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■オープニング本文 鳳華の首都、天承、龍安家の居城にて――。 頭首弘秀の息子、清久郎丸は五歳。志体が現れるならそろそろではないかと、教育係の老将栗原玄海は思っていた。そんなある日――。 清久郎丸は玄海からスマッシュを教えられていた。 「さあ若様、この爺に思い切り打ち掛かってきなさい。気力を集中させて、一撃を撃ち込むのです」 「良し! いくぞ爺!」 清久郎丸は木刀を振り上げると、裂ぱくの気合とともに一撃を繰り出した。 「――!?」 玄海は目を見張った。清久郎丸の神速の一撃が、玄海の木刀を粉砕したのである。 「わ、若様!」 「爺! 大丈夫か!」 清久郎丸は玄海に駆け寄った。玄海は腰を抜かして地面に転がっていた。 「や、やりましたな‥‥若様! 遂にスマッシュを覚えられた!」 「爺! わしはサムライなのか!」 「は、はい! そうです! 若様! やりましたぞ! やったー!」 万歳する玄海を見上げて、清久郎丸も木刀を放り出して万歳するのだった。 「――殿!」 玄海はその足で、弘秀のもとを訪れた。 「どうした」 弘秀は目下東の魔の森から現れるアヤカシの攻撃に頭を悩ませていた。報告書に目を落として厳しい顔つきだった。 「若様が! スマッシュを覚えられましたぞ!」 「何? 清久郎丸が?」 「これで龍安家は安泰です! 待ち望んでいたことです! この玄海、嬉しゅうございます!」 弘秀は苦笑する。 「それはそうとな、また東の戦線から新たな敵勢が攻撃を仕掛けてきたと、報告が」 「またアヤカシに動きが?」 「ああ。ここ最近のアヤカシの動き‥‥悪いことが進行中でなければいいのだが」 「心配ご無用です! かつての混乱期ならいざ知らず、今日みな弘秀様のもとに結束しております! アヤカシのつけ入る隙などありませぬ!」 「だといいのだがな‥‥」 老玄海は自信満々だった。気骨ある老将の気概が、弘秀には救いであった。 ――東の大樹海、魔の森。 一つ目カラスの頭を持つ人型アヤカシが瘴気の中を歩いていた。このアヤカシの名を闇帝羅と言った。 闇帝羅は鬼の群がたむろしている場所に足を踏み入れた。鬼の殺気だった瞳が闇帝羅を捕える。が、闇帝羅の金色の瞳が見返すと、鬼たちは恐れをなしたように後退する。そして、闇帝羅は鬼の将たちを訪問した。 「早速だが、お前たちには動いてもらいたい」 「闇天羅殿か‥‥最近お忙しいようですな」 「私には手持ちの兵があるわけではないのだ。尤も、だからと言ってお前たちに私の言葉を断ることは出来んが」 「仕方ありませんな。あなたの命とあらば‥‥」 「今回は蟲を使う。お前たちは地上から人間たちを殲滅するのだ」 「蟲を? あんな連中と矛を並べろと言うのですか!」 「大甲蟲で敵陣を一気に突破する。人里まで一直線に蹂躙するのだ」 「それならば、我が軍にも大鬼がいます!」 鬼たちの反対を、闇帝羅は一蹴する。 「突破力においては蟲が勝る。それに、蟲の将たちも餌を求めている。鬼ばかりが良い目を見るわけにはいくまい」 「‥‥仕方ありませんな。あなたの命とあれば」 鬼の将たちは立ち上がると、咆哮した。 ――東の最前線、朝比良高地。 「な、何だあれは――?」 魔の森から飛び出してきた大甲蟲の群に、龍安兵は驚愕する。 