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■オープニング本文 天儀本島理穴国――。 知っての通り、理穴の東部は魔の森の勢力が強く、いまだにアヤカシの被害が絶えない。大アヤカシ炎羅が倒されたとは言え、土地が元に戻るには時間がかかる。それでも、人々は復興を目指して家を建て、村や町を興し、畑を耕して新たな人々を呼び寄せていた。そんなある日のこと‥‥。 復興途上の町に、アヤカシの攻撃が開始された。アヤカシは見た目もおぞましい死肉の塊で、手や足や骨が至るところから生えており、口や目がそこかしこに付いていて、ずるずる‥‥と30メートルはある巨体を引きずるように移動していた。這うような移動で、しかし意外に動作は俊敏で、近郊の村民20人余りが瞬く間に建物ごと飲み込まれた。この肉塊が通り過ぎた跡には、何も残っていなかった。アヤカシが接近中と知った時には手遅れだった。この巨大な死肉の塊のアヤカシは、町を飲み込み始めていた。 「ここはもう駄目だ! 早く! 逃げるんだ! 早く!」 男は死肉に囲まれながら、アヤカシの注意を引くように斧で切り掛かって行った。 「早く逃げろ!」 「お父さん!」 「逃げろ!」 父親が肉塊に飲み込まれて行くのを、娘は間近で見つめていた。 「何やってんだ! 早くしろあんた!」 若者に腕を引っ張られて、娘は逃げ出して命を取り留めた。 開拓者ギルド――。 「死骸傀儡だ」 開拓者ギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)は、上役から指示を受けて、開拓者たちを集めた。 「理穴で緊急事態発生だ。死骸傀儡――死肉の塊をした30メートル級のアヤカシが復興地域に出没、町を飲み込み始めた。すでに近郊の村が飲み込まれ、甚大な被害が出ている。一刻の猶予もないな」 そう言って、橘は眉間を押さえた。 「急ごう。こいつは何もかも飲み込んで食らい尽くす死人アヤカシだ。ただの肉塊であることを祈ろう。こいつに特別な能力を持ったケースも過去にある。詳しくは道中で話す。準備に掛かってくれ」 橘はそう言うと、立ち上がった。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
エグム・マキナ(ia9693)
27歳・男・弓
无(ib1198)
18歳・男・陰
盾男(ib1622)
23歳・男・サ |
■リプレイ本文 町に到着した開拓者たち――。 「多様な攻撃手段を持つ大型のアヤカシですか‥‥。まだまだ私の知らないアヤカシは多い事を思い知らせてくれる代物ですが、細かい所からきっちりとやらねば勝負にならないでしょうし、アヤカシの物理攻撃以外の特殊能力の有無も気になるので充分注意して掛かる事にします」 三笠 三四郎(ia0163)の言葉に、犬神・彼方(ia0218)は頷く。 「死骸傀儡ねぇ‥‥厄介そぉなアヤカシもぉいたもんだ。‥‥ま、なんとぉかするしかぁないかぁね」 それから望遠鏡を橘に返した。 「ったく、見れば見るほどぉ気持ち悪ぃアヤカシだぁね。あんなもんがぁうろうろしてるってぇだけで人間様にゃぁ害以外の何者でもないさね。つーわけで、犬は狗らしく‥‥てめぇを狩らせてぇ頂きますってな。 しっかぁし‥‥相手は知能が高い場合もあり、しかぁもかなりタフで意外とすばしっこい‥‥ったく、戦うのが嫌な敵だぁね。そういや近郊の村が襲われたってぇいうし、人質かなんかぁ出してくるかぁもしれねぇな。もし人質を出してくるンなぁら、その人質救助も依頼のうち、か。助けるのなぁら全力で、命は何ものにもぉ変えられねぇもんだしな」 華御院 鬨(ia0351)は、いつものように変装していた。今回は泰国風の先生の姿をしていた。バースとハンドガンに喧嘩煙管で武装している。 「元気で何よりあるどす。さっさと死骸傀儡を倒してしまうあるどす」 と橘鉄州斎(iz0008)に気軽に声をかける。 「どうも鬨。ってまた新しい変装パターンが増えたのか。またそりゃ偽泰国人だな」 「言ってくれるあるな。