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■オープニング本文 天儀本島、武天国、とある里で‥‥。 近隣の魔の森に踏み込んできたアヤカシ達がいた。元々この森で生まれたアヤカシではなかったが、その数は100体を越える死者の兵であり、指揮官がおり、統率されていた。これまでに目立たない小規模な戦闘を繰り返しながらここに至る。 だが今、アヤカシたちの目的は、手近な里へ総力を以って攻撃を掛けることであった。彼らには目的があったが‥‥。事前に変身能力を持つ者が情報収集を行い、里の内部を探り、準備を整えていく。 『跋扈王様――』 立派な甲冑をまとった骸骨が、そのアヤカシの将に呼び掛ける。 跋扈王は豪奢な甲冑に身を包んだ死人アヤカシで、外見は傷一つないが肌の色は死人のように真っ白だった。人外の瞳は赤く、長い黒髪をした美しい青年の姿をしている。 『里の様子はどうじゃ』 『はい‥‥さすがに武天、我々だけで大きな戦を起こすのは難しいでしょう』 『そうであろうな。で、付け入る隙はあるか』 『はい‥‥この地方は古い名家の家柄が揃っており、里は落とせなくとも、家一つ潰せば、人心に与える影響は大きいでしょう』 『ふむ、なるほどな。さすがに我らも大軍を率いることは叶わぬからな。であれば、家一つ落としていくか』 『上策です』 『よろしい、では、早速ことに掛かるとしよう。奇襲攻撃で攻め落とす』 跋扈王は狙いをとある家に定めると、兵を率いて行動を開始した。 ――家の主は、橘厳楼斎と言った。武天の名門橘家は、相当古くから続く家柄で、長くこの地を治めて来た。 そして、それは夜にやってきた。 「厳楼斎様――!」 サムライが厳楼斎の寝所に飛び込んで来る。 「何事だ」 「領内にアヤカシが攻め寄せております!」 「何? 敵軍の情勢は」 「はっきりしたことは分かりません、死人らしきアヤカシの軍勢が、間もなくここへも来るでしょう」 そこへ、子供たちを連れた女性が姿を見せた。女性の名は香夜。実は開拓者ギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)の奥方である。 「厳楼斎様、アヤカシが来ると知らせが」 「香夜、お前は子供たちを連れて逃げなさい。兵を付けよう。まだはっきりしたことは分からんのだ」 その時である。屋敷の中に大きな鬼火が数体入り込んで来る。 「ぬっ――」 厳楼斎は手近な刀を取った。香夜もまた子供たちを下がらせると、武器を取る。彼女もサムライだ。 鬼火は変身すると、炎は跋扈王とその兵士たちに姿を変える。 「貴様は――」 「橘厳楼斎、貴様の首、この跋扈王が貰い受ける」 「何を、アヤカシに遅れは取らん。瘴気へ滅してくれる」 「無駄だ」 跋扈王が咆哮すると、さらに鬼火が姿を見せ、厳楼斎と香夜、子供たちは包囲される。 「ここはすでに我が手にある」 跋扈王は冷然と赤い瞳を向けると、ゆっくりと抜刀した。 ――神楽の都。開拓者ギルド。 橘鉄州斎は、いつものように開拓者たちと向き合い、依頼を手配していた。そこへ上役がやってくる。 「橘――」 「はい、何です」 鋭い声に、鉄州斎は何事かと顔を上げた。 「落ち着いて聞け。お前の家が、アヤカシの襲撃を受けたと知らせが来た」 「何を言ってるんですか」 「里に侵入した死人アヤカシの集団が、橘家に夜襲を掛けたのだ」 鉄州斎は、さすがに言葉が出なかった。 「それで――」 「今、里の兵が出てアヤカシと交戦中だそうだ」 「香夜は無事ですか。子供たちは」 「‥‥橘家の者たちは、生き残りはほとんどいないそうだ。残念だ」 束の間の間があって、鉄州斎は弾かれたように立ち上がる。 「里へ向かいます」 「止めはせんが‥‥行くか」 上役が言葉を掛ける前に、鉄州斎はギルドを後にした。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
