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■オープニング本文 天儀暦1009年12月末に蜂起したコンラート・ヴァイツァウ(iz0107)率いる反乱軍は、オリジナルアーマーの存在もあって、ジルベリア南部の広い地域を支配下に置いていた。 しかし、首都ジェレゾの大帝の居城スィーラ城に届く報告は、味方の劣勢を伝えるものばかりではなかった。だが、それが帝国にとって有意義な報告かと言えば‥‥ この一月、反乱軍と討伐軍は大きな戦闘を行っていない。だからその結果の不利はないが、大帝カラドルフの元にグレフスカス辺境伯(iz0103)が届ける報告には、南部のアヤカシ被害の前例ない増加も含まれていた。しかもこれらの被害はコンラートの支配地域に多く、合わせて入ってくる間諜からの報告には、コンラートの対処が場当たり的で被害を拡大させていることも添えられている。 常なら大帝自ら大軍を率いて出陣するところだが、流石に荒天続きのこの厳寒の季節に軍勢を整えるのは並大抵のことではなく、未だ辺境伯が討伐軍の指揮官だ。 「対策の責任者はこの通りに。必要な人員は、それぞれの裁量で手配せよ」 いつ自ら動くかは明らかにせず、大帝が署名入りの書類を文官達に手渡した。 討伐軍への援軍手配、物資輸送、反乱軍の情報収集に、もちろんアヤカシ退治。それらの責任者とされた人々が、動き出すのもすぐのことだろう。 反乱軍陣中――。 若き指導者、コンラート・ヴァイツァウは、この日もまた、熱烈な弁舌を振るっていた。端正な容姿に、ただならぬ風格を備えたこの若者は、当初兵士たちから畏敬の念を以って迎えられていた。 「――聞け! 亡国の勇士たちよ! 悪逆なるカラドルフ大帝の圧政が間もなく終わろうとしている! この私、ヴァイツァウ家の忘れ形見であるコンラートが生き残っていたのは、紛れもなく神の思し召しであった! 諸君! この戦によって、カラドルフによって虐げられてきた諸国の勇士たちにも勇気を与えるだろう! 諸君! 恐れるな! 正義は我らとともにある!」 兵士たちはこの若者に付いてきたことを少なからず後悔する者が多かった。コンラートは兵士たちに厳格な規律と倹約を求め、一方でロンバルール(iz0108)が提供した豊かな軍資金を占領地域の一部の村民たちにばらまいていた。兵士たちからすれば面白くない話である。そしてロンバルールをはじめとする一部の側近を重用し、スタニスワフ・マチェク(iz0105)のようなもの言う前線の指揮官を遠ざけていた。 「兵士たちの不満は尤もです」 ロンバルールは兵士たちに聞こえるようにコンラートに言った。 「いまだに贅沢をしている商人たちからも軍資金を提供させるようになさい。商人と言うのは、強欲な生き物ですからな」 「それは良い案だ」 コンラートは目を輝かせると、すぐさま占領地域の商人たちから軍資金を徴収した。 利に聡い商人たちは、表面上おとなしくコンラートに従ったが、すぐに離散してグレフスカス辺境伯のもとへ陳情に訪れる。 ――リーガ城。 辺境伯は商人たちの口からコンラートの対応について聞き終えると、戦が終わった後には商売上の損失は補償すると約束した。 「ロンバルールと言うのはコンラートの重臣で切れ者だそうだが、どうにも腑に落ちないな。コンラートは良いように操られているだけではないか?」 辺境伯の言葉に、商人たちは困った顔。 「そうかも知れませんが。このような暴挙が許されていいはずはありません」 「コンラート様にはもう少し分別の付く方だと思っておりました」 反乱軍に協力していた商人たちは一転してコンラートを批判する。 「噂によれば、ここ最近南部で発生している誘拐事件も、神によって天国へ連れて行かれたと、ロンバルールから吹き込まれているそうで、コンラート様はそれを本気で信じこんでいるとか。全く話になりません」 「ふむ‥‥」 辺境伯が商人たちの話を聞いていると、文官が報告書を持ってやってきた。 