【龍王】幻朧の夜3
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/04/25 23:11



■オープニング本文

 天儀本島武天国、鳳華――。
 北部の都市、凱燕近郊において。
「アヤカシ軍、さらに来ます――!」
 都市を守る龍安軍は、果てしなく押し寄せる死人と骸骨の群れの集団の対応に追われていた。アヤカシは凱燕を北と東西、三方向から大量に押し寄せ、波状攻撃を仕掛けていた。個々の戦闘能力では劣るが、アヤカシは数で圧倒し、龍安軍にも混乱が生じていた。
 総大将の天本は、これが件のアヤカシ首魁、子具乃王の攻撃であろうと推測していた。凱燕の城本丸にて指揮を取り、周辺の里へ被害が及ばないように自軍の防御を固めている。
「我が軍の被害は」
「軽微です。敵軍は数では勝りますが、戦闘能力では我が軍が勝っています。さすがに、精鋭を大動員することは不可能なのでしょう」
 部下の答えに、天本は吐息した。
「油断するな。凱燕の防備は強力だが、子具乃王には企みがあるようだ。それが掴めるまでは‥‥」
「申し上げます!」
 そこへ兵士が駆けこんで来る。
「どうした」
「アヤカシ軍の本隊と思われる部隊が死人と骸骨の背後から接近しています。巨人、がしゃ髑髏多数が見受けられます」
「防備を強化しろ。アヤカシを近づけるな」
 天本は天守閣に上がると、町を見下ろした。
「ここは通さんぞ子具乃王」
 ――と、ドン! と爆発がして、城の近くにある水道施設の建物が吹っ飛んだ。
「何だ――」
 天本が見ていると、破壊された水道施設から、アヤカシ兵士が続々と出現する。
「天本様!」
「見ている、アヤカシか。どうやって地下水路を通って来た。水路は隠されているはずだぞ。第一、見取り図もなしにここへ直接攻撃を掛けてくるなど‥‥」
「敵軍が城内へ侵入してきます」
「子具乃王め‥‥どんな魔術を使った」
 天本はうめくように言うと、混乱する階下へ降りて行った。

 開拓者ギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)は、丁度周辺の戦場から戻ったところで、桜一家のもとを訪ねようとしていた。
「桜――」
 橘は戸を開けると、中に呼び掛け、異変を察知する。血の匂いがする。橘は刀に手を掛け、慎重に踏み込んだ。
「これは‥‥」
 桜と志野、そして六介が倒れていた。床や壁に血が飛び散っていた。
「桜! 志野!」
 すでに二人の息は無い。
「六介! おい!」
「あ‥‥う‥‥」
「六介! しっかりしろ! 何があった!」
 六介は、橘を僅かに見上げると、呟いた。
「俺は‥‥シノビだった‥‥俺は‥‥桜‥‥志野‥‥」
「六介! おい待て逝くな! 六介俺を見ろ!」
 しかし、六介の息は絶えた。
「何で‥‥」
 橘は崩れ落ちた。何が何だか分からない。
 それからやがて、彼も凱燕内部にアヤカシが侵入したと知る。
 橘は立ち上がった。
 突き動かされるように城に向かう。

 鳳華首都、天承――。
「凱燕内部にアヤカシが攻撃を掛けて来ただと――」
 龍安弘秀は、怒りと驚愕で立ち上がった。
 筆頭家老の西祥院静奈と、家老の水城明日香、最高軍事顧問の山内剛は主君の怒りを前に沈黙する。
「凱燕の地下水路は秘匿されているはずだろう。どうやって子具乃王はそんな情報を手に入れた!」
「お屋形様、その件は調べさせるとしても、目の前の脅威に対処せねば。凱燕は現在内外からの攻撃を受けております。軍が待機中です」
 老山内がそう言うと、弘秀は「状況は」と唸り声を上げた。
「凱燕周辺の敵軍は押さえていますが、一進一退です。敵の主力が攻勢に出る構えです。凱燕中心の城では現在敵と交戦中。天本が指揮をとっていますが、こちらには子具乃王が直接兵を率いている模様です。子具乃王の企みが最悪の事態を招くとすれば、我が方の中枢を無力化した後に、敵の主軍が防備を破って凱燕に突入と言う可能性が考えられます」
 水城が冷静に報告すると、西祥院は言った。
「逆に言えば、もはや危機を脱するには子具乃王を撃破し、周辺の敵軍を撃退するしかありません。自ら凱燕に乗り込んでいることから、これが恐らく子具乃王の切り札でしょう」
 弘秀は吐息して頷いた。
「坂本に援軍の指揮を執らせよう。では急げ」
「承知いたしました」
 一同が弘秀の前を辞するのと入れ違いに、朝廷の長篠安盛が姿を見せた。
「聞いたぞ龍安。だから言ったはずだ。この危機は簡単なものではないと」
 弘秀は、今は長篠の言葉を聞く気にはなれなかった。
「長篠殿、今は凱燕の危機に対処しなくては。失礼――」
 弘秀が通り過ぎて行くのを、長篠は見送り、無言でその背中に視線を注いでいた。


