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■オープニング本文 天儀本島武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。 激戦が続いている。厳しさを増していくアヤカシの魔将たちとの戦いに、龍安軍の兵士たちは正念場が続いていた。 「アヤカシの気配はどうですか?」 龍安家の若き神官長、蒼晴雪鈴は言って、サムライ大将たちと情報を確認する。 「天壬王は後退しましたが、里の内側にまだ戦力を残しています」 「東の魔の森より、敵の増援が出ていますが‥‥大型のアヤカシはいません」 「恐らく、先の戦いで相当数が倒れたと思われます」 「残るは、いよいよ天壬王のみと言うことになります。油断はできませんが」 そこへ、シノビが入って来る。 「お知らせします。北の廃墟に、敵の集団が確認されました。幾人かを倒しましたが、人に似た鬼アヤカシです」 「それは‥‥」 「恐らく鳳華の魔将、天晋禅の部隊ではないかと。こちらへ攻撃態勢に移っていると思われます」 「天晋禅だと?」 そこへ、上空偵察に出ていたサムライが舞い降りてくる。 「雪鈴様、天壬王の部隊が再び前進してきます。ゆっくりとではありますが、確実に攻撃が迫っていると思われます」 「天壬王と天晋禅ですか‥‥」 その時である、サムライ大将の一人がやってきて、陰陽頭の明道心光悦が合流してきたと告げる。 明道心は、案内されてくると、一同を見渡した。 「どうもこんにちは。何やらみなさん、神妙な面持ちですな」 「明道心殿‥‥正直待っていましたよ。援軍なしには、我々は戦えない状況です。敵の戦力も削りましたが」 雪鈴は言って、明道心を招き入れる。 「ふむ、状況は?」 「東から天壬王、それから、北の廃墟に天晋禅の部隊が確認されています。攻撃は近いかと思われます」 「なるほど。予断を許しませんな。間にあって良かったと言うべきですか。お屋形様も在天奉閻との激しい戦いに突入しているようです。我々は負けるわけにはいきませんな」 「敵は二つの軍勢です、今回は天晋禅もそれなりの集団のようですね」 天晋禅が先の戦いで、少数の部隊で奇襲を掛けて来たことを告げる。 「天壬王は力を増したとか。陰陽師としては実に興味深い出来事ではありますが‥‥」 「明道心殿、天壬王は侮れません。あの獅子は、正面から私たちの策を食い破るだけの力を身につけたのですから」 「いずれにせよ、情報が必要ですな。今回も我々の戦いは、いつでも佳境な状況です。確実に勝利を収めたいものです」 「鳳華の魔将さえ倒すことが出来れば‥‥」 蒼晴雪鈴の憂うる瞳を見て、明道心光悦は思案顔で卓上の地図に目を落とすのだった。 |
■参加者一覧
星鈴(ia0087)
18歳・女・志
無月 幻十郎(ia0102)
26歳・男・サ
鈴梅雛(ia0116)
12歳・女・巫
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
雲母坂 芽依華(ia0879)
19歳・女・志
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
琴蕗 瑠佳(ia5388)
16歳・女・シ
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
リリア(ib3552)
16歳・女・騎 |
