【天龍】天壬王と天晋禅
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/09/14 14:09



■オープニング本文

 武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。
 白毛の獅子、天壬王が、丘の上にいた。天壬王の眼下には、無数の獣アヤカシたちがいた。先の戦で方足を失っていたが、既にその傷は癒えていた。
 天壬王は上空を振り仰いだ。グライダーが旋回しているのが見える。人間が偵察に出ているのだろう、と天壬王は思っていた。
 ――その口許が微かに歪む。幾多の戦を経て、多くの民と龍安兵を殺した。天壬王は、自らの肉体に突き上げてくるような力のうねりを感じていた。
「ふ‥‥ふふ‥‥あはは‥‥!」
 普段平静な天壬王が、狂ったように笑いだす。
 ぼう! と黄金色の瘴気の渦が天壬王の体から湧き出した。天壬王の体が金色に変わっていき、獅子の四肢が装甲に覆われて行く。
「あはははは! はーはっはっは!」
 天壬王は歓喜の雄たけびを上げると、群れを率いて龍安軍の方へ動き出した。
「力が湧きあがってくる‥‥! くくく‥‥! 信じられん、これほどの力が我が手に‥‥人間など叩き潰してくれましょう」
 天壬王は先陣を切って疾走する――。

 グライダーに搭乗していた龍安軍のシノビは、目を疑った。望遠鏡で、はっきりと天壬王が変化するのを見た。
「何だあれは‥‥天壬王なのか?」
 アヤカシたちが動き出したのを見て、シノビはグライダーを旋回させると、急いで本陣に戻る。
「雪鈴様!」
 シノビは、龍安軍総大将の蒼晴雪鈴のもとへ駆け込んだ。
「アヤカシが動いたようですね」
 雪鈴は落ち着いていたが、シノビは黄金色に変化した天壬王について告げる。
「天壬王は、力が湧きあがってくるようだ、と」
「それは‥‥喜べる事態ではないですね。恐らく天壬王は力を増したのでしょう。新たに強力な力を得たアヤカシは、外見の変化を伴うことがあります」
 雪鈴はそう言って、新たに変化した天壬王に注意を喚起する。
「迂闊には近づかないことです。熟練兵のみで対処を――」
 次の瞬間、陣の後方で炎が爆発した。一般人兵の集団が一撃で焼き尽くされる。
「何です?」
「て、敵襲です!」
「敵襲ですって?」
 新たに飛び込んできた兵士は息を整えて、言葉を紡いだ。
「――鳳華の七魔将、天晋禅です! 少数の人似鬼型アヤカシ部隊が攻撃を!」
「何ですって‥‥」
「天壬王率いるアヤカシ軍、前進してきます!」
 悲鳴のような報告が入ってくる。
「サムライ大将は兵を率いて天壬王の対処に当たって下さい! 熟練兵の一部を天晋禅に向けます! 私とともに後方へ!」
 雪鈴は、混沌とする陣中で鋭い声を飛ばして叱咤した。


■参加者一覧
星鈴(ia0087
18歳・女・志
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
焔 龍牙(ia0904
25歳・男・サ
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
白蛇(ia5337
12歳・女・シ
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
井伊 沙貴恵(ia8425
24歳・女・サ
色 愛(ib3722
17歳・女・シ


■リプレイ本文

 混沌とする戦場――。前方からは天壬王ら獣たちの大軍、後方からは天晋禅の奇襲攻撃、これら二つに対処するのは困難を極める。