体長10メートルほどのドームのような巨大な蟲が咆哮とともに突進して、砦や陣をことごとく破壊していく。 「クハハ‥‥殺せ‥‥殺せ! 鬼に遠慮する必要はないぞ!」 大甲蟲のリーダー「銀鈴」は咆哮すると、何十体もの巨大な蟲は戦車のように一気に龍安軍の陣を突破していく。 「止めろ! 後ろに行かせるな! 後ろには村が――!」 叫ぶサムライの喉に矢が貫通した。サムライは倒れた。 混沌とする戦場にシノビが駆けてくる。 「魔の森から鬼の群れが出現しております! 大鬼多数! 赤鬼と青鬼が主力となって突進してきます!」 サムライ大将の月波は、混乱する現場において、シノビ達や側近を戦場と後方に飛ばした。 「サムライ正規兵を前に、アヤカシの突進を止める! サムライ衆の咆哮を使え! 蟲だろうと鬼だろうと一歩も後ろに行かせるな! 態勢を立て直して反撃するぞ! 敵を押し返す! 村人たちには避難するように!」 月波は全軍に迎撃の命を飛ばした。 ‥‥アヤカシ軍後方。 魔の森から悠然と出てきたのは、炎に包まれた赤鬼と雷をまとった青鬼である。それぞれ名を炎武、蒼武と言った。二体の鬼アヤカシは、混乱する戦場を見渡す。 「ふん、蟲どもが‥‥そう簡単に突破できるものかよ」 「龍安軍とて無力ではあるまい。陣を抜くまでは油断は出来ぬ」 そこへ斥候に飛ばしていた人面鳥が戻ってくる。 『龍安軍、陣を整え反撃してきます』 「来るか。我々はせいぜい蟲の突進を利用させてもらうとしよう。確実に龍安兵を沈める」 炎武と蒼武は冷静であった。二人とも、龍安軍の反撃を予測していたのである。 朝比良高地の戦闘が始まる。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
鈴梅雛(ia0116)
12歳・女・巫
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
アルカ・セイル(ia0903)
18歳・女・サ
柳生 右京(ia0970)
25歳・男・サ
喜屋武(ia2651)
21歳・男・サ
神無月 渚(ia3020)
16歳・女・サ
各務原 義視(ia4917)
19歳・男・陰
白蛇(ia5337)
12歳・女・シ
橋澄 朱鷺子(ia6844)
23歳・女・弓 |
■リプレイ本文 総大将の月波は、最初に白蛇(ia5337)の提案を受けた。 「蟲達は突出してるようだし‥‥鬼達もそれを利用する可能性があるから‥‥『突出してる蟲達を如何に早く撃退できるか』が肝‥‥だから‥‥北部隊と南部隊が蟲や鬼達を押さえ‥‥中央へ横槍を入れるのを阻止‥‥その隙に‥‥中央部隊が蟲本隊を一気に叩くという作戦で対応‥‥最前線にいる蟲の首領格には開拓者戦力を集めたいと思う‥‥その後は‥‥鬼の動きに応じて‥‥『北と南の戦力の一部を中央に戦力を集める』か『中央戦力の一部を北と南に派遣』等の判断をしたいかな‥‥」 「冷静だな。的確な判断だ。態勢を立て直しながら反撃の機会を探ろう。あの大甲蟲を撃退出来たらな」 「僕たちは北へ回るから‥‥時間稼ぎをしてみるよ」 「頼んだぞ。中央で何とか巻き返しを図ってみる」 月波はそう言うと、北へ駆けていく白蛇を見送った。 中央部隊、龍安軍は混乱する戦線を立て直す作業に取り掛かる。 各務原義視(ia4917)は人魂で雀を生み出すと、空に解き放った。