|
■オープニング本文 神楽の都――。 朝、ギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)は目を覚まして起き上がった。長屋の外に出て、井戸の水を汲むと、顔を洗って深呼吸した。 「おはよう鉄さん」 隣の若大将も目を覚ましたところらしかった。 「今日は良い天気だなあ。まだ冷えるがね」 「全く」 「鉄さん‥‥ところで、この間引き取った亜紀さんだっけ? ‥‥どうする気なんだ。どうにかした方がいいぜ」 「‥‥そうだな、分かってる」 「鉄さん」 と、その時だった。界隈が慌ただしくなり、剣士を引き連れた男が橘の自宅へ向かってやってくる。 「橘鉄州斎! ようやく会えたな! 亜紀を返してもらいに来たぞ!」 男はずかずかと長屋の住人達を蹴散らしてやってくる。 「私は石川忠信。亜紀の夫だ。一体妻をどうするつもりだ、これ以上もめ事を起こすと、後悔するぞ!」 忠信は、悠然と橘に向かって歩いてくる。 「亜紀は中か? 返してもらう。どけ!」 「‥‥‥‥」 「何だ貴様、私の言葉が聞こえんのか!」 忠信は橘の胸倉をつかみ上げると、橘を突き飛ばした。 「鉄ちゃん!」 そこで、亜紀が飛び出してきた。 「これ以上手を焼かせるな亜紀!」 「いや! 離して! 助けて鉄ちゃん!」 橘は立ち上がると、亜紀に言葉を掛けた。 「大人しく帰るんだ。これ以上はどうにもならん」 「鉄ちゃん‥‥」 「そうだろう。開拓者ギルド相談役だからって何が出来る! いきがるな若造が!」 忠信は、橘に向かって不敵な笑みを向けると、亜紀を引きずってその場を立ち去った。 ざわざわとご近所さんがこちらを見ているので、橘は軽く手を上げた。 「騒がせてすまなかった! 連中はもう帰った! 大丈夫だ!」 「鉄さん、大丈夫か。気にするなあんな奴の言うこと。これで良かったんだ」 若大将の言葉に、橘は肩をすくめた。 「ああ、そうだな」 開拓者ギルド――。 橘は、出勤すると届いている文に目を通し始めた。 「よお橘――」 同僚の相談役がやって来て口を開く。 「聞いたぜ石川の件。お前大丈夫か?」 「ああ、大丈夫だ。何でもないさ」 「気を付けろよ橘。揉め事は、上役にはきっちり報告が行ってるぞ」 「そうか‥‥分かった」 「礼くらい言えよ。忠告してやってるんだぞ」 「ああすまん、気を付ける」 そこで、橘は一通の文に手を止めた。 「桜‥‥?」 ふと目にとまった差出人の文を開く。橘は読み進めて行くうちに、軽く吐息した。そして席を立つと、同僚に声を掛ける。 「ちょっと出てくる。依頼人だ」 「どこへ行くの?」 「鳳華だ。凱燕って町に住んでいる娘から、依頼が」 武天国、龍安家が治める土地、鳳華――。 北部の大都市、凱燕の住宅街で、声が上がっていた。 「六介! もう止めて! これ以上家のお金を持って行かないで! 私たちの生活はどうなるの!」 「やかましい志野! それをどうにかするのがお前の務めだろうが!」 「これ以上は許さない! お金を返して!」 「俺に逆らうな!」 六介は志野を壁に突き飛ばした。 「きゃあ!」 「お母さん!」 娘――桜が悲鳴を上げた。 「桜、いるか?」 そこへ現れた橘は、驚く六介に軽く挨拶した。 「よお六介、最近、金策に苦心してるんだってな」 「橘鉄州斎‥‥何でお前がここにっ!」 橘は、桜からの文を取りだした。 「桜が、知らせて来たぞ。もう限界だってな。母親がひどい目に合ってるってな」 「桜、お前‥‥!」 「橘さんが朱藩のアヤカシから助けてくれたのに、父さんは何も変わってない――このままじゃみんな死んじゃう!」 