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■オープニング本文 魔の森の奥地で‥‥。 不厳王(iz0156)は、瘴気の渦の中心にいた。しゅうしゅうと莫大な瘴気の渦が放出されており、周辺から、新たな魔の森の芽が発生していた。 「不厳王様――」 影が、瘴気の渦に呼び掛ける。 「つい昨日のことのようだな、この地へ足を踏み入れたのも‥‥懐かしいことだ」 「不厳王様――」 影が繰り返し呼び掛けると、渦が揺らめいた。 「ん、何か」 「鳳華の魔将がまた一人、倒れました」 「そうか‥‥力をつけたな人間も。あるいは‥‥」 「龍安軍は勢いづいておりますが」 「ふふ‥‥よいではないか、ひと夏の夢よ」 不厳王は、瘴気の渦の中で、ただ鎮座して、鳳華のすう勢を眺めているのだった。 魔の森から出撃したアヤカシ、天壬王は、ここ最近になって同胞たちが立て続けに討たれていることに危機感を募らせていた。 「龍安軍がこうも力をつけてくるとは‥‥私の予想を越えますね」 そこへ、鎧をまとった巨大イノシシがやってくる。 「天壬王様、在天奉閻殿がお見えに」 「何? 在天殿が?」 そして、ローブをまとった鬼神のような人型アヤカシが姿を見せる。 「戦場で会うのは久しぶりですね」 「魔将たちが続けて討たれておる。骸天羅王、天幽に続き、黒太天までもが」 「潮目が変わっているとお考えですか」 「そのようなことは考えていないが、一応忠告をしに来た。お前たちが倒されると、統率する者がいなくなる。そうなれば、龍安軍が我々を封じ込めるのは容易い」 「ご安心を、私は、死んだ者たちほどお人よしではありませんからね」 「だが注意するのだな、戦場で勢い突進すると、死ぬぞ」 在天奉閻はそう言い残すと、立ち去った。 「死ぬ、か‥‥さて、どうですかね。私を殺せるような者が、龍安軍にいますか」 天壬王は思案顔で地平に目を向けると、再び龍安軍に対して攻勢に転じる。 無数の獣アヤカシたちが咆哮して、動き始めた。 ――龍安軍陣中。 龍安軍の総大将、蒼晴雪鈴は、二カ月ぶりに本格的な攻勢に転じて来た天壬王に対して、いつものごとく冷静に防御を固める。 「雪鈴様! 今日こそ天壬王を討ち取る絶好の好機ですぞ!」 「まさに! 各地で鳳華の魔将たちが相次いで撃破されております! 勢いはこちらにありますぞ!」 血気にはやるサムライ大将たちを、雪鈴は抑える。 「焦るものではありません。戦いは相手があってのものです。天壬王が簡単に倒せるようなアヤカシでないことは、皆さんもご存じでしょう。まずは守りを固め、敵軍の前進を食い止めるのです」 サムライ大将たちは拳を握りしめると、 「いや、雪鈴様! 機会があれば、天壬王を誘いだし、撃破すべきです! 他に魔将を撃破している家臣たちに後れを取るわけにはいきませんぞ!」 「落ち着きなさい。まずは守りを固め、敵の動きを図ります」 雪鈴は断固たる口調で命令すると、軍の守りを固め、天壬王らアヤカシの攻勢に対して行くのだった。 |
■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072)
25歳・女・陰
鈴梅雛(ia0116)
12歳・女・巫
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
雲母坂 芽依華(ia0879)
19歳・女・志
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
鈴 (ia2835)
13歳・男・志
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
