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■オープニング本文 ‥‥男は文を受け取ると、「ご苦労」と言ってその中身を確認した。ちらりと文面を見て、男はその場を離れると、廊下を歩きだした。しばし進んで、男は部屋の前で立ち止まった。 「失礼します」 「入れ」 障子の向こうから、声がして、男は室内に入った。 「恐れ入ります。文が届きました。榊原奈美の件です」 「そうか」 その人物は、男から文を受け取ると、中身を確認した。榊原奈美とは、先日龍安家の鳳華で開拓者に亡くなっているところ発見された武天のシノビであった。 「なるほど‥‥奴はあの女を片づけたか。あの女は真相に辿りついてはいなかったが、目を逸らすには十分だろう」 「それで‥‥我々は」 「何も、後は待つだけだ――」 その人物は、文を握りつぶした。 神楽の都――。 開拓者ギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)は、昼食を済ませてうどん屋から出てくると、賑やかな町並みを歩き出した。 「鉄ちゃん――」 不意に呼ばれた橘は、立ち止まって振り返った。旅装束の娘が立っていた。 「お前‥‥亜紀。何やってんだこんなところで」 「鉄ちゃん‥‥助けて」 「何?」 亜紀は橘家と親交があった家の娘で、鉄州斎ともその昔交流があった。亜紀はその後、武天の旧家に嫁いだと聞いていた。 と、そこへばらばらと編み笠をかぶった一団が姿を見せる。 「見ない顔だな。浪人者か」 「お前のことは知ってる橘鉄州斎。おとなしく女を渡してもらおうか」 「亜紀、どういうことだ」 「夫の使いよ」 「何だって?」 橘は浪人者と亜紀を見やり、 「亜紀、お前、家を飛び出したのか」 「鉄ちゃん、夫は恐ろしい人なの。善人を装っているけど、悪人たちと手を結んで恐ろしいことに手を貸していて‥‥」 「待て待て、厄介事ならここじゃなくギルドで話を聞こう」 「この男たちをどうにかして」 そこで、浪人者たちが、刀に手を掛けると、 「橘、首を突っ込むな。これは我が家の問題だ」 「よお鉄州斎、揉め事か〜」 数人の開拓者たちがぷらぷらとやって来た。 「何だ、どうしたんだよ? 物騒だな。こんな町中でやるってのか」 開拓者たちは面白そうに浪人者たちを見やる。浪人者たちは、後ずさった。 「どっちに付く?」 「そりゃ女の方に付くに決まってるだろう」 「決まりだな。鉄州斎、その御婦人を連れて行け」 「すまん」 橘は亜紀を連れてその場を後にした。浪人者たちの怒号が空しく鳴り響く。 「亜紀、ここじゃなく実家に帰れよ。故郷に助けてくれる人は」 「無理なのよ。身内は夫の報復を恐れていて故郷には帰れない。夫の恐ろしさを分かってないからそんなことが言えるのよ鉄ちゃん」 「‥‥最近事件続きだな」 橘は一人ごちたが、やむを得ず自宅に亜紀を置いて、ギルドへ向かった。 開拓者ギルド――。 「――よお橘。また事件だって? 自宅に亭主から逃げてきた女を連れ込むとはやるねえお前さんも」 同僚の相談役が、面白そうに声を掛けてくる。 「何なら、御婦人の家の捜索、俺がやってやろうか。お前さんじゃ気まずいだろう。その旦那が黒と分かれば‥‥」 「おい」 「そう怒るなって。悪いことは言わないから、そいつの上格に当たる領主にでも手を回してもらえ。そうすりゃ晴れて女も自由の身に‥‥」 「ちょっと橘君――」 びしっと、ギルド員の女性が一枚の依頼書を二人の間に突き出した。 「鳳華の龍安家から依頼が来てるわよ。また亡王奈落が出たって。先に攫われた里長を人質に、奈落があなたの首を要求してる」 橘は同僚と顔を見合わせると、苛立たしげな彼女から依頼書を受け取った。橘は依頼書を読んで吐息した。 「おい、こいつは‥‥くそ、だから奈美は俺を鳳華に近づけたくなかったんだ」 武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。 家長の龍安弘秀は、筆頭家老の西祥院、次席家老の栗原、他、家老の坂本、天本、水城らとともにいた。 