六介は、苛立たしげに桜と橘を見やり、家から出て行く。 「おい六介、待て」 「橘――あんたに何が出来るってんだ」 「六介――」 「もういい帰ってくれ!」 六介は飛び出して行った。 桜は、涙をこぼして、志野を介抱する。 「ごめんね橘さん‥‥どうにもならないって分かってるんだけど‥‥他に頼れる人がいなくて‥‥」 「いいんだ桜。志野、大丈夫か」 「橘さん、すいません‥‥こんな形で会いたくなかった」 「いいから、傷を見せてみろ」 ‥‥六介は、界隈に紛れ込むと、裏通りに入っていく。そこに、ぼろを身につけた人物がうずくまっていた。六介は声を掛ける。 「おい、あんた、邪魔が入りそうだ。橘鉄州斎を知ってるだろう? 凄腕の開拓者ギルド相談役だ。あいつが関わって来ると厄介だぞ」 「問題ない‥‥こちらも、何事もなくことが運ぶとは思っていない‥‥」 そう言うと、ぼろは「くっくっく‥‥」と笑みをこぼした。 鳳華の首都、天承――。 城内は、緊迫した空気に包まれていた。正装した家臣たちが、ひそひそと声を掛けあっている。 そこへ、朝廷貴族の礼服を身につけた男が姿を見せる。男の名を、長篠安盛と言った。朝廷の貴族で、彼をここへ送り込んだ人物は、それなりの実力者であると知れ渡っていた。 「龍安弘秀――」 長篠は、龍安家の家長の名を呼んだ。 弘秀もまた正装をしていて、ひざまずいた。 「は‥‥」 「ここは随分な有様だと聞いている。アヤカシの攻撃にさらされて、多くの民が犠牲となっていると」 「はい、それは仰るとおりです」 「ではお前は一体何をしている! 領内の魔の森から溢れるアヤカシに対して、断固たる措置を取らぬか! 手ぬるいのだ! 全ての兵力を動員してでも、魔の森の敵軍を一掃する! それくらいやらぬと永遠に戦闘は終わらぬぞ!」 「常に、戦の支度は整えております」 「ならば、打って出ぬか! これは命令だ! 遭都では、長引くここの戦闘が疑問視されておるのだぞ!」 「安盛様、どうか気をお静め下さい。この戦は、簡単には終わりませぬ」 「何だと貴様‥‥私の言葉が聞こえなかったのか! 私の言葉は遭都の意思であると知れ!」 ――と、そこへ家老の赤霧が駆けこんで来る。 「お屋形様――!」 「赤霧、今は長篠殿をお迎えしているところだぞ――」 弘秀の言葉に、赤霧は長篠をちらりと見やり、お辞儀した。 「御無礼を」 うなる長篠を横目に、弘秀は吐息すると問うた。 「どうした」 「北部の魔の森が活性化しております。アヤカシ兵が推定五十から百が凱燕近郊へ攻撃を開始しております」 「そうか」 長篠は声を荒げる。 「良い機会だ! 北部の魔の森を焼き払え!」 「恐れながらこれが大がかりな攻撃であるかは不明です。まずは、目の前の敵軍を叩き、凱燕の防備を固めます」 弘秀はそう言うと立ち上がり、家老たちを招集する。 「手ぬるい、全く‥‥」 長篠は苛立たしげに、弘秀の背中を睨みつけた。 |
■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116)
12歳・女・巫
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
朱鳳院 龍影(ib3148)
25歳・女・弓
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰 |
■リプレイ本文 鳳華首都、天承城――。 「やはり、七魔将を討った程度では、止まらないみたいですね」 鈴梅雛(ia0116)は、久方ぶりに訪れた鳳華の空気に安堵した。少なくとも、昨年の大きな戦いの時とは違って、首都の人々の顔には幾ばくか回復した笑顔があり、張り詰めた空気はどことなく落ち着いていた。 「それでも去年よりはましでしょうか。少しはひいなも安心です」 「雛ちゃん、ここは少しはましになったよ。ま、僕たちの戦いも無駄じゃなかったってところかな」 華御院 鬨(ia0351)の言葉に、雛は頷いて「本当に」と呟いた。 今回は気さくな浪人風に男装している鬨。変装しないと女性にしか見えないためだが。さすがにどんな変装も板に付いている。それから鬨は、橘 鉄州斎(iz0008)に声を掛けた。 「橘、厄払いでも行って来た方がいいんじゃないか。女でもめてるって噂も聞いたしな。まぁ、女性関係なら僕が話になれるぞ」 橘は苦笑した。 「ま、その件に関しては、職場の女性陣の突き刺さるような視線が痛かったよ。上役には呆れられたがね」 「今までのあんたが、そう言うこととは無縁だったからなあ」 鬨は言って、肩をすくめる。 「なあ、俺だって、もう一度香夜のような女性と出会えるとは思ってもいないんだ」 「橘、そんなことはないさ。また時間が経てば、良い人が見つかるよ」 「橘さん大変ですね」 雛の言葉に、橘は「かくの如しさ」と肩をすくめた。 「依頼書には補足事項が乗っていたな。何でも煩い人物が来ているらしいぞ」 焔 龍牙(ia0904)が言うと、コルリス・フェネストラ(ia9657)は小さく頷いた。 「朝廷から長篠とか言う貴族がおいでのようですね。一体何事でしょうか、今更」 「口ばかりで何もしない朝廷や貴族は嫌いなので、もし機会が有っても、ひいなは長篠様には近付かない様にします」 雛が言うのに、焔とコルリスは苦笑した。 「はっきり言うな雛さんは。まあ長篠は一応俺たちの上に当たることになるな。開拓者ギルドは朝廷の出先機関ですからね」 「それでも」 「龍安家はとりあえず大人しくしているのでしょう。主君は巨勢王ですからね。貴族と言えどもいざとなれば排除できそうなものですが」 「どのような人物にせよ、アヤカシとの戦の妨げにならないようにして頂きたいものですが」 コルリスの言葉に、焔は頷いた。 「貴族か。まあ私には関係ないの。貴族だろうと、私の空を奪うことは出来んじゃろう」 朱鳳院 龍影(ib3148)は言って、からからと笑った。 「直接乗り込んできたからには、何かあるのかも知れんが。差し当たり、無視しておけばいいじゃろう。それに、先方が数人の開拓者に興味を示すことも無いじゃろうしの」 「いかがです橘さん? 貴族については」 長谷部 円秀 (ib4529)は、内心では橘も中々に大変な目に合っているようだと思っていたが、その点には触れなかった。 「長篠安盛だな。ま、俺は特にお前たちと違って下っ端でも宮仕えだから、偉そうには出来んな。朝廷の威には服さねばならん。俺なんかが太刀打ちできる相手じゃない。龍安家は無視してもいいと思うがね」 「それにしても、わざわざのお越しとは。聞くところによると、長篠の背後にはそれなりの大物がいるそうじゃないですか」 「そうだな‥‥」 そうして、開拓たちは龍安弘秀のもとへ案内された。 弘秀は、筆頭家老の西祥院静奈とともにいた。 「来てくれたのね。待ちかねたわ。凱燕の北の境界線は危険なことになりつつあるわ」 西祥院は言って、開拓者たちに状況を説明し始めた。 「また魔の森が活発になりつつある。ここは王都の周辺を魔の森から守る前線区域だ。例の不厳王(iz0156)が、確認したところ先日南の魔の森を抜けて此隅へ攻撃を仕掛けたことからも、またアヤカシにも動きがあるのは間違いない」 弘秀は言うと、吐息して眉間を押さえた。 