将門(ib1770)
25歳・男・サ
朱月(ib3328)
15歳・男・砂 |
■リプレイ本文 戦場は慌ただしさを増していく――。兵士たちの怒号が飛び交い、その中に、総大将の蒼晴雪鈴がいた。 「天壬王が攻め込んできます! 防御を固めて迎え撃ちますよ! これ以上のアヤカシの侵入は許されません!」 雪鈴の鋭い声が飛ぶ。サムライ大将たちは「おお!」と前線に出て行く。 龍安家の家臣も多い開拓者たちは、戦場にあって、最前線で采配を振るうものたちもいて――。 「勝って兜の‥‥は、言うは易いが行うは難いさね。それを龍安軍の指揮を執ってる娘は確り行おうとしてるんだから‥‥良い大将じゃねぇかと思うぜぃ」 北條 黯羽(ia0072)は仲間たちにそう漏らした。 龍安家臣の鈴梅雛(ia0116)は、小さく頷く。 「雪鈴様は、よくやっておられると思います。まだとてもお若いのに」 「それは雛が言うとなあ‥‥」 北條は言ってにかっと白い歯を見せる。雛はまだ12歳であったから。 それから北條は、雪鈴に歩み寄った。 「よお、御大将」 「北條殿、どうされましたか」 「作戦の確認をな。ま、勢いと戦機に逸るんは別だから‥‥ってわけでもねぇが、作戦的にゃ龍安軍には防御重視の戦法で敵攻勢に耐えて貰いてぇ。その間に複数班に分かれた開拓者が、遊軍的な動きで敵前線指揮官の中ボスを屠って征くんでな。んで、天壬王が出張ってきたら殲滅し切れなかった中ボス等などの相手は龍安軍に任せ、開拓者の総力を挙げて天壬王の首を獲る寸法になるさね」 雪鈴は思案顔で頷く。 「これまでの例から言っても、開拓者の皆さんの力が、魔将の撃破に大きく貢献してきたのは確かですからね。天壬王が出現した場合は、そちらへ向かってもらえればと思います。ただ、その時に、戦況がどうなっているかですが‥‥」 「緋村様の仇、ここで必ず取りましょう」 雛は、天壬王に殺された緋村天正のことを思う。元々ここから東の最前線で指揮を取っていた緋村は、激戦のさ中に天壬王に殺された。 「里を中心に、天壬王の軍を迎え討ちます。防御を固め、アヤカシを倒して、天壬王を誘い出します。七魔将の討伐に、立て続けに成功している今こそ、気を引き締めなければなりません」 雛の言葉に、兵士たちは拳を突き上げた。 「やってやりまさあ、雛殿! 緋村天正様の仇だ! あの獅子を倒す!」 雛は小さく頷く。 「志体持ちの兵の方は、各集団の指揮をしているアヤカシを、一般兵の方たちは、それ以外のアヤカシの撃破をお願いします。ひいなも、天壬王が現れるまで、一緒に戦います。皆さん、一緒に頑張りましょう」 七色変化の歌舞伎役者の華御院 鬨(ia0351)。職業柄、女形をしていて、常に修行のために女装し、そこいらの女性よりも女性らしい雰囲気を醸し出している。今はクール系の女重戦士を演じていた。大鎧「金箔」が目立つ。 「戦場に立ったら、戦うのみどす‥‥」 覇気を以って気合いを入れる。 「すげえな‥‥ぴかぴかの大鎧、べっぴんさんの大将か」 「今は戦に集中どす‥‥」 鬨は冷ややかな視線を兵士に向けると、兵士は気迫に押されて後ずさった。 「それにしても、守るより攻める方が好みだけど、調子に乗って足元掬われたくは無いわね」 妖艶な陰陽師、葛切 カズラ(ia0725)は言って煙管を吹かした。 「天壬王とやらね。ここ最近の流れを見ていると、一気に討ち取りたいところよね」 「天壬王は尋常な強さではないどす‥‥カズラはんも知っておいででしょうが、鳳華の七魔将の力量は半端なものではないどすからな」 「ええ、まあね」 カズラは鬨と言葉を交わして、煙管を吹かした。 