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■オープニング本文 武天の国、戦場跡‥‥。 六王国中最大の武力と繁栄を誇っている武天の影の部分と言えよう。アヤカシとの戦場舞台となった村の数々が廃村となり、打ち捨てられた集落は数知れず。 死んだ者たちに瘴気が取り付き、「屍人」――動く死体、いわゆるゾンビとなって蘇えり、さらに被害を拡大していく‥‥。 起き上がった屍人たちは群れ為して次の獲物を求めて移動する。 ――ここにも移動を続ける屍人の一団があった。まさに怪談に登場する亡者のような集団である。数は十体ほど。 この屍が活動するのは夜、村の人々が寝静まったところに襲い掛かってくる。餌を効率よく捕獲する術を心得ているのだろう。 武装したサムライでもいれば大したことは無いが、村人達は普通戦う術など持っていないものだ。 武天某村、真夜中‥‥。 扉をごつごつと叩く音に少女――渚は目を覚ました。 「何だろう‥‥もふら様かなあ‥‥」 渚は起き上がると、蝋燭片手に扉に近付いていく。 と、バリバリ! と扉が突き破られ、屍人の腕が渚の目に飛び込んできた。 「き‥‥きゃああああ! お父さん! お母さん!」 「な、何だ、どうした」 「お父さん! 手が! 手が!」 母親も目を覚まし、恐るべき光景にひしっと渚を抱き寄せる。 バリバリバリバリ! 扉が破壊され、屍人がなだれ込んできた。 一家は恐怖に声も出ない。 ――オオオオオオオオッ! 十体の屍人は渚たちに飛び掛っていくと、後には一家の絶叫がこだました。 ――開拓者ギルド。 武天の小村が屍人の一団に襲われているという知らせが入ってきた。屍たちは夜明け前に姿を消し、恐らく夜には再び襲ってくるものと予想されていた。 「‥‥これもまた武天の日常なのでしょうか」 受付の青年はぽつりと呟いた。 「襲われた一家は全滅。様子を伺いに近付いた近隣の住民数名も犠牲になっています。生き残った村人達は救助の手が差し伸べられるのを待っています。開拓者の皆さんが動かなければいずれ領主の私兵が討伐に向かうでしょうが、その頃には村は全滅です‥‥。急ぎ精霊門から武天の国へ向かって下さい」 かくして、開拓者達は屍人の攻撃を受けた村の救出に向かうことになるのであった。 |
■参加者一覧
高遠・竣嶽(ia0295)
26歳・女・志
水火神・未央(ia0331)
21歳・女・志
周藤・雫(ia0685)
17歳・女・志
鬼啼里 鎮璃(ia0871)
18歳・男・志
久我・明日真(ia0882)
22歳・男・志
ラフィーク(ia0944)
31歳・男・泰
柳生 右京(ia0970)
25歳・男・サ
霧崎 灯華(ia1054)
18歳・女・陰 |
■リプレイ本文 馬を駆って開拓者たちは件の村へ急行した。 「ここか‥‥」 一見のどかな田園風景が広がる村の中へ、開拓者達は馬を進める。 村人達はやってきた開拓者達を興味深げに見上げるのだった。 「神楽の都から依頼を受けてやってきました。アヤカシが出ていると」 高遠・竣嶽(ia0295)の言葉に村人は恐れをなした様子で前に出てきた。 「そうですか‥‥開拓者の方たちでしたか。どうぞ、村長のところまでご案内します」 「頼みます」 村人に先導されて、高遠たちは馬を進める。 村長はすっかり打ちのめされた様子であった。 「恐ろしい‥‥あのような魔物に村が襲われようとは‥‥」 集まった村人達も一様に沈痛な面持ちであった。 「僕たちがアヤカシを倒す間、みなさんにはどこか一箇所に集まって下さいますか? 護衛をつけますので」 水火神・未央(ia0331)の提案に村人達は言う通りにする。 アヤカシは夜になると活動を開始すると言うが、昼間も動けないわけではない。