■リプレイ本文 龍安軍陣中――。 「天壬王、ここらでケリつけたるで!」 星鈴(ia0087)は陣中を回りながら、兵士たちの戦意高揚に努めていた。 「星鈴の姉さん!」 「ん?」 声を上げて駆け寄って来る若い青年兵士に、星鈴は目を止めた。 「姉さん! 今日こそ天壬王に一発ぶちかましてやりましょう!」 「あ、ああ」 やけにテンションの高い若者に、星鈴は微かに笑みを浮かべた。 「ああ、申し遅れました! 俺はサムライの月葉っていうもんです! 姉さんは覚えてないでしょうが、この戦で姉さんに救われました!」 「そうか。そうやったか、うちは覚えてへんねんけど、頑張っていこか。よろしゅう頼むで」 「はい!」 月葉は笑みを浮かべると、走り去って行った。 「やあ星鈴殿。今のは?」 無月 幻十郎(ia0102)は歩み寄って来ると、ちらりと星鈴を見やる。 「や、サムライやて。うちに助けられた言うて、えらい張りきっとるわ」 「ふーん、それだけかねえ。その割には、随分と気合が入っていたな。あの若いの」 幻十郎はいたずらっぽい笑みを浮かべて、星鈴に目を向ける。 「な、何や。その意味深な言葉は‥‥」 「何、ま、戦場とはいえ、多くの人が長い付き合いだ。特別な感情が湧いてきても不思議じゃないよな」 「あほ。何言いだすねん幻十郎はん」 「はっはっは。まあ、それはさておき、さすがに今回で仕舞いにしたいものだな。これ以上力を付けられる前に、天壬王を討つ」 鈴梅雛(ia0116)は、龍安兵と協力して、田に水を入れていた。泥と化した土地は少しは敵の足止めにはなっていた。 「軍としては衰えたとは言え、天壬王だけでも、圧倒的な脅威です」 それから、防柵や障害物を配置するなど、出来るだけの対策は打っておく。 「雛様、此処はこれくらいにして、もう少し本陣の方を固めましょうか。天晋禅の不意打ちが気がかりです」 「ひいなもそれは気になっていました」 それから陣に戻った雛。龍安の巫女の中で、瘴索結界が使える2名に、明道心と雪鈴の側について貰い、姿を消せる天晋禅の襲撃を警戒して貰う。 「天晋禅は、気付けば懐まで潜り込まれていたなどと言う事も、十分有り得ます」 「随分と、用心深いことですな。私が天晋禅に倒されると思いですかな。小さき巫女殿」 明道心は、思案顔で雛を見つめる。 「お二人は軍の重鎮であらせられます。天晋禅が狙ってくる可能性はあります。栗原様のようなことは、ひいなは二度と起こって欲しくありません」 「あの老人は、あなたを守ったのでしたな。栗原も後悔していないでしょう。鈴梅殿は、この戦にあって、よく兵を守ってきて下さった。あなたはかけがえのない存在だと思ったからこそ、老人の体も動いたのでしょう」 「言葉で言うのは簡単です。ひいなは‥‥目の前で栗原様が倒れるのを見て、こんな思いは二度としたくないと思ったのです」 雛の言葉に、明道心は頷き、雪鈴は優しく微笑んでお辞儀した。 歌舞伎役者の華御院 鬨(ia0351)――。普段から女形をしていて、常に修行のために女装し、そこいらの女性よりも女性らしい雰囲気を醸し出しているす。今回は戦う気高いお嬢様を演じていた。 「大将が二人が二大共演とはこれはまた豪華どすわね」 と吃驚する様子もなく毅然と感想を云う。それは恐らくアヤカシのことを言ったのだろう。 「作戦としては、天壬王を先に倒し、その間は天晋禅をくい止める様に行動する、と言うことになりますな。うちは天晋禅をくい止める方で行動させてもらいやす」 鬨は言って、北の守りを固める。戦力差を見抜かれない様に、土煙をできるだけ出させたり、矢を自動的にある程度発射できる仕掛けを作ったりなど工夫をして相手に戦力を計れない様にしておく。 