偽泰国人が聞いたら怒りそうある」 「まあ、偽泰国人に会ったことは無いがねえ」 「会ってみたいあるな」 鬨と橘は軽くやり取りを交わすと、肩をすくめた。 増殖型の大型ね‥‥できれば町中では出現して欲しくないヤツだけど。出てきちゃった物はしょうがない。葛切 カズラ(ia0725)は、胸の内に呟くと、しなやかな指を顎に当てて思案顔を浮かべた。 「この手の増殖型はスライムなら色気が有って良かったんだけどね。さて‥‥どこへ誘い込むか、手早く決めて行かないとね」 「捕まってる方々並びに皆様の治療と支援、周囲の浄化等できる事を尽くします」 玲璃(ia1114)は言うと、望遠鏡で町の様子を眺める。 「やはり町の中心まで誘い込むのが一番でしょうか」 「なるべく広い場所って言うと‥‥そうなるかしらねえ。被害を最小に食い止めるには」 カズラは、仲間たちを見やる。 エグム・マキナ(ia9693)は橘に歩み寄ると、口を開いた。 「死骸傀儡‥‥厄介な。橘さん、難しいと知っての話ですが‥‥」 マキナが橘へ依頼したのは松明などの火種やアルコール類の調達。自分たちがアヤカシを倒し切れなかった時の最終手段として、火計の準備をしておく。 「街中で火を放つなど言語道断ではありますが、最悪の場合、魔の森が再び広がりかねません。後続を呼ぶとしても、アレは時間が経てば経つほど厄介になる恐れのあるモノ。被害を喰いとどめるには仕方ないかと‥‥」 自分たちの作戦が失敗となった、と判断された時点で、火計を実行してもらうつもりだった。 「なに、最善は尽くします。もし作戦が成功に終われば、用意された酒類は生き残りの方に差し上げて下さい」 橘は冷静にマキナの疑念を振り払うように言った。 「マキナ、差し当たり、俺たちがしくじったら、ギルドに追加の援軍を頼む。それに、火計はもともと効果が薄い。アヤカシに火はほとんど効かないんだ。町を全焼させるわけには、やはりいかないんだ。それから魔の森だが、あれを構築できるのは大アヤカシだけだから、奴が森を広げることは無い」 「そうですか‥‥では仕方ないですね。全力を尽くすとしましょうか」 无(ib1198)は橘から、死骸傀儡の特徴を聞きだす。 「他に、聞き逃していることはありませんか橘。後出しじゃんけんで裏をかかれるのは御免ですよ」 「ああ、実際アヤカシだから、上げると切りが無いんだがな。まあ、あいつの食欲は底なしだから、とにかく、ダメージを与えて、足止めしてやらないとな」 「感覚はあるんですかね。叩いてみたが効かないと言うことは」 「想像するのも嫌になるなそいつは。確かに、タフな相手だし。無痛覚があったら厄介だな。それは今気が付いた」 「あの巨体で無痛覚ですか」 「そうじゃないことを祈ろう」 盾男(ib1622)は思案顔で内心呟く。 放置するにはやっかいだ。最悪人質を見切る事も考えよう。可能な限り助けますけど。 「それにしてもあれは腐肉なのか? 臭いのか。体洗って服着替えないとダメなのか‥‥どうなんですかね」 「アヤカシだから瘴気の塊だ。血肉まみれになることは無いぜ。千切れた肉は瘴気に還るだけだ」 「それを聞いて安心しましたよ」 盾男自身はスキル試しや大型のアヤカシとの交戦経験を積む事を目的に参加していた。 1.アヤカシを大通りなどの広い場所に連れ出す。 2.3方向より遠隔攻撃を行い、注意をそらす 3.救出班が別方向より特攻。人質の救出に向かう。 4.人質をアヤカシから離れた地に置き、持久戦に入る。 開拓者たちはこれらの方針を確認すると、町中へ突入する。 「良し行くぞ。囮作戦開始だ――」 コオオオオオオオオオオオオオオオオオ‥‥‥‥! と、町中に響き渡る死骸傀儡の呼吸が、人々の悲鳴をかき消していた。 オオオオオオオオオオオオ‥‥! オオオオオオオオオオオオオオオオオオ‥‥! オオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアア‥‥! 死骸傀儡の咆哮が轟く――。 「何て大きさだ‥‥」 三四郎は圧倒されたが、逡巡している時間はなさそうだ。 