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■オープニング本文 天儀本島武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。 龍安軍の老将栗原玄海は、鳳華の七魔将、鬼将軍の侯太天鬼の軍勢と向き合っていた。ここ一月、大きな戦闘はなく、再び戦線は膠着状態に入ったかに見えた‥‥。 ――龍安軍陣中。栗原の部隊に、援軍が訪れる。アヤカシの残党を魔の森まで後退させた直代神樹が、栗原のもとへ増援として到着したのである。 「栗原様、鬼軍の動きはどうですか」 美しい直代家の女サムライの問いに、老将はこきこきと肩を鳴らす。 「いや、油断は出来んなあ。先の戦でもどうにか退けたとは言え、奴の首を取るには至らなかった。あの鬼将軍には、まだ底知れぬ力があるのやも知れんな」 「ふむ‥‥そう言えば、天壬王の件、聞き及びましたか?」 「うむ、聞いておるよ。あの白獅子、力を増したようじゃの。雪鈴もよくよく大変なことじゃろうて」 「栗原様、嫌な予感がします。鳳華の魔将の昇格は、何かの兆しではないでしょうか?」 「ふうむ、アヤカシの力が増しているのには、確かに、異常なことじゃ」 そこへ、斥候に出ていたサムライが戻って来る。 「栗原様――!」 サムライは、神樹の姿を確認して、慌ててお辞儀する。 「これは直代様。こちらへお着きでしたか」 「何かあったのですか」 直代の問いに、サムライははっとして、栗原に向き直る。 「侯太天鬼が、鬼軍が前進してきます」 「来おったか、奴と戦うのもこれが三度目じゃな」 「それから大事ですが、侯太天鬼ですが、姿を変えています」 「何?」 栗原と直代は顔を見合わせ、サムライから話を聞く。それによると、侯太天鬼は黄金の鬼に姿を変え、黄金の光を身に付けていると言う。 「侯太天鬼め‥‥まさか天壬王のように変化を。力を増した?」 栗原は立ち上がると、神樹に視線を投げた。 「恐らく、力を増したあの天壬王の強さを知れば、これは容易ならざる事態じゃぞ」 「そうですね。ですが侯太天鬼‥‥我が軍に退く道はありません」 神樹は言って、鋭い視線を東の空へ向けた。 アヤカシ軍陣中――。山のような巨人が、黄金色に輝いている。黄金の鬼――侯太天鬼である。侯太天鬼は、黄金のオーラに包まれていた。 『ぐはははは! 血と肉と恐怖が、我が力を、更に高みへと導いた! 龍安軍ども! 殲滅してくれる!』 耳障りなアヤカシの言葉で笑声を上げる侯太天鬼。鬼軍の先陣を切って、前進してくる。 『赤天王! 青天王! 全軍の指揮はお前たちに任せるぞ! 俺様は、今回、弱った奴を狙いに行く! あの老将の首も討ち取ってくれる!』 ひときわ大きな赤鬼と青鬼が、歓喜の咆哮を上げる。 『皆殺し! 皆殺し!』 『殺せ! 殺せ!』 赤天王と青天王の咆哮に、侯太天鬼は笑声を上げる。 『ぐはははは! 戦に勝てば、餌を取り放題だぞ! 見ておれ! 今日は龍安軍が壊滅する日だ!』 侯太天鬼は咆哮すると、加速して龍安軍に迫っていくのだった。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
星鈴(ia0087)
18歳・女・志
鈴梅雛(ia0116)
12歳・女・巫
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
ブラッディ・D(ia6200)
20歳・女・泰
井伊 沙貴恵(ia8425)
24歳・女・サ
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
