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■オープニング本文 新年を祝うとは、これすなわち歳神に感謝を現し、その年の多喜を祈る意味がある。その形は様々だが、山間にあるこの小さな村にも奉るべき神はあり、祈りを捧げる人々が居た――かつては。 「やれやれ‥‥この爺も随分と年を取ったものだ」 杖を片手に枯れ草を踏み分け、老人と少女が山道を歩いていた。恨めしそうに己の腰をさする老人だが、言うほどに歩みは遅くない。これも厳しい山の暮らしに鍛えられた賜物であろうか。 「もう少しでお社ですよ」 隣を歩く少女は、年のころは15〜6であろうか。やはり手には杖を持ち、足取りは軽快そのものである。二人が並んで歩く姿は、仲の良いお爺ちゃんと孫のようにも見える。 「しかし、寂しいものじゃのう。村の若い者は新年の祈願にも来ようとせん」 老人が後ろを振り返り、木々の合い間に見える山あいの家々を眺めつつ、溜息を吐いた。年明けの祝い事は村でも勿論行われている。だが、古ぼけた山中の社まで、わざわざ祈願に訪れるものは村の若い者の中には、もう居なかった。 「でも、お爺さんが行けば、きっと神様も喜びますよ」 「そうだと良いが。あんたも爺の相手ではつまらんじゃろう。こんな所まで出向かせてしまって、すまんのう」 老人が会釈すると、少女は笑顔を浮かべて、当然と言わんばかりに答える。 「これも巫女の務めですから。ほら、お社が見えてきましたよ」 上りの細道が二手に別れ、左手の先には開けた空間がある。そこには小さな鳥居と社が、簡単に整地された上に置かれていた。鳥居は色褪せ、木造の社は所々に傷が目立ち、古い時代のものだとひと目で分かる。 「さて、祈願の前にお社を綺麗にせなばな」 老人が鳥居の前で会釈し、社に近づこうとする。 「待ってください」 だが、老人が踏み出そうとしたその瞬間、少女が鋭くそれを静止した。 「どうしたんじゃ?」 「‥‥何か、おかしいです」 周囲をうかがう少女の険しい様子に、老人も黙って辺りを眺め始めた。立ち並ぶ木々の間から静寂という名の瘴気が辺りに流れ込み、二人の体を包む。やがて、社の影が『じわり』と波打ち始めた。 「アヤカシ‥‥!」 少女が短刀を抜き放ち、老人の前に立つ。 「お社が‥‥」 「お爺さん、急いで村へ戻って開拓者ギルドに連絡を」 二人が話す間にも、社だけでは無く鳥居や木々の間から徐々に影が広がり始めている。さらには、影の中から異形の鬼が形を現しはじめた。 「あんたはどうするんじゃ」 「村が近いですから、出来る限り足止めします。さ、早く!」 有無を言わせぬ少女の気勢に、老人もそれ以上は問い返さずに、急いで村へと向かい始めた。少女はその背を守るように、じわじわと迫りくる異形に対峙する。 「神様を祭る社を汚すなんて‥‥許しませんよ」 横に構えた短刀の刃が、少女の怒りに応じて鈍く輝いた。 |
■参加者一覧
六条 雪巳(ia0179)
20歳・男・巫
純之江 椋菓(ia0823)
17歳・女・武
胡蝶(ia1199)
19歳・女・陰
八嶋 双伍(ia2195)
23歳・男・陰
由他郎(ia5334)
21歳・男・弓
アムシア・ティレット(ia5364)
23歳・女・シ
小鳥遊 郭之丞(ia5560)
20歳・女・志
アリア・ベル(ia8888)
15歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●風波 精霊門を抜けた開拓者達は朋友の背を借り、此隅の上空へと舞い上がった。 「命知らずな巫女ね。長生きできないわよ」 胡蝶(ia1199)の体が風を切り、その呟きは空に消えた。駿龍のポチは主の意志を体現するかのように、速度を上げていく。 「どうか残られた巫女さんがご無事でありますように‥‥」 「例え奉ずる神が違えども、神聖なるお社を穢す輩を捨て置くわけにはいかぬ!」 六条 雪巳(ia0179)が乗るのは駿龍の香露、そして小鳥遊 郭之丞(ia5560)もまた、駿龍の白南風を駆り、胡蝶の後に続く。穏かに傾いでみせる雪巳と、きりりと口を引き結んだ郭之丞に向けて、後続組みの檄が飛ぶ。 「がんば、れー」 「熱くならないように。無理は厳禁ですよ」 力が抜けそうなアムシア・ティレット(ia5364)の激励と、八嶋 双伍(ia2195)の笑顔に見送られながら、雪巳と郭之丞が朋友に全力移動を命じる。大気を揺らし、二人を乗せた竜の姿は瞬く間に小さくなった。 「さぁ、僕らも急ぎましょう」 先行する三人を追い、双伍の燭陰が荒々しく翼を羽ばたかせた。 「俺の力でどこまでやれるか‥‥ま、やるだけやって考えるか」 村へと向かう仲間を眺めながら、由他郎(ia5334)が白い息を吐く。そんな主に炎竜の苑梨が叫び声を上げた。心を見透かしたかのような苑梨の行動に、由他郎が思わず苦笑いを浮かべる。 「いどーう!」 「巫女さんを助けることは勿論、社を穢す一切を祓ってみせますっ!」 お先とばかりにアムシアが由他郎を追い越し、その後方に純之江 椋菓(ia0823)が黒髪を風に舞わせながら続く。アムシアの朋友ナルディーフは、はしゃぐ主を落とさぬように空の道を徐行して進む。椋菓を背負った翔玄も、巨大な体躯をゆるゆると滑らせていた。二人を乗せた甲龍達は翼を雄大に動かし、若干の急を含ませ空を行く。 「スピネル、追ってください」 仲間が行ったのを見届け、アリア・ベル(ia8888)が指示を送る。心得たとばかりに、真紅の翼を一振り大きく波打たせ、スピネルは主の意に従った。 先行組みの三名は、村を経由し、間もなく瘴気漂う山上の様子を捉え始めた。 「あの瘴気がアヤカシの源か」 染みのように広がる瘴気は、景色と共に眼下へ流れてくる。靄の中に無数の鬼が実体化しており、瘴気の淀みは社に近づくにつれて濃くなっているようだ。 「巫女は‥‥」 「まだ生きているなら、瘴気の境目あたりでしょうか」 胡蝶と雪巳が速度を落とし巫女を探す。しかし、視界を遮る黒霧の上からは、それらしい姿は見当たらない。 「居た!」 上空から社に近づいた郭之丞が叫び、同時に朋友が高度を下げる。山道から外れた林の中で、複数の鬼に囲まれている。 「このまま飛び込む!」 急降下する郭之丞の後を二人が追う。 「しかたないわね」 「香露、大人しく村で待っててくださいね」 竜が速度を落とした所で、郭之丞が宙へ身を投げた。冬枯れの小枝を腕で受けながら、柔らかな枯葉の絨毯に着地する。枝折る音はさながら雷の走る如く、着地した姿はまさに落つる雷が形を成したかのようだ。 「ガアァァァ!!」 だが、鬼共は乱入した不届き者に暇を与えず襲い掛かってきた。郭之丞の頭を狙い、醜悪な鬼が棍棒を振り下ろす。 「あ、すみません」 しかし、それを阻止したのは鬼の顔へ着地した雪巳の両足であった。さすがに急降下は難しかったのか、木を伝って徐々に降りてきたようだ。雪巳がふわりと飛び降りると、鬼が怒りに叫び雪巳へと狙いを変える。 「遅いわよ」 継いで空から降りてきた胡蝶が髑髏の式が、鬼の異形を貪り食い、鬼の試みは成される事無く砕け散った。 「郭之丞、目の前の相手に集中なさい。