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■オープニング本文 静と言う名の娘がいる。その昔、ギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)が開拓者だったころに、依頼でアヤカシの手から救った娘だ。静は武天の商家の家柄の生まれで、それなりに裕福な生活を送っていた。ところが、家がアヤカシの手によって全滅させられ、生き残った静は一人路頭に迷うことになる。 若き鉄州斎の苦い経験である。アヤカシの正体を見抜くことが出来ず、静の両親を始め、家の者を皆殺しにされてしまった。鉄州斎が静の家に戻った時には手遅れであった。唯一、生き残った静は、鉄州斎の手によって保護される。 その後、静はあちこちの商家を転々としていたらしい。静はまだ十代であったし、身寄りもなく一人で生きて行くには、苦労は絶えなかったであろう。鉄州斎には静がどんな思いで時を過ごしたか、今になってみると、少しは理解できる気がした。あれから時が流れ、鉄州斎も多くの人の悲しみを見てきた。 鉄州斎は文に目を落としていた。それは静からの頼りであった。どこで知ったのか、静は鉄州斎が神楽で相談役に付いていると聞き及び、頼りを送ってきたのである。そこには、つらつらと丁寧な筆致で、鉄州斎に救われてからの十年近くの空白を埋める静の人生が短くつづられていた。静は今、武天の町の商家に嫁いで、平穏な日々を送っていた‥‥と書かれていた。 だが、静は懐かしさを偲ぶために頼りを送って来たのではなかった。町に人切りのアヤカシが出没し、夜な夜な人さらいが頻発するようになったのだと言う。そして、静の子供が誘拐されたのだと書かれていた。「助けて下さい」と手紙には書かれていた。 鉄州斎は立ち上がると、ギルドに出ている依頼を調べた。 「これか‥‥人切りアヤカシ」 依頼書には、町に出現する人型アヤカシの目撃情報が書き込まれていた。それから、人さらいが横行しているが、役人が調査中であるとも。 鉄州斎が決断するのにそれほど時間は掛からなかった。現地調査とアヤカシ退治‥‥恐らくそう時間がかかるとは思えないが、静の子供のこと思うと、鉄州斎は彼女に何と言葉を掛けてよいか、適当な言葉が思いつかなかった。 それから鉄州斎は開拓者たちを集めると、神楽の都を出立するのだった。 |
■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213)
22歳・男・サ
まひる(ia0282)
24歳・女・泰
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
孔成(ia0863)
17歳・男・陰
アルカ・セイル(ia0903)
18歳・女・サ
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
瀧鷲 漸(ia8176)
25歳・女・サ
エグム・マキナ(ia9693)
27歳・男・弓
メグレズ・ファウンテン(ia9696)
25歳・女・サ
エシェ・レン・ジェネス(ib0056)
12歳・女・魔 |
■リプレイ本文 町に到着した開拓者たちと橘鉄州斎(iz0008)は、逗留する宿を求めて、町田屋ののれんをくぐった。 出迎えてくれたのは、たおやかな雰囲気の女将さんである。 「お泊りですか。旅の方でいらっしゃいますか」 「ああ、少し厄介になるぜ」 橘は言って、開拓者たちを顧みた。 「あら、随分と大所帯さんですね。11名様ですか」 女将は仲居を呼んで、部屋に案内させる。開拓者たちはそれぞれ部屋に入った。 それから開拓者たちは、まず町の役人のもとへ向かう。 町はそれなりの喧騒に包まれており、アヤカシの被害があるとは言え、ほとんどの人々は日常生活を送っていた。 「神楽の都からの開拓者か――」 事件を担当する与力が開拓者たちを出迎える。 「ギルド相談役の橘だ。こっちは開拓者たちだ」 「よろしく頼む」 「早速ですが――」 井伊 貴政(ia0213)は与力に尋ねる。 「とりあえず現状の把握から確認したいと思いますが」 「そうだな‥‥町に人切りが出没し始めたのがひと月ほど前だ。それから被害が多発して、多くの民が犠牲となった。まさか人切りがアヤカシであったとは、思いもよらないことだった。同時に、人さらいも発生するようになって、今、町の民衆たちは怯えている。