|
■オープニング本文 武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。 魔の森へ後退して二カ月の時を過ごした鳳華の七魔将が一人、幽霊の将「天幽」は、沈思の中にいた。 この二カ月で、大都市凱燕の近郊に点在する村々の制圧は順調に進んでいた。しかし、龍安軍もよく耐え凌ぎ、民を避難させた後は、総大将の青木正則を中心に幽霊の大軍を押し返していた。 先日、七魔将の一人である骸天羅王が討ち取られたことは、記憶に新しい。龍安弘秀は開拓者たちが上げた功を宣伝し、鳳華の魔将と言えども勝てない敵ではないと兵を鼓舞していた。 ――龍安軍の陣中から、一人の一般人兵士が抜け出した。兵士は、散発的な戦闘が続く戦場に出ると、突然倒れた。その体から、憑依していた幽霊が抜け出してくる。 『何と言うことだ‥‥骸天羅王様が討たれるとは‥‥信じられん』 骸骨武者の姿をした幽霊は、そのまま舞い上がると、魔の森へ帰還して、天幽のもとへ情報を届けた。 『そうか‥‥骸天羅王が死んだか‥‥』 天幽はアヤカシの言葉で、骸骨武者の報告に応えた。 『信じられません‥‥あの骸天羅王様が‥‥本当に倒されたのでしょうか』 『いずれ事実は明らかになるだろう。召集に応じなければ、奴は死んだことになる‥‥ん?』 天幽は、背後から近付いてくる気配を察知して、振り向いた。 『何だ――?』 魔の森の奥から、巨大な瘴気の塊が姿を見せる。濃密な瘴気の渦は、しゅうしゅうと蒸発するような音を立てながら鈍い光を放っていた。 『何だこれは‥‥』 天幽ですら恐怖して後ずさった。瘴気の渦は莫大かつ巨大で、異形を成して接近してくる。周囲の幽霊が飲みこまれて消失する。 「手こずっているようだな。龍安軍はしぶとい。それはお前もよく知っているはずだが。二十年前のようにはいかぬか」 瘴気の渦が低い声を発した。 「何だお前は」 「力を貸してやろう。志体持ちの兵すら凌駕する狂骨剣士を10体だ。熟練だぞ」 すると、瘴気の渦の横から、10体の骸骨剣士がするすると現れた。 『人間‥‥殺す‥‥食う‥‥』 骸骨剣士たちの眼孔には、おぼろげな光が宿っており、口許には獰猛な牙が覗いていた。 「お前は誰だ」 天幽の問いに、瘴気の渦は笑声を漏らした。 「お前と同じ、アヤカシだ」 そうして、瘴気の渦は後退して行った。 ――それから間もなく、天幽が攻勢に転じてくる。 龍安軍はいつものごとく迎撃に向かったが、最前線で、志体持ちの小隊が全滅すると言う報告が青木のもとへ飛び込んで来る。 「天幽か――」 「いえ――恐ろしく強い骸骨剣士だそうです! 10体程度の集団で、味方は斬り殺されました!」 「骸骨剣士? 天幽は」 そこへ別の兵が報告を持って飛びこんで来る。 「天幽――! 戦場の東に幽霊の大部隊を率いて姿を見せました! 現在交戦中であります!」 青木は立ち上がった。 「骸骨剣士は熟練兵で当たれ、天幽には俺が本隊を率いて向かう。これ以上後ろには行かせんぞ」 そうして龍安軍は凱燕の北へ展開して、幽霊アヤカシの迎撃に向かうのだった。 |
■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116)
12歳・女・巫
井伊 貴政(ia0213)
22歳・男・サ
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
輝夜(ia1150)
15歳・女・サ
衛島 雫(ia1241)
23歳・女・サ
斉藤晃(ia3071)
40歳・男・サ
名も無き通りすがり(ia5402)
28歳・女・弓
瀧鷲 漸(ia8176)
25歳・女・サ