■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
井伊 沙貴恵(ia8425
24歳・女・サ
コルリス・フェネストラ(ia9657
19歳・女・弓
朱鳳院 龍影(ib3148
25歳・女・弓


■リプレイ本文

 凱燕城――。
 ドオオオオオオオン‥‥!
 衝撃が階下から響いてくる。
 鈴梅雛(ia0116)は、混乱する城内で、天本重弘とともにいた。
「何と言うことでしょうか。ここで何とか、食い止めないと」
「やってくれたな子具乃王。今は、とにかくも、奴をここから撃退しないと」
「お城を落されれば、凱燕は持ちません。何としても、子具乃王を倒さないと。天本様、警備兵の方たちには、民の避難誘導を」
「ああ、そうだな」
 天本と雛は、言いつつ階下へ降りて行く。
「警備隊長!」
「は!」
「城は軍で守る、万が一に備えて、民の避難誘導を頼む」
「了解しました!」
 警備隊長は、切迫した表情で頷くと、駆け出した。
「天本さん! 雛さん!」
 葛切 カズラ(ia0725)が駆け寄って来る。
「カズラさん」
「子具乃王の奴、やってくれるじゃない。ま、逆に考えればヤツの首を取る機会って事ね。ここで仕留めるわ。それにしても――」
 カズラは、天本に目を向けた。
「子具乃王が城の真下に現れるなんて、あそこは何なの?」
「凱燕の水道施設だ。地下水路が外まで続いている」
「そんなところへ‥‥そんな弱点があったのね」
「いや、確かにそうだが、地下水路の情報は厳重に管理されていた。簡単に子具乃王の手に渡ったとは思えない」
「すると‥‥何が? 現にばれたのでしょう」
「今は考えたくないが、情報が漏れていた可能性がある」
 天本の言葉に、カズラは思案顔で顎をつまんだ。
「それは嫌な流れよね。先の戦いで子具乃王が言っていたことと繋がる」
「簡単な話ではないはずだ。今は考えている時間は無いが」
 そこへ、また井伊 沙貴恵(ia8425)が合流する。
「あらみなさん、ごきげんよう」
「沙貴恵さん」
「何だか急に騒がしくなったようだけど‥‥敵襲ですって?」
「ああ、子具乃王が部隊を率いて乗り込んできた」
「何ですって?」
 沙貴恵は眉をぴくりと上げて、カズラを見た。カズラは肩をすくめてみせる。
「敵の首魁がここへ直接攻撃? ちょっと信じられないわね」
「子具乃王は本気のようです。ここで食い止めないと、凱燕の防備を破られるかも知れません」
「そんなことにはならない‥‥とは言い切れないわね。外にも敵の主軍が来ているようですし」
「拙い状況であることに変わりないわ。外と内から、凱燕を攻撃する。子具乃王の狙いは最初からここにあったのよ」
 カズラの言葉に、沙貴恵は頷いた。
「そうだとしても、アヤカシのスパイでも紛れ込んでいたのかしらね。ここまで周到な準備を仕掛けてくるのは。敵はどこから?」
「地下水路だ。奴らは秘密の地下通路を通って来た」
「どうやら、秘密ではなかったようね」
 沙貴恵の指摘に、天本は吐息して、眉間をさすった。
「急ごう」
 階下では、華御院 鬨(ia0351)が龍安軍を率いてアヤカシと交戦していた。
 鬨は今日も修行のために女装し、そこいらの女性よりも女性らしい雰囲気を醸し出している。今回はクール系の女重戦士を演じていた。
「相手も本気ということどす‥‥」
 と真剣な顔つきでアヤカシ達の方を見て、
「うちらが子具乃王を倒しやす‥‥」
 と龍安家家臣として兵士達に気合いを入れる。
「鬨!」
 現場へ到着した橘鉄州斎(iz0008)の声に、鬨はアヤカシを切り捨て、そちらを向いた。
「橘どすか‥‥あんたもここに」
「ああ、アヤカシが城を攻めていると聞いた。どうなっているんだ。ここは鉄壁の防御だろう。外にはまだ敵がいるのに」
 橘もアヤカシを切り捨てると、鬨と背中を合わせた。
「それを確かめるためにも、どないしやす、子具乃王に色々と聞きたいことがあるんやったら、一緒に戦いやしょう‥‥」
「子具乃王? 奴がここへ来ているのか?」
「そのようどすな‥‥」
「全くどうなってるんだ」
「どうするどすか‥‥来るなら行きやしょう‥‥」
「ああ、行くとも。ここまで大規模な攻撃を掛けてきた奴を見逃せん」
 橘と鬨は後退しつつ、龍安軍と取りまとめながらアヤカシの猛攻を捌いて行く。