「どうしたか」 「は、また反乱軍の占領地域に近い町が、アヤカシの攻撃を受けていると報告が」 北でハインリヒ・マイセン(iz0104)上級騎士卿が、反乱軍とアヤカシの攻撃を受けていると知らせが入ってきていた。辺境伯は身動きが取れない。厳しい顔つきで報告書に目を落とすと、辺境伯は開拓者ギルドに依頼を出すのだった。 ‥‥攻撃を受けている町は、侵入してきたゴブリンスノウの集団から逃げ惑う人々で混乱していた。 男たちの一部は武器を手にゴブリンと戦っていたが、屈強な雪男のアヤカシが現れると瞬く間に蹴散らされた。 ゴブリンスノウは力の弱い女や子供、老人を狙って引きずって行く。 「た、助けて!」 抵抗する女に、ゴブリンのリーダー格が残酷な笑みを浮かべる。 「クカカ‥‥お前たちは幸運だぞ。お前たちの恐怖と苦痛が、あの方の力となる。さあ来い!」 北の大地に、民の悲鳴がこだました。 |
■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
久万 玄斎(ia0759)
70歳・男・泰
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
荒屋敷(ia3801)
17歳・男・サ
エアベルン・アーサー(ia9990)
32歳・男・騎
オラース・カノーヴァ(ib0141)
29歳・男・魔
フィーナ・ウェンカー(ib0389)
20歳・女・魔
アレーナ・オレアリス(ib0405)
25歳・女・騎
紅狼(ib0589)
20歳・男・魔 |
■リプレイ本文 雪原を見渡して――。 「ジルベリアは寒いどすなぁ。まぁ、その土地の季節を感じるのは風流でよいどすが」 言ったのは華御院鬨(ia0351)。白い吐息が漏れる。 「アヤカシの人さらいが横行してるようどすが‥‥」 葛切カズラ(ia0725)は胸の内で問うた。各地で攫いまくってる様だけどこの国の大アヤカシへの生贄にでもしたいわけ? まあ、疑問は置いといてお仕事よね! 「何を考えているのか知らないけれど、ま、上位のアヤカシへの生贄か、いずれにしてもおぞましいことになっているのでしょうよ」 カズラの瞳に冷徹な殺気が宿る。 「へ、ヘックション。うう、寒いのは年寄りには堪えるわい」 老泰拳士の久万玄斎(ia0759)は、持ってきた古酒を少し飲み体を温めていた。 「どうじゃ、お主も一杯やらんか」 「終わったらね、久万さん」 カズラは言って、久万の勧めを丁重に断った。 「反乱のどさくさにまぎれて民をさらうとは!」 闘気を全身にまとうのは焔龍牙(ia0904)。 「許せる所行ではないな! 一気に片をつける!」 沸騰する怒りを全身から爆発させ、しかし冷然と雪原の先を赤い瞳で見据えた。冷静沈着な若き志士である。 荒屋敷(ia3801)は内心でぼやいていた。ったく、ジルベリアは寒くてたまらんぜ、早く神楽に戻って、暖かいおでんが食いたいぜ‥‥。 「ったく、この戦も気が滅入るようなもんだが、まあそうも言ってられんか。民がアヤカシの餌食になるのは、天儀だろうとジルべリアだろうと、変わりないってことだわな」 「ふん! アヤカシが誘拐など笑止千万! 更に弱者を優先するとは最早一切の容赦は無用のようだな!!」 依頼中なので性格が変化中のエアベルン・アーサー(ia9990)。普段は豪快なただの大男だが、れっきとした騎士であり、開拓者の仕事を受ける時はいわゆる騎士道精神に充ち溢れた性格に一変すると言う。 「民よ! 待っていろ! 今行くぞ! このアーサーが必ずや救って見せるぞ!」 オラース・カノーヴァ(ib0141)は感情を込めて口を開く。 「アヤカシの攻撃か‥‥この国にも相変わらず人外の影がある。‥‥俺には俺の為せることを為そう。目の前で傷つく人々を見捨てるわけにはいかない‥‥」 「アヤカシ風情がいっちょ前に人攫いなど。身の程という物を分からせてやるとしましょう」 フィーナ・ウェンカー(ib0389)はそう言って、厳しい顔を覗かせる。 