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■オープニング本文 ある日の開拓者ギルド――。 旅装束のシノビがギルドを訪れた。シノビは女で、名を榊原奈美と言った。武天国に雇われて敵に関することを中心に諜報活動を行っているその道の人間である。表立って活動することは無いが、国のためにギルドを頼ることはある。 「すいません、相談役の‥‥さんと約束があるんですけど」 奈美は受付のギルド員に言って、その相談役を呼んでもらった。 彼がやってくると、奈美は「どうも」と言って笑みを浮かべた。 「鉄州斎は非番だと聞いて、あなたに相談が‥‥」 そこで、奈美の後ろから、同じくギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)がやってきた。 「奈美?」 橘の声に、奈美は驚いたように振り返った。 「あら、鉄州斎」 「久しぶりに元気そうな姿を見たぞ。仕事か」 「今日は非番じゃないの」 「ちょっとな、仕事を片付けに来ただけだ」 実は橘と奈美は同郷の幼馴染で、仕事の上では古い付き合いだった。 「何の話なんだ」 橘の問いに、二人は気まずそうに視線を逸らした。 「何だ。何かあるのか」 「鉄州斎、お前は休んでろ」 もう一人の相談役の言葉に、橘は怪しんで奈美を見た。 「仕事だろ。何を隠すことがあるんだ。最近じゃアヤカシの動きも活発になっている」 「鉄州斎‥‥これは‥‥あなたにとっては個人的なことだから」 「どういう意味だ。二人とも何を隠してるんだ」 「跋扈王だ」 もう一人の相談役が観念したように言った。橘はその名前を脳裏で反芻した。昨年夏、跋扈王と言うアヤカシは、橘の故郷を滅ぼし、彼から家族を奪った。 「何だと?」 「ねえ、鉄州斎、やっぱりこれは‥‥」 「跋扈王が絡んでいるから俺に内密で処理しようっていうのか。その依頼は俺が受ける。奴はどこに姿を見せる」 奈美は吐息して重々しく口を開いた。 「鳳華よ」 天儀本島武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。 頭首の龍安弘秀は、筆頭家老の西祥院静奈と家老の水城明日香とともにいた。奈美からの警告を受けていた彼らは、跋扈王への対策を検討していた。 「奈美の情報によると、敵の数は百体程度。死人剣士が主力だそうです。中に10体程度強力な骸骨兵がいるようです。跋扈王は昨年の夏以来も時折目撃されてきましたが、これだけの攻撃を引き起こすのはそれ以来です。今回狙われる可能性があるのは、若菜の里。跋扈王は恐らくいつでも攻撃できる態勢にあると思われます」 明日香の言葉を聞いて、弘秀は最初に確認した。 「例のシノビだが‥‥榊原だったか、信頼できるのか」 「奈美は信頼出来るシノビです。ご安心ください」 西祥院は言った。 「ここ最近油断のならない事件が続いているからな。本来なら情報源を知りたいところだが」 「それは奈美の口からは言えないでしょう」 「そうだろうが‥‥。今度は里への被害を食い止めないと」 「部隊は送り込みました。里長には警戒態勢を取るように伝えてあります」 そこへ、家老のシノビ、赤霧がやって来た。 「お屋形様」 三人は、赤霧の鋭い声に視線を向けた。 「始まりました。跋扈王の軍勢が魔の森から出現、里へ攻撃を開始しました――」 ‥‥魔の森の奥地で。 黒い鎧に身を包んだそのアヤカシ、亡王奈落が、漆黒の龍のアヤカシにまたがった。 『行くぞ』 亡王奈落がアヤカシの言葉で命じると、魔の森から、龍にまたがった十数のアヤカシ戦士が飛び立った。 |
■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213)