星鈴(ia0087)
18歳・女・志
無月 幻十郎(ia0102)
26歳・男・サ
井伊 貴政(ia0213)
22歳・男・サ
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
柊 かなた(ia7338)
22歳・男・弓
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
色 愛(ib3722)
17歳・女・シ |
■リプレイ本文 里に到着した開拓者たち――。 照りつける太陽を見上げて、柊沢 霞澄(ia0067)は編み笠を持ち上げた。 「一体どれだけの命が失われたのでしょう‥‥橘家の方々や、村人達の安否も気になりますが今はまずアヤカシの撃退に集中しましょう‥‥出来る限りの事を、迅速に‥‥そして確実に‥‥」 星鈴(ia0087)は眉をひそめた。 「次は死人かいな。相手ん取っては不足あらへんけど‥‥」 自分の故郷が襲われたということで他の仕事で世話になっている橘 鉄州斎(iz0008)のことを少し気にかけている。 「‥‥橘はん‥‥大丈夫やろか?」 「いや、大丈夫ではあるまい」 無月 幻十郎(ia0102)は、言って牙を剥いた。 「鉄州斎殿の身内、奥方や、お子のことが心配だ」 たとえ絶望的だとしても、本心ではすぐさま助けに飛び出したいと思っていた。 「仲間の家族が大変なときに力が出せなくて何のための開拓者か、何のための力か、刀かっ!」 幻十郎は吠えた。 「橘さんに会えると良いのですがね‥‥この状況では厳しいものがありますか」 井伊 貴政(ia0213)はそう言って、顎をつまんで思案顔。 生存者はいないの‥‥? もう‥‥絶望的なの? 向かう前から諦めてしまったら、本当にゼロになってしまう。命の灯は‥‥僅かな希望すら潰えてしまう‥‥。だから‥‥柚乃(ia0638)は最後まで諦めない。 柚乃は胸の内に呟き、煙が上がっている方角に目を向ける。 奇襲の報が届いて、それから現地に間に合うっていう状況は、よほど自信の或る相手なのかそれとも馬鹿なだけか、或るいわ此方の動揺誘うのに名前を売りたいのか‥‥。 葛切 カズラ(ia0725)は美しい眉根を寄せると、しなやかな指先を顎に当てる。 「攻め落としたならさっさと撤退すればいいものを‥‥売名行為かしらね? アヤカシの考えることは分からないわね」 玲璃(ia1114)も頷いた。 「里の負傷者は救助し保護。アヤカシ達は退治ないし撃退。両方こなせるようできる事を全力で行いますよ」 「橘 鉄州斎には色々と世話になった。出来れば力になりたいと思い参加したが‥‥」 柊 かなた(ia7338)は、言って思案顔。 「状況は最悪‥‥いや、これ以上悪化する可能性もあるのなら、まだ最悪ではないか。とにかく、アヤカシは私達や兵に任せ、橘には家族のもとへ急いで欲しいものだが」 「アヤカシ退治と住民救助。厳しい状況ですが、自分の役目は果たします」 コルリス・フェネストラ(ia9657)は言って、吐息した。 「橘殿のことは、残念ですが、こうなってしまっては、とにかく私たちは民を一人でも多く助けなくては」 シノビの色 愛(ib3722)は、今回父からの命で、「得意様の橘家に助力しろ」と言われて参加していた。 今回は、橘家の名声を回復させる事に注力。他の仲間と一緒に敵を撃退する事に協力する、その一方であまりに簡単に奇襲が成された事から、裏で手引きした連中がいるのかも? と推察し、その痕跡があるかどうかを探るつもりであった。この事件が仕組まれた事とわかれば、橘家の名声もある程度回復するだろうと。 愛は開拓者ギルドで手に入れた里の地図と魔の森の位置情報を仲間たちに見せる。