「偉い椀飯振舞できよったやんか。うち少し興奮して、頭かっかしてしまいそうや‥‥」
 星鈴(ia0087)は言いつつ、志体持ち10人と前方に向かう。天壬王達を食い止めて後方のバリケード作成、足止め用の田んぼへの水引等の準備を掩護する。
「総員きばりぃ! ここがうちらん舞台や、客にゃぁ意地はってまん前向いて真正面からいったりぃ!!」
「おお! やってやろうじゃねえか星鈴の姉さん‥‥じゃなかった星鈴様」
 星鈴は家臣であったので、慌てて訂正する若者。
「その勢いは買うで。奴らにぶちかましたり」
「多くの兵や民を殺せばパワーアップできるというのは‥‥厄介な能力だけど‥‥それを餌にすれば相手の行動を先読み出来るかも‥‥」
 白蛇(ia5337)はそう呟き、兵を率いる。
 まずは対天晋禅として立ち向かう――前線戦力で天壬王達を食い止めている隙に里内の家屋を一部解体しバリケードを設置。
 作業員は一般兵50人の他に軽装でも戦える泰拳士10〜20人を配置。包帯や村人達が残した服で「作業を手伝う村人」「負傷して後方任務に送られた兵」の偽装を行う。放火対策の水桶も用意。白蛇もそこに所属し、包帯を巻き怪我を装いつつ、超越聴覚で各方面からの報告を聞き取る。
 元々これは天壬王を突出させる為の策だが天晋禅戦にも流用出来ると考えた。
「後方撹乱は弱い個所を狙うのが常套‥‥天晋禅が新たな力を得たいと願っているなら尚の事‥‥偽装に誘き出された所を泰拳士達と共に反撃‥‥一般兵は作業続行しつつ‥‥武装が必要な場合は一般兵から受け取るよ」
「そうですか、天壬王が。ならば尚の事、これ以上暴れさせる訳にはいかないですね」
 鈴梅雛(ia0116)は言って、後方へと向かう。
「すいません、天普禅も居ることですし、何処から不意討ちを受けるか分かりません、龍安兵の志体持ちの方で、前衛職の方に3人ほど、ひいなの護衛に来て貰えないでしょうか」
「承知した。腕の立つ傭兵を三名ほど付けよう」
「ひいなは、直接戦ったりは出来ないので、どうぞよろしくお願いします」
 雛は仲間たちと急ぐ。まずは天普禅の撃退に行く。
「天壬王も気になりますが、天普禅を放置する訳には行きません」
 それから雛は以前の戦いを思い出して、蒼晴雪鈴に進言する。
「天普禅が以前、奥方様たちを狙った様に、姿を消して雪鈴様を狙ってくる事も考えられるので、雪鈴様には、瘴索結界等で、周囲を十分警戒して下さい。天普禅が正面から攻め込んで来るとは考え難いです。どうか、奇襲には十分お気をつけ下さい」
「ありがとうございます雛さん。私も少し焦り過ぎたかも‥‥」
 雪鈴は軽く息を吐いた。
「厄介なのが更に強化されて、もう一体もオマケで来るだなんて。本当に厄介な状況よね」
 美しき葛切 カズラ(ia0725)はそう言って、星鈴とともに最前にいた。
「強くなった天壬王‥‥アヤカシの変化って陰陽師としては興味深いところよね。どれだけ違うのか」
「うちも気になるところやけど‥‥戦を経て力を蓄えるっていうのは厄介やよなあ」
「雪鈴殿、天壬王と天普禅ですか、1体でも厄介なのに2体とは‥‥」
 焔 龍牙(ia0904)そう言って、混沌とする現場に目を向ける。炎があちこちで陣を焼いている。
「焔さん、来てくれましたか」
「ええ、天晋禅とやらは油断の出来ない相手のようですね。まるでシノビのような相手だ」
「そうです、天晋禅は変幻自在のアヤカシですからね。先手さえ取れば無類の強さを発揮します」
「厄介な‥‥だが、横暴もここまでだ」
 玲璃(ia1114)は蒼晴雪鈴に歩み寄ると、巫女達や一部の一般兵の指揮を願い出る。
「構いませんが。どうなさるおつもりですか」