妖艶なる陰陽師葛切 カズラ(ia0725)は、美しい顔に、形の良い眉根を寄せる。 「さて、今回で三度目の正直。天壬王には、今度こそ御臨終願いたいわね」 一開拓者としてこの地に参戦するカズラであったが、付き合いは長く、兵士たちの中にも覚えている顔がちらちらと見える。 と、一人の男がカズラのもとへ歩み寄ってくる。 「葛切カズラだな」 「そうだけど」 「俺は傭兵の翔樹だ。この戦もそろそろ終わりそうだ。鳳華にも、平和な時が来るかも知れん」 「それが???」 「あんたは覚えていないだろうが、俺は戦場でよくあんたと戦ってきた。どうだ、鳳華に身を寄せる気はないか。俺は平和になったら、ここで居を構えるつもりだ」 「えーっと‥‥そんなこと言われても困るんだけど」 さすがのカズラが、言葉に詰まる。 「返事はすぐでなくていい、考えてくれ」 翔樹はそう言い残すと、踵を返した。 雲母坂 芽依華(ia0879)は、兵士たちの間を回って、あちこちで声を掛けていた。 「あんじょうよろしゅうに。二方向からほぼ同時に攻められるやなんて、困ったこっちゃ」 「久方ぶりですなあ雲母坂殿!」 「みなはん、天壬王を先に攻撃して倒してしもて、戦線を維持しといてもろたもう一方を倒すなり、撤退させる、っちゅうんが作戦どす。よろしゅう頼みますで」 雲母坂は刀を突き上げ、兵士たちの士気を高める。「えいえいおー!」と歓呼の声が上がる。 「作戦は、とにかく攻撃あるのみ。できるだけ短時間で天壬王を倒す、ちゅうこっちゃな。みんな、いつかアヤカシが大地を飲み込む日が来るかかもしれへん、人の剣は折れ砕ける日が来るかもしれへん――でもそれは今日やないで! 今日はみんなの家族を、好きな人たちを守るために、戦い抜く日やで! 今日はうちらが勝つ!」 雲母坂の言葉に、兵士たちからもの凄い歓声が沸き起こる。 「今回は確実に魔将の一体は討伐できる様尽力します」 玲璃(ia1114)は、粛々と蒼晴雪鈴や明道心光悦達と相談していた。 「今回は天晋禅の部隊を食い止め、その間に天壬王を討伐するという流れなので、それに従い、自分はお二方の防衛も兼ねて、天晋禅部隊の迎撃及び防戦に回ります」 「よろしく玲璃さん。いつも苦労を掛けますが、皆もあなたを頼りにしています」 雪鈴は、玲璃の手を取って、真摯な瞳で頷いた。 「天晋禅らは霧化や透明化等、視認できない状態で接近し特殊攻撃を加えてきます。鈴梅雛さんが派遣した巫女様達と連携し、お二方の周辺に瘴索結界による探査結界を構築して周辺にアヤカシが潜んでいないか連携して探査いたします。お二人は必ずお守りします」 駆け出し開拓者のシノビ琴蕗 瑠佳(ia5388)は、家屋の上に登って、天壬王が押し寄せてくるのを確認していた。 望遠鏡を下ろして、アヤカシの軍勢を観察する。獰猛な獣アヤカシたちが、咆哮して、前進してくる。 「どうだ琴蕗」 いつの間にか横に来ていたシノビが、声を掛ける。 「天壬王の軍は大軍ですね‥‥本当に勝てるのでしょうか」 「俺たちはこれまでにも厳しい戦を経験してきたからな。これくらいで怯むことはないのさ」 若いシノビの男は、そう言って、望遠鏡で観察する。 「見えるぞ、天壬王、先頭にいる。あそこ――」 「はい‥‥」 琴蕗は天壬王を確認した。もの凄い巨大な獅子がいる。黄金色の獅子だ。 「凄い‥‥強そうですね」 龍安家臣のコルリス・フェネストラ(ia9657)は、蒼晴雪鈴のもとにいた。 「今回は天壬王を討つ事に集中すべきかと愚考します。天晋禅の部隊は足止め重視で防戦し、その間に天壬王を全力で討つとの流れに賛成です」 「コルリス、よく来てくれました」 「雪鈴様、私に弓兵の指揮を任せて頂けないでしょうか。