橘家の位置とこれまでの情報から敵の退路を予測して、ある程度の予測経路を地図に記していた。 「退路をふさぐ形で敵本陣と対面、てのはどうかしら?」 仲間たちはうなった。 「良い案だとは思いますが‥‥どうでしょうか?」 「この通りに敵が動くとは限らないし、一案として頭に入れておくと良いかもね」 「そうですね‥‥色愛さんの策を否定するわけではないですが、これ以外の状況もあり得るわけですしね」 仲間たちの言葉を聞いて、色愛は肩をすくめる。 愛の提案は差し当たり副案として置かれ、開拓者たちは幾つかの班に分かれて里へ入る。 1班は雑魚の掃討:柊沢、柚乃、幻十郎。 2班は敵主力討伐部隊:星鈴、井伊、カズラ、玲璃、柊。 3班は索敵、援護班:コルリス、色愛。 コルリスが鏡弦を使いながら進んでいく。 「アヤカシの反応は‥‥まだありませんが」 コルリスは周囲に目を配り、色愛も家屋によじ登って偵察する。 「戦火は向こうに及んでいるようだけれど‥‥反応はまだ?」 「そうですね。鏡弦に反応はありませんね」 柊もまた家屋に登って、周囲を見渡していた。 「ここが橘の故郷か‥‥が、随分とやられているな」 破壊された家屋や、遺体が時折目につく。 「何と言うことでしょうか‥‥」 柊沢は遺体に足を止めて、冥福を祈った。 「橘殿‥‥待っていろ。我々が行くまで無茶はするなよ‥‥」 幻十郎は橘の身を案じていた。 ‥‥その頃、跋扈王は里の兵士たちと交戦に入っていた。 「ふふふ‥‥武天国、我々の兵は無限よ‥‥橘家は滅んだ。この土地に湧きあがる嘆きが、恐怖が、怨嗟の念が心地良いわ」 跋扈王は刀を振り下ろすと、サムライを切り裂いた。 ズン! と、刀身がサムライの甲冑を叩き割った。 「おのれ‥‥跋扈王‥‥アヤカシに里は渡さん!」 負傷しながらも、サムライは跋扈王に立ち向かったが、跋扈王はぶん! と刀を一閃してその首を吹き飛ばした。 跋扈王は天に向かって咆哮する。 『里の兵は皆殺しに! 民の嘆きが我々をさらに強くする!』 跋扈王は配下の死人兵をたき付けると、自身は後ろへ下がった。 「くく‥‥これだけの戦果を上げれば十分よ‥‥わしはさらに強くなる」 跋扈王は骸骨武者に指揮を任せると、戦況を観察して、撤収の頃合いを図っていた。 ――そこへ柊の空鏑が鳴り響いた。 「ん?」 跋扈王が目を向けた先に、開拓者たちがいた。 「――いまいましいアヤカシめ。見つけたぞ」 柊は、豪奢な鎧に身を包んだアヤカシに狙いを定める。 「うちらは跋扈王に向かうで!」 星鈴は仲間たちに声を掛ける。 「個人的には‥‥跋扈王は是非とも討っておきたいところです。取り逃がしてしまうと、アヤカシ側に『この戦法は有効だ』と思わせることになり、第二第三の被害が出る恐れもあります‥‥が。本音を言わせて貰えば、故郷でこうも好き勝手にやられるのは気に食わないし、橘さんの無念も晴らしてあげたいですしねぇ」 貴政はそう言って、厳しい顔を見せた。 「うちも橘はんのことは気がかりやけど、今は橘はんもうまくやり過ごしていることを信じましょう」 「そうですね‥‥行きますか」 「跋扈王とやらね、いつまでも好き勝手にできると思わないことね」 カズラも眉をひそめて、気合を入れる。 「跋扈王と相対する前には、神楽舞で支援いたしますので‥‥」 玲璃は言って、頷く。 「行くぞ! 柚乃殿、柊沢殿! 雑魚の足を止める!」 「里の兵のみなさんと連携していきましょう。みなさんに精霊の加護を」 柚乃は仲間たちに加護結界を掛けておく。 「新手か‥‥」 跋扈王は咆哮で兵の一部を開拓者たちに叩きつける。死人兵士が殺到して行くが、幻十郎が一刀両断で叩き伏せる。 貴政、星鈴が切り伏せて行き、カズラの斬撃符、コルリス、柊の矢がアヤカシ兵士を打ち貫き、柚乃の白霊弾が貫通する。 