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■オープニング本文 天儀本島朱藩国上空を通過する中型飛空船があった。飛空船の中には、武装した一団が搭乗していた。彼らの名を赤龍党と言い、赤龍と言うサムライをリーダーに持つ全員志体持ちの賊集団であった。潤沢な装備と飛空船まで備えた彼らは、普通の賊とはわけが違う。それに、彼らは確実な情報も手に入れていた。これから向かう朱藩の里のことは、里長よりも通じていた。 「赤龍様、間もなく里に着きます」 「こんなこと一体何事かねえ。たった一人始末するために。俺たちは仕事をするだけだが‥‥」 赤龍の言葉に、氷華と言う名の美しい女剣士が答える。 「赤龍様、これが終わったら、しばらく姿を消すことが出来るのでしょうか」 「それは俺たちが決めることじゃない。そう願いたいものだが」 舵を取る男が口を開いた。 「里に入ります。今のところ予定通りです」 「よし、準備を整えろ」 そうして、賊たちは準備に取り掛かり始めた。 早菜の里は、人口200人程度の小さな里だった。どこにでもあるような内陸の里で、人々は農業を営んでいた。里の志体持ちと言えば里長の一家と少しの家来だけだった。 赤龍党のメンバーは、里へ入り込むと里長の屋敷へいとも容易く入り込んだ。地図は彼らの頭に入っていた。 白昼、武装した赤龍たちの姿を見て、使用人たちは悲鳴を上げた。 「な、何ですかあなたたちは!」 次の瞬間、使用人の首は赤龍の刀で切り飛ばされた。 「ひ、ひい!」 うろたえる使用人たちを次々と切り捨てて行く赤龍たち。 「あっちよ! 里長と家族を捕えるのよ!」 氷華は部下を率いて、素早く移動する。 「何者だお前たちは!」 「見つけたわ里長」 氷華は、里長を追い詰めて行く。 「父上!」 「あなた!」 「家族に手を出すな!」 赤龍党のメンバーは四方から里長一家を追い詰めて行く。 「里長――」 赤龍が姿を見せる。 「言う通りにすれば、危害は加えない。だが、抵抗すれば命は無い」 「これでも食らえ!」 赤龍の背後から、家来の一人が銃弾を叩き込んだ。が、赤龍は素早く弾道から逃げると、その砲術士を一撃で切り殺した。 「分かっただろう。俺たちを甘く見るな」 「要求は何だ。金などこの里にはないぞ」 「欲しいのは金じゃない。風信機を使え。開拓者ギルドの橘鉄州斎(iz0008)に依頼を出せ。山賊の集団に襲われて捕まった。身代金を要求されている。自分はどうにか逃げ延びたが、家族が捕まっている。興志王の兵がやってくれば家族は殺される。今頼れるのは開拓者ギルドしかない、とな」 「一体何が目的なんだ」 「お前たちは知る必要は無い。助かりたければ言うとおりにしろ。すぐに行動するんだ」 「わ、分かった」 そうして里長は、神楽の都の橘へ助けを求める依頼を出した。 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
井伊 貴政(ia0213)
22歳・男・サ
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
輝夜(ia1150)
15歳・女・サ
朱麓(ia8390)
23歳・女・泰
ウィンストン・エリニー(ib0024)
45歳・男・騎
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰 |
■リプレイ本文 「里長、ギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)だ。こっちは開拓者たち――」 「今回は‥‥このような事態になり、私も言葉が無い」 橘の言葉に、里長は沈痛な表情を見せた。 「里の状態はどんな感じですか? 犠牲者は出ていないとのことですが‥‥」 井伊 貴政(ia0213)の問いに、里長は吐息した。 「賊たちに荒らされて里はひどい有様ですが、幸い犠牲は出ていません」 「賊の様子はどうです? 風体や武装状況とか、詳しく教えてもらえると助かるんですがね」 「‥‥風体はよく覚えていないんだ。何しろあっという間の襲撃だったからな。武装はこれと言って変わったところは無い。刀とか斧とか、軽鎧を着こんでいる」 「そうですか‥‥では、人質が捕らわれている里長邸の間取りとか、室内の広さなど、詳しく教えてもらえますか?」 「ああ‥‥書いた方が早いだろう」 里長はそう言うと、地面に間取り図を書き始めた。開拓者たちは、里長の説明を受けながら、屋敷の間取りを頭に叩き込んでいく。 「動機がはっきりせいへんと、どうも戦い難いあるどす」 華御院 鬨(ia0351)は独り言を云って考え込む。それから鬨は、続いて里長に里の地図――抜け道などがないかも詳しく――を書いてもらう。開拓者たちは情報を共有する。 「橘さん」 「何だ」 「一応、変装してもらえるあるか。何か気になるある」 「僕からもお願いします。橘さんを名指しで依頼してきたというのは、少し気になるのですよ」 「考え過ぎだろう。ただの盗賊だぞ」 「橘さん――」 「分かった分かった。少し編み笠を深めにかぶっておこう」 「今回は人が相手か、アヤカシであれば気楽にいけるが。だが、悪事を許す訳にはいかない」 「全くですね。一応里を落としたようですし、気をつけて行かないと」 焔 龍牙(ia0904)の言葉に水鏡 絵梨乃(ia0191)は頷く。 「我々が到着するまで、人質が無事であればいいがの。何はともあれ、手早く片づけたいところじゃ」 輝夜(ia1150)が言うと、朱麓(ia8390)は小さく肩をすくめた。 「あたしも少し気になるんだけどね。名指し依頼ってのは、アヤカシ、橘家襲撃‥‥ふーむ。どうもその辺りかなぁ」 「朱麓、お前まで何言いだすんだ」 「まあ、気になるってだけだけどね。確信があるわけじゃないさ」 朱麓の言葉に、橘は肩をすくめた。 「実は俺も少しに気にはなっているんだがね。確かに確信はないがね」 ウィンストン・エリニー(ib0024)の言葉に、橘は吐息した。 「死人が出ていないそうですからね。今のところは。志体持ちも少ないそうですし、まあこれ以上の被害が出る前に終わらせてしまいましょう」 長谷部 円秀 (ib4529)が言うと、橘は頷いた。 「では、里の中へ案内してくれるか」 「ああ‥‥こっちだ」 里長は周りを見渡しながら歩き出した。 「里長様――!」 林から、ぼろぼろになった民が駆け寄って来る。 「りつ、無事であったか」 「‥‥里はもう‥‥」 「いいから、隠れているんだ。今は、奴らに見つかるとまずい」 「‥‥里長様‥‥どうしたらいいか‥‥あの子たちを失って‥‥」 水鏡は首を傾げる。 「民に被害は出ていないんじゃないですか?」 「い、いや‥‥」 そこで、龍で偵察に出ていた貴政と焔が上空から戻って来る。 「みなさん、大変です」 「里の中はひどい有様だぞ。そこら中死体だらけだ。一体どうなってるんです里長」 焔は里長に詰め寄った。 「わ、私は‥‥何も言えない」 「里長――!」 「この通りだ! 助けてくれ!」 里長は地面に頭をこすりつけると、開拓者たちにひれ伏した。 「頭をお上げ下さい里長」 長谷部が手を差しだすと、里長は、 「私は何も言えない、が、屋敷に賊たちはいる。