まあ日中はそうでもないが、夜になると、いつアヤカシが襲ってくるのではないかと‥‥」 「捜査に何か進展はありましたか」 「いや、敵がアヤカシと言うこともあり、我々では正直持て余していたところだ。攫われた人々がどうなっているのか‥‥アヤカシはどこにいるのか。全く想像もつかん」 まひる(ia0282)は、思案顔で顎をつまんだ。 「人攫いねえ‥‥アヤカシならその場でボリボリってのが通例だろうけど‥‥そうでもないならどこか、運んだり目的に使うためにどっかに身柄を拘束してる可能性があるんじゃないの。で、人間運ぶのはただの荷物とは違う。遠くに運ぶとも思えん。この付近にあるんじゃないの?」 「そうかも知れん。我々も可能な限りは捜索して見たのだが‥‥余り危険な真似も出来んのでな。部下にアヤカシと戦えと言うわけにもいかんし」 「まあアヤカシのことは私たちが何とかして見るけど、捜索には協力してほしいのよね。何しろこれだけ広い町だし。私たちだけで探し当てるのは困難だわ」 葛切 カズラ(ia0725)はそう言って、肩をすくめる。 「私たちは町田屋さんで宿を取っているから、何かあったら知らせてもらえると助かるわ」 「町田屋か、承知した。すぐに知らせを持っていくよ」 「これだけ広い町ですからね。お願いしますね。私たちが直接にアヤカシを撃破出来ればそれに越したことはないのですが」 孔成(ia0863)がそう言うと、アルカ・セイル(ia0903)は不意に橘の方を向いて言葉を投げた。 「ところでさ橘。静への伝言を頼まれてくれないかな」 「伝言か。何だ」 「夜は決して家の外に出ないこと。戸締りはしっかりしておくこと。この二点をあんたの口から静に伝えてほしい」 「それは構わんが。お前は静に会わないのか」 「おじさんは静とは会わないつもりでね。あんたに任せるよ」 「ふうん‥‥そうか。まあ、そう言うなら引き受けておこう」 そこで、赤毛のルオウ(ia2445)少年が口を開いた。 「人斬りのアヤカシか‥‥赦せねえな! 相談役のおっちゃん、また世話になるぜー。俺は夜の聞き込みに回るつもりだけと、役人のおっちゃん達もまあそこそこに手伝ってくれよな! 危ないことがあったら、笛を鳴らして知らせてくれよ! 俺たちがすぐに駆けつけるからよ!」 「開拓者か? まだ子供じゃないか」 与力は驚いて橘を見る。 「ああ、こう見えて、こいつはギルド屈指の剣客でな。人切りアヤカシ相手には恐らくめっぽう強い。頼りになる奴なんだ」 「そうなのか‥‥? まあ志体持ちはしばしば年齢を飛び越えて発現すると言うからな」 「与力のおっちゃん、人切りには任せろい!」 「町と周辺の地図などがあれば見せてもらえるだろうか」 瀧鷲 漸(ia8176)は、ぶっきらぼうな口調で、与力に言った。 「地図か‥‥ちょっと待ってくれ」 しばらくして、与力は地図を持ってきた。 「いざという時に集合場所と探索時間などは決めておきたい」 漸の言葉に、仲間たちも頷いた。 「では全員集合を掛ける際には、この役場が丁度町の中心にあるから、ここにしないか」 橘が漸に提案すると、漸は頷いた。 「良いだろう。ちなみに私たちの町田屋はどこだ」 「町田屋はここだ」 与力は、地図上の「町田屋」と書かれた場所を指差した。 「近いな。ならば好都合だな」 「人切りアヤカシが人攫いをしている可能性があるのですよね‥‥指示をする中級以上がいる可能性が‥‥」 エグム・マキナ(ia9693)はそう言って、橘に確認する。 橘に、静が以前襲われたアヤカシについて確認しておく。 「――その昔の話ですが、配下などはいませんでしたか? 志体持ちでもない、街中に住む人が何度もアヤカシに関わる事が妙に気になりまして‥‥いえ、運が悪い、と言ってしまえばそれまでなのですが」 「今にして思えば、配下はいたように思う。人切りアヤカシではなかったが、同じように町中にアヤカシが出没していたな。結局黒幕は取り逃がしたのだが‥‥」 それからマキナは行方不明者の発見有無、捜査、警邏をする際の範囲、アヤカシが同時に複数発見される事があったかどうかを確認する。 「ああ‥‥今のところ、発見された行方不明者はなしだ。捜索範囲は、町の中とその周辺の村へ少し踏み込んだばかりだな。アヤカシが同時に複数発見されたことはない。