トカキ=ウィンメルト(ib0323)
20歳・男・シ
覇桜(ib3310)
18歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●西の戦場 井伊 貴政(ia0213)は、綺麗な可愛らしい若い巫女の娘に声を掛ける。 「あ、貴政殿。どうなさいましたか」 娘は小首を傾げる。 「実は、あなたに僕の専属巫女になって欲しいのですが」 「え?」 「狂骨剣士は強敵と伺いました。仲間もいますが、回復役なしではとてもではないが戦えないでしょう」 貴政は紳士的な笑みを浮かべて、お辞儀した。 娘はにこっと微笑むと、「はい、分かりました」と言いかけたが、そこへ輝夜(ia1150)が割り込んだ。ごつい巨漢の巫女が同行している。 「おお貴政、お前に打って付けの頑丈な巫女を連れて来てやったぞ。今回は激戦だからな」 「あ、あのー」 貴政は巨漢の巫女を見上げる。 「はっはっはっ、貴政殿! 輝夜殿から話は聞いた。支援は任せておけ! 俺の神楽舞と回復でばっちりだ!」 「あ、私は他に回りますね」 娘の巫女は風のようにいなくなった。 貴政はさっと輝夜に視線を送った。輝夜の口許に、微かに悪魔的な笑みが浮かんでいる。 「よし! 行くぞ貴政殿! 骸骨剣士をぶちのめしてやろう!」 巨漢の巫女は貴政の肩に手を置くと、がしがしと揺さぶった。 「輝夜さん‥‥やってくれますね」 「さて、真面目な話、魔将の一角を倒したところで、状況は好転しておらんようじゃの」 輝夜は言って、思案顔で戦場を見渡した。散発的に出現する幽霊が上空を飛び交い、咆哮を上げている。 「さぁ、みなはん、きばっていきやすぅ! みなはんの女神がついていやすぅ」 可愛らしい女の子の姿をした華御院 鬨(ia0351)は、歌舞伎役者である。れっきとした男で、職業柄女形をしている。 鬨は兵士たちの間を回りながら、「龍安軍の戦女神の鬨ちゃんどすぅ♪」と兵士たちを鼓舞していた。華御院の名前を覚えている者は意外に多い。 「俺は魔術師のトカキです。宜しくお願いします」 トカキ=ウィンメルト(ib0323)はそう言って、龍安兵に挨拶する。 「皆で生きて、笑って帰りましょう。だから死なないで下さい」 龍安軍の志体持ちの兵士は、トカキの肩を叩くと、笑みを浮かべる。 「骸骨剣士は強敵らしいが、でたらめな強さがあるとは思えん。生きて帰って、天幽を相手にする青木様を助けたいものだ」 「天幽を倒せば、戦局は一気に変わるでしょうからね‥‥ただ、骸骨剣士も油断はできないと考えます。志体持ちがやられたのですからね」 そうして、開拓者たちと龍安軍は前進する。 やがて、敵の戦列が見えてくる。大軍だ。 望遠鏡を下した貴政は、骸骨剣士の姿を確認した。 「骸骨戦士がどうやら指揮を取っているようですね。まあ指揮と呼べるものではないですが、群れですね」 「うむ、まずは我と貴政で咆哮で幽霊どもの陣を乱す。そこへトカキの魔法を叩き込み、勝負を掛ける。こちらに時間を掛けるつもりはない。他にも戦っておる味方がおるからの」 「では、よろしくお願いします」 「始めるどすぅ」 「行くぞ」 龍安軍は前進すると、アヤカシ達は散開して展開するが、そこへ輝夜と貴政の咆哮が撃ち込まれる。二人の咆哮でたちまちのうちに陣を乱す幽霊たち。 『ガアアアアア‥‥! 人間‥‥食う!』 そして、悠然と前進してくる骸骨剣士たち、10体。 「雑魚幽霊は任せるぞ! 志体持ちの兵士たちであの骸骨どもを止める!」 輝夜は一般人兵士たちに言葉を投げると、龍安軍の志体持ちとともに骸骨に突進する。 「華御院鬨の公演の開幕どすぅ」 鬨も加速した。 「行きますよ! 咆哮もう一撃!」 