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■オープニング本文 天儀本島、理穴国――。 昨年の緑茂の里の戦いで、炎羅が倒れてから、里の周辺のアヤカシは後退し、その被害は小康状態に落ち着いていた。 里の復興も進み、民も随分と帰って来ていて、一応の活気を取り戻していた。 「里もようやく落ち着いてきましたね」 「はい、炎羅が倒れてから、アヤカシの被害は大きく衰退しまたからなあ。有り難いことです。こんなに里が平和になったのは何年ぶりのことか‥‥」 村を巡回する里の兵士は、一通り村の様子を確認して、静けさに包まれた魔の森の方に目を向けた。あの奥地に大アヤカシ炎羅がいて、開拓者たちが激戦を繰り広げてから、10か月近くになろうとしていた‥‥。 魔の森の奥地に、影がある。今や空気は清浄になりつつある森の中を、影の集団は進んで来る。 『噂通りだな、緑茂の里は完全に解放されたらしい。我々の同族が微塵もいない』 ぼろぼろの死人アヤカシ戦士が、これまた見るもおぞましい死人アヤカシに言葉を投げる。死人アヤカシたちは異形の骸骨の頭部に角や牙を生やしており、鎧をまとって武装していた。 『炎羅が死に、魔の森の瘴気が消滅しようとしている。清浄な空気は我々にとって心地よいものではない』 そう言う死人アヤカシは、腕組みして、遠方に見える村を見つめていた。空腹が血を求めて衝動を突き動かす。 『だが、雑魚どもが逃げ散った分、無防備な獲物はわんさか戻ってきたな』 『ふふん。獲物は油断している。狩りの時期には打って付けだ』 死人アヤカシ達は、武器を抜くと、静かに移動を開始した。 ――神楽の都、開拓者ギルド。 緑茂の里の魔の森の跡地から、異形の骸骨戦士の集団が出没したとギルドに報告が入ってくる。 里の兵士たちでは歯が立たず、村人が多数食い殺されたという。 「頭の切れる奴がいるらしいな」 ギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)は顔をしかめた。復興のさ中にある緑茂の里に忍び込み、あるいは気を窺っていたのか。 そうして鉄州斎は開拓者たちを集めると、緑茂の里に向かうのだった。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
藍 舞(ia6207)
13歳・女・吟
雲母(ia6295)
20歳・女・陰
浅井 灰音(ia7439)
20歳・女・志
趙 彩虹(ia8292)
21歳・女・泰
一心(ia8409)
20歳・男・弓
エグム・マキナ(ia9693)
27歳・男・弓 |
■リプレイ本文 村に到着した開拓者たち――。 「なっ――!」 誰もがまず目を疑った。あちこちに、ぼろぼろの亡骸が横たわっている。短期間に小数でここまでの被害を出すアヤカシも珍しい。それも人を食うと言うアヤカシ本来のやり方だ。分かりやすい敵と言えばそうか。陰謀や策謀とは無縁そうである。 「災いは忘れた頃に訪れる‥‥か。魔の森を滅したとて、油断できませんね。後顧の憂いを断つ為にも、ここで始末しておきたい所です」 朝比奈 空(ia0086)がそう言うと、水鏡 絵梨乃(ia0191)が突如抱きついた。 「全くだな空。度し難い相手だぞこいつは」 「絵梨乃さん、ここで抱きつかなくても‥‥」 「あ、ご免。もう日常生活の一部だからな。