「救護所の設置と後方支援を補助してもらいますね」
「分かりました、ではことに当たって下さい。玲璃さんの我が軍への貢献は聞いています。お願いします」
「ありがとうございます」
 玲璃は龍安家の巫女達や兵士達に挨拶の後、後方に味方を治療可能な救護所を設け、部隊の前進、後退にも対応できる様仮設状態に据えおく。
「味方の兵達に負傷者が出たら可能な限り、ここへ運んで下さい。お願いします」
 それから巫女たちには、
「後方の天普禅を片付けるまで防衛線を守り抜き、以後の反攻に繋げる事がこの戦いの要でしょう。私は精霊の唄を駆使して、一度に一人でも多くの負傷されたお味方を治療し続け一連の戦いを支援します。恐らく精霊の唄での治療で手一杯になる程戦は厳しいでしょうから、皆様には回復したお味方への神楽舞の付与等をお願いします」
 と役割分担を依頼する。
 それから、仲間のバリケード設置と連動し、バリケードの中央下に来る位置辺りに逆ハの字型に溝を掘る作業を、指揮権を得た兵士達を動員して行わせることにする。
 二交代制で指揮し完成させ敵の行動範囲を抑制し、敵の数の利を封じられる様尽力。
「俺はサムライのルオウ(ia2445)、よろしくな! なんか強敵相手みてえだな! 気合い入れていくぜぃ!」
 赤毛の熱血少年は、言ってぶるんと腕を一振りした。
「龍安のおっちゃん達! よろしく頼むぜぃ!」
「よお、開拓者の少年か。よろしくなあ! 今回は危険だぜ!」
「任せとけ! おい、サラン!よろしく頼むぜ!」
 友達のサラン――色 愛(ib3722)とともに後方へ向かう。
 色愛はルオウ様の手伝いとして参加。
「汗臭いお仕事はイヤ!」と本人は不機嫌気味である。
 とは言いつつ、龍安家とのパイプを持つのが裏目的で、丁寧に挨拶をしていた。
「シノビの獣人、色愛ですわ。龍安軍のみな様、よろしくお願いしますわね。この色愛、誠心誠意お役に立ちますわ」
「何だサラン? らしくもねえ」
「行きましょうルオウ様」
 火の手が上がってる方向に加速する。
「うし! とにかく急ぐぜ!」
 火の手が上がってるのを見て先陣切って駆け出していくルオウ。
 鈴木 透子(ia5664)は意外な策に打って出る。
「天壬王と天晋禅の対応に動きます。前後を挟まれた不利な状態ですね」
 そして、蒼晴雪鈴に進言した。
「田んぼに水を入れて来ます」
「田に水ですか?」
「はい、天晋禅を追い払うまで、天壬王とその軍を受け止めなければなりません。速さを誇る敵なので、水田に引き込み脚を封じます。通常、田は家屋に隣接しています。それに里の占拠に拘らないほうが良いと思いますから」
「意外な策ですが‥‥うまくいくでしょうか?」
「配下のアヤカシもそうですが、過去の事例を見る限り特に天壬王の速さは尋常ではない様です。それなら、こちらも動き難くても水田で戦ったほうが良いと思います。それに引き込む側なら、自分達は固い地面、敵は泥土の様な有利な場所を選べるかもしれません。なるべくそうなる様にします」
「仕掛けるなら早急に、では動いて下さい」
「ありがとうございます」
 そうして、地元や農民出身の一般兵を50名借り受けると、5人1組になって付いてきて貰う。
「水口を開けば直ぐに水が入る田んぼを選び、手分けして水を入れて下さい、あ、それから」
 鈴木は地元出身者に、どのくらいの時間で泥土になる程の水が入るか尋ねておく。
「兎に角速くという訳でもありません。天壬王が足を踏み入れて少ししてから泥土に変わる位でも構いません。というか理想はそれです」
「時間は掛かりますよ。田は干上がっておりますから、泥土に変わるまでとなると、半日はかかるのではないかと」