貴政はもう一撃咆哮を撃ち込んだ。 『ガアアアアアア! 殺す‥‥!』 骸骨剣士は怒りの咆哮を上げて突撃してくる。 雑魚幽霊を瞬殺しながら突撃する開拓者たちと龍安兵。 トカキはロッドを構えると、視線の先の骸骨剣士に狙いを定める。 「今だ!」 開拓者たちは散開した。 「食らえ! ブリザーストーム!」 トカキが放った吹雪が骸骨剣士を包み込み、アヤカシの戦列に穴を開ける。 骸骨剣士たちは生きていた。 「この程度では死なぬかよ」 輝夜は突進すると、最初の一撃で狂骨の腕を吹き飛ばした。 鬨は軽やかに舞うような動きで狂骨の一撃をかわすと、骸骨の胴体を切り裂いた。 「神楽舞・攻!」 巫女の支援を受けて、貴政は骸骨剣士に打ち掛かる。敵の防御を粉砕して、刀は貫通する。吹き飛ぶ骨。 「聖なる力よ! 威をまとえ! ホーリーコート!」 トカキは仲間たちの武器に強化術を掛ける。 ホーリーコートのまばゆく輝く鬨の刀身が、骸骨剣士の頭部を打ち砕いた。 「うちの舞いは慈悲の舞どすぅ♪ 瘴気に還してあげますどすぅ」 鬨は連打を撃ち込み、骸骨剣士を滅した。 「これが志体持ちを倒したとは‥‥龍安兵の皆さんには気の毒な話ですが」 貴政は言いつつ、骸骨剣士を粉砕した。狂骨に倒されたのは未熟な兵士だったのかも。 「お前たちの相手に時間を割いている余裕はないのでな」 輝夜は凄絶な一撃を撃ち込んでいき、骸骨をずたずたにしていく。ギルド屈指の凄まじい破壊力は、狂骨剣士の鎧ごと肉体を貫通する。 「皆さん凄いですねえ‥‥」 トカキは感心しながら戦況を見やる。 龍安兵たちもそれなりに打撃を与えているが、開拓者たちの戦闘能力は狂骨より頭抜けていた。狂骨たちは次々と粉砕されていく。 ●中央の戦場 衛島 雫(ia1241)と覇桜(ib3310)たちは、龍安軍のサムライ大将とともに、前線にいた。 無限とも思える幽霊の大軍が押し寄せてくる。 「もの凄い数だな‥‥」 雫は接近してくる幽霊を撃破して行きながら、後退して行く。 「数だけは集めたものだろう! だが、志体持ちの兵士には大した相手ではない!」 「だが、私たちの体力も無限ではないからな。集中攻撃を浴びれば危ういぞ」 雫の指摘に、サムライ大将は吐息してまた幽霊を切り殺した。 「これだけの数だ! これまでの例からして、首領がいるだろう! そいつを潰せば、統制を失って瓦解するはずだ!」 「ふむ‥‥」 「防戦、防戦、滅びるのも時間の問題かしらね、よく我慢できる物だわ」 覇桜は開戦前にそう呟いていた。確かに、それなりの開拓者がこの鳳華の土地を見て、よく人間が我慢していられると言う。が、ここはアヤカシとの激戦区であり、武天にとって戦略上の要衝でもあった。簡単に明け渡せる場所ではない。大軍が動員されているのにはそれなりの理由もあった。 「アヤカシも出し惜しみ、というわけではなさそうだけど」 覇桜はぱっと戦場眺めて一息。 「幾ら倒してもどうせ無限に溢れてきそうね、こいつら」 幽霊を一刀のもとに切り伏せた。 ――オオオオオオオオオオオオオオオオオ! 幽霊たちの一斉攻撃、前進してくると、遠距離攻撃の呪声を叩きつける。軽い頭痛が兵士たちを襲う。 「呪声だ! 逃がすなよ! 引きつけて一気に撃ち落とせ!」 何列かの横隊を組んで、龍安軍は足を止めると矢を一斉に放った。 何百という矢が幽霊を貫通して、次々と瘴気に還元して行く。 さらに前進してくる幽霊たちの猛攻を、龍安軍は受け止めつつ、後退して行く。 「後退しつつ迎撃! 一匹たりとも生かして帰すな!」 ――と、続いて幽霊たちの思念の刃、無刃が龍安軍を襲う。びゅん! びゅん! と切り裂かれる兵士たち。 「くっ! 思念の刃か! 怯むな! 撃ち落とせ!」 