雀の目とリンクして戦場全体を見渡す。 突進してきた大甲蟲たちは、猛威を振るって龍安軍を蹂躙しており、その背後から赤鬼と青鬼が整然と戦闘隊形を取りつつある。 「静まれ。四人一組で押さえれば、抜かれはしない。各個撃破せよ」 各務原は伝令を飛ばし、味方の態勢立て直しに奔走する。 「今回は蟲ですか‥‥アヤカシもあの手この手で攻めてきますね‥‥」 朝比奈空(ia0086)は混沌とする戦場にあって、巨大な蟲の攻勢にも冷静であった。見渡せば陣は大甲蟲の突進で混乱しているが、朝比奈は味方が態勢を立て直しつつあることを確認しながらどこへ足を向けるか思案する。 「勝てない相手ではないようですが、初手を取られたのは不覚でしたね‥‥」 アルカ・セイル(ia0903)は戦場に飛び出していくと、蟲たちに突進していく。 「あたし参上!」 暴れ狂う大甲蟲は体当たりで龍安兵とぶつかっていた。 「やってくれるなあこの蟲!」 アルカは味方の攻撃に合わせて蟲に飛びかかっていく。身軽に蟲の上によじ登ると、拳を叩き込めば、甲蟲の装甲を貫いて貫通した。 ――オオオオオオオオオオ! 蟲らしからぬ獣じみた咆哮でアヤカシはアルカを振り落とす。アルカは空中で反転して着地する。 「アルカさん、無茶しますね」 「あたし一人じゃ止められない。あんたらも踏んじばってくれよ」 アルカは若い龍安兵の肩を叩くと、再び蟲に突撃する。 ――グオオオオオオ! アヤカシの咆哮が轟く。巨体が旋回して龍安兵を叩きのめした。 「く、畜生、この蟲アヤカシが!」 よろめく龍安兵たちを葛切カズラ(ia0725)が叱咤激励する。 「しっかりなさい! こんな怪物が里へ抜けて言ったらどうなると思うの。ここを抜かれるわけにはいかないのよ!」 「葛切さん、理屈じゃ分かっちゃいるが、このどでかい蟲は心理的にも堪えるぜ。蟲は苦手なんだ」 「弱音を吐くんじゃない! そう言うことを言ってる場合じゃないでしょうが!」 カズラは符を取りだすと、暴れる大甲蟲に斬撃符を叩き込んだ。 凄まじい破壊力、鏃のように変化した式が大甲蟲の装甲を易々と切り裂いた。蟲の装甲が吹き飛び、血飛沫が飛び散った。 「す‥‥凄い。たった一発で」 「さあみんな! 一斉に打ち掛かるのよ! 大きいと言ったって太刀打ちできない相手じゃないわ!」 カズラは龍安兵たちの背中を押す。 「指揮は大の苦手だから任せたっ。まぁその分前線で派手にやりますよぉ」 神無月渚(ia3020)は各務原に言うと、兵を率いて混乱する前線に出る。 「渚、指揮は任せて下さい。そっちは前で思い切り暴れてくれたら」 「了解したよ。何匹狩れるか、この子は何処までイケるかなぁ?」 渚は刀を撫でながら言うと、サムライ、志士、泰拳士二人ずつを伴っていく。 サムライと泰拳士を同列に置き、志士を一つ後ろに置いた。 「行きますよぉ、みなさん、大甲蟲を吹き飛ばしてやりましょぉ」 開始一発目に地断撃、渚は兵とともに突進する。 南、開拓者は鈴梅雛(ia0116)と喜屋武(ia2651)、橋澄朱鷺子(ia6844)が向かっていた。 「全く何ともおぞましいですね。巨大な蟲とは‥‥アヤカシも性質が悪いことです」 橋澄は言いつつ無慈悲に矢を撃ち込んだ。五人張の一撃が空を切り裂き、大甲蟲を貫通する。弓術士としては常人ならざる一撃である。