長谷部は戦場の地図に目を落とし、少し眉を寄せた。 「敵は広域に東西中央に分布ですね。であれば、陣形は魚鱗。中央は近接職中心で機動力、突破力重視。西、東は遠距離中心で陣地を構築、敵の攻撃を防御し持久戦を行い、戦力は中央を多めに配置する。当初、中央に戦力を集中し撃破、その後は順次各個に撃破‥‥と言ったところでしょうか」 弘秀は思案顔で顎をつまんだ。 「敵はアヤカシ。中央突破に対してよもや包囲されるようなことは無いと思うが、兵の運用には気をつけよ。どんな奇策を打ちだしてくるとも限らぬし、個々の戦闘能力ではアヤカシも油断できない。承知はしているだろうがな」 「分かりました」 それから「あくまで一案ですが」とコルリスは前置きすると、弘秀に提案する。 「敵中央突破後は、後方の里を守る防衛線を残しつつ、各部隊は戦況に応じ陣形を柔軟に変形。敵を倒した味方部隊が機動力を駆使し他の敵部隊包囲に回りこみ連携して順次各個撃破。撃退に持ち込みます」 「そうだな。中央突破を果たすことが出来たなら、全体の一割でも防衛戦に残して警戒に当たらせるがいいだろう。なるべく攻撃に部隊を回した方がいい。奇襲攻撃を懸念するのも分かるが、目の前の敵に出来るだけ集中すべきだろう」 「それはそうするつもりです。では弘秀様、後お願いが‥‥私に弓術師の一部指揮、各部隊の連携を図る為味方のシノビに伝令役のお願い、また里の人達を一箇所に集める避難誘導及び里長一家防衛に兵力の一部を割く事、です」 弘秀は頷き、確認しつつ答えた。 「弓術士の指揮は任せる。開拓者には家臣であろうとなかろうと指揮権を全権委ねているからな。シノビは手配させよう。里の避難は可能な限り迅速に行う。凱燕や近郊の安全地帯に受け入れるように指示を出している。里長一家のことは、前回若菜の件ではしてやられたが、今度は護衛をつけておこう。それについては用心するにしくは無いからな」 「それを聞いて安心しました」 と、そこへ一人の人物が入って来た。朝廷貴族の衣服を着ている。長篠安盛である。 「龍安、この者たちは何だ」 「長篠殿、彼らは開拓者です。――開拓者のみな、こちらは朝廷貴族の長篠安盛様だ。ここ鳳華の状況を評価されに来た」 「開拓者?」 長篠は、開拓者たちを軽く見渡した。 「それは良い。龍安家が指揮するよりは、開拓者たちに任せた方が安心できる。彼らは大アヤカシとの交戦経験もある」 雛はするすると鬨の後ろに隠れた。コルリスと焔は軽くお辞儀して、朱鳳院は大きな胸を張った。長谷部と橘も軽くお辞儀した。 「お前は‥‥?」 長篠は、少し眉をひそめた。 「知っているぞ、橘鉄州斎。お前のことは聞いてる」 「私を‥‥?」 問い返す橘に長篠は、我に返ったように咳払いすると、開拓者たちをじろりと睨んだ。 「開拓者たちよ、アヤカシどもは徹底的に排除するのだ。徹底的にだ。これまでの戦いは手ぬるい。あの化け物たちには、一匹たりとも生かして帰してはならん。叩きつぶせ!」 「‥‥‥‥」 沈黙する開拓者たちを見据えると、長篠は吐息した。 「いいか、我々は生きるか死ぬかの瀬戸際にあるのだ。アヤカシは全て排除せねばならんのだ。完全にな」 そう言うと、長篠は部屋から出て行った。 弘秀はやれやれと言った風に吐息すると、開拓者たちに声を掛けた。 「あの御人の言葉は気にするな。私が対処する。みな、アヤカシに集中してくれ」 「では、みんなよろしくお願いね」 西祥院も一息ついて開拓者たちを送りだした。 戦場――。 コルリスを始め、開拓者たちは、兵士やサムライ大将たちに戦術の説明を行っていた。 