策はあります」 「分かりました。弓術士の運用はあなたに任せましょう」 雪鈴は二つ返事で了解した。コルリスはこの戦での実績経験ともに豊かであった。 そうしてコルリスは、弓兵たちに挨拶のあと、兵達を率いて戦場となる里へ向かう。 弓兵達里に残る建物屋根に配置する。コルリス自身も家屋に登ると、迎撃に備える。 陣中の盛り上がりを見ていたリリア(ib3552)は、仲間たちの姿を眩しそうに見つめていた。雲母坂のよく通る声が、響いてくる。兵士たちは歓呼の声を上げて、士気を昂ぶらせている。 「リリア殿――」 声を掛けたのは幻十郎。 「大丈夫か、怖いのか」 「そんなことはない幻十郎。戦は慣れている。ただ‥‥」 「ただ、どうした」 「いや、何でもない。ま、私も死なない程度にやってみるかな」 「ふむ、我輩も死なない程度にやってみるかね」 幻十郎が言うと、リリアは小さく笑って、肩をすくめた。 そうして――。 「雪鈴様! 明道心様! 迎撃準備が整いました!」 「天壬王、前進してきます!」 二人の龍安指揮官は、攻撃の命令を下した。 法螺貝が吹かれ、太鼓と銅鑼が鳴らされる。龍安軍は攻勢に転じる。 「どけどけどけぇ!! 邪魔するんなら覚悟ん一つでもしてから来んかい!!」 星鈴は先陣切って飛び出すと、雑魚を切り飛ばして突き進んだ。 「星鈴の姉さん!」 「何や月葉はんか、ここは危ないでえ」 「何の!」 月葉も雑魚を切り飛ばす。 「行くわよ! 斬撃符!」 カズラは巨大な化け猪に一撃を叩き込んだ。凄絶に切り裂かれる化け猪。 そこへ、疾風のように翔樹が突進した。化け猪を切り裂く。 「カズラ! 生きて帰るぞ!」 「あなたこそ死なないようにしなさい!」 琴蕗は混戦の中にあって手裏剣を叩き込んだ。 「兵は拙速を尊ぶ‥‥御覚悟」 「せいやあ!」 幻十郎が速攻でアヤカシを両断する。 「地帯攻撃開始!」 コルリスがさっと手を上げると、弓術士たちが即射で次々と一帯に矢を放っていく。打ち抜かれて次々とアヤカシが消えて行く。 雲母坂は突進加速してきた天壬王と相対する。 「天壬王やな‥‥」 合図の法螺貝を鳴らして、仲間たちを呼ぶ。 天壬王は凄まじい咆哮を上げてアヤカシを前進させる。 アヤカシの群れは、泥と化した悪路を突破して、じわじわとやって来る。 「そう何度も抜かれてたまるかい! ここで一丁往生せいや!」 星鈴は、大薙刀を構えて、気合を発した。 「ふふふ‥‥私を捕えることが、まだ可能だと? お前から摘み取ってくれましょう」 「星鈴はん、気をつけんと」 「ああ」 天壬王は大地を蹴った。速い――が、星鈴は受け止めた。 「ぐぬぬぬ‥‥」 「姉さん! 俺が一撃叩き込んでやる!」 月葉が突進した。 「月葉! 気い付けえ!」 直後、天壬王は跳躍して、飛びすさると、再び加速して月葉に襲い掛かった。あっという間に月葉の首が飛んだ。 「月‥‥! くそ‥‥!」 幻十郎が突進する。 「示現流の二の太刀いらず、腹いっぱい喰らいやがれ」 雲耀を叩き込む。激突して天壬王を貫く。 「今日こそ緋村様の敵を」 雛は神楽舞・攻を舞う。 「行くで獅子王! 紅‥‥椿!」 雲母坂も加速して激突する。 「よし‥‥兵のみなさんはアヤカシを近づけないように頼みます」 コルリスは、鷲の目+朧月で天壬王を狙う。呪弓で強化された朧月が天壬王を貫く。 琴蕗は天壬王の側面に回り込むと、装甲の隙間へ手裏剣を撃ち込む。 「こいつが‥‥天壬王‥‥」 琴蕗の目が、攻撃の一瞬に冷酷な眼差しに変わる。それは天壬王の目と合った。 態勢を整える天壬王に、カズラが式を叩き込む。 