「そうですか、では後で修理しますので、焙烙玉を使って水門等を一部壊します」
 鈴木はきびきびと言うと、水門の破壊に向かって行く。
 井伊 沙貴恵(ia8425)は弟がいつもお世話になっているからと、
「少しは私も恩返ししなくちゃね」
 龍安家の兵士たちは井伊貴政を知っていた。
「恩返しとは‥‥よく働いて下さり、貴政殿にはよく助けられました」
「そう‥‥あの子よく頑張っているのね」
 沙貴恵はそう言って、天晋禅の方へ向かう。雛と合流する。
「両面作戦は分が悪いけれど、そうも言ってられない状況だし、先ずは後方に現れたアヤカシ・天晋禅へ対処するわ」
「沙貴恵さん、天晋禅はとても強いです。警戒して下さいね」
「変身能力などを持つ厄介な相手のようね。天晋禅を狙い撃ちに出来れば理想的だけれど、それが適わない時には他の鬼アヤカシから迎撃していくわね」
「気を付けて下さいね。以前も、ひいなたちは凄くぎりぎりまで追いつめられました」
「そう‥‥噂に聞く鳳華の七魔将ですものね。この天晋禅も」
「急ぎましょう」
 陣中を駆け抜ける沙貴恵と雛。

「――火炎・煉獄!」
 天晋禅は腕を一振りすると、手から炎を解き放った。――ゴオオオオオオオオ! と凄まじい炎が龍安陣中に吹き付ける。
「オオ‥‥カエン‥‥」
 配下の炎に包まれた鬼アヤカシ達も、火炎術で薙ぎ払って行く。
「行くぜサラン!」
 ルオウは加速した。
「ルオウ様、後ろはお任せを」
 色愛も加速。ルオウの体をブラインドに、敵の死角から鞭で攻撃。
「死鬼家鞭技、闇蛇」
 物体の影に沿って鞭を伸ばし、相手の首や足を絡め取る。
「食らえ!」
 大上段からルオウは一撃を鬼に叩き込んだ。
「なるほど厄介な相手のようね」
 沙貴恵は一般人兵を下がらせながら突撃する。
「はあああああ‥‥! 燃えよ闘志!」
 沙貴恵は大剣を構えて突撃する。
「グガアア! カエン!」
 火炎攻撃が飛んでくる。
「くっ‥‥何の! いくわよ!」
 沙貴恵は炎の中からアヤカシに突進、一撃を叩き込んだ。
「一般人のみなさん下がって下さい。ひいなたちで天晋禅は食い止めますから」
「す、すみません‥‥!」
「急いで下さいね。前からも天壬王が来ます」
「天晋禅か‥‥厄介な奴だ。まともにぶつかれば勝機もあるのだろうが」
 龍牙は天晋禅を見失い、他のアヤカシを叩いていた。
 と、その時である、天晋禅が白蛇たちの集団に襲い掛かってきた。白蛇たちを負傷者と思い込んだ。
「もらった‥‥弱いところを突くのは戦の常套です」
 天晋禅は腕を振るうと、雷を放った。
「天晋禅か‥‥!」
 兵たちは突如として出現した天晋禅に虚を突かれる。
「白蛇様!」
 白蛇は、天晋禅と相対する。
「安心して‥‥新たな力を得た天壬王は僕達が倒すから‥‥。力を得ていない君が焦る必要はない‥‥」
「何? 天壬王を倒す? いや、残念ですが、お前たちは、私がここで倒します」
 天晋禅はすっと腕を持ち上げる。
「何を‥‥」
 白蛇も兵士たちも身構えた。
 やがて――。
 白蛇たちの視界を、霞のようなものが覆って行く。天晋禅の笑声が反響する。
「霧隠れか‥‥」
 白蛇は気配を探り、練力を振り絞って「夜」を解き放った。シノビの秘術、時間が止まる。霧の中へ散華を叩き込む。手応えはあった。天晋禅の悲鳴がこぼれる。
 やがて霧が晴れて行くと、天晋禅は姿を消していた。
「鬼たちが逃げて行きます」
 雛は火炎を放って後退する天晋禅の一党を確認して、仲間たちに閃癒を掛ける。
「時間稼ぎだったのでしょうか」
「天壬王は――」
 蒼晴雪鈴は伝令のシノビから、前衛が天壬王たちとの戦闘に入ったと告げる。