22歳・男・サ
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
朱鳳院 龍影(ib3148)
25歳・女・弓
黒霧 刻斗(ib4335)
21歳・男・サ |
■リプレイ本文 戦闘開始前――。里に到着した開拓者たちは、龍安兵たちと合流する。 「まあ‥‥幽霊家臣として僕もお役にたてればなあとね‥‥」 赤い一撃こと、井伊 貴政(ia0213)は、喧騒を増す前線に立って、魔の森の方を見やる。 「貴政殿」 「はい?」 「お久しぶりです。私を覚えておいでですか」 「いえ、あいにく。どこかでお会いしましたか」 貴政が問うと、女サムライは頷いた。 「昨年の鳳華の魔将たちとの戦いで、あなたに命を救われた。中塚里奈と言います」 里奈は手を差しだすと、笑顔を向けた。 「そんなことがあったら忘れるわけは無いんですけどね〜」 貴政は握手を交わすと、肩をすくめてみせた。 「あの時は大変でしたから‥‥無理もありません。またともに戦えるのは嬉しく思います。いつかお礼を言いたいと思っていました」 里奈は小さくお辞儀すると、踵を返した。 「今回も任務を全うする様に務めさせていただきやす‥‥」 と橘鉄州斎(iz0008)に真面目に意気込みを語る華御院 鬨(ia0351)。 「鬨、この間はすまなかったな。俺は全く理性を失ってしまった。あいつの言葉に、忍耐が切れた」 「今日はしっかりすることどすな‥‥」 「ああ、跋扈王は仇だが、この里を守ることに集中しないとな」 「橘さん、今日は跋扈王を撃破することに集中して行きましょう。みんな全力を尽くす」 焔 龍牙(ia0904)が言うと、鬨も頷いた。 「油断できん相手どすからな‥‥」 「ここで確実に仕留めておきたいところです」 「死者を率いて生者を襲うなんて神話に出てくる神さんだな。小規模? ‥‥殺戮に大きいも小さいもあるもんか」 焔の幼馴染の滝月 玲(ia1409)がいた。 「玲、跋扈王は相当な使い手のようだ。厳しい戦いになるだろう」 「龍牙さん、俺もここで戦うのは久しぶりだけど、相変わらず危険は去っていないようだね」 「全くですね‥‥ここは魔の森と隣接しているから、いつでもアヤカシの脅威と隣り合わせだ」 と、そこへ貴政がやってくる。 「いや〜ここでもまた運命的な出会いが待っていました」 「何ですって?」 滝月は貴政を見やり、首を傾げた。 「いえ、何でもありませんよ。それにしても、敵はすぐにでも出てくるそうですが」 「そのようです」 玲璃(ia1114)は戦場を見渡し、思案顔。 「跋扈王軍との戦いで負傷したお味方の治療と特殊能力への抵抗支援に尽力します。作戦は決定しましたか」 「相談していたものが現地指揮官に受け入れられれば、決まりですがね」 「今回は里を守る形で迎撃し撃退できれば御の字と思われます」 コルリス・フェネストラ(ia9657)はそう言うと、跋扈王迎撃の流れを仲間たちと確認する。 「あくまで一案ですが」 と前置きし作戦案を提示するが判断は龍安軍指揮官や仲間達に任せる。 作戦案: 3方向に分かれ里を守る形で迎撃し里の人々も守る。 敵A集団は距離をおく弓矢攻撃を多用し足止め重視。 その間に敵B・C集団へ 対B班・対C班が迎撃に回り各個撃破。 B・C集団撃破後は 一部が念の為里防衛に回り、 残りの対B班、対C班は跋扈王のA集団へ向かい 対A班と連携し、跋扈王のA集団を挟撃し撃退に追い込む。 敵撃退後は里の人達の救護と周囲警戒にあたる。 「‥‥予定どおりじゃの。その方針でいいじゃろう。コルリスは龍安軍と掛けあってくるのじゃ」 朱鳳院 龍影(ib3148)が言うと、コルリスは仲間たちを見渡す。 