朱の刃
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/01/18 21:19



■オープニング本文

 天儀本島朱藩国上空を通過する中型飛空船があった。飛空船の中には、武装した一団が搭乗していた。彼らの名を赤龍党と言い、赤龍と言うサムライをリーダーに持つ全員志体持ちの賊集団であった。潤沢な装備と飛空船まで備えた彼らは、普通の賊とはわけが違う。それに、彼らは確実な情報も手に入れていた。これから向かう朱藩の里のことは、里長よりも通じていた。
「赤龍様、間もなく里に着きます」
「こんなこと一体何事かねえ。たった一人始末するために。俺たちは仕事をするだけだが‥‥」
 赤龍の言葉に、氷華と言う名の美しい女剣士が答える。
「赤龍様、これが終わったら、しばらく姿を消すことが出来るのでしょうか」
「それは俺たちが決めることじゃない。そう願いたいものだが」
 舵を取る男が口を開いた。
「里に入ります。今のところ予定通りです」
「よし、準備を整えろ」
 そうして、賊たちは準備に取り掛かり始めた。

 早菜の里は、人口200人程度の小さな里だった。どこにでもあるような内陸の里で、人々は農業を営んでいた。里の志体持ちと言えば里長の一家と少しの家来だけだった。
 赤龍党のメンバーは、里へ入り込むと里長の屋敷へいとも容易く入り込んだ。地図は彼らの頭に入っていた。
 白昼、武装した赤龍たちの姿を見て、使用人たちは悲鳴を上げた。
「な、何ですかあなたたちは!」
 次の瞬間、使用人の首は赤龍の刀で切り飛ばされた。
「ひ、ひい!」
 うろたえる使用人たちを次々と切り捨てて行く赤龍たち。
「あっちよ! 里長と家族を捕えるのよ!」
 氷華は部下を率いて、素早く移動する。
「何者だお前たちは!」
「見つけたわ里長」
 氷華は、里長を追い詰めて行く。
「父上!」
「あなた!」
「家族に手を出すな!」
 赤龍党のメンバーは四方から里長一家を追い詰めて行く。
「里長――」
 赤龍が姿を見せる。
「言う通りにすれば、危害は加えない。だが、抵抗すれば命は無い」
「これでも食らえ!」
 赤龍の背後から、家来の一人が銃弾を叩き込んだ。が、赤龍は素早く弾道から逃げると、その砲術士を一撃で切り殺した。
「分かっただろう。俺たちを甘く見るな」
「要求は何だ。金などこの里にはないぞ」
「欲しいのは金じゃない。風信機を使え。開拓者ギルドの橘鉄州斎(iz0008)に依頼を出せ。山賊の集団に襲われて捕まった。身代金を要求されている。自分はどうにか逃げ延びたが、家族が捕まっている。興志王の兵がやってくれば家族は殺される。今頼れるのは開拓者ギルドしかない、とな」
「一体何が目的なんだ」
「お前たちは知る必要は無い。助かりたければ言うとおりにしろ。すぐに行動するんだ」
「わ、分かった」
 そうして里長は、神楽の都の橘へ助けを求める依頼を出した。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
井伊 貴政(ia0213
22歳・男・サ
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
焔 龍牙(ia0904
25歳・男・サ
輝夜(ia1150
15歳・女・サ
朱麓(ia8390
23歳・女・泰
ウィンストン・エリニー(ib0024
45歳・男・騎
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰


■リプレイ本文

「里長、ギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)だ。こっちは開拓者たち――」
「今回は‥‥このような事態になり、私も言葉が無い」
 橘の言葉に、里長は沈痛な表情を見せた。
「里の状態はどんな感じですか? 犠牲者は出ていないとのことですが‥‥」
 井伊 貴政(ia0213)の問いに、里長は吐息した。
「賊たちに荒らされて里はひどい有様ですが、幸い犠牲は出ていません」
「賊の様子はどうです? 風体や武装状況とか、詳しく教えてもらえると助かるんですがね」
「‥‥風体はよく覚えていないんだ。何しろあっという間の襲撃だったからな。武装はこれと言って変わったところは無い。刀とか斧とか、軽鎧を着こんでいる」
「そうですか‥‥では、人質が捕らわれている里長邸の間取りとか、室内の広さなど、詳しく教えてもらえますか?」
「ああ‥‥書いた方が早いだろう」
 里長はそう言うと、地面に間取り図を書き始めた。開拓者たちは、里長の説明を受けながら、屋敷の間取りを頭に叩き込んでいく。
「動機がはっきりせいへんと、どうも戦い難いあるどす」
 華御院 鬨(ia0351)は独り言を云って考え込む。それから鬨は、続いて里長に里の地図――抜け道などがないかも詳しく――を書いてもらう。開拓者たちは情報を共有する。
「橘さん」
「何だ」
「一応、変装してもらえるあるか。何か気になるある」
「僕からもお願いします。橘さんを名指しで依頼してきたというのは、少し気になるのですよ」
「考え過ぎだろう。ただの盗賊だぞ」
「橘さん――」
「分かった分かった。少し編み笠を深めにかぶっておこう」
「今回は人が相手か、アヤカシであれば気楽にいけるが。だが、悪事を許す訳にはいかない」
「全くですね。一応里を落としたようですし、気をつけて行かないと」
 焔 龍牙(ia0904)の言葉に水鏡 絵梨乃(ia0191)は頷く。
「我々が到着するまで、人質が無事であればいいがの。何はともあれ、手早く片づけたいところじゃ」
 輝夜(ia1150)が言うと、朱麓(ia8390)は小さく肩をすくめた。
「あたしも少し気になるんだけどね。名指し依頼ってのは、アヤカシ、橘家襲撃‥‥ふーむ。どうもその辺りかなぁ」
「朱麓、お前まで何言いだすんだ」
「まあ、気になるってだけだけどね。確信があるわけじゃないさ」
 朱麓の言葉に、橘は肩をすくめた。
「実は俺も少しに気にはなっているんだがね。確かに確信はないがね」
 ウィンストン・エリニー(ib0024)の言葉に、橘は吐息した。
「死人が出ていないそうですからね。今のところは。志体持ちも少ないそうですし、まあこれ以上の被害が出る前に終わらせてしまいましょう」
 長谷部 円秀 (ib4529)が言うと、橘は頷いた。
「では、里の中へ案内してくれるか」
「ああ‥‥こっちだ」
 里長は周りを見渡しながら歩き出した。

「里長様――!」
 林から、ぼろぼろになった民が駆け寄って来る。
「りつ、無事であったか」
「‥‥里はもう‥‥」
「いいから、隠れているんだ。今は、奴らに見つかるとまずい」
「‥‥里長様‥‥どうしたらいいか‥‥あの子たちを失って‥‥」
 水鏡は首を傾げる。
「民に被害は出ていないんじゃないですか?」
「い、いや‥‥」
 そこで、龍で偵察に出ていた貴政と焔が上空から戻って来る。
「みなさん、大変です」
「里の中はひどい有様だぞ。そこら中死体だらけだ。一体どうなってるんです里長」
 焔は里長に詰め寄った。
「わ、私は‥‥何も言えない」
「里長――!」
「この通りだ! 助けてくれ!」 
 里長は地面に頭をこすりつけると、開拓者たちにひれ伏した。
「頭をお上げ下さい里長」
 長谷部が手を差しだすと、里長は、
「私は何も言えない、が、屋敷に賊たちはいる。そこまでは案内する。頼む、助けてくれ」と涙ながらに訴える。
「とにかく、里の様子を探ろう」
 水鏡は仲間たちを振りかえると、開拓者たちは用心しいしい里の中へと踏み込んだ。