オラース・カノーヴァ(ib0141)
29歳・男・魔 |
■リプレイ本文 中央隊――。 「ふう‥‥こんな時に重体とは。ですが、泣き言を言っている暇はありませんからね。今私に出来ることを為しましょう」 朝比奈 空(ia0086)はそう言うと、傷の跡を押さえた。 「大丈夫かいな空はん。ま、無理はせんこっちゃな」 星鈴(ia0087)が声を掛けると、空は微かに笑みをこぼした。 「空さんは無理をなさらないで下さい。その体では‥‥今回は間が悪かったようですね」 コルリス・フェネストラ(ia9657)の言葉に、空は小さく頷く。 「すみません‥‥足手まといにならないようにはしますから」 「確か朝比奈殿であったか」 姿を見せたのは老将栗原。 「この戦は厳しいものとなろう。恐らく重傷者はこれからも出てくる。それでもアヤカシを止めねば。そなたも十分に注意せよ」 「心得ました栗原様。私も最後まで戦い抜きます」 「頼んだぞ」 栗原は、そう言ってから、コルリスと星鈴に顔を向けた。 「そなたらはよくぞ駆けつけてくれた。いつものことながら、礼を言うぞ」 「栗原はん、そんなお礼は、侯太天鬼を討ち取ってからにしましょう。あの大鬼こそ、この地の元凶やさかいな」 「そうですね。私もこの地で長く戦い続けてきましたが、鳳華の七魔将を倒して、初めて勝利と呼べるものが手に入るのかもしれません」 コルリスは言った。 「何と言いましても、要は、あの魔将たちさえ倒せば大きな抵抗は無くなるはず」 「確かにの。尤も、それこそ最大の難事じゃて。はて、この戦、勝てるか‥‥」 栗原は思案顔で呟き、その場を立ち去った。 「あの老将も気骨ある方ですね。あのお年で最前線で指揮とは‥‥」 空は、栗原の背中を見送った。 右翼――。 鈴梅雛(ia0116)は、いつものように、兵士たちから激励を受けていた。 「雛殿! 今日こそ侯太天鬼を討ち取りましょう! この戦、必ず勝ちます!」 「あなたのような小さき方までもが、我が軍に尽くしてくれるのを、我々は心強く思っております! あなたは強いが、それ以上に、我々の心の支えですからな」 「みんな、あなたには励まされました。その小さな体で、鳳華の戦を支えて下さった」 「ひいなは、ただひいなに出来ることをしただけです。そんな大きく言われても、ひいなはそんな大きくありません」 すると、こちらに来ていた直代神樹が、言葉を掛けた。 「雛さん、あなたがこれまでに見せた働きは、兵士たちの心を掴むに十分なものですからね。彼らはあなたがいるだけでも心強く思うのですよ」 「直代様。それはひいなにとっては意外なことです」 「おや、鈴梅さんが激戦を勝ち抜いてきた間に、随分とここも慌ただしくなりしたよねえ」 言ったのは龍安家臣の滝月 玲(ia1409)。最近になって再びこの地へ足を運んでいる。 「俺も龍安家臣で、ここじゃ結構大きな戦を経験させてもらったけど、いつの間にか鳳華の七魔将とやらが出張っていましたからね。ここのところ一気に慌ただしくなった感じですか」 「滝月さん、七魔将は本当に強くて、何度も苦杯を舐めさせられました。凄く強いアヤカシです」 「そのようですね。報告書は確認しましたが‥‥確かに並み外れている」 「滝月さん、私は新米家臣だから、右翼の指揮はあなたにお任せしようかと思うだけど、構わないかしら」 井伊 沙貴恵(ia8425)はそう言うと、滝月は困った顔をした。 「えーっと、俺も今回は井伊さんに任せようかと思ったんですけど、どうしようかな」 「弟が御前試合ではお世話になっているから、少しでもお返しできれば良いかと思って、副官的な立場であなたを支援しようかと思ったんだけれど‥‥」 「いやいや、こっちこそ貴政さんにはお世話になりっぱなしですよ。