矢は弾丸のようにアヤカシの装甲を砕いて肉をえぐった。 龍安兵の弓術士たちは橋澄の一撃に目を見張る。 「同じ弓師とは思えません」 「大したことはありません、あの方に比べれば私など」 そう言う橋澄の瞳は感情が高ぶって赤く染まっていた。 家臣の喜屋武は兵たちを指揮する。 「むう、巨大な虫か。絶対に抜かれない様にせねばな。幸い虫の数は少ない。虫を早急に片付けて鬼に当たらねばなるまい」 喜屋武は兵たちに指示を飛ばす。 「とりあえず隊の混乱を鎮めないといけないな。危険だが仕方ない」 「どうなさるおつもりですか」 兵の問いに喜屋武はしばし考え、 「一瞬だけ時間を稼いでみるので兵は五人以上で纏まってから一体の虫を相手にするように。数の有利を利用してくれ。咆哮で蟲を出来るだけ俺に引き付けてみる」 「ご無理をなさらぬように」 「やってやるまでさ」 喜屋武は前に出ると、不動、槍構で腰を落として、咆哮を敵が一番密集する辺りで使用する。 咆哮が轟き、大甲蟲たちは怒りの声を上げて向きを変えて突進してくる。 「行くぞ! 蟲の戦列が乱れた!」 兵士たちは大甲蟲に突進していく。龍安兵は隊形を組むと、巫女、陰陽師、弓術師を庇いつつスキルで援護してもらう。 「協力して、敵を食い止めましょう」 巫女の雛も前に出る。喜屋武と一緒に前に出て、味方の回復を閃癒で行う。 龍安の巫女たちには閃癒から漏れてしまった兵の回復を頼む。 「この状態では、全体を見る事が出来ないので。よろしくお願いします」 「雛様、お気をつけて」 「みなで味方を支えましょうね」 甲虫は堅そうなので、鈍器などを持っている兵には、そちらを使うように言った。 「まず、この蟲を止めないと」 北、龍安軍――。 「戦線は混乱しているか‥‥まずは鎮圧せねば勝負にならんな」 柳生右京(ia0970)は白蛇(ia5337)とともに兵たちの指揮に当たる。全体の指揮は白蛇に任せた。 「蟲に鬼‥‥完全には交われてないみたいだね‥‥なら‥‥僕達は心を一つにして挑もう‥‥人々を守る為に‥‥」 「落ち着け‥‥中央にも開拓者が向かっている。蟲如き、恐れるに足らん」 「サムライたちの咆哮で足止め‥‥敵を各個に撃破していこう‥‥」 二人は兵たちに言葉を投げかけ、反撃の態勢を整えていく。 「時間稼ぎを優先しろ。最前線には私が立つ」 右京は言って、前に出た。長大な斬馬刀が兵士たちを勇気づけた。 「来い、雑魚共。戦場を貴様らの瘴気で黒く染め上げてやろう」 大甲蟲に向かって行く右京。 白蛇は早駆で戦場を飛ぶと、「打剣」で風魔手裏剣を撃ち込み味方を支援、右京が前に出ていることを伝えて兵たちを鼓舞する。 「基本は‥‥巫女たちの支援を受けたサムライが盾装備の咆哮で蟲の進行を食い止め‥‥その隙に味方複数の攻撃を各敵に集中させる戦法‥‥で行くよ」 「かしこまりました! 態勢を立て直します!」 サムライたちは伝令を飛ばして右京と白蛇の指揮に従って、新たに戦闘隊形を取る。 サムライ、志士、泰拳士が前に出て、巫女に陰陽師、弓術士たちは後退した。 サムライ衆の咆哮で大甲蟲を引き付け、足止めする。 そこへ総大将の月波が姿を見せた。中央を各務原に任せて北を確認しに来たと言う。 「白蛇か、こちらはどうだ。兵たちは何とか態勢を立て直しているが」 「何とか反撃を始めたところ‥‥」 「鬼の動きが止まっている。