 ――子具乃王は、城の各所を瘴気弾で破壊しながら、着実に進んでいた。
「うおおおおお!」
 意を決して切り掛かったサムライの刀を弾き飛ばすと、子具乃王はサムライの青年を捕まえ、首をへし折った。
「馬鹿め‥‥凱燕は落ちる。わしが最初にここへ踏み込んだ時から、それは決定的であったわ‥‥ふふ‥‥」
 子具乃王はアヤカシ兵士達を怒鳴りつけると、城の内部へ進んでいく。

 城外にいたコルリス・フェネストラ(ia9657)は、シノビに伝令を託していた。凱燕の内外へ向けて、また仲間達に向けて。
「よろしくお願いします」
 コルリスは冷静に状況を確認していた。不意を突かれたことで混乱する龍安軍の各所に作戦を投げた。

1:外の正規軍は子具乃王撃破まで丘や川等地形を利用し衡軛陣(凹の形)をとり、砲術士等は近くの砦に籠り支援射撃で各方面の敵軍を食い止める。
2:自分達は城内外に分かれ連携し子具乃王へ集中攻撃。
3:天承からの援軍は全て城救援に向かい鋒矢の陣(↑の形)で子具乃王らを城外から攻撃する。
4:凱燕警備兵は全て城周辺の住民達の避難誘導に回り住民達を守る。

 コルリス自身は城外から子具乃王撃破に動き、天承からの援軍が城に到着次第、空鏑で城内の味方に合図を送り内外が連携した挟撃で子具乃王を迅速に撃破すると表明する。

 城内でそれを聞いた天本は、
「コルリスが外に‥‥分かった。坂本とも連絡を取り、子具乃王を撃破するまで、外の守備隊には守りに付かせよ」
「承知しました」
 シノビはコルリスの下へ戻って行く。
 またその知らせを受けた坂本智紀は、
「よし! 城が持ち堪えている間に子具乃王を挟み撃ちにするぞ! 急げ!」
 更に、凱燕の外にいるサムライ大将たちは、連絡を取り合った。
「衡軛陣で敵軍を足止めするぞ。コルリス殿が全軍に向けて連絡をとって下さる。了解した旨、伝えてくれ」
 シノビたちは迅速に行動し、龍安軍は防備態勢を整えて行く。
「ありがとうございます。では後一度、外の守備隊と連絡を取って頂けますか」
「はい」
 コルリスは頷くと、
「各所の櫓と複数色の旗を使い、各地の戦況が互いにわかる様ご協力をお願いします。各櫓では黒・黄・赤・青の4色の旗の用意を。各色の意味は黒:戦況報告求む、黄:交戦中、赤:苦戦中、青:敵撃破です。各隊大将の指示に従い各隊間の情報伝達をお願いします」
「承知しました。大将たちに伝えます」
「よろしく」
「後は味方が持ち堪えてくれることを祈るだけじゃな」
 朱鳳院 龍影(ib3148)はそう言うと、思案顔で城の方を見つめた。
「子具乃王か‥‥前回妙に早く撤退したからおかしいとおもったが‥‥逆にいえばこれは好機。わざわざ内側に来るんじゃもの」
 朱鳳院はここで子具乃王を撃破する好機と見ていた。
「奴が策士なのは分かった。最初からこのつもりであったのじゃろう。じゃが、最後に落とし穴があったな。地下を通って来るには、自分で部下を指揮するしかなかったのじゃろう。これはそう簡単な作戦ではあるまい。人間でも簡単には行かんじゃろうからな」
「その点は私も腑に落ちないところがありますね。アヤカシがなぜ龍安軍の秘匿情報を知っているのか‥‥」
 コルリスは言ったが、答えが見つかるわけではない。可能性が高いのは内通者の存在だが、アヤカシ相手に龍安軍の人間が内通しているとは考えにくい。
「何かと、厄介な問題が残りそうではあるの」
「そうですね‥‥」
 ――と、やがて坂本達の援軍がコルリスらの下へ到達する。
「おお、コルリスに朱鳳院か! 城の方はどうなっている!」
「坂本様、危険な状態ですよ。一刻を争います」
「よし、急ごう」
「では、城の方にも空鏑で合図を送っておきます。反撃の用意が整ったと」
 コルリスは言うと、城に向かって空鏑を放った。

