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■オープニング本文 天儀本島武天国、龍安家の治める土地、鳳華にて――。 里の東で向き合う龍安弘秀と在天奉閻の軍は、三か月の時を過ごしていた。 アヤカシ軍の陣中では、在天奉閻が天晋禅と話していた。 「一体何が起こっているのだ? 魔の森に異変を感じるが」 在天奉閻の言葉に、天晋禅はしばし思案した。 「分かりません。全てが分からないのです。魔の森の奥地に、正体不明の力が沸き起こっているのは確かなのですが‥‥はっきりとした姿は捉え切れていません。ただ、瘴気の濃度が増しているのは間違いありませんね」 「一体何が‥‥鳳華は我々の領域で、他に目立つ存在はなかったが」 「分かりません。あの光と瘴気の渦は、見えたと思った次には消えているのです」 そこへ、ぼろぼろになったアヤカシの将が駆けこんで来る。 『在天奉閻様、龍安軍の精鋭と思われる軍勢が集結しつつあります。我が軍の巨人兵が壊滅しました』 『分かった。前線に出る』 在天奉閻は立ち上がった。それから天晋禅に言葉を投げる。 「天晋禅、魔の森を見張っておけ。我々の縄張りを荒らす者が何者か、はっきりと確かめるのだ」 「承知」 天晋禅はすうっと消えた。 在天奉閻は騒がしくなっている戦場の方へ向かって歩き出した。 「不確定要素はあるが‥‥龍安軍はいずれ叩いておかねばならん。ここ最近の奴らの戦い、侮れん」 在天奉閻は、鳳華の魔将たちが三人死んだことを軽く見てはいなかった。 龍安軍陣中――。 続々と志体持ちの兵士が到着していた。 「おう! 来たか! 青木!」 龍安家頭首の龍安弘秀は、武将の青木正則を出迎えて豪快に笑った。 「天幽を撃破した件、ご苦労であったな」 「あれは、開拓者たちの功績にございます」 「そうであったな! 全くあいつらには驚かされるぜ! 奴らは鳳華の歴史を作っているからな」 弘秀は言いながら、戦場の地図に目を落とした。 「見ろ、今、天壬王と侯太天鬼がここにいる。ここで在天奉閻を後退させることが出来れば、アヤカシどもを分断できる。それは可能だと思っている」 「そういうことだ青木殿。志体持ちを集結させたのには、在天奉閻の軍に打撃を与える必要があるからだ」 家老の大宗院九門は言って、卓上の駒を動かしていく。 「魔将を撃破し、敵の戦力は落ちている。ここを押さえれば、他の戦場へ旋回してアヤカシどもを一息に撃滅することも可能になる」 「言うは易しだ」 弘秀は、鋭い眼光でじっと地図を見つめる。 「そのためには、あの『竜神』を押さえなければならない」 「‥‥‥‥」 青木は、表情を変えることなく、顔を上げた。 「ところで、戦況は――」 「敵は小揺るぎもしない。幾つかの部隊を撃破したがな」 そこへ、上空から龍に乗ったサムライ大将が下りて来る。 「お屋形様! 前線に在天奉閻を確認しました! 奴め、大部隊を率いておりますぞ」 「来たか。やはりな。向こうも我々の動きを読んでいるか」 弘秀は、大将の一人に攻撃命令を出す。 「行くぞ! 全軍を以って敵軍を迎え撃つ! 出陣!」 合図の銅鑼や太鼓、法螺貝が吹き鳴らされ、龍安軍は整然と動き始めた。 |
■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116)
12歳・女・巫
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
輝夜(ia1150)
15歳・女・サ
魁(ia6129)
20歳・男・弓
朱麓(ia8390)
23歳・女・泰
