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■オープニング本文 天儀本島武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。 蒼晴雪鈴と明道心光悦が率いる軍勢は、開拓者の活躍もあって先の激戦を制し、天壬王の撃破に成功する。 「天晋禅は逃亡しましたが‥‥いよいよですかな。鳳華の中心部に集結しつつあるアヤカシとの決戦が迫っているようですな」 明道心は言って、雪鈴に呼び掛けた。 「私たちもお屋形様と合流すべきでしょう。兵を鳳華の中心に向けましょう。アヤカシ軍の側面を突くのが最上の策でしょう。ここで、敵の首級を撃ち倒すことが出来れば、この戦、勝てます」 「ふむ‥‥」 雪鈴の言葉に、明道心は思案の糸を手繰り寄せる。 「鳳華の中央に集まる敵の機動戦力を叩けば、確かに、この戦、終わるやも知れません。我々は、ようやくこの地の因果から解放されるのかもしれませんな。長い戦いでしたな‥‥」 「まだ感傷に浸るのは早いと言うもの。敵の主力はいまだ健在のようです。お屋形様も、私たちを待っておられるでしょう」 「そうですな」 明道心は立ち上がった。 その時である――。東からおぞましい咆哮が風に乗って響いて来て、二人の龍安重臣は、はっと顔色を変えた。 偵察に出ていたサムライが龍から降り立つと、一礼して敵襲を告げる。 「敵襲です。魔の森から、無数のアヤカシが湧きでています。形容し難い怪物たちで、動物に似たものから、半人半妖といった醜悪なものたちが溢れ出ています。まさに百鬼夜行ですな」 明道心はそれに心当たりがあった。二十年前にも見たことがある。 「それは天晋禅の軍ですな。あのアヤカシの将は、魔の森に、形容し難いアヤカシの集団を置いています。変身能力を持ったものが多く、普段は人界に入り込んだりしているようですが‥‥これは何を意味するのか」 「天晋禅の部下は‥‥確か余り戦闘に適さないはずですよね。記録によると、個々の能力はさしたるものではなく、集団戦には不向きであると。奇襲攻撃などには向いているようですが」 「ふむ‥‥ですが、この軍のどこかに天晋禅がいる筈ですね。そうでなくては、これだけの集団が動き出すはずはありません」 「いずれにしても、お屋形様と合流する前に、アヤカシを排除しなくては」 「雪鈴殿、注意して掛かりましょう。天晋禅が何かを企んでいるとすれば、あの魔将を逃がすわけにはいきません。予測は付きます。混乱に乗じて鳳華から逃げ出すつもりなのか、単騎で里へ進入するつもりなのか、それともこの攻撃が囮なのか‥‥幾つか可能性はありますが」 「では、この戦場で天晋禅を見つけ出し、答えを聞くとしましょう」 雪鈴はそう言って、全軍に迎撃の命を下した。 |
■参加者一覧
星鈴(ia0087)
18歳・女・志
鈴梅雛(ia0116)
12歳・女・巫
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
雲母坂 芽依華(ia0879)
19歳・女・志
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
井伊 沙貴恵(ia8425)
24歳・女・サ
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
シュヴァリエ(ia9958)
30歳・男・騎 |