再び清奈の里に出現したアヤカシ亡王奈落は、誘拐した若菜の里長一家を人質に、橘の首を要求してきていた。一連の事件がつながりつつあった。 「意見を聞こうか」 弘秀が家老たちを見渡すと、坂本と天本が口を開いた。 「若菜の里長には気の毒ですが、要求に応じるべきではありません。開拓者ギルド相談役の首と引き換えになど出来る筈がありません」 「天本の意見に賛成です。若菜の里長らは我が家の家臣です。アヤカシとの交渉材料になった時点で、彼らも覚悟を決めているでしょう」 弘秀は、栗原を見やる。 「難しいところですよ。仮に橘が奈落のもとへ向かったとしても、我が家に打撃は大きい」 「開拓者たちなら何とかするわ」 水城は思案顔で言った。 「亡王奈落は人並の知性を持っている。人質は死んでしまったも同然だけど、亡王奈落を倒す機会はあるはずよ」 「人質を救出する可能性もゼロではないようです」 西祥院は、弘秀に進言した。 「亡王奈落は今回小数の部下を引き連れて清奈の一角に拠点を設けています。こちらも救出部隊を送り込み、奈落の隙を突くことは可能だと思われます」 弘秀はしばし考えて、水城に「どう思う」と聞く。 「そう言うことであれば、シノビの捜索部隊を送り込み、アヤカシへの攻撃部隊が引き付ける間にもう一隊で人質を救出する、と言った策が考えられます。ただし――」 「ただし?」 「亡王奈落は無論、その部下達もそれなりに強力でしょう。確実な策はありません」 水城の言葉に、弘秀は頷く。 「開拓者たちの到着を待とう。亡王奈落を討つには彼らの力が必要だ」 |
■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
奈良柴 ミレイ(ia9601)
17歳・女・サ
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
将門(ib1770)
25歳・男・サ
朱鳳院 龍影(ib3148)
25歳・女・弓
袁 艶翠(ib5646)
20歳・女・砲 |
■リプレイ本文 「前回はこちらの隙をつかれた形になってしまったんは失敗やしたわ。今回はそうはいきまへんどすわよ」 と気合いを入れる華御院 鬨(ia0351)。 「それにしても‥‥橘さんの関係者が狙われている様にも思えるんどすが、原因に心当たりはありやせんか」 と橘に質問をする。 橘鉄州斎(iz0008)は、思案顔で顎をつまんだ。 「さてな‥‥実際心当たりは幾らでもあるが。ここいらで何者が関わっているか考えた方がいいかも知れんな」 「心当たりがあるとは?」 「‥‥昔、開拓者だったころには、各地でアヤカシ絡みで多くの人たちと関わっているからな。真相は分からないがね」 「亡王奈落、里長一家を連れ去った張本人だな、一泡吹かせてやるとするか」 焔 龍牙(ia0904)は言って、吐息した。 「だが前回はやってくれたな。あんな陽動攻撃を仕掛けてくるとは‥‥まんまと騙された」 「一連の事件にはつながりがありましたわ。これが奈落の目的なら、また何か罠を張っているかも知れませんの。警戒が必要どすわ」 「そうだな鬨さん」 「なぜこうも橘様を狙うのか不明ですが、里長一家を救出し亡王奈落を倒せば何か見えてくるはずです」 玲璃(ia1114)は言って、龍安弘秀から許可を得て借り受けた巫女たちに挨拶する。 「敵が人並の知能があるなら人質を最大限かつ効果的に使ってくるでしょう。最悪の場合、橘様や私達の冷静さを奪う為、目の前で人質となった里長一家に手をかける事も考えられます。その際私は生命流転で里長一家達の命を繋ぎ留めます。ただ同時に里長一家の負傷回復までは手が回りませんのでその際の負傷治療をお願いします」 「承知しました玲璃様」 「玲璃様了解なのですわ!」 「やけに張り切ってるじゃないあなた?」 「だってひと月も待った玲璃様が目の前に‥‥(うごうご!)」 「わーわー、ご、ごめんなさい玲璃様、この子ったらちょっと調子がおかしいみたいで‥‥」 「大丈夫ですか? 重要な作戦ですよ」 「い、いえ、私が何とかします」 玲璃は肩をすくめると、仲間たちの方へ向き直る。 「アヤカシは卑怯だってこと百も承知してる。