そこまでは案内する。頼む、助けてくれ」と涙ながらに訴える。 「とにかく、里の様子を探ろう」 水鏡は仲間たちを振りかえると、開拓者たちは用心しいしい里の中へと踏み込んだ。 「これは‥‥」 水鏡は絶句した。あちこちに血溜まりが出来ていて、鮮血が壁に飛び散っている。そして、惨殺された村人たちが地面に横たわっている。 「な、何なのこれ‥‥皆殺しじゃないか」 「ひどいな‥‥」 橘は里を見渡して、冷たい瞳で状況を観察した。 「一体何事あるか。これは。とても人間の仕業とは思えんある。橘?」 「ああ‥‥」 鬨は血の匂いに胸がむかついてきた。 「むぅ、なんということじゃ。聞いていた情報とはかなりの相違があるようじゃの」 輝夜は言って、超越聴覚で音を拾っていた。――静かだ。 「音が無い。その賊とやら、何人いるのじゃ里長。本当のところは」 「そ、それは‥‥」 「言えないのか」 「すまない」 「だが屋敷までは案内すると言った。屋敷で奴らは待ち受けておるのじゃろ」 「‥‥‥‥」 朱麓は、冷たい瞳で、里の中を見渡していた。 「まだこんな年端もいかない者まで‥‥酷い‥‥酷過ぎだ。人間じゃないこいつら」 朱麓は、その亡骸に手を合わせると立ち上がった。 「橘を指定で取引とは何やら因縁でろうか‥‥ふむ、去年夏の事を思い浮かべるが」 エリニーは、言って昨年のことを思い出した。ギルドで依頼を受けた回数が少ないエリニーにとって、昨年夏の橘と引き受けた依頼は印象に残っている。あの時も、多くの民が斬り殺された。 「外道を斬るのに呵責は不要、今宵は修羅のごとく振舞おう」 長谷部は感情を押さえて、吐息する。 「人が相手とはいえ外道の所業、手加減する理由が見つかりません。多少冷酷かもしれませんが、容赦なく斬り捨てましょう」 屋敷の上空を飛び回っていた焔は戻って来る。 「妙だな、人数が合わない! 連絡では50人はいるはずだが‥‥どう見ても恐らく10数名。どこか離れた場所に隠れているのか、それとも依頼自体が偽物なのか、どう見る鉄州斎殿」 「こいつは間違いなく罠だろうが‥‥と言って今更引き返せるものでもない。みんな屋敷の地図は叩き込んでいるな。踏み込むぞ」 「気を引き締めて掛からねばの。恐らく向こうは中からこちらの動きを見張っている可能性が高い。それに人質もいるとなれば」 輝夜の言葉に、開拓者たちは頷く。 「では僕は上空から入ります。状況は確認しておきます」 貴政は言うと、もう一度龍に乗って空へ舞い上がった。 「後はお願いする。中にいる連中は里の仇であり、羅刹のような連中だ。気をつけて‥‥」 里長は開拓者たちに言葉を述べようと前に出た。――次の瞬間、屋敷から矢が立て続けに飛んできて、里長の首を切り裂いた。どうっと倒れる里長。 「里長!」 朱麓は里長を助け起こしたが、手遅れなのは一目で分かった。里長は程なくして息を引き取った。 「許さない‥‥こんなこと」 水鏡はきっと屋敷を睨みつけた。 「どうやら向こうは待ちくたびれているようあるな」 鬨はそう言うと、ジェスチャーで仲間たちに合図を送った。敵にシノビがいれば、会話は聞きとられる可能性がある。 「では私たちは東の通用口から入りましょう」 長谷部は頷き、朱麓とエリニーに目を向けると、反対方向の西側へ回って行く。 橘に水鏡、焔に輝夜は裏口へまわって行く。 「さて、では始めるあるか」 鬨は、そう言って橘のあとから乗りこんで行った。 屋敷の中はふすまが閉ざされて、視界を遮っていた。 「おい賊ども! あんたらを打ち果たしに来てやったよ! この外道ども! 出てきな!」 朱麓はふすまを吹き飛ばして室内へ先陣切って飛び込んだ。