「これは‥‥」
 水鏡は絶句した。あちこちに血溜まりが出来ていて、鮮血が壁に飛び散っている。そして、惨殺された村人たちが地面に横たわっている。
「な、何なのこれ‥‥皆殺しじゃないか」
「ひどいな‥‥」
 橘は里を見渡して、冷たい瞳で状況を観察した。
「一体何事あるか。これは。とても人間の仕業とは思えんある。橘?」
「ああ‥‥」
 鬨は血の匂いに胸がむかついてきた。
「むぅ、なんということじゃ。聞いていた情報とはかなりの相違があるようじゃの」
 輝夜は言って、超越聴覚で音を拾っていた。――静かだ。
「音が無い。その賊とやら、何人いるのじゃ里長。本当のところは」
「そ、それは‥‥」
「言えないのか」
「すまない」
「だが屋敷までは案内すると言った。屋敷で奴らは待ち受けておるのじゃろ」
「‥‥‥‥」
 朱麓は、冷たい瞳で、里の中を見渡していた。
「まだこんな年端もいかない者まで‥‥酷い‥‥酷過ぎだ。人間じゃないこいつら」
 朱麓は、その亡骸に手を合わせると立ち上がった。
「橘を指定で取引とは何やら因縁でろうか‥‥ふむ、去年夏の事を思い浮かべるが」
 エリニーは、言って昨年のことを思い出した。ギルドで依頼を受けた回数が少ないエリニーにとって、昨年夏の橘と引き受けた依頼は印象に残っている。あの時も、多くの民が斬り殺された。
「外道を斬るのに呵責は不要、今宵は修羅のごとく振舞おう」
 長谷部は感情を押さえて、吐息する。
「人が相手とはいえ外道の所業、手加減する理由が見つかりません。多少冷酷かもしれませんが、容赦なく斬り捨てましょう」

 屋敷の上空を飛び回っていた焔は戻って来る。
「妙だな、人数が合わない! 連絡では50人はいるはずだが‥‥どう見ても恐らく10数名。どこか離れた場所に隠れているのか、それとも依頼自体が偽物なのか、どう見る鉄州斎殿」
「こいつは間違いなく罠だろうが‥‥と言って今更引き返せるものでもない。みんな屋敷の地図は叩き込んでいるな。踏み込むぞ」
「気を引き締めて掛からねばの。恐らく向こうは中からこちらの動きを見張っている可能性が高い。それに人質もいるとなれば」
 輝夜の言葉に、開拓者たちは頷く。
「では僕は上空から入ります。状況は確認しておきます」
 貴政は言うと、もう一度龍に乗って空へ舞い上がった。
「後はお願いする。中にいる連中は里の仇であり、羅刹のような連中だ。気をつけて‥‥」
 里長は開拓者たちに言葉を述べようと前に出た。――次の瞬間、屋敷から矢が立て続けに飛んできて、里長の首を切り裂いた。どうっと倒れる里長。
「里長!」
 朱麓は里長を助け起こしたが、手遅れなのは一目で分かった。里長は程なくして息を引き取った。
「許さない‥‥こんなこと」
 水鏡はきっと屋敷を睨みつけた。
「どうやら向こうは待ちくたびれているようあるな」
 鬨はそう言うと、ジェスチャーで仲間たちに合図を送った。敵にシノビがいれば、会話は聞きとられる可能性がある。
「では私たちは東の通用口から入りましょう」
 長谷部は頷き、朱麓とエリニーに目を向けると、反対方向の西側へ回って行く。
 橘に水鏡、焔に輝夜は裏口へまわって行く。
「さて、では始めるあるか」
 鬨は、そう言って橘のあとから乗りこんで行った。