「アヤカシの目的が何であれ、所詮人とは相いれない怪物どもです。あのような怪物どもの企みは、断じて阻止です。所詮は人外の化生、あのアヤカシどもは死すべしです。全く、死すべしです」 フィーナは卑劣なアヤカシの所業に、思わず痛烈な言葉が漏れる。 アレーナ・オレアリス(ib0405)はかの反乱軍の参謀を怪しんでいた。ロンバルールだっけ? 意図的にアヤカシのことをコンラート殿に隠しているなら、何か胡散臭い人物だな。 「兎も角、救おう、其処に救うべき人たちがいるのだから」 ロンバルールがあからさまに怪しいと言うのは多くの人々が思っていることであろう。反乱軍を支える豊かな軍資金、伝説のオリジナル・アーマーをコンラートに与え、果てはアヤカシの動きを読んだ、誰もが疑いの眼差しを向けるのは当然であろう。ともあれ、コンラートはあの老人のことを賢者と慕っており、反乱軍の中でも事実上ナンバー2の位置にいる。 「さぁ〜て、ワイの初依頼ぱぱっと活躍したろうやないかぁ」 言ったのは駆け出し魔術師の紅狼(ib0589)。実にこの依頼が開拓者となって初めての依頼である。 「ワイのやることゆうたら雪男さんを退治することやなぁ、ほんま近寄られたら終わってまう‥‥常に離れておかんとな。呪文は威力にはまったくをもって自信ないんやけど‥‥その代わりと言ってはなんやけど練力のタンクとしては結構自信あるんや、容赦なくサンダーぶっ放しちゃるぜ!」 紅狼は溌剌としていた。これから長い旅路が紅狼を待ち受けているだろう。 ――開拓者たちは雪原を走った。そうして、アヤカシの攻撃を受けているという件の町に到着する。 開拓者たちは、民が南へ連れ去られていると言うことから、それを防ぐために町の南から回り込んで進入する。 「あれは‥‥!」 ゴブリンスノウたちが、民を引っ立てて行く。 「早速お出ましどすな」 「片づけるわよ」 開拓者たちは駆け出した。 「――待てい! ゴブリンども! このアーサーが来たからには逃がしはせん! 民を置いて行け!」 ゴブリン達は、10人の開拓者相手に分が悪いと踏んだのか、さっさと町中へ逃げ込んでいった。 「大丈夫ですか」 捕らわれていた女子供たちが崩れ落ちる。 「安心めされよ! 我らは開拓者だ! 助けに来ましたぞ! アヤカシの横暴は私達が食い止めて見せる!」 「開拓者‥‥そうですか‥‥良かった」 「町の中はどうなっていますか」 「男たちがスノーマン――雪男と戦っていますが、とても勝ち目があるとは思えません」 アレーナは思案顔で女性の顔を見つめた。 「ゴブリン達に誘拐された人々は‥‥今はどのくらい無事ですか」 「分かりません‥‥何しろ急なことでしたから‥‥」 「いや、見たところ、町から出てきたのはあなた方が最初のようだ。周囲にゴブリンの影は無かったですから」 「では‥‥今は、町中はゴブリンの巣窟になっているでしょう。アヤカシの襲撃で町はパニックですわ」 「分かりました。あなた方は差し当たり町から離れて下さい」 開拓者たちは民を下がらせると、町中へ入って行く。 「ゴブリンスノウったってたかが小鬼だろうが‥‥! うおおおおおおおおおおお!」 荒屋敷は咆哮を解き放った。 民を襲うゴブリン達が引き寄せられて集まってくる。 「来るぞ! 支援を頼むぜ!」 荒屋敷は斧を振り上げて、ゴブリンに振り下ろした。敵の鎧ごと粉砕して、斧がゴブリンを貫く。 「おおおおおお‥‥天罰を受けてみよ! せいやあ!」 アーサーの一撃に吹き飛ぶゴブリン。 カノーヴァはホーリーアローで支援攻撃。聖なる矢がゴブリンを貫通して撃ち倒す。 「食らえ、サンダー!」 フィーナが腕を一振りすると、ゴブリンの体にばちばちっとスパークが走る。サンダーの閃光がゴブリンを包み込む。 アレーナは白弓を引き絞って矢を解き放った。矢は空を切り裂き、ゴブリンを貫通する。 ――ガオオオオオオオオオオ! ゴブリン達は威嚇して武器を振り回すが、開拓者たちは容赦なく叩き潰した。 アレーナは刀を抜くと、突進する。