■リプレイ本文 「暗殺‥‥ですか?」 明道心光悦と蒼晴雪鈴は、顔を見合わせた。この状況で天晋禅が狙ってくるとすれば、龍安軍の重鎮である二人の命であると、開拓者たちは予測した。 「攻撃は陽動だと思います」 鈴木 透子(ia5664)は言った。 「敵の数は多いけど、本気で龍安軍を打ち破ろうとしている動きには思えません。一番可能性があるのは、混乱に乗じての明道心さん雪鈴さんの暗殺だと思います」 「それは‥‥可能性としてはあるでしょうが」 「ですから、開拓者で護衛に付きます。兵のみなさんには、アヤカシ軍の撃退を」 鈴木は言って、二人に警戒を呼び掛ける。 「影武者も考えたのですが、人数的にも体格的にも少し無理なようです。なので代りに一般兵の鎧などを身に付けて頂けないでしょうか? それと、アヤカシの迎撃に向かっている家臣に兵を動かす裁量を多く持たせることも提案します。それに、頻繁に伝令が行き来していると変装が得意な天晋禅に付け込まれやすくなると思います。伝令も最初に開拓者の1人が受けて取り次ぐ形にしてもらうようにお願いします」 「分かりました‥‥そこまで言われるならば、今回はあなたたちに託しましょう」 「それと、嘘でいいので合言葉を訊くようにしませんか? 偽の合言葉でもいいので。決めていないので何も答えられないのが正解です」 星鈴(ia0087)も頷いた。 「天晋禅相手やったら普通に闘うだけですまへんかもしれんし‥‥備えていて損は無いやろ。鈴木さんの意見にうちも賛成するで」 「天晋禅は、何を企んでいるのでしょう」 鈴梅雛(ia0116)も首を傾けた。 「いずれにしても、ひいなは、明道心様と雪鈴様の側について、護衛をします。今までは、瘴索結界で周囲を警戒していましたが、天晋禅が多数のアヤカシに紛れて近付いてくると、判別できません。それが天晋禅の狙いとも考えられるので、お二人には余り前に出ない様にして貰い、敵に囲まれたりしない様にお願いします。巫女のみなさんには、瘴索結界での警戒もお願いします。――まずは、天晋禅を見つけないと」 滝月 玲(ia1409)も雪鈴と明道心に進言する。 「天晋禅が手下を囮に化けて侵入し、龍安家要人の武将や――つまりお二人――カリスマ性を発揮する雛さんを暗殺を目論むのではないでしょうか。それに、この戦でこちらの兵に紛れ込む気でいるのではと危惧します。とりあえず紛れ込まれぬようベタだが服で見えない所に龍安の家紋入りの布を巻くなどしてみてはいかがでしょうか」 「分かりました。用意しておきましょう。本来なら、私たちが先頭に立ってあの魔将を迎え撃つところではありますが」 言いつつ、雪鈴は、持ってこられた甲冑に手を通し始める。 「甲冑を着るなど何年ぶりのことですかね」 明道心は肩をすくめて、鎧を身につけて行く。 「俺はサムライのルオウ(ia2445)! よろしくな〜」 赤毛の少年サムライが、頭を掻きながら吐息した。 「また、なんか考えてそうだけど、せっかく皆頑張ってここまで来たんだもんな! 頑張らねぇと‥‥!」 それから、周りを踏みならして、足跡がつきやすくしておく。 「う〜ん‥‥歯がゆいぜ‥‥」 追い詰められた奴が一発逆転にと大将を狙ってくるって可能性があると聞いて、護衛班につく。 「我慢すんのは苦手だけど我慢だな‥‥ここは」 シュヴァリエ(ia9958)は、いつものごとく冷静であった。 「俺は護衛班だな。この戦い、雪鈴と明道心を死守する―― 敵の性質を考えるに、目前のアヤカシの軍団は高確率で陽動だろう。天晋禅を含む敵主力は側面、若しくは背後からの奇襲を狙ってくるはずだ。本陣はそれに備えた兵の配置、伏兵の配置を推奨する。尤も俺は家臣ではないから意見するだけだがね。実際の用兵は家臣に任せるさ。俺は誰の下につくつもりも無いし、誰の上に立つつもりも無い」 そう言ってから、周囲の警戒に向かう。西洋鎧は唯でさえ目立つ。 「俺は護衛対象からはやや離れた位置にいよう。異変があればすぐに駆けつけるさ」 戦場に出た華御院 鬨(ia0351)は、兵士たちとともにアヤカシに切り掛かっていく。 「化けるんやったら、うちも負けやへんどす」 アヤカシの大軍に切り込み、天晋禅を探す。