 屋敷の中はふすまが閉ざされて、視界を遮っていた。
「おい賊ども! あんたらを打ち果たしに来てやったよ! この外道ども! 出てきな!」
 朱麓はふすまを吹き飛ばして室内へ先陣切って飛び込んだ。後にエリニーと長谷部がすぐに死角をカバーする。
 不気味なまでの静寂と沈黙が彼らを迎える。
 三人は頷くと、一斉に周囲のふすまを吹き飛ばした。
 つかの間の静寂から、三人の側面を突いて賊たちが姿を見せた。
「来たよ!」
 賊たちは無言で突進してくる。
 朱麓は一撃弾き返して、矛を撃ち込んだ。――キイイイイン! と弾かれる。
「あんたは――!」
 朱麓はその顔に見覚えがあった。昨年の夏、エリニーとともに引き受けた依頼で出会った賊集団、赤龍党の女剣士だ。名を氷華と言った。
「ほう‥‥貴様か、これは面白くなってきた」
 氷華は刀を構えると、すうっと踏み込んできた。
 朱麓は間合いを図って攻撃を繰り出す。二人は激しく撃ち合った。
「同じ女志士なのに何でこんな下らない戦いになるかなぁ。‥‥ね、何でか分かる氷華?」
「それはお前が開拓者だからだ。開拓者と私では、見ているものがまるで違う」
「そいつは大した詭弁だね。随分偉く出たもんだ」
 長谷部はシノビと打ち合っていた。
「外道だが相当出来るな」
「開拓者、お前たちに用は無い。本気で殺し合うのも愚かと言うものだ。適当なところで切り上げて引き返せ。俺たちは目的さえ果たせばそれでいい」
「そうはさせない」
 長谷部は銃の引き金を引いた。バン! と銃弾がシノビを貫通する。
「ちっ!」
 シノビはするすると後退していく。
「お前たちが何を企んでいようが、そんな試みは失敗に終わる。こんな大惨事を引き起こしておいて、逃げおおせると思うのか」
 エリニーの言葉に、サムライの女はからからと笑った。
「あんたには到底あたしらを追うのは不可能だよ。姿を消すのは、そんなに難しいことじゃない」
「逃がさんぞ」
 エリニーが踏み込むと、女サムライは後退して行く。

「どう輝夜。何か聞こえる?」
 水鏡の問いに、輝夜は肩をすくめる。
「呼吸音は聞きとれるが、正確なところは測りかねるの」
「陽動はうまく行っているのかな」
 焔は輝夜に言うと、輝夜は吐息する。
「赤龍党と言うらしいが、よく訓練されているのか、ほとんど手掛かりを言わない」
「赤龍党?」
 橘は驚いたように輝夜を見た。
「知っているのか」
「ああ。昨年逃がした人切りの賊だ」
「いずれにしても、どこかで突入しないと始まらんの」
「では行こう――」

 上空から様子を見守っていた貴政は、賊の一人が外に出てきたのを見計らって急降下する。
「そろそろ行きますか」
 貴政は飛び降りると、その女志士に撃ち掛かって行く。
「やあこんにちは盗賊さん」
「まだいたのか開拓者――」
「女性のお相手は歓迎するところですよ。こんな状況でもね」
「そう? それなら少し付き合ってもらいましょうか開拓者」
 女志士はするすると切りかかって来た。
 貴政は素早く後退しつつ斬撃を弾き返した。盾で女のみぞおちに一撃食らわせる。
「降参するんですね。勝ち目はありませんよ」
「まだまだ甘いな――」
 女志士は加速した。貴政の刀を弾き飛ばして、後方へ飛びすさる。
「お前の相手をしている時間は無い」
「そうですか」
 貴政は言いつつ、屋敷の中へ飛び込んだ。