「間に合いましたか‥‥急ぎ反転します! 天壬王の迎撃に向かいますよ!」

「田んぼへの水入りは?」
 星鈴は鈴木に問う。
「準備はほぼ完了です」
「よっしゃ、頃合いやな‥‥お前ら、準備はええか?」
「はい。前衛部隊、準備は出来ております」
 兵士たちは険しい顔つきで、星鈴を見つめる。
「いよいよね。偽装撤退開始かしら」
 カズラは言って、符を装填した。
 やがて轟いてくる獣たちの咆哮。
 先頭に立つ天壬王は金色の光に包まれており、全軍を止めさせた。
「龍安軍ですね‥‥いよいよ、最後の時が来ましたか。私の力が増した今、もはや龍安軍など敵ではありません」
 天壬王は咆哮すると、全軍を徐々に前進させる。
 龍安軍の前衛部隊は、じりじりと後退しながら、圧倒的なアヤカシ軍を見つめていた。
 天壬王の姿も大きくなって来ると、さすがに威圧感がある。
「なんや多少力持った位で畜生が何を鼻息荒くしとるんや。その程度んもんなら、うちん『武』見せるまでもあらへんなぁ」
 星鈴は天壬王を挑発する。
「‥‥馬鹿んされんのが嫌なら、はようその力とやらでうちを捩じ伏せてみぃ。それとも‥‥ちっちゃい人間の『雌』一人押さえられん程、あんたん『雄』は甲斐生もあらへんのかいな? 残念な畜生やわぁ」
 天壬王は笑声を上げると、ぞっとするような低い声を出した。
「人間たちよ‥‥お前たちは所詮滅びゆく運命です‥‥最後まで抵抗しなさい。そしてお前たちの絶望、恐怖が深くなればなるほどに‥‥お前たちに、勝ち目などないのです」
「何やかんや言うてるけど、あいつ来るで。バリケードまで後退するで」
 星鈴は手を振り上げると、兵士たちに合図を送る。素早く後退する兵士たち。
「始まりますね。みなさんここからが勝負ですよ」
 玲璃は言って、巫女たちに指示を出す。
 天壬王は加速すると、獣たちも突撃してくる。怒涛のような勢い。アヤカシ達の咆哮で大気が鳴動する。
 続々と泥濘と化した田に突撃してくるアヤカシ軍。速度が一瞬落ちる。
「予想通りですか」
 鈴木は確認するが、それでも大軍のアヤカシたちは泥を蹴散らして進軍してくる。
「じゃ、始めるわよ!」
 カズラは斬撃符を解き放って、大型のアヤカシを狙っていく。
「バリケードなど‥‥一気に突き破る!」
 天壬王が跳ぶように疾駆する。
「呪縛符!」
「うちん『武』を見ていきいや!」
 激突する天壬王、爆砕する勢いで龍安軍を、バリケードを突き破った。
「凄い‥‥何て力」
 鈴木はうめきながら起き上った。骨がいかれたか。
「何ですかこれは」
 しかし天壬王はバリケード下の溝に足を取られて動けないでいた。
 続々と負傷者が玲璃のもとへ運びこまれてくる。
「玲璃様――!」
「早く、負傷した皆さんを」
 玲璃は精霊の唄で回復していくが、陣を突き破った天壬王を筆頭に圧倒的な勢いでアヤカシたちが迫りくる。
 そうして、雛、龍牙、ルオウ、白蛇、沙貴恵、色愛らが前線に到着する。
「お前に退路はない! ここで瘴気に還れ!」
 天壬王に殺到する開拓者たちと龍安軍。
 次々と直撃を受ける天壬王は、それでも不死身のようなタフさで反撃し、開拓者たちを吹き飛ばした。
「これが天壬王なの‥‥厳しいわね」
「ルオウ様、服が汚れちゃったわ〜」
「サラン、無事かよ」
 開拓者たちは黄金の天壬王と向き合い、さらに激しく打ち合った。
 それから天壬王は後退する。部下達が撤退し始め、さすがに孤立する危険が高まってきた頃であった。
「なんや、あんま上手ぁできてへんかった気がするけど、なんとかなったかいなぁ」
 星鈴は吐息した。
 開拓者たちも、龍安兵たちも、死力を尽くしていた。