「魚鱗の陣形によって中央突破を図り、敵両翼を各個に撃破します。東西を担当するみなさんには、遠距離攻撃を中心に防備を固め、陣形を構築し‥‥」 朱鳳院は、後ろを見た。 「大きい街じゃな。‥‥避難誘導大変そうじゃが‥‥まずはできる事を最大限までやるべきじゃな」 遠くに見える凱燕は実に巨大な都市である。それ自体が首都の天承クラスの一個の巨大な城塞都市である。 「あそこまで攻め寄せるのは、結局あの在天奉閻でも不可能じゃった。それを考えると、そこまでの脅威ではないとも言えるかも知れんが‥‥」 朱鳳院は腕組みすると、熱心に説明するコルリスに目を向けた。 「‥‥以上です。みなさん大丈夫ですか」 「了解しました。この作戦、中央突破に掛かっていますな」 「そうですね」 「では中央には精鋭を集めましょう」 「はい!」 若い兵士の一人が手を上げる。 「何でしょうか」 「コルリスさんって付き合ってる人‥‥がっ!」 その瞬間、サムライ大将の鉄拳が飛んで兵士を沈黙させた。 「愉快な連中じゃの」 朱鳳院は呆れたように口許を歪めた。 「前線の士気の崩壊は貴族の耳に入ったら大事だね」 鬨がのんびり言うと、コルリスは「全くですね」と言って肩をすくめた。 「お主ら冗談で言うておるのじゃろうな」 「まあ、まだみんな死神とダンスしたくは無いでしょう」 「その通りですね」 「全くお主らは‥‥」 「よしみんな! 時間が無いぞ! 手早く陣形を組んでいこう! 両翼に回る兵士達は陣地の構築を急いでくれ!」 焔は手を叩くと、龍安軍は慌ただしく戦闘態勢に入って行く。 「ひいなが援護します――神楽舞・攻!」 雛は流れるような舞いを舞うと、兵士たちの攻撃力が上昇して行く。 「行くぞ! 死骸傀儡を叩きつぶす!」 「おぉ、いっぱいいるねえ」 鬨も加速すると、死骸傀儡を両断する。 「敵の数はさほどではありませんが、兎に角大きいです。くれぐれも、注意して下さい」 雛は味方を回復しつつ戦況を確認する。なるべく全体を見渡すようにし、兵士に声を掛ける。 「雛ちゃん、行くよ」 鬨が巨大な死骸傀儡に飛びかかって行く。敵は三十メートル級の怪物。 雛はするすると流れるように神楽舞で支援する。鬨の攻撃力が上昇する。 「よーし来た来たあ、紅蓮紅葉に天唇の一撃、精霊力よ力を! 行けえ!」 鬨は超巨大な死骸傀儡に刀を叩き込んだ。紅葉のような燐光がほとばしると、鬨の連撃を受けた死骸傀儡は、凄絶に弾け飛んだ。衝撃が死骸傀儡を貫通し、真っ二つに切り裂いた。 死骸傀儡は崩れかかった肉体で反撃するが、鬨は素早く回避し、残った残骸の間を駆け抜け叩き斬った。 黒い塊となって崩れ落ちて行く巨大死骸傀儡――。 アヤカシの戦列に悲鳴のような咆哮が響き渡る。 「一気に行くぞ! 中央アヤカシを粉砕する!」 龍安軍は怒濤のような勢いで死骸傀儡の群れを粉砕して行く。 「ここはもう、大丈夫そうです。両翼に向かいましょう」 雛は兵士達を手当てしながら、額の汗をぬぐった。 「行けそうかな」 鬨は体に付着した肉片を払い落すと、戦場を見渡す。 伝令のシノビが、駆けこんで来る。 「鬨殿、東部は一進一退、西部の戦場で炎武骸骨が突進してきます」 「そうか分かった。雛ちゃん、みんな! 西へ急ぐぞ! 防衛線の警戒に当たる者以外はそっちへ!」 西部戦場では、朱鳳院に長谷部らが指揮を執り、炎武骸骨の突進を食い止めていた。 「ふむ‥‥」 朱鳳院は冷静に矢を撃ち込みつつ、丘の上から状況を確認する。後方で避難誘導が行われているか、又、奇襲がないか監視する。 「どうにか持ち堪えておるが。