「絵梨乃!」
「朱麓ねぇ――!」
 広間で鉢合わせした開拓者たちは、同時に、盗賊集団のボスとも相対する。
「赤龍、やはりお前か」
 エリニーは、赤龍党の一団を見て、呼吸を整える。
「全く‥‥いつもいつも邪魔してくれるね開拓者たちは。去年とは桁違いに強くなったなお前らも」
「どない理由でも子供やないんやから、ものの分別ぐらいわかるあるやろ」
 鬨はそう言うと、氷華は笑い、赤龍はひたと睨み返してきた。
「邪魔する者は殺す。それだけだ」
 赤龍は刀を抜き放つと、凄絶な剣気を叩きつけてきた。ざわりと、開拓者たちの肌を殺気が撫でる。
 朱麓は赤龍に言葉をぶつけた。
「跋扈王、もしくはその背後に居る黒幕‥‥橘の名で呼ぶっつーことはその辺りかい? 下級クラスと仲良くってタマじゃなさそうだしねぇ、あんた」
「‥‥‥‥」
「人質はどこだ!」
 焔が前に出ると、赤龍は刀を少し下した。部下に合図を送る。
 ふすまが開いて、里長一家が連れてこられた。
「武器を捨てろ」
 赤龍は冷たい声で言った。
 開拓者たちは顔を見合わせ、武器を構え直した。
「ここでお前たちを切って、民の供養とする」
 橘の言葉に、赤龍は「そうか、橘」と笑みを浮かべた。
「攻撃する時には隙ができるあるどすんで、そん時に強力な一撃をくらわせてあげるあるどす。どないしやす」
 鬨は赤龍たちに銃を向けると、敵を牽制する。
 緊迫した空気が張り詰める。次の瞬間、賊たちの背後から貴政が飛び込んできて、人質を押さえている賊に切り掛かった。
「行け行け!」
 開拓者たちは一気に突っ込んだ。
 室内は混乱状態に陥る。乱戦となり、賊と開拓者たちは激しく打ち合う。
 焔は人質の確保に向かって駆け抜けた。その背後から、衝撃が来た。
「ぐ‥‥あ‥‥!」
 焔は膝を突いた。氷華の一撃だ。
「助けて!」
 人質の里長一家はパニックに陥って叫んだが、次の瞬間氷華に次々と斬り殺された。
「くそ‥‥! やめろ!」
 焔は氷華に飛び掛かった。激突して床を転がる。
「邪魔をするな開拓者! 畜生! これでしばらく姿を消せるはずだったのに!」
 激戦の末に、赤龍党の賊たちは数を減らしていく。三人が開拓者たちに討ち取られた。
「ちっ‥‥全く。ここまでやられるとは‥‥」
 赤龍は周囲に目を向けると、橘目がけて突進した。赤龍の一撃を、橘は反転して弾き返した。
「死ね橘!」
「そうはいかないある!」
 赤龍の側面から、鬨が飛びかかった。短剣で赤龍の脇腹を刺した。
「く‥‥何‥‥」
 赤龍は鬨を突き飛ばすと、反転して部屋から飛び出した。
「赤龍様!」
 氷華は狼狽の声を上げて、歯噛みすると、その場から逃走した。
「拙い――! 撤退だ! 計画は失敗! 逃げるぞ!」
 赤龍党の面々は次々と逃げ出していく。
 水鏡は泰拳士を一人ダウンさせたところで、状況を確認する。
「連中が逃げる。我は追うぞ」
「輝夜さん! 待って下さい!」
 輝夜に貴政、焔は龍を呼び寄せると、賊を追撃した。

「あれは‥‥」
 里の外れから飛び立つ飛空船を確認して、輝夜たちは上空で静止する。
「奴ら、飛空船で逃げる気か。周到だな」
「本格的な追撃は無理じゃな。こちらも準備が足りぬ」
「追うのは危険ですよ輝夜さん」
 開拓者たちは逃走する赤龍党の船を見送った。

 里長の屋敷では、捕縛した赤龍党の一人を、橘が尋問していた。
「どうせお前は斬首だ。死ぬ前に本当のことを話したらどうだ」
「お前だよ橘。今回の計画はお前が狙いだった」
 賊は笑った。
「お前一人を片づけるために、早菜の里の民は死んだ。呪うべき運命だな」
「お前たちの依頼人は誰だ」
「そんなことは話せない。地獄へ落ちろ橘。家族のところへ行け」
「何だと貴様――」
 橘はその瞬間爆発して賊の首を万力で締め上げた。
「待つある橘」
 鬨が橘を必死に抑えつけた。
 しかし橘はもの凄い力と形相で賊の首をへし折りかけた。
「橘、やめるある!」
 鬨が叫んで、橘の理性を寸でのところで呼び起こした。
「くそ――!」
 橘は賊を突き飛ばすと、少し開拓者たちから離れた。
「お前は奉行所に引き渡す。立て」
 エリニーは言って、賊を引っ立てた。
「里のことは興志王に報告すべきだろう。これだけの事件だ」
 そうして、開拓者たちは朱藩の首都への道を戻っていくのだった。