まあ‥‥人切りが出るのが夜だから、もしかしたら同時に出現していることもあるかもしれんが」 「やはり手掛かりは少ないと言うところですか‥‥では、これからお願いしたいことがあるのですが」 「何か」 「開拓者との合同警邏と、呼子笛が聞こえた際の、開拓者達への情報伝達をお願いしたいのです。合図は‥‥今警邏の際に使用している内容はありますか? そちらを教えてください。‥‥横槍を入れるようで申し訳ありませんが、よろしくお願い致します」 「分かった、基本は町田屋へ知らせを向かわせることにする。後、合図だが、笛一回を等間隔で吹き鳴らすのが要警戒、笛二回を吹き鳴らすのが集合せよ、笛三回を吹き鳴らすのが緊急事態が発生したことを知らせるものだ。この辺りは共有しておくか」 「ありがとうございます」 長身の女サムライ、メグレズ・ファウンテン(ia9696)も、思案顔で頷いた。 「合図を共有しておくことは必要でしょうね。ことが起きた時は、爆睡中でも叩き起こして下さいね」 爆睡とは、サムライのスキルで、どんな状況でも必ず眠れる、効果時間中は目を覚まさないという便利スキルである。メグレズの他にも、貴政と橘が爆睡を活性化させていた。 「人攫い‥‥? アヤカシが人攫い‥‥って、攫ってどうするんだろう‥‥? 非常食とかだったら大変! 私は昼間の探索‥‥というか捜索を主に担当しますね。人を集めたい時は‥‥サンダーを撃てば大丈夫かな?」 魔術師の少女エシェ・レン・ジェネス(ib0056)の言葉に、橘は首を傾げた。 「さてな‥‥サンダーで合図と言うのは難しいかも知れんぞ。まあ夜なら目立つかも知れんがどうかなあ」 「そう、難しいですか‥‥」 ジェネスは一瞬肩を落として、それから口を開く。 「定期的な集合場所や時間を決めて、情報交換は必要でしょう?」 と言うわけで、時間と場所を確認する。 「あと、攫われた人たちの特徴とか、どんな感じですか?」 ジェネスの問いに、与力は攫われた十二人の似顔絵を持ってきた。 「みな共通点もなくて、ばらばらだ。攫われてひと月近くになる者もいる。もう死んでいるかも知れんな‥‥」 「状況は分かった。早速だが、俺たちもこれから捜索に加わるのでよろしく」 「うむ、よろしく頼む」 そうして、開拓者たちは役人たちと合同で調査を開始する。 まひる――。 香水つけたうえで街中を派手に移動しつつ、聞き取りしながらへこんでる人へは明るくフォロー。 「病は気から、アヤカシも気から、ってね。え? いわない?」 聞き取りには依頼内容と一緒にこの町で新しく入ってきた人や最近雰囲気が変わった人がいないかも聞いておく。 「人切りアヤカシが出る以外は、普通の町なんですよ。人切り‥‥恐ろしい!」 「ふむ〜」 カズラ――。 誘拐が目撃された地点や人切りが行われた地点。所謂犯罪現場に赴き近隣住民に当日の様子とその時の状況を聞き込んで、改めて状況の確認をしておく。ついでに浪人者がたむろしてそうな辺りや溜り場についての話も聞き込み。 「まひるさん」 「よおカズラ何か分かった?」 「浪人者のたまり場ってところへ行ってみようかと思うんだけど」 「浪人者か‥‥まさか昼間からアヤカシがいるとは思えないけどねえ」 二人は場末の酒場へ足を運んだ。 浪人たちをちくいち調べて回るが、さすがにアヤカシはいなかった。逆に浪人たちは噂の人切りを探していると聞いて恐れをなしていた。 「さて‥‥少し足を伸ばして見ない?」 「町の外へ? いいけど手掛かりはあるかな」 「勘かしらねえ」 それからカズラは、漸を誘って郊外の村へ向かう。 「何か当てがあるのか」 「ただ町に人を隠しているとも思えないし、だとしたら、まだ外の村、人気のない森とか廃屋に捕まっているかも。アヤカシがいるとしたら、少なくとも普段人里にはいないと思うのよね」 「それはもっともだが‥‥」 カズラたちは赴いた先で現地調査を行う。近隣の村民に聞き込みを行い、人気のない場所を探すが、当たりはない。 町へ戻ると、また地道な調査が続く。 孔成――。 行方不明者の捜索。役人が調査した情報等、できるかぎり聞き込み、町から離れた場所等できるだけ広い範囲を捜索する。 「最近、人切りアヤカシが出ませんでしたか?」 村民たちは顔を見合せる。 「町じゃ恐ろしいことが起こっているそうですね‥‥幸い村の方にはアヤカシは出ていないんですが」 「そうなんですか‥‥では、不審な浪人者を見かけませんでしたか?」 「いやあ‥‥見ないですねえ。お前見たか?」 「私も見覚えが無いです」 「そうですか‥‥ありがとうございます」 孔成は村を後にし、別の村へと足を運んだ。 