急がねばの」 浮かんで前進してくる炎武骸骨の一体に、ガトリングボウを叩き込んだ。三本の矢が骸骨を貫通する。炎武骸骨は咆哮を上げて崩れ落ちて行く。 「ここは我慢の時だ! 耐えるぞ!」 長谷部は兵士達を叱咤激励しつつ、陣の中で采配を振るった。 「北東から三体! 集中攻撃で止めろ!」 そこで、鬨と雛ら、中央を突破した龍安軍が戦場に駆けつける。 「来たか‥‥」 長谷部のもとへ、シノビがやって来る。 「長谷部殿、華御院様より伝令。待たせてすまない、とのことです」 「分かった、華御院さんによろしく伝えてくれ。反転攻勢に出る」 長谷部は全軍に総攻撃の合図を下した。 「ここが好機! 一気に攻め落とす!」 「ようやく出番かの、突撃じゃ!」 朱鳳院も近接装備に変えると、突進する。 「ぬうん!」 二刀で炎武骸骨を切り裂く。反撃する炎武骸骨の刀身を弾き飛ばすと、朱鳳院は返す刀で腕を交差させた状態から一気に切り開いた。骸骨の胴体が吹き飛び、アヤカシは崩れ落ちて行く。 「行くぞ、我が一撃受けてみよ」 朱鳳院は極北+無双で大型炎武骸骨に撃ち掛かった。炎武骸骨のボスは咆哮して四本の腕で切り掛かって来るが、朱鳳院はかわしてその巨体に飛びかかった。連撃が炎武骸骨の腕を切り飛ばす。 「さすがですね」 長谷部も駆けつけると、白梅香で一撃を叩き込む。浄化の一撃が炎武骸骨の肉体を削り取る。 腕を振り回す巨大骸骨に長谷部と朱鳳院が連続攻撃を浴びせる。 「龍王は一手にして成らず」 朱鳳院の止めの一撃に、炎武骸骨は沈んだ。 鬨と雛が駆け寄って来る。 「無事だったかい」 「そっちこそな。遅かったぞ」 「申しわけない」 「冗談じゃ。さて‥‥あらかた片付いたかの」 「そのようですね」 長谷部も龍安軍が炎武骸骨の残党を包囲殲滅して行く様を見守った。 「残るは東部のアヤカシ。最後で苦戦しているかもしれない。急ぎましょう」 丘の上に斜行陣を敷いたコルリスらは、アヤカシの前進を食い止めつつ、交代で敵の先端に対していた。 「コルリス殿、斜行陣は危険ではありませんか。防御には向いていません」 「敵の中央への動きに対するためです。この戦闘は何時間も続くわけではありません、なんとか持ち堪えましょう」 「そうですな‥‥」 サムライ大将は唸るように言うと、望遠鏡で西からやって来る味方を確認していた。 「あ‥‥コルリス殿! 味方です! 味方が来ます!」 「間にあいましたね」 その頃、焔は前線にあって兵士達を指揮していた。次々とやって来るアヤカシに対峙し、戦線を持ち堪えていた。伝令のシノビが、味方の到着を知らせる。 「そうか! 来たか!」 コルリスは部隊を前進させる。地帯射撃を指揮しつつ自身も鷲の目+朧月の合成射撃「朧」で死人兵を打ち抜いて行く。 「待たせたねえ」 鬨は戦場にて焔と合流する。 「ああ、待ちかねた! どうやら勝ったな――ん?」 そこで焔は、龍安兵を薙ぎ倒すアヤカシ術士を確認する。 「何だ奴は、けた違いだぞ」 焔と鬨は突進した。 焔は弓での攻撃でそのアヤカシのローブを狙い、正体をさらけ出させる。 そのアヤカシの顔に、目や口は無かった。 「のっぺらぼう‥‥? 顔がないなんて、何でも変装できるのか」 鬨の問いかけに、アヤカシの顔に口らしきものが開いて、「見事だ龍安軍」と喋った。 「今回の目的は何だ! 俺達の言葉は理解しているのだろ! 答えろ!」 焔が言うと、そのアヤカシは兵を引きつつ、言葉を残した。 「これは始まり、この子具乃王が凱燕の防備を破ってみせる」 「何だと‥‥しぐのおう?」 焔は、去りゆく新たなアヤカシの名を記憶に刻んだ。 |