アヤカシ兵10体が瞬く間に討ち取られて瘴気に還元した。 「何だあ奴らは‥‥」 跋扈王は骸骨武者に呼び掛ける。 『新手の兵士が突撃してくるぞ! 里の兵より腕は立つ! 気をつけろ、数で叩きつぶせ!』 『新手が? 今頃になって、無駄なことです』 『油断するな、わしは里の兵に向かう。兵の半数をやる。どうにも悪い予感がする』 『けけ‥‥跋扈王様は用心深いお方ですの、少々腕が立つ程度の相手、わしらで叩き潰してやりましょう』 骸骨武者の一体が哄笑を発して、開拓者たちに向かう。 「敵の動きが変わった?」 色愛は屋根の上から、アヤカシの半数が骸骨武者とともにこちらへ向かってくるのを確認する。 「気を付けて! 敵の半分近くがこっちへ向かってくるわ! 骸骨武者も一緒よ」 合流した色愛は、仲間たちにそう告げると、手裏剣を構えて後退した。 「気を付けて行けよ」 柊はもう一度空鏑を放って、警戒を呼び掛ける。 「柊さんの空鏑、要警戒ですね」 貴政はこちらへ向かってくるアヤカシの大軍に目を向けると、刀を握り直した。 「行くで!」 星鈴は最初の一撃で骸骨兵士を切り裂いた。 激突する開拓者たち。アヤカシの群れは開拓者たちを包囲するようにするすると広がっていく。 『カカカ‥‥人間ども、身の程を知れ、貴様らは滅びゆく運命』 「何を言うてんねん、話したかったら人間の言葉で喋れ!」 星鈴は骸骨武者に打ち掛かっていく。 『カカ‥‥!』 骸骨武者は星鈴と打ち合い、お互いに弾き飛ばされた。 「少しは出来るようやな」 「やってくれますね骸骨武者」 貴政も骸骨武者と打ち合い、雑魚とは桁違いの力量であると確認する。 「幻十郎さん‥‥気を付けて‥‥」 「霞澄殿も、注意なされよ! 数では向こうが上!」 幻十郎は雑魚を次々と叩き斬っていく。 「精霊の力よ‥‥!」 柚乃は白霊弾を叩き込む。 「朧‥‥!」 コルリスはスキル合成射撃の一撃を叩き込んでいく。 「ここであなたたちには沈んでもらいます――柊さん」 コルリスは腕を上げて、柊に合図を送った。柊はそれに応えるように手を振り、家屋の上から飛び移って立ち位置を変えて、矢を放つ。 「跋扈王は後ろへ下がったか‥‥慎重な奴だ」 「ここで名前売られると面倒だし、撤退じゃなく敗走にしてあげなきゃね」 カズラは骸骨武者に斬撃符を叩き込む。 『ぐお!』 鏃状に変形した式が骸骨武者の腕を吹き飛ばす。 「一気に押し返す!」 幻十郎は打撃を跳ね返しながら、死人兵を打ち砕いて行く。 色愛も離れた位置から手裏剣を雑魚に叩き込んでいく。 「私は弱いからって、侮ると痛い目に合うのよ。全く、誰の手引きでお得意様を潰したのかしら」 色愛は戦場から離れると、跋扈王がいる方へ早駆で加速した。 「‥‥あれが跋扈王よね」 色愛はひときわ目立つ甲冑をまとった跋扈王を確認して、仲間たちがやって来るのを待つ。 「戦況は混沌としているわね‥‥このまま逃げられないといいけど」 「――貫け! うちん武を見いや!」 星鈴は骸骨武者の頭部を粉砕した。 貴政とカズラも骸骨武者を撃破する。 「中々しぶといわね」 符を補てんして、カズラは崩れ落ちて行く骸骨武者から、周囲のアヤカシ兵に目を移す。 幻十郎が奮闘して、一人で10体以上を撃破していた。 『何だ‥‥こいつらは‥‥里の兵士とは比べ物にならん』 骸骨武者の一体は後退すると、体から炎が噴き出して鬼火に変身して、舞い上がって逃げた。 恐れをなして後退する雑魚アヤカシの群れ。 開拓者たちが踏みだすと、じりじりと逃げて行く。 「跋扈王の動きが気がかりですね‥‥こうなると逃げ出す恐れが」 「雑魚は逃げそうだし、一気に突破するわよ」 「行くぞ!」 開拓者たちは雑魚アヤカシの戦列を蹴散らして突撃した。 ――跋扈王は突撃してくる開拓者たちを確認する。逃げた骸骨武者が降り立って新手の人間は里の兵ではないと告げる。 