漸――。 人気のない場所での行方不明者の探索を行う。また、逆に人が多くて、誰も不審に思わなそうな場所を探索する。 「ふむ‥‥手ごたえはなしか」 空き家に踏み込んだ漸は、暗がりの中を捜した。 それから町を出ると、森の方にで足を伸ばしたが、手掛かりはなかった。 マキナ――。 昼の町中を鏡弦を使いつつ、捜査するも反応はない。また周囲の農村でアヤカシについて聞き込みをするが、目撃情報はなかった。このアヤカシ、よほど用心深いのかもしれない。人があまり出入りしない場所を中心に捜査するが、アヤカシの反応はない。 「こうなると、夜は辛いですね‥‥いっそ、他の方に任せますか」 捜査後は町に戻り、他の開拓者と役人たちに農村で得た情報を伝える。 「さらわれた人数を考えると、街中で隠しきる事は出来ないはず。まだ生きているとすればこちらですが‥‥」 ジェネス――。 探す場所は、人通りが少なめであまり目に付かない所とか、逆に人通りが多いか出入りが激しいかで、人があまり他の人を気にしない場所――。 こっそり近付いて中を確認する。 「お前何してるんだ」 町外れの民家を覗き込んでいたジェネス。大家さんに見つかった。 「あ、ごめんなさい! 友達とかくれんぼしてたの!」 「かくれんぼ? 嘘言いな。見ない服装だね。よそもんかい」 「ごめんなさ〜い」 ジェネスは慌てて退散する。 それから夜になると、貴政、アルカ、ルオウ、メグレズ、橘たちが町に出る。昼間の調査に向かっていたまひる、カズラ、漸、孔成、ジェネス、マキナたちは宿で待機、仮眠を取りつつ万が一に備える。 「被害が世間に認識されている割に収まらないのは、動きを統制する別の者が居るのかも知れませんねぇ。目撃情報はなさそうですし、人に紛れてるのかな?」 貴政は疑念を漏らすが、今回の敵は狡猾らしい。姿がまったく掴めない。 人気の無い場所などを中心に、二人組で見回る。 「安否は分かりませんが、以前にアヤカシに攫われた人達が生きていた例はありますし、希望はあると思ってます」 「だよなあ」 ルオウが同感と頷く。 「何とかして助けてやりてえけど‥‥でも姿形も見えねえとは‥‥どうすっかな。何か打つ手あるか貴政」 「そうですね‥‥敵が動いてくれれば、と言うところですか」 「に〜、じれったいなあ。お、よお! 今、アヤカシが出て危ねえからさ! 早いところ帰ったほうがいいぜー?」 夜道を歩く町人にはルオウが大きな声で注意を促す。 メグレズも夜の町を歩いて人切りに備えるが、敵は出てこない。 「動きが無いとは‥‥忍耐比べでしょうか」 呼子笛が一回ずつ鳴り響いているが、アヤカシの出現情報はない。 メグレズは闇の中を見つめる。人切りと人さらいが連動しているなら、人切りが表で動く間に人さらいが行われるかもしれない。 アルカは静の家の周辺で警戒に当たっていた。 ――と、その時である。呼子笛が二回、三回と激しく同時に複数個所で鳴り響いた。 町田屋に待機する開拓者たちも飛び起きて、夜の町へ飛び出す。 「人切りだー! 人切りが出たー!」 どこか遠くで、騒々しい声が巻き起こる。 アルカは、周囲に警戒の目を向けていた。 と、着物を着た女が一人歩いてやって来るのを月明かりで確認する。 「おい、家に帰れ。今アヤカシが出た」 「知っていますよ‥‥」 女は小さく笑った。 アルカはとっさに飛びすさった。 女が素早く間を詰めて来たのだ。 「何だお前は‥‥」 「私の邪魔をするな」 女の氷のような声に、アルカは殺気を感じ、間近で見る女の風貌に、アヤカシであると確信する。血の気のない肌に、口許にのぞく牙、人外の瞳。 女は素早く襲い掛かってくる。速い――が、アルカには及ばない。アルカは拳を叩き込んで女を吹き飛ばした。 「ふん‥‥志体持ちか」 女は飛び上がると、民家の屋根に立ち、そのままいなくなった。 その頃、仲間たちは人切りアヤカシと交戦していたが、アヤカシは闇に紛れて逃げてしまった。 それから数日経ったある日のこと、町へ攫われた人々が数人帰ってくる。 「大丈夫かおい!」 憔悴しきった人々は、村の廃屋に捕まっていたのだと言う。アヤカシが見張りに付いていたのだが、数日前に忽然といなくなったと。 「どういうことだ」 橘と開拓者たちは、件の廃屋に急行した。捜索から漏れていた場所だった。 中に入ると、民がうずくまっていた。 「みんな無事か」 幸い死者はいなかった。奇跡である。 民を無事に保護して、ひとまず事件は幕引きとなったのである。 |