「いい加減その顔も見飽きてきたし、今回こそ仕留めてやるわよ!」 符を補てんすると、解き放った。 「白面九尾の威をここに、招来せよ! 白狐!!」 式が白毛の白狐に変化して、天壬王を切り裂く。 と、天壬王が向きを変えて、加速する。カズラ目がけて突撃。大地を疾走する。 カズラはとっさに手をかざした。 仲間たちは天壬王を追う。 天壬王の牙が閃く。カズラは間に合わないと覚悟した。と、翔樹がカズラを突き飛ばした。 カズラが見上げた先で、翔樹は天壬王に真っ二つにされた。 「何で‥‥」 カズラは歯を食いしばって立ち上がると、もう一撃白狐を叩き込んだ。 「天壬王! あんたに殺された連中の無念は‥‥晴らす!」 星鈴、幻十郎がスキル全開で激突し、雲母坂と琴蕗が続いて連打を浴びせた。 天壬王の反撃も凄まじく、みな吹っ飛ばされた。 雛が懸命に回復する。 「朧!」 コルリスの一撃が貫通して、天壬王の足を砕いた。 「私を倒せると‥‥思わないことです!」 不死身のように立ちふさがる天壬王に、雛が神楽を舞い、開拓者たちがさらにスキル全開で突進する。 「最後に立っているのはこの私ですよ人間たち!」 圧倒的な勢いで加速する天壬王と開拓者たちが激突する。 天壬王の咆哮が大気を震わせる。 不死身のように立ちはだかる天壬王。後ろにいたカズラも吹き飛ばされた。 「くははは‥‥!?」 天壬王は、動きを止めた。装甲に覆われた頑丈な足が、がくりと落ちる。 「何!」 「うちん武は‥‥届いたようやな。月葉‥‥やったで」 ぼろぼろになりながら、星鈴は起き上がった。 天壬王は崩れ落ちた。 「私の力は増したはず‥‥! なぜこのようなことが‥‥!」 「一点集中攻撃、お前を倒すには、これしかない。人間のささやかな抵抗って奴だ」 幻十郎は、冷ややかに天壬王を見下ろす。 開拓者たちは、悲鳴のような咆哮を残す天壬王に、連打を浴びせて、この魔将を撃破する。天壬王は、最後には黒い塊となって崩れ落ち、断末魔の咆哮を上げて消失した。 「‥‥やりましたか」 玲璃は、味方を治療しながら、もたらされた報告に安堵する。天壬王撃破。それは龍安軍に勢いをもたらし、アヤカシ達の勢いを減じた。 「ここまで天晋禅は見当たりません。鬨様やリリア様たちが踏みとどまっているようですね」 玲璃は、蒼晴雪鈴を見上げた。 「良くやってくれました。東の敵軍を退け次第、天晋禅を討ちます」 「そないな演出では、うちは騙されへんどすわね」 鬨は天晋禅の分身と相対しながら、相手の動きを観察していた。 リリアはちまちまと攻撃を行っていたが、天晋禅を捕えるには至っていなかった。 北の防御陣は、天晋禅の配下たちによって大きく傷つけられていた。炎や雷が飛び交い、陣は焼け焦げていた。 「ほう‥‥天壬王を倒しましたか」 しなやかな美しい鬼の姿をした天晋禅は、にいっと笑った。 「ですが、私は捕まりませんよ」 分身が消えていき、天晋禅の姿が一か所に集まっていく。 「そこ――!」 鬨は白梅香を叩き込んだ。 キイイイイイン! と、天晋禅は小太刀で受け止めた。 リリアはするすると加速すると、天晋禅の足にスタッキングの一撃を叩き込んだ。しかし、天晋禅は軽くかわして、リリアを蹴り飛ばした。 「これでいよいよ、在天奉閻殿のもとに残るは、侯太天鬼のみ。さて‥‥私はどうしますかね。在天奉閻殿を裏切るわけにもいきませんしね‥‥」 天晋禅は鬨とリリアの攻撃をいなしながら、後退する。 「あんたを逃がしはしまへん。すぐ味方が来ます」 「そうはいきません、私を甘く見ないことですね」 天晋禅は言うと、霧隠れを解き放って、戦場から離脱したのだった。 |