「七魔将が並みのアヤカシと歴然たる差があるのは承知してるわ。戦いとなれば、無傷では済まないでしょうね。頭の切れる獣だしね、それだけに、ここで叩いておきたいところよね」 「天壬王さえ撃破出来れば、戦況が一気に傾きますからな、力を結集すれば‥‥どうにか‥‥」 「そっちも頑張ってね。私たちも天壬王を引きずり出すまでは後退しないつもりよ」 「よろしく、どす‥‥」 龍安家臣の雲母坂 芽依華(ia0879)。雪鈴に軽く挨拶する。 「あんじょうよろしゅうに。今回はちょいと気ぃ入れへんとあきまへんなあ」 「ええ‥‥雲母坂さんですね。よろしくお願いしますね」 「前回客員隊長扱いにしてもろたし、兵士はんの一部をお借りしますえ。んで、朱月(ib3328)はんが一緒に動いてくれるんやね。よろしゅうなぁ(にぱ)」 雲母坂の笑みに、朱月は軽く顔を傾けた。 「うーん、結構厳しい戦いになりそうだね。ま、いつも通りやるだけだけどね。分は悪いけどそういうのも悪くないかな。さて、頑張ろうか」 雲母坂は、それから雪鈴に言葉を投げた。 「作戦は、防衛中心で中ボスを優先撃破しといて、天壬王が動いたら、近い班から順次対応する。ちゅうこっちゃな。とりあえず、勝ち戦ばっか続いてる時は、足下掬われる危険性がごっつう大きいさかいなあ。みんなには気ぃ引き締めてもらわんとあかんのやけど‥‥。最悪、命令違反は軍法会議、切腹してもらうくらいの覚悟を決めて強く戒めるつもりどす」 雪鈴は思案顔で雲母坂を見やる。 「命令違反と言いましても、力の及ばない者には逃げることを推奨しています。そのためにも志体持ちがいますのでね」 「随分と甘いですなあ。アヤカシはうちらを食べ尽くすまで攻め込んできますえ? 兵士たちには、命を掛けて民を守ってもらわないと」 「兵士に死ねとは言えませんからね‥‥と言ってアヤカシ相手に降伏も出来ませんが」 雪鈴の言葉を聞いて、雲母坂は肩をすくめた。 「まずは基本の前衛にサムライ達で防備の固いモンを配置、中〜後衛に遠距離攻撃出来るモンを配置して、被害を抑えつつアヤカシを減らしていくことになるんやな。天壬王が出て来てからが勝負やな」 雪鈴は頷き、 「天壬王をおびき出すのは至難の業ではあります。あのアヤカシは極めて冷静ですからね。厄介な相手ですよ」 「七魔将が1人、天壬王か?」 龍安家臣の焔 龍牙(ia0904)は気を引き締めるようにその名を口にした。 それから龍安軍に一声掛けておく。 「魔将たちを相次いで撃破しているが決して油断するな! 相手は魔将率いるアヤカシだ! どんな手を使ってくるか判らん、気を引き締めて行くぞ!」 「おー!」 兵士たちは、拳を突き出し、龍牙の言葉に応える。 それから龍牙は、雪鈴のもとを訪れた。 「蒼晴雪鈴様――龍安家臣の焔 龍牙です」 「良く来てくれましたね」 雪鈴は軽く頷いた。 「提案ですが、今回は中ボスを中心に撃破して行こうと思っています。ですので、中ボスの所を少し厚めに布陣していただけないでしょうか? 人選については、蒼晴殿に一任します」 「守りを固めつつ、中ボスたちの撃破を狙って行くと言うわけですか。天壬王がしびれを切らすか、あるいは私たちの力が尽きるのが先か、と言ったところでもありますね」 「もちろん、天壬王は打って出てくるでしょう。中級指揮官が討たれていけば、獣たちの統制はばらばらになっていきますからね」 「母様――」 鈴(ia2835)は、北條に声を掛けた。両親を失っている鈴。血はつながっていないが、北條のことを母と慕っていた。 「んん、鈴、気を付けるんだよ。こんな危険な戦に出るのは心配だけどね」 北條は鈴の頭をがしがしと撫でた。 