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■オープニング本文 天儀本島、武天国、龍安家の収める土地、鳳華――。 首都の天承は、一応の治安を保っている。シノビが随時監視に付き、巫女らが結界でアヤカシの侵入を二十四時間体制で見張っている。 龍安家頭首の龍安弘秀は、風の便りにジルべリア帝国の反乱事件を聞き、遠い異国の地で起こっている戦に「アヤカシが跋扈しているのはかの地も同じか」と述懐した。 ここ最近、鳳華の戦は束の間の小康状態にあったが、東の大樹海――魔の森が活性化し始めているという認識は、民から兵卒、武将連にいたるまで、等しく持っていた。東から散発的なアヤカシの攻勢は毎日のように起こっており、最前線では緊迫した空気が張り詰めていた。すでに北に天幽、東に黒太天と、二体の強力なアヤカシの将が確認されている。 弘秀は各地からの報告に目を通しながら、兵員の状態に気を配っていた。 そして、その日、一つの凶報が飛び込んで来る。 龍安家武将の老骨、栗原玄海が弘秀のもとを訪れた。沈痛な面持ちで。 「お屋形様‥‥」 「玄海か」 「東の城塞、成望にて、アヤカシと交戦していた緋村天正が、討ち死にしました」 「何? 緋村が」 弘秀は腰を浮かせる。 「成望と言えば、ここ最近、朱神の軍と対峙していたはず」 「緋村を討ったのは、天壬王です」 「何だと」 その名を聞いて、弘秀はきつく拳を握りしめた。 ――東の城塞、成望。 傷ついた兵士たちがあちらこちらで手当てを受けていた。成望に駐屯する100名の兵の内、10名余りが直前の戦闘によって帰らぬ人となっていた。 その被害を出したのは、突如として魔の森から姿を見せた獣アヤカシの将、天壬王である。かつて鳳華で猛威を振るったとその名前は記録が残っている。 「天壬王、東に獣の群れを率いて、動きません」 兵士は望遠鏡でアヤカシの群れを確認する。 「朱神は」 緋村天正が死んで、後を継ぐサムライ大将の野坂が血を拭いながら問うた。 「朱神は獣たちを率いて前に出ています。この城塞に止めを差すつもりでしょうか」 「緋村様始め、多くの者たちが命を掛けて殿を務めて下さった。成望を守れと‥‥ここを明け渡すわけにはいかん。アヤカシを止める」 そこへ伝令の兵が入ってくる。 「援軍が到着しました! 味方が来ました!」 「そうか‥‥」 だが野坂の顔は浮かない。彼は感じ始めていた。このままアヤカシの数が増え続ければ、いずれ兵は尽きると‥‥。 アヤカシ軍陣中――。 一頭の見事な白毛の獅子がいた。とてつもなく巨大で、優美な白い獅子である。その名を天壬王と言った。 「狩りは‥‥心を震わせる。それがたとえ残酷なものであっても‥‥」 天壬王の瞳には、深い思考の閃きがあった。 「天壬王様、攻撃の号令を。城塞、成望の最後の時が来ました」 巨体を揺らしたのは、装甲をまとった赤い大イノシシのアヤカシ、朱神である。 「龍安軍は兵を整えたようですね‥‥さて、龍安弘秀、どこまで耐え忍ぶことが出来るでしょうか」 「天壬王様」 「朱神‥‥分かっていますね。ただ滅ぼすのは容易いことです」 「承知しております。ただ、あの城塞は今回で陥落させましょう。そろそろ、その後ろにある里に攻撃を。天幽様と黒太天様も出陣されている今、後れを取るわけには参りません」 「良いでしょう。好きになさい‥‥」 そうして天壬王は、歩き出して咆哮する朱神を見送る。 「朱神よ‥‥あなたの力で、本当にあの城が落とせるでしょうか‥‥」 天壬王の瞳は、静かに光を放っていた。 |
■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116)
12歳・女・巫