そこで昼間は半数の開拓者で村人の護衛に当たり、残り半数でアヤカシの捜索を行い、発見できれば撃破に向かうと説明する。 「夜になる前に決着をつけることが出来ればそれに越したはない。みな宜しく協力してくれ」 ラフィーク(ia0944)は言って村人達を安心させる。 「んじゃ、さっそく始めるかね? まあ、あんたらに心配は無用だろうけど、気をつけて」 霧崎灯華(ia1054)の言葉に鬼啼里鎮璃(ia0871)は紫色の瞳に憂いをたたえて頷いた。 「霧崎さんたちも気をつけて」 かくして、アヤカシ迎撃の準備が始まる。 ‥‥護衛班の開拓者達の先導で、村人達は集会所に集まってやってくる。いつアヤカシがやってくるとも知れない、民はみな怯えていた。何も知らない幼子は手を引かれて、老人たちはくたびれた様子である。若者達も恐れをなしておとなしく避難した。 「皆さん大丈夫ですよ、必ずアヤカシは倒します。どうか安心して」 高遠は村人たちを安心させるように集会所の中を回った。 私にも、出来ることはきっとある‥‥。周藤・雫(ia0685)は民の様子を見やりながら、アヤカシ討伐を胸に誓う。 ラフィークは村の若い衆に声を掛けると、周辺のポイントに落とし穴を一緒に掘ってもらえないか協力を要請する。 「あ、アヤカシが襲ってきたらどうするんだ?」 「無理にとは言わないが‥‥」 ラフィークは襲撃を恐れる村人達に無理強いはしない。一人で落とし穴を掘りに向かう。 「さあて、今回は巫女もいないし、注意が必要かしらね。楽しい死舞(ダンス)ができるといいんだけどね‥‥」 霧崎は言って夜戦の準備を進めていく。集会所の周辺に焚き火の用意をして明かりの支度をしていく。 それから合図の狼煙を上げる開拓者たち。昼間にアヤカシ襲来の際にはこれを消して捜索班への合図とする。 雫は火をくべながら煙がもくもくと立ち昇っていく様子をみつめた。 「‥‥‥‥」 これでよし、あとは‥‥。 雫は高遠のもとへ向かって歩き出した。 高遠はと言うと、霧崎とともに村の周辺に鳴子を仕掛けようと準備を進めていた。 「雫さんも、手伝ってもらえますか」 「‥‥はい」 雫は黙々と鳴子作りを手伝う。 「アヤカシって奴は本当に神出鬼没で、急に瘴気が固まって町中で実体化するような奴だからね。連中の攻撃は日に日に増しているし、あの冥越が滅びたようにならなきゃいいんだけどねえ」 霧崎の言葉に高遠は沈黙する。高遠の出自は冥越にあったとされる名家である。アヤカシの襲撃で一族もろとも滅ぼされたのだとか。 「とにかく‥‥何とかしませんと。アヤカシの攻撃に対抗するには、私たちの世界では限界があるようですし‥‥」 「そうだなあ」 雫は二人の会話を聞きながら、アヤカシの撃退を密かに誓うのだった‥‥。 「さて‥‥どんなものでしょうかね。アヤカシがどこかに潜んでいるはずですが」 鬼啼里は村人から聞いたアヤカシの逃げ去った方向へ進んでいた。付近の洞窟や狩小屋なども探してみるが、アヤカシの姿はない。 「それほど遠くにいるとも思えませんが‥‥」 森の中に踏み込んだ鬼啼里は、槍で草木をなぎ払いながら進む。 久我・明日真(ia0882)も付近の森や身を隠せそうな場所を捜索していた。 「‥‥何とも惨たらしい事件が起きたものだ。‥‥領主の私兵が討伐に向かう頃にはもう手遅れと言ったところか」 明日真は怪しげな場所を心眼で探ってみる‥‥。 「襲われた所が小村でなければ既に私兵が討伐していたんだろうか‥‥いや、考えても詮無い事か」 アヤカシの姿はない。 「‥‥こういった悲劇をこれ以上生まない為にも、俺達が何とかしないといけないな。中々都合よくはいかないだろうが、夜間に戦うよりは昼間に戦いたいものだが、さて」 地道な捜索を続ける明日真。