以前及び前回の戦闘からどんな姿、声、性格、戦闘時の癖などがあったかを思い出して、参考――姿と声は変化を解いた時の参考として――として皆に認識してもらう。それらの特徴から役者として明らかに演技をしている者を探す。 が、鬨は意外なところで天晋禅と出会う。天晋禅はすでに最前線に出ていたのだ。 「あれは‥‥天晋禅どすな? まさか‥‥」 美しい鬼の姿をした天晋禅に突進する。側面から切り掛かって白梅香を叩き込む。 「ぬっ――!」 天晋禅は、鬨の一撃を軽やかにかわした。 「貴様は‥‥以前も私の邪魔をした人間」 「天晋禅どすな‥‥こうも容易く見つかるとは思わんかったどすが」 「ふふふ‥‥貴様の相手をしている暇はない」 天晋禅は腕を一振りすると、巨大な炎の壁を作りだしてその中に消えた。 「く‥‥! 待て!」 鬨は炎に包まれて、手をかざした。その炎は幻術だったが、天晋禅が逃げ切るには十分な時間だった。 雲母坂 芽依華(ia0879)、井伊 沙貴恵(ia8425)、コルリス・フェネストラ(ia9657)たちは、兵を率いて前線に出て、アヤカシの迎撃に向かっていた。 「今回の天晋禅は正攻法では来ぇへんモンらしいなあ。うちらも色んな手をやらなあきまへんな」 「雲母坂殿!」 「どうしました?」 「たった今、戦場の一角で、天晋禅との交戦が目撃されております! 天晋禅は、すでに前線に出ております!」 「それは一大事どすな。ではうちらも兵の一部を率いて、天晋禅の後を追いましょう」 沙貴恵は前線で剣を振るっていた。兵を指揮して、かの魔将の目を引くつもりであった。 「天晋禅の居所は分からないけれど、自軍の進撃が止められたり押し戻されたりすれば、何かしらの動きは見せるんじゃないかしら? とにかくアヤカシ軍との戦いに集中していきましょう」 沙貴恵は兵たちに命じて、本格的な攻勢に出るように言った。 咆哮の使用で、アヤカシの引き寄せや攪乱。それによって相手側の動きを見る。統制の取れている所は指揮官クラスが居る可能性が高いと考え、そういった箇所から優先的につぶしていければと考えた。 「敵の動きは‥‥」 そこで、沙貴恵のもとへ天晋禅の目撃情報が飛び込んで来る。 「え? すでに、前線を抜け出した? やるわね‥‥さすが敵さんも動きが速い。いいわ、あなたたちはこのままアヤカシの撃破を。そっちのあなた、私と本陣へ来て、守りを固めるわ」 「天晋禅が出ましたか‥‥」 コルリスは、やってきた鬨から、その話を聞いた。 「コルリスはん、天晋禅の狙いは、やっぱり本陣の強襲どす。雑魚の始末は兵に任せて、急いだ方がよろしいどす」 「そうですね‥‥分かりました。私も本陣へ向かいましょう」 コルリスはアヤカシに最後の一撃を撃ち込むと、鬨とともに本陣へ駆け出した。 ‥‥天晋禅は透明化の術で姿を消し、素早く本陣に入り込んでいく。瘴策結界をかいくぐる。合い言葉を聞いている鈴木の姿が確認できたが、その横をすり抜け、一気に中へ突入する。 「――?」 しかし、咄嗟に気配に気づいた鈴木が、手を伸ばして天晋禅の腕を掴んだ。 「何かいます! 気を付けて!」 シュヴァリエが槍斧を突き出すと、悲鳴が上がって、透明化を破られた天晋禅が姿を見せる。 「天晋禅――!」 星鈴は素早く雪鈴と明道心の前に立ち塞がった。 「アヤカシの将、ここまで来るとはさすがだな」 シュヴァリエの言葉に、天晋禅は笑みを浮かべた。 「ふふ‥‥しかし読まれていましたか。本陣の護衛を固めるとは。ですがこれだけ守りを固めれば、ここに要人がいると知らせているようなものです」 天晋禅は腕を一振りすると、衝撃波で本陣を突き破った。 鬨と雲母坂、沙貴恵にコルリスたちも駆けつけてくる。 「‥‥この前は守れんかったんや、今回もそうやいうたら‥‥月葉ん奴に合わせる顔があらへんやろがっ!! 人ぉ舐めるも大概にするんやな‥‥」 「開拓者に用はない。