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■オープニング本文 武天国、龍安家の治める土地、鳳華、東の城塞「成望」にて――。 龍安家の武将にして頭首弘秀の妹、直代神樹は、崩れ落ちた城壁の修復作業を見やりながら、改めて先のアヤカシ首領格「朱神」のけた外れのパワーを思い出していた。朱神はたったの一撃で石造りの城壁を打ち砕いてしまった。 「さすがに、とんでもない怪物ですな。鳳華に名を残したアヤカシだけのことはあります」 神樹の後ろから歩いてやってきたのは、成望の執政を務める武官、緋村天正であった。 「ですが‥‥皆よく耐えてくれましたね。あの大軍と、朱神を退けることが出来たのは、ひとえに皆が力が合わせたからです。あの朱神に手傷を負わせることが出来たのは、僥倖でした」 「しかし‥‥朱神のことです。すぐにでも手勢を引き連れて反撃してくるのでは」 緋村の言葉に神樹は何か言いかけて、視線をついと動かした。そこに斥候に放っていたシノビがいた。 「アヤカシの動きはありましたか」 「神樹様、緋村様、アヤカシ勢に動きがあります。急ぎ戻りましてございます」 シノビの言葉に、神樹と緋村は指揮官のサムライたちを集める。 ‥‥魔の森から再び動き出した朱神――10メートルはある赤い巨体、装甲をまとった猪の姿をした――は、配下の人型アヤカシ璃鉄、典九、青燕を率いて、成望の東の丘に陣を敷いた。その数150余。グロテスクな外見の人型アヤカシ重歩兵、鬼アヤカシ、獣アヤカシの混成軍だ。 「ふっふっふ‥‥全軍進軍の準備に掛かれ。先の戦で穴を開けた東の門にはわしが直接に当たる。璃鉄は主力の獣たち100とともに、わしと東の門へ。典九は鬼アヤカシ25余を率いて南の城壁に向かえ。青燕はアヤカシ重歩兵25余を率いて西の門の攻略を。三方向から城塞を攻撃する」 「朱神様――兵力がいささか少ないように思われます。大軍を投入し、一気に城塞を攻略するべきでは」 「璃鉄よ、お前は何も分かっておらんな。まあ兵力に関しては、魔の森に増援を頼んでおいた。案ずるな。何れにしても、龍安の者どもの先手を打つのが肝要だ」 そこで、斥候に出ていた人面鳥が空から戻ってくる。人面鳥はガアガアと鳴いて、龍安軍が動き出したことを知らせる。 龍安軍は、城塞を出ると、東の朱神軍との間に陣を敷いた。 「敵の増援も気がかりですが。私たちはここで朱神を食い止めましょう」 神樹は手に持った十字槍を振りかざすと、兵たちに呼び掛けた。「おーっ!」と兵士たちから歓声が上がる。神樹は冬の空に晴れやかな笑みを浮かべると、空気を吸い込んでもう一度声を上げた。 「たとえ敵の軍勢は無限でも、朱神を倒し、意気を挫くことは出来ます。この地をアヤカシに明け渡すわけにはいきません。私たちは退くわけにはいかないのです」 するとまたしても兵たちから歓声が沸き起こる。神樹は満足そうに部隊長たちに兵を預けると、本陣に入った。 卓上には成望周辺の地図が置かれていた。家臣たちが改めて朱神軍の動きについて知らせる。 「敵は三つの集団に分かれて移動を開始しました。正面に朱神率いる獣アヤカシ勢100余。恐らく敵の主力でしょう。南から鬼アヤカシ25余。こちらは攻城櫓を備えております‥‥どこかから進入するつもりでしょうか。北からは重装備のアヤカシ歩兵25余が長駆迂回して回り込んできます。