「それじゃ、龍安軍との確認に行きましょうか。俺もコルリスさんと行きましょう」 焔が進み出ると、コルリスと一緒に陣中へ入っていく。 「指揮官は誰だ」 焔が言うと、サムライ大将の男が進み出て来た。 「大村だ。開拓者だな。話は聞いている」 「焔だ、こっちはコルリスさん」 「それで」 「跋扈王の迎撃の作戦について、確認しておきたい」 「ああ、指揮権は開拓者にもある。良い案があるなら聞かせてくれ」 大村の言葉に、コルリスは切り出した。大村はコルリスの話を聞き、頷いた。 「敵は魔の森から出て、三つの集団に分かれている。こちらも三つに分かれて迎撃するしかあるまいな」 大村は作戦を了解すると、指揮下のサムライたちを集めて、作戦を説明する。 「しかし、この地には色々といるものじゃの。‥‥死人とは気持ちがわるいのう。この、龍王自ら成仏させるべきじゃな」 朱鳳院は陣中を歩きながら、兵士たちの武器を確認していた。 「どれ――」 武器に損傷がないかチェックする。 「武器も生物じゃからの。手入れもしなければ使えるものも使えなくなるからの」 兵士の刀を抜くと、刃こぼれしていないか確認する。 「まあ、俺たちもなまくらは使わないさ。いつでも手入れはしている」 「そのようじゃの」 「決まりだ――」 焔が戻って来ると、仲間たちに、作戦が確認されたと伝える。 「いよいよですね」 「では私はお味方の指揮を執らせてもらいましょう」 玲璃は現地指揮官に巫女達を指揮させてくれるよう願い出ると、軍の巫女達に挨拶して回る。 「私も可能な限り神楽舞『護』で御味方の抵抗を上げ、跋扈王の特殊能力に対抗できるよう尽力しますが、恐らくお味方の負傷治療で手一杯となると思われますので皆様にはお味方を支援する神楽舞、特に抵抗を上げるものを御味方に付与して回る事で戦闘支援をお願いします」 「了解しました玲璃様」 「あの、玲璃様って男性ですよね」 娘の巫女が尋ねるので、玲璃は首を傾け、「そうですが」と頷く。 「い、いえ。噂通りお綺麗だなあと思って」 「それは褒め言葉と思っておきましょうか」 「す、すみません!」 「いいんですよ。気にしないで」 玲璃は軽く笑うと、巫女たちの指揮に回る。 ‥‥魔の森から出現したアヤカシの軍勢は、三方向から若菜の里へ攻撃を開始する。 「さて‥‥龍安軍は出て来たようだが。あの方のお考えは分からんな。何ゆえ私を呼び戻したのか‥‥」 美しい青年の姿をした鎧武者――跋扈王は、不敵な笑みを浮かべると、死人兵を前進させる。 「まあ良いわ。私とてただ攻めるだけでは面白くない。こんな大掛かりな攻めを行う機会はそうそうない」 跋扈王は咆哮すると、死人兵とともに里へ殺到した。 「来るぞ玲! アヤカシ兵士二十から三十と言うところか」 「良し行くぞみんな! 若菜は生者の里だ! 死人たちの好き勝手にさせるなよ!」 焔と滝月の号令とともに兵士達は咆哮を叩き付ける。 「里に死人どもを近づけるな! 掛かれえ!」 加速する龍安軍とともに、焔は突進して行った。最初の一撃で骸骨兵士を叩きつぶした。 「カカ!」 そこへ鋭い一撃が飛んでくる。焔は弾いた。 「噂に聞く上位の骸骨武者か!」 焔は太刀を構えると、じり‥‥と間合いを詰める。 「これ以上は行かせん! ここで叩きつぶす!」 「カカアッ!」 骸骨武者はするすると切りかかって来る。一撃、二撃、と弾いて、焔は骸骨の腕を切り落とした。悲鳴を上げてよろめく骸骨。 「容赦はせん! 簡単に通す訳には行かない、焔龍 炎縛白梅!」 焔は逃げる隙を与えず、骸骨武者の足を叩きつぶした。喚く骸骨を、焔は太刀を振り下ろして粉砕した。黒塊となって崩れ落ちて行く骸骨武者は、瘴気に還っていく。 「逃がしはしない」 滝月は加速すると、骸骨武者との間合いを詰め、斬竜刀を叩き込んだ。