後にエリニーと長谷部がすぐに死角をカバーする。 不気味なまでの静寂と沈黙が彼らを迎える。 三人は頷くと、一斉に周囲のふすまを吹き飛ばした。 つかの間の静寂から、三人の側面を突いて賊たちが姿を見せた。 「来たよ!」 賊たちは無言で突進してくる。 朱麓は一撃弾き返して、矛を撃ち込んだ。――キイイイイン! と弾かれる。 「あんたは――!」 朱麓はその顔に見覚えがあった。昨年の夏、エリニーとともに引き受けた依頼で出会った賊集団、赤龍党の女剣士だ。名を氷華と言った。 「ほう‥‥貴様か、これは面白くなってきた」 氷華は刀を構えると、すうっと踏み込んできた。 朱麓は間合いを図って攻撃を繰り出す。二人は激しく撃ち合った。 「同じ女志士なのに何でこんな下らない戦いになるかなぁ。‥‥ね、何でか分かる氷華?」 「それはお前が開拓者だからだ。開拓者と私では、見ているものがまるで違う」 「そいつは大した詭弁だね。随分偉く出たもんだ」 長谷部はシノビと打ち合っていた。 「外道だが相当出来るな」 「開拓者、お前たちに用は無い。本気で殺し合うのも愚かと言うものだ。適当なところで切り上げて引き返せ。俺たちは目的さえ果たせばそれでいい」 「そうはさせない」 長谷部は銃の引き金を引いた。バン! と銃弾がシノビを貫通する。 「ちっ!」 シノビはするすると後退していく。 「お前たちが何を企んでいようが、そんな試みは失敗に終わる。こんな大惨事を引き起こしておいて、逃げおおせると思うのか」 エリニーの言葉に、サムライの女はからからと笑った。 「あんたには到底あたしらを追うのは不可能だよ。姿を消すのは、そんなに難しいことじゃない」 「逃がさんぞ」 エリニーが踏み込むと、女サムライは後退して行く。 「どう輝夜。何か聞こえる?」 水鏡の問いに、輝夜は肩をすくめる。 「呼吸音は聞きとれるが、正確なところは測りかねるの」 「陽動はうまく行っているのかな」 焔は輝夜に言うと、輝夜は吐息する。 「赤龍党と言うらしいが、よく訓練されているのか、ほとんど手掛かりを言わない」 「赤龍党?」 橘は驚いたように輝夜を見た。 「知っているのか」 「ああ。昨年逃がした人切りの賊だ」 「いずれにしても、どこかで突入しないと始まらんの」 「では行こう――」 上空から様子を見守っていた貴政は、賊の一人が外に出てきたのを見計らって急降下する。 「そろそろ行きますか」 貴政は飛び降りると、その女志士に撃ち掛かって行く。 「やあこんにちは盗賊さん」 「まだいたのか開拓者――」 「女性のお相手は歓迎するところですよ。こんな状況でもね」 「そう? それなら少し付き合ってもらいましょうか開拓者」 女志士はするすると切りかかって来た。 貴政は素早く後退しつつ斬撃を弾き返した。盾で女のみぞおちに一撃食らわせる。 「降参するんですね。勝ち目はありませんよ」 「まだまだ甘いな――」 女志士は加速した。貴政の刀を弾き飛ばして、後方へ飛びすさる。 「お前の相手をしている時間は無い」 「そうですか」 貴政は言いつつ、屋敷の中へ飛び込んだ。 「絵梨乃!」 「朱麓ねぇ――!」 広間で鉢合わせした開拓者たちは、同時に、盗賊集団のボスとも相対する。 「赤龍、やはりお前か」 エリニーは、赤龍党の一団を見て、呼吸を整える。 「全く‥‥いつもいつも邪魔してくれるね開拓者たちは。去年とは桁違いに強くなったなお前らも」 「どない理由でも子供やないんやから、ものの分別ぐらいわかるあるやろ」 鬨はそう言うと、氷華は笑い、赤龍はひたと睨み返してきた。 「邪魔する者は殺す。それだけだ」 赤龍は刀を抜き放つと、凄絶な剣気を叩きつけてきた。