まあ指揮を取っても良いんですけど‥‥」 すると、直代神樹が進み出た。 「意見が分かれているようですね。私が指揮を取りましょう。今回はお二人とも自由に動ける立場の方が良さそうですからね」 「あ、それじゃ、直代さんにお任せします」 「よろしく」 「随分と派手な戦場だな。ここは何でも武天の要衝らしいが。勝ち目はあるのか実際」 言ったのは魔術師にして冒険者、戦争屋、オラース・カノーヴァ(ib0141)。 「ここでアヤカシの攻撃が始まったのは二十年前です。その間、龍安家はアヤカシの攻撃を封じ込めてきました。アヤカシは数え切れないほどですが、大きな攻撃には、何度も跳ね返してきました。勝算はあるか? ええ、あります。龍安軍は簡単には崩れません」 「そいつは心強いな。最後まで、そうあって欲しいものだが」 オラースの言葉に、神樹は肩をすくめる。 左翼――。 「よし! 準備は出来たぞ! 鬼軍がやってくる前に、田畑に水は引いた。みな良く頑張ってくれたな!」 龍安家臣の焔 龍牙(ia0904)は、兵士たちの労をねぎらった。 「焔殿、今日こそ必ずやあの鬼将軍の首、討ち取ってくれましょう」 「おお! 必ずやってやるぞ! 侯太天鬼――民の無念を晴らしてくれる!」 「今回で決着をつけてやる! 里を失った者たちのためにも! 侯太天鬼の首を持ち帰る!」 龍牙は兵士たちを見渡し、大きく頷いた。 「みんな! この戦、勝算はある! 侯太天鬼がいかに強大でも、奴一人で戦況を変えることはできない! 鬼の動きを封じ、侯太天鬼を誘い込めば、必ず奴を叩く機会はある!」 龍牙の言葉に、兵士たちは「おーっ!」と拳を突き出した。 ブラッディ・D(ia6200)は陣中を見渡して、昂ぶる高揚感に包まれていた。 「敵がいっぱい、味方もいっぱい‥‥ギャハ、存分に暴れられそうだっ!!」 ブラッディはぐるぐると腕を回して、龍牙に近づいて行く。 「龍牙! 俺にチームを組めって言うそうだけど、メンバーはどいつだ?」 「ああDさん、チームか」 焔は泰拳士たちを呼び集める。 「こちらは開拓者のブラッディ・Dさんだ。みんな、彼女とともに遊撃の位置に付いてくれ」 「開拓者か。よろしくな」 龍安軍の泰拳士はみな傭兵だ。Dに気さくに言葉を掛けて、握手した。 「どうやら激しい戦闘になりそうだが、ま、よろしく頼むぜ!」 Dは言って、ぱしん! と拳を打ち合わせた。 ――と、戦の合図を知らせる法螺貝が吹き鳴らされる。太鼓や銅鑼があちこちで鳴り響き、アヤカシの接近を知らせる。 「いよいよだな‥‥みんな行くぞ!」 龍牙は言って、戦闘配置に着いた。 龍安軍の配置――。 ・中央:サムライ×30、弓術士×20、巫女×10、シノビ×10、一般兵×100(内サムライ10名、一般兵50人は開戦当初後方に控え予備戦力とし侯太天鬼を包囲、又は誘いに乗らなかった場合投入) ・左翼:サムライ×30、泰拳士×20、陰陽師×5、巫女×5、一般兵×100 ・右翼:サムライ×40、志士×20、陰陽師×5、巫女×5、一般兵×100 「侯太天鬼が突進して来ます!」 サムライ大将が告げると、星鈴は頷き、さっと腕を振り上げた。 「偽装撤退であの化け物を引き付けるで! みんなしっかり頼むで! 最初に猛烈な攻撃を加えて、それから逃げる。命がけになるかもしれへん、みんな自分の身は守りや!」 「みなさんやり抜きましょう。支援します」 空は兵士たちに言葉を掛ける。 「私も及ばずながら弓隊で援護射撃を。侯太天鬼を引きずりこむことが出来れば、あの鬼を討てる機会もあります」 コルリスは言って、弓術士を率いて戦闘に備える。 