えへへ‥‥」 絵梨乃はぺろりと舌を出しながら空を撫で撫でする。 「アヤカシ退治と負傷者達救助の同時進行。難しいですが全力を尽くしませんと」 玲璃(ia1114)は言って、厳しい顔で、亡骸の前で黙祷を捧げる。 「これは急ぎませんと、まだ襲われている人がいるのでしょう」 開拓者たちは、アヤカシ退治と負傷者達救助の二班に分かれる。一斑が敵をひきつける間に二班が負傷者を順次治療し逃がしつつ、禍ノ神らアヤカシの首領達を倒す。 「禍ノ神か‥‥何か面倒くさそうな奴らだなあ」 赤毛の熱血少年ルオウ(ia2445)は、そう言って赤毛をぽりぽりと掻いた。 「だが、許せねえな。ここまでやられて黙ってられるかい。めった切りにしてやるぜ」 「厄介なまでの強敵。でも向こうは狩りのつもりで、こちらは縄張り争いの心意気。勝算は検算するまでも無く十二分よ」 藍 舞(ia6207)はそう言うと、玲璃から神楽舞「護」をかけてもらうと、先行して禍ノ神に接近する。 「あれが‥‥禍ノ神?」 異形の髑髏が鎧を着ている。生きている民を掴んで、そのまま――行った。民の絶叫が響き渡る。 ざわり‥‥と、藍の心を撫でるものがあったが、藍は耐えた。 そのまま禍ノ神を見続ける。 「えりのん、ハイネ、さいぽん、うちでもいけたよ」 藍は禍ノ神の恐慌状態に抵抗できたことを知らせる。 「そうかそうか、よくやったな。怖かったろー」 藍に抱きつく絵梨乃。 「と、とにかく、噂の恐慌状態はそれほどきつくはないかも知れないわ」 「それにしても平和ボケというのはいかんなぁ、ま、しょうがないといえばしょうがない事なんだろうな」 そう言ったのは覇王雲母(ia6295)。最近人が変わったとか何とか‥‥。 「全く許せないよね」 言いつつ雲母に抱きつく絵梨乃。 「よしよし」 と勝手知ったる何とやらで、雲母は絵梨乃を撫で回した。 「緑茂の里にアヤカシが出現するとは、まさかまたあの里が戦いの場になるなんてね‥‥」 浅井 灰音(ia7439)はそう言って、悲しげな瞳で亡骸の前で膝を突く。 「うぐ‥‥灰音が悲しい顔するとボクも悲しくなってくるな」 絵梨乃は灰音に抱きついて涙を押さえた。 「虎魂闘在! これ以上の被害は何としても阻止します!」 趙 彩虹(ia8292)はそう言うと、きっと禍ノ神がいる方角を睨みつけた。 そしてまたしても趙に抱きつく絵梨乃。 「ボクも頑張るよ彩。一人でも助けたい‥‥!」 「水鏡様‥‥まるごととらさんが暑いですっ」 じたばたとあがく趙。 「折角平和が戻ろうとしていたというのに‥‥これ以上、好き勝手させるわけにはいきません」 一心(ia8409)は言って、厳しい顔で周囲を見渡す。 理穴氏族に拾われ育った一心は考える。如何すれば自分は理穴という国に恩を返せるだろうか‥‥と。まだ答えは見えていない。‥‥でも、今はただ、故国理穴の民を守る為に。持てる力の限りに護る。 「禍ノ神ですか‥‥。骸骨戦士の強化ならば‥‥取憑鬼とは異なるはず。負傷者がこちらに向かってくる事は無い‥‥と言うわけにも参りませんか。呪法をつかう場合、虜になる事も‥‥」 エグム・マキナ(ia9693)は最悪の状況について考えつつ、橘鉄州斎(iz0008)に、禍ノ神に操られた人はいなかったか確認をしておく。 「ああ、報告ではそんな情報はなかったな。呪法の類は確認されていないが」 「逃げ出す程度ならば、負傷者がこちらに襲いかかってくる事は無さそうですね。