ザンニ・A・クラン(ia0541)
26歳・男・志
真田空也(ia0777)
18歳・男・泰
鬼啼里 鎮璃(ia0871)
18歳・男・志
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
浅井 灰音(ia7439)
20歳・女・志
八神 静馬(ia9904)
18歳・男・サ
御形 なずな(ib0371)
16歳・女・吟
紅狼(ib0589)
20歳・男・魔 |
■リプレイ本文 アヤカシの咆哮が東方から響いてくる。龍安軍の兵士たちは、束の間顔を上げて、その叫びに耳をすませた。 サムライ大将の野坂は、東の城門前で続く作業を見やりながら、堅く拳を握りしめた。 「あの方が倒れるとは‥‥まだご存じではないでしょう」 野坂は、鈴梅雛(ia0116)に言った。 「何を?」 「かつて、鳳華の混沌期に名を残した七人のアヤカシの将がいるのです。七魔将とも呼ばれたアヤカシの将たちです。天壬王はその一人」 「七魔将ですか」 「天幽、黒太天、天壬王、骸天羅王、侯太天鬼、天晋禅、そして、在天奉閻と言う名のアヤカシたちです。かつて鳳華の混沌期に多くの被害を出しました」 「そんなアヤカシが‥‥」 「二十年近く経つのに、まだ東の大樹海で生きていたのです」 ザンニ・A・クラン(ia0541)は、兵士たちに作業を指示していた。丸太を加工しての杭作りと、それらの東門周辺設置。同時に柵の設置を進めて行く。 それから、東門の前の地面を馬鋤で耕し、踏ん張りが利かないようにしていく。 「そっちも頼むぞ」 また、火矢による火計の鍵になるであろう、油の散布作業も行って行く。 真田空也(ia0777)もまた、開戦までの時間を利用して、迎撃準備を進めて行く。取り組んだのは柵の設置。障害物を設置して、アヤカシの突進に備える。朱神軍が突っ込んでくる方向に向けて、尖らせた丸太を配置する。真田もまた、それらの設備に油や火薬を撒いておいて、火計にも利用するつもりである。 特に東側の柵はWの字に配置し、柵や罠、火計を避けて突入しようとしたアヤカシが渋滞を起こすように配置する。 「こうしておけば、突破力のある猪が助走し難くなるし、何より東側で一度に相手する量が限定できるはずだ」 「朱神の突進を成望からできるだけそらし続け、その間に他のアヤカシ達を退治する形は如何でしょうか?」 玲璃(ia1114)の提案は基本方針に盛り込まれる。朱神の突撃を逸らし続けると言うのは異論は出なかった。 「まずは東門の前を固めることが重要になるかと思われます」 龍安兵に指示を出して、丸太を加工し杭や棘状の柵を作成していく。仲間達や龍安軍と相談の結果、東門の前に杭や柵を備え付けて行く。 「アヤカシ軍突撃の前までに、可能な限り配置していきましょう」 朱神が最初に突進で破りそうな、城門前の柵の中に焙烙玉を仕掛ける。周囲になるべく広範囲に紐を巡らせ、火のついた松明を紐にぶら下げておき、朱神が紐を切ったら松明が落ちるよう細工する。焙烙玉の導火線に火がつき、朱神が焙烙玉のある柵を破った瞬間に焙烙玉が爆発し、朱神周辺のアヤカシ達を薙ぎ払うと共に朱神に『柵にしかけがある』と思わせる事で朱神が柵を避けるか、朱神が他のアヤカシ達を通す為、積極的に柵を破壊するようになるか、どちらになっても朱神が突進速度を緩めたり突進を柵に向ける事で、成望への突進を遅らせられるように。うまく朱神が立ち止まれば時間を稼ぐことは出来るだろう。 「人語を解する猪のアヤカシ、朱神。その突進力は城壁をも一撃で破壊する、か。面白いじゃないか、相手にとって不足はないよ。とはいえ、私はあくまで客将の身、あまり派手には動けないか」 浅井灰音(ia7439)は言いつつも、策を提案する。 