人質をとったって改めてアヤカシに怒ることなんてない。ただ、アヤカシの存在を許してる世界が悲しい。生き物を苦しめて死に至らしめる存在を誰が望んだ? 被害者が哀れで、哀れで。人質も橘も助けたい。俺とみんなの希望であり決意だ」 奈良柴 ミレイ(ia9601)の言葉に、龍安兵たちは頷いた。 「鳳華じゃ、昔はもっとひどかった。大戦の時だ。アヤカシが跋扈して、民の心は乱れ、この地は荒廃していたよ。龍安家の始祖が里長たちをまとめ上げ、開拓者たちとアヤカシに対抗して行ったのは、英雄譚だがね」 屈強な男が、ミレイに言って、肩をすくめた。 「俺は英雄じゃないけどな。目の前の人を救いたい、それだけだ」 「ああ、俺だってそうだ。実際、出来ることなんて限られてるからな。始祖の大氏正もこんな言葉を残してる。――当時のことを振りかえると、とても事態を掌握していたとは言えない、実のところ右往左往していただけだ、てな」 男の言葉に、ミレイは「そんなことは無いと思うが」と肩をすくめた。 それからミレイは龍安軍に要請する。 志士・シノビ・シノビ・陰陽師四人一組を十個組。人魂と心眼と超越聴覚などを使い村の各地域に潜入させ敵の分布や人質の居場所を調査報告させる。シノビは伝令になってもらう。帰すときに次の指示を。奈落さえいなければ敵数に応じて数個組と自分をもって救出に当たる。シノビは影縛りや早駆で救出の主力に据える。救出後の一家は軍の約半数で護送に当たらせる。 「里長一家は救う。亡王奈落は討つ。両方完遂させましょう」 コルリス・フェネストラ(ia9657)の言葉に、龍安兵たちは頷いた。 「人質の救出は、概ねミレイさんがいわれる通りでいいのではないでしょうか」 それからコルリスは、弓兵たちに挨拶する。龍安弘秀に奈良紫の案に従った配分+心眼を使う志士を若干加える形での味方兵力の貸与と弓兵の指揮も願い出ていた。 「よろしくお願いしますみなさん。奈落は容赦もない厳しい作戦ですが、完遂させましょう」 コルリスはそれから、仲間たちに提案した。 「味方兵力の内訳は奈良紫さんの案に志士、弓術師、巫女を加え計50名とし、里長一家と亡王奈落探索の際は村の各地域で陰陽師の人魂で偵察し、成果をシノビに伝令として伝えてもらう形をとり、各所から情報を整理統合・分析し、居場所を割り出し包囲する形で居場所へ徐々に接近する。戦術部隊の動きはこんなところでしょう」 「うまくいかせたいものだなコルリス」 ミレイの言葉に、コルリスは頷く。 「前回討ち損ねた結果がこれだからな。繰り返さんように努力するさ」 将門(ib1770)は言うと、小さく頷く。 「そうだな‥‥龍安軍と協力しての人質捜索。大きな配分としては奈良柴の案に賛同だ。各部隊の動きはコルリスの案でいいだろう」 それから‥‥と将門は付け加える。 「人質発見時だが、状況が許すなら同行の龍安軍に託して後送して貰いたい。状況が許さない場合だが、盾にされている、アヤカシが監視しているとか――それが許される状況になるように尽力してみる」 「分かりました。可能な限り動ける範囲は動いてみる」 龍安軍の指揮官は言って、頷いた。 「後は敵さんの戦力だな‥‥こいつをどうにかしないと。死人アヤカシ戦士は龍安軍に対処してもらいたい。その際、必ず多対一で対処するように頼む」 「了解した」 「亡王奈落には、そう何度も好機があるとも思えんが、どうにか奴の動きを封じるしかないだろうな」 「人質にするとはのう。卑怯じゃなまったく。そのような者に王を名乗る資格なぞない」 朱鳳院 龍影(ib3148)は言って、先の戦いを思い出した。 「先日まんまと出し抜かれたが、今日はそうはいかんぞ。私の手から逃れられると思うなよ亡王奈落‥‥」 朱鳳院は鬨や焔に声を掛けた。 「あ奴、確かに並み外れたものを持っている。あの在天奉閻を軽くあしらうとは‥‥私たちも強くなっておるが、アヤカシも油断できんの」 「うちも、ここでも、それ以外の場所でも、いろんなアヤカシを見てきましたが、亡王奈落は例によって強力な相手のようですわね」 「どうにか、最後に皆の力を合わせることが出来れば‥‥あの奈落を倒す機会はそんなにないでしょうしね」 「ここまで来たのじゃ、やるしかないがの」 「うーん、厄介な事態ね‥‥どうにかなればいいのだけど。