局地戦ではありますが、相手の戦線を崩し、掃討戦に移行することを狙いますか。万が一逃げたとしても、相手の首領格が落ちさえしていれば、被害の拡大も抑えられるでしょうし」 「二面作戦は悪くないと思うが、こいつら相当に獰猛な性格だぞ。問答無用で殺していきやがる。早く仕留めないと、拙い」 鉄州斎は思案顔で開拓者を見た。 「では参りましょう。被害が拡大する前に急ぎませんと」 朝比奈は絵梨乃と趙、雲母と一心、エグムに加護結界を掛けて抵抗を上げておく。 「ありがとう、空。愛してるぞ」 絵梨乃はパチッとウインクする。 「私も愛してますよ」 空は言って、軽く頷いた。 「んじゃ、行くぜい!」 ルオウは言って、抜刀した。 民の絶叫が響く――。 雲母は問答無用で矢を解き放った。ズキュウウウウン! と狂骨剣士を貫通する。 「てめえら! ぶちまかしてやらあ!」 ルオウが突進して、骸骨を叩き伏せる。 「何だ貴様らは‥‥と、俺の愚問か。理穴の雇われ兵か」 禍ノ神はルオウを睨みつけた。 「確かにこいつは半端ねえな」 ルオウは心を鷲掴みにされたようで顔をしかめた。 朝比奈、橘、絵梨乃、雲母らも禍ノ神の恐慌に耐える。事前の準備が効いたか。 禍ノ神は意外そうな表情を浮かべる。 「ほう‥‥逃げぬか。少しはやるようだな」 禍ノ神は半死状態の民を拾い上げると、 「だがこいつの命と引き換えだ。下がれ」 「何を‥‥! てめえ‥‥!」 ルオウが歯ぎしりする、背後から雲母がスキル全開の一撃を禍ノ神に叩き込んだ。 矢が貫通すると、禍ノ神は笑声を漏らして、民を刀で串刺しにして投げ飛ばした。ぼろ雑巾のように打ち捨てられる民は即死だった。 「馬鹿め。甘くみるな」 「おい! ルオウ、咆哮! 一気に行くよ!」 絵梨乃は猛スピードで駆け出した。 「ちい! やってやる!」 ルオウは咆哮を解き放った。 「ふふん‥‥人間が、甘い」 禍ノ神は骸骨に合図を出して後退する。 「邪魔だ!」 ルオウは沸騰するような怒りを骸骨剣士に叩きつけた。一刀のもとにアヤカシを両断する。「成敗!」で練力を回復する。 「食らえ酔拳!」 絵梨乃は蹴りを骸骨に叩き込む。貫通する一撃が骸骨を粉砕する。 「やってくれるな化け物」 雲母は煙管を仕舞い込むと、狂ったように笑い始めていた。そのまま骸骨を撃破して行く。 「禍ノ神か‥‥並みのアヤカシじゃないな。どこから来た、さて‥‥」 鉄州斎は骸骨を両断すると、後方の禍ノ神に目を移す。 グロテスクな骸骨の頭に、ぼろぼろの肉がついた体、鎧をまとった死人の戦士と言ったところか。ルオウの咆哮が効かないところを見ると相当にタフな相手かも知れない。 やがて骸骨を叩き潰した開拓者たちは、三体の禍ノ神と相対する。 「貴様ら理穴兵ではないな。ここまで狂骨を圧倒する理穴兵はこの近くにいないはずだ。開拓者か」 「そんなことはどうでもいいだろうが! 覚悟しろ! 逃がしはしねえぞ!」 「ほう。倒せるかな? 我ら禍ノ神を。我らは単なる亡者ではないのだ、くく‥‥」 「どういう意味だ」 鉄州斎の問いに、禍ノ神は笑声を漏らすのみ。 「お前たちには永遠に我々の足取りは掴めん」 「ふむ‥‥お前たち、誰かの手の者か」 「‥‥‥‥」 禍ノ神は刀を構えると、おぞましい咆哮を上げて切り掛かってきた。 「にっ! 速い――!」 すうすると接近する禍ノ神に後退するルオウ。意表を突かれるが、一撃を弾き返した。 「おおっと!」 絵梨乃も反転して鋭い一撃をかわす。 鉄州斎は禍ノ神を押し返した。 