け抜ける開拓者たち。中央の陣にいた左厳を発見する。 「奴です! 人型アヤカシ!」 菊池は早駆で突進すると、水遁を左厳に叩き込んだ。 「――!?」 左厳は不意を突かれてよろめく。 開拓者たちは疾風のようにアヤカシ兵士の頭上を踏み台にして左厳に急襲した。 樹邑の一撃を、かわす左厳に、掌から気力全開の気功波が直撃する。 「よけたと思ったろ?」 「貴様らあ!」 龍牙の桔梗突が左厳を切り裂く。 月城の毒虫が左厳を包み込み、黒い蝶の斬撃符が走る。 「黒き蝶、舞い踊れ、無情に、無常に」 「落ちなあ! アヤカシ首領!」 荒井は左厳にグレートソードを叩き込んだ。 左厳は罵り声を上げると、荒井を刀の連打で吹き飛ばした。 「お前は破厳か!」 「何? 俺様は左厳よ!」 「まあいい、今回はお前の首をもらっていく!」 龍牙の炎魂縛武が炸裂。 菊池は仲間たちに近づく周囲のアヤカシ兵士を確実に薙ぎ払っていた。 「さ、お早く!」 「行くぞ左厳!」 龍牙の炎魂縛武が、樹邑の気功波が、荒井の両断剣が、月城の斬撃符が走る。 左厳は耐えて凄まじい反撃を見せるが、遂に崩れ落ちる。 「ぬ‥‥おおおおお‥‥!」 左厳は瘴気に還元したのであった。 「よし! 撤収!」 開拓者たちはそのまま前線に抜けて、喜屋武たちと合流する。 「敵将は?」 「左厳をやった」 「それは何より‥‥が、アヤカシ兵士の攻撃も止むことはありませんな。何とか撃退しませんと」 喜屋武は冷静に言って、目の前のアヤカシ兵士を潰した。 やがて左厳を失ったことを知った破厳は、混乱するアヤカシ軍をまとめて撤退するのだった。 ――平応楼。 「弓隊、陰陽師――二段構えで敵軍を止めろ!」 突進してくるアヤカシを牽制する龍安軍。乱れるアヤカシ軍を十分に引き付け、突撃の号令が下る。 「ここでアヤカシを止める! 掛かれ!」 羽倉は全軍に号令を下す。 馬の姿をした邪悪な獣アヤカシたちは、龍安軍の陣の前で勢いが止まる。 二人一組でアヤカシに当たる龍安兵たち。 前に出た右京は次々と獣たちを斬馬刀で切り裂いていく。 「一ノ瀬・紅竜! 俺の名だ。冥土の土産に覚えておきな!! アヤカシども!」 一ノ瀬も最前にて長槍を振るう。 幻斗は二刀を振るって、流れる刃が閃光となって獣アヤカシを凄絶に切り裂いていく。 「龍安の兵‥‥確かにしぶとい」 牙馬王は開拓者たちと束の間見える。 炎に包まれた牙馬王と相対した右京、幻斗、一ノ瀬。 「くくく‥‥貴様らの戦い、しかと見たぞ」 牙馬王は暴風のように三人に襲い掛かると、開拓者たちを突進で吹き飛ばした。 「こいつ‥‥何て力だ‥‥!」 「確かに‥‥化け物じみた野郎だ」 幻斗と一ノ瀬も肩を切り裂かれて血が噴き出した。 「名を聞いておこうかアヤカシよ」 右京はほこりを払いながら立ち上がると、牙馬王を見据えた。 「俺様は牙馬王。烈牙兵団、炎旋将が一人よ」 そこへ伝令の人面鳥が舞い降りてくる。牙馬王は破厳が撤退したことを聞く。 「くはは‥‥そうか、ならば、この次は公山楼を俺が落とす」 牙馬王はそう言い残すと、獣たちを龍安軍にぶつけて、自身は撤退した。 そして開拓者たちと龍安軍は残る馬アヤカシの猛攻を耐え凌いだが、龍安軍も数名の死者を出したのだった。 |