「ひとまずあいつの注意を人々から逸らさないと」 「んじゃぁ、橘と俺ぇで右から回り込もう」 「結構ある、なら私と‥‥カズラさんで正面から行くあるか」 「大丈夫だ」 「では残り、左から、ミーと无、玲璃で行きましょう」 「私と三四郎さんで一般人の避難誘導に務めます」 「よろしく」 「じゃあ、行くぅぜえ!」 開拓者は散った。 「みなさんこちらへ! 町の中心から離れて下さい! こちらへアヤカシが向かってきます! 退避して下さい!」 三四郎が言うのに、人々は悲痛な叫びを上げた。 「待ってくれ! 何だあんたは!」 「開拓者です。死骸傀儡の撃破に来ました。さあ急いで離れて下さい。アヤカシがこっちへ来ます」 冷静な三四郎の言葉に、だが民は爆発した。 「ここは俺の家があるんだ! 何とかしてくれ!」 「開拓者なら、ここへ来る前に、何とか出来ないの!」 三四郎は心を殺して人々を落ち着かせる。 「私たちも最善を尽くします。お願いです。ここから離れて下さい。一刻を争います」 人々は接近してくるアヤカシの影に恐れを為して、じわじわと後退して行く。 「わ、分かった! ここはあんたらに任せる! 町を守ってくれ!」 エグムもまた、人々の退避に尽力する。 「生きていて下さり、ありがとうございます。そして――申し訳ありません」 「何呑気なこと言ってるんだ! 開拓者なら早くあの怪物を片づけてくれ!」 「ここは私たちの新しい町なの! あんな怪物早く倒して!」 「みなさん、残念ですが、ここはもう持ちません。アヤカシの足を食い止めて見せますが、もし敵がやってきたら、みなさんを守りながら戦うことはできません。今はここから離れて下さい」 「そんな‥‥」 人々は頭を押さえて、絶望的な声を上げた。 「町はきっと再建できます。今は、逃げ延びて下さい。お願いします」 エグムは後ろを見やる。アヤカシが接近してくる。 「さ、早くして下さい! 今は、生きて望みをつないで下さい! お願いします!」 「わわ‥‥来よる、来よるぞお! おいみんな! ここは言うとおりに開拓者に任せよう! とにかく逃げるんだ!」 「頼んだぞあんたら! 土地を守ってくれ!」 「橘ぁ! そっち行くぞぉ!」 「任せろ! この化け物、尋常ではないがな!」 彼方と橘は連携して、死骸傀儡に切りつけて行く。 「こんのぉ‥‥化け物ぉ‥‥!」 彼方は、ずるずると伸びてくるアヤカシの肉体を斬り飛ばした。さらに一撃、槍を突き入れ、アヤカシの肉体を吹き飛ばした。 死骸傀儡は咆哮を上げると、彼方を追う。 「さぁて、こっちだこっちだ!」 ぎゅん! とアヤカシの一部が腕のように伸びてくる。彼方はかわしつつ、それを斬り飛ばした。 「死骸傀儡、聞こえんだろうが、こっちへ来い! 目にもの見せてやる」 橘も一撃を叩き込み、中心市街へ向かって駆け出す。 「さーて、このうぞうぞが、遊んであげましょうか。それにしても記憶を呼び起こすわね」 カズラは正面から斬撃符を叩き込む。伸びてくる死骸傀儡の腕をさらに一撃、斬撃符で切り飛ばす。 「さしてどこかに弱点があるとも思えないあるが」 鬨はガンを構えると、引き金を引いた。ドウ! と弾丸が貫通して、どばっ! と死骸傀儡の肉体を吹き飛ばした。 「鬼さんこちらある」 盾男は短銃の引き金を引く。バーン! と弾丸が炸裂して、アヤカシの肉体を吹き飛ばす。リロード。 「うまくいきますかね囮作戦は」 「少なくとも、今のところは」 无は言うと、玲璃を顧みた。 「ご心配なく、まだ大丈夫ですよ」 「よし、すぐに中心市街地へ着く。そこで決戦あるよ」 「来ましたアヤカシ! エグムさん、配置に付きましょう」 「了解です。では三四郎さんはそちらへ」 エグムと三四郎は仲間たちが来るのを待つ。死骸傀儡はすぐそこまで迫っている。 「待たせたある」 「お待たせ〜」 鬨たちが戻って来る。 「予定通りです。死骸傀儡、すぐに来ます。怒り狂っているようですがね」 「では、三方向からの集中攻撃で出迎えて差し上げましょう」 「来るぞ!」 開拓者たちは大通りになだれ込んで来る死骸傀儡を三方向から取り囲み、攻撃を開始する。 「まずはこれでも‥‥町の人々の分です」 三四郎は矢を叩きんだ。貫通して肉体を吹き飛ばす。 「捕まってる奴はぁ‥‥いねぇか」 彼方は至近距離で人質を探す。