まずは弓術士部隊と自身の配置、作戦について野坂と弓術士の隊長に提案する。 雛が野坂に口添えした。 「野坂さん、ひいなからも浅井さんの提案を聞いて下さるようにお願いします」 「聞きましょうか」 「ありがとう雛さん」 弓術士部隊は櫓にある程度分散して配置。火計を行う為の火矢用の矢の準備を出来る限り大量に用意をする。火が延焼しやすいように敵の侵攻ルートに油を撒いておく。 朱神率いるアヤカシ部隊の姿を確認したら弓術士隊長の指揮の元、弓術士部隊と共に弓を用いて火矢を一斉に仕掛ける。その勢いを衰えずに射掛け続け、火矢が尽きても通常の矢を射掛け続け朱神よりも周囲の配下のアヤカシの勢いを削ぐことと数を減らすことを試みる。 「弓隊には朱神以外のアヤカシの勢いを殺してもらいたい。別動隊が後で加勢してアヤカシ勢を押しつぶす」 「詳しく聞いた方がよさそうですな」 僕はまだまだ未熟だけど彼が守ろうとしたものを、アヤカシから守れれば少しは喜んでくれるかな‥‥。八神 静馬(ia9904)は亡くなった緋村の無念を思い、心中に呟く。 八神が叩き台を出して、兵力配分は整えられた。 「別働隊による撹乱を行います。東門前方には主力を置き打って出ます。本隊で敵を潰していき背後からの別働隊との挟み撃ちと見せて一時撤退を狙う。西門は前衛や射撃による迎撃で城壁を活かし砦を守る戦いを。水門は閉じ水路を満水にして通れなくします」 「別動隊との挟撃ですか。朱神をどうにか足止めする必要が出てきますな」 「そこは、猪の突撃を防ぐ為サムライに大盾を持たせ、受け流して攻撃に転じます。少しでも前線維持する為に、消耗した兵は第二陣と交代させ、回復後に前線へ送り、三陣を回転させます」 「実際にうまくいくかどうかは、敵の出方次第ですな」 「敵の隊列や連携を乱す為に、火計の段取りや油の準備も進めて頂きたく思います。火でアヤカシが怯えるか否かは別にして、体が燃えれば冷静じゃいられないと思うんだ」 「‥‥目くらまし程度ですかな」 「牽制にでもなれば。後は、砦を守る為に東、西門には二重に柵を設けたいと思います」 「そうですな。砦の防備を固めるのは良いでしょう」 御形 なずな(ib0371)は吟遊詩人。旅の吟遊詩人に影響されてこの道に進んだ天儀の女の子。天儀でこれほど大きな戦に参戦するのは初めてのこと。 「天儀でこれだけ大きな戦ははじめてだな。ジルべリアの内乱とは違って相手は完全にアヤカシだ。思い切り行かせてもらうで」 なずなはリュートをつま弾きながら、戦場の一角にいた。兵士たちは、吟遊詩人の不思議な演奏に耳を澄ませていた。 「朱神さんとやらは凄い勢いで来るみたいやなぁ、紅狼(ib0589)さんも頑張らな」 紅狼は陣中にあって、戦の緊迫感に身を任せていた。 「紅狼さんは魔術師や。よろしゅうな」 「魔術師とは‥‥初めて見るが。異国の術士だそうだな」 「ああ、生まれはジルべリア帝国の術士やな。あっちでは教会関係で何かと厳しいんやで」 「教会?」 天儀にも再興された教会はあるが、兵士たちは余り関心が薄かった。 「まあそんな話はええんや。俺もこの戦が終わった後には家臣に取り立ててもらえるように申請して見るつもりや」 鬼啼里 鎮璃(ia0871)と鈴木 透子(ia5664)は、野坂に意見を具申していた。 「野坂殿、ひとまず鈴木さんの話を聞いてくれないかな」 鬼啼里は野坂に言って、鈴木は思考を巡らせる野坂に進み出た。 「城外で戦う別動隊を指揮させてもらいます。志士25名、泰拳士20名、巫女4名を借りうけます」 野坂は話を聞いていた。 「この戦いを終らせるには、城門を簡単に壊せる朱神を倒すか、占領を諦めさせるかのどちらかしかありません。あたしが狙うのは後者です。城の外で自由に動ける限り、朱神は城門を壊すチャンスを持ち続けます。