背後を突くつもりでしょうか‥‥」 「敵の増援はどうなっていますか」 「は‥‥朱神軍とともに出現した黒い鬼の集団50余は、北の森に展開して、攻撃態勢を取っています」 「黒い鬼ですか‥‥」 神樹は不安を払しょくするように首を振ると、黒い鬼に当たる緋村の無事を祈る。 「朱神を止めるだけでも相当に難事です。私たちは目の前の朱神を止めることに全力を尽くしましょう」 「はっ」 そして龍安軍の主力150は、東から前進してくるアヤカシ軍に対して迎撃に出る。 ‥‥北の森。黒い鬼の集団は、整然とした隊列を組んで展開していた。大型鬼が小隊長を務め、中型から小型の鬼まで、みな鋼のような光沢のある肉体をしていた。実際に鋼ではないが、これらの鬼の肌は硬質化していて、通常の鬼よりも強度、防備が増していた。この鬼の集団を「鉄鬼団」と言った。鳳華のアヤカシ勢の一集団であるらしい。 これを統率するのが、豪奢な毛皮をまとった金髪の黒い鬼、名を「金剛応鬼」と言った。 「全く、朱神ごときの片腕代わりに俺様の鉄鬼団を使うことになるとは‥‥」 金剛応鬼は金色の瞳で龍安軍の方角を見つめた。凄絶な殺気と瘴気を身にまとっている。戦場に立ったことのある者なら、この鬼が放つ凄まじい気配に感情を揺さぶられることだろう。 「まあいい。人間とやり合うのも久しぶりだ。せいぜい戦場を掻きまわしてやろう‥‥くはは」 金剛応鬼は天に向かって咆哮すると、鉄鬼団の黒い鬼たちは、禍々しき雄たけびを上げた。 ――北の森に向かった緋村天正は、金剛応鬼の雄たけびを聞いて、肌をさすった。兵士たちもざわめいている。その咆哮は、敵が並みのアヤカシではないことを知らしめていた。 「さて‥‥我々に出来る限りの手を打ったわけだが。こちらに割けるだけの兵を割いたが、それは正解だったかも知れんな」 斥候に出ていたシノビが戻ってくる。 「黒い鬼の動き‥‥統率された軍隊のようです。戦場の広さを目いっぱいに使って散開してきます」 「後ろに行かせるわけにはいかんぞ。朱神と同時に正体不明の強敵をぶつけるわけにはいかん」 ここで緋村は本気を出す。普段の武官の顔しか知らない兵士たちは緋村が放った剣気に驚く。 「よいか。敵が何であれ、一兵たりとも南へは通すな。黒い鬼どもを残らず倒すことだ」 緋村は抜刀すると、兵士たちを見据えた。 「今はただ目の前の敵を斬る‥‥そのことに集中しよう」 そして、城塞の北でも、激戦の幕が上がろうとしていた。 |
■参加者一覧
青嵐(ia0508)
20歳・男・陰
福幸 喜寿(ia0924)
20歳・女・ジ
輝夜(ia1150)
15歳・女・サ
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
幻斗(ia3320)
16歳・男・志
月酌 幻鬼(ia4931)
30歳・男・サ
朧月夜(ia5094)
18歳・女・サ
白蛇(ia5337)
12歳・女・シ
瀧鷲 漸(ia8176)
25歳・女・サ
鷹王(ia8885)
27歳・男・シ |
■リプレイ本文 ‥‥途中で諦めること等許されないのですよ、我々開拓者は。どんな硬い皮膚でも綻びが出来れば只の鬼と変わらない。この世に絶対な硬さなどない、例えそれが金剛石であろうとも。絶対無理、は諦めの台詞だ。 『あいにくと、ここを突破されるわけにはいかないのですよ』 青嵐(ia0508)は風に乗って流れてくる黒鬼の咆哮を聞きながら、いつものように腹話術で天儀人形を動かしていた。 