「油断は出来ませんね‥‥精霊砲!」 朝比奈は手を突き出して、精霊砲を撃ち込んだ。精霊の輝きが禍ノ神を貫通する。 空、雲母、絵梨乃、橘、ルオウたちは互角に禍ノ神と打ち合う。 「なるほど‥‥こいつら尋常ではない」 雲母は笑いながら矢を解き放つ。禍ノ神の戦闘能力は尋常ではないのは分かった。これだけの開拓者を相手に互角に打ち合う。 「二班の方は大丈夫か‥‥気がかりだが」 「しぶとい奴らだ‥‥! こんなに手強いのかよ!」 ルオウは顔をしかめて間合いを図る。何度か一撃を叩き込んだが、手ごたえは浅い。そして敵からは痛打を食らった。 「おい大丈夫かみんな!」 「ふむー、大丈夫じゃないけど、消耗戦だと不利だね。アヤカシは疲れないからね」 「ここで手こずっていると、二班に響く。何とか打開しないと‥‥」 開拓者は武器を握りしめると、心を落ち着けるように呼吸を整える。 「大丈夫ですか」 玲璃は、傷ついた民を助け起こした。 「あ、う‥‥あ‥‥」 「しっかり、今助けますから」 と、民はごふっと血を吐いて崩れ落ちた。 「行きましょう玲璃さん‥‥今は、禍ノ神を引き離すことを優先して」 浅井は玲璃の肩に手を置き、頷いた。 「何と言うことでしょうか‥‥こんな横暴が」 「行きましょう」 玲璃は立ち上がり、開拓者は禍ノ神のもとへ急ぐ。 やがて悲鳴が聞こえて来て、禍ノ神たちが暴れている現場に到着する。 「アヤカシ‥‥急ぎましょう!」 玲璃は神楽舞「護」を味方に掛けると、一人ずつ開拓者たちは前に出る。 禍ノ神を見ると恐慌状態に陥るという特殊な状況がある。抵抗を上げた状態で開拓者たちは臨む。 ざわざわ‥‥と、禍ノ神を見るたびに心を鷲掴みにされるような感覚が襲ってくるが、開拓者たちはみな耐えた。 「ぬ? 何だ――」 禍ノ神たちは殺到してくる開拓者たちを確認して、眼光を向ける。 一心、エグムが矢を連射して、藍、浅井、趙らが狂骨剣士に襲い掛かっていく。 「理穴兵か――」 『八つ裂きにしてやれ! 無駄なあがきだ! 行け!』 禍ノ神の咆哮に、狂骨剣士が武器を構えて開拓者たちに立ち向かってくる。 玲璃は戦況を見やりつつ、術を使える位置に付く。 狂骨たちは戦列を整えると前進してくる。 「行くよ、彩! 遅れないでよ?」 「ハイネ‥‥行きましょう!」 趙と浅井はともにライバル。呼吸を合わせて突進する。 激突する開拓者たちと狂骨。 浅井は最初の一撃で狂骨の腕を吹き飛ばした。 ――ぶうん! と狂骨の大振りが来る。 浅井は素早くかわして、反撃の一刀を撃ち込む。胴体を寸断される狂骨。 趙は槍を回転させると、薙ぎ払うように一閃した。骸骨が吹き飛び砕ける。 素早い身のこなしで、狂骨の攻撃を回避して行く趙。槍を次々と叩き込み、狂骨を打ち砕いて行く。 藍は周辺を飛び交いながら、一撃離脱でバトルアックスを撃ち込んでいく。狂骨の攻撃は回避する。 「民の無念を知りなさい」 藍は狂骨の背後に回り込むと、骸骨の足を叩き折った。 「理穴の民の無念を‥‥」 一心は矢を叩き込み、エグムもまた確実に狂骨を狙って行く。 戦況を見ていた禍ノ神が二体。顔を見合わせて体を揺らす。 「やるな、こやつら理穴兵ではないぞ」 「ふむ、およそ開拓者か、相当な使い手だ」 そうする間に、数で勝る狂骨たちを開拓者たちは見る間に撃破して行く。 「よし! これで!」 浅井は最後の狂骨を叩きつぶすと、剣を持ち上げた。 「残るはお前たちだ!」 