それを何とかするには、外に出るしか無いと思います」 「別動隊を指揮する旨は承知した」 「私たち別働隊は成望の西側に待機します。まずは先手を取り朱神軍の背後から攻撃を仕掛けます。攻撃したら即逃げます。偵察隊がやむ得ず戦った様に装い、援軍がまだ他にいる様に思わせるのが目的です。敵の注意がこちらに向き成望の攻撃が弱まれば幸い」 「なるほど、そこまで考えていましたか」 「龍安軍の旗や幟を沢山借りることは出来ますか。兵士たちの古着も。朱神軍が成望を攻撃を開始したら再び攻撃を開始します。今度は借りた旗や幟を立て、背後では古着を干して大量の人の臭いを発し、大軍を装って西から朱神軍の横腹を攻撃します。それから背後に周りこみ別働隊と成望の城砦とで挟んで押しつぶす形をとります」 「承知した。八神殿の話が分かりました。では、正面は我々が引き受けましょう。別動隊は鈴木殿にお任せします」 「ありがとうございます」 と、城門前を固めている龍安軍のもとへ、アヤカシ軍の前進の報が入ってくる。 「来たか。では、作戦に従って行動を開始しよう。鈴木殿、よろしく頼みます」 「はい」 「朱神がやってきます。いよいよですね」 雛が駆けて来た。 「朱神を迎撃する! 全軍配置につけ!」 太鼓と角笛が吹き鳴らされ、軍旗が振られた。龍安軍は迎撃の位置に付いていく。 ――ガオオオオオオオオオオ! アヤカシ軍は朱神を先頭に突進してくる。獣たちの爆発的な突進力で城塞に押し寄せる。 その背後から、待ち伏せしていた鈴木らが攻撃を仕掛ける。鈴木は馬上から号令を下した。 「よし、行くぞ。最初から本気モードで行くぜ! 敵の出足を鈍らせる!」 空也と鬼啼里も兵士たちと突進する。 駆け抜けるアヤカシ軍の背後を取るのは難しく、半ば斜め側面からの奇襲となる。 楔が撃ち込まれるように、別動隊の一撃が撃ち込まれる。 「何だ?」 異変を察知した朱神は足を止め、獣たちを率いてやってくる。 「伏兵か‥‥小細工を」 朱神は前に出てくると、龍安兵を次々と吹っ飛ばした。 「さすが半端ないな」 空也と鬼啼里は唐辛子の塊を朱神の顔面にぶつけたが、効果はなく、逆襲を受けて痛打を被った。 「即時撤収です」 鈴木は反転すると、空也と鬼啼里らもあたふたと逃げ出した。 追撃しようとする獣たちを、朱神は咆哮で止めた。 「ふふん‥‥俺を罠に掛けようとしても無駄だ。龍安軍の兵力は把握している。奴らに小細工をする余裕はないはずだ。正面から粉砕する。行くぞ!」 ――ガオオオオオオオオオオオオオ! アヤカシ軍は成望目がけて突進していく。 櫓の上から、浅井は望遠鏡で突進してくるアヤカシの群れを確認する。 「敵が来るよ」 弓隊の隊長に望遠鏡を手渡す。 「よし、火矢を用意! 合図とともに一斉射撃!」 きりきり‥‥と、弓術士たちは矢を引き絞った。 「――ってえ!」 即射を使って次々と100を越える矢が撃ち込まれる。 着地した火矢から、油に引火して、地面から炎が爆発するように立ち上った。 「――ぬっ!?」 朱神は目をすがめて、炎に突っ込んでいく。 「火など! 効くか! 突撃!」 ――オオオオオオオオオオオ! 朱神の咆哮に応えて、アヤカシたちが雄たけびを上げる。 突撃するアヤカシの戦列を、爆発が襲う。 玲璃が仕掛けた焙烙玉が各所で炸裂する。それでも、アヤカシの大軍は炎を突き抜けて、突進してくる。 そして、龍安軍が敷いた防備の策や杭に激突する。W字に備えられた防護柵がアヤカシの前進を吸収する。各所でぶつかって、渋滞を引き起こすアヤカシの群れに矢が放たれる。 別動隊と合流した雛は、アヤカシの側面に回り込みながら移動していた。 「ここからはひいなも一緒に戦います」 「本隊が出るのと同時に、敵の側面を突きます。