「敵がこんなにも沢山‥‥けんども、これに対応してこそ、武装家を名乗るにふさわしいんさねっ」 福幸喜寿(ia0924)は目いっぱい明るい口調、武装家を目指して数多の武器を身につけている。 「敵の方から散開してくれるのであれば、我らは各個撃破するまでじゃ」 輝夜(ia1150)はそう言うと、愛用の長槍を構える。 「不気味な雄叫びだな‥‥だが俺達には互いを信じ助け合う絆があるはず。この心が折れないうちは立ち向かっていけるさ」 滝月玲(ia1409)は言って、友である幻斗(ia3320)や白蛇(ia5337)たちに声をかける。 「最近よく言ってる気が致しますが、皆さんくれぐれも無理は為さらぬ様‥‥言ってる状況でもないのですがね」 幻斗は肩をすくめると、仲間たちに言って吐息する。 「黒鬼は俺一人でいいのだ‥‥」 月酌幻鬼(ia4931)は、不敵な笑みを浮かべて前方を見つめていた。黒い鬼に心惹かれるものがあった。 「この戦、絶対負けるわけにはいかないな」 朧月夜(ia5094)は言って、目元を覆うターバンの位置を直した。目深にかぶったターバンから金色の瞳がのぞいている。 「黒い鬼の兵団‥‥か‥‥強そうだね‥‥けど、ここに集まった龍安兵達なら‥‥それに対抗できると‥‥信じてる‥‥今回は‥‥喜寿お姉ちゃんも居るし‥‥心強い‥‥」 「しろちゃん! 気をつけていくんさね!」 福幸は白蛇の頭を撫でると、晴れやかな笑みを浮かべていた。白蛇は撫でられるままに頭をうずめた。 「黒鬼か。‥‥面白そうな相手だ。いい修業となるだろうな」 瀧鷲漸(ia8176)は、どこか楽しんでいるかのように、口許が緩んでいた。 アヤカシの咆哮が轟いてくる。 総大将の緋村は、攻撃の合図を下す前に一部の開拓者たちから話を聞いた。 輝夜は緋村に近づくと、作戦の提案をする。 「今回は開拓者に巫女が一人も居ないので、龍安軍のサムライ五人と巫女一人として八班作り、残りの巫女二人に開拓者班の二つに一人ずつ入ってもらいたい」 「構いませんよ。そちらにも支援出来る者が必要でしょう」 「‥‥で、開拓者班その壱はまっすぐアヤカシ首領を目指して突撃、開拓者班その弐は他の黒鬼を多少減らしてから壱班に合流する」 輝夜の提案を緋村は聞く。 「あらかじめ防衛ラインを設定しておき、ラインの前線で龍安軍のうちの六班が敵の迎撃を行い、残りの二班が後詰として突破してきた敵を迎撃するという形に。シノビには、高い位置から戦場全体を逐一監視し、防衛ラインを突破してくる敵の位置を後詰の班に連絡してもらう」 「ふむ、問題ありませんよ」 「準備する時間があれば、防衛ラインに沿って森の木を倒して簡単なバリケードのようなものをいくつか作っておけば、敵の進路をある程度限定出来て多少は楽になるかもしれないけど」 「バリケードは時間がありませんね。敵は動き出していますから」 緋村の言葉に輝夜は肩をすくめる。 続いて言ったのは白蛇。 「作戦としては‥‥まず龍安兵のサムライ五人、巫女一人ずつで構成された八小隊を作成‥‥余った巫女二人を開拓者の二小隊に付随させ‥‥合計十小隊を編成‥‥」 「編成は輝夜殿と同じですか」 「大半の小隊は森に潜み敵小隊の侵攻を阻止‥‥数隊は城砦付近の森出口で待機し‥‥すり抜けてきた敵を迎撃‥‥敵将へは‥‥開拓者の壱班で足止め‥‥開拓者の弐班は敵小隊を一隊から二隊程討伐してから壱班に合流し敵将を討つ流れ‥‥起伏や川がある地形なので‥‥開拓者小隊に配置する巫女は‥‥地の利に聡い者が理想かな‥‥」 「ふむ、概ね輝夜殿と意見は同じようですね。