他は私が」 「援護いたします」 雪巳の弓と胡蝶の符術が側面の敵を掃い、郭之丞が正面を切り開く。鬼の胸に鎌を付きたて、そのまま横なぎに払うと、視界の先に巫女の姿を捉えた。 「巫女殿助太刀致す! よくぞ一人で耐え抜いてくれた!」 郭之丞が前面に立ち、雪巳と胡蝶が巫女を支える形で陣形を整える。 「思ったよりも早かったですね‥‥頼れる援軍の到着です」 気丈に笑ってはいるものの、体は傷だらけで血に汚れ、満身創痍なのは明らかだ。 「まだ仲間が来ます。それまでは無理をなさらずに」 雪巳の穏かな言葉と神風の癒しが巫女を包み込む。四人は山道へ戦場を移しつつ、仲間の到着を待った。 ●還神 遅れることしばし、後続組みの駆る竜も瘴気の山へと差し掛かっていた。 「アヤカシだ! そろそろ降りよう!」 速度を落とし由他郎が声を張り上げると、五人は次々に山道へ降下を始めた。 「村で待ちなさい」 「ありがとな苑梨、助かった。後は村で待っててくれ」 アリアは一言だけを残し、由他郎は朋友の背に『ぽん』と軽く触れてから飛び降りる。 「荒事は苦手なんですけどね」 「ですが‥‥今は時間が惜しいです」 続いて、双伍と椋菓が飛び降りる。苦手と言うわりに、双伍は木枝で的確に勢いを殺し着地する。 「いってき、まーすっ」 最後にアムシアが、体を大の字に広げて飛び降りた。心配そうに見送る朋友を他所に、見事に地を捉え仲間の後を追う。 五人は道すがら散在する鬼を成敗しつつ合流を図った。あまり、離れていなかったことや鬼の数が少なかったこともあり、すぐにその目的は果たされる。 「状況は良くないですね」 アリアが周囲の薄暗さに瞳を細める。瘴気は徐々に方々へと拡大しているようだ。 「一気に社を確保しましょう」 椋菓が前に進み出た。その隣に郭之丞が並び、アムシアが二人の後ろから後衛の護衛と霍乱に備える。 「お社に祀られし御霊よ、今一時我に力を貸し与え給え!」 大鎌をかざし、郭之丞が鬼を威嚇するように突進する。勢いのままに振るう曲刃が鬼の体を一刀のもとに両断した。 「ゴワァァァ!」 「この一撃、社におわす神様のものと心得なさいっ!」 大鎌の隙を狙う鬼を、椋菓の薙刀が的確に刺し止める。勢いのままに薙刀を振るい、鬼の巨体を斜面へと引きずり落とした。 「おーにさーん、こっちらー」 接敵した二人の横からアムシアが鬼の合い間に滑り込み、双盾で攻撃を受け流しながら注意を引く。その隙に、前衛組みが再び切りかかり、山道の鬼を右に左に蹴散らしていく。 やがて九人の前に鳥居と社が現れた。瘴気が禍々しく波打ち、開拓者達に纏わり付いてくる。今尚あらたな鬼を生み出す黒霞の中、社を囲む無数の鬼が狂光を湛えた目を巡らせる。 「本当にどこにでも出てきますね‥‥。まるで黒い害虫です」 「ここで食い止めます!」 「天網恢恢疎にして漏らさず、一匹たりとも逃しませんよ‥‥!」 アリアがくるりと槍を構え、鳥居付近の鬼に狙いを定める。椋菓はアリアと背合わせに逆の一体へ薙刀を向けた。構えた二人に加護を招かんと、雪巳が神楽の舞を社前に捧げる。 「これは消耗が大きいのだけど‥‥仕方ないわね」 数の多さを見て取り、胡蝶が呪殺符を目前に掲げて念じる。 「さあ餌の時間よ。出なさい、魂喰!」 力を纏った符が形を変え、首から鎖の伸びた髑髏が具現化する。しゃらりと垂れた鎖は胡蝶の手と髑髏を繋いでいた。 「少し数が多いですね‥‥私もここを守りましょう」 「へーきー?」 迎撃に参加する巫女を、アムシアが無邪気な仕草で覗き込む。表情は覆面で見えないが心配しているのだろう。 「へーきです。