兵士たちは猛然と矢を放って、幽霊を撃ち落としていく。 「全く切りがないな」 雫は幽霊を斬り殺しながら、戦場を見渡す。兵士たちは傷ついているが、まだ耐えられるだろう。 「さすがに数が多いが‥‥」 と、その時である。幽霊軍の中から咆哮が轟き、アヤカシの戦列がすうっと後退する。 そして、立派な甲冑をまとった骸骨の幽霊が数体姿を見せる。 『くははは‥‥愚かなり人間。幾ら抵抗したところで無意味よ。あがいたところで、龍安軍に勝ち目はない』 幽霊たちは戦闘隊形を取ると、一斉に加速して突撃してきた。 「こいつが首領クラスか」 雫は打ち掛かった。 ――ガキイイイイイイイン! と、幽霊の刀と雫の刀が激突する。押し返される。 「幽霊なのに、凄い力だな」 雫は盾で骸骨武者を叩きのめすと、払い抜けで切りつけた。刀身が骸骨武者を貫通する。 『おのれ!』 骸骨武者は距離を保って無刃で雫を切り裂く。 「ぬっ‥‥」 微かに切れて飛び散る鮮血に、雫は眉をひそめた。 「中々やる――が」 雫はさっと味方に合図を送ると、友軍の志体持ちが横から突進してくる。骸骨武者に連撃を浴びせる。 覇桜は突撃してくる雑魚幽霊の対応に追われていた。一般人兵士と一緒に、幽霊たちを撃破して行く。 「全く‥‥うぞうぞ幽霊どもが!」 覇桜は裂帛の気合とともに刀身を振りかざし、幽霊をまとめて二体切り裂いた。 それでもなだれ込んで来る幽霊の大軍。混戦になる。 「幾らでも来い! わたくしの勤めは一つ、覇を守り通すこと、それだけだ!」 覇桜は右に左に刀を振り回して、幽霊を潰していく。 ――雫は目の前の骸骨武者の片腕を切り飛ばした。驚いたように目を開く骸骨武者、後退するが、雫は咆哮で足止めした。 動きを封じた雫は、骸骨武者に確実に打撃を与えて行く。 『ぐおおおおお! 龍安軍が――! 俺様がここで死ぬか!』 骸骨武者は無刃を連打して後退する。 「逃がさんぞ」 雫は加速して、その胴体を切り裂いた。 と、残る左腕に持ち替えた刀で、骸骨武者は雫に強打を撃ち込んだ。予想外の直撃を受けて、雫は傾いた。 「ちっ」 その瞬間、骸骨武者は咆哮から束縛されて撤退した。 アヤカシ達の咆哮が轟くと、雑魚幽霊も潮が引くように後退していった。 ●東の戦場 青木正則率いる主軍が向かったこの戦場に、鈴梅雛(ia0116)、斉藤晃(ia3071)、名も無き通りすがり(ia5402)――ことソロコルッカ、瀧鷲 漸(ia8176)が、向かっていた。 この戦場最大の激戦区である。戦力的には拮抗していた。志体持ちの兵士たちで強力な幽霊を止めつつ、天幽への牽制を行っていたが、やがて均衡が崩れる。 戦場に遂に天幽が姿を見せ、交戦に入ったのである。 「龍安軍よ‥‥滅亡の時は来たぞ。幾万の民の嘆きがやがてこの地を埋め尽くすことだろう」 斉藤は、兵士たちに向かってはっぱを掛けた。 「開拓者としてでもなく、ただの一人の男として、天幽がおる東の戦場へいく。ここから先は引くも進むも覚悟せないかん。それでもなお地獄へ相乗りしたいちゅやつだけ一緒にこいや!」 「おう! 斉藤に続け! 開拓者一人に天幽の首、渡してなるものか!」 青木正則は、突撃して行く兵士たちを見送り、名を聞いた。 「斉藤晃‥‥? 開拓者か、天幽のもとへ行くつもりか‥‥サムライ衆! 咆哮で雑魚どもを足止めするぞ! 天幽の周りを無防備にしてやるのだ!」 龍安軍は、青木の指揮のもと、その他雑魚の足止めを確実に行う。 「斉藤さん、漸さん――そしてみなさん、無理はしないで下さい。ひいなも支援しますが、天幽の力はすごく強いです」 雛は天幽の姿を確認しながら、味方の後ろに位置する。 ‥‥一方、ソルコルッカは雑魚幽霊の足止めに回っていた。 