アヤカシの姿を発見するには至らず、時間が過ぎていく‥‥。 「ふむ‥‥」 柳生右京(ia0970)は地面に転がる人の亡骸を見やって膝をついた。 「この亡骸は‥‥最近のものか」 遺体は残酷なまでに食い散らかされている。どこかでアヤカシに捕まったのだろうか。 「喰い散らかした獲物の残骸‥‥あるいは近いか」 右京は周囲に目をやる。 薄暗い森の中、右京は立ち上がると、静寂の中に歩みを進めた。 アヤカシが襲ってくるならびりびりと殺気が伝わってきても不思議はないが‥‥。 開拓者となって初めての依頼、剣を振るうという意味では今までと何ら変わりは無いが‥‥せいぜい楽しませて貰うとしよう。 右京は思案顔で呟いた。 「アヤカシとはどういった存在なのか‥‥この依頼で見極めるとしようか」 水火神は心眼で怪しげな場所を探っていたが、やはりアヤカシの姿はなかった。 「屍人か‥‥やはり夜にならないとこちらへは現れないのでしょうか」 とは言え、アヤカシに昼も夜も関係ない。この屍人は夜に活発な動きを見せると事前情報にあったが、昼間は付近に隠れているはずだ。 「夜になると現れるのは単純な習性か法則でしょうか‥‥」 アヤカシの上位種になればなるほど知能も高いという。情報では、屍人にそれほど高い知能があるとは思えないが‥‥。 そうこうする間に日も落ちて、あたりは暗闇に包まれ始める。 捜索に出ていた四人はさしたる手掛かりもなく、村へと戻っていく。 「残念ながらこちらではアヤカシを見つけることは出来ませんでした」 「だが近くに新しい遺体が転がっていた、やはり付近にいるのは間違いないようだが」 捜索班からの報告を受けて、護衛に回っていた四人の開拓者達は村にも昼間は異変がなかったことを告げる。 「こちらにもアヤカシが現れることはありませんでした‥‥やはり夜を見計らってくるのでしょうか」 「恐らくな、ここからが正念場になりそうだな」 「では‥‥あとは待つしかないな」 開拓者達の間に沈黙が落ちる。 村の集会所付近には火が焚かれ、煌々と夜の闇を照らし出している。 ぼうっと炎を見つめてやって来た子供を慌てて母親が中に引き入れる。 開拓者達はじっと待った。 じりじりと時間が過ぎていく‥‥村人達は眠ってしまう者もいたが、恐怖から寝付けずに、外の様子を伺う者もいた。 そして――深夜。 カラカラ‥‥カラカラ‥‥カラカラカラカラ‥‥! 鳴子が激しく鳴り響いて、緊迫が走った。 開拓者達は武器を手に、鳴子が鳴り響いている方へ走った。 高遠が心眼を使う。 「来たようですね‥‥アヤカシ十体。情報どおりです」 「この殺気‥‥まさに怪物だな。血の宴の始まりだ」 「おいでなすったかい。んじゃあおっぱじめよう」 霧崎は近くの建物の屋根によじ登ると、ロングボウで攻撃を開始した。矢に符を結びつけて攻撃してみる。 「サムライや志士ばっかでただ乱闘というのもアホらしいしー、矢に符を付けて射ると威力上がるのかしら?」 弓を引き絞ってアヤカシに狙いを定める。 「陰陽師っても符を投げてるだけじゃないんだから」 十体のアヤカシは獣じみた咆哮を上げると、開拓者達に飛び掛ってくる。 「屍人‥‥ここから先は通しませんよ」 高遠はアヤカシの攻撃を受け止めながら反撃、刀を叩き込んでみるがアヤカシは 全く意に介する風もなく高遠の首を締め上げ、噛み付いてくる。 「‥‥! 噂どおりしぶとい」 高遠はアヤカシの腕を振りほどくと、相手を蹴りつけた。 「アヤカシよ‥‥水火神流の極意を見せてやるぞ」 水火神は刀で切り付ける。ざくっと血飛沫が舞い、水火神の顔を紅く染め上げる。ずたぼろの亡者の姿をしたアヤカシはわめきながら噛み付いてくる。 水火神はアヤカシの口に刀を叩き込んだ。刀が貫通してアヤカシの頭部を貫くが、屍人は問答無用で掴みかかってくる。 