しぶとさは折り紙つきですから」 にっこり笑った巫女の様子に、アムシアが元気に応えた。 「巫女さん、すごいねぇ。私も、もっとがんばる!」 勢いづいたアムシアは、鬼が群がる社へと飛び込んでいった。 「行くぞ双伍! 精武の名に恥じぬ戦いをせん!」 「はい、後ろはお任せください。‥‥参りましょう」 炎魂を纏わせ、郭之丞がアムシアに続く。そして、返事を返した双伍の指にはすでに符が握られていた。隷役で強化された式は、飛び込んだ二人に先んじて鬼を切り裂いた。 「さて‥‥覚悟してもらおうか」 飛び込んでいく三人の後方を、由他郎が側面に矢を飛ばしながら追尾する。遊撃班は社の周りに居るアヤカシを片っ端から蹴散らし、迎撃班は鳥居を基点にアヤカシの流出を防ぐ作戦だ。 「ティレット殿!」 「はーいっ」 呼びかけに応じてアムシアがクルリと後方に飛び下がり、入れ違いに郭之丞が横薙ぎの鎌で鬼を切り捨てる。だが、斬撃を飛んでかわした一匹が、そのまま郭之丞の頭上から踊りかかった。 「くっ!」 しかし、一撃を覚悟した郭之丞の目前で、鬼は双伍の斬撃符に刻まれて霧散した。 「間一髪、危ないですねえ」 絶やさぬ笑みのせいか、あまり危機感を感じさせない風情で双伍が息をついた。連携しつつ動き回って、遊撃組みは次々に鬼達を仕留めていく。 「次、鳥居の方を‥‥片付けるぞ!」 ぎりりと引き絞った矢を放ち、由他郎が遊撃班に声を飛ばす。放たれた矢はアリアが対峙する鬼の足を貫いた。 「しつこいですよ」 アリアが槍先でもう片方の足を切りつけ、バランスを崩した鬼の懐に棘刺すような鋭い骨法の一撃を叩き込む。 「これで‥‥最後です!」 椋菓が残る二体に巌流を仕掛けた。大薙ぎの一閃に弾き飛ばされた鬼が地面を離れ空に舞う。 「無へと還るがいい!」 一匹目の鬼は、精霊宿りし郭之丞の鎌に刈られ、その身を二つに割った。 「まったく‥‥ここは社ですよ。さっさと祓われてください」 二匹目の鬼は、瘴気宿りし双伍の式に裂かれ、粉塵と化した。 「終わったな」 由他郎が構えを解いて弓を握る手を下ろす。山に漂っていた瘴気は薄まり、社には神おわす場所の静けさが戻ってきていた。 「‥‥なんだか、ひとりぼっち」 社をじっと眺めていたアムシアが、ぽつりと呟く。 「森の中の社か‥‥懐かしいな、俺の村にもあった。掃除やら何やら子供の役回りで‥‥色々と、やらされたもんだ」 アムシアの横で、由他郎も古びた社に視線を投げる。 「そのせいか、割と賑やかだったんだが‥‥ここは、随分と寂しい」 そんな重い空気を祓うように、胡蝶が強気な口調で言い放った。 「すぐに人も増えるわ。だってアヤカシが湧いた原因は、人が社をないがしろにしたから、ということになるかも知れないもの」 しれっと言ってのける胡蝶の様子に、由他郎が不敵な表情を浮かべる。 「神を忘れたが故に、アヤカシの付込む隙を生んだ‥‥なんてことは‥‥ま、無いと思いたいな」 「また、賑わう時が来るといいですね。神さびた風景には味わいがありますが‥‥神社は人が詣でてこそですから」 鳥居の下で椋菓が振り返り、社に小さく黙礼をする。開拓者達は、物言わぬ社に見送られながら、村への帰途についたのであった。 ●静寂 「まったく、最近の若いのは凄いもんじゃな」 老人は無事に帰ってきた巫女と、見事に巫女救出とアヤカシ退治を果たした開拓者達に向け、労いの言葉を掛けた。事の次第を聞いた村人達も、開拓者達に感謝の言葉を示している。 「こほん‥‥それにしても」 ふいに、治癒符で傷の手当をしていた胡蝶が曰くありげに咳払いをした。周りに居た村人の注意が胡蝶に集まる。 