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
ブローディア・F・H(ib0334)
26歳・女・魔
朱鳳院 龍影(ib3148)
25歳・女・弓 |
■リプレイ本文 地上と空からの偵察で、アヤカシ軍の布陣がおおよそはっきりとしてくる――。 前衛:アヤカシ重戦士×80 中央:アヤカシ戦士×200、アヤカシ術士×40 後衛:アヤカシ弓士×50 右翼:アヤカシ軽戦士×80、アヤカシ術士×10 左翼:アヤカシ拳士×50、アヤカシ術士×10 在天奉閻は恐らく中央で指揮を取ると推測された。 これに対して、龍安軍は次のような陣を敷いたのである。 【作戦】 対前衛:掃討班開拓者+サムライ100+陰陽師5+巫女5 ・アヤカシ重戦士を攻撃、戦闘しつつ多少左右に散開して中央への道を開く。サムライの一部と掃討班はそのまま中央に合流 対中央:在天奉閻班開拓者+サムライ90+志士20+陰陽師10+巫女10+弓術士25 ・前衛が開いた道を進み、敵中央を攻撃。弓術士は術士型を集中攻撃 対右翼:サムライ60+志士20+陰陽師5+巫女5で攻撃 対左翼:サムライ50+志士10+陰陽師5+巫女5で攻撃 対後衛:泰拳士50 ・風下側から気付かれないように迂回してアヤカシ軍の背後に回り、敵後衛の弓士を奇襲 ある程度敵を混乱させたら二手に分かれて右翼と左翼の応援に回る 情報操作:シノビ25 ・情報収集と、泰拳士隊の迂回を敵に気付かれないように情報その他を偽装 そして、開拓者たちの編成は――。 在天奉閻班:鈴梅雛(ia0116)、焔 龍牙(ia0904)、朱麓(ia8390)、ジークリンデ(ib0258)、朱鳳院 龍影(ib3148) 掃討班:華御院 鬨(ia0351)、輝夜(ia1150)、魁(ia6129)、ブローディア・F・H(ib0334) 後方救護回復:玲璃(ia1114) ――である。 「この戦いの結果が、今後の流れを大きく左右する事になりそうです」 雛はやや緊迫した面持ちで口を開いた。 雛は在天奉閻と戦うのは初めてであり、最強の竜神との戦いに、今まで以上に気を引き締めていた。 「在天奉閻を抑え込めれば、今後の戦いは有利になるでしょう。ですが、逆に損害を被れば、志体持ちを集結させている分、影響は計り知れません。この一戦が、この後の戦いの分水嶺です。皆さん、一緒に頑張りましょう」 がしがしっと、頭を朱麓に撫でられる。 「しかし龍安家も総大将格を3人も出すとはねぇ。っと、家老殿とは初見だったかねえ?」 「朱麓さん、頑張りましょう。ひいなと一緒ですね」 「ああ、竜神とやらに一発ぶちかましてやるかねえ!」 朱麓は言って、からからと笑った。 「各人の連携が、この戦いの鍵になると思います。仲間を信じて、皆で戦いましょう」 兵士たちも意気盛んに拳を突き出していた。 「女性陣の豊満な肢体に見とれて背後から襲われるなんて洒落にもならん事はしないどくれよ? ま、あたしの体位なら問題ないだろうけど!」 朱麓は周りの兵士達に向け言うと、大笑いする。兵士たちは肩をすくめて、相変わらずの朱麓の豪放さを頼もしく思う。 「うちらは在天奉閻の相手に集中しやす‥‥。皆はん、その間きばりやせ‥‥」 鬨はそう言って、兵士たちを鼓舞する。歌舞伎役者の鬨は、れっきとした男であるが、普段は女形をしていた。今日も斬馬刀を担ぐクールな女重戦士を演じる。 「敵は七魔将最強の竜神だ! 言うまでもないが、厳しい戦いになる! 心して掛かれ!」 龍牙は言って、兵士たちを叱咤激励していた。 玲璃は、後方にあって巫女を統括し、仮設の救護所を設けて、いつでも兵士たちを受け入れることが出来るように段取りを進めていた。 