 ‥‥城では、子具乃王が第一の防衛戦を突破しつつあった。
「行け! 皆殺しだ!」
 ――ガオオオオオオオ! アヤカシ鎧武者は咆哮して突撃してくる。
「今は無理に出ず、防衛をお願いします」
 雛は後方に合って、味方の回復に努めていた。
「く‥‥やられた! すみません雛さん!」
 兵士が転がり込んで来るのを、雛は回復して行く。
「大丈夫です。味方がすぐにくるはずですから」
「そう願いますよ。畜生! 行ってきます!」
 兵士はまた前線に立ち向かっていく。
「橘‥‥そっちへ‥‥」
「了解した!」
 なだれ込んで来るアヤカシ達を、鬨と橘は散開して引きつける。
「龍安軍のみなさんも‥‥うまく立ち回ってくれやす‥‥」
 言いつつ鬨は、アヤカシを叩き伏せた。
「まだまだ‥‥ここからが正念場よ!」
 カズラは鞭を振るうと、アヤカシと距離を保つ。アヤカシ兵士を牽制しつつ、後退する。
 沙貴恵は前線に立ち、龍安軍兵士達を指揮して防備を固める。
「二人一組で行動して! 城の守りを生かして数的優位を補うのよ!」
 沙貴恵は兵士達を叱咤して、どうにか踏んばる。
 それでも、子具乃王らは数で圧倒してくる。
「意外にしぶとい‥‥時間もないが‥‥」
 子具乃王は思案しつつ、時を測っていた。城を落とすのが不可能なら、そのまま市街戦に持ち込むと言うことを考えていた。凱燕の市民に無差別攻撃を開始すれば、混戦に持ち込むことが出来るだろうと。