ぐにぐにの肉塊の中にある、口がぐわっと開いて、飲み込まれた民の腕が見えた。 「あそこに‥‥」 彼方は突進して死骸傀儡を切り裂いた。肉塊を吹き飛ばし、飲み込まれていた少女を救い出す。 「しっかりしろぉよ‥‥」 鬨はガンをぶっ放しながら、間合いを取る。 「これは中々の相手あるが‥‥」 銃撃が死骸傀儡の肉体を木っ端のように吹き飛ばして打ち砕く。 「こういうリスクとリターンの見合わない事は賭博だけにしたいけど!」 カズラは言って、斬撃符を叩き込む。 「急ぎて律令の如く成し万物悉くを斬刻め!」 「皆様、気をつけて。飲み込まれぬように」 玲璃は間合いを図りつつ、適時閃癒での回復に備える。 エグムは鷲の目で死骸傀儡の肉体を観察すると、捕まっている民の姿を確認する。六節に瞬速の矢で射抜いた。 「合いました――!」 「橘殿! 今です!」 玲璃は浄炎で死骸傀儡の肉体を浄化すると、橘が突進した。 「支援します、幻影符!」 无が式を解き放てば、死骸傀儡を幻術が取り巻く。 「今行く!」 橘は道を切り開き、落ちてきた子供をキャッチして後退する。 「早期殲滅したいけど長期になるかな。銃と剣で有効性は差異あるのかな」 盾男は、接近すると、弐連撃で銃撃と剣を同時に押し込んだ。死骸傀儡の肉体が吹っ飛び、脈打つ肉塊が露わになる。千切れた肉片はやがて黒い塊とななって崩れ落ち、瘴気に還元した。 それから開拓者たちは10人以上の捕獲された民を救う。だがもしかすると、まだ飲み込まれた人がいるかもしれない。 「これ以上は‥‥このアヤカシを撃退して確認しましょう。肉体が無くなれば、中にいる人も助かるはずです」 三四郎の言葉に、開拓者たちは態勢を整えると、死骸傀儡を再び取り囲んだ。死骸傀儡はおぞましい眼球で開拓者たちを睨みつけると、そこかしこに開いた口から憎しみに満ちた雄叫びを上げる。 「相当頭にきてやがぁるな」 「逸れもそうあるな、これだけ体を切り刻まれて愉快なはずもないあるな」 「じゃ、ここからが勝負かしらね」 「全力で支えます。回復はお任せを」 「亡くなった人たちのためにも、ここで倒しますよ」 「実に興味深い存在ではありますが。情報収集は大よそ終了ですね」 「では、ミーたちで決着をつけるある」 「よし、もう一度、気持ちを立て直していくぞ。それに、出来る限り町への被害は減らしたい」 開拓者たちは死骸傀儡を再度包囲し、立て続けに攻撃を浴びせて行く。 死骸傀儡は伸縮し、その姿を形容し難い醜悪な肉塊へと変え、最後にはヤマアラシのように針だらけの姿になって抵抗したが、遂に開拓者たちの猛攻の前に潰える。 巨大な肉塊が黒い塊となって崩れ落ちて行き、遂には瘴気に還って行く。 「やったわね‥‥」 実際さらにその中には、20人近い人々が生きたまま飲み込まれていたが、全員無事だった。それはせめてもの救いであった。 ‥‥戦闘終結後。開拓者たちは町の人々にアヤカシ撃破の知らせを持っていく。 人々は歓声を上げて、開拓者たちを出迎えた。 「やってくれたな! ありがとう! ありがとう!」 「本当に! よくやってくれたわ! 感謝してます!」 「あんたらがいなかったら、きっと町は今頃、跡形もなくなってたよ。礼を言わせてくれ」 鬨は首を振った。 「礼は必要ないあるよ。うちらは出来ることをしたまである。こんなことが、許されていいはずないあるから」 「そうか‥‥だが、誰かがやらなきゃな」 そこで、子供の一人が、鎮魂の舞いを舞い始めた玲璃の姿を確認する。 玲璃は神楽を舞っていた。自分にささやかな力があるとしても、それは人々を守るために使われるべきだと‥‥。 「綺麗‥‥」 子供たちは、ぼうっと玲璃の舞いを見つめていた。 「ここは駄目かも知れんが、俺たちは何度でも再建するさ。あんたらが奇跡を起こしたように、俺たちだって立ち上がる力は残ってる。そう信じたいじゃないか」 男は玲璃の舞いを見やりながら、開拓者たちに告げた。 「そうだぁな‥‥」 「幸運を祈っています。諦めないで」 无が手を差しだすと、男は肩をすくめて、握手を交わした。 「世話になったな。本心を言えば、もう二度と開拓者の厄介になるのはご免だがね」 そう言って、男は玲璃の舞いに目を戻したのだった。 |