「この戦いで中央部隊は最も敵軍の攻撃が集中し、お味方の負傷も激しいものになるでしょう。私は精霊の唄を駆使して、一度に一人でも多くの負傷されたお味方を治療し続ける事で御味方の戦いを支援します。恐らく精霊の唄での治療で手一杯になる程、厳しい戦いとなるでしょうから、皆様には負傷が回復したお味方への神楽舞の付与等をお願いします」 玲璃の言葉に、龍安の巫女たちは、両翼では戦場での支援に回ると言って、中央隊に回る者たちは玲璃のサポートをすると言った。 「七魔将最強と言えど、我等は臆したりはせぬ。‥‥ところで、七魔将とやらはあと何体残っておるのじゃ?」 輝夜の問いに、龍安弘秀は「あと在天奉閻を含む四体だ」と告げる。 「竜安家家臣、弓術師の魁。よろしくたのむ」 魁は、兵士たちに軽く会釈していた。 「この戦もそろそろ正念場となるか?」 ジークリンデは在天奉閻の能力を推察。前回の在天奉閻との戦闘記録から、敵の攻撃の射程を分析。龍安軍の者から詳しく聞いて在天奉閻の射程・範囲を確かめておく。 「謎の呪文は全方位に影響‥‥光線や光の弾は推定50メートルですか‥‥脅威ですね。しかも相当に頑丈な肉体を持っている」 「それにしても――」 ブローディアは陣中の勢いを見て、淡々と話す。 「ようやく攻勢になってきたというところかしらね。‥‥油断はできないけど」 朱鳳院は、在天奉閻の絵姿を見ていた。その姿は、3メートル近い偉丈夫で、ゆったりとしたローブを幾重にもまとい、全身から微かにオーラのような光を放っている。表情は鬼に酷似しており、赤褐色の肌をしていて、角と牙を持っていて、たてがみにも似た金色の髪が揺れている。 「なるほど、これが竜神か。さすがに倒しがいがありそうじゃの‥‥それにしてもこれは、まさに威風堂々たる鬼神じゃのう」 そうして――戦が始まる。法螺貝と太鼓や銅鑼が鳴らされ、龍安軍は前進する。 「敵正面に攻撃せよ! サムライ衆、咆哮を解き放て!」 「おお!」 サムライたちから雄叫びが上がり、アヤカシの戦列を直撃する。サムライのスキル「咆哮」。 アヤカシ兵たちは怒りの咆哮を上げると、ばらばらになって前進してくる。 「行くぞ」 輝夜は敵のただ中に飛び込むと、回転切りでアヤカシ重戦士を薙ぎ払った。凄絶な一撃が周囲のアヤカシに大打撃を与える。 「ぬん!」 一撃踏み込み、刀を振り下ろし、アヤカシの胴体を両断した。 「みな、一気に敵陣を突き破ります‥‥。在天奉閻に時間を与える必要はありまへんどす‥‥!」 鬨は加速すると、斬馬刀を円月で一閃する。吹っ飛ぶアヤカシの鎧が、黒い塊となって崩れ落ちる。武器防具も丸ごと瘴気である。 「行きますどす‥‥! 白梅香‥‥!」 斬馬刀に宿る浄化の力。鬨の一撃がアヤカシ重戦士を粉砕した。 「ケダものはケダものらしくかかってきたらどうだ? 今度こそ全員塵にしてやる」 魁も即射で連続攻撃。圧倒的なスピードでアヤカシを射抜いて行く。 「行くわよ――受けよ吹雪、ブリザーストーム」 ブローディアは吹雪を叩きつけた。ごう! とアヤカシの戦列に穴が開く。 龍安軍は最初の攻撃でアヤカシの前衛を打ち砕いて行く。両翼に向かった龍安軍がアヤカシ軍の突進を食い止め、シノビが遊撃の位置に付きつつ泰拳士はアヤカシ軍の背後へ攻撃を仕掛けて行く。 「よし! このまま一気に突き破るぞ! 中央隊! 出る!」 龍安弘秀が合図を送ると、全軍整然と前進を開始する。 アヤカシ軍陣中――。人面鳥から龍安軍の動きを聞いていた在天奉閻は、悠然と立ち上がった。 「愚か者ども‥‥龍安軍よ、お前たちに竜神は倒せん」 在天奉閻は前線に向かって中央部隊を動かし始める。 「アヤカシ軍、前進してきます!」 