森に潜むのはそれぞれ現場の判断で行うと良いでしょう。敵が必ずそこを通ってくれるとは限りませんからね」 それから緋村は、八個の小隊を編成すると、シノビノ報告を待って、各小隊に攻撃命令を出す。 「黒い鬼を通すわけにはいかない。後ろではたたでさえ朱神の突撃がある。頼むぞ」 「はっ。何としても、鬼どもを一体残らず始末いたします」 兵士たちはそれぞれの方向へ駆けて行った。 「では我らはアヤカシ首領格へ向かおう」 輝夜の言葉に、青嵐、幻斗、幻鬼、漸は頷く。 「んじゃ、うちらは黒鬼を幾つか叩いてから一班に合流さね!」 福幸が元気いっぱいに言うと、滝月、朧月夜、白蛇らも出立の用意をする。 「後で合流するよ。気をつけて」 滝月は一班の仲間たちに言葉を投げた。 「では、私は開拓者と逆方向へ回りましょう。他の黒鬼を討ち漏らすわけにもいきませんからね。そちらを重点的に」 緋村は言って、部下を率いて出発した。 ‥‥金剛応鬼は、左翼方面から城塞へ抜けようと配下の黒鬼を指揮していた。 金剛応鬼の咆哮に、黒い鬼たちは禍々しい笑みを浮かべて咆哮を上げた。 「くははは‥‥龍安軍に俺様の鉄鬼団を止められるものか!」 金剛応鬼は自信たっぷりだったが、それを打ち砕かれる時をまだ知らない。 「黒い鬼を発見! 行くぞ!」 滝月は先陣を切って突進する。 大鬼一体、中型二体、小型二体の黒い鬼たちは、開拓者を見出すと牙を剥いて襲い掛かってきた。手には棍棒や斧を振り回している。 「オボロさん、連携頼みます」 「任せろ」 滝月と朧月夜は二人一組で突撃する。 向き合うは中型鬼二体。黒い鬼はひゅんひゅんと武器を軽やかに回すと、残酷な笑みを浮かべる。 二人はじりじりと間合いを詰めていくと、次の瞬間大地を蹴った。 「――ガッ!?」 驚いたのは鬼の方だ。二人の予想を越えるスピードに防御すらできなかった。 ガッキイイイイイイイン! と、滝月の刀が黒い鬼の肉体に突き刺さった。だが、刀が通る前に、鉄を叩いたような鈍い手応えがあった。 「硬い‥‥何だこの鬼は」 滝月は若干手が痺れる。 「鋼鉄のような皮膚か?」 朧月夜も蜻蛉でクレイモアは貫通したが、黒い鬼の強靭な肉体に腕が痺れる。 福幸と白蛇は小型の黒鬼を二体相手にしていた。 「小さいのには小さい武器さね! 逃げられんけん!」 福幸はダガーを撃ち込んだ。ザッシュウウウウウウ! と小鬼の肉体が切り裂かれるが、傷は浅い。 「こいつ‥‥硬いさね。しろちゃん気をつけようね! この鬼たち、頑丈やよ!」 白蛇はもう一体の小型鬼を相手にしながら、槍を叩き込んでいた。 ガッキイイイイイイイン! と、かろうじて槍が貫通する。 「黒い鬼‥‥鋼のように硬いね‥‥でも、傷がつかないわけじゃない‥‥」 鬼の反撃を、開拓者たちは回避する。 ――グオオオオオオオオ! と苛立たしげな咆哮を上げると、鬼たちはいったん後退する。 「逃げる気か。そうはいかないぞ」 滝月は一歩前進する。 と、大鬼が咆哮して、仲間を呼ぶ。 遠くから連呼して咆哮が鳴り響き、開拓者たちは周囲に警戒の目を向ける。 「仲間を呼んでいるぞ」 朧月夜はターバンに手をかけると、金色の瞳で大鬼を見据えた。 「そうはいかないんさね! それに、龍安の人たちが足止めしているはずだから、そう簡単に仲間は呼べるわけないんさね!」 福幸は武器を弓に持ち替えると、大鬼に矢を叩きつけた。 キイイイイン! と、大鬼は矢を刀で弾いた。 「流れてくる可能性もあるし、仲間が来る前に倒す」 滝月は仲間たちに合図すると、開拓者たちは攻撃態勢に入る。 