ざわりと、開拓者たちの肌を殺気が撫でる。 朱麓は赤龍に言葉をぶつけた。 「跋扈王、もしくはその背後に居る黒幕‥‥橘の名で呼ぶっつーことはその辺りかい? 下級クラスと仲良くってタマじゃなさそうだしねぇ、あんた」 「‥‥‥‥」 「人質はどこだ!」 焔が前に出ると、赤龍は刀を少し下した。部下に合図を送る。 ふすまが開いて、里長一家が連れてこられた。 「武器を捨てろ」 赤龍は冷たい声で言った。 開拓者たちは顔を見合わせ、武器を構え直した。 「ここでお前たちを切って、民の供養とする」 橘の言葉に、赤龍は「そうか、橘」と笑みを浮かべた。 「攻撃する時には隙ができるあるどすんで、そん時に強力な一撃をくらわせてあげるあるどす。どないしやす」 鬨は赤龍たちに銃を向けると、敵を牽制する。 緊迫した空気が張り詰める。次の瞬間、賊たちの背後から貴政が飛び込んできて、人質を押さえている賊に切り掛かった。 「行け行け!」 開拓者たちは一気に突っ込んだ。 室内は混乱状態に陥る。乱戦となり、賊と開拓者たちは激しく打ち合う。 焔は人質の確保に向かって駆け抜けた。その背後から、衝撃が来た。 「ぐ‥‥あ‥‥!」 焔は膝を突いた。氷華の一撃だ。 「助けて!」 人質の里長一家はパニックに陥って叫んだが、次の瞬間氷華に次々と斬り殺された。 「くそ‥‥! やめろ!」 焔は氷華に飛び掛かった。激突して床を転がる。 「邪魔をするな開拓者! 畜生! これでしばらく姿を消せるはずだったのに!」 激戦の末に、赤龍党の賊たちは数を減らしていく。三人が開拓者たちに討ち取られた。 「ちっ‥‥全く。ここまでやられるとは‥‥」 赤龍は周囲に目を向けると、橘目がけて突進した。赤龍の一撃を、橘は反転して弾き返した。 「死ね橘!」 「そうはいかないある!」 赤龍の側面から、鬨が飛びかかった。短剣で赤龍の脇腹を刺した。 「く‥‥何‥‥」 赤龍は鬨を突き飛ばすと、反転して部屋から飛び出した。 「赤龍様!」 氷華は狼狽の声を上げて、歯噛みすると、その場から逃走した。 「拙い――! 撤退だ! 計画は失敗! 逃げるぞ!」 赤龍党の面々は次々と逃げ出していく。 水鏡は泰拳士を一人ダウンさせたところで、状況を確認する。 「連中が逃げる。我は追うぞ」 「輝夜さん! 待って下さい!」 輝夜に貴政、焔は龍を呼び寄せると、賊を追撃した。 「あれは‥‥」 里の外れから飛び立つ飛空船を確認して、輝夜たちは上空で静止する。 「奴ら、飛空船で逃げる気か。周到だな」 「本格的な追撃は無理じゃな。こちらも準備が足りぬ」 「追うのは危険ですよ輝夜さん」 開拓者たちは逃走する赤龍党の船を見送った。 里長の屋敷では、捕縛した赤龍党の一人を、橘が尋問していた。 「どうせお前は斬首だ。死ぬ前に本当のことを話したらどうだ」 「お前だよ橘。今回の計画はお前が狙いだった」 賊は笑った。 「お前一人を片づけるために、早菜の里の民は死んだ。呪うべき運命だな」 「お前たちの依頼人は誰だ」 「そんなことは話せない。地獄へ落ちろ橘。家族のところへ行け」 「何だと貴様――」 橘はその瞬間爆発して賊の首を万力で締め上げた。 「待つある橘」 鬨が橘を必死に抑えつけた。 しかし橘はもの凄い力と形相で賊の首をへし折りかけた。 「橘、やめるある!」 鬨が叫んで、橘の理性を寸でのところで呼び起こした。 「くそ――!」 橘は賊を突き飛ばすと、少し開拓者たちから離れた。 「お前は奉行所に引き渡す。立て」 エリニーは言って、賊を引っ立てた。 「里のことは興志王に報告すべきだろう。これだけの事件だ」 そうして、開拓者たちは朱藩の首都への道を戻っていくのだった。 |