何か仕掛けてくるかな」 「それは‥‥アヤカシ同士が協力できていないだけじゃないかな」 「ふむ」 月波は思案顔で顎をつまんだ。 「そうかも知れんが。見張りのシノビを飛ばしている」 「こっちは任せて‥‥中央を早く押さえてくれれば‥‥」 「そうだな。南も持ちこたえているようだし、攻勢に出るか」 月波は言って中央に戻っていく。 中央部隊に異変が生じる――。 大甲蟲の首領「銀鈴」が前進してきたのである。銀鈴は頭の部分が口を開くと、明朗な人語を話した。 「龍安兵よ! 懐かしきかな! かつて多くの民を食らったことが昨日のように思えるわ!」 蟲アヤカシと戦っていた龍安兵は耳触りなざらざらとした銀鈴の言葉に驚く。 「あれは‥‥蟲アヤカシの将か。人語を話すとは」 「我が名は銀鈴。お前たちの記憶にはなかろう。わしが活動していたのは鳳華の混乱期だからな!」 銀鈴は咆哮すると、大甲蟲たちはするすると下がって戦列を整え一応の隊形を取った。 「銀鈴ですか‥‥」 各務原は兵たちを押さえながら、強敵の出現に警戒する。 「蟲ね‥‥本能というか衝動だけで機械的に動くっていうのが常道だけど」 カズラは銀鈴の姿を見やる。銀鈴を取り巻く大甲蟲たちは、頭の部分に牙が生えた大きな口を開いて邪悪な咆哮を上げており、実際の虫とは全く別物だ。 「敵の攻勢に備えて下さいよ」 各務原の指揮で、龍安軍も迎撃態勢を取る。 「行くぞ龍安軍! 鬼どもに餌はやらん! 民の命はわしらがもらう!」 銀鈴のつんざくような咆哮、攻撃信号で大甲蟲たちは再び突進を開始する。 各務原はさっと刀を振るった。 「怯むな! 戦力は十分に勝っている! 正面から銀鈴たちを叩く!」 「おお!」 龍安兵は陣を再編すると、気合を入れて突撃していく。ここまでの戦いで大甲蟲の戦力を推し量った龍安兵たちは、恐れはなかった。 激突する大甲蟲の群れを包囲する龍安軍。 「火煌の計!」 各務原は火輪を解き放つと、陰陽師たちも一斉に火輪を放った。炎の輪が大甲蟲を切り裂く。 銀鈴は突進してきて、龍安兵たちを吹き飛ばす。 「ガアアアアアアア! わしを止められると思うな!」 龍安兵たちは銀鈴の牙で切り裂かれる。 「みなさんしっかり。しかし‥‥とんでもない怪物ですね」 朝比奈は閃癒で一気に味方の回復に当たると、銀鈴を見つめた。 「一斉に打ち掛かれ! 銀鈴に集中攻撃!」 弓術士たちは銀鈴に集中打を浴びせる。 渚も銀鈴に切り掛かっていく。 「よぉーし。反撃といきますかぁ。お前らっ! 遅れんなよぉつ!!!」 「行くぞ!」 銀鈴に体当たりさながらに両断剣を撃ち込んだ。凄絶に切れる銀鈴の装甲から血が飛んだ。 「アハッ。最近のアヤカシは見た目は駄目だけど、斬り心地はいいなぁ。その内人から乗り換えちゃいそうだぁ」 次の瞬間、渚は銀鈴の牙で吹き飛ばされた。 「渚殿!」 「アハハ‥‥やってくれる」 外套が血で滲んだ。 「こりゃ半端じゃないよ」 アルカは龍安兵が集中攻撃を浴びせるのに合わせて、銀鈴に飛び乗った。 「害虫が喋るんじゃねえ!」 拳を叩き込んだ。アルカの拳は銀鈴を貫いたが、振り落とされて踏み潰された。 「アルカさん!」 朝比奈が駆け寄り、転がるように逃げたアルカに神風恩寵をかけた。 「ありがとさん。て、何じゃあいつは!」 カズラは舞うように飛ぶと、蛇神を撃ち込んだ。触手の式が銀鈴を貫通する。 