「やはり‥‥そう簡単に傷を負わせることはできませんか‥‥」 雫は刀を叩き込んでいたが、アヤカシは傍若無人に立ち向かってくる。距離を保つのも一苦労だ。 「それなら‥‥倒れるまで斬り続けるだけです」 雫はアヤカシの手を逃れながら裂ぱくの気合いを込めて攻撃を続ける。 屍人は確かにしぶとい。開拓者の攻撃をものともせずに突き進んでいく。 「何とも‥‥やりにくい相手ではありますが」 鬼啼里は素早くアヤカシの攻撃を捌きながら槍を叩き込んだ。ずばっと槍が屍人の胴体を貫通する。 「まだ倒れませんか」 鬼啼里はそのままアヤカシを押し込んで地面に叩き付けると、更にもう一撃叩き込む。 「何ともしぶといじゃないか、屍人」 明日真は襲い来るアヤカシの攻撃を捌きながら水火神と背中を合わせていた。 「そうですね‥‥こっちの攻撃が本当に効いているのか‥‥」 そうする間にもアヤカシは傍若無人に迫り来る。 「だが、不死身というわけではあるまい! 食らえ炎魂縛武!」 明日真の刀剣が炎に包まれる。志士の攻撃スキルだ。 紅蓮の刀身がアヤカシの胴体を薙いだ。アヤカシは真っ二つになって倒れると、瘴気に還元して消滅した。 「やったな明日真」 ラフィークは落とし穴から飛び上がってくるアヤカシと対峙していた。 明日真がアヤカシを倒したのを見て、開拓者達の意気が上がる。 「行くぞ、骨法起承拳!」 空中に飛び上がって回転すると、屍人の頭部にラフィークは拳を打ち込む。 拳はアヤカシの頭部を打ち砕き、アヤカシは同じく瘴気となって霧散した。 「成程、大した生命力だ‥‥だが、それで無くては面白くない」 サムライの右京にとっては、小細工なしの相手であるこのアヤカシは格好の獲物でもあった。右京の高い攻撃力と防御はこの屍人を圧倒した。 強打にスマッシュを次々と叩き込み、瞬く間にアヤカシを撃滅する。 「さてと‥‥どうやら勝ちそうね」 霧崎は屋根から飛び降りると、ステップを踏んで舞いながら符を投げつける。 「あんたの力頂くわ、受けてみなさい死の舞い‥‥連弾吸心符!」 霧崎の蛇のような式が次々と飛び、アヤカシの体に取り付いて生命力を奪い取って戻ってくる。 連弾吸心符を受けたアヤカシは霧崎に突進してくる途中で消滅した。 こうして、一体、また一体とアヤカシは消滅し、最後には開拓者達の攻撃の前に全滅した。 「ふん、開拓者か‥‥暫くは退屈しないで済みそうだな」 右京は太刀を鞘に戻すと、深夜の激闘を制して率直な感想を漏らした。 「やりましたね‥‥皆さんお疲れ様です」 「一瞬攻撃が効いてないかと思いましたけど、やりましね」 「屍人か。しぶとい敵ではあったな」 敵を殲滅した開拓者達は、村人たちに勝利の報告を持っていった。 ‥‥かくして村に平和が戻った。 亡くなった村人達の葬儀が執り行われ、開拓者達も鎮魂の祈りを捧げた。 「アヤカシは不幸な人をたくさん作りだす‥‥あの存在を許してはいけない‥‥」 雫は墓標に手を合わせながら静かに心に誓った。 「さてと、念には念を入れて、しばらく周辺の捜索をしておきますか」 「そうねえ、残党がどこかに残っているかもしれないし」 鬼啼里と霧崎は数日村に留まるつもりであった。 ラフィークは地味な作業だが、作った落とし穴を村人達と一緒に埋めていた。 「よくやってくれました。アヤカシの叫び声が聞こえてきた時はどうなるかと思いましたが‥‥」 ラフィークは村人の言葉に肩をすくめると、さっさと土を戻していった。 「では‥‥行くか。みな達者でな。また会うこともあるだろうが」 右京は仲間達に別れを告げると、一足先に神楽の都への帰路に発った。 「では、私たちも‥‥。鬼啼里さん、霧崎さん、後はお任せします」 高遠らも二人に別れを告げると、村を出立するのだった。 |