今度は腹に穴を開けてやりましょう」 「朱神が防備を突破してきます!」 「いよいよだな。全軍で迎撃するぞ。朱神の頭に集中攻撃を加えてやれ!」 龍安軍本隊は打って出て、朱神に突進していく。 なずなは勇壮な歌声を上げると、リュートを掻き鳴らした。吟遊詩人の歌声が龍安兵たちの力を増幅させる。 「俺には敵を薙ぎ払う剛腕はない。だが小手先を弄することは出来るな」 クランは兵たちとともに朱神ら、あふれ出てくるアヤカシの先端に立ち向かっていく。 「俺達が守るのは武人としての誇りじゃない、城塞を守り抜きその後ろの民を守る事だ」 八神も兵を率いて前進する。 「よっしゃー、紅狼さんも行くでー」 紅狼もアヤカシの群れに接近して行くと、フローズを朱神に叩き込んだ。続いてサンダーを熊に叩きつける。 「突撃!」 朱神目がけて突進する龍安軍。ドドドドドドドドドドオオオオオオオオオ! と怒涛のように朱神の巨体に攻撃を叩きつける。 「ぬおおおおおおお! 小賢しいわ!」 朱神は旋回してクランや八神たちもまとめて吹き飛ばした。 「さて、私もそろそろ行くよ」 浅井櫓から飛び降りると、弓隊に手を振った。 最前線に出た浅井は、狼を一刀両断すると、猪と激突。これを押し返して撃破する。 「あれが朱神か‥‥」 戦場を駆ける浅井。 「神楽舞‥‥速!」 玲璃は神楽を舞って、朱神に打ち掛かる味方を支援する。 浅井は玲璃の肩を軽く叩いて、支援を頼むと、朱神に突進した。 「行くよ! 化け猪!」 バスタードソードを流し切りで叩き込んだ。 玲璃の神楽舞と連携して朱神に一撃を撃ち込んだ。ドシュウウウウウ――! と浅井の一撃がめり込む。 そこへ、鈴木らが到着する。 防護柵で雑魚アヤカシの勢いは止めていた。突破されるのは時間の問題だろうが、その間に、突出した朱神を討ち取ることが出来れば‥‥。 「突撃!」 鈴木ら別動隊は側面からアヤカシ軍に襲い掛かった。旗や古着でカモフラージュして大軍を装って突撃する。 防護柵に押しつけるように鈴木らはアヤカシの群れを撃破して行く。が、さすがにアヤカシも数が多い。別動隊だけで押し切るのは難しい。 「まだだ‥‥! 朱神に集中攻撃を浴びせろ!」 野坂は合図を出し、軍旗が振られ、太鼓が鳴り響く。 「うおおおお!」 龍安軍は朱神に撃ち掛かって行く。浅井にクランと八神、紅狼らも朱神に突進した。 なずなが奴隷戦士の葛藤を歌い出すと、朱神の動きががくっと落ちた。 「何だこれは‥‥!」 「行け! 今だ!」 玲璃も神楽を舞い続ける。 次々と貫通する開拓者と龍安軍の攻撃が、朱神の装甲を打ち砕いた。 「何!」 「朱神! 今日はお前の命日だ!」 「抜かせ! わしを倒すことなど‥‥ああああああ!」 朱神の口から瘴気の波動が爆発して龍安兵たちをなぎ倒す。 それでも、兵士たちは朱神の足元に食らい付いた。 浅井の流し切りが朱神の足を一本吹き飛ばした。 「なっ!」 驚愕の声を上げる朱神が傾く。 「フローズ!」×4 紅狼が氷の魔術を撃ち込み、クランが、八神が、浅井が、龍安兵たちが朱神に切り掛かった。 ズタズタに切り裂かれていく朱神の巨体が――遂に活動を停止する。 「馬鹿な‥‥鳳華を畏怖させた‥‥俺が‥‥」 朱神はアヤカシがそうであるように、黒い塊となって崩れ落ちて行き、瘴気となって消失して行く。 ――オオオオオオオオン! 朱神の断末魔が轟き、アヤカシ軍は恐れをなしたように後退する。 やがて、朱神が消滅して行くのと並行して、アヤカシ軍は次々と逃げ出していく。 「勝った‥‥か」 なずなは茫然と立ち尽くしていた。戦の時間は走馬燈の明かりのように過ぎ去った。 かくして朱神を倒した龍安軍は、撤退して行くアヤカシ軍を見つめ、だが勝利に沸くでもなく、死んだ緋村天正を思い、静かに黙祷を捧げた。 |