「オオオオオオオ!」 大鬼は中型と小鬼を怒鳴りつけると、自らも前に出てくる。 「行くぞ!」 開拓者たちは突進した。 滝月、朧月夜、福幸、白蛇らは格闘戦では鬼を上回る。が、黒い鬼は意外にしぶとく頑丈で、中々十分なダメージが通らない。 大鬼のパワー、小型鬼のスピード、どちらも油断は出来ない相手である。 「力が強くても、使い方が大事なんさね!」 福幸は双剣を抜くと、中型鬼を素早く切り裂いた。ザシュウウウウウ! と黒い鬼の強靭な肉体が切れる。 白蛇は藁人形に持ち替えると、福幸と連携しながら距離を取り、大鬼に青白い火遁を撃ち込んだ。ゴオオオオオオオ! と青白い炎が大鬼の肉体を焼き尽くす。黒い鬼の肌が炎で燃え盛る。 「オオオオアアアアアア!」 大鬼は怒り狂って突進してくるが、白蛇はもう一発火遁を叩き込んだ。白蛇を取り巻く青白い炎が大鬼の胸板を貫通する。 「グウオオオオオ!」 苦悶の声を上げて後退する大鬼。 「気合一閃! お前たちの硬さは承知した! 切って斬れないことはない!」 滝月は小型鬼と向き合うと、刀を一閃した。 ドズバアアアアア――! と小鬼の腹部が凄絶に切り裂かれる。 小鬼はよろめきながらも反撃の一刀を撃ち込んで来るが、滝月は盾で跳ね返して小鬼を押し倒すと、顔面に刀を突き立てた。刀身が貫通して、小鬼は悲鳴を上げた。滝月は容赦なく小鬼の胸にもう一撃叩き込んだ。 「クオオオオオオオオ‥‥」 小鬼は悲鳴を漏らして絶息すると、黒い塊となって崩れ落ちて瘴気に還元した。 朧月夜は得意の示現の構えで最上段からクレイモアを振り下ろした。ドッゴオオオオオオ! と中型鬼の肩から胸にかけてクレイモアがめり込んだ。鮮血が飛び、鬼は咆哮した。 がっしとクレイモアを掴むと、鬼は朧月夜を剣ごと投げ飛ばした。 「――何!?」 思わず振り回されて驚く朧月夜。何とか足を踏ん張って鬼との力比べ。 「やってくれるな‥‥だが」 朧月夜はそのままクレイモアを突き入れると、気合とともに一閃した。 ザン! と鬼の首が飛んだ。 鬼はがくっと崩れ落ちると、こちらも瘴気となって霧散する。 「グオオオオオ!」 大鬼は悲鳴のような咆哮を上げると、一目散に撤退する。残る鬼たちも、恐れをなして逃走した。 「何とか撃退したか‥‥龍安軍の支援に向かおう。壱班は首領格と交戦しているかもしれないな」 滝月は刀を収めると、仲間たちうを振り返った。 それから開拓者たちは、最も近い友軍の援護に向かう。 輝夜、青嵐、幻斗、幻鬼、漸らは、黒鬼の集団を撃破して後、金剛応鬼と対面する。 「龍安軍か‥‥俺様の鉄鬼団の兵隊どもは中々の熟練だろう」 金剛応鬼は不敵な笑みを浮かべると、長大な曲刀を抜いた。 「よお‥‥名を聞いておこうか黒鬼」 幻鬼は歓喜の笑みを浮かべると、金剛応鬼に問う。 「何だ貴様は」 「俺様は黒い鬼よ。同族同士の共食いほど興奮するものはない」 「ほう鬼か‥‥俺様は金剛応鬼。金剛兵団、鉄砕将が一人、鉄鬼団の主よ」 「くく‥‥面白え‥‥お前みたいな鬼がまだいるってのか」 幻鬼の口許が般若のようにつり上がった。 「人間よ、好奇心は死に直結するぞ」 金剛応鬼は金色の瞳で幻鬼を見据えると、凄絶な気を放った。 幻鬼は鼓動が高鳴るのを押さえきれない。しかしこのアヤカシとまともにやり合うのは危険だと直感が告げていた。 「応鬼とやら、ここから先に行かせるわけにはいかぬでの。ここで倒れてもらうぞ」 かたや輝夜の放った剣気も尋常なものではない。 