「敵影に在天奉閻を確認しました! 前線に出てきます!」 次々と入って来る報告に、龍安弘秀は開拓者たちを呼んだ。 「竜神のお出ましだ。行けるか? 雑魚どもは兵士たちで蹴散らしてやる。精鋭をつけてやるから在天奉閻の首を取って来い」 「望むところさね」 朱麓は言って、槍を担ぎ上げた。 「御大将自らの言葉とあっちゃ、逃げるわけにもいかないね。もっとも、あたしらは最初からそのつもりだけどね!」 「頼むぞ。だが無理はするな。そう簡単にこの戦が終わるとも思えん、雛が言ったように、味方も志体持ちを集めている分、被害が出れば取り返しがつかん。アヤカシの兵力は回復出来るだろうが、我々はそう簡単にはいかん」 「分かってるさ。大将も心配性だね」 そして、龍安軍が本格的な攻勢に転じるのと並行して、一部の精鋭と開拓者たちが中央の在天奉閻に切り込む。 ――ぶうん! と大気が震動して、光線が龍安軍を薙ぎ払った。在天奉閻の妖術だ。 「ぐあ!」 「な、何だ!」 「敵から光がの刃が!」 「退け! 後方まで退け!」 傷ついた兵士たちが後方に運び込まれてくる。 「大丈夫ですか」 ここから玲璃は忙しくなる。 「在天奉閻の妖術だ、とんでもない一撃だ、光の剣が突き刺さったような‥‥」 兵士たちの傷は深い。志体持ちの肉体が鋭く切り裂かれて出血している。 「玲璃殿! 回復はいけるか!」 次々と兵士たちが運び込まれてくる。 「私の周囲にみなさんを集めて下さい、精霊の唄で一気に回復します」 玲璃はエンジェルハープを奏でると、静かな声で歌いだした。精霊の力が、見る間に兵士たちのダメージを回復させていく。 「さすが‥‥玲璃殿。大したものですな」 立ち上がる兵士たち。 「巫女の力は偉大だ。戦に巫女の力無くして戦うことはできんからな」 「みなさん‥‥お気をつけて」 「玲璃さんも、頑張って下さい。大変だろうけど。みんな頼りにしてます」 「私の気力が続く限りは」 玲璃は言って、微かに笑みを浮かべる。 「よし! 行くぞ! 竜神に負けてたまるか!」 兵士たちは再び前線に出て行く。 在天奉閻と再び相対する開拓者たち――。 「気をつけろ、まともに行くと動きを封じられるぞ」 龍安の精鋭が声を掛ける。 「と言って、術の撃ち合いでは負けるであろう。一気に畳み掛けるしかない」 朱鳳院は言って、槍を構えた。 先に見える在天奉閻は、時折光線を放って龍安軍の戦列を押し返している。 「行くぞ」 「私がアイアンウォールで視界を塞ぎます。その隙に接近して下さい」 ジークリンデが言うと、在天奉閻の正面に鉄の壁を作りだす。 「今です!」 次の瞬間、閃光がアイアンウォールを直撃して打ち砕いた。 「行け行け! 止まるな!」 龍牙が回り込んで加速する。全員全力移動で一気に間合いを詰める。 「一斉に打ち掛かれ!」 「俺は『焔龍』の名を継ぎし者、同じ龍の異名を持つ者同士、どちらの龍が格上か勝負だ!」 「行くぞ竜神!」 朱鳳院は発気に隼襲を使い加速すると、「ぬうん!」と一槍打通を叩き込んだ。 続いて龍牙と朱麓が入れ換わるように攻撃、龍牙の平突が直撃する。 「ようやく会えたね竜神さんよ!」 朱麓は槍を撃ち込む。龍安部隊に遊撃を任せると、在天奉閻の背後に回りそのまま一気にその体を駆け上がる。後頭部に到達したところで紅椿を発動し、跳躍して在天奉閻の頭部を貫く。――が、キイイイイイン! と朱麓の渾身の一撃は在天奉閻の頭部に弾かれた。」 「にっ――! 堅いっ!」 「アークブラスト!」 ジークリンデの魔術が在天奉閻の肉体を貫通する。 「さすがにしぶといどすな‥‥」 鬨は言って、周りのアヤカシ兵を撃破していた。ちらりと目をやれば、龍牙たちが在天奉閻と格闘を演じている。 ――在天奉閻の光線がほとばしる瞬間、鬨は苦心石灰で雛の前に立ち塞がり、守った。 「術の隙に、今のうちどす‥‥」 「竜神とやら、折角来たのじゃ、手土産代わりに我の一撃を見舞ってやろう」 突進した輝夜がタイ捨剣を撃ち込む。並みのアヤカシなら一撃で粉砕する大打撃。手ごたえはあった。下から上に在天奉閻の肉体を切り裂いた。 「ここで決着をつけよう」 魁は風撃で在天奉閻を狙う。狙い澄ました一撃が在天奉閻の肉体に突き刺さる。弓術士の技が在天奉閻の命中力を低下させる。 「竜神さん、今日はあなたの最後の日になるわ」 ブローディアはホーリーアローを撃ち込みつつ、最初の仲間たちの攻勢を見ていた。 在天奉閻は全ての攻撃を受け止めた。果たしてどれほどの打撃があるのかは分からない。 と、ターンの最後に、在天奉閻は前回解き放った謎の呪文を唱え始めた。意味不明の言葉だが、禍々しい響きのある言葉だ。 「ぬっ‥‥、何‥‥!」 「何じゃこれは‥‥」 龍牙や朱鳳院ら、接近していた開拓者たちは次々と動きを封じられていく。まるで金縛りにあったように。 「う、動けない‥‥!」 「待って下さい、ひいなが解術します」 雛は解術の法で回復を試みるが、術は解けない。 「駄目なのか?」 「強固な術ですね。動けませんか?」 だが話している余裕はない。 「龍安軍よ、ここまで来たお前たちの戦いぶりは称賛に値する。が、それも竜神の名をより恐怖で彩る生き証人となるだけだ。何とするならば、お前たちの力は到底わしに及ぶところではないからだ」 そうして、在天奉閻は腕を一振りした。 閃光が爆発して、開拓者たちは吹き飛ばされた。 灼熱のような激痛が体を貫く。 「な、何‥‥!」 「これほどの一撃を‥‥信じられん‥‥」 「凄い‥‥力です‥‥」 雛はよろめきながら後退して、膝をついた。 「大丈夫ですか」 ジークリンデが駆け寄る。 「在天奉閻の力は、ひいなたちの想像を越えています。でも、諦めるわけには」 「くっ‥‥まだ動けない」 あがく開拓者たちに、在天奉閻の反撃が襲い掛かる。 龍牙は顔を上げた。在天奉閻の冷ややかな目が龍牙を見下ろしていた。 「人間よ、竜神には勝てん。いかにも脆いお前たちの力で、竜神を倒せる通りがあろうか」 「在天奉閻‥‥『焔龍』は貴様に負けはしないぞ」 「苦しいな」 在天奉閻は、腕を持ち上げると、次々と術を撃ち込んだ。瞬く間に生命を削られて行く開拓者たち。 ようやく呪縛から解放された輝夜が、在天奉閻の腕目がけて加速した。満身の一撃を撃ち込む! 「――!」 輝夜の刀は、在天奉閻に掴まれていた。 「術でみなさんの援護を! 魁さん! 在天奉閻の腕を狙って!」 ジークリンデ、ブローディア、魁が遠距離から在天奉閻を撃つ。だが、在天奉閻はびくともしない。 掴みあげられた輝夜は、光の爆発を受けて吹っ飛んだ。 「輝夜さん‥‥!」 雛が駆け寄り、閃癒を連続してかける。 「奴め、尋常ではないの」 輝夜は口許の血を拭った。 やがて開拓者たちは限界が来て後退する。 「竜神か、おぬしは確かに強いが‥‥私たちも負けてやる通りはない」 朱鳳院はぼろぼろになりながら真紅の瞳を在天奉閻に向ける。 「いつの日か、わしを倒せる日が来る‥‥そう思うか人間よ。淡い希望に望みをつなぐがよい。それを打ち砕くのもまた一興と言うもの」 在天奉閻は静かに言った。だがそれだけで追撃はしてこない。全体としてはアヤカシ兵が押され気味であったこともある。 在天奉閻は後方に回った泰拳士たちを蹴散らすと、いったん兵を引いた。 それを見送った鬨。ぼろぼろの体で「やはり、戦士の配役は体がもちやせんわ」と素の普通の表情で感想を言った。 |