「どうやら勝ち戦続きの様なので余裕がある分、突撃は控え守りを固める戦法で落ち着いて対処していく様心がけます」 「ま、防御戦になるって総大将も言ってるしね、前に出過ぎず、確実に目の前の敵を倒していくべきだろうね」 「はい、俺は出てきた中ボスクラスのアヤカシから対処して、相手の戦力を削っていく様、心がけます。ただ、最近はずっと勝ち戦続きのせいか、勝てると浮き足立ってる気がするので、考え無しに突撃しようとしない様に気を配っておきますね」 「ああ、兵たちは血気にはやっているみたいだからねえ、ま、これだけの戦さね。自分に出来ることをしな。一人で勝てはしないからね」 龍安家臣のコルリス・フェネストラ(ia9657)は、弓兵の指揮を願いでる。 「私はアヤカシの動きを探りつつ、味方の支援に回ろうかと思います。おっしゃるように、今回は守備を固めるべきと思いますし」 「よろしく頼みますよコルリス。今回は弓兵はあなたに任せましょう」 「ありがとうございます。どうにか、天壬王を討ちとりたいものですが」 将門(ib1770)は、敵が攻め寄せて来るであろう里の防御陣を歩いていた。自らの足で歩いて、地理を頭に叩き込んでいた。 「天壬王の様な強力なアヤカシと戦うのは初めてだな。足手まといは避けたいものだ。まあ、やることは変わらない。冷静さを保ち、敵に自分の全力を相手に叩きつける、のみだ」 将門は呟き、里の東に目を向ける。風に乗って、アヤカシの咆哮が聞こえてきそうだ。 「さて、どんなものかな‥‥」 将門は踵を返すと、味方の陣に戻っていく。 ほどなくして、アヤカシが進軍してくる。龍安軍も前進して、いよいよ戦いの幕が上がる。 龍安軍は家屋を盾にしつつ、迎撃態勢を整えて行く。開拓者たちは三班編成で戦場に散った。 1班:北條 黯羽、華御院 鬨、焔 龍牙――。 2班:鈴梅雛、鈴、将門――。 3班:葛切 カズラ、雲母坂 芽依華、朱月――。 弓兵の指揮にコルリス・フェネストラである。 「弓隊、一斉攻撃用意! ――ってえ!」 兵士たちが弓を引き絞り、解き放った。何百もの矢が空を飛び、アヤカシの戦列に降り注いだ。 次々と瘴気に還元して行くアヤカシの群れ、それでも、数にものを言わせて前進してくる。 巨大な獣アヤカシは、家屋や壁を体当たりで撃破して行く。 なだれ込んで来るアヤカシの群れに矢を叩きつける龍安軍。直撃を受けたアヤカシ軍が消滅する。 ――ガオオオオオオオ! 『小賢しいわ! 突き破れ!』 装甲をまとった大イノシシが突撃してくる。 立ちふさがる鬨。斬馬刀を振りかぶって、大イノシシの突進を受け止めた。 「ここは通しません‥‥」 「邪魔だ! 貴様に用はない!」 龍牙は加速すると、大イノシシの装甲を両断して、足を吹き飛ばした。 追い打ちを掛けるように北條が斬撃符を叩き込む。 「そっちを、お願いします」 鈴は将門とともに巨大な虎と相対する。 「心得た。行くぞ!」 「気を付けて下さいね。後れを取るとは思いませんが」 雛は小さく呼び掛けた。 鈴と将門は障害物を利用して、虎を正面から止める。 そうする間にも、続々と小型の狼アヤカシがなだれ込んで来る。狼アヤカシの数は実質無限に等しい。 噛みつかれた一般人兵士がその首を鷲掴みにして、刀で狼の首を切り落とした。 「雑魚は一般兵に任せて良さそうね。私たちは前に出るわよ」 「はいな」 「行きますか、天壬王を引きずり出せれば良いのだけどね」 カズラ、雲母坂、朱月らも前線に出る。 カズラは大熊アヤカシに斬撃符を叩き込んだ。 「これからよ、もっと火力を‥‥!」 「みなさん、掛かってくれやす!」 雲母坂も一隊を率いて前進する。家屋を盾にした防御陣の間で、大狼と激突する。大狼は突撃してくると、雲母坂に飛びかかった。 