やってみるしかないわね」 袁 艶翠(ib5646)は言って、煙管を吹かした。 「おばさんは銃でみんなを支援するわね。人質救出もそうだけど、アヤカシとの戦闘にも援護するわ」 「よろしくお願いします袁さん。銃は強力ですから、味方にとっては心強い武器です。亡王奈落は、稲妻攻撃も持つ魔法戦士ですからね」 コルリスが言うと、朱鳳院は腕組みして口許を緩めた。 「艶翠、油断は出来んぞ。奈落は化け物並みに強力じゃ。私が保証する」 「そうらしいわね。報告書は見たわ。ま、まともにぶつかって勝てる保証は無いけど、あたしたちがやるしかないじゃない。何て、柄にも無いこと言ったりして」 そう言うと、袁は髪を後ろでまとめて、本気モードに入る。 「それじゃあ、行くわよ。おばさんの本気見せてあげるわ」 開拓者たちは亡王奈落と人質が確認された現場へ侵入する――。 龍安軍が隠密行動を取りつつ、現場へ忍び込んでいく。 「人質の確認がとれませんが、アヤカシはあちこちに散っているようです」 シノビが戻って来る。 「人質の救出が先だ」 ミレイは言うと、シノビは飛んでいく。 また別のシノビが戻って来る。 「みなさん、人質を発見した。里長の御子息だ」 それから、別のシノビが、里長の娘を発見する。 「里長と奥方は見つからないのか‥‥」 焔は厳しい顔で、知らせを待っていた。 そこへ、現場の内部中心へ潜り込んだ一班が戻って来る。 「里長と奥方が、亡王奈落とともに家屋へ入るところを確認しました。里長と奥方は現場の中心です」 「では、急ぎましょう」 コルリスは言うと、開拓者たちは動き出した。 龍安軍は各所から同時攻撃を仕掛ける。 鬨と焔は死人戦士に切り掛かった。 「お前たちに構っている暇は無い! 瘴気に還れ!」 「人質を早く!」 ミレイは家屋の中へ駆け込んだ。 中には、少年がうずくまっていた。 「大丈夫か」 ミレイが声を掛けると、少年は驚いたように顔を上げた。 「助けか」 「そうだ。龍安弘秀の依頼を受けて来た」 「開拓者?」 「ああ。立てるか」 「すまない」 ミレイは少年を立ち上がらせると、外の戦闘をかわして、龍安軍に預ける。 「ありがとう!」 少年は言って護送された。 ミレイは顔を巡らせ、交戦する鬨と焔に加勢する。 「一気に行くどすわ!」 鬨は焔とミレイとともに、死人戦士を切り捨てた。 龍安兵が切り込んでいく。朱鳳院は、狙いを定めると、矢を放った。凄絶な一撃が死人戦士を貫く。 コルリスらは、建物の影から前進すると、死人戦士の矢を浴びせかけ、足止めする。 「よし今だ!」 将門は加速した。 死人戦士へ切り込む。刀の一撃を叩き込んだ。 「早くしろ! 人質の確保! 行け!」 将門は目の前の死人戦士を足止めしつつ、友軍に合図を送った。 「ここは任せて」 袁は言って、龍安兵を行かせると、さらに銃を叩き込む。 「朧!」 コルリスも呪弓で必殺の一撃を撃ち込む。 「これでも――」 将門は、死人戦士の腕を叩き斬った。 咆哮するアヤカシ戦士に、コルリスらが矢を次々と撃ち込む。 ドカカカカカ! と矢が貫通して、アヤカシ戦士はぐらりと倒れて行き、瘴気に還元した。 将門は家屋の中へ踏み込んだ。 「無事か」 「はい――」 見ると、娘が確保されていた。 「お屋形様が救いの手を‥‥ありがとうございます。父と母は無事ですか?」 「まだですが、ご安心を。必ずお救いします」 「お願いします‥‥」 「よし、お連れしろ」 将門は言って、龍安軍に娘を後方へ託す。 「奈落は中心にいるとか‥‥」 開拓者たちは前進する。死人戦士は各所で撃破されつつあった。龍安軍は一帯を制圧して行く。 「待って」 袁が屋根の上から手を上げて、仲間たちに合図を送った。 「誰かいるわ」 「あれは‥‥」 コルリスが屋根に飛び上がって確認する。 「あれは‥‥里長の奥方ですね」 「亡王奈落は見えるか」 「いえ‥‥ここから見る限りは、民家の前に奥方が立たされているだけで」 「奇襲攻撃で行きましょう」 「了解」 開拓者たちは一帯を包囲すると、合図とともになだれ込んだ。 「奥様!」 