「では‥‥そやつらは恐らく開拓者だな。一騎当千の力を持っている。死人兵では止められん。あの炎羅を倒した連中だ。では、わしを殺しに来たか」 逃げてくる死人兵を咆哮で怒鳴りつけると、跋扈王は開拓者たちの方を向いた。 色愛は仲間たちと合流する。 「今度こそ跋扈王が来るわよ! 気を付けて」 「跋扈王を討って、民への手向けとするしかありません」 貴政は再び向かってくる死人兵を叩き斬った。 跋扈王は悠然と炎の中から出現した。 「人間ども。わしを殺しに来たか。神楽の開拓者たちか」 「跋扈王ですか」 その言葉に、跋扈王は刀を構えると、すっと腕を持ち上げる。跋扈王の瞳が妖しく光る。 玲璃は反射的に軽やかに神楽舞を舞うと、貴政の抵抗を強化する。 貴政は跋扈王の瞳に捕えられて、意識が朦朧とするが、湧きあがってくる力が彼の意識を支えた。 「今のは‥‥妖術」 「危ない所でした」 玲璃は神楽舞「護」を舞い、仲間たちの抵抗を上げる。 「ふふ‥‥我が術に耐えるか‥‥ならば」 跋扈王は鋭く加速した。貴政と激突する。 「蛇神――こういうことした奴をただで逃がすわけにはいかないのよ!」 カズラは術を撃ち込んだ。触手が絡まって巨体を成して突撃する。直撃。 「ええやんか、相手んするんに不足何ぞこれっぽっちもあらへん」 星鈴は切り掛かったが、疾風のような跋扈王の動きに、間合いを詰められる。直撃が来る。刀身が星鈴を切り裂いた。 「っ、やっぱりやるやん‥‥せやかてうちん『武』もそう安いもんやあらへん!!」 飛びすさって、一撃を撃ち込む。――が、跋扈王は鋭い動きで星鈴を叩き伏せた。 「あぐっ!? まだうちん『武』は届いてへん、言うことかいな‥‥っ!」 直後、柊の一撃が跋扈王の目を捕える。 「これは橘の分だ、受け取れ」 しかし、跋扈王はすんでのところで矢を掴んでいた。 星鈴と貴政と打ち合い、二人を退けた跋扈王は、最後に笑声を残して鬼火に変身する。 「ふふ‥‥これからまだ火の手は上がる。覚えておけ」 跋扈王は余力を残して撤退する。 そして、残る骸骨武者たちも鬼火となって戦場を離脱した。 ‥‥残る死人兵を撃破した開拓者たちは、傷ついた民の救出に向かう。 跋扈王が残した傷跡は深い。領内が壊滅し、橘家は事実上崩壊した。柊沢、柚乃、玲璃、コルリスらは、負傷した民の手当てに回る。頭首の橘厳楼斎は重体でいたところ発見されて、一命を取りとめる。 炎上して崩れ落ちた橘家の邸宅で、柊と幻十郎、貴政、星鈴は鉄州斎と会う。 鉄州斎は、香夜と子供たちの遺体と向き合っていた。冷たくなった体に、布を被せてやる。 「橘殿‥‥残念だ」 「橘、お前のせいではない」 開拓者たちが言うのに、鉄州斎は短く言葉を発した。 「これも運命であったのかもしれないな」 鉄州斎はそれ以上語らなかった。今は言葉は見つからなかったのだ。彼はただ、黙して亡骸を見つめるだけだった。 ‥‥崩れ落ちた橘家の屋根の上に、色愛はいた。今回の襲撃が、何者かに手引きされたものだとしたらどこかに痕跡があるはず‥‥。 その瞬間、色愛はもの凄い衝撃を受けて叩きつけられ、押さえつけられた。 「あ、が‥‥何‥‥!」 「ネズミか、何を探っている」 その声には、異様な気配があった。跋扈王ではない。 「な、何者だ‥‥この事件の黒幕か‥‥!」 色愛はあがいたが、体は動かない。 「黒幕?」 声はおかしそうに笑った。 「一つの家が滅んだ、それだけのことだ、それ以外に何がある」 「ぐ‥‥あ‥‥!」 色愛は息が止まりそうになる。 ――次の瞬間、力が解き放たれ、異様な気配は消えた。 色愛は跳ね起きたが、どこにも声の姿はなかった。 「くっ‥‥」 色愛は膝を着いた。激痛が背中から腹部に走る。 「今のは‥‥アヤカシか‥‥」 だが、余りの不意打ちに、敵の姿すら見えなかったのだ。 |