 ――と、そこでコルリスの空鏑が鳴り響いた。

「合図だ! 味方が到着したぞ!」
「よし! 攻勢に出るぞ! 子具乃王を逃がすなよ!」
 天本は兵士たちに号令を下すと、総攻撃に出る。
「どうやってここまで入り込んだのかは知りませんが、これ以上は好きにはさせません。行きましょう」
 雛は仲間たちと子具乃王を目指して駆け出した。
「行きますどす‥‥雛さん援護をよろしく‥‥!」
 鬨は最善に立つ子具乃王を発見すると、切り掛かっていた。
「神楽舞・攻!」
 唸りを上げる鬨の斬竜刀が、子具乃王目がけて奔る。
 ――ガッキイイイイイン! と子具乃王は受け止めた。
「そろそろ観念時どす‥‥。そろそろあんさんの正体を話してみやせんか‥‥」
「開拓者か‥‥ふふ‥‥分かりやすいように言ってやるが、わしは巨大な機械の歯車に過ぎん。わしの正体を知ったところで、攻撃は止められんぞ」
「攻撃はまだ続くと言うのどすか‥‥?」
「それはいずれ分かる――!」
 子具乃王は鬨を瘴気弾で吹き飛ばした。
「行くわよ子具乃王! 今日ここで、決着をつけてあげるわ!」
 カズラは側面に回り込んで射程内に捕えると、式を解き放った。
「急ぎて律令の如く成し万物悉くを斬刻め!」
 斬撃符のカマイタチが触手から鏃状に変形して特攻する。直撃――!
「続いて行くわよ! 秩序にして悪なる者よ、黄泉路より来たりてその呪視を撒け!」
 黄泉より這い出る者――ひとつ目の触手モンスターが召喚されて、子具乃王に凝視で呪いを送り込む。
「ぬうおお‥‥!」
 子具乃王は悶絶して胸をかきむしった。
「行くわよ! 豪衝打!」
 沙貴恵は勢いグレートソードを撃ち込んだ。大剣が子具乃王を貫通する。
 コルリスは、狙い澄ますと、朧月を叩き込む。
「子具乃王、逃がしませんよ」
「受けてみよ我が一撃――その身に刻むがよい」
 朱鳳院は二刀で加速すると、隼襲+極北+無双で連撃を撃ちこんだ。凄絶な連撃が、子具乃王の腕を切り飛ばした。
「おおおおお‥‥! おのれ!」
 子具乃王は腕を一振りすると、瘴気の波動を全周に放った。
 吹っ飛ぶ開拓者たち。
「大丈夫ですか」
 雛が仲間たちを回復させる。
「ありがとう雛さん‥‥さすがに怪物どすな。あのアヤカシは‥‥」
 鬨は刀を構えると、朱鳳院と沙貴恵、橘とともに子具乃王との間合いを詰める。
「お前たちには止められん。わしを倒せる通りがあろうか。それにわしの計画は完璧。外の軍勢が凱燕に突入するのも時間の問題」
「そうはさせん」
「あんたを逃がすと思う。今回は今までのようにはいかないわよ」
 朱鳳院が二刀を構えて牽制し、カズラは符を装填した。
「行くわよ!」
 さらに攻撃に転じる開拓者たち。
「瘴気の波動‥‥出でよ、爆龍! 破斬!」
 子具乃王は念を込めて瘴気の波動を放出したが、開拓者たちはそれを突き破って突撃した。
 朱鳳院、沙貴恵、鬨、橘の連続攻撃が炸裂する。子具乃王はずたずたに切り裂かれた。
 さらにコルリスが朧月を連射し、カズラが黄泉より這い出る者を立て続けに撃ち込む。
「ぐ‥‥ああああ‥‥!」
 子具乃王の肉体が吹き飛んだ。
 崩れ落ちる子具乃王。
「そう簡単に終わるものか‥‥この計画が失敗すれば、どの道生きてはおれん」
「今何と‥‥?」
 鬨は刀を突き付けた。
「開拓者もろとも吹き飛ばしてくれるわ!」
 子具乃王は瘴気を全身から放出して鬨に飛びかかった。
「――!」
「鬨!」
 橘が鬨を突き飛ばして、子具乃王の体当たりを受け止めた。
「橘鉄州斎! 貴様が冥土への土産だ!」
 子具乃王は閃光を放って爆発した。
 ボンッ! と、衝撃波が開拓者たちを薙ぎ倒した。
「橘‥‥」
 鬨は煙の中で手をかざして、よろめいて立ち上がった。
 橘は爆発の中で、うずくまっていた。
「橘‥‥! 無事どすか‥‥」
 橘は軽く手を上げて、生きていることを伝えた。
「子具乃王の奴、自爆したようだな‥‥つつっ」
「橘さん、ひどい怪我です」
 雛が駆け寄り、閃癒を掛けた。
「ああ、だが俺は生きてる。子具乃王は死んだ。援軍も到着したし、お前たちは龍安軍と合流して、外のアヤカシ軍を撃退するんだ」
 そこへ、天本が駆けつけてくる。
「何があった。今の爆発は――」
「大丈夫じゃ。子具乃王は死んだ。最後に自爆しおった」
 朱鳳院の言葉に、天本は驚いたように開拓者たちを見やる。
「倒したのか」
「ああ」
「天本様、ここは坂本様の援軍により、確保できた模様です。急ぎ、凱燕の外を守っている守備隊と合流して、アヤカシを撃退しなくては」
 コルリスの言葉に、天本は頷いた。
「そうだな‥‥。おい! 坂本!」
「天本、無事であったか。どうにか持ち堪えたか」
「子具乃王は死んだ。外の敵軍を迎撃に向かうぞ」
 天本はそう言うと、開拓者たちにも声を掛けた。
「行くぞ。敵がまだ残ってる」
 そうして、開拓者たちは凱燕の外へ急ぎ、友軍と合流してアヤカシ軍の迎撃に当たった。
 龍安軍が反撃に転じると、アヤカシ軍の間に何か合図のような咆哮が鳴り響く。すると、アヤカシ軍の攻勢は波が引くように後退して行った。アヤカシは次々と壊走して行き、魔の森まで逃げ散った。
 戦場の櫓で、勝利に沸き立つ青い旗が振られた。

 ‥‥その様子を、上空から見つめている影があった。その影は、ドラゴンのような動物に乗っていて、口許を歪めた。
「‥‥子具乃王は死んだか。これだけでも戦果としては上々だが。さて‥‥」
 影は旋回すると、魔の森の奥地へ飛び去った。