「ではやるかの。今日こそあの鬼将軍の最後にしたいものよの」 栗原は言って、刀を抜いた。 「ほな行くで! 前衛部隊、侯太天鬼に向かって集中攻撃や!」 龍安軍は加速して突進した。 鬼軍は泥に足を取られて喚いていたが、侯太天鬼はそれをものともせずに前進してくる。 「来たか雑魚ども! みすみす死にに来るとは、ならば、全員俺様の刀の錆にしてくれるわ!」 侯太天鬼は咆哮する。 「やかましい! うちん武を見いや!」 星鈴は先陣切って打ち掛かった。 「ぬうあ!」 侯太天鬼は暴風のような一撃で星鈴らを吹き飛ばした。 「朧――! 全員あの黄金色の鬼を撃て!」 コルリスは次々と矢を放っていく。 「さて‥‥ここからが勝負ですね。本当にあの侯太天鬼を押しとどめることが出来るか‥‥討ち取ることが出来るか‥‥私たちは負けるわけにはいきませんが」 空は、重体を押しているが、今は状況を見極めていた。まずは侯太天鬼を引きずり込むことだ。 「ちい‥‥! さすがに化け物や! いったん逃げるで!」 星鈴らは撤退すると、侯太天鬼は勢いに乗って、突撃してくる。 他の鬼たちも前進してくる。 「逃げろ逃げろ! いずれ貴様らに行き場はない! 最後には死に絶えるのだ!」 侯太天鬼は突撃してくる。 「――アヤカシ軍、巨大な赤鬼を前に前進してきます!」 「迎撃します。全軍その赤鬼に集中攻撃しつつ、周辺の鬼を討伐します。侯太天鬼を包囲しますよ」 直代神樹は右翼軍に命令を出す。 「あの赤鬼は他の鬼とは格が違うみたいです。気を付けて下さい」 雛は兵士たちとともに前進する。 「よし、行くぞ」 「みなさん、十分に注意して、油断は禁物よ」 滝月と沙貴恵も前進する。 両軍激突する。 巨大な赤鬼は咆哮を上げると、鬼軍を加速させ、猛攻を開始する。 「ふん、まとめて瘴気に返してやろう。勢いづくのもここまでだ」 オラースはブリザーストームを叩き込んだ。鬼軍の戦列に穴が開く。 「突撃!」 滝月と沙貴恵は大きな赤鬼――赤天王に向かって突進していく。 ――オガアアアアアアア! 赤天王は凄まじい咆哮で威嚇するが、滝月と沙貴恵は問答無用で加速した。 「お前と遊んでいる時間はない」 「援護します」 雛は流れるように神楽舞・攻を舞う。 「行くぞ赤鬼!」 滝月はなだれ込んで来る大鬼を切り倒し、赤天王に突撃する。赤天王の一撃を弾き返して凄絶な一撃を叩き込む。 「行くわよ!」 沙貴恵も周囲の鬼を切り倒して加速。赤天王に一撃を叩き込む。 赤天王は怪力で立ち回り、滝月と沙貴恵を牽制するが、二人は連携してこの赤鬼に確実な打撃を与えて行く。 オラースは立て続けにブリザーストームを叩き込み、鬼軍の戦列を薙ぎ払う。 「こんなものか、鳳華の鬼軍は。一気に叩く」 「滝月さん――」 「鈴梅さん、頼むぜ!」 滝月は大地を蹴った。 沙貴恵が赤天王に連打を浴びせる。 後退する赤天王に、滝月の炎魂縛武が炸裂すると、赤天王は真っ二つになった。崩れ落ちて瘴気に還る赤天王。 「赤鬼は討ち取った! 侯太天鬼の背後を突くぞ!」 滝月は右翼を神樹に任せ、沙貴恵と雛と数人の兵士ともに中央へ向かう。 「俺の後に続け! まずは左翼を撃破する!」 焔は抜刀すると、突進した。 「よっしゃあ! 俺たちも行くぜ! 敵さんの側面を突くぞ!」 Dも泰拳士たちと突撃する。 「おお!」 泰拳士らDらは加速して、突貫する楔となって鬼軍の側面から斬り込んだ。 「うらあああああああ!」 Dは突撃して拳を大鬼に撃ちこんだ。凄まじい一撃が大鬼の頭部を吹き飛ばした。 続々となだれ込んでいく泰拳士たちが鬼軍を撹乱して、そこへ龍牙たちが突撃していく。 ――グガアアアアアア! と、巨大な青鬼が蛮刀を振るって龍牙に打ち掛かって来る。弾き返して青天王と向き合う。 「貴様が右翼の大将か! 打ち砕く!」 龍牙は青天王に撃ち掛かっていく。激しい斬撃戦。十合余り切り結んだところで、龍牙は青天王の腕を斬り飛ばした。 グオオオオオ‥‥恐れを為して後退する青天王。と、その背後からDがズン! と拳を撃ち込んだ。凄まじい一撃が貫通する。 青天王は崩れ落ちると、断末魔の悲鳴を残して瘴気に還った。崩壊していく鬼軍。 「よし! 敵を掃討しつつ、サムライと志士は中央へ! 侯太天鬼の側面を突く!」 龍牙とDらも、中央隊へ向かう。 龍安軍中央になだれ込んだ侯太天鬼は、暴風のように荒れ狂っていた。 「泣け! 喚け! 叫べ! あの世で後悔するがいい! 俺様に立ち向かったことをな! 脆いわ! 貴様らが束になろうと、俺様には勝てん!」 星鈴は、反撃の機会を探っていた。 「みんな耐えや! まだや! うちらは負けてへん!」 侯太天鬼は哄笑する。 「何を人間! まだ諦めぬか!」 その時である――鬼軍の戦列が乱れ始める。 「何だ――!」 両翼を突破してきた開拓者たちが斬り込んで来ると、侯太天鬼を包囲する。 「ぬう!?」 「よっしゃぁ、よう耐えたでみんな。こっからは反撃や、うちん続いて勇み出い!!」 星鈴は、一歩踏み出すと、侯太天鬼を見上げる。 「侯太天鬼、あんたん顔も見飽いたわ‥‥ここらで片ぁ付けたる!」 「‥‥罠か。ぬふふふ‥‥俺様をそれで倒せるとでも?」 「侯太天鬼! 貴様の命運は今日で確実に尽きる! この状況がお前の最後を作り出した!」 龍牙は槍に持ち替えると、一閃した。 「それはどうかな龍安軍。俺様を見くびるなよ」 「行くぞ! 鬼の魔将!」 星鈴、龍牙、滝月、D、沙貴恵、そして栗原玄海、他龍安兵らが一斉にスキル全開で打ち掛かる。 雛と空は神楽舞で支援し、コルリスは弓隊を率いて攻撃、オラースは残りの練力でアークブラストを解き放つ。 怒涛の攻めが侯太天鬼を貫く。攻撃は確実にヒットして、侯太天鬼の肉体を吹き飛ばした。 が、侯太天鬼の剛腕から繰り出される一撃は凄絶なものであった。不死身のようなタフさで攻撃を耐え凌ぐと、確実に開拓者ら一人一人の生命力を削っていく。 「ぬうううああああ! 無駄なことだ! 俺は倒せん!」 「玲!」 龍牙は侯太天鬼の正面から突進して、滝月に声を掛ける。二人は幼馴染で阿吽の呼吸で攻撃が出来た。滝月が侯太天鬼の側面からスキル全開の一撃を見舞う。 「焔龍白突! 白梅突ッ」 龍牙の一撃が侯太天鬼を貫く。 「ぬううん!」 しかし振り下ろされた蛮刀が龍牙を切り裂いた。 「くそ! 何て奴だ!」 後退する龍牙に雛と空が回復術を掛ける。 その瞬間、山のような侯太天鬼の巨体が大地を疾駆した。何と速いことか――。 「この瞬間を待ちわびた!」 侯太天鬼は、するすると雛に目がけて突撃し、蛮刀を繰り出した。 誰もが動けないでいた。突然の出来事だったのだ。だが、一人、侯太天鬼を止めた者がいた。 龍安家の老将、栗原玄海である。栗原は雛の前に立ち塞がると、侯太天鬼の一撃を受け止めた。 「栗原はん――!」 星鈴は直後に向かったが遅れた。 栗原は侯太天鬼の蛮刀で串刺しにされ、投げ飛ばされた。 「ふん! まあいい! 捕えた獲物は大きかった!」 侯太天鬼は笑声を残して、開拓者たちの包囲の隙を突いて素早く逃走した。 「早く! 手当てを!」 「栗原様!」 雛と空が回復術を掛ける。しかし、栗原の目が開くことはなかった。胸を貫かれてほぼ即死であったのだ。 今は時間はない。龍安軍は栗原を失ったが、それでも壊走する鬼軍を撃退して、陣を立て直すのだった。 |