骸骨は受け止めようとしたが、そのまま滝月は斬竜刀を振り下ろした。骨が砕ける音がして、骸骨武者の頭部は粉砕された。 それでも、刀を振り回して切り掛かって来る骸骨に、滝月は再度斬竜刀を叩き付けた。骨の胴体にめり込む刀身。 骸骨は咆哮すると、鬼火に変身して逃走を図る。 「逃がすか! 桔梗!」 鬼火を撃ち落とすと、滝月は骸骨を粉砕した。 「まぁ死なない程度に頑張ろうねぇ」 貴政は兵士たちに言いつつ、真っ先に最前線に飛び込んで行った。 「貴政殿に続け!」 里奈は刀を振り上げると、兵士たちに号令を下した。 「続けー! 突撃だ!」 「相変わらず無茶なお人どすな‥‥」 鬨は言いつつも、貴政の後から駆け出した。 「行きますよ〜骸骨さん」 貴政は飄々と言いつつ、骸骨武者に切り掛かっていく。 「カカカ!」 激しく打ち合う。さすがの骸骨武者は雑魚とは違って貴政の攻撃を受け止めた。 「やりますね〜ではこれはどうですか」 貴政は構えを取ると、示現で打ち掛かった。 「カカカ!?」 骸骨武者は受け止めようと構えたが、そのまま腕を打ち砕かれた。 「残念でしたね〜ここまでですよ」 「カカ!」 鬼火に変身して逃げようとする骸骨。飛びかかった貴政は、鬼火を両断した。瘴気に還元して消失する骸骨武者。 「‥‥!」 と無言で骸骨を威圧する鬨。鋭い殺気に、骸骨武者は口許をにんまりと吊り上げた。骸骨の口が半月形にねじ曲がって邪悪な笑みを浮かべる。 次に、骸骨は咆哮して飛びかかって来た。鬨は弾き飛ばすと、天辰を使って斬竜刀を振り下ろした。一撃必殺! 凄絶な一撃が骸骨武者を一刀両断した。 コルリスは鏡弦を適時使用しつつ、敵軍の大まかな位置や数、動きを把握し味方に報告する。 「敵兵の数はおよそ50余り。散開しつつ接近してきます」 「よし! こちらも散開して奴らを迎え撃つ! 他の部隊がやって来るまで持ち堪えるぞ!」 大村は兵士たちを怒鳴りつけると、指示を出していく。 「みなさん、跋扈王とは距離を置いて下さい。敵集団への地帯射撃をお願いします。他部隊が駆け付ければ、たちまちのうちに包囲できるでしょう」 「承知しました!」 龍安軍は射撃を開始する。 「さて。始めるとするかの」 朱鳳院も弓を引き絞ると、鮮烈な矢を放った。死人兵士が一撃で撃ち抜かれる。 コルリスは龍安兵とともに地帯射撃でアヤカシ兵たちを足止めする。 「あそこ――敵集団の真ん中に跋扈王がいます」 コルリスは跋扈王の姿を捉えると、 「朧!」 鷲の目+朧月の合成射撃技を繰り出す 「ふむ、あれがあちらの王か。どっちが王らしいかじゃの。ふふ」 朱鳳院は跋扈王目がけて矢を放った。直撃が跋扈王を貫通する。 玲璃は救護所を最前に近いところに設けると、味方のダメージの回復に努める。 「今回は常に全力で戦えるように支援しますから、傷ついたらここへ来て下さい」 やがて、アヤカシ兵との接近戦になると、ダメージを受けた兵士たちが玲璃のもとへやって来る。 「お願いする!」 「大丈夫です。すぐに回復しますので」 精霊の唄で友軍のダメージを回復させていく。 「玲璃さん――」 巫女の一人がやってくる。 「跋扈王が接近してきます。格闘戦が激しくなりそうですね」 「味方の抵抗を上げるように。跋扈王の妖術は厄介なようですから」 「はい」 「くく‥‥私を倒せるものか‥‥!」 跋扈王は切り掛かって来た傭兵の志士を受け止めると、その腹に刀を突き刺した。跋扈王の刀が貫通する。 「ぐ‥‥は‥‥!」 続いて、跋扈王は切り掛かって来たサムライを切り殺した。 「龍安軍と言えども、私の剣の前では無力。甘いな」 「おいおい。一番最初に死ぬのあんただろッ」 サムライ大将からそんな突っ込みを受けていた貴政は、肩をすくめて戦場を見渡した。 