趙は槍を構えて、禍ノ神を睨みつけた。 「さて、どうするかな」 禍ノ神たちは後退して、武器を構えながら間合いを図る。 「少しは知恵が働くらしいね。折角だから私の相手をしてもらえると嬉しいな? 全力で楽しめそうだしね」 「ふふふ‥‥さて」 禍ノ神たちは顔を見合わせると、頷いて、猛烈な勢いで突進してきた。 「何を――!」 浅井、趙は斬撃を繰り出したが、禍ノ神はびゅうん! と宙に舞い上がった。そのまま勢い二人を飛び越えて行く。 「何――!」 一心とエグムはスキル全開で矢を叩き込んだが、禍ノ神は直撃を受けながらも二人を突き飛ばして駆け抜けた。 玲璃が立ちはだかったが、同じく吹き飛ばされてしまう。 「逃がしませんよ!」 「逃がさない、今度は貴方達が恐怖する番よ」 藍は早駆で飛びかかったが、弾き飛ばされた。 「追うよ! 彩! みんな!」 開拓者たちは態勢を立て直して禍ノ神を追う。 混沌とする村の中へ入り込んだ禍ノ神たちは、わけも分からず逃げ惑う村人たちを切り飛ばしていく。 「やめろ! 止まれ!」 浅井は歯噛みして怒声を放ったが、禍ノ神は問答無用で村人の首を切り飛ばしていく。 「撃って! エグムさん、一心さん!」 エグムと一心は矢を連射するが、禍ノ神は直撃を受けながらも走り抜けて行く。 「何て事‥‥!」 藍は目の前で次々と傷ついて行く民を見て、加速する。 「やめろ! 禍ノ神!」 体当たりをぶつける藍。 禍ノ神ともつれるように転がる。 民は悲鳴を上げて禍ノ神から逃走する。 「逃がすな!」 開拓者たちは全力で走った。 禍ノ神は反転して起き上がると、藍を投げ飛ばして逃走する。 「何だ?」 ルオウは背後から近付いてくる気配と怒声に顔を少し動かした。 「禍ノ神? あいつらも――!」 「どうした?」 「二班の連中がこっちに来る! 禍ノ神も一緒だ!」 「何だと?」 雲母は背後を見た。 禍ノ神はもの凄い速さで接近してくる。 「何だ」 一班の相手をしていた禍ノ神たちも戦いを止めて距離を取る。 そうこうする間に、禍ノ神と開拓者全員が一つの戦場に合流する。 足を止める禍ノ神。 絵梨乃は後ろと前を見て、前後に警戒する。 追いついて来た禍ノ神は足を止めると、 「何だ、こっちにも人間か」 「開拓者だ。理穴に雇われたらしい」 「なるほど。手強いわけだ。あの炎羅を倒した連中か‥‥」 藍は怒りを露わにして、バトルアックスを構えた。 「これ以上は逃がさない」 「さて、我々の狩りはまだこれからだ――いずれ、お前たちには分かるまいが」 禍ノ神たちは今度こそ、本気で後退すると、魔の森の方角へ向かって逃げ出した。 追撃する開拓者たちは、禍ノ神が緑茂の里から離れたことを確認して、村へ戻る。 民が泣いていた。禍ノ神が残した爪跡は無残なものだった。数多の民が犠牲となり、混乱の中で更に被害が拡大してしまった。 「アヤカシはいなくなったよ。もう大丈夫だから‥‥」 絵梨乃は民を慰めるように言葉を掛けるが、民は放心状態だった。 「どうして、こんなことに‥‥アヤカシはいなくなったはずじゃ」 「大丈夫です、アヤカシは逃げましたから‥‥」 玲璃は泣き崩れる民人たちに言葉を掛ける。 「みんな安心して、アヤカシたちはもう遠くへ行ってしまったよ。今は、亡くなった人々を弔い、村の復興に取り掛かりましょう。みんなで乗り越えて行きましょう」 浅井は人々の手を取り、言葉を掛けた。心ない言葉をぶつけられても、浅井は最後まで民を励ましていた。 |