どこだ 龍安武将は」 鈴木は結界呪符「黒」で二人を守る。 「壁の後ろに!」 「行くで滝月はん! ルオウはん! あいつを近づけんと!」 「承知!」 「おう! 行くぜい!」 星鈴、滝月、ルオウが一斉に切り掛かった。 「ぬうん! 焔氷演武!」 天晋禅は豪快なまでに両腕を操ると、炎と氷の嵐を叩き込んだ。 めくるめく火と氷の乱舞が視界を埋め尽くして直撃する。 「構うな! 突き破れ!」 滝月は炎魂縛武で突貫した。激突! 天晋禅を貫通する。 星鈴、ルオウも続けて激突した。 しかし――天晋禅の姿は崩れ落ちて行く。 「何だ? 死んだのか?」 「いや、しまった! 違う、分身や!」 抜け出して加速する天晋禅を、コルリスが「朧!」で撃ち抜いた。 「そこから先へはいかせません」 「白狐招来!」 鈴木は白狐を叩き込み、加速したシュヴァリエと雲母坂、鬨、沙貴恵が切り掛かる。 連続攻撃を浴びて、雄叫びを上げる天晋禅。 「ぬう‥‥私の最後の賭けを邪魔するか!」 天晋禅は猛烈な格闘攻撃で鬨と雲母坂を吹き飛ばした。 「そうはさせねえ!」 ルオウが咆哮で揺さぶりを掛けるが、天晋禅は微動だにせず。 「天晋禅、年貢の納め時です」 雛は仲間を回復しながら、この魔将を見上げた。 「今日ここで、あなたの凶行はおしまいです」 「それは‥‥どうですかね、私は侯太天鬼とは違う。あの知恵なしと一緒にしないことですね」 天晋禅はそう言うと、巧みに位置をずらすと、周囲の開拓者たちを巻き込んで幻術を解き放った。 「に――!」 「しまった!」 突如、開拓者たちの視界を暴風雨が覆い尽くす。 「幻術‥‥! 雛! 解除を頼む! 急げ! 時間が無いぞ!」 「はい」 雛はシュヴァリエの幻術を解除する。 「いたか!」 すぐそばを通過する天晋禅を、シュヴァリエは槍斧でぶん殴った。 「何!」 「そうはいかんぞ天晋禅」 「おのれ!」 コルリスの連打に鈴木の白狐、シュヴァリエとの格闘戦を弾き飛ばし、天晋禅は目的を果たそうと血眼になって周囲を見渡した。 直後――。 滝月の秋水が天晋禅の片腕を斬り飛ばした。 「これまでだ鳳華の魔将。お前の術も破られた」 「な、んだと‥‥! 私の腕を‥‥」 美しい天晋禅の顔が、修羅のように怒りに染まる。反射的にもう片方の腕を突き出し、青い稲妻を撃ち込む。 滝月は直撃を受けて吹っ飛んだ。ぶすぶすと体が焼け焦げる。 「まだこんな力が‥‥」 「邪魔だ!」 続いて切り掛かる星鈴を片腕で殴り飛ばした。 「く、くははっ‥‥一度奮ぅた大薙刀、唯の一度も後悔もなく、唯の一度も無覚悟あらず‥‥。故にうち、唯一在るは常背水。ようは退く気ぃなんぞあらへん言うことや‥‥。それが、それだけがうちん『武』や!!」 星鈴はもう一度大地を蹴って、大薙刀に紅蓮紅葉を撃ち込んだ。 天晋禅は襲撃波を撃ち込んだが、星鈴は紙一重でかわして突っ込んだ。 「やあああああ‥‥!」 気合一閃――星鈴は天晋禅の足を斬り飛ばした。 「ぐ‥‥おおお‥‥!」 倒れ伏す天晋禅。 「ぐ‥‥畜生‥‥この俺様が、鳳華の闇を手に入れたこの俺が‥‥人間ごときに‥‥!」 「終わりよ天晋禅。あなたの悪行もこれまでよ。アヤカシ討つべし」 沙貴恵が、グレートソードを振り上げ、天晋禅の頭部を打ち砕いた。 瘴気の渦が立ち上り、そして、天晋禅の肉体は黒い塊となって崩れ落ちて行った。 「終わったのですね」 雛は言って、天晋禅が消えた跡を見つめた。 「さて、ここん戦を静めて、はよう在天奉閻の方へ向かわんとなあ」 雲母坂が言うと、蒼晴雪鈴と明道心は頷いた。 「これで、残るは在天奉閻のみ。目前のアヤカシを早期に片づけ、急ぐとしましょう」 そうして、開拓者たちは、天晋禅配下のアヤカシ討伐に向けて全力を傾ける。 天晋禅は倒れ、かくして、鳳華の魔将は残り一人、竜神の名を持つ在天奉閻のみとなったのである。 |