冷たい瞳でゴブリンを見据えて、刀身を一閃する。凄絶な一撃がゴブリンの腕を吹き飛ばした。 ゴブリンを文字通り圧倒する開拓者たち。一般人でも武装してさえいれば戦える相手だけに、開拓者たちが遅れを取る相手ではない。次々と打ち取られて、瘴気に還元していくゴブリン達。 「荒屋敷殿、咆哮を抑えて下さい。少しは逃がし、リーダーのもとまで泳がせましょう」 アレーナが言って、荒屋敷は「了解」と応じる。 「んじゃ、俺はゴブリンの後を少し追ってみるぜ」 荒屋敷は、逃げていくゴブリンの後をついて走り出した。 「よし! みんな、まずは避難だ! 手近な建物に身を隠そう! 安全が確認でき次第、町から離れるぞ!」 アーサーは、民に呼び掛け、避難誘導を開始する。 カノーヴァは避難を手伝いながら、周囲に警戒を配っていた。 「私達も、荒屋敷殿の後を行きましょう」 アレーナが言うと、フィーナは頷いた。 「そうですね‥‥まだ民が捕まっているでしょうし」 「ああ、ここの誘導はアーサーに任せるか、俺も前に進むとしようか」 カノーヴァの言葉に、アーサーは「任せろ」と答える。 そうして、カノーヴァ、アレーナ、フィーナらも、ゴブリン達の後を追って走り出した。 残ったアーサーは、民を見渡し、怯える子供を肩に乗せた。 「どこか、みんなが避難できそうな建物は‥‥」 アーサーは民を先導して歩いていく。大き目の建物を見出して、そこへ民を避難させていく。 「しばらくここで待ってくれ。様子を見てくる」 「騎士様お気をつけて‥‥」 アーサーは人々に軽く手を振ると、東へ抜ける道を探した。 寒々しい空気に乗って、どこからかアヤカシの咆哮が流れてくる。アーサーは警戒しながら進む。 「よし、行けそうだな」 町の出口を確認して、アーサーは戻った。 「大丈夫だ。みんなひとまず逃げるぞ。俺に付いてきてくれ」 「アヤカシは‥‥本当にいませんか」 「今はいない。大丈夫、俺が護衛に付く、安心してくれ」 アーサーは民を率いて脱出。近くの安全な場所まで護衛した。 「この辺りで良いか‥‥みんな! ここで待っていてくれ! アヤカシを退治したら、また戻ってくるからな!」 民の不安そうな顔を、アーサーは元気づけた。 「みんなを助けて必ず戻ってくる! 大丈夫だ! 俺たちの強さを見たろう? ゴブリンに遅れを取ることは無い!」 アーサーは自身の胸を拳で打つと、民を安心させるように頷き、町の方へ戻って行った。 ――ガオオオオオオオ! 傍若無人を振るうゴブリン達を、鬨は恐れることもなく切り掛かって行く。愛用の脇差を抜くと、ゴブリンを一刀両断した。 「そう簡単には行きませんどすえ」 と、ゆらり‥‥と大きな影が近付いてくる。 鬨はすっと目を細めた。 「噂の雪男どすか」 雪男は毛むくじゃらの巨人で、醜悪な顔に牙を生やしていた。 「オオオオオオオ‥‥」 雪男は邪悪な瞳を鬨に向ける。 ゴブリン達が、わめきながら雪男を突いてけし掛ける。雪男は悲しげな悲鳴を上げると、前に出てきて、咆哮して鬨に襲い掛かって来た。 ドン! と雪男は爆発的な突進力で前進してきた。 鬨は、たんっ、と雪男のパンチをかわしつつ、脇差を撃ち込んだ。ザシュウウウウ! と雪男の頑丈な肉体が切り裂かれる。 「ギャオオオオオオオ!」 「あら、すみません。痛かったどすか」 雪男のもの凄い勢いで振り回されるパンチを鬨は回避して、確実に攻撃をヒットさせていく。 「浄化の一撃、受けて見ますか」 鬨は武器に精霊力をまとわせると、白梅香を撃ち込んだ。シュウウウウウウウ‥‥と、切り裂かれた雪男の肉体が浄化の力で消失していく。 絶叫して胸をかきむしる雪男は、もんどりうって倒れる。やがて、雪男は黒い塊となって崩れ落ち、瘴気に還った。 ――カズラは焙烙玉を装填すると、ゴブリンに向かって投げ込んだ。 「それ! 受け取りなさいよ」 ドカーン! と爆発がゴブリンを粉々に吹き飛ばした。一撃で瘴気に還元するゴブリン。 襲い掛かってくるゴブリンに斬撃符を撃ち込み、距離を保って焙烙玉を投げ込んだ。 