金剛応鬼はすっと目を細めた。 「拙者は簡単には破られませんよ‥‥と言うより、生きて帰る気満々です!!」 幻斗は気合が空振りしていることを半ば自覚しながらも、二刀を構えた。 「さて‥‥」 漸も金剛応鬼とまともにぶつかるのは危険すぎると体が反応している。 「好機が来るのを待つのみだが‥‥」 『金剛応鬼ですか‥‥その名のように金剛のごとき硬さを持つと言うなら、その金剛、無形の刃にて砕きましょう』 青嵐は、前髪を上げていて、いつもは隠れている青い瞳が露わになっていた。その瞳は冷たかった。 金剛応鬼は曲刀を構えると、同時にすっと腕を持ち上げ、雷を放った。 「――!!」 開拓者たちの意表を突く初撃は雷撃。放射状に放たれた雷は、開拓者たちを打ちのめした。 「我が正面から行く。周りから集中攻撃を」 輝夜は仲間たちに合図を出すと、突進した。幻斗、漸、幻鬼らは散開して金剛応鬼の側面から背後に回っていく。 『風姫二十間にわたり』 青嵐は支援攻撃の斬撃符を撃ち込んだ。カマイタチの式が金剛応鬼を貫通する。 「ほう‥‥これほどの術を」 金剛応鬼は正面の輝夜に突進した。 ――大気が爆発する。 輝夜は金剛応鬼の一撃を受けて吹っ飛んだ。 「輝夜殿!」 「構うな! 一気に掛かれ!」 輝夜は空中で反転して態勢を取り戻すと、再び金剛応鬼に向かって駆けた。 幻斗、漸、幻鬼の一撃が次々と金剛応鬼に命中する。 「お前達が死んで、俺だけが黒鬼になるのだ!」 幻鬼は金剛応鬼の目を捕えたが、何とアヤカシの眼球は太刀を弾いた。 「ぬううううあ!」 金剛応鬼は曲刀を振るうと、幻斗と幻鬼を吹き飛ばした。二人とも激しく切られた。 「さすが‥‥名のある将ですね」 幻斗は立ち上がりながら傷を押さえ、二刀を構える。 「こいつは半端じゃねえ」 幻鬼は立ち上がり間合いを図る。 漸は一撃当てて間を取った。 青嵐は斬撃符を飛ばしたが、このアヤカシボスはびくともしない。 輝夜は再度突進して、金剛応鬼と激突。今度はこのアヤカシが直撃を受けて後退する。 「後ろの術士‥‥そしてそっちの槍使い。厄介なのは二人か」 金剛応鬼は周囲に目を走らせながら、にんまりと笑みを浮かべる。 「そう簡単にいくかの」 輝夜は言って、槍を構える。 そこへ、二班が到着する。滝月、白蛇、福幸、朧月夜たち。 「待たせたな!」 「こいつがボスさね? 逃がしはしないけんね!」 さすがの金剛応鬼から笑みが消える。 「九人か‥‥」 「アヤカシの首領よ、手下の黒鬼は足止めしている。お前の思い通りにはいかないぞ」 滝月は金剛応鬼の側面に回り込みながら牽制する。 開拓者たちは完全に金剛応鬼を包囲する。 「例に漏れずこやつは並みの鬼とは桁違いじゃ。手数で押して自分の身も守れ」 「よし、行くぞ」 開拓者たちの包囲を、金剛応鬼は逃げるタイミングを図っていた。 輝夜が突貫、金剛応鬼と激突する間に幻斗が足を叩いて幻鬼が示現を撃ち込んだ。金剛応鬼は三人の攻撃を受けつつも急所は外し、続く滝月の炎魂縛武と朧月夜の示現を跳ね返した。 間合いを取る開拓者たち。白蛇と福幸の突進を受けつつ、金剛応鬼は漸のスキル全開の一撃に耐える。白蛇、福幸、漸は一撃食らって吹き飛ばされたが、何とか踏ん張った。 一瞬開けた空間に身を躍らせると、金剛応鬼は囲みを破って逃走する。輝夜が両断剣に気力を乗せて一撃当てたが、金剛応鬼は哄笑を残して、開拓者たちを吹き飛ばして疾風のように逃げた。 そうして、緋村たち始め龍安軍も何とか黒い鬼の突進を止めていたのだった。 |