将門が疾走する目の前で、次の瞬間、奥方は背後から稲妻で撃ち抜かれた。 「奥様――! 何て事だ、玲璃殿!」 将門は奥方を助け起こし、そこへ玲璃が駆けつける。 「まだ間に合います。寝かせて下さい」 玲璃は生死流転を発動させると、心臓が止まった奥方の手を取り、生命活動を維持する。 「早く、今のうちに神風恩寵を――」 玲璃は一緒に来ていた巫女に声を飛ばす。 「はい!」 巫女は奥方のダメージを回復させ、蘇生した。 玲璃は奥方の様子を確認する。 「お願いします‥‥息をして下さい」 やがて、奥方の顔に血の色が戻って来る。 「良かった。奥方を後ろへ――」 と、そこへ、家屋の中から、黒い鎧に身を包んだ巨体のアヤカシが姿を見せる。 「亡王奈落! 里長一家を人質に取るとは、その代償は大きいぞ! その命を代償として貰い受ける!」 焔は太刀を構えた。 「ごつい格好をしている割には、する事は女々しいどすわね」 鬨は奈落を挑発し、格闘戦に持ち込もうとする。 「お前たちは‥‥開拓者か。またしてもわしの邪魔をするか」 「里長はどこだ!」 「それはわしを倒してから聞くのだな」 「みなさん、気をつけて下さい」 玲璃は、亡王奈落が動き出す前に、加護結界を味方に付与して行く。 「しぶとい連中だ‥‥わしを前に、奇襲攻撃を掛けてくるとは」 亡王奈落は腕を持ち上げた。しゅううううう‥‥と閃光が奈落の腕に収束して行く。 ――次の瞬間、ドゴオオオオ! と袁のブレイクショット+クイックカーブが亡王奈落の腕を撃ち抜いた。 「銃だからといって甘くみないでほしいわね! いくらでも方法はあるのよ」 開拓者たちはそこで一斉攻撃に出た。 将門は裂帛の気合とともに切り掛かり、焔陰を叩き込んだ。 亡王奈落の盾ごと刀が貫通する。続いて焔陰の一撃! 亡王奈落の肉体を切り裂く。 するすると切り掛かっていく朱鳳院。極北で目が鋭く赤く光る。気合を込めて刀を撃ち込む。 「おぬしの防御、見切った」 朱鳳院は亡王奈落の胴体を切り裂いた。 「あなたの力は所詮ここまでどすよ、何をしようと、此処で倒れる運命に変わりは無いのだわ。最後にはうちらにやられる運命」 鬨は天辰を撃ち込む。 「何を、人間がわしを倒すなどありえん‥‥それに、こんなものは始まりに過ぎん」 「民の仇だ! 思い知れ!」 焔は太刀「阿修羅」+スキル「炎魂縛武」とスキル「秋水」の連続攻撃で切り札「焔龍炎秋水!」を放つ。――ズン! と、亡王奈落の腕が落ちた。 「な‥‥に‥‥! ぐおおお‥‥!」 亡王奈落は、咆哮して稲妻を放った。閃光が開拓者たちを薙ぎ払う。 「行くぞ亡王奈落」 ミレイは牽制から切り替え、ステップを踏むと気力全開で地奔を撃ち込む。衝撃波が亡王奈落を後退させる。 「ここで終わらせる――朧!」 コルリスの一撃! さらに袁はスキル全開でマスケット銃を高速連射する。 「あんたの首は、あたしがもぎ取ってあげるわ――」 ドウ! ドウ! とマスケットを連射。 亡王奈落は咆哮して、モーニングスターを振り回した。 しかし開拓者たちは亡王奈落を今度こそ追いつめ、打撃を与えて行く。 「ぬうん!」 「覚悟!」 朱鳳院と将門、鬨に焔、ミレイが次々と刀身を叩き込めば、亡王奈落はずたずたになって崩れ落ちた。その体中からしゅうしゅうと瘴気が立ち上っている。 鬨は剣を突き付けると、亡王奈落を問い詰めた。 「なして、こない事をするんどすか。冥土の土産に教えてほしいどすわ」 「まだ始まり‥‥しぐの‥‥おう‥‥に‥‥」 そこで、亡王奈落はこと切れると、肉体は黒い塊となって崩れ落ち、瘴気となって消失していった。 「やったか‥‥」 将門は、刀を構えたまま、亡王奈落の後ろの民家を見やる。 「里長は――」 将門と焔は民家へ入って行った。 暗がりの中、人影を発見する。 「里長!」 二人は駆け込み、絶句した。 里長は胸を貫かれて絶命していた。 「玲璃! 玲璃! 来てくれ!」 「どうしました」 「里長が重体だ! 早く!」 玲璃は急いで生死流転を掛ける。 「間に合いそうか」 「分かりません。駄目かも」 そうして――玲璃は吐息して手を離した。 「駄目です‥‥亡くなりました」 将門は吐息した。 「やってくれたな‥‥」 |