と、ゴブリン達が雪男を前に出してくる。ぎゃあぎゃあとわめきながら、雪男を突いて前進させるゴブリン達。 「雪男ね、おいでなすったわね」 カズラは符を装填すると、斬撃符を連発した。鏃に変化した式が、神風特攻する。 ズキュウウウウウウン! と式が雪男を貫通する。一撃で雪男の腕が吹き飛んだ。 突撃してくる雪男と、カズラは互角に渡り合う。雪男の剛腕を、カズラの細い腕が受け止めた。 「そう簡単に折れると思ったかしら」 至近距離からの斬撃符の連打。雪男は滅多滅多に切り裂かれる。 「グオオオオオ――!」 悲鳴を上げる雪男の振り回される拳を受け止め、カズラはさらに斬撃符を撃ち込んだ。 そして――ついに雪男の首が飛ぶ。活動を停止した雪男は、瘴気に還って行く。 ――久万もゴブリンを蹴散らし、雪男との遭遇に臨んでいた。 「かっかっか、雪男もそんなものかのう」 雪男の大振りな攻撃をことごとく回避し、拳を叩き込んでいく。 「ふ〜〜〜〜〜〜ひょう!」 久万は空中で回転しながら裏拳を叩き込んだ。 ドッゴオオオオオオオオ! と雪男は大地に顔から叩きつけられて、地面にめり込んだ。 ゴブリン達は恐れをなして後退する。向くりと起き上がった雪男は、首がねじ曲がっていた。 「オ‥‥オオオオオオ‥‥グウウウウウ!」 首を強引に元に戻すと、雪男は突進してきた。 と、久万はバックステップで距離を保つと、腰を落として肩に力を入れると、雪男に向かって突進した。隊拳士の体当たりスキル、鉄山靠。 直撃――! 久万の肩が雪男にめり込み、突き抜けた。吹き飛ぶ雪男の半身。 無残な姿になり果てた雪男は、崩れ落ちて瘴気に還った。 「人を引きずって行くな!」 怒れる龍牙はゴブリンに切り掛かった。ゴブリンは恐れをなして民を離した。 「見逃す訳にはいかん!」 龍牙はゴブリンを串刺しにする。 「ガオオオオオオ!」 そこへ出現する雪男。 「龍牙はん!」 紅狼は身構えると、サンダーを撃ち込む。 雪男を包み込む電流のスパーク。雪男はよろめいて態勢を崩す。 「雪男か! 新たに習得した平突、お前で試させてもらうぞ!」 スキル「炎魂縛武」と「平突」を使用して攻撃。槍を水平に寝かして、炎魂縛武の炎が槍を包み込む。 「行くぞ!」 ぎゅん! と加速した龍牙の一撃が雪男の足を貫いた。吹き飛んで砕け散る雪男の膝。雪男は絶叫して崩れ落ちる。 「さすがやな龍牙はん。んならワイもサンダーの連射で行かせてもらうで!」 紅狼は倒れて暴れる雪男にサンダーを連打した。 バチバチ! バチバチ! と電流のスパークが雪男の肉体を焼き尽くしていく。 「お前の雪と『焔龍』の炎! どちらが強いかな?」 雪男の体に乗ると、槍を構えて、炎魂縛武で振り下ろした。 槍が雪男の胸板を貫通する。びくん! と雪男は一瞬跳ね起きるように上体がのけぞると、黒い塊となって崩れ落ちていき、瘴気に還った。 ‥‥物陰から開拓者たちの奮戦を見ていたのはゴブリンスノウのリーダー。 「ケケ‥‥くわばらくわばら‥‥あんな連中がやってくるとは、部下には気の毒だが、俺の目くらましになってもらおう。俺様は退散よ」 振り返った先に、カズラがいた。 「ケケ‥‥!?」 「見つけたわよ。で? 何だってこんな事してんの? 素直に吐けば楽にしてあげるわよ」 「クカカ‥‥何の話だ」 「人さらいよ。目的は?」 カズラは呪殺符を構えた。 「カカ‥‥そんなことを言ったら俺様とてただでは済まん。あの方は‥‥」 ゴブリンリーダーは突進してくると、カズラの斬撃符を受けながらもジャンプして飛び越えた。が、続く一撃に、足を吹き飛ばされた。 「それで?」 「カカ‥‥! 殺せ! 殺すがいい! 俺一人死んだとて、何も変わらん!」 荒屋敷やアレーナが集まってきたが、ゴブリンリーダーは何も語らず。最後にアレーナがその首を刎ねた。 その後、開拓者たちはゴブリンを殲滅し、無事に町を守り抜いた。 「ひとまずは撃退したか」 アーサーは、最後のゴブリンを倒して空を見上げる。 「さて、民を迎えに行かなくてはな」 アーサーは歩き出した。 |