「――みなさん急ぎましょうか。跋扈王が撤退する前に包囲殲滅しないと」 「そうですね」 里奈は厳しい顔で兵士達を見やると、刀を振り上げた。 「‥‥急ぐとするどすか」 鬨も厳しい顔つきで頷いた。 分散していた龍安軍が骸骨武者に率いられた集団を撃破して、跋扈王の側面と背後から包囲網を敷く。 「跋扈王、逃がさん――!」 焔は滝月とともに兵士達に号令を下した。 朱鳳院は近接装備に持ち替え、跋扈王へと向かう。 「我は龍王なるぞ。アヤカシ、分をわきまえよ!」 死人兵は咆哮して朱鳳院に襲い掛かって来るが、朱鳳院はアヤカシ兵を切り捨てた。 ずかずかと前進する朱鳳院。跋扈王と対峙する。 極北+無双で、相手の防御の隙をつく。極北で目の色が紅く光る。 「ふ、龍王にかかればどんな厚き装甲じゃろうと弱点は丸見えじゃ」 二刀の攻撃が跋扈王を捉える。 「くく‥‥私を見くびるな龍安軍」 跋扈王は瞳術を使って、朱鳳院の攻撃を封じた。 「む‥‥」 「くく‥‥どうだ。抵抗できまい。止めを差してやる」 「朧!」 ドカ! とコルリスの一撃が跋扈王の肉体を貫通する。 「そうはいかんぞアヤカシの将!」 焔に滝月が駆けつける。 集団を割って、貴政に鬨、橘もやって来た。 「お前は‥‥橘鉄州斎」 「ようやく貴様を追い詰めたぞ跋扈王」 「成敗する‥‥」 鬨は斬竜刀を構えると、加速した。 「行きますよ」 貴政もするすると加速する。 「ぬう‥‥!」 跋扈王は開拓者たちの攻撃を受けとめたが、続いて焔と滝月が打ち掛かった。 「ちい‥‥!」 太刀「阿修羅」+スキル「炎魂縛武」とスキル「秋水」の連続攻撃で焔の切り札――。 「焔龍 炎秋水!」 「ならば――!」 瞳術を仕掛けるが、龍安軍の巫女たちが神楽舞で支援する。 「やりおるの、龍王の足を止めるとは‥‥が、いつまでも効かぬ」 朱鳳院は裂帛の気合とともに二刀を振り下ろした。跋扈王の腕が飛ぶ。 「ぬおおお‥‥!」 よろめく跋扈王に、開拓者たちは連続攻撃を浴びせかけた。跋扈王はたまらず後退する。 その死角から、滝月が炎魂縛武を施し渾身の力を込め秋水を撃ち込んだ。斬竜刀が跋扈王を貫通する。 滝月はそのまま刀をひねって切り上げた。肉と骨が砕ける音がして、切り裂かれた跋扈王は崩れ落ちた。 「わ‥‥私が‥‥」 やがて、黒い塊となって、瘴気に還元する跋扈王。 アヤカシ兵は崩壊して行く。 「やりましたか」 玲璃は跋扈王撃破の知らせを聞いて、吐息した。 「終わりましたねえ」 貴政の言葉に、里奈は頷いて笑みをこぼした。 そこへ、ぼろぼろの兵士が駆けこんで来る。何事かと大村は問う。 「大事にございます! 避難所が亡王奈落らアヤカシの集団に急襲され、里長一家が誘拐されました!」 「何だと!」 「それじゃ‥‥こっちは囮ですか」 焔は橘を見た。 「大村、里長が攫われた方角を追え」 それから、橘は開拓者たちに声を飛ばす。 「奈美を捕まえるぞ! このことを知っている可能性がある」 「彼女は信頼出来るシノビなんでしょう?」 「だが全てを話していないかも知れん」 「何のために?」 「それを聞きだすんだ。急ごう。まだ鳳華の首都に滞在中なら捕まる――」 橘と開拓者たちは天承に急行すると、奈美が滞在していると言う宿を包囲した。 「そっちは裏から回ってくれ。出口を封鎖してくれ」 そうして、一同は宿に踏み込んだ。 「ここだ。行くぞ。逃がすな」 バン! とふすまを吹き飛ばして、開拓者たちは踏み込んだ。人影が柱にもたれかかっていた。 「奈美!」 反対から突入した焔は、手を上げて、一同を制した。 「駄目だ。橘さん」 「どうした!」 「彼女は死んでる」 「何だと」 橘は奈美の前に屈んだ。 奈美は、喉を切り裂かれて死んでいた。 橘はうめいた。 「何て事だ‥‥」 |