「何の!」 雲母坂は身を翻して刀を振るった。一撃で大狼の足を寸断する。 崩れ落ちた大狼に兵士たちが一斉攻撃を浴びせかける。 「はいはいさー。ほいほいさー、貫け!」 朱月は忍拳をアヤカシに撃ち込んでいく。拳が大熊を深々と貫く。次の瞬間、熊の腕が飛んできて、朱月は直撃を受けて吹き飛ばされた。壁を突き破って家屋の中に倒れる。 「くっ‥‥さすがにやりますね。中ボスクラスと言えども侮れません」 「朱月さん、しっかりね」 カズラは言いつつ、斬撃符を叩き込み、熊の頭部を吹き飛ばした。 「支援攻撃を開始します。中ボスを主に狙って下さい――朧!」 コルリスは敵アヤカシの中級指揮官に狙いを定めて、弓術士たちをまとめて攻撃を開始する。 ――続々となだれ込んで来るアヤカシを、ひたすら狩り取っていく龍安軍。 「ふう、これは骨やわね。相手は疲れ知らずやっちゅうのにね」 雲母坂はアヤカシを叩き斬って、息をついた。 と、その時である。雲母坂の目の前に、規格外の白毛の獅子が姿を見せる。天壬王である。その瞳は、冷たく光って雲母坂を捕えた。 「何や、こいつ、他のと違う‥‥?」 「さすがに、やりますね。龍安軍。同胞たちを討ち取っただけのことはあります」 「あんたは‥‥まさか」 「そうですよ、私が、天壬王です。私を引きずり出す持久戦ですか。ですが、その目論見、打ち砕いてあげましょう」 「天壬王‥‥法螺貝や! 合図の法螺貝を!」 雲母坂の合図で、兵士が法螺貝を吹く。 「これは‥‥天壬王が出たか」 1班の北條は、鬨と龍牙と顔を見合わせると、移動を開始した。 2班の雛と鈴、将門らも、天壬王に対するべく、3班のもとへと向かう。 「出ましたか‥‥みなさん、天壬王に加勢する周囲のアヤカシを狩りますよ」 コルリスは、そう言って弓術士たちと移動を開始した。 かくして開拓者たちは、再び天壬王と相見える。 「てめえが天壬王か‥‥噂には聞くが、噂以上だろうな」 北條を見た天壬王は、微かに笑った。 「お前たち、龍安兵ではないですね。では、魔将たちを討ち取った開拓者たちと言うわけですか」 「お前には、ここで死んでもらう」 将門は冷たく言って一歩踏み出した。 「その勢い、私が消してあげましょう」 天壬王は、態勢を落とすと、飛びかかった。 「速いっ――」 将門は直撃を受けて吹き飛ばされた。 「やらせるかよ!」 北條は斬撃符を撃ち込み、カズラは呪縛符に蛇神を叩き込んだ。 「俺の名は焔 龍牙! 古より語られし『焔龍』の後継者だ!」 龍牙に鬨、鈴、雲母坂に朱月は一斉に打ち掛かった。 天壬王は全ての攻撃を受け止めるが、呪縛符で動きが鈍っていた。直撃を食う。 「ただやられて終わりじゃな」 将門は仲間たちとともに天壬王に一撃浴びせる。 と、天壬王が加速して鈴と雲母坂を牙で切り裂いた。 「怪我は、ひいなが全て回復します」 雛は閃癒を使い、二人の傷を回復する。 暴風のように加速する天壬王。 「呪縛符でこれかよ‥‥!」 北條は舌打ちして、後退する。直後、天壬王の一撃を食らって吹っ飛んだ。 「さすがに魔将‥‥並み外れた者を持っている‥‥」 鬨も切り裂かれてダウンする。 雛が忙しく閃癒で回復に当たる。 恐るべき速さで駆け抜ける天壬王に、それでも開拓者たちは打撃を与え、脚一本切り飛ばした。 「ちっ‥‥まさか足を失うとは‥‥だが、私は他の連中とは違いますよ。この借り、いずれ返させてもらいます」 天壬王はそう言い残すと、獣たちを率いて撤退したのだった。 「大丈夫ですかみなさん」 掃討戦に向かっていたコルリスがやってくる。 「天壬王は逃げたようですね‥‥惜しいところでした」 コルリスは犠牲は最小に抑えられたことに、せめて救いがあると思った。 |