「神を奉った社にアヤカシが出るなんて、どういうことかしらね」 言いながら巫女の娘にちらりと視線を送る。一方、視線を送られた巫女の方は、きょとんと見返すばかりだ。今ひとつ要領を得ていない巫女の様子に、胡蝶が小さく溜息をつく。 「此度のようなアヤカシが発生したのも、皆が神への畏敬の念を忘れればこそやもしれぬ」 さらに言い募ろうとした胡蝶に先じて、郭之丞が真面目な顔で思案気に呟いた。タイミングを計ったかのような合いの手だが、信心深い郭之丞のこと、素で言っているのだろう。胡蝶はさらに意味深を装って村人達に語りかけた。 「神仏の加護はともかく、あの社が連中に不快なのは事実よ。それを知って、あの社を寂れさせるか、手入れして実益を得るかは貴方たち次第ね。方法は‥‥そこの巫女に聞きなさい」 これで仕事は終わりとばかりに、胡蝶はそしらぬ顔で話を打ち切った。村人達の間に「そうだよな」だの「しかし」だのと意見を交換するざわめきが広がる。 「皆で神社に参拝しませんか? ‥‥折角お酒と水も持ってきたことですし‥‥村を災厄から守っていただくよう、皆で心からお祈りしましょう」 止血剤で巫女の手当てをしていた椋菓が村人達に提案する。 「お社も大分古いですし。皆さんで修復やお掃除をしに行きましょう」 同じく、神風恩寵で仲間を癒していた雪巳が話に乗った。村を救った開拓者達の言葉に、村人達もその気になってきたのか、具体的にどうするといった話が徐々に持ち上がり始める。 「上手く話がまとまったようですね」 参拝の準備をする村人を傍観しつつ、アリアがぽつりと呟いた。その隣には先の老人が座っている。 「ま、いつまで続くかのぅ」 「‥‥そういうものですか」 歯に衣着せぬ物言いに、アリアが老人を見やる。 「ですが、嬉しそうですね」 アリアが視線を前方に戻して呟くと、老人がにまりと微笑んだ。 「折角ですから祈願でもしていきましょうか」 そう言って立ち上がるアリアの表情は、木枯らしに混じる春の気配のように、淡い暖かさを含んでいるように見えた。 「皆さん、ありがとうございました」 ぺこり、と頭を下げて巫女の娘が礼を述べた。傷も治療でほぼ治ったようだ。元気に頭を振り上げ、にこーっと笑ってみせる。 「別に何もしてないわ。まあ、頑張ることね」 「勇ましいのは結構だがな‥‥万が一社に何かあっても、直せない訳じゃあない。だがな、人は死んだら仕舞いだ。あんまり無理をするもんじゃないな」 素っ気ない胡蝶と真面目に心配する由他郎に、やはり笑顔で巫女が感謝を示す。 「ありがとう。でも、無理はしてないから大丈夫」 笑顔で頑固な巫女の態度に、由他郎がふっと息を付いてぽふりと頭を撫でた。手馴れたその動作は、親しい家族にするかのように優しい。 「熱くなって飛び込むと大変なことになりますよ。自分だけでは無く、貴方の周りにいる誰かのためにも無茶はほどほどに」 満面の笑みを湛えて双伍が由他郎に同意する。ほんわり笑顔に優しい声音で諭す双伍だが、どこか否定を許さない雰囲気が漂っているのは、きっと実感が篭っているからであろう。 「そういう人は嫌いではありませんけれどね」 「む? 何か私が呼ばれた気がしたのだが」 「おや、そろそろ参拝の準備をしないと」 郭之丞が顔を伸ばしてきた所で、話は終わりとばかりに双伍がその場を後にした。きっと実感が篭っているのだろう。 「みこさんといっしょに、とびこむよー!」 文字通り飛び込んできたアムシアに、慌てて皆が手を伸ばす。 こうして、穢れを祓った開拓者達の手により、神寂びた社に一時の賑わいがもたらされた。 |