「くわばらくわばら。天幽と直接にやり合うほどに命を捨てるつもりはありませんのよ」 ソルコルッカは言いながら、露払いに徹して、味方が天幽と戦うのを支援する。 自身の力は理解している。天幽に有効な打撃を与えられるはずもない、ならば、仲間たちが十分な力を発揮できるように出来ることを為すだけだ。 ソルコルッカは矢を撃ち込み、周辺の幽霊たちを掃討していく。 「ふふふ‥‥死んで忠義を尽くすより、長生きして働く方が奉公でしょう?」 青木正則は、ソルコルッカの言葉に短く答える。 「兵士一人一人にいたるまでが、恐怖を克服してこそ、負けない軍が生まれると言うものだ」 そしてまた、戦場に輝夜と貴政、鬨にトカキが到着する。狂骨剣士は撃破し、雑魚は龍安軍に任せてきた。 ここに、天幽は開拓者たちと二度目の戦いに臨む。 「天幽か、相当な使い手らしいが、そう何度も何度も逃げおおせると思うな」 漸はハルバードを一閃すると、天幽に言葉を叩きつけた。 「わしが逃げるだと? 冗談を言っているつもりか」 天幽は腕を持ち上げると、瘴気の渦を集めて放出した。 閃光と爆発が開拓者たちを一撃で薙ぎ倒した。肉体を貫く灼熱のような激痛。開拓者たちはうめきながら、立ち上がる。 「お前たちに――」 天幽はもう一度爆発を叩き込んだ。 「わしは――」 更にもう一撃。 「倒せん!」 最後にもう一撃。 死のような沈黙が落ちる。 開拓者たちは満身創痍で崩れ落ちていた。 「止めをくれてやる。わしが骸天羅王と同じ轍を踏むと思うな」 「そうはいかねえ」 斉藤はよろよろと立ちあがった。 開拓者に龍安兵たちも起き上がってくる。 雛はスキルをフルに使って味方を治癒していく。 「ひいなも‥‥倒れそうですが。頑張って下さい」 「行くでえ!」 斉藤が突貫した。 天幽は瘴気弾を斉藤に打ち込む。 斉藤は構わず突進して天幽に槍を叩き込んだ。 「今度はちゃんとお代を払ってくれやすぅ」 鬨が一撃を撃ち込み、貴政に輝夜のスキル全開の一撃が天幽を捕える。 「何――!」 貫通する輝夜のタイ捨剣が天幽の肉体を切り裂いた。 「挨拶代わりじゃ」 トカキはホーリーコートで支援に回る。 「食らえ幽霊の化け物が。私とて無駄には死なん」 漸はスキル全開の一撃を撃ち込む。 「いちいち驚かせてくれるわ」 天幽は両腕を持ち上げると、見る間に膨れ上がっていく瘴気の塊を地面に叩きつけた。 更に凄まじい爆発が開拓者たちを吹き飛ばす――が、開拓者たちは気力で耐えた。 「その手はこの間見たからな!」 血まみれになりながらも、斉藤は突進した。 龍安兵、開拓者たちが全員で攻勢に転じる。 「ぬう!」 天幽は鈍い光を放つ眼光で開拓者たちを見据えた。 連撃が天幽の肉体を貫く。ぼろぼろに崩れて行く天幽。 天幽はもう一撃、斉藤に向かって絶大な瘴気弾をぶつける。大爆発が斉藤を包み込むが、その中から、斉藤は雄叫びを上げて加速した。 「奥の手をやったるわ!」 朱槍に通した管を握り柄から猛烈に回転させた突きで天幽の顔を貫いた。 「貫流奥義っ!」 輝夜が、貴政が、鬨が、漸が、そして龍安兵の全員が、天幽に切り掛かった。 寸断される天幽の巨体に、斉藤の一撃でその頭部が撃砕された。 崩れ落ちる天幽は、手を差し出し、最後に断末魔の咆哮を上げて黒い塊に崩れ落ちて行き、最後に瘴気に還元していく。 戦場の幽霊アヤカシが恐れをなしたように逃げ散っていく。 「何とか生き残れましたね‥‥はは、満身創痍とはこの事を言うんでしょうね」 トカキはその場に崩れ落ちた。 「アヤカシが逃げて行く‥‥ひいなたちは、勝ったのですね」 自らもぼろぼろの雛はそう言って、仲間たちの回復作業に当たるのだった。 龍安軍と開拓者たちは、勝ったのだ。 |