「台所の黒い悪魔思い出して目障りなのよ! さっさと滅びなさい!」 「予想外の苦戦ですね。数では圧倒しているが、鬼が来るまで持つか」 各務原は爆走する銀鈴の姿に圧倒されながらシノビの報告を待った。 「各務原殿」 「鬼の動きはどうなっていますか」 シノビは切迫した口調で告げた。 「はっ、赤鬼と青鬼の集団、前進してきます! 一糸乱れぬ戦列で、背後に炎をまとった赤鬼と雷をまとった青鬼が指揮を取っている模様です」 「まだ敵将が‥‥このままだと」 各務原は兵たちに檄を飛ばす。 「鬼が動き出した、蟲を速攻で倒さないと危険です」 北――。 右京は斬馬刀で大甲蟲を叩き潰した。頭部を撃砕されて崩れ落ちていく大甲蟲。こちらはほとんど蟲を片づけていた。 「鬼が動き出したか‥‥」 白蛇がやってきて、鬼の動きを伝えた。 「雷をまっとた青鬼がいるね‥‥指揮を取っているみたいだ‥‥」 「ほう‥‥敵将か」 やがて炎と雷が飛んでくる。 「鬼軍、接近してきます! 中央の味方は予想外の敵勢の抵抗に苦戦しております!」 伝令のシノビは焦っていた。 「少し援護を送るか。どうだ白蛇」 「サムライ10人程度を送ろうか‥‥」 「そうだな、それくらいか」 右京は手近な兵を呼び寄せると、中央の支援に向かうように言う。 「かしこまりました。この場はお二人にお任せします」 援護のサムライたちは走っていく。 「鬼が来ますぞ!」 「迎撃する。鬼を止める以外に道ははない」 龍安軍は戦闘隊形を取ると、鬼と激突する。 南――。 こちらも蟲はほぼ倒した。喜屋武は同じく中央に援軍を送ると、鬼に向かう。飛び交う炎と雷が龍安軍に降り注いだ。 「炎や雷を使う様だな。一気に攻めては被害が大きい。敵を抑えつつ削り、他の部隊から増援が来たら攻めに転じる‥‥と言いたいところだが、味方に余裕はなしか。仕方ない、何とか足止めするしかないぞ」 「気を抜くのは、まだ早いです。あちらの方が、強敵です」 雛も味方に注意を呼び掛ける。 「サムライ衆は防御重視で、敵からの被害を最小限に抑えつつ、弓師や陰陽師で敵を削る」 「では行きます。ここまで引き付ければ十分です」 橋澄は赤く染まった瞳で鬼を見据えると、精神を研ぎ澄まして五人張を解き放った。バーストアローの衝撃波が走る。鬼の戦列を貫通する。 雛は喜屋武と一緒に前に出て、閃癒で味方の回復に当たる。 「怪我は、雛が治します」 鬼の突撃を受け止める。 「ここは抜かせん!」 喜屋武は鬼の頭部に片手棍を振り下ろした。 再び中央――。 友軍の加勢を得た龍安軍は何とか蟲の足を止め、鬼を迎撃する。さすがの銀鈴が集中攻撃を浴びて足が止まった。 「北と南は何とか鬼を止めているようだけど‥‥こっちも持たせる」 各務原は伝令で南北の状況を聞いていた。 こちらに来た蟲と鬼の混合部隊は連携は取れていなかったが、数で100を越える鬼軍の加勢は脅威であった。 各務原には鬼軍を止める策があったが、銀鈴の暴走で戦場に起きた混乱は容易に沈め難く、策を使う機会はなかった。 朝比奈とアルカ、カズラに渚たちは兵たちと協力してどうにか銀鈴を引かせる。大甲蟲は銀鈴とともに撤退する。 龍安軍は残る鬼軍と交戦。 炎武と蒼武は南北で指揮を取っていたが、龍